脱線ばかりするIS   作:生カス

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 いろいろネガティブな言葉が隠れているようです。こういう時グーグル先生は心強いですね。

 東京は台風が上陸し始めるようです。皆様もお気を付けて。


17話 花を贈るときは花言葉に気を付けよう

「晴明君、遅いな……」

 

 本来2人部屋である広い寮部屋。そこにポツンと1人、自分のベッドに座りながら物憂げにそう呟くのは、晴明のルームメイトである相川清香その人であった。

 ちなみにこの日の晴明は、とある経緯で織斑教諭(死神代行)に捕まり、月牙天衝を喰らっている真っ最中である。されど彼女はそんな説明を受けてるわけでもなく、ただ帰りの遅いルームメイトの身を案じていた。

 

「……いつもは帰ったら必ずいるのに」

 

 清香はハンドボール部に所属しており、やはりその分帰りも遅い。普段であれば帰宅部である晴明が、だらだらしてるか寝てるかのいずれかであるはずなのだが、いかんせん今回は違った。時刻はそろそろ夜の8時近くになり、何かあったのではないかという不安が彼女の脳裏をよぎる。

 しかし、それから幾ばくもなく、部屋にインターホンの音が鳴り響いた。

 

「!……晴明君かな」

 

 少し焦り気味に、ドアの方へと近づく清香。その様子はどこか、親の帰りを待っていた子供のようでもある。

 

「もーどこ行ってたのさ晴明く……あれ?」

 

 しかしドアを開けてみると、そこにいたのは晴明ではなく、小柄な銀髪の少女。そう、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「えっと……ボーデヴィッヒさん?」

 

「佐丈晴明の部屋はここか?」

 

 狼狽する清香に目もくれず、ラウラは颯爽と部屋の中に入る。なんだなんだと思いながらも、清香はその様子を見守っている……というよりは突然のことに対応できず茫然としていた。

 

「ふむ……ここか」

 

 ラウラがそういって足を止めた場所は、晴明が使っているベッドの前だった。ほんの少しの間、その場で立ち止まっていたラウラ。するとどうだろう、いきなり彼女は晴明のベッドの下をあさり始めた。

 

「ちょちょ、ちょっと、なにしてんのさ!?」

 

 さすがに清香も黙っているわけにはいかず、四つん這いになってベッドの下を物色しているラウラにそう叫んだ。

 

「なにと言われても……ベッドの下を見ているのだ。ところで貴様、ライトか何か持ってないか? やはりどうにも暗くてな」

 

「この状況でライト要求できるそのメンタル凄いね!? そうじゃなくて、どういうつもりなのさ、いきなり人のベッド漁るなんて!」

 

「無論エロ本探しだが」

 

 真顔で何言ってんのこの人? 転校初日の顛末から変わった人だとは思ってはいたけれど、流石にこれはパンチが利きすぎていないだろうか? 清香はそう感じずにはいられなかった。

 

「ターゲットを攻略する場合、相手の弱点や趣味嗜好などの情報を集めるのが定石だ。特にエロ本というものには正確にそれが付随していると言われている。わかるか? 佐丈晴明の攻略にはやつのエロ本が不可欠なのだ」

 

「……どういうこと? 攻略? 晴明君を?」

 

 いまいち彼女が言いたいことがわからない。きょとんとした顔でいる清香に、ラウラは言った。

 

「……念のため言っておく。理由は言えないが、一身の都合上、佐丈晴明は私のものになってもらう。くれぐれも邪魔をしないでもらいたい」

 

「………は?」

 

 未だに要領を得ない。要領を得ないが、ラウラの言わんとすることは清香には伝わった。そしてそれがわかった途端、清香のラウラを見る目つきは険しくなる。

 

「……なんなのさ」

 

「わかっていないようだからもう一度教えてやろう。貴様はどうやら佐丈晴明に恋慕の情を抱いているようだな?」

 

「んな……!」

 

 いきなりの言葉に、清香は顔を赤くし狼狽するが、しかしお構いなしにラウラは言葉を続けた。

 

「無駄だ。諦めろ。やつは私のものになるのだからな」

 

