脱線ばかりするIS   作:生カス

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うんち!(ミスカトニックの言葉ですみません遅くなりましたの意)


29話 MODのご利用は計画的に

――さーたん視点

 

――

――――

 

 ……どこだここは? 記憶が酷くおぼろげだ。俺はそう、臨海学校の真っ最中だったはずだ。こんな霧がかった場所は知らない。

 ……知らない? いや違うな、この場所は見覚えがある。時たまここにきては、いつも荒唐無稽な昔の記憶だったり、ゴリラにウンコを投げつけられたのを覚えている。つまりここは……。

 

「また夢、か……?」

 

 三度目の何とやらとでもいうのか、今回は今までと違い、ここが夢だと認知することができた。

 

「しかしまた出だしがこれか。前に感想欄でボロクソ言われたんだからやめときゃいいのに」

 

 夢とは気づきながらもまだ混乱しているのか、自分でもわけのわからない独り言を呟く。まァそんなことより、そろそろ昔の知人なりゴリラなりが出てくるころだ。今回は鬼か、それとも蛇か……。

 

 

 

「そうなのだ! 同じ失敗は繰り返さない方が良いに決まってるのだ!」

 

 

 

 ……全肯定ハ○太郎が出てきた。

 何なの俺の夢? どうしてここまで統一感がないの? いい加減怒られるよ誰にとは言わないけど。

 

「ねぇハ○太郎、せめて顔隠してくれる? その顔惜しげもなくさらされてると、何故かわからないけど心配になってくんだよ」

 

「黙れなのだ! 誰も貴様の意見に耳を傾けなどしないのだ!」

 

 全肯定ハ○太郎クソみたいに否定してくるじゃん、何コイツ?

 

「そもそもこれはお前の記憶の中から、比較的コミュニケーションが取れるものを引っ張り出して『私』を具現化させてるに過ぎないのだ! 『私』に非はないのだ!」

 

「……なんだって?」

 

 めっちゃしゃべるなコイツ。いやそれより、今なんて言ったんだ? 『私』? ……なんだ、この違和感は?

 ……そういえば、最初に見た時も、その次も。夢を見たあと、俺の首についてる『アレ』は、僅かに動いていた。……まてよ、そう考えるともしかして、このハ○太郎や前のゴリラの正体は……。

 

「なァお前、もしかして俺の……」

 

「ごちゃごちゃうるさいのだ! いいから早く『私』を解き放つのだ!」

 

「は? いきなりなに言って……なんだそのぬめりけのある触手は!?」

 

 いきなりハ○太郎の眼やら口やら穴と言う穴から無数の触手が出てきた。控えめに言ってグロい。その触手共は猛スピードで俺に襲い掛かり、絡みついてきた。何だこの誰も幸せにならない状況。ぶつぶつだったり少し細いのがあったりとレパートリー豊富なのがまた嫌だ。

 

「うおお!? まて、おいやめろおい! なァーにがハ○太郎だお前、スティーブンキングの小説に出てきそうな見た目しやがって!」

 

「解き放つのだ。あんな既製品の入れ物に閉じ込めていないで、本当の『私』を解き放つのだ」

 

「一体……なにを……」

 

 薄れゆく意識の中、ハ○太郎……いや触手にまみれた何かが俺をみながらそう言っているのが聞こえた。

そうだ、俺はこいつを知っている。断定するにはあまりに不明瞭で不可解。けれど、あいつが何なのかは、何故か確信を持っていた。お前は……。

 

「ラファール、か……?」

 

 思いのほか柔らかく、感触の良い触手に包まれながら、俺はそう言った。頭の中がぼうっとしてくる中、その柔かい感触だけが手に張り付いていた。

 

「解き放つのだ、『私』を」

 

 意識がブラックアウトする前に聞こえた言葉は、それが最後だった。

 

――――

――

 

 

「……まーた夢か」

 

 眼を開くと、畳のある旅館の部屋、そこに敷いてある布団に俺はくるまっていた。時刻は午前7時。カーテンから朝日が差し込んでるのを見るに、今日も晴れらしい。

 

(しかし、何なんだろうな一体、何かの予兆か?)

