イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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皆ベヨネッタ好きすぎて笑った
だから、シンデ、カミに、なる!


11/04 22Bと64Bを正しい方に修正


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 2Bがパスカルの村に到着すると、大木の根本から機械生命体たちが歌っている声が聞こえてくる。彼らの音声にはパターンがあるものの、男性と女性で高い低いの声色がちゃんと別れている。だからだろうか、「ハモリ」というものを意識した歌が2Bの耳に届いてきた。

 

 任務には関係ないはずだが、不思議と2Bはそちらを向いてしまう。そこで見たのは、一体のアンドロイドが指揮棒を振り、機械生命体の中でも幼い精神を持っているであろう者たちにリズムを取らせている光景。

 アンドロイドもこの共同体の一員になっていたのか、と意識を向けた2Bは、その指揮を取っているアンドロイドに注目した瞬間、激しい違和感を覚える。とても、見覚えのあるモデルなのだ。

 

「推測:脱走したヨルハ機体。ブラックボックス信号は22Bのもの」

「ヨルハ……!?」

 

 11B以外にも居たのか、という驚愕。

 パスカルの村で何をしているんだ、という疑問。

 

「提案:22Bの捕縛、及び同時期に脱走した64B・8Bの情報の入手」

「……」

 

 ポッドの無感情な提案に、2Bは自分の拳が強く握られるのを感じた。

 彼女の左手が無意識に目元へ上げられ、ゴーグルを触る。

 

「……ポッド、それは最優先事項?」

「否定、既に22Bら脱走機体の捜索は打ち切られており、優先度は低い。当機ポッド042の随行支援対象である2Bの指示に従う」

「そう、私は……何も見なかった」

 

 真実を見ないためのゴーグル。

 それを取らずとも、2Bの本心はとても優しいものだ。

 本当にゴーグルを取り、絶対に曲げたくない意志を見せる時。それは、きっと訪れないだろう。2Bはそんなことを思いながらも、自分にできる僅かな選択肢の中から、脱走機体を見逃すことにした。

 

「了解:バンカーへのデータ同期の際、この情報は送信しないものとする」

 

 11Bに始まり、きっとバンカーでは居所が無かった者たちなんだろうか、と推測を立てていく。だが、2Bはかぶりを振って考えを追い払った。今、司令官から直々に与えられている命令はネットワークから離脱した機械生命体たちの調査。

 そしてこの村に来たのはパスカルから情報を聞くため。それで、いいじゃないか。

 

「そうなると、設計上何本かの木を運ぶことになりますねえ」

「ここの住人も増えてきたし、イデア9942のワクチン予防接種も控えてるらしいじゃないか。これを期に少しここの集落を広げるのも悪くはないと思うがな。いずれ、この大木一本じゃ保たないだろ?」

「それもそうですね…人間の生活様式に慣れるためにも、共同の一戸屋を建ててみる、ですか。いやぁ、アンドロイドの方がいると別の視点があって助かりますねぇ」

「いつも面倒を見てもらっているおかげだ、パスカル」

 

 彼女が足を進め、ハシゴを伝って登って行くと、パスカルは自分の家の前で新たなヨルハ機体と話し込んでいる。内容を聞く限り、この村の拡張計画の一つだろうか。更なる発展を遂げたパスカルの村、平和主義達が集まるこの村は、拡大していく最後には、危険な集団として認識されてしまう未来もあるのだろうか。

 

「ヨルハ機体、8Bのブラックボックス信号を検知」

「彼女が、8B……」

 

 8Bの噂は聞いたことがあった。部隊長としての役割を受け持つことが多く、様々な強襲作戦で戦果をもぎ取ってきた近接特化型のヨルハB型。ヨルハにしては珍しく、ポッドには射撃機能が付けられていない。そのためか、ある地上任務の際、無抵抗のポッドを破壊して脱走したというのがヨルハ側の最後の記録だった。

 

「そういえば同盟先なんだが」

「ええ、少し早いですがもうそろそろ発ちますよ。特に持っていくものも……おや?」

 

 パスカルは、8Bが背中を向けている方へと視線を移す。

 

「おぉ、2Bさん!」

「何…2B?」

 

 8Bを観察しながら近づいていくと、パスカルが喜色を交えた声で2Bの名前を呼んだ。反応する8Bは、同じく部隊から離れる前に有名になり始めた2Bの名前を聞くや否や、警戒するように肩を跳ね上げ、腰の一刀に手を伸ばした。

 だが、パスカルが歓迎するように2Bとハグを交わす姿を見て、柄を握った手を離す。随行しているポッドからも特に2Bとのやり取りは見受けられない。

 

「パスカル、もういいから」

「あらら、結構ウケが良くないですねえ……やはり、人間の感情表現は我々には難しいのでしょうか」

「単純に、パスカルの抱きしめる力が強くて痛かったよ」

 

 2Bの感想は、村の者たちが遠慮して言えなかった言葉だった。

 キョトンと固まったパスカルは、ぎこちなく体を動かし始める。

 

