ちなみに懸衣翁は奪衣婆(着物剥ぎ取り婆さん)と混同して考える場合もあるとかないとか
--おりむー視点
「決闘ですよ、織斑さん」
「いや知ってるって。わざわざ言わんでも…」
「お前のせいで俺も巻き込まれたぞ、織斑さん」
「いやアレお前も大概だったからね晴明!?なんならお前のイギリス料理ディスのせいで余計こんがらがったまであるぞ!」
「まあまあ、落ち着けって、過ぎたことくよくよ悩んでも仕方ないぜ?」
「お前がふったんだろ!…ハァ」
あの代表候補生(暫定ベジータ)のセシリアさんとひと悶着があった時はどうなることかと思ったが、その後もなんやかんやで授業は進み、無事に放課後を迎えることができた。
俺はあの後、わからないところは多々あれど、理解できるように必死に勉強した。決闘することになった以上は負ける気はない。少しでも相手との差を埋めたかったのだ。ちなみに晴明もあの後、授業中必死にノートをとっているようだった。やはりこいつも男だ。むざむざ勝負に負ける気はないだろう。
「…なあ晴明、さっきとってたノート、俺にも見せてくれないか?勉強の参考にしたいんだ」
「え?いいけど…俺のはあんまり参考になんないと思うぜ?」
「そんなことないさ、あんなに一生懸命とってたんだ。きっといいノートになってるよ」
「そうか?まあそんなに言うなら…」
結構、謙虚なやつだな、コイツも。でも俺は信じてる。晴明は、やるときはやる男だって。いつもはボーっとしてるけど、困った時には本当に頼りになる男なんだって…
「ほらこれ、よく描けてるだろ?このペンギンの絵」
「キャー!モフモフの毛とつぶらな瞳がカワイーってバカァ!」
何なのコイツ!?マジで何なのコイツ!!?無駄にクオリティ高いのがまた腹立つ!!
「オ、ナイスノリツッコミ」
「うるせぇバカ!何か!?お前は真面目に何かに取り組んだら死ぬ病気か何かなのか!?十秒前の俺の感動を返せこの野郎!」
「オイオイオイ、そんなに熱くなるなって。そんなんじゃ、見に来た女の子たちも引いちまうぞ?」
「お前な…」
チラリと、横目で廊下の方を見てみると、放課後であるにも関わらず、休み時間のときと同様、俺たちを見てキャイキャイと騒いでいる女性群…他学年や他クラスの女子が俺たちのことを見に来ているのだ。
「ハァ…もう勘弁してくれよ…」
「学食に行くときとかやばかったよな。あの群れ様…炎に向かう蛾のようだ」
「貴公…」
「あ、佐丈君、織斑君も。良かった、まだ教室にいたんですね」
「あ、はい…どうしたんですか?」
おおっと、いかんいかん。またアイツのペースに乗せられて、無駄な時間を過ごすとこだった…グッドタイミングです。山田先生
「えーとですね…お2人の寮の部屋が決まりましたので、キーを渡しておこうと思って…あ、ここに書いてるのが部屋番号ですから」
そう言って山田先生は俺と晴明にそれぞれキーを渡してきた。
「…てあれ?俺は部屋が決まってないから、1週間自宅通いって聞いてたんですが…」
「俺もそう言われたんすけど…?」
「そうだったんですけど、ちょっとやむを得ない事情で急きょ強引に入れることになっちゃって…まあいわゆる大人の事情ってやつです…」
ふーんなるほど、大変なんだな色々と。よくわからんが
「ちなみに織斑の荷物は私が手配しといた。と言っても着替えと携帯の充電器だけだがな。佐丈のは知らん」
いつの間にか現れた千冬姉が愉悦の表情でそう言った…絶対私怨入ってるよこの人…だって横に"まさに外道"って文字が見えそうなくらいいい顔してるものこの人…
「えーマジか…今週のジャンプ買ってまだ読んでないのに…」
「え?最優先はそれなの?」
晴明は晴明でどっかずれてるし…俺もまだ読んでないな、今週の…
「…あれ?でも待って下さい先生、よく見ると俺と晴明とで部屋番号違うんすけど…一緒じゃないんですか?」
これはどういうことだ?男子は俺たち2人だけなんだから、自然、部屋は晴明と一緒になるはずだが…