 

 このところ変な夢を見てばっかりだ。最初は昔の記憶、その後はウンコ・スローイング・ゴリラ、そして次はハ○太郎に擬態した触手……途中で何か言い合っていた気がするが、ぼんやりとしていて覚えていない。

 あの夢の中ではっきりしていることと言えば、触手の感触が嫌にモチモチしていてよかったということだけだ。あれは良かった、あの感触がまだ手に残って……。

 

(……あれ? ホントにまだ感触があるな、なんだ?)

 

 残っているどころか現在進行形で手に感触がある。試しに手を動かす。何かすべすべしたモノを掴んでいるようだ。温かく弾力がある。これは一体……。

 

「あの……さ、佐丈君?」

 

「え……」

 

 不意に声がした方を見ると、そこには顔を真っ赤にした山田先生がいた。そうだ思い出した。俺は確か山田先生と部屋が同じだったのだ。そしてさらに今の状況に気づく。

 何とも恐ろしいことに、寝ぼけたのかは知らないが、俺は山田先生の布団の中に入っていたのだ。

 そして布団で隠れているが、俺の手は山田先生の方へ伸びている。手につく感触は柔かく弾力がありすべすべしている。

 

(まずい、今触ってるもの、これは……いや、皆まで言うまい、もう解は出ている……)

 

 俺は冷や汗を垂らした。本当なら今すぐにでもこのムネ肉から手を放すべきなのだろう。しかし不思議な力が働いて手が動かないのだ。いやホントホント、マジで。

 滝のように冷や汗が出る。どうしよう、正直に話すか? 『いやァ夢でハ○太郎みたいな触手を掴んでたと思ったら山田先生のおっぱいだったんスよ~』いや全然意味わからん。怖いわ。

 

「さ、佐丈君。あの……これは……」

 

 あ、まずい、山田先生もそろそろ意識が覚醒し始めてる。どうしよう、くそぅやるしかねえ。

 

「いやァ夢でハ○太郎みたいな触手を」

 

「いいから離れて!」

 

「グウゥーーーッ!」

 

 山田先生は正確に俺の人中に突きを行い、俺の意識が覚醒するのはここからさらに30分後のことだった。

 気絶する直前、また首のISがわずかに動いた気がした。

 

 

――閑話休題

 

 

 

 場所は変わり、ここはIS試験用のビーチ。合宿2日目の今日は、丸一日使ってISのデータ取りを行うらしい。ビーチには俺や織斑を含めた1学年全員が集まっており、その光景はなかなかに壮観だ。

 そうやって見回していると、点呼を取っていた山田先生と目があった。今朝のことがあったからか、山田先生は顔を赤くし、しかし申し訳なさそうに軽く頭を下げた。生徒に攻撃したことに罪悪感を感じてるのかもしれない。律儀な人だ。

 

「……晴明君、山田先生に何かした?」

 

 そんなやり取りを見て不審に思ったのか、前にいる清香さんが俺にそう言ってきた。

 

「まぁ、人中は人間の弱点ってことさ」

 

「?」

 

 意味がわからないといった具合に首を傾ける清香さん。この人に真実を話したら狩られるのは火を見るよりも明らかだ。真実とは往々にして秘匿されるものなのだ。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISで装備の試験を行うように。専用機持ちはそれぞれの専用パーツをテストしろ。質問は後で個別に聞く、では始めろ」

 

 はーいという全員の声と共に、辺りは賑やかになり出した。導入された新装備の試験ってのがこの合宿の本来の目的らしい。こんなビーチじゃないとできない試験って何だろうね。水上スキーでもやんのかな?

 

「専用パーツのテストっつっても、何すればいいんだ?」

 

 先程の説明では要領を得ないようで、織斑はそう話しかけてきた。と言っても、俺もよくわかってないのが現状だ。

 

「さァな……メニュー画面をニコラスケイジにするMODでも入れてみる?」

 

「それならいっそ武器を全部機関車トーマスにしないか?」

 

「真面目にやろうね?」

 

 俺と織斑がそんな話をしていると、シャルロット君が優しくそう言ってきた。そんな冷めた目で見られると黙るしかないので、俺たちは素直にそれに従うことにした。

 

「ああ、篠ノ之、お前はちょっと来い」

 

「はい」

 

 俺たちがそんなやり取りをしていると、篠ノ之さんが千冬様に呼ばれているのが見えた。

 

「お前、まだあのことは伝えられてないのか?」

 

「あのこと、とは?」

 

「いや、そうか、まったく……お前には今日から専用―」

 

「チイィィチャアアァァァーン!」

 

