イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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前回オリジナル要素押し押しだと全然言及なくて笑いました
やっぱ11Sとかには興味ないかー そうですかぁ……
それでも、都合上この後も彼らの描写が出てきちゃいます
だから先に言っておきます 許してください

なるべく毎日投稿しますから


そういえば機械生命体(ボール頭)って瞬きするんですな
カミニナル工場で教祖様いる部屋のムービー見てて気が付きました


文書23.document

 微弱なブラックボックス信号を検知するというソナー。ポッドプログラムにそれを設定した2Bは、紆余曲折ありながらも、ソナーが検知した別のヨルハから9Sの「吹き飛ばされた」であろう予測地点の座標を入手した。

 2Bにとって彼は、長く、それはもう長く、共に作戦をこなしてきた相棒だった。9Sの身に何かあったら。そう思うと、居ても立ってもいられない。9Sを傷つけた相手を絶対に許しはしないだろうと彼女は考える。

 最もおぞましい秘密を隠し続けているくせに、なんて虫のいい感情だろうかと自分自身を忌避しながらも。それでも、この9Sを想う感情だけは嘘ではなかった。

 

「これは……!?」

 

 そうして彼女が訪れたのは、かつてエイリアンを発見した、崩落しかけている竪穴だ。ブラックボックス信号が僅かながらも検知でき、かつ教わった座標となれば9Sが入る確率は高い。

 しかし、2Bはそこで奇妙なものを見かける。

 

「こんなところに、アンドロイドの死体…?」

「ブラックボックス信号は検知できず」

 

 柱に縛り付けられ、外皮の中身がむき出しになったアンドロイドの残骸だ。ひどく損傷しているが、大きさは9Sのソレに足りることはない。大きさからして別のヨルハだろうか。それにしたって、酷い殺し方だ。

 

「警告:敵の罠の可能性」

 

 9Sが居ないことで、話しかけてくることが多くなったポッド042の相手をしながらも、その言葉に耳を傾ける。

 それでも2Bにとって、敵の罠なんて踏み潰してでも、9Sに会いたいという気持ちが強かった。

 

「行くよ、ポッド」

「了解」

 

 その決意が無意識から言葉になって出たらしい。ポッドの声にハッと意識を取り戻し、戦闘用目隠し(ゴーグル)の下で視線を彷徨わせる2B。どちらにしても、やることは変わらないと、一瞬の停止の後、エレベーターのボタンを押す。

 あまりにも不自然なエレベーター。前に探索に来た時、ここは閉まっていた。アンドロイドの死体も無かった。誘導されている、というのは分かっている。それでも、

 

「警告:機械生命体の反応接近」

「ッ!?」

 

 ポッドの言葉に、思考を切り替えた2Bが流れるような動作で武器を構える。

 しかし、彼女の警戒に反して、その足音はばちゃ、ばちゃ、とゆったりとした足取りでこちらに向かっている。調査のために備え付けられた松明の明かりが、やがて坑道の向こうからやってくる相手の特徴的なシルエットを映し出した。

 見覚えのある影に、2Bは刀を握る手を緩めた。

 

「イデア9942、何故ここに?」

「君こそ、探したぞ」

 

 相変わらず、後ろにピッタリと付いて来る11Bを連れての登場だった。

 同時にやってきたエレベーターが、ガタガタと錆びついた扉を開ける。

 ポッドにしばらく明けたままにしておくよう命じた2B。彼女は、イデア9942の言葉に対して疑問を生じさせていた。

 

「私を探していた…? 何のために」

「機械生命体のネットワークに潜り込んで、情報収集をしていたんだ。そこで、君の相棒である9S君を見つけた」

「9Sが敵の中枢に!?」

 

 普段の冷静沈着な態度を崩すほど、その情報は2Bに衝撃を与えていたらしい。

 彼女は、イデア9942に続きを促す。

 もしかしたら、9Sが汚染されているという可能性も浮上したからである。

 

「敵の機械生命体、アダムの精神攻撃を受けているようだった。こちらにも本来の目的はあッたが、知り合いの危機ともなれば黙ッてみているわけにも行かないからな。精神防壁を張り、無事に現実に引き戻させた。その過程でウィルスは検知できなかッたから、安心してくれ」

「そうか…よかった」

「それより、この先に進むならおそらく、9S君と一緒にアダムも居るだろう。十分に気をつけて欲しい」

「ああ、分かった。イデア9942……いや」

 

 そこで2Bは気付く。

 イデア9942は、今回の戦いに手を貸してくれないのだろうかと。

 機械生命体を相手に浅ましい考え方であることは自覚しているが、彼とて電脳上では9Sを積極的に助けてくれている。なら、こちらと協力するという選択肢があっても良いのではないかと。そんなことを考えたからだ。

