イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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まさかの一気に書き上げられた系のあれ。
09/29 第二話目です。

指が凄まじい勢いでタイピング。
妄想爆発して燃え尽きそう。
しばらく休載という救済があってもいいよね(激アツギャグ


文書28.document

「あやつらは……あまりにも心が弱かった。確かに、生きる先で死という絶望は避けられない。全ては朽ちゆく定めだ。だが、信仰を抱いて救済を夢見ることこそ、我が教えとする生への意義。だが――」

 

 爆音がキェルケゴールの言葉を遮った。

 部屋の壁が破壊され、壁の向こうからは回転するショベルのような刃を幾つも取り付けた「マルクス」という個体が顔を覗かせる。

 

「あれは……」

「不味い、振りかぶってきたぞ!」

 

 2Bたちが初めて遭遇した、大型機械生命体エンゲルスの腕パーツとなる個体だ。施設の防衛装置としてそれ単体でも稼働することは出来、レールのある場所ならどこにでも高速で現れ、大質量の本体を叩きつけてくる豪快な敵だ。

 だがそれゆえに強力に過ぎる。なんの戦闘能力も持たない、キェルケゴールと信者たちでは抵抗できずに破壊されてしまうのがオチだ。

 

「まずは全員部屋の隅に……待って11B!」

 

 11Bは、その結果が目に見えていたからこそ動いた。2Bの忠告を無視し、再び振りかぶられているマルクスの巨大回転ノコを前に、三式戦術刀を縦に構えて地面に左足をめり込ませる。視界の端に映るのは、恐怖のあまり脚をすくませ動けない幾人もの信者。

 

 守るべき命。ささやかながらも光を見出したものたち。

 イデア9942がここにいれば、絶対に守ったであろう暖かな場所。彼と、その願いと共に歩く。そう誓った11Bにとっても、守るべきもの。

 

「来ぉぉぉぉぉぉぉいいいいっ!!!」

 

 接触―――轟音。

 ギチギチギチッ! 人工筋肉が嫌な音を立てて膨脹し、腕部の人工皮膚の一部から見え隠れする。だが、受け止めている。マルクスの本体を左手で受け止め、右手にもった三式戦術刀が回転刃の隙間に差し込まれ、回転を受け止めている。

 

「早く、行ってぇ!!」

 

 

 倒れ込んだ機械生命体は、ハッとしたように我を取り戻して、11Bに礼を言った。パスカルがキェルケゴールを抱えて、中型二足や大型二足は大した機動力のない小型を抱えて部屋の隅に逃げ込む。

 

「11B、加勢する」

「ありがと。まずは上に行って!」

 

 最後の防波堤となっていた2Bは全員の緊急避難が終わったことを確認すると、11Bの方に駆け出した。在りし日のヨルハ部隊としての思い出が蘇る。だが、それもほんの一瞬。

 

「くっ……のぉおおおおおおおお!」

 

 表情を引き締めた11Bは、未だ力を掛け続けるマルクスを全力で跳ね上げた。飛行ユニットの衝突よりも恐ろしいパワーが、マルクスの関節部に負荷をかけて一時的に動きを止めさせる。そこに2Bが躍りかかって、白の契約と白の約定を振るう。回転ノコ自体はそこまで強度が在るわけではない。次々と攻撃のための刃を歯抜けだらけにされていくマルクス。

 

「対象機械生命体のハブ位置を特定、ポイントライト照射」

 

 指示はされていないが、一度撃破した相手だ。ポッド042の無機質な声とともに、照射された赤いライトがマルクスの側面を照らし出した。そして体勢を立て直した11Bが、三式戦術刀をライトの当たる場所にねじ込んだ。ポッドの解析どおり、巨大なハブの一部が機能停止を起こし、マルクスの回転機能が失われる。数秒もすれば自動再生されるだろうが、今はこれで十分。

 

「ポッド!」

 

 2Bがマルクスの他に、雪崩込んできた自衛機構であろう機銃を弾いて言う。

 彼女の意を汲み取ったポッドは、白い箱状の部分を縦に開かせると、割れた中身に光をエネルギーを集中させる。優れた技術ですぐさま最大威力までチャージされたそれを、2Bが切っ先で狙撃点を指示。

 

 マルクスが体勢を立て直して、再び稼働しようとする。

 だが、もう遅い。

 

「了解」

 

 極太のレーザー照射。かつて分厚い装甲に身を包んでいた、遊園地の歌姫ボーヴォワールをも貫いた一撃だ。11Bと2Bの激しい攻撃によって傷ついていたマルクスの装甲板は、あっさりと溶解し、動力源にまでレーザーの侵入を許してしまう。

 死に際の反動でビクリと震え、2Bたちのいる部屋の、反対側に向かって本体を曲がらせるマルクス。レール上の土台は慣性と重力に逆らえず、そのまま傾き本体ごと落下していく。

