イデア9942 彼は如何にして命を語るか 作:M002
オンゲしたいいい
でも感想欄で結構好きなビッグな作品書いてる人いた
私も書かなきゃ(使命感
断れば、敵対関係になる恐れがある。そして現状、何をどう考えても、敵対は9Sたちにデメリットしかもたらさないというのは少し考えれば分かることだ。
「9S、彼の提案を受ける以外、もう選択はない」
此方が折れるしか無い。見逃すしか無い。
けれども、それが正しいのだと、イデア9942と相対する事で浮き上がる謎の感情が9Sたちを肯定してくる。自分たちの意志を無視するかのような謎の衝動。9Sはもう、正体に薄々感づいてはいる。確信が持てないだけだ。
「わかりました。このブラックボックスの複製品は、本物と扱って提出します」
「ありがとう」
頷き、広げられたイデア9942の手から、部品を受け取る9S。
ポッドの格納領域に大事に大事に保管されたそれを見届けて、彼は顔に手を当てる。
「此方があえて作ッた状況だが、悪くはないだろう?」
悪戯が成功した子供みたいな態度で、イデア9942が話しかけてきた。その隣では11Bがホッとしたように胸に手を当てている。彼の言葉に対し、2Bはそっぽを向き、9Sは肩を落とす事でしか答えを返す事しかできなかった。
心臓に悪い、とはまさにこの状況を言うのだろう。
「いつの日か、あなたがアンドロイドを支配する日が来ないことを祈ります。僕たちはきっと、逆らえないだろうから」
半分本気で、半分冗談のこもった言葉を投げかける。
それは懇願でもあり、9S自身が出した回答の答え合わせでもあった。
言わんとすることに気づき、イデア9942は「フム」と声を漏らして帽子の角度を直す。
「……まァ、気付くだろうなとは思ッていた。なんせ9S、キミがキミである限り気づかない道理もない」
「どこまで知っているのか……非常に、ひっじょ~に気になりますが!」
9Sはイデア9942に敬礼をしてみせる。彼は敬礼を受け、「正解だ」と呟いた。
つまりは、そういうことだ。2Bも、そのやり取りで9Sが辿り着いた結論に思い至ったのだろう。口を固く結び、そうか、と一言だけつぶやいていた。
「僕もう、くたくただよ。2B」
「甘えない。もう少しだから、シャンとする」
「は~い」
この謎の機械生命体に会う度、理解の範疇を超えた出来事が襲い掛かってくる。ガリガリと精神を削られた9Sは癒やしを求めて2Bに甘えたがるが、彼女はそれをいつものように一蹴する。
イデア9942の前でこのようなやり取りをする。つまり、もう警戒するだけ色んな意味で無駄なのだと二人は悟ったのだろう。そのうち無駄な悟りが積み重なって解脱してしまわなければいいのだが。
「2B、少しA2のことについて調べてみてもいいかな?」
「……構わない、今のところ、私達の目的は無い。次の指令が下るまで9Sに付き合うよ」
「イデア9942…は知らないにしても、もしかしたらパスカルなら知ってるかもしれない。ひとまずそこを目指そう」
2Bは頷き、イデア9942に向き直った。
「それじゃあ、イデア9942。私たちはパスカルの村に向かう」
この件について、一段落がついたと思ったのだろう。
改めて、2Bはイデア9942たちに行き先を告げた。
現時点で幾つものイレギュラーはあったものの、結局2Bと9Sは「ヨルハ」のアンドロイドであるのだ。身内のヨルハA2が危険な個体として指定されているなら、一体そうなるまでどんなことがあったのか。何のために戦っているのか、理由を暴きたいと9Sは考えていた。
司令部からA2の情報に関しては秘匿されている。言外に、詮索はしないようにと言われているが、だからこそ9Sの好奇心に火を付けたということだ。まずはパスカルの村、そこでも情報が得られないなら……当てはある。今は9Sの好きにさせてあげよう、というのが現時点の2Bの本音ではあるのだが。
