イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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ごめんなさい、最近少し文章が長くなっちゃってます。
4000以上、5000未満くらいのいいペース続けたいので次から自制します
(今回6000ちかく)

※今回は後書きの最後にヨルハ部隊の記憶のバックアップ及び復活について考察


文書13.document

「大きなお城ですねー。機械生命体なんかにはもったいないくらいです」

 

 2Bに向かって手を翳しながら、9Sが言った。

 

「どこに住んでいようと、私たちは破壊するだけ」

「はいはい、分かりましたから今はじっとしててくださいね」

「っ……」

 

 止血ジェルを塗り込み、回復薬を注入する。ポッドから取り出した予備の人工皮膚を患部に被せて数秒、元の肌と同化したそれは怪我なんて無かったかのようにきめ細やかな2Bの肌を再現した。

 

「よし、それにしても珍しいですね2B。機械生命体と戦っていたとは言え、流れ弾で怒った原生生物の攻撃をモロに受けるなんて」

 

 右手を開いては閉じて動作を確認する2B。

 肩をすくめて9Sが続ける。

 

「筋力が恐ろしく発達してる分、原生生物の攻撃は避けるようにって言われてますよね?」

 

 2Bは珍しく、彼の言葉にそっぽを向いている。

 そんなに不注意だったことを責められるのが嫌なのかと、思っていたが、実際に彼女から出た言葉は、

 

「私の不注意だったのは認める。だから、その……少し、近い」

「っ…も、もうちょっとですから」

 

 普段から感情を自制する彼女にしては珍しく、上ずったような声色だった。これには流石の9Sとはいえ、焦らざるを得ない。少しばかり赤くなる頬を悟られないよう、顔を引いて誤魔化したがちょっと、のところで声が裏返ってしまう。

 

「えーっとぉ……はい、終わりですよ2B」

「ありがとう、9S。城への入り口に繋がる瓦礫も見つけたし、行こう」

「はい! って、いつのまにそんな場所なんか」

「貴方が直してくれている間に、あそこの瓦礫」

 

 2Bが視線を向けた方向は、倒れた塔のような瓦礫が巨大な城の外壁を破壊し、地上を行くヨルハ部隊でも通れるような足場になっていた。

 

「そんなに急がなくてもいいのに」

 

 9Sは彼女の背中を見つめながら、口元に笑みを作って立ち上がった。

 ぱん、ぱん、と服についた葉っぱを払う。

 

「我らが王をお守りしろ!」

「森の王バンザーイ!」

「決しテ誰モ通すナ!!」

 

 2Bが見つけた入り口になりそうな場所に行くと、近くの茂みからわらわらと森の王を崇めると思わしき、甲冑に身を包んだ機械生命体が襲い掛かってきた。目を爛々と光らせ、怒気を存分にこめた言葉とともに武器を振り下ろしてくる。

 

「まずはここを突破する。行くよ9S」

「りょーかい!」

 

 9Sと2Bも武器を構え、機械生命体たちに対抗せんと立ち上がる。

 打ち鳴らされる鉄同士の共鳴音。豊かにざわめく森の木々が見下ろす中、不釣り合いな金物同士の争いが繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 所変わってパスカルの村。

 商業施設を目指すかと思いきや、この場所に訪れたイデア9942たちは、真っ先にパスカルを訪ねていた。イデア9942のお願いを聞いたパスカルは、隣にいる11Bに視線を移しながらも困ったように呻いていた。

 

「森の国に続く門を、開けて欲しい…ですか」

「いつも通りだ。ただ、今回はすぐに扉を閉めてくれ」

「それは構わないのですが、今は2Bさんたちが森の国に向かっています。その……11Bさんがいらっしゃるのは、少し都合が悪くはないでしょうか?」

 

 パスカルに口止めを頼む程度には、バンカーには知られたくない事実。それが11Bの生存である。だが再指名手配がされた以上、イデア9942はさほどそれらに関して気を使う必要は無いと感じている。

 

「もう、今更だからな」

「誰が来ても平気だよ」

 

 気負いもなく言ってのける二人に、パスカルは「ははは」と乾いた笑いを返した。

 何を言っても無駄だろう。彼と交流を持って以来、こう思ったのは、もう何度めだろうか。その度に人間の心という新しい発見がパスカルにもたらされるのだ。

 

「相変わらず、貴方のすることは私には理解できません。今に始まったことではないですけども……でも、そんなあなた方がとても好ましいと、私は思います。頑張ってくださいね、イデア9942さん、11Bさん」

 

 パスカルは、自分の言葉でその背中を押すことにした。

 好ましいというのは紛れもない本心だ。彼が切り開いた道を進むことしか出来ないのかもしれない。けど、それで不都合なことなんてあっただろうか?

