イデア9942 彼は如何にして命を語るか 作:M002
嬉しいです。嬉しいですけどそのせいで宣言通り毎日更新がががが
あとなんか、朗読劇とかいうのあるらしいですね。
ヨルハ部隊の生みの親の情報があるとか。
そこまで把握してなかったあああああ
「9S……」
「心配しないでください、2B。データオーバーホールなんてすぐに終わらせますから」
ハッチが閉じられ、9Sの姿が見えなくなる。
2Bはその姿を目に収めると、踵を返してその場を後にする。
レジスタンスの所有する発射場。ヨルハと協力体制にある彼らは、最新鋭の機材をヨルハから支給されている。この発射場の、資材打ち上げ用ロケットもその一つだ。ステルス性能と、ハッキングによる侵入にも耐えられるような電子防壁を張られており、バンカーに直接届けられる資材が、機械生命体の手に渡らないようになっている。
発射場自体を狙えばいいだけの話なのだが、不思議な事に機械生命体はこうした宇宙に打ち上げられる資材などは狙っていないのだ。
だからこそ、今回9Sの旅路は安全なものになるだろう。
司令部には既に伝達が終わっているため、資材とともに9Sが回収された後は、ボディの差し替えとデータオーバーホールがすぐにでも始まるはずだ。
発射場から戻った2Bを出迎えたのはアネモネだった。
疲れただろう、と彼女は2Bを隣の椅子に座らせる。
ここも人間の作り出した言葉、キャンプというだけはあり、アンドロイドでも味わえる嗜好品が溢れている。火で炙り、音を立てていた金属の容器を手に取ったアネモネは、近くに置いてあったコップに中身を注いだ。
「ほら、少し苦いが落ち着くぞ」
光に照らされる黒い液体。ほんの少しだけ含まれる油分が、光に照らされ七色を彩った。湯気を立ち上らせるそれは、人間の多くが好んでいたという珈琲だ。
「ありがとう、アネモネ」
コップを受け取った2Bが、両手でそれを包む。温度はかなりあるはずだが、そこは戦闘用アンドロイドと言ったところ。少し熱いなとは思うものの、取り落とすほどではない。
それよりも、感謝の言葉をストレートに伝えた姿が珍しかったのだろう。それとも、9Sが絡んでいるからだろうか。柔らかな声色で告げられた「ありがとう」の一言に、アネモネは目をぱちくりとさせる。
「ふっ。君も、思ったより素直なんだな」
「…も?」
「ああいや、なんでもないよ」
アネモネが、微笑を浮かべた2Bの表情から思い出していたのは2号……我々がよく知る言葉で言うなら、「A2」のことだ。彼女とよく似ている。……いや、2Bという名前からおおよそは察している。きっと2号を元に、2Bは製造されたのだろう。
推測を立てながらも、それを口にして混乱させるような事はしない。聞けば、アダムの撃退およびネットワークからの切断。それによる各地の機械生命体の大きな混乱が引き起こされ、同士討ちを行っている者もいるという話だ。彼女がアダムという特殊個体と戦ったことでもたらされた、アンドロイドたちの勝機に繋がる一手だ。
大きな功績だ。それと同時に、辛い戦いだったのは間違いない。
彼女の心を守るためにも、アネモネは余計な事を伝えるつもりはなかった。
珈琲をゆっくりと飲む2B。苦味は彼女のぼうっとした一部の思考を振り払ってくれただろうか。ただ、ほぅ、と息を吐き出した姿を見るに、珈琲そのものは気に入ってもらえたようだ。
「そうだ、君たちの司令官から連絡が欲しいとのことだ」
「……分かった」
渡された珈琲のコップを返して、2Bは立ち上がった。
その後、レジスタンスキャンプに設置されているアクセスポイントから次の指令を受け取った2Bは、機械生命体の動向調査ということでパスカルの元を訪れることにしたらしい。
イデア9942のことも考えたが、パスカルと違って住所不定な上に神出鬼没。それに、11Bとたった二人で暮らしているであろう彼らに比べ、パスカルの村は住人が多く、情報と一緒に新しい人員も招き入れて拡大されている。何よりパスカル自身の性格と、情報を得る場所としては最適だった。
「アネモネ」
「どうした2B?」
「最近、パスカルから何か言われたことは?」
出発前にアネモネからも得られる情報は得ておこうとしたが、2Bの考えに反してアネモネは首を横に振るばかり。ここのところ物資の交易以外に主だった接触はあまりないのだという。
「2B!」