 

「貴方は、協力してくれないのか」

「すまないが、逆に足手まといになるだろう」

 

 アダムとの電脳戦では優位に立つことが出来たが、現実では違う。あくまで支援特化でしかない自分と、まだ体に慣れきっていない11Bでは高速機動戦闘を行うであろう二人の間に立つのは難しい、とイデア9942は言った。

 

「…そうか、済まないイデア9942。無理を言って」

「いいんだ。あぁ、それと……9S君と電脳内で少し話をしたんだ」

「9Sと?」

「ああ。目覚めた彼は、もしかしたら君の知らない事や、考えようのない事を言うかもしれない。もしそうなッた時、否定せずに一度は受け止めてほしいんだ」

 

 今回、不思議と「彼の言葉を受け入れなくては」という感情は湧いてこなかった。

 代わりにあるのは、何を今更、という自分の覚悟。

 

 とうの昔に、9Sから浴びせられるであろう最悪の可能性は思い描いている。

 それが訪れていないだけで、何度も何度も想像はしていた。

 だが、2Bはそれらを全て甘んじて受け入れるつもりだった。

 

 他でもない9Sのためならば、今の彼のためなら、2Bは全てを投げ打つ覚悟を持っていた。

 

「大丈夫」

 

 たった一言に覚悟の全てを込めて、彼女は淡々と言葉を返す。

 緑色のカメラアイを瞬かせたイデア9942は、帽子をかぶり直して「そうか」と呟いた。

 

「ありがとう、君に言いたいことはそれだけだ。幸運を」

 

 イデア9942の言葉を背に、2Bはエレベーターに入った。

 その扉が閉まる直前、こちらを睨んでいた11Bが口を開く。

 

「一つだけ忠告、比翼は、どっちかが欠けてしまえば最悪だからね」

 

 エレベーターの扉が閉まる。

 言葉が突き刺さるように、2Bは胸元から謎の痛みを訴えかけられる。

 きっとソレが、紛れもない自身の本心なのだろうと理解しながら。

 

 

 

 

 白い世界。

 どこか中世を思い起こすクラシカルな様式の建物。

 ケイ素と炭素が含まれた謎の結晶が、見事な立方体となって周囲の建築物を構成している。試しに剣を振るって見る。ガチン、と硬い音がして剣が弾かれた。炭素という点からして、硬度に関しては相当のものがあるのだろうか。

 

「ようこそ、我が街へ」

「……」

 

 そして、気障な一礼をするアダム。

 

「どうやら、お気に召さない様子だな」

「9Sはどこだ、答えろ!」

 

 刃の切っ先をアダムに向ける2B。

 荒々しい口調からは、普段の冷静な様子を感じさせない。その身のうちに宿る激情、そして9Sを想う気持ち。それらが組み合わさり、無意識の焦りが特大の敵を前に口をついて出てきたのだ。

 

「私は、私達機械生命体は人類に興味があるんだ。他に例を見ない複雑な思想、形態……そしてこの街も、数ある様式の住居の一つ」

 

 美しいだろう? と片手を広げて空を撫でる。

 アダムの手が横切った先の、謎の白いキューブが切断され、研磨され、より建物らしい形になって無用な凹凸を無くしていく。

 

「素晴らしいだろう? 人類というのは、未知に溢れている。私達はそれらを渇望し、模倣し、このような場所を作った」

 

 だが、と演技がかった口調で彼は続ける。

 

「人類は作り上げたこれらを、時に破壊する。蹂躙する。そして……奪い尽くす。どこまでも無慈悲に、機械的に。記録を読み解けば、そんな記録はどこにでも存在した。多様性に溢れていながら、時にこうして無機的な判断をも下すことができる。本当に、興味深い」

 

 アダムはカツカツと、硬質な地面の上で靴音を掻き鳴らす。

 2Bとは一定の距離を保ったまま。

 彼が歩く度に、剣の切っ先が彼の方に向けられる。

 

「そう、時には衝突し、殺し合い、奪い合う。己だけが生きるために。そうして人は教えられるまでもなく、自ら学ぶのだという……人類の本質は闘争である、と。幾つもの記録媒体にそう描かれていたよ」

「貴様が…人類を語るのか、機械生命体が!」

「ああ、そうだ。存分に語らせてもらおう! そうだとも!」

 

 人間をけなす言葉。2Bの最奥部にインプットされた人類愛のプログラムが、2Bに激情を宿らせる。勢い良く踏み出した足、振るわれる刃。赤色の爪がついたガントレットで刃を掴み取ったアダムが、激しい火花を散らして鬩ぎ合いを繰り広げた。

 

