イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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9/22 二話目の投稿です

なんかあれだ
もう何書いてるのかわからなくなってきた
妄想が爆発してる怖い

11/04 22Bと64Bを正しい方に修正


文書20.document

「…此方のほうが、少しばかり近かッたか」

「イデア9942…腕が」

「取り替えるまでもない、別の指を差し込めばいいだけだ」

 

 強力なパルスを受けきった直後、イデア9942の右手は動作不良を起こしていた。一度だけスパークを起こし、指の回路が焼ききれたのか力が入らず、重力に従ってだらりと垂れ下がっている。

 

「イデア9942さん! 11B!」

「9Sくん」

 

 直後に、飛行ユニットを乗り回す9Sがこちらに到着する。

 彼の視線はちらりとミサイルの方に向けられる。

 

「大丈夫だ、傷一つ無い」

「っ! ありがとうございます。それから、さっきはありがとう、11B」

「司令部に何か言われても、もう知らないから」

 

 9Sが頷き、ミサイルに手をかざす。

 

「ミサイルコントロール起動、発射準備」

「ミサイルコントロール開始。確認:発射可能状態」

「お借りします!!」

 

 即座に起動したミサイルが、爆風を撒き散らしながら飛んでいく。

 同時に、姿勢制御のために9Sとイデア9942が回線でつながれ、リソースの一部が9Sに移譲される。

 

「くっ!」

「むぅ……」

 

 爆風を浴びながら、イデア9942たちが呻く。飛行ユニットごと軌道修正の補助を行う9Sの姿が見えたのは、最初の一瞬だ。それから10秒もしないうちに最大速度に到達したミサイルが、超巨大機械生命体に接触。

 

 9Sとの相互演算回線が切れる音がした。

 

「……ここまでか」

 

 爆発のあまり、巻き上げられた潮水が霧状になって地上の二人に降りかかる。

 その深い霧が晴れる頃、二人の姿はなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「イデア9942……どうなっちゃうんだろうね」

 

 工房に戻ってきた二人は、しばらく工房に隠蔽用の遮断工作を施した。これならブラックボックス信号が検知されることもないし、工房に置いた機器の発する電波が拾われることもない。惜しむべきは外の情報も遮断されるため、最新の情報が傍受できなくなるという点だが、基本的に情報収集はイデア9942が外に単身出向けばいいだけだ。

 

「今はいい。しばらく眠れ、11B」

 

 イデア9942は、なんだろうか。帰ってきてからというもの、11Bをじっくりと寝かしつけるように何度もその言葉を繰り返している。質問には答えず、ただ何度も。

 

「言おうかと迷ってたけど、やっぱり言うね」

「なんだ」

「隠し事か、何か変なことしようとしてるね?」

「お見通しか、そうだな」

「思ったよりも分かりやすいんだよ、イデア9942の態度」

 

 それは長く暮らす彼女だからこそなのだが、どちらにせよイデア9942が11Bの行動を把握しているように、11Bもイデア9942の癖なんかを掴んでいる。

 此処のところ、そうして言い負かされることが何度もある。敵わんな、と誤魔化すようにイデア9942は帽子をかぶり直した。

 

「でも、ワタシはあなたを信じてるから。だから眠るね、無事に戻ってきて」

「あァ。メンテナンスもやっておくとしよう。ゆっくりと、眠れ」

「うん」

 

 スリープモードに移行した11Bは、そのまま動かない人形のようにベッドに横たわった。11Bの簡易メンテナンスを即行で終えるが、結果は全くの無傷。あの超巨大機械生命体の散り際に放たれたEMP攻撃も、11Bの強化されたボディと電磁防壁には影響を与えなかったということだ。

 11Bへの、更なる強化計画を練りながら、自動化された作業器具に11Bの全部品交換メンテナンスを任せたイデア9942は、工房を少し出たビル街に足を伸ばす。そこで機械生命体たちの反応がないことを確認すると、目的の人物に通信を開いた。