 

「いま、門の見張り番に通達しました。いってらっしゃい、どうかご無事で」

「ありがとうパスカル。大丈夫だよ、イデア9942はワタシが守るから」

 

 左の二の腕を右手でぽんと叩き、11Bは笑みを浮かべた。

 

「ええ、あなたの改造計画も聞きましたとも。強くなりましたね、11Bさん。ですが、あなたもお怪我のないように。もしボロボロになってたりしたら、パスカルおじちゃんは怒りますからね!」

 

 明るい声で言うパスカル。イデア9942はピクリと体を震わせると、笑いを誤魔化すように帽子を深くかぶった。

 

「それは怖いな。11Bの怪我を誤魔化せるよう頑張らなければ」

「ワタシ破損すること前提!?」

「もしボロボロになったら、子どもたちのために遊具というのを作ってもらいますから、そのおつもりで。約束ですよ」

 

 いつかイデア9942が教えた、人間たちの約束の方法。

 パスカルの無骨な指の一本が、ピンと立って11Bに差し出される。当然、一緒に暮らしている11Bがその意味を知らないはずもない。同じく右手の小指を伸ばし、パスカルの指と絡まった。

 

「ゆびきりげんまん」

「うそついたら」

「はりせんぼんのーます、ですね」

 

 ピッ、と離される彼女らの指。

 離れても、約束が二人を繋げる。

 イデア9942は、学び、知識を得、日々を生きていく二人の姿を焼き付ける。それは命の成長だ。彼が最も尊び、彼が最も好ましいと感じる瞬間。死と隣り合わせの状況下で、泥臭く生を掴もうとする瞬間とは真逆の、しかし生きるという行為には違いないワンシーン。

 

 これを、もっと見届けたい。

 

「……さァ、気を引き締めろ。武器は構えておけ、11B」

「うん」

 

 彼らに今回、武器をしまうためのホルダーは装備されていない。姿勢制御システムがあれば話は別だが、あれらは実際の戦闘では揺れ、引っかかる恐れがあるため邪魔というのが事実だからだ。

 完全な戦闘態勢、彼が今回の接触に対して、どれほど真摯なのかが伝わってくる。

 

 門の前にたどり着く。上の方で見張りをしていたパスカルの村の機械生命体が合図を送ると、巨大で傷も見当たらないほどガッシリとした木製の門が、重苦しい音をたてながらゆっくりと開いていった。

 本来なら村と城を結ぶこの門は、壮絶な攻防戦があって然るべきだろうが、実際のところはパスカルの村の平和主義が功をなし、一部の超強硬派以外は村を侵略しにくることはない。故に、相互不干渉となった状況下でこの門が使われるのはイデア9942が超強硬派を退治する時だけだ。

 

 荘厳な、苔むした石畳が見えてくる。

 イデア9942と11Bが門を抜けて数秒後、彼らの背後でそれは再び閉じられた。

 

「あの城だ。…戦闘音、もう始まッているか」

「急ぐ?」

「もちろんだとも」

 

 マフラーをなびかせ走るイデア9942。追従し、11Bが後ろを行く。

 為されるはずのなかった歴史の交差点。運命とは紡がれる糸のようだ。だからこそ、一本でも別の糸が紛れ込めば? 自らの意志で変えていく覚悟。紡がれる命を切らせない、たったそれだけのために、編まれつつ在る複雑怪奇な糸の奔流の中に、彼は飛び込んだのだ。

 一本の、白銀を引き連れて。

 

 

 

 

 イデア9942は、まさしくイレギュラーである。

 裏切り者のヨルハを匿っているのは、バンカーにそのまま危険な機械生命体として破壊対象にされる可能性もある。だが、その程度でしかないと彼は言う。新たな困難が訪れるという事ではあるが、困難を自ら選ぶだけの覚悟は既に済ませてあるだけだ。

 後は野となれ山となれ。歩き始めた以上、どんな結果がついて来るかは結果次第。イデア9942はそうして生きて歩いて行く。これまでも、これからも。

 

「……」

 

 だが、イデア9942のように地獄を共に歩く者は居ないのが当たり前、というのが現実である。そうして真実を知りつつも、這々の体で逃げ出したヨルハ機体は極自然な流れで死に腐り、誰にも知られず死んでいく。

 

 それでもだ。どうしようもない運命へ最初に反抗し、なおかつ今に至るまで命を繋げ、与えられた友の志を生きながらに証明する孤高の存在もまた、「どうしようもない」なんて言葉を弾き飛ばしていた。

 