「人間は相手を憎み、陥れ、自ら望むものを得ようとする! ああ、どうしてそこまでするのかと、理解できないほどの執着を抱いた者もいたそうだ。己の全てを失いながらも、無意味な目的にすべてを捧げ、失意のままに死んでいく……そんな人間もいたらしい」

「一体、何を!」

 

 剣を弾き飛ばしたアダムがバックステップを刻み、白いキューブを操りながら2Bに突貫する。意のままに動く細かなキューブに動きを阻害されながら、培ってきた戦闘のセンスが2Bの動きを鈍らせない。

 時に避け、時に捌き、時に破壊し、キューブの猛攻を潜り抜けながら襲いかかるアダムへと、的確に刃を振るい続ける。時に打たれるのは、不意を狙った「レーザー」のポッドプログラム。赤熱した光線を放たれながらも、なおも楽しそうにアダムが舞う。

 

「ハハァ! 今のは危なかったな!」

 

 髪の先を焼きちぎられながらも、アダムは笑いながら腕を振るった。

 最初に発見したときと、何ら変わらぬ豪腕。直撃すればボディを一瞬で使い物にならなくするであろう一撃を、彼女は刃の上に流しながらすり抜け懐に入り込む。

 

「はぁっ!!」

「ぐぅっ!? ……っくはは、中々やる!」

 

 2Bのハイキックがアダムの腹に直撃する。メキッ、と彼の身体の奥にあるパーツを破壊した、確かな感触が2Bの足裏から伝わってきた。そうして、僅かに後退した彼に追い打ちの袈裟斬りが放たれる。情け容赦のない一撃であった。

 それでも、彼は痛みを感じないかのように笑いながら、剣を払い除け、キューブの壁をまとって防御体勢に入った。刃が、先程試したときのように弾かれる。直後にうごめいたキューブが、爆発するように四方八方に散った。爆発反応装甲のような攻撃に、2Bは驚きながらも攻撃の中に突っ込んでいく。ポッドのマシンガンが細かなキューブを打ち砕き、出来た隙間に2Bが滑り込んだ。その瞬間だ。

 

「お前ならそうすると思っていた」

 

 その先で出迎えたのは、攻撃態勢に移っていたアダムだ。打ち出すように引かれた拳が、回転するキューブと共に2Bの体を打ち据えた。

 

「ガッッ……ぁっ、ふっ……この!」

 

 大きく「く」の字に吹き飛ばされ、背中で一度バウンドした2B。彼女は飛びそうになる意識をつなぎ留め、二度目のバウンド前に伸ばした左手の指が地面に食い込む。別の方向に伸ばされた慣性を操作しながら、体勢を立て直した2Bは再びアダムへの突進を開始した。

 

「どうした、その程度か2B!」

「まだ、だぁ!」

 

 棒状に固定されたキューブを持ち、アダムが2Bの斬撃を受け止めた。

 今度は鍔迫り合いだ。ギチギチ、カタカタと拮抗した膂力同士が束の間の静寂を生み出す。歯を食いしばる2B、このまま振り抜かれてたまるかと言わんばかりに両手を添えるアダム。

 

「おおおおおおお!」

「ッ!」

 

 長く続くかと思われた膠着状態は、2Bが打ち消した。

 アダムが両手で力を込めようとした瞬間、身を引いたことでアダムの込めた力の行き場が失われる。たたらを踏み、前のめりになった彼の首を切り裂かんと、返す刃が振るわれる。すんでのところで間に合った左手を伸ばし、その肌に深めの裂傷を残しながらもアダムは一命をとりとめた。

 

 仕切り直しのため、アダムは一旦その場から離脱。

 彼の体が、ふわりと浮かぶ。2Bからのポッド攻撃にも警戒しつつも、彼女を威圧する態度は崩さない。いかなる行動にも答えてみせようといった彼の表情に、2Bが多少苛立ちながらも冷静に状況を観測する。

 

「2B、君は強い。だからこそ、私は更なる未知の世界を感じたくなる」

 

 左手から垂れる血のような液体。決して浅くはない怪我だが、彼が患部を逆の腕で撫でると、次に2Bの視界に映る頃には傷口が閉じてしまっていた。

 超速度の治癒。これがアダム特有のものであるのか、機械生命体のネットワークに繋がり、掌握する彼の特権を行使しているだけなのか。理由はどうあれ、「厄介」だと2Bが吐き捨てる。

 

「そう……世界だ。忌々しいことにな」

「……?」

 

 先程までの昂ぶった様子はどこに言ったのだろうか。世界、という言葉を口にするアダムはわなわなと、肩を震わせている。その口調も、喜色にまみれた戦闘中よりも、ずっとトーンが低い。吐き捨てるように、紡がれていた。