「そ、それはそれはご無礼を……」

 

 後頭部をポリポリ掻きながら、「難しいですねぇ」とパスカルが呟いた。

 2Bは早速本題に入ろうと、昨今の機械生命体の情勢を聞いてみる。すると、パスカルからはちょうど欲しかった情報がスラスラと出てきた。それはイデア9942が言ったとおり、「紫色に塗られた機械生命体が、息も絶え絶えに和平交渉を持ち込んできた」という話である。

 しかし、そこにはイデア9942も把握していない続きがあった。

 

「実はその和平の使者の方なんですが、ひどく憔悴しきっていたのでこの村で休ませていたんです。つい先程冷静さを取り戻しまして、私たちにこう言ってきました」

 

 ―――急いで和平を結びたい。願わくば、そのまま助力を請いたい。

 

 それは、どういう意味だろうか。

 安定した生活基盤を築き上げたパスカルたちを先人として、知恵を借りたいという事なのか。どちらにせよ、新しい機械生命体の集落が、それほど穏やかな状況ではないという事が伝わってくる。

 

「私はこの村の長をやらせていただいます。それに、将来良い関係が築けるかもしれない相手というなら、虎穴であっても私は行くつもりです。今は8Bさんたちも居ますから、村の安全は保証されていますしね」

 

 8Bは自信ありげに胸を叩いた。

 近接特化型の8B、そして直属の22B・64Bが在籍する村。困難だと思われる遠距離攻撃への対処は、村の機械生命体たちが補ってくれるだろう。平和主義とて、この村の住人は実際に襲われて黙っていられるほど無力なわけではないのだ。なんせ、あのパスカルの元に集ったのだから。

 

「……わかった。和平相手のいる場所はどこ?」

「工場廃墟、その一角です。私は先に向かいますので、準備が出来たら2Bさんも来てください。廃墟都市から歩いたところに、私は居ますから」

「パスカルの準備はいいのか」

「私はいま、ちょうど出ようとしていたところでしたので」

 

 先程の会話を思い出せば、たしかにそうだったと2Bは納得する。

 しかし、機械生命体の新しい集落ともなれば危険が蔓延っている可能性も捨てきれない。2Bはパスカルの言うとおり、この村の武器屋や道具屋を利用しておこうと、下の階に足を向ける。

 

 その瞬間、パスカルは2Bに声をかける。

 

「あ、そういえば今回、2Bさん以外にも同行者がいますから、楽しみにしてください」

 

 同行者。機械生命体であるパスカルの知り合いともなれば、同じ機械生命体である可能性が高い。そうなるとイデア9942の特徴的なシルエットが思い起こされるが、彼は彼でこっちに出向くようには思えなかった。

 それよりも、2Bは自分の体がどことなく妙な感じに包まれているのが気になった。得も知れぬ、言いようのない悪寒。もし人間であれば、虫の知らせとでも言うべき危険信号。残念ながらそれを知っていそうな9Sは居ない。

 

 後に、彼女は大きな運命の亀裂に足を踏み入れることになる。

 悪寒はそれに対するものなのか、そうでないのか。

 2Bの背後にポッド042が追従していく。ただ無言で、無機質に。

 

 

 

 

 第243次降下作戦にて、最初のエンゲルスが潜んでいた場所。いまやそこは不自然なまでにぽっかりと空いた広場になっていた。おまけに動作不良の原因、海辺の潮風が流れ込むからだろうか、不思議とこの場所に機械生命体は見当たらない。

 代わりに、工場のどこよりも赤く錆びた景色が、海の青色と対照的で印象に残る。

 

 寂れた工場の雰囲気も景色とマッチしており、人間であればちょっとしたパワースポットや絶景の一つにでも認定してたかもしれない。そんなロマンチックな空気もありえる場所だが、今は剣呑な空気に包まれていた。

 

「あわわ……11Bさん、どうか落ち着いて」

「落ち着いてる。気に食わないだけだよ」

「……」

 

 ことの発端は、11Bだった。

 パスカルの護衛ということで指定の待ち合わせ場所に到着したのだが、パスカルは11Bが現れてもまだ少し待って欲しいと言ってきた。そこで待機して現れたのが2B。現状、ヨルハに所属したままの機体だ。前々から、妙なまでにヨルハに噛み付く11Bが反応しないはずもない。

 

「無視しないでよ」

「……無視していない。どうして睨まれてるのか、考えてただけだから」

「白々しいったら!」

 

 11Bは睨みつけるような視線を向けるが、2Bはどこ吹く風と言ったところ。

 パスカルはしばらくその姿をオロオロと眺めていたが、どうにも状況が動かないことを察すると、大きく息を吐いて11Bの元に近づいていった。

 

「ん、どうしたのパスカ――」

「こら」

「あうっ」

 

 ごずん、と鈍い音が11Bの頭から鳴らされる。

 突然の蛮行に2Bは驚き、11Bはイデア9942よりも真面目に殴られた場所に響く鈍痛のため、頭を抑えてしゃがみこんだ。

 

