イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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もうこいつらずっとイチャイチャさせておけば良い気がしてきました。
タイトル変わっちゃうけどね!!

あとこれだけは言わせてください
これが私の精一杯の機械ダヨ表現です 文才なさすぎワロエナイ

※感想欄の指摘があったので夜の言及を消しました
昼夜の概念なくなってたのすっかり忘れてた


文書16.document

 この世には、理解できないものばかりだと知った。

 本を閉じる。この本も、結局何のために書かれたのか全くもって分からないものだった。実在しない人物たちが、実在しない場所で、実在しない絵空事を追い続ける姿を、絵と幾つかの文章だけで構成した本だった。

 

 分からない。これに何の意味があるのだろうか。

 だから人類は面白い。こんな意味もないような事に、おそらく何らかの意味を持たせて作り上げたのだ。

 

「口惜しい。それさえ分かれば、私も」

「どうしたんだ? にぃちゃん」

 

 こちらを見上げてくる弟。

 こいつは、私が理解しようとしていることに興味を示さない。全ての興味関心は、私にだけ向けられている。私と同じ姿形で生まれたなどと、少し信じられないほど、思考の形が違う。だが……向けられる好意的な視線は、心地が良い。

 

 イヴと軽く会話を交わしながら、この魅力的な本や媒体から情報を引き出していく。心のなかに、なんとも言えない何かが入り込んでくる。嗚呼、それでも理解できない。この神秘的なまでに素晴らしい、人間たちが残した多種多様に過ぎる生産物。数に限りがあるというのに、私達が動くうちに解明できるのだろうか。

 

「読み終わったよ、にぃちゃん!」

「いい子だ。そうだな」

 

 手元を見ると、ちょうどこの本も第一章が終わったところだった。

 続きを読みたい衝動が吹き出す。理解できないと言いつつも、私の感情をこれほどまでに引き出す本。やはり、このような物を生み出す人類は素晴らしい。死生観、なんと言う抽象的で、興味深い命題だろうか。

 

 だが、イヴ。君との約束があったな。

 

「何をして遊ぼうか」

 

 問いかければ、イヴは破顔した。

 私よりもずっと、喜怒哀楽の感情が激しい。私と同じ顔で、私と同じ生まれで、もう一人の全く違う自分を見つけられそうな。

 

「向こうに静かな丘を見つけたんだ。昼寝しにいこうよ」

「……おまえは」

 

 そうだな、私と過ごす。それがお前の。

 やはり、違うのか。

 

「いいだろう。イヴが見つけた場所だ、楽しみだな」

 

 

 

 

 

 

 メンテナンスは、アンドロイドも機械生命体も、定期的に行う必要がある。自我データが分離・崩壊していないかのチェック。そして燃料や濾過フィルターといった消耗品の取替。部品や人工皮膚のような劣化する品目の汚れ落とし。

 ヨルハが破壊されてしまった場合、バンカーで復活できれば一回分のメンテナンスはしなくても良いのだが、戦闘を主にするヨルハのアンドロイドは特にこういったメンテナンスが欠かせない。

 

 では、脱走した者やソレ以外のアンドロイドはどうしているのか? 当然ながら、正規品は手に入らない。よって、代替品を自分で製造するか、他人を頼るか。

 

 人を模しても、結局は機械の体だということを実感させられる。それはほとんどのアンドロイドが抱いたことの在る感情だろう。しかし、人類を模倣する事が無意識の望みであるアンドロイドの中でも変わり者というのは居るものだ。

 

「開けるぞ、11B」

「うん」

 

 服と人工皮膚を取ってみれば、存外にアンドロイドの体には幾つもの亀裂が見える。そこの亀裂に細かな作業用のアームを差し込んだイデア9942が、11Bの背中を文字通りに開いた。

 人体の背中がドアのように開く光景は、中々にショッキングなものだ。だが彼にとって、11Bが来てから何度も見た光景。特殊な感情を抱くこともなく、淡々と、パスカルから受け取った濾過フィルターや、各消耗品のメンテナンス作業を行っていく。

 