 

「パスカル」

『イデア9942さん…!? 貴方も作戦に参加していたと聞いて、ああ、でも無事でよかった。今まで何度か掛けたんですけど繋がらなくて』

「すまないな、連れが少し危なくなッたから、工房が見つからないよう対策を強化したんだ。しばらく、工房にこもッている時は通信できないと思うが、心配しないでくれ」

『そういうことでしたか…ところで、何の御用でしょう? このタイミングで掛けてくるという事は、何か協力してほしいことでも?』

 

 パスカルの言葉に、イデア9942はキョトンと立ち尽くす。

 

「此処のところ、何かと行動が予測されるな。まァいい」

 

 気を取り直し、イデア9942がパスカルに告げる。

 

「少しばかり工房に来て欲しい」

『…少し電波が不安定な今、村を空けるのは危険なのですが……なんて、大丈夫ですよ』

「?」

 

 パスカルの村に対する情熱を考えると、冗談めかして言うには似つかわしくない内容なはずだった。イデア9942自身もダメ元で頼み込んだのだが、パスカルが「大丈夫」と告げるその理由を、直後に思い知ることになる。

 

『……22Bと64Bが世話になったな、イデア9942』

 

 ウィンドウに表示されたのは、短髪とガチガチの装甲に身を固めたヨルハ部隊。

 その背中から幾つもの武器が見え隠れしている。芯の篭った声で、イデア9942の名前を言った彼女が何者なのか、イデア9942は浮かんできた可能性をそのまま口にする。

 

「君は、8Bか」

 

 正解だ、と微笑を浮かべて彼女は続けた。

 

『名前すら聞いていないのに言い当ててくる。パスカルから聞いたとおりだ』

『よお、癪だが、あんたの言ったとおりにしたら、なんとか逃げ延びれたぜ。おかげでのびのびとこの村で過ごさせてもらってる』

「64B……」

 

 因果応報、とはこのことだろうか。良いことも悪いことも、成した分だけ、その当人に戻ってくる。必ずその限りとは限らないが、案外世の中は法則に縛られているようで、こんなこともよく起こる。

 イデア9942のなかに、「よかった」という言葉が浮かんできた。それが助けたことに対してなのか、パスカルを此方に呼べるからなのか。そこまでは分からないが。

 

『22Bさんは偵察中なのですが、あなたに感謝をと言っていました』

 

 もう一人、姿の見えない赤毛が特徴的な元ヨルハ、22Bに関しての疑問はパスカルが答えてくれた。理由に納得していると、またウィンドウが8Bに切り替わり、彼女は敵意の無い瞳で話してくれる。

 

『今はこの村を拠点にし、穏やかに暮らしているよ。機会があればまた会おう。パスカルは既にそちらに向かっている。あと数分もすればたどり着くだろう』

「わかッた、8B。ああパスカル、入り口に関しては直接データを転送しておく。中で待っている」

『ええ、あなたと11Bさんの作った応接室、楽しみにさせて頂きますよ』

 

 

 

 

 

 

「よく来たな、パスカル。そこに座ってくれ」

「わぁ、いいお部屋ですねえ。それでは失礼して」

 

 機械生命体同士が椅子に座るという光景は、中々にシュールなものだった。

 だが二人にとってそんなことはどうでもいい。しきりに感心し、特に本棚の書籍に興味を移すパスカルを窘めるよう、コホンと咳払いの音声を流したイデア9942が話し始める。

 

「実は、機械生命体のネットワークに侵入しようと思ッてな」

「……イデア9942さん、正気ですか!?」

 

 一瞬アクションが遅れたが、イデア9942の言っている事を理解したパスカルは、その内容にひどく動揺を見せた。

 

「その間無防備になる。だから、ボディと工房をパスカルに見ていて欲しいんだ。11Bには絶対反対されるだろうから、スリープモードに入ッてもらッたからな」

「あなたという人は……本当に、そこまでして何を成し遂げようとしているんですか?」

「それは、言えない。すまないな」

「イデア9942さん」

 