「!……なにいきなり? 勝手すぎるよ」

 

 睨みあう2人。しかしラウラのような曲がりなりにも従軍経験のあるものと、清香のような一般人(パンピー)ではガンのつけ方でもレベルが違う。さながら蛇とカエル。ライオンとハムスターのようなものだ。

 

「……」

 

「う、うぅ……」

 

 事実ラウラに睨み付けられていた清香は、気圧され気味になっていた。

 

「……なにしてんの?」

 

「む、来たか」

 

「は、晴明君!」

 

 その最中、入ってきたのは、この部屋の住人であり、渦中の人物でもある晴明だった。その姿を見るや、ラウラは晴明の方に近づく。

 

「待っていたぞ佐丈晴明。貴様が所有しているエロ本はどこだ? 教えろ」

 

「あいにくですが持ってませんぜ旦那」

 

「ふむ、そうか……では携帯の閲覧履歴を」

 

「やめてマジで」

 

 話し合っている2人は、親しげとも言えないが、それでも互いに遠慮なく喋っているように見えた。それを見てる清香は内心、面白くない、と言った感じだ。

 

「……つーか結局なにしに来たんだ? まさかそれだけのために?」

 

「いや、今日はこれを届けにな。エロ本探しはそのついでだ」

 

 そういって彼女は、どこからともなく、小さい花束を晴明に差し出してきた。数本に束ねられたスノードロップだった。

 

「え? ……お、俺に?」

 

「偶然見つけてな、見てくれが良いので気に入ると思ったんだ。安心しろ、これは造花だ。貴様が花粉症持ちというのも調べておいたからな」

 

「あ、ああ……どうも」

 

 今度はどんな変わり種が来るのかと思っていたところに、王道な異性の落とし方をされ、晴明は若干だがうろたえた。しかも花粉症のことを考えて造花にしたり、邪魔にならないように小さくまとめたりと、相手への気遣いを忘れないイケメンの所業である。強いて言うなら、キャスティングが男女逆な気もするが。

 

「ちなみにその花の花言葉は『あなたの死を望みます』だそうだ」

 

「……スノードロップには『希望』とか『慰め』って意味もあるんですぜ旦那」

 

「む、そうなのか? 贈る場合はこの花言葉だと言われたが……」

 

「まあ、どっちでもいいけどさ。ありがとう」

 

 なぜ晴明が花言葉など知っているのか。その辺のところが気になる清香だったが、今はそれどころではない。声にこそ出さないものの、晴明がラウラと楽しそう(?)に話しているこの状況は、彼女がふてくされるには十分だった。

 

「……ふむ、もうこんな時間か。今日のところは帰るとしよう」

 

「もういいのか?」

 

「ああ、本来の目的は達成したのでな、このくらいにしといてやる。しかしこんなものは序の口だ。覚悟しておけよ佐丈晴明」

 

「ああハイハイ、楽しみに待ってるよ」

 

 そう言葉を交わした後、ラウラは颯爽とその場を立ち去った。

 実を言うと、晴明自身今の状況はまんざらでもなかったりする。理由がどうにしろ、美少女にあそこまで積極的に詰め寄られることなど、今までなかったのだから。それに、半ば自分のせいでもあるとはいえ、なんだかんだで面白いことをしてくれるラウラを、晴明は内心気に入っていた。

 

「うーん、最初のエロ本探しさえなければパーフェクトにイケメンだったのになー……いちいち惜しいんだよなあの人」

 

「……ずいぶんと仲がいいんだね」

 

 清香が、貰った花を早速飾り始めた晴明に聞いてくる。皮肉の混じったその声色と表情は、拗ねているというのが一番適格だろう。

 

「お、おう……なしてそんな不機嫌なの?」

 

「晴明君が遅いから、晩御飯食べ損ねちゃったんじゃない」

 

「別にほっといて食べに行けばいいのに」

 

「1人で行きたくないの」

 

 そういうもんか。女子ってそういうところあるよな。と晴明は内心思いつつ、じゃあどうしたもんかと考える。ふと時計を見てみると、夜更けの時間とは言え、まだ門限まで時間はある。晴明はじゃあ、と言って言葉をつづける。