 一部の感情的なアンドロイドたちは唾棄するものとして扱うほどの、人間の様式から大きく離れた洗浄方法。人間は生身の肉体の表面を、薬液等とお湯で流してしまえば洗浄は終わる。だが、機械は普通取り替えるはずのない臓器を何度も何度も交換する必要がある。

 

 11Bは、別段何とも思わない思考の持ち主だったが、今となってはこの時間を好きだと言えるようになっていた。何故か? 当然、イデア9942が自分のありとあらゆる場所に触れてくれるからだ。

 中身の全てまで、もうイデア9942が触っていないところはないだろう。ブラックボックス以外、取り替えるべき場所はほとんど彼の手製のパーツなどに置き換わっている。人工筋肉も、冷却装置も、演算拡張装置も、彼が生み出したものだ。

 

「今日は何をいれるの?」

「ただのメンテナンスだ。もう終わッたが」

「なぁんだ」

 

 最後に、イデア9942が11Bの電脳内にハッキングする。侵入(ハッキング)というより、彼女自身拒んだ様子もないのでただの遠隔アクセスなのだが。アンドロイド的には無理やりか同意の上か、と言った違いだろうか。

 

 しかしここで重要なのは、自我データのチェックが済んだことではない。改めて11Bの思いの丈を、直接データ上で見せつけられるということである。一度作られてしまった涙腺は、あのシーンを思い出す度イデア9942の目元を涙で濡らす。

 

「涙脆いな。全く、この身はこんな安いやつだッたか」

 

 ひとりごちて、彼はアクセスを切った。

 意識が現実に戻ると、既に彼女は剥がされていた胸元の人工皮膚を貼り直し、その上に服を纏おうとしているところだった。

 

「動作に問題なし、どうだった?」

「相変わらず、運動機能の演算時に余分な数値を足す癖があッた。今度はそのボディに合うように抑制プログラムを付けておいたから、後は自分で慣れておけ。戦う度に関節や駆動系を壊されては堪らん」

 

 素材にも限りが在るんだ、と彼が愚痴る。

 

「そうだ、11B」

 

 そこで思い出したのか、作業の手を止めずにデータチップを11Bに手渡した。

 

「ここから少し行ッた砂漠に在るんだがな。そこで集めておいて欲しいものがある」

「集めてほしいものっていうと、また何か作るのかな」

「それに近いな」

「ふぅん?」

 

 言いながら、彼はリアカーに幾つかの資材や武器、いつもの作業道具を詰め込んでいく。11Bは、手渡されたチップのデータを引き出し、読み込んでいた。

 

「わざわざ物理チップで秘匿かけるような位重要なの? これ」

「失われた技術というか、それに近い。あと、プラグインチップは防御系でいいぞ。今回は余り事を荒立てたくないからな」

「隠密ってことね。分かったよ」

 

 11Bは腰元に刀のホルダーを付けて、そこに戦術刀を差し込んだ。

 

「イデア9942はどこに行くの?」

「また訪ねておきたい人物が居るんだ。まずはアネモネの場所に向かって資材を卸してからだがな」

 

 リアカーに、プラグインチップの入った箱を固定する。持ち手を握った彼は、そのままガラガラとリアカーを引き始めた。11Bも外出の準備が整ったため、電灯を消して自分のスペースに散らかる物を一点に並べる。

 

「シャッター閉めるよ」

「ありがとう」

 

 最後に部屋の入口の鍵を閉め、二人はスロープを登っていった。

 地殻変動で様変わりしてしまった廃墟都市。しかし、変わりない空気を吸って、11Bは朝日を浴びる。背後では偽装のために階段を仕舞い、隠しボタンのある窪みに蓋をしているイデア9942の姿が在る。

 

「今日は別行動かぁ。守るって言ったばっかりなんだけどな」

「君が無駄に決意してからというもの、やることが山積みだ」

「ほんとにイデア9942って律儀だよね、そういうところも好きだけど」

 

 スパンと彼女の後頭部を叩き、イデア9942は無言でレジスタンスキャンプに足を向ける。ガラガラと引き連れられるリアカーの音に混じって、声が聞こえてきた。

 

「無事に戻れよ。いッてらッしャい」

「うん、行ってきます。イデア9942も怪我しないようにね」

 

