イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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狙ったわけじゃないけどキリいいとこまで持っていけました。

今回はおおよそ原作沿い。
ただ、彼らが居ることで台詞が多少変化してるよ!
コンプ要素だね!(違う

ワンコの吠える声ってよく通るよねっていうアレ。


文書19.document

 イデア9942の瞳が、力強く翠に輝く。バットのように振りかぶられた一撃は大型の機械生命体をよろめかせる。バランスを崩したところで蹴り飛ばし、体勢を崩した敵のコアを、直上から降ってきた11Bが剣を突き立て破壊する。

 イデア9942が道を作り、11Bがそこを全力で駆け抜けていく。彼らの戦闘スタイルは、言ってみればそうした連携が主体になってきていた。

 

 そもそも、イデア9942が斧を振るうという事自体、珍しい光景になってきた。振るわれる鉄塊は、数多の小型機械生命体を蹴散らしていく。動体反応のあるなしで見境なく襲いかかる同族。ネットワークから切断されている以上、イデア9942やパスカルたちは完全に敵とみなされている。

 

「11B」

「はいはいっ!」

 

 残るは数体。右手で扇を作るように空を撫でた彼が通り抜けた瞬間、力が抜けたように倒れ込む機械生命体を11Bが一体一体串刺しにしていく。一瞬の連続ハッキングで、脚部への指令を出す回路を焼き切ったのだ。

 

 11Bが最後の一体に剣を突き立て、血糊を払うように剣を振る。突き刺さっていた機械生命体が、空中から強襲しようとした敵にぶつかり爆散する。

 

「最近、なんだろう。増えてきてる?」

「アンドロイド軍の空母が補給のため、この水没都市に戻ッてくるらしい。辺りを見てみろ」

 

 彼の言葉に従い、周囲を見る。

 廃墟都市から地続きの湾岸部とは別の足場には、アンドロイド達が駐屯している基地があった。忙しなく、巨大なミサイルの発射装置を点検したり、巨大な電磁砲の整備をしていたりしている。

 

 そして、その周囲には常に戦闘音と爆発音が響いている。アンドロイドが集まる以上、機械生命体も集まるというのも当たり前のことだ。激しい戦闘が行われているが、確実に防衛側のほうが押している。

 このまま数時間もあれば、周囲に寄ってきた機械生命体は排除されるだろう、とあたりを付けた。イデア9942は、アネモネへの通信を開いた。

 

「周囲の機械生命体を排除した。最後の資材搬入なら今が好機だ」

 

 ホログラムウィンドウのアネモネは申し訳なさそうに眉を下げる。

 

『すまないな、こっちも人員が足りず手一杯だからって、手伝ってもらって』

「好きにやらせてもらッている。それに11Bの良い試験運転にもなッた」

『そういえば、私の話を聞いてそちらに2Bたちも向かっている』

「2Bたちか……了解、通信切るぞ」

 

 アネモネとの通信を切った、イデア9942が11Bの方に視線を向ける。彼女は同じヨルハに会うのは、例え偽装の共犯者であったとしても不満げな表情をしていた。

 

「ワタシたちが倒し終わったから、あいつらの出番は無いよ」

 

 そっぽを向く11B。

 最近の甘えたがりといい、幼児退行していないかとイデア9942が呟いた。

 

「何をそこまで否定しているんだか」

「もう、分かってて茶化してくるイデア9942なんてキライ」

「分かッた分かッた、すまんな」

 

 抱き寄せ、ポンポンと背中を叩くイデア9942。

 そんな二人が立つ場所に、二人分の足音が近づいてくる。

 

「あれは……」

「推測:イデア9942と11B」

「言わなくても分かってるよ」

 

 瓦礫の向こうから顔を出したのは、彼らも接点のある2Bと9Sのコンビだった。こうして直接会うのも何度目だろうか。

 

「イデア9942……なぜ此処に?」

「目的があッてな。アネモネにも、湾岸の大型兵器群を守る補佐をするよう頼まれた」

「お久しぶりです。11Bも、なんというか……」

「……話しかけてこないでよ」

「ハハハ、いつもどおりですね…」

 

 11Bはヨルハそのものが苦手になっているのだろうか。微妙な表情をして「シッシッ」と手を払っている。今回の作戦の協力者に対して失礼な態度は、到底イデア9942に見過ごせるものではなかった。

 

「馬鹿者」

「あうっ」

 