今度こそパスカルの村に向かって歩もうとした2Bの背中に、アネモネの声がとんだ。
「無理はするなよ」
「…ああ」
結局アネモネに、2Bが何を思ったのかは分からなかった。
だが、2号を元にしているのなら。アネモネは、抱く不安が現実にならないことを祈って、レジスタンスの指揮に戻るのだった。
ゴポゴポとビーカーの中の液体が沸騰する。
中に入っているのは、よく目を凝らさなければわからないほど小さな欠片。11Bが取ってきた「顔」の欠片だ。それから生み出された、どぎついウルトラショッキングピンク色に変色した液体を手に取り、イデア9942はその中身を隣に置いてあった機械の給水口に注いでいく。
「ねるねる……ああいや、違うな」
「何言ってるの?」
「昔の流行りだ」
最後まで注ぎ終わった後、ポコリと湧いた泡が浮く。
空中でパチンと弾け、イデア9942の装甲板をピンク色に汚す。
「もう間違ッたようにしか思えんな」
言いつつも、実験の手を止めないイデア9942。
胸元に掛かった液体を拭き取りながら、別の手でガシャン、とレバーを下ろして機械を作動させた彼はガタンガタンと跳ね始めた機械を前に、すべてを諦めたような顔で呟いた。
「成功したが、これは失敗か」
直後、工房を小さな爆発が埋め尽くした。
十分後、ピンク色にまみれた工房では、自動化された小さな機械が壁にひっつき、天井に張り付き掃除していく。その中で爆発し、粉々になった作業台を前に崩れ落ちるイデア9942と、それを慰めるように背中を擦る11Bの姿があった。
「何がどうしてこうなるのか……」
「まぁまぁ、失敗は誰にでもあるって」
それから数十分後、二人も工房の清掃に参加したことで、破壊されてしまった作業台を除いて工房のなかは以前よりも清潔な様相に戻っていた。まだ使えるパーツを分け、残った金属類を一塊にして溶鉱炉へ放り込んだイデア9942は、なくなった椅子の代わりに敷かれた座布団に座っていた。
「さて、これからの予定だが」
寝台に腰掛ける11Bを見上げたイデア9942が、今後の行動目的について説明を始めた。傍らにはいつものモニター。映し出されているのは廃墟都市ではなく、11Bを発見し、二人の出会いをもたらした工場廃墟の3Dマップ。
イデア9942自身が潜行したこともあり、モニターから操作をすれば拡大され、一人称視点でマップを見渡すことができるようになっている。そこで一つだけ赤く光る点を、イデア9942が指示棒で指し示した。
「今回はここを目指して欲しい」
「それより、さっきの実験は良かったの?」
「一度試してわかッた。あのやり方では手に負えん」
だから忘れておけ、と首を振ったイデア9942の言葉に11Bが頷いた。咳払いを一つ、これ以上は言及しなくてもいいと示した彼に、11Bは口を閉じる。
「パスカルからの一報でな、機械生命体のネットワーク、それを操るほどの権限を握っていた最上位の機械生命体がネットワークから切り離されたことで、製造当初からマインドコントロール状態だった多くの機械生命体が自我に目覚め、ネットワークから離脱した」
モニターの中で、ハッと目が覚めたかのような動作をする一体の機械生命体。直後におろおろと不安を感じさせる挙動で宛もなく歩き始める。そしてその姿は少しだけ黒ずんだ。いや、影がかかったのだ。
大型の機械生命体だ。ネットワークに繋がっている。当然、機械生命体はネットワークから離脱したその個体を敵と認識する。
命乞いをするように手を上げ、後ずさりするネットワーク離脱個体。そんなものはお構いなしに、大型の機械生命体が手を振り下ろし、離脱個体をバラバラのスクラップに変えてしまった。
「このように、離脱した途端に隣りにいた同族に破壊される個体も多い。己を認識した離脱個体たちは、自分の命を守るためにコミュニティを形成したんだ」
それが、ここだと。イデア9942が再びマップの光点を指し示した。
「ワタシの目的は、そいつらの調査ってこと?」
「そうとも言うが、少し違う」
「え?」
てっきり、いつもどおり単独調査かと思っていた11B。
調査ではないとなると、また以前のような指定アイテムの採集だろうか。
「実は同じような任務を、既に別の者が行ッている。君は同行し、護衛をしてほしい」
「イデア9942の知り合いって言うと、パスカルだよね」
間髪入れずに言われた言葉に、イデア9942は思わず閉口する。