「それが…強引に部屋を決めちゃったので、既に決まっていたルームメンバーの人達との調整が利かなくてですね…少しの間、我慢してもらえませんか?」
「ちなみに同室の女子と間違いがあった場合、焼くのでそのつもりで」
「いやありませんって、そんなまちが…今焼くって言った?ねえ千冬姉?今焼くって言った?」
「織斑先生と呼べ」
え、もう何なのこの人…わが姉ながらサイコの極致じゃないか…
「門限とか設備とかの諸々はこのプリントに目を通して確認して下さい。あ、でも、大浴場は今のところ2人は使えないんです。ごめんなさい。少しの間だけですから…」
「え?なんで使えないんですか?」
ガーンだな…俺風呂好きなのに…
「バカか貴様、同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?貴様は?」
「お、織斑君、女の子と一緒に入りたいんですか!?ダメですよ、そんなの!」
「は、入りたくありませんって…なあ晴明?」
「え?何が?」
「お前ジャンプのこと考えてて話聞いてなかったろ?」
コイツのこういうとこ、嫌いじゃないけどたまについていけなくなるんだよな…いかんコイツ…下手すれば間違えて大浴場に行って、そのままポリスメンのお世話になってしまうかもしれん…
「風呂だよ風呂。大浴場のハナシ」
「ああ、潜ると古代ローマに繋がるやつか?あれ試してみたけど何かでかい川が見えただけだったぞ?」
「いやだからマンガの話してるわけじゃ…お前臨死体験してるじゃねーか!?やめろなマジ!?」
「いやびっくりした…
「愉快だなお前の見た三途の川…なあ鬼とかいた?獄卒のさ?」
「獄卒かどうかはわかんないけど、何か黒い着物着た凄い目つきの一本角の鬼はいたぞ。」
「え…それもしかしてほおず…」
グショア
「き…」
突然何やら硬いものが潰れる音がした。
音のした方を見てみると、なんということでしょう、そこには出席簿を握りつぶした千冬姉がいるではありませんか
…出席簿って片手で潰せるんだなあ…初めて知ったよ…
「とっとと帰れこの野郎」
「「アッハイ」」
織斑の冷徹に逆らえるはずもなく、俺たちは何も言わず寮への道をたどることにした
帰り道、再び学食のときのように女子の人達は俺たちの後についてきていた。俺はもう全部投げ出していっそロードランにでも行ってやろうかと思った。
--さーたん視点
「えーと、0998号室はっと…何かお得感のある数字だな…お、ここか…」
自分のキーと同じ部屋番号を確認し、同一であることを確かめる。番号の書かれた表札の下には、この部屋の現在の住人の名前が書かれていた。
(相川さん…ね…出席番号、超上の方だな絶対…)
と、至極どうでもいいことを考えながらキーを差し込む。キーはちゃんとあっていたようで、かちゃりと小気味のいい音がドアから聞こえてきた
「あーつっかれたー…お邪魔しまー…」
「え」
「すよー…っと……」
目を見やるとそこには、バスタオルを一枚だけ持った。一糸まとわぬ女の子の姿がそこにあった。体から滴る水滴と、濡れたショートヘアの髪から、部屋のシャワーからあがったところだということを容易に想像できた
「え…あ、う…」
俺の方を凝視しながら、固まっている女の子。それを見て俺は、思わず、考えていたことを口に出してしまった
「うわスゲエ!ホテルみたいだなここ!」
「え!?そっち!?」
思わず声を上げるショートヘアの女の子、その顔は何だかひどく心外だと訴えているようだった。
「せめてこっちに反応しようよ!?なんかすごくショックなんだけど!」
「…いやだって、こういう時ってもうどんな対応しても角が立つからさ、じゃあいっそもう全スルーして話し進めたほうが良いかなって…」
「今一番角が立ってるよ!!」
どうやら俺の対応は余計怒らせてしまったようだ。いや興味はあるのよすんごく?ただ別に表に出してないだけで?