 こうして素材を探すために、11Bが別行動を取らされるのはそう少なくもない。だから彼の隣が安心できる場所だと考えては居ても、彼の考えを否定しないのが11Bのあり方だった。

 自分の都合で相手を捻じ曲げるようなことはしたくない。イデア9942には、そのままでいて欲しい。私がその隣を歩くのだから、と。恋という感情で狂うことの多いアンドロイドにしては、真っ当な恋する乙女のような思考回路といえるだろう。

 それもこれも、イデア9942が感情を正しく教育してきた賜物である。11Bはイデア9942一色に染まっていると言えるだろう。

 

「さて、とぉっ!?」

 

 入り口にとどまり、イデア9942が手を振りながらビルの影に消えていく姿を見送った11B。自分も与えられた仕事をこなそうと砂漠地帯の方に足を向けたのだが、先程のメンテナンスで言っていた「無駄な数値の抑制」の効果だろうか。思ったよりもずっと軽く、動かしやすい自分の体に驚愕する。

 

「……ただのメンテナンスなんて、嘘だったね」

 

 急ぎ全パーツのアクティビティを確認すると、見慣れない項目が増えている。

 これも愛かな、と前までなら口に出さなかったであろう単語をするりと声にし、運動命令を再演算して一気に駆け抜ける。

 

 彼女の口元には、喜びを隠しきれない笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 砂漠地帯は、多くのアンドロイドにとって天敵といえる存在だ。

 障害物がないことで吹きすさぶ風は、パーツの隙間に挟まりエラーを吐き出す原因、細かい砂を運んでくる。日中は照りつける太陽で排熱が忙しくなるし、動作が重くなるわとアンドロイドの天敵とも言える。

 

「うわぁ、すっごいなぁ」

 

 だが、一点ものの最高級品レベルに改造された11Bは、そんな細かな問題をほとんどカットできるレベルになった。元々ヨルハというだけで十二分に活動領域は広いのだが、更にそこから可能範囲が広がり、稼働時間も増えているといえばどれだけ凄まじいのかが理解できるだろう。

 

 照りつける暑さも物ともせず、彼女は受け取ったチップのマップデータを開いた。

 アンドロイドたる彼女の視界の右下には、衛星から届けられた、ここの立体マップが表示されている。緑色と白色で区分けされたその一部には、赤い色で表記されたエリア。ここから少し遠いが、彼女のスペックなら簡単にたどり着けるであろう距離だった。

 

「まずはオアシスを見つけて水分補給、か」

 

 渡されたチップには、口頭で説明していなかった文章が載っている。

 だが、これは。

 

「イデア9942……時々ワタシたちが機械ってこと、忘れてるよね」

 

 生身の人間である時の注意書きである。例え演算機能が化け物クラスでも、思考に関しては結局彼は元人間のものでしか無いということだろう。こうして、時折人間だったころの名残を発揮するのも珍しいことではない。

 その度に、11Bには知識が補填され、成長してきた。今回のメモも、アンドロイドの構造的には何の意味も持たないが、人間を模倣したその精神については意味がある。

 

 イデア9942も、11Bも、人間のような精神と、機械の体を持つという点では変わらない。だから、彼の精神を癒やすための提案は、常に11Bの安心できる手段や時間を増やしてきた。

 

 偶然にも需要が結びあった者同士、出会い、共に過ごす選択をしたのも運命だったのかもしれない。

 最近増えてきた、抽象的な表現を好んで使いながらも、11Bは砂漠のパイプを目印にしながら、マップと見比べ目的地を目指すのであった。

 




書いてて砂糖が口から生成される。
メープルシロップが耳から垂れ落ちる。
頭からサトウキビ生えるわ。

今日一回目の更新です(二回目があるとは言ってない

あと、感想欄で時々自分が考えてた展開言い当てられて論理ウィルス生えますわ。
なので感想欄と違うようにしないと、ってなって結果、訳わからん展開になっても許してヒヤシンス(9割方は面倒なんで「知った事かァ」ってそのままキャラに思いのままに行動させますが)

言い当てられるともうお手上げ侍ですわ

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