 立ち上がり、パスカルは彼のマフラーを掴み上げた。

 人間と違って、感情が表情にできない機械生命体。

 だが、確実にパスカルは「怒り」に支配されていると分かった。

 

「パスカル…?」

「すみません、最初に謝ッておきます」

 

 鈍い音が応接室に響く。

 イデア9942の被っていた帽子が飛び、地面にはらりと落ちる。

 

 握った拳を、イデア9942に振り抜いたパスカルは、そのままソファにイデア9942を突き飛ばした。呆然としたように見つめるイデア9942を見つめ、パスカルは普段考えられないような荒々しい口調で言い放つ。

 

「平和主義だとか、それはこの際無視させていただきます。イデア9942さん、あなたと出会ってからというもの、私はあなたに様々な知識を教わりました。その分、他の個体よりも感情なんかはより()()()()と言えるでしょう」

 

 だからこそ、と言葉を区切るパスカル。

 

「貴方が何を目的にしているにしても、機械生命体のネットワークに干渉するというのがどれだけ無謀なことか分かっていますか!? いいえ、あなたの本質はきっと()()そのもの。きっと分かっては居ないのでしょう。だって、あなた自身はネットワークに接続されていたという記憶を持ち合わせてはいないのですから」

 

 看過された事に、イデア9942が肩を震わせる。

 そのまま出てきた言葉は、彼の本心をまるごと表現していた。

 

「何故、それを」

「わかります。あなたは機械生命体が共通して認識している事を、どうにも知らなさ過ぎるのです。私たちの演算機能が桶一杯だとして、仮に貴方がダムの貯水だとしても、相手は海そのもの! 招かれない限り、自我が飽和し溶け込んでいくだけです!」

「井の中の蛙大海を知らず。そういうことか」

 

 イデア9942の言葉に、パスカルは無言で頷いた。

 

「…ここまで言われても、意志を曲げるつもりはないようですね」

「ああ」

「頑なすぎますよ、本当に。貴方という人は……」

 

 先程までの剣幕が嘘のように、パスカルは脱力し、ソファに座り込んだ。

 隣に並びながら、指を組んで忙しなく顔を向けるパスカル。

 

「せっかくの説教も、意味をなしませんか。村の子供達は素直に聞き入れてくれるんですけどね」

「年を食うほど頑固になる。それも人間の一面としてあるものだ」

「製造されて数年も経っていないのに、本当に口が達者なんですから……もう、分かりました。これから貴方が何をしようとも、止められないということが。ですが、約束していただけませんか?」

 

 小指を差し出し、パスカルは打って変わって温和な口調で告げた。

 

「何をしようとも、必ず無事で戻ってきてください」

「パスカル」

 

 小指を組み交わす。指切りの約束、いつかの11Bとパスカルのときのように。

 イデア9942は小指を見つめると、今日はじめてパスカルと視線を交わした。

 

 

「工房を任せる」

「おまかせください……私は、中々強いんですよ」

 

 それからイデア9942とパスカルは、工房の作業台に移動していた。

 幾つものコードが、工房の機材とイデア9942の体を接続していく。これらは、彼の自我が飽和し、消えてしまわないようにするため、そして海の中で彼という(自我)を覆うための容器の役割を果たす機材だった。

 

「前々から、これも予定に入れていたんですねえ」

 

 機材を見渡してパスカルが呟く。

 

「普段は周囲のマップを見るためのモニターとして使ッているがな、パスカル」

「どういたしましたか?」

「ここで、軛を打ち込んでおかないとだめなんだ。9Sの意識が飛んでいる、今」

 

 パスカルが何か言おうとしている。

 その姿を最後に焼き付けながら、イデア9942の意識は潜行していった。

 

 

 




パスカルさんマジメインヒロイン
抱い……どうやって抱くんだろ

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