 部屋の外の、広大な空間へと消えていく。十数秒後に聞こえてきた爆発音。ひとまずの脅威は去ったと、考えてもいいだろう。

 

「キェルケゴールさん、ともかくこの場を脱出しましょう」

 

 パスカルの提案に、信者たちの大半は頷いた。

 だがキェルケゴールだけが首を横に振る。

 

「だが、まだ我の信者が残っているのだ。このまま見捨てるなど、できんのだ……」

 

 狂信者はともかく、生を掴むことに必死だった敬虔な信者。キェルケゴールが彼らを見捨てることなどできるはずもない。なぜなら、勧誘したのは自分にしても、最終的には自分という弱い存在に光を見出してくれた者たちなのだ。それを裏切ることは彼の教えに、なによりも彼の意志に反していた。

 光をもらっていたのは信者だけではない。その輝きを見ていたキェルケゴールもまた、信者たちから教えられる日々を過ごしていた。それだけで十分だった。

 

「ここに2Bさんと11Bさんが居てくれて助かりました」

「パスカル?」

 

 2Bが唐突に言葉を発したパスカルを見やると、その目は自信ありげに輝いていた。パスカルの知識量は膨大なもので、リーダーとしての裁量を振るう経験も多い。この一瞬で解決策を編み出したのであろう。

 

「2Bさんは、私と一緒に信者たちを安全な外まで誘導しましょう。キェルケゴールさんと11Bさんは、そのまま残った信者たちを探してください。集合場所は工場廃墟の入り口広場です」

「待ってパスカル、脱出ルートならバンカーに要請したほうが早い」

 

 ヨルハ部隊が機械生命体のために動くとは思えないが、事情を話せば分かってくれる者が居るかもしれない。2Bはいつの間にかそう考えている自分に気づき、ふっと内心で笑ってみせた。

 

「バンカー、こちら2B。廃工場深部で敵性機械生命体と遭遇。脱出ルートの確保を要請」

 

 それはともかく、耳に手を当てバンカーへの連絡を取る。レーザー通信ではこの工場廃墟に届かないだろうから、別の回線を使う。そしてオペレーターである6Oに取り次ごうとしたのだが。

 

「……ちら……カ……2Bさ……」

「通信環境が不安定」

 

 ここはエレベーターですら数十秒かかるほどの最奥部。

 遥か地面の下と、遥か空の彼方。距離的にも恐ろしく離れすぎている。ポッドの事実確認に苛つきながらも、2Bは救援信号のループ発信を指示する。こうすれば、わざわざ移動中に連絡を取らずともバンカーが異常事態への対応をしてくれるだろうから。

 

「……おかしいな。イデア9942が出ないなんて」

「ええ? ……本当ですね、イデア9942さん、通信を切っているみたいです。何かあったのでしょうか」

 

 その隣では、通信ということでイデア9942のオペレートを思い出した11Bが通信を試みていたが、生憎と彼が通信先に表示されることは無かった。ここに入ってから、彼独自の方法でオペレートを行うという手筈だったはずだが、まさかの事態に不安が募る。

 イデア9942の身に何かがあったのか。自分の温かい帰る場所が、どうなっているのか。それこそ全てをなげうってでも行きたい11Bだが、今はこの状況からの脱出が先決だと判断する。

 やり始めたことを投げ出してしまえば、彼に失望されるかもしれない。ありえるはずもない未来だが、ここは11Bの意地と妄想が勝った。

 

「キェルケゴール、ちょっと手荒いけど我慢してね」

「うむ、苦しゅうない。好きにするがよい」

 

 キェルケゴールの長くゆったりとした衣服。それらを即席のロープとして、銃のホルスターと自分の体に結びつける。両手には常に武器を持った状態になるが、この異常事態だ。いちいち武器をしまう必要もない。

 

「キェルケゴール、マップデータは持ってない?」

「簡略化されたものなら…だが我々はここで過ごしていたからな、外に繋がるとなると、そこから不鮮明になる」

「それでも十分」

 

 教祖であるキェルケゴールがパスカル、2B、11Bにマップデータを手渡すと、彼らはそのまま、ふたてに別れるように別々の扉に向かう。2Bたちはエレベーターの方へ、11Bとキェルケゴールは信者たちの普段過ごしている部屋と、祈りを捧げる「教会」という部屋のある方へ。

 

「11B、武運を祈る」

「どうかご無事で」

「ありがとうふたりとも。キェルケゴール、ちょっと揺れるけど我慢してね」

「問題ない。……パスカル殿、2B殿。どうか、信者たちを頼む」

 

 無言で頷く2Bが開いたエレベーターに乗り込み、続いて生き残った十体ほどの信者たち、最後にパスカルが入る。そしてエレベーターの扉は閉じられた。彼らは集団を守りながらになるため、困難になるだろう。だが2Bとて成り行きで機械生命体を守る事になったとは言え、それを放棄するつもりはない。