「そうか。まァ、頑張るといい」
「さっさと行ってよ」
今まで黙りこくっていた11Bも、やっと居なくなるのかと冷めた目で二人を見つめる。曲がりなりにも仲間だったはずなのに、そんなことを考えながら、9Sは苦笑いを浮かべてその場を離れる。
必然的に、その場にはイデア9942と11Bだけが残る。
粗方破壊されてしまった森の国の機械生命体。閑散とし、駆動音すらしなくなった森の城。どこまでも朽ち果てていく廃墟と成り果てた城を見上げる11B。何気なく視線を隣に向けると、同じようにイデア9942が城を見上げていた。
「……ここから、か」
「いつもの予言?」
「11B、帰りながら話そう」
「あ、待ってよ」
イデア9942が、廃墟都市に向かって歩き始める。
ぴったり隣についた11Bも、雰囲気の変わったイデア9942が気になるようだった。
「11B、今は幸せか?」
「どうしたの急に。……うん、貴方の隣に居られて、ワタシは幸せだよ」
「これまで色々とあッたな。キミを拾ッてから、ただの作業中も楽しい思い出にさせてもらッた」
「ちょっと……」
11Bが止めるような声色で懇願する。
イデア9942は止まらない。橋を超え、川を超え、丘を登る。
「もし、それら全てが崩れ落ちたら―――」
「やめてよっ!!!」
11Bは、イデア9942の腕をつかむ。
ピタリ、と歩みが止まった。
「どうしたのイデア9942」
「…抗うだけの力は共に培ッたつもりだ」
「抗う……力?」
「謎が、積み重なってきた。これから崩壊が始まる。あらゆる意味で大きなものが動き始める。巨大なものほど、動く度に壊すものも多くなる。……キミが、木ッ端のように崩れる姿を見たくはない」
一体、この言葉がどう繋がっているのか。
たとえ戦い一辺倒の11Bだとしても、薄々気が付き始めていた。
イデア9942は、それほどまでに。
「キミを失いたくはない。あの時語ッたのは紛れもない本心だ」
だから、と深く帽子を被って目を隠す。
「この身は、それでも進むことをやめられない。付いて来るとしたら、今度こそ死が迫ッてくるかも知れない。11B、君が――」
「ねえイデア9942。最初に言ってたよね。話せる相手がいるのが大事で、思い通りにならない他者が居ることが、とても良いことだって」
「11B、それは」
とても珍しい、彼の困惑したような声だった。
制止するように伸ばされた手の先、自分のよりも圧倒的に太い指を両手で掴んで、11Bはイデア9942を見上げる。帽子で隠したつもりが、11Bのまっすぐな目が見つめ合う。ビクリと、彼の指が震えた。
「ワタシはさ、もう貴方の隣以外、歩くつもりはないんだ。貴方がなんて言おうが関係ない。ワタシはあなたの相棒11Bでありたいんだ」
彼が何かを言おうとする。その前に、11Bは畳み掛ける。
「ワタシが戦う理由はイデア9942なんだ。ワタシが安心できる場所はイデア9942だけなんだ。だから、なんて言われても……もう、離れるつもりはないからね」
「やれやれ……どうやら、本当に」
イデア9942は、帽子を外して胸元に添える。
影もなく、改めて交わした11Bの視線は、記憶のものよりもずっと力強い。
「強くなッたんだなァ、11B」
カメラアイの下部から、透明な塩分混じりの液体が流れ始める。
冷たい装甲板を伝う、熱いもの。
「あァ、なんだろうか。この感情ハ、懐かシい……まだ……
機械生命体の体は、非常に単純に見えて、実は恐ろしく多機能だ。
彼は、システム面や駆動系を弄ってはいたが、人類程度の知識ではそれが限界。未知の技術で作られた機械生命体のボディを直接いじることは、流石の彼でも不可能だった。せいぜいが、上からそういうプログラムを与えることで、分からないままに変形・進化させるだけ。
だから、彼の中で強く訴えかける感情が、無意識の命令を下した。
涙腺、涙、生成・排出。熱を伴う。