「……また、ヨルハ機体か」

 

 森の国、その王宮の壁に囲まれた城前広場で二人のアンドロイドが対面する。そう、森の王を殺害し終え、2BたちをあしらったA2を見つけたイデア9942は、すぐさま予測地点に駆けつけ、11Bをけしかけていたのだ。

 

 A2。正式にはヨルハA型2号。

 ヨルハのプロトタイプ部隊、Attacker型に属する最初期のヨルハ機体。

 一番最初にヨルハを抜け、今の今まで生存している個体である。圧倒的な戦闘能力と、プロトタイプ故に量産型の後期モデルを逸脱した運動性能、そして何より、「独り」で生き抜いてきたという戦闘経験。

 

 彼女から感じられる圧力は桁違いだった。対面していた11Bは、思わず三式戦術刀を握り直す。佇まいは自然なもので、髪に視界が一部遮られているはずなのに、その隠れた奥からも射抜くような視線を感じた。

 攻撃してくるのなら容赦はしない。言葉以外の全てが、明確な言語となって11Bに伝えてきていた。

 

「退け」

「とりあえず、戦うように言われたからね。それは出来ないな」

「……? まぁ、向かってくるなら」

 

 言葉は途中でかき消された。11Bの視界を横切る木の葉が通る。

 

 A2が武器を構えて突進してきていた。

 

「!?」

 

 静から動への切り替わりがあまりにも洗練されすぎていて、11Bは刀を振りかぶられた瞬間に攻撃されているという事実を認識する。しかしそこはイデア9942の特製チューニングが施された義体。振り上げられた刃が振り下ろされる凶刃にぶつかり、相殺する。

 

「っ、がぁぁッ!」

「力があるヤツか、なら!」

 

 次いで振るわれる幾度もの刃の応酬に、11Bは見事に対処してみせた。切り払い、突き、ふいに切り替わった大剣の振り下ろし。バックステップで避け、突きは武器を持たない手で横に流し、大剣は横に転がることで回避する。

 ここで攻撃の手が休まるわけではない。両手で握り、11Bを地面ごと縫い止めようとするA2の突き立ててきた刃を靴の鉄製の鋲が埋め込まれた場所で蹴り飛ばし、その反動で宙に少しだけ浮く。そこから捻りを加えて膝を立てるように座り、腰だめに構えた刃を勢い良くA2へと繰り出した。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

「このおおおおおおお!!!」

 

 バク転で避けたA2は、着地点の木を足場としてロケットのように射出された。地面と水平に飛んでくるA2。三式戦術刀を構えた11Bが、雄叫びとともに迎え撃つ。間違いなく交差する刃。A2を受け止めた11Bは大きく地面をえぐりながらも、彼女の一撃を受け止めた。

 それは、いつかの22Bとの対象的な光景であった。

 

「っくあああああっっ!!!」

 

 力の限り、刀ごとA2を押し返した11B。特に攻撃されるわけでもなく、後退させられたA2は好機と判断したのか、空中で次の一撃を放つよう体勢を整える。そして着地、再び11Bに武器を振り下ろそうとしたところで、A2は後方上部より襲いかかる謎の悪寒に襲われる。

 

 イデア9942だ。刃の潰れた斧を振り下ろし、A2に不意打ちを仕掛けていたのだ。

 

「機械生命体…邪魔をするな!」

 

 彼の着るマフラーや帽子には微塵も興味を示さず、襲い掛かってきた邪魔な機械生命体を一蹴するという目的で軽く刃を振るう。しかし得意の演算処理で軌道を読んだイデア9942は、斧の柄を滑らせこともなげに受け流した。

 彼に気を取られている間に、11Bは無防備な背中に斬りかかる。

 

「クソッ!」

 

 流石のA2と言えど、実力のある相手を二人はきつい。悪態をつくA2だったが、彼女はその裏でほくそ笑んでいた。状況としては先程の2Bと9Sコンビにも言えることだが、今回は前提が違う。襲い掛かってきているのは、アンドロイドと機械生命体。元来より争い合う運命の種族だ。そのまま機械生命体をけしかけてA2はこの場を離れるつもりだったのだが、そうはいかない。

 

「11B!」

「うん!」

「……は」

 

 肩を並べているのだ。地球を侵略する心なき殺戮兵器の機械生命体と、それを排除するために作られたはずの戦闘型アンドロイド、ヨルハ部隊が。

 長く戦闘を続けていたA2も、驚愕が強すぎて一瞬足を止めてしまう。だが、彼女の培ってきた直感が必死に警鐘を鳴らし、コンマ一秒で意識を引き戻した。向かってくる二体を前に、(機械生命体を前にしては屈辱の極みだが)逃亡することが最善と判断する。