 

「キェルケゴール、行こう」

「ああ。まずはそちらへまっすぐ進むがいい」

 

 二人羽織のように背負われたキェルケゴールが指をさす。

 了解、と呟いた11Bは崩れかけた扉を蹴り飛ばし、更なる奥部へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

「見つからないなー16D」

「このあたりでヨルハを見かけたっていうけれど……やっぱり機械生命体の情報だし、ガセだったのかしらね」

 

 場所は変わって廃墟都市。

 大木が突き抜けるビルの入り口に彼らは立っていた。

 レジスタンスキャンプの近くで見世物をしていた、ピエロ姿の機械生命体に話を聞いた11Sと7Eは、普段このあたりで見かけるヨルハ部隊が居ないかという問いに対して、機械生命体と一緒に居る個体――11Bの事を話したのだ。

 だが、当然ピエロ型は11Bの名前を知らないし、彼らが探しているのが16Dという別個体ということも知らない。そうして間違った情報から7Eたちがたどり着いたのは、なんとイデア9942が拠点とする「工房」の入り口だった。

 

「特に変わった様子はないな~。上の方では攻撃的な機械生命体が闊歩してるし、あのピエロ、ほんとに此処でみたのかな?」

「ともかく、ようやく掴んだ情報よ。まずは調べておかないと」

「了解。……んー?」

 

 11Sは何かがないかとあたりを見回していると、ふと違和感に気が付いた。

 どうしてだろうか、辺りには瓦礫や砂利が散乱しているが、一部だけ。隠蔽されているためよく注目して分析しないと分からないが、そこだけ砂が真新しい。そして何かを引きずったような痕が、床から突然出来て入り口にまで向かっている。すり減った地面が、砂では隠しきれないそれを表していた。

 

「7E、ここどう思う?」

「えっ?」

 

 瓦礫を掘り返していた7Eは11Sの指摘により、彼が違和感を感じた場所に手を当てた。指を地面に当てる。コンコン、硬質な音が返ってくる。カンカン、空洞に音が抜けた感じが返ってくる。

 

「ここだけ空洞…?」

「もしかしたら」

 

 11Sが7Eのノックした部分を探ると、巧妙に隠されているが、瓦礫の下に突起を確認した。瓦礫をどかして突起に指を入れると、地面が開いて10センチ立法の窪みが姿を現す。パッと覗き込んだだけでは見えないが、手を差し込んで横にずらすともう一つ異物が。

 

「これ、スイッチだ」

「ってことは……」

「16Dかはわからないけど、こんなにも隠しておきたい物があるのは確かだねー。16Dがいるのか、別の何かの拠点か。分からないけど、押して見る?」

「11S、ここは私が押しておくわ。万が一論理ウィルスが流れ込んできたら、お願いね」

「…わかった」

 

 11Sが数歩離れ、7Eがスイッチを押す。

 ガコン、と地面の一部がスライドし、イデア9942の隠れ家への道が開かれる。緩やかで曲がりのあるスロープだ。資材の搬入にも気を使った作り。間違いなく、この先はなにかの拠点になっている。

 

「論理ウィルスは…大丈夫みたいね」

 

 自分の手を開いては閉じ、他にも無いかと自分の体を見回す7E。だがウィルス汚染による異常思考も、異常事態も起こっていない。ひとまずは無事が確認されているらしい。

 隣でホッとしていた11Sも、万が一にも7Eが敵にならなくてよかったと内心冷や汗を拭う。もし敵対していれば、戦闘能力の劣る自分ではすぐさま追い詰められるのが関の山。ハッキング技術も9Sよりも高くはなく、下手をすれば破壊されてしまう恐れもあった。

 

「行きましょ、11S」

「……分かった」

 

 どちらにせよ、無かった可能性の話をしても意味がない。虎穴に入らずんば虎児を得ず。11Sと7Eは暗がりのスロープを目指して歩こうとして、違和感を感じる。なんというべきか、背中を冷たいものが通り抜けたような感覚。

 それは彼らが初めて味わう悪寒であると気付くこと無く、その意識は刈り取られた。

 

 11Sと7Eが、それぞれ凄まじい勢いで左右の壁に叩きつけられる。

 音もなく忍び寄ってきていたのは、人型の何か。

 気を失ってしまった二人には目もくれず、それはスロープにむかって歩みはじめる。

 

 ガラガラと、重たいものを引きずりながら。

 




めっちゃ不穏な感じのアレなサムシング。
こういう展開になるとすごい手が捗ります。

あと評価者にかつてのランキングの上位制覇者さんとか居てビビったりしますが
それ以外にも評価をくださったり擦る皆さま方ありがとうございます
おかげで投稿ペース維持できてますので、このまましっかり完結もってきます。



という媚をここで売っときます

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