信じられないように目元を拭うイデア9942。
彼の涙は、白いマフラーに当たる。
滲んで灰色に濁ったマフラーが、何よりの嘘ではない証。
「絶対に守るからな、11B」
右手の指を握る11Bの手を、左手で優しく包み込んだ。
近寄った11Bは、そのまま彼の腕に全身で抱きついた。
しばらくして指を離した彼女の手は、代わりにイデア9942の顔に伸ばされる。
「ね、帽子貸して」
「構わない」
愛おしそうに彼の装甲板を撫でた彼女は、受け取った帽子をかぶる。
ぶかぶかだね、と笑った11B。彼女はそのまま、跪いた。
「何を――」
したいのかと、聞いた瞬間だった。
不思議そうにしていた彼の手に、突如柔らかくて暖かなものが当てられる。
「あなたと、あなたの守りたいもの全部、絶対に失わせたりしない。ワタシの戦う理由、ここに誓うよ」
被っていた帽子を脱ぎ、胸元にやる姿は、簡素な騎士の誓いのようだった。
イデア9942の手の甲に、キスを落とした11Bはニコリと笑って彼を見上げた。
ささやかな誓い。でもそれは、彼女の全身全霊を込めた気持ちだった。
向けられることのなかった純粋な好意。イデア9942は、のらりくらりとこの世界の命を見届けるために動いたと言いながらも、一線を引いていた。そのため、たとえ普段から彼女に好意を寄せられても、ある程度は一蹴できだろう。
「は、はははははは……ははははっ!!」
だが、今は違う。
彼は涙を流し、11Bに閉じていた心の殻を蹴破られたのだ。
嬉し涙が、止まらない。留める事が出来ない球体の顔を伝い、マフラーがどんどん湿っていく。よろよろと足取りも悪く、踵を木の根に引っ掛けたイデア9942は無様に尻から転んでしまった。
笑いが止まらない。嬉しすぎるからだ。
「初めてみたよ、そんな姿」
「初めて見せたとも、こんな無様」
転んだせいで視線の位置が逆転してしまっている。
勝ち気な表情の11Bに、帽子を手渡されるイデア9942。それを左手で持った瞬間、また手を伸ばされた。その手を取る以外に選択肢はない。当たり前だ。
「よッ、と」
付着したドロを払い除けて彼がいう。
目線は再び、イデア9942のほうが高くなる。
「全く、汚れてしまッた」
「自分で汚したんでしょ」
全くだと、また彼は笑った。
涙はもう出ていない。流す必要は、もう無い。
「命が輝く瞬間……それのどこが良いのかなんて分からないけど、あなたが大事にするものなんだから、ワタシにだって守る理由があるよね」
「そうだな、なんといッても、君は素晴らしいパートナーだ。振り回しても、本当にいいんだな?」
「もう、しつこい」
「済まなかッた。再三の忠告なんてウザいだけか。全くもッてその通りだ」
初めて出会ったときのように、ゆっくりと開かれた手が差し伸ばされる。
それが当たり前のことのように、11Bは差し出された右手を交わしあった。
2つの点は、間に無限の図面を書き上げようとしていた。
衛星軌道上に存在するヨルハ部隊の総本部バンカーは、機械生命体たちに位置を悟られないよう、常に宇宙を漂っている。だが不思議なことに、ありとあらゆる場所で活動できるはずの機械生命体は、バンカーや月面の人類を直接攻撃するような事はない。
だが、相手がそのつもりなら此方もそのつもりで戦うのみだ。
アンドロイドたちの認識は全て、こちらを侮る機械生命体への敵意に満ちている。
そして機械生命体を殲滅するため、戦闘のみを目的として製造された兵士たち、ヨルハ部隊もその認識は変わらない。全員が総じて、機械生命体許すまじと敵意を向けて、日夜作戦行動に取り組んでいる。全ては月面の人類が安心するために、崇拝と信仰心を忘れずに。
バンカーは今も、静かに淡々と機械生命体たちを処理するための作戦を遂行する。
はずなのだが、今日はやけに騒がしい。
「何故転属願いが受理されないんですか!?」