「これから大事な話をしに行くのですから、いつまでも意地を張らないでください。全く、村の子どもたちのほうが聞き分けがいいって言ったらどう思いますか?」

「うー……ごめんパスカル」

「謝る相手は私ではないでしょう? 貴女なら、分かっている筈」

 

 11Bの背中をぽん、と叩く。

 彼女は顔を赤くしながら、そっぽを向いて2Bに言った。

 

「……ごめん」

「別に、私は気にしていない」

 

 2Bは今のやり取りに疑問をぶつけようと思ったが、言葉を飲み込んだ。

 なんというべきか、眩しかったのだ。機械生命体とアンドロイド。決してこの数千年間、手を取り合うことがなかった者同士。それが目の前で、こうして仲睦まじい様子を見せている。きっと、自分がバンカーと地上を行き来する激しい戦いをしている間に、彼女らは仲を深めていったのだろう。互いの感情をぶつけ合える程の関係に。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 パスカルの先導で、彼女らは入り口に向かった。

 

「気をつけてくださいね、駆け込んできた使者の様子もおかしかったものですから。もしかしたら、危険が待ち受けているでしょうし」

「危険、か」

 

 ガラガラと自動扉が開き、太陽が照りつける外とは違う薄暗さが覆い尽くす。

 

 整列した、紫塗りの機械生命体が彼女らを出迎える。バチバチと点滅する電灯に気にした様子もなく、うつむきがちな彼らは無言で列を保っていた。そして向こう側の扉のほうにいた個体が、3人に気付くとゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「ようこそ、神の宿る場所へ」

 

 機械生命体にしては恐ろしく流暢な言葉遣いだ。野良の離脱個体に見られる、片言然とした妙なアクセントを感じない。本当に、つい最近ネットワークから離脱した個体なのだろうか。疑問に感じさせる要素が3重になって襲いかかる。

 統率された集団、統一された布地の服、統合された共同意識。

 

 三人は、そのまま「教祖様」と呼ばれる機械生命体の元に案内されることになった。複数の機械生命体に見送られながら、2Bが第243次降下作戦以降、この工場廃墟でずっと使用不可能だったはずのエレベーターに乗せられる事になった。

 

「以前は使えなかったはず。使用されていないスペースを拠点にしたのか……」

「彼らは共同体としては統一されていますが、おそらく拠点の作成については優先事項になかったのでしょう。既にある場所をそのまま使って、ひとまず大量の人員が集まれる場所を用意した、と言ったところでしょうか」

 

 エレベーターに揺らされながら、パスカルが考察を述べる。

 集団といっても、それぞれの特色が強く出てくる。自分たちとは違う選択を取った機械生命体に興味が湧いたのか、本を読んでいるときのように興奮した様子が見て取れる。既にパスカルの想像の中には、この新たなコミュニティと手を取り合うビジョンがあるのだろうか。

 

「……ん?」

 

 そしてエレベーターがまだまだ深くに沈んでいく中で、11Bが声を上げた。

 

「何かあったのか、11B」

「いや……上から妙な音がするんだけど」

「妙な音?」

 

 2Bが耳を澄ますと、ぎり……ぎち……ぎち……とエレベーターの駆動音に加わり金属の擦れる音が聞こえてくる。その意味は何か、11Bはある可能性に思い至り、顔を青くする。

 

「まさか……全員、衝撃にそな」

 

 忠告は途中で切れる。

 エレベーターを吊っていたワイヤーが切断されたのだと気づいた瞬間、降りるスピードが倍以上になって彼らの体を浮かせたのだ。急速な速度で落ちていくエレベーター。こうなってしまっては、もはや鉄製の棺桶にしかならない。

 

「ヒ、ヒヒヒヒヒ…!」

 

 シャフト内に轟音が響き渡る。エレベーターが一番下に到達し、弾け飛んだのだ。

 切断されたワイヤーに吊り下がっていた機械生命体が、回転ノコをギュルギュルと回しながら狂ったように笑い続けている。

 

「カミになった! アイツラはカミになった!! ボクもシンデ、カミになる!!! カミになるんだぁああああああああ!!」

 

 笑いながら、吊り下がっていたワイヤーから手を離した機械生命体。

 彼はそのまま底に落ち、エレベーターの残骸に混じりながらただの鉄くずになって爆散する。彼らの信仰する神になどなれず、ただただ、転がる残骸となって。

 




相違点
8B達生存によるパスカルの行動の遅れ(別の予定で時間が経過
2Bは通信ではなく、パスカルの村に直接訪れる
パスカルの村に訪れた「教祖派」の使者

こっから先書くのが楽しみですわー
色んな方面のキャラは出し尽くしたので、多方面の相違点を描く
二次創作らしい感じになっていくと思います
そういうのが苦手な人にはすいません


今まで原作沿いだったのは、騙して悪いが……

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