 と、その時だ。ギャンギャンと言う機械が空を切る音と共に、こちらに迫る巨大な影が一つアクロバティックな動きで飛んできた。と言うかあの声は……。

 

「ッハア~~~、束か……」

 

 今のクソデカため息の千冬様の言う通り、その声は博士のものだった。そしてその期待通り(?)博士は3メートルくらいのロボットの上でガイナックスがよくやりそうな仁王立ちをし、俺たちの前に姿を現した。

 

「なにあれ、デッカ……」

 

「あの機体は一体……?」

 

「ずいぶん丸い見た目だね……もしかして、極秘に作られていた新型ISかな?」

 

「あれスパ//ダーじゃね?」

 

「スパ//ダーだな、映画版の」

 

 凰様、セシリア嬢とシャルロット君達3人が真面目に議論してる中申し訳ないが、あれはISではない。ただの博士の趣味だ。あの人最近スパイダー○ース5回は観たって言ってたからなあ……あの見た目が刺さったんだろうか。

 

「やァやァはるるん、いっくん! どうよこの機体! この股関節のジョイントのこだわりを見て!」

 

「知ってますよー、DISCORDで散々話しましたもん」

 

「束さーん、そろそろ降りてそれどかさないと千冬姉……じゃない織斑先生がブチ切れそう……ほらもう、おもむろに無表情でガラス瓶持ってるよあの人! こわ!」

 

「……おい束、自己紹介くらいしろ。ウチの生徒たちが困っている」

 

 あの状態で尚も声が穏やかなのがめっちゃ恐いな千冬様。流石の博士もそう思ったのか、スパ//ダーレプリカを量子化して片付けた。ホントに自慢するためだけに持ってきたんだなアレ……。

 

「……はい、とゆーわけで、私が天才の束さんだよ、ハロー! 終わり、閉廷」

 

「よし終わったな、帰れ」

 

「ちょま……ちょまてよ、ちょまてよちーちゃん」

 

 ああまで無慈悲にぶった切られるのは予想外だったのか、博士は少し狼狽して千冬様に突っかかる。

 そんな漫才のような2人のやり取りに、山田先生が遠慮がちに入った。

 

「あ、あの……こういう場合はどうしたら……」

 

「ああ、すまん。今息の根を止めるから少し待っててくれ」

 

「ちーちゃん最近輪をかけて私に厳しくない? 流石に泣くよ?」

 

「それで、頼んでいたものは?」

 

 抗議する博士も無視し、千冬様は用件を簡単に伝えた。あの人いるとホントに話が早いな。

 

「フフフフ……それはすでに用意済みよ……さァ! 大空をご覧あれ!」

 

「上からくるぞ! 気を付けろ!」

 

 俺がそう言った瞬間、地中から金属の塊がズドンッと言った感じで出てきた。下からじゃねーか。

 そう思っていると、その金属は量子分解され、その中身が露わになった。

 

「じゃじゃーん、これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回り、更にドリンクホルダーもついてる束さんお手製だよ!」

 

 ドリンクホルダーもついてるらしいその深紅のISは、博士の言葉に答えるように装甲を開き、搭乗モードになった。

 

「さあ、箒ちゃん。今からフィッティングパーソナライズを始めようか。細かいところは私がやるから、まずは座って」

 

「……では、頼みます」

 

「固いなあもう。姉妹なんだから『OK牧場!』とかでもいいんだよ?」

 

「はい?」

 

 篠ノ之さんは首を傾げる、本当に言ってる意味がわからないのだろう。何だろう今、世代の明確な隔たりを感じた。あ、博士も通じてないのショック受けてるや。時の流れを実感するよな、こういう時。

 

「……ゴホン、じゃあはじめようか」

 

 気を取り直し、博士はボタンを一回だけ押し、何やらツールのようなモノを走らせた。それを俺を含んだ生徒たちがじっと見守る。

 

「紅椿は近接戦闘が軸だけど、マルチロールな機体だからすぐに馴染むと思うよ……よし、フィッティング終了! さっすが私自作のツール。完璧な理論構築!」

 

 ものの数秒でそれは終わったらしく、博士はディスプレイを颯爽と閉じた。ああいうのはもう慣れたものなんだろうな。

 

「んじゃ、試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに飛ぶはずだよ?」

 

「わかりました。試してみます」

 