専属のオペレーターモデルに問いかける一人のヨルハ機体がいた。
彼女は思い出がたくさん詰まったバンカーの一室で、苛立ったように声を荒げている。
「あんたの言い分はわかる。でもなぁ、ただでさえ少ないD型、バンカーにしてみればその役割を全うしてほしいんだ。先輩が死んじまって、敵討ちに行きたいなんて、誰でも思うことだ」
でもな、とオペレーターモデルが言う。
「与えられた任に忠実に従い、より多くの機械生命体を殲滅する。それこそ敵討ちに繋がるって、そうは思わないか? だから、しばらくそこで頭を冷やして」
「もう良いです!!!」
「あ、おい―――」
ブツン、と物理的に通信機器が断ち切られる。
バンカー内とはいえ通信状態は悪くない。だというのに、彼女は非常用の物理回線を使ってオペレーターと話していたらしい。この事に関して小言を受けていたが、先程までの慰めにもならないオペレーターの言葉は、全て彼女の右耳から左耳へと抜けて居た。
「許さない、許さない、許さない。先輩は、先輩は私だけがどうしてもいいんだ。許せない、先輩を誑かして、あんな……私にも見せたこと無いのにっ!!!」
わなわなと震え、顔を抑えていた彼女の手は握りこぶしを作っていた。
「許せないッッ!!」
振り下ろされた拳がコンソールを破壊する。
「警告:バンカーへの攻撃行動は厳罰対象に成り得る。今後は控えるよう」
「黙れ箱人形! 私の邪魔をするな!!! あんたに発言権はもう無い!!」
衝動のままにヨルハの権限で、忠告をしたポッドの口が封じられる。
あまりにも痛々しく、狂気的で、誰もが近寄りがたい空気だった。
彼女がこもる部屋の外に、ヒステリックな叫びが漏れ出ている。
ここは、ヨルハの独房。
感情を必要以上に発露させた人格モデルを、ボディのまま矯正するための部屋だ。
かつて格納庫で11Bの生存を知った彼女は、ついに抑えることの出来ない全ての感情を吹き出して、狂った。他のヨルハが「感情の発露の禁止」という事項を破ったこと、そして常日頃から狂笑を聞かされる苛立ち、という私情も交えて司令官に報告した結果。晴れて彼女は独房の住人となったのである。
そして彼女は此処に入れられる直前、バンカーでイデア9942と話す司令官の姿を見ていた。影に隠れる11Bの姿も。だが、直後に9Sたちが持ち帰った11Bのブラックボックスの人格データのパーツを見て、完全にその精神は均衡を崩された。
11Bが死を改めて偽装した。
そんなに会いたくないのか。そんなに、奴がいいのか。
ギリッ、と歯が噛み締められる。常軌を逸した力は、奥歯というパーツを一部破損させた。
「許せない、許さない、許さない許さない許さない許さない許さない!!」
数時間後、彼女は独房から出された。
入れられる前とは打って変わって、後輩らしくおどおどとした、昔そのものの人格だったらしい。専属のポッドも何も言わないため、誰もが彼女は元に戻ったのだ。そう思っていた。
ところで知っているだろうか。カサブタというものがある。
血小板が急いで出血部位を防ぎ、酸化した血と共に傷口を防ぐものの名称だ。
だけれども、これはあくまでタダの蓋。一時しのぎ。
出来たところで、怪我が治りきったわけではないのだ。
アンドロイドたちは、その本質を理解しては居なかった。
作者的に、ちょっと言いたいことがあります。
オリジナル敵三大名物」っていう名前勝手につけてるんですけどね。
・ひとつ、同じ転生者が現実見ろよってレベルの欲望で主人公を襲う系。
・ふたつ、アンチ対象の原作主要キャラがよくわからん進化してた系。
・みっつ、ヤンデレかメンヘラこじらせたキャラが(血で濡れて読めない
にしてもあれだ、定めたはずのキャラが今回の話しで大分崩れた気がする。
無駄に感動与えようとして失敗する典型よな、今回。
皆は無理のないストーリー構成と感動の適所を学んで書こうな!
アイアム反面教師