 デコピン一発。鋼鉄の指と、鉄の角。二重の要素が鈍痛となって11Bを襲う。

 

「こうして戦闘、というものに直接協力するのは初めてかもしれんな。戦闘自体は苦手だが、君たちの遠隔演算補助くらいならできる。特に9Sくん、もしそういう場面があれば、存分に此方のリソースを使ってもらって構わん」

「イデア9942さんの演算補助、ですか……敵対する相手がかわいそうですね……」

「機械生命体に情け容赦のない君がそれを言うか。ん?」

 

 言いながら、兵器のほうに顔を向けてみれば、何やら慌てた様子のアンドロイドたちが武器を手に持って乗り物に乗り込んでいる様子が見える。

 

「…なにかあったの?」

「僕らの方にも通信が…ちょっと待って下さい」

 

 聞けば、バンカーのほうからアンドロイド軍の空母「ブルーリッジⅡ」が交戦中。その護衛に当たるよう指令が下ったようである。話を聞いた瞬間、2Bたちの表情が引き締められたものになる。

 

「すみません、地上はおまかせしても良いでしょうか?」

 

 9Sがそう言った瞬間、ヨルハ部隊の誇る高機動飛行ユニット「Ho229」が自動運転で彼らの近くに降り立った。

 

「ああ、9S。此方との相互演算用回線とパスコードを渡しておく。いざという時は使え……あまり、必要ないかもしれないが」

「…? わかりました。頼りにさせてもらいますよ」

 

 最後の方は呟くように言ったせいで、機械生命体特有の、声のノイズにかき消され9Sの耳には届かなかったようだ。

 

「気をつけろよ。地上からできる支援はいくらでも送る」

「イデア9942も気をつけて」

 

 2Bが呟き、飛行ユニットに乗り込んで行く。

 隊長機として白く変わった2Bのユニットに、黒いユニットの9Sが追従する。あっという間にバーニアを噴かせて空の彼方に消えていったヨルハ部隊は、黒い点ですら見えない位置まで飛んでいってしまった。

 

『こちら空母、ブルーリッジⅡ! この通信が届くアンドロイド部隊に支援要請! 現在我々は敵軍の攻撃を受けている。護衛艦は大破し行動不能になった。手持ちの支援機で応戦しているが、押されている状態だ。繰り返す、こちらブルーリッジⅡ!』

 

 傍受したアンドロイド軍の通信が、必死に訴えかけてきている。

 

「……あそこだ」

「すごい量の機械生命体……まるで黒い雲みたいな」

 

 ブルーリッジⅡの全長はかなり巨大だ。

 だが、それらを囲う小さな粒の全体像は、更にソレを上回る。超大量の飛行型機械生命体。一体一体は大したことないが、当たってしまえば爆発を起こす弾丸を放つ存在が百、千、万と増えたら? その考えることすら恐ろしい事態が、目の前で引き起こされている。

 

「11B、演算同期だ。そこの小型ミサイルランチャーの制御を頼む」

「了解。久しぶりの共同作業だね」

「しくじって2Bたちを狙うなよ」

「…………うん」

「この期に及んでふざけるのはよせと何度言えば…」

 

 愚痴愚痴と説教を垂れながらも、彼の中の演算は膨大なデータを捌いていく。

 ミサイルランチャーの照準、ロックオン、そして弾着予測地点。引き金を引き、弾頭の装填と発射を物理的に確認する11B。雑談以降は無言な二人だが、恐るべき勢いで発射されていくミサイルの煙は二人を覆うほどに厚くなっていく。

 

「……ミサイル残弾なし」

「予備弾頭も無いよ。もう、できることはないね」

「そうだな……」

 

 イデア9942は思考する。

 この意味もない支援を行った後、起きるであろう悲劇を。

 

 所詮彼も、等身大の範囲でしか動けないのだ。

 目の前で失われる命のきらめきを、歯がゆい思いで見送ることしか出来ない。

 持ち得ない情報を全て集めるつもりだったが、アンドロイド軍とて抜け穴だらけな訳がない。ブルーリッジⅡへの匿名メッセージを送る事も考えたが、信じるわけがない。

 

「…すまない」

 

 つぶやきと同時、巨大機械生命体エンゲルスを凌ぐ、恐るべき大きさの機械生命体が出現する。

 

 その口に、ブルーリッジⅡを咥え、噛み潰しながら。

 