 2Bにとって彼の様子の変化は観察対象ではあるが、どこか戦闘とは程遠い気配を感じて疑問を抱く。もっとも、その刃の切っ先を敵からそらす事はしないが。

 

「その戯言に付き合うつもりはない。お前を破壊して、9Sを探し出す」

 

 故に、冷徹に己の目的を告げる2B。

 お前になんか興味はない、そういったつもりだった。

 

 アダムは彼女の言葉に目を見開き、やがて細めて興味なさげに吐き捨てた。

 

「……ああ、そうだったな。9Sか、ほら」

 

 あまりにも気乗りしない様子で、アダムの指がパチンと鳴らされる。

 その瞬間、彼の横にあった建築物の壁から、ボロボロと小さなキューブがこぼれ落ちる。中から出てきたのは、掌を串刺しにされ、十字架に磔にされた9Sの姿。

 

「9S! 貴様ァ……!」

「磔、というのは最も残酷であると同時に、とある聖人と呼ばれた人間が世界の罪を背負うために自ら行った行為でもあるようだ。さぁ、9Sは罪を背負う聖人か、それとも罪を隠し続けている罪人か……2B、お前はどう思う?」

「……!」

 

 突如として、アダムからは問いかけがなされる。2Bはその内容に、足を止めてしまう。

 それは9Sに対して、イデア9942が話していた内容を聞いていたが故の問答だった。もしやすると、この問いかけを行うこともまでもがイデア9942の読み通りなのだろうか。アダムは苦虫を噛み潰したような顔で、2Bの返答を待った。

 

「…私は、ネットワークの中で謎の機械生命体と出会った。そしてその機械生命体は、どの機械生命体よりも不可解な思考をしていた。9Sには人類であらんとする精神を推し、私には人類を否定する言葉を投げかけた。あまりにも矛盾したあり方は、我々の思考からはかけ離れすぎている。脳回路が自閉してもおかしくないほどに」

「イデア9942……」

「そうだ、奴を知っているのならば話が早い。全く不可解だろう、まるでアレは、己が機械生命体ではないかのように振る舞っていた」

 

 剣を構え、名を呟くだけの2B。体は震えている。

 待ちきれないのか、アダムは言葉を紡いでいく。

 すらすらと出てくる言葉は、アダム自身が測りかねるものだった。

 

「私は大いに悩まされたよ。人類は劣等種だと、奴は言ったんだ。滅びた種族が残した物に意味は非ずと、繰り返し失敗した物事を、今度こそ繰り返さないように、と。訴えかけるように言われてしまった。私にはまるで、機械生命体とアンドロイドの争いが、何よりも無意味だと言っているように聞こえた」

 

 彼の眼前を漂う白いキューブ同士が、コツンコツンとぶつかり合う。

 片方がアンドロイドで、片方が機械生命体を示すつもりなのだろうか。

 延々と小突きあいを続けるキューブを2Bの方に放り投げるアダム。しかし、それは攻撃ではない。相も変わらず、2Bの前でキューブは小突きあいを繰り返している。

 

「私は争いの先に、闘争の先にこそ未知という進化が生まれると考えている。故に、私は人類のその部分を模倣をしていた。だが、それを進化だと感じたことはなかった……相対する者同士のうち、片方が生き残れば、それは進化の権利を獲得したということなのだろうか?」

 

 小突きあいを続けていたキューブにヒビが入り、己の身を欠けさせていく。

 

「勝利し、生き延びたところで……何を感じるわけでも無かった」

 

 最後の一突き。全身をひび割れさせていた片方が破損し、片方がその身を崩れさせながらも生き残る。プカプカと行き場をなくしたキューブが、その場に漂っていた。

 

 2Bに視線が移される。

 アダムはそれ以上動こうとはしない。

 語るべきことは全て終わったということだろうか。

 

「君はどのような選択をする? 君は、己の選択の先に何を見ているんだ?」

 

 ネットワークに接続されているアダムは、常に客観的で合理的で、しかし掌握したがゆえに主観でしかない意見に悩まされていた。故に二択から選び取ったアンドロイドが、どのような行動に出るのか。その先に何があるのか、その未知を観測しようとしたのかもしれない。

 イデア9942に言われた進化。優れていると言われた朽ちぬ体。

 

「私は……」

 

 刃の先が下ろされ、2Bの口が開く。

 ゴーグル越しに交わした視線。その続きは―――

 






ここで、切る。
だって7000字超えそうだもの。
そしてこういう問いかけフェイズ好きなのに、いざ自分の中のキャラクターが言うと私の矛盾だらけの思考が発露する。なんとか形になってる気はするからこのまま投稿します。

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