 

 背を向けたA2は、城壁のほうに大きく跳躍すると壁の向こうに姿を消していった。

 本当に、あっという間の戦闘だった。刃の交え合いは、11Bにとって、とても長く感じられた。それなのにログを確認してみれば2分と経っていない。彼女にとって、どれだけ濃厚な時間だったのかが伺える。

 

「……これで、良いんだよね」

 

 ポツリと零した11Bに、イデア9942が気持ち嬉しそうな雰囲気を漂わせながらに頷いた。破顔する11B。取っ払われた感情の檻に、順当な適応をしていっているようであった。

 

「アンドロイドと機械生命体が()()()()。見せるべきものは見せた。礼を言うぞ」

「っふふ……どういたしまして」

 

 斧の石突を地面に突き立て、イデア9942は城壁の向こうに消えていったA2が居るであろう方向を見送った。11Bも、三式戦術刀の刃先を地面に突き刺して先程の戦闘の疲れからか、「はぁー」とその場に座り込む。

 

「A2はどうだッた、11B」

「化物だね。まだ体に振り回されてるワタシじゃ、勝てそうにないかな」

「早急にスペックを馴染ませるプランを考えるべきか。今度、砂漠地帯にでもピクニックと洒落込むのも悪くはない」

「あ、賛成! それじゃあ何持ってく?」

 

 わいわいと、先程までの戦闘を忘れたかのようにはしゃぐ11B。

 しかしイデア9942は覚えていた。彼女たちの上空には、更に気をつけなければ行けない存在が居ることを。

 

「やっぱり炊は、ん……を」

「2Bたちか」

 

 上空から、二人のアンドロイドがポッドに捕まり降下してきた。

 

「あれは……イデア9942? その隣にいるのはアンドロイド……?」

「ちょうどよかった。彼ならA2の事も当たり前みたいに知ってそうですし、聞いてみましょう2B」

 





さてどうなるんだろこれ。マジで自分でも何も考えずに書いてる
というより勝手に動くのを書かされてる感


以降「復活と記憶」についての考察です 邪魔なら飛ばしてください



ヨルハの考察
記憶の継承
・原作冒頭で9Sがバックアップをバンカーにアップロードしていた
・自分の分はできなかったので作戦時の記憶は無い
・記憶は作戦前までの物なので、作戦中に捨て駒等に気づいた機体は撃破時、自動的にリセット?
  4Bで例→4Bは冒頭、「隊長…私…」と不安げに意を決したように何かを言おうとしている。グリューン戦の増援で「猟犬部隊の隊長4B」として援護に来た時、声は一緒。ただし声色が全く違う→気づいた何かを撃墜されたことで記録できていない。

 9Sが処刑される時が全て作戦中であるのは、作戦時の撃破による記憶喪失と一緒に、バンカーでの復活時に重要な事実も忘れさせ違和感をなくすため?(オペレーターモデルはそれらを全て知っていて「口をヴェールで覆い隠して」いる)
 設定資料集の10Hは、記憶構造上の僅かな空白部分(記憶がリセットされても残るデータスペース)に自分が読み解けるよう記号を残した。義体は記憶とともに再生されるため、こうしたデッドスペースを利用して記憶のヒントを残す事も。ただしこの場合、自分のものとしては残せず、自分という他人が残した記録になる。

ヨルハ機体が復活できる範囲について
・論理ウィルスに侵されていないこと
 →完全に同じ機体を再現するため、ウィルスが混じっていると破壊された時ウィルスまで復元してしまう可能性がある。そのため、ウィルス混じりの機体はモデルごと永久破棄されて「死亡」する?
・ブラックボックスが最後の「再生」電波を出している説
 破壊され機能停止する直前、ブラックボックス信号についてポッド達はよく言及している。ブラックボックス信号がそのままバンカーに「復活を要請」する電波を送れなければ、復活できない?
  →4Bが木っ端微塵になってるのに復活してるのは、オペレーターなどが大規模作戦を常にモニターしていたから。もしモニターがなければ?
・バンカーが「復活させない」司令を出している
  →9Sは真実を知っても自ら死にに言っていたが、離反するような裏切りものなんかは人格モデルそのものが「反逆」の恐れがあるため凍結される可能性。16Dの反応からして、裏切った11Bが生き返っていないと言うのは全編を通して確認できる(あれだけ執着しているのだから、あのシナリオライターなら11Bが復活した時点で16Dに追加台詞を用意しているはず)

ワタシ的にはこういう考察で書いてます。
矛盾あったらごめんね ご都合主義タグで許してください

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