言われてみればそのとおりだ。それ以外に恒常的な友人とも言える関係のものは居ただろうか。少し記憶領域を洗ってみるが、イデア9942はそれ以上の事に時間を割くのをやめた。考えるだけ無駄だろうから、と。
「……そうだ。パスカルの護衛を頼みたい。先程のマップの場所には、ネットワークから離脱した者たちのリーダーがいるらしくてな。そこに離脱個体が続々と集まっている。パスカルはそのリーダーと接触することになッた」
パスカルも機械生命体のリーダーだ。それはネットワークに接続されていたときから、公開されている情報だったのだろう。故に、同じく集団になった者同士、和平条約という名目で向こうから接触があった。
全身を紫色に塗り、暗がりから松明を手にして駆け込んできたらしい。イデア9942は、どうやってこの和平条約を結ぶ話が持ち上がったのか、そこまでは知らなかった。だが、どこか焦った様子だったというのが気にかかる。
何より、あの工場には助けを求めて集団に加わった、と思わしき機械生命体が多い。イデア9942にとって、輝きに値する命があるのだ。見捨てるわけには行かないが、彼にもやることがある。
「万が一のためだ、頼む」
「勿論、任せて!」
だから、彼の言う「万が一」のための戦力として11Bを向かわせることにした。彼女からはA2との接触の話も聞いている。もう、彼女に任せるという選択はイデア9942にとって安心できる。彼がやるべきことはあくまで作業なので、この工房からオペレートできるだろう。
「そうだ、11B。これも持っていけ」
何より、彼は知っている。今回向かう場所では閉所の戦闘が必ず起きると。
だから事前に作成しておいた、一本の武器を立てかけてある中から手渡した。
「これって…銃?」
引き金、砲身、ストック。
どこからどう見ても銃だ。
ヨルハ部隊は現在、ポッドという射撃も担当できる支援ユニットが必ず付けられているため、自分で引き金を引き、攻撃するための銃は非効率的として採用されていない。代わりに、ポッドがいないレジスタンスの一員が使っているため、知識も用途も知っている。
「小回りが効く分、役に立つこともあるだろう。前のメンテナンスの時、FCSはそれ用に弄ッてある。剣の反対側に差しておけ」
ほら、とイデア9942が新しいホルスターを投げ渡してくる。
三式戦術刀と、ヨルハ部隊が好みそうな、黒塗りの大口径の銃。腰の両側に武器を揺らす11Bは、イデア9942お手製のそれをすっかり気に入ったらしい。
「試射くらいはしておけ。弾薬に関しては気にしなくていい」
冒頭の、「顔」の欠片を使った実験。あれは欠片から抽出した分の「魔素」を直接エネルギーとして使おうとしていたのである。それ自体は失敗したが、欠片を媒介として魔素を吸収し、弾丸として打ち出す…この銃の弾丸を生み出すことは成功していた。
なんせ、こちらに関してはポッドという前例があるのだ。あれだけヨルハ機体が壊されている以上、同じく機能停止したポッドもイデア9942は過去に回収している。解析し、再現するのにさほど苦労は無かった。
「……ふふ」
溢れる笑みが抑えきれないのだろう。
喜色満面、と言った様子で銃を様々な角度から見ていた11Bは不意にイデア9942へと顔を向けた。
「ありがとう、大好きだよイデア9942」
そして飛びつき、彼に抱きつく。
「気をつけろ、16Dの事もある」
突き飛ばすようなことはせず、肩を抱いて頭の後ろを撫でるイデア9942。どんどん大胆になってくる11Bの接触も、そういうものだと受け入れたが故の対応だった。
イデア9942から精神的なパワーをもらった11Bは、意気込んで工房の出入り口に足を向ける。
「いッてらッしャい、11B」
「行ってきます」
彼女を見送ったイデア9942は、その手に工具を持つ。
忙しくなるぞと呟いて、これからの激動の未来に思いを馳せるのだった。
ちくしょうてめぇら見せつけやがって爆発しろ
そんなことを思う童貞作者でした
ということで、次回からカミニナル編
大分イデア9942がやらかしたことで前提からして崩れてる感
結構大幅に逸れることもあるかもしれないので、原作沿いではないことに注意。
あとあれですわ、以前から私が用意した注目して欲しい点に感想では誰も触れてないから結構(・∀・)ニヤニヤしてます。結構フロムゲーもやってるんですが、騙して悪いが、って素晴らしい文化ですよね!