 悲鳴も、爆発音も遠すぎて聞こえない。

 だがイデア9942の視覚センサーに表示された、数百以上のアンドロイドたちの反応が、あの一瞬で爆風の中に消えていった。一斉に視界を埋め尽くす「android_LOST」の単語。

 握った拳が、金属の擦れ合う音を立てている。

 

「これも、知ってたんだね」

 

 11Bの問いに、彼は是と返した。

 

「ああ、だが止められなかった」

「まだ何かある?」

「なに?」

 

 11Bの質問の意図がわからず、思わず聞き返すイデア9942。

 

「だから、まだ何かを止められるような事はあるかって聞いてるの」

「……この後、北部12C防衛本部から派遣された部隊が援護に来る。だが、所詮は足止めにもならない状態だ。直後、長距離・全方位に発信されるEMP攻撃で……周囲の全アンドロイドは死ぬ。9Sのようなスキャナーモデルでもない限り、回路を焼き切られておしまいだろう」

 

 そこもアンドロイドの弱点だった。

 思考する脳が電子媒体である限り、EMPなどの照射には極端に弱い。それを知ってか知らずか、眼前からでも巨大だと分かる怪獣から放たれるものがどれほどのものか。まさしく襲い来る巨大な死神そのものであると言えよう。

 

「既に始まってる…」

 

 見れば、別の沿岸部から2Bたちが超電磁砲を口の中に直接攻撃しているようだ。

 11Bは、頭のなかで何かを考えているらしい。視線が行ったり来たり、忙しなく動く。

 

 一発目、硬い装甲に弾かれる。

 

 11Bの瞳の焦点が定まった。

 彼女はイデア9942の肩に掴みかかり、叫ぶ。

 

「イデア9942、今このあたりを飛んでいるのはヨルハ部隊だけ?」

「あ、あァ。……そうらしい。現時点で高機動飛行ユニットを持ッているのは、ヨルハのみらしい」

「ハッキングおねがい! 全ヨルハ部隊へのチャンネルを開いて!」

「…分かッた」

 

 二発目、開けた口に直接弾丸が直撃し、内部からパーツと爆炎を吹き出し「怪獣」が体勢をふらつかせる。びくりと、怪獣が体を震わせる。痛みに怯える子供のように。

 

 イデア9942が、一瞬で周辺のヨルハ部隊への専用チャンネルを強制的に開く。回線の接続先は、11B。彼女のブラックボックス信号を元に、ヨルハ同士の繋がりが蘇った。

 

「全ヨルハ部隊に緊急通信!」

 

 三発目、「怪獣」が怒りに瞳を赤く染め上げる。巨体はゆっくりとした歩みのつもりのようだが、事実、あまりの巨大さのせいで遅く見えるだけで陸に向かって恐ろしい速度で突き進んでくる。

 

「敵巨大兵器から膨大なEMP攻撃の予兆を確認! 総員、退避しろ!!!」

 

 普段の11Bからは信じられないほど、芯のこもった凛とした声だった。

 イデア9942は、彼女がそう告げた瞬間にHo229に搭乗したヨルハ部隊たちがブーストを噴かせて全力で予測攻撃範囲内から逃げていく姿を確認していた。

 

 四発目が着弾。超巨大な敵はついに「立ち上がった」。

 顔だけですら空母の何倍もの大きさがあったというのに、その全身からEMPのパルスを纏わりつかせ、全長1000メートルをも超える姿を出現させようとしている。

 

 

「11B、君は」

 

 返す言葉の代わりに、彼女が向けたのは満面の笑み。

 イデア9942は身体全体を覆うパルス遮断障壁を展開させる。

 

 直後、彼の右手が軋みを上げるほどのEMPが照射される。

 

 撃墜されたヨルハ部隊は―――驚くほどに少なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みつけた」

 





今回はおおよそ原作沿い。
オリジナルの大きいイベントも特にはありません。


そしてイデア9942がチートであっても、体一つの限界を知りましょうの回。

利用できるものはなんでも利用しないとご都合主義の救済にはならない。
それで物語を破壊するってことでしょう。タブンネ。

あとひとつだけ言わせてください。
感想欄で11Bを犬犬言われてるせいで、私達の思考にも影響が出ました。
11Bの行動全部犬属性追加しそうになってしまうんですけどぉ!?


次回はいつもの音声記録です。(超短いやつ

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