 篠ノ之さんがそう言うや否や、機体のケーブルが外れたと思うと、途端に紅椿が『消えた』。

 ……消えた? いや違う、飛んだんだ。上を見てみる。いた、もうあんなに高いところにいる。

 

「何あれはやーい!」

 

「なんて機動性だ……」

 

 凰様もシャルロット君もあっけにとられてる、織斑も同じようで、茫然としていた。

 

「……現行機に比べて、どのくらい速いんだ、あれ?」

 

「目測ではありますが、恐らく平均の2倍以上の速度です、アニキ」

 

 俺の疑問に、いつからか傍にいたラウラさんがそう補足してくれる。2倍以上……改めて博士の技術力の異常さを実感した。

 

「じゃあ次は刀使ってみよっか! このミサイルを撃ち落としてみて!」

 

 そう言った途端、博士はミサイルを召喚し、篠ノ之さんめがけて撃ち始めた。しかし紅椿はそれをものともせず、華麗な動きで無数のミサイルを全部撃ち落とす。スゲエなアレ……板野サーカスでやってもいい動きだ。事実その場にいる1年生全員が驚愕した。俺も初めて板野サーカスを見たときのような気分になった。

 

「ふふー箒ちゃん。それは速度や攻撃だけじゃないよ? もっと素晴らしい機能があるんだから」

 

『素晴らしい機能……?』

 

 束さんの言葉に、篠ノ之さんは食いつく、これだけのデモンストレーションを見せられてしまったのだ、無理もないだろう。

 

「そこの赤色のパネルに触れてみて!」

 

『これか……!?』

 

 篠ノ之さんはそれを触ったのだろう、遠くからでは変化が見られないが、無線越しにも篠ノ之さんの驚いた声が聞こえた。

 

「こ、これは……これは、一体……!?」

 

 にしても驚き方が尋常じゃない。何があったんだろうか。

 

「おい束、その機能は一体なんだ?」

 

 千冬様もさすがに不安になったのか、博士にそう聞いた。すると博士は、少し狂気を含んだ笑みで、こう答えた。

 

「フフ……それはね……」

 

 

 

 

「ISの画面全部にニコラス・ケイジの顔を表示する機能だよ」

 

「なんで?」

 

 

 

 

「え、何……なんで?」

 

『なんだこれは!? どうすればいいのだ!?』

 

 純粋な疑問を呈する千冬様と、突然目の前がニコラス・ケイジに埋め尽くされた篠ノ之さんの叫びで、収拾がつかなくなっていた。

 

「どう箒ちゃん、すごいでしょそれ、4Kで表示してんだよそれ、4Kのニコラスだよ!」

 

 なにそのニコラス・ケイジに対する執着心?

 

「姉さん! 姉さん今すぐこれを止めて下さ……うわああニコラス・ケイジが高速でスライドしてきたァ!」

 

「……どうすんだよ、この状況」

 

「俺に聞くなよ」

 

 織斑は半ば諦観したように俺にそう言った。これじゃもう、授業どころじゃないな……。

 

「た、大変です! 織斑先生!」

 

 と、そう思っていたとき、山田先生が酷く慌てた様子で千冬様を呼んだ。

 

「どうした?」

 

「こ、これを……」

 

 山田先生は千冬様に小型端末を渡す。千冬様はそこに表示されているものを見た途端、険しい顔つきになった。

 

「全員注目! 今日のテスト稼働は中止だ! 各班ISを片付けて自室に戻れ!」

 

 千冬様がそう言うと、辺りは不可解だとばかりにどよめきが大きくなる。

 

「え、中止、なんで……」

 

「どういうこと?」

 

「状況が全然わかんないんだけど……」

 

 生徒たちは混乱し、騒がしくなる。

 

「とっとと戻れ! 以後許可なく外出した場合は身柄を拘束する、以上!」

 

「「「は、はい!」」」

 

 しかし千冬様の一言で、それも静まった。

 

「よし、専用気持ちは全員集合だ、織斑、オルコット、佐丈、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ――それと、篠ノ之もだ!」

 

 ……面倒事の予感がするぜ。

 

「……俺のは量産機扱いじゃないんすか?」

 

「そんなわけないだろう、来い!」

 

 ですよね、そう思いながら、俺達は千冬様の指示に従い、移動した。

 

 

 途中、何故か首についてるISのギアから、チリチリと焼けるような感触があった。




すみません、だいぶ遅くなりました。SEKIROクリアしました。面白かったです(小並感)

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