「どうでもいいけど、早く体拭いた方がいいぜ?風邪ひくよ?」
「なんでそんな冷静なの!?怖いなこのひと!」
いや冷静ではない、ぶっちゃけ超焦ってる。昔からこのぬぼーっとした口調と何も考えてないような無表情フェイスで誤解されがちだけど、俺だって焦燥に駆られる時くらいあるのだ。昔友達に『なんの葛藤もなく平気で人殺しそうだよな』と言われたときはさすがにしょげるものがあった…
「じゃあ俺廊下で待ってるから、着替えたら呼んでね?」
「あ、うん…え~…何か釈然としないんだけど…」
そんな台詞を後ろから聞きながらも、俺は廊下に出て扉を閉めた。…スタイル良かったなあの子…特に脚なんか細いながらも適度な肉付きが…
「あれ?さーたん?」
「ウおっと!?」
邪なことを考えていたからか、思わず変な声が出てしまった。声のした方を見ると、とてとてとピカチュウ…ではなく、本音さんがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
「きよたんの部屋で何してんの~?」
「本音さん…いや、俺もこの部屋だったから…てきよたん?」
てことは相川きよたん?表札の方には清香て書いてたけど…あ、あれできよたんて読むのか…へえ変わってんなあ…
「うん、きよたん!私もちょっと遊びに来たんだ~」
「あそう…」
そんな会話が終わって間もなく、ドアの向こうからこんこんと、ノックが聞こえた。どうやら着替えは終わったようだ。ドアが少し開けられ、その隙間からきよたんなる人が俺をジト目で見つめていた。
「…どうぞ」
「あ、どうも…」
「あ、私も入る~」
そう言って、俺と本音さんはきよたんに入れてもらった。…さて、謝罪の時間かな…
「…で?何か言い分はありますか?」
「ここの部屋番号特売価格みたいだよね」
「は?」
「スイマセン」
「?何かあったの?きよたん?」
「本音…実はね…」
そう言って、きよたんはことの顛末を本音さんに話した。全部を話し終えたころ、本音さんは俺をジローッと言う感じで見てきた
「む~だめだよ、さーたん?ラッキースケベは百歩譲って仕方ないとしても、女の子の裸見てその反応はだめだよ」
「…その通りだな。すみませんでした…えーと…きよたんさん?」
「きよかだよ!相川清香!本音がそう呼んでるだけ!ていうか表札あったじゃん!?」
ああ、
「いやーホントすいません」
「何か適当だなあ…ハア…まあ、もう過ぎたことだしいいけどさ…何にせよこれからよろしくね、佐丈君。できれば織斑君が良かったけど…」
そう言って、相川さんは俺に握手をしてきた。うん、裏表のない性格って素敵だと思うけどね?でももうちょっと気遣ってくれてもよくない?
…まあ、いいか…これからしばらくの間、生活を共にするルームメイトさんだ。古事記にも書かれてるように、アイサツは大事にしなきゃな…
「ああ、よろしく、相川さ…」
「晴明!おい晴明助けてくれ!魔王が…竹刀を持った魔王が俺を殺しに来るよ!!」
「自分からのぞきをしておいて何を言っているか!!またんか一夏ァ!」
「ウワ…ウワァーァッ!!」
廊下から聞こえる織斑の悲鳴、そして篠ノ之さんと思われる怒号、そして鋭いものが空を斬る音と、数々の破壊音…
俺はそれだけで、何が起こっているかは大体察した
「織斑、あとで六文銭を供えとくわ。奪衣婆によろしく言っといてくれな」
「死ぬ前提で話進めてんじゃね…あ、しまっ…グエーッ!!」
…あ、そう言えば、決闘まであと一週間だな。
人魚とかデカいカニとか、サンズ・リバーにはいろいろな妖怪もいるらしいです。