 

「どっか飯でも食いに行く? 学園の近くに、美味いおでん出す店があるんだけど……」

 

「……え?」

 

 突然の申し出に、フリーズする清香。それを見て晴明はやってしまったかと思った。しかし清香から出た言葉は、晴明の予想とは違ったものであった。

 

「ええと、ふ、二人きりで……」

 

「え? うん二人で行こうと思ったけど……ダメ? じゃあ本音さんたちも誘って」

 

「う、ううん! 全然ダメじゃないよ! いいよ、行こう行こう! 二人で!」

 

「お、おう……」

 

 突然の清香の勢いを不思議に思いながらも、晴明は外出の支度を始めた。しかし彼にとって一番謎なのは、いきなり清香がご機嫌になったことだった。

 

「……で、さっきエロがどうとか携帯の閲覧履歴がどうとか言ってたけど」

 

「マジやめて、マジそこ突っ込まんといて」

 

 そんな話をしながら、彼と彼女はおでんを求め、宵闇の中へと身を投じたのだった。

 

 

 

--さーたん視点

 

 

 

「へえ、そんなことがあったのか」

 

「まあ、ことの原因はお前だけどな、織斑」

 

「なんでさ」

 

 今日は土曜日、そして今俺たちがいるのは校内のグラウンド。そこで俺は織斑に昨日のことを話していた。

 土曜日のIS学園は午前授業だけで、午後からは自由時間だ。しかしアリーナが全開放されるので、大半の生徒は実習をしているらしい。俺はさっさと帰りたかったのだが、織斑に強引に付き合わされた。おのれ織斑。オ・ノーレ

 

「まあいいんじゃないか? スイレンのシークレット花言葉よりは」

 

「滅亡と比べられても……」

 

「2人とも、結構詳しいんだね」

 

 話していると、シャルル君がこちらに近づいてきた。やはり男2人で花の話してるってもへんかね? シャルル君がやってたら違和感ないけれど……

 

「一夏。そろそろ再開しよう」

 

「おっと、そうだな……あ、良かったら晴明もシャルルにISの動き見てもらえよ。スゲエ的確なアドバイスくれるぜ」

 

 それいいけど織斑君や、向こうでぐぬぬ顔してる3人のヒロインのことちゃんと考えてます? フラグ乱立すんのは結構なことだけど、俺を巻き込むのは勘弁してくれよ。

 

「いやいいよ。どっちにしろ俺のラファール。パイルバンカーしか装備しないし」

 

「え……ちょっと、佐丈君の専用機見せてもらえる? ……うわ」

 

 そういって、シャルル君に専用機のパラメータを見せた瞬間、眉をひくつかせていた。なんだよ、そんな顔することないだろ。

 

「すごいね、ここまで瞬間加速に特化している機体。初めて見たかも……でもさすがにちょっと」

 

「ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ……と」

 

「まあ、言葉は悪いけれど……」

 

 ううむ、やはりそんなもんか。セシリア嬢と戦った時はすごい良い感じだったんだけどな……俺も移動だけでもシャルル君に見てもらった方がいいんだろうか?

 

 

「ねえ、ちょっとあれ……」

 

「ウソッ、ドイツの第3世代機じゃない」

 

 

 どこからともなくそんな声が聞こえ、アリーナがざわつき始める。何かと思い振り向いてみると、そこにはISをまとったラウラさんがいた。どうやら織斑に用があるみたいだ。

 

「おい」

 

「……なんだよ」

 

 織斑も不機嫌そうにそう答える。その空気はまさに一触即発というにふさわしかった。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。私と戦え」

 

「いやだよ、理由が無い」

 

「貴様にはなくとも私にはある」

 

 ずいぶんと織斑のことを嫌っているようだ。ほぼ初対面で何故ここまで嫌えるのだろうか? 

 

「貴様がいなければ、教官が大会2連覇の偉業をなし得たのは容易に想像できる……そう、貴様さえいなければ……」

 

 教官と聞き、俺は織斑の姉のことを思い出した。なるほど彼女とラウラさんは知り合いらしいし、この確執の原因はそれか……

 

「……また今度な」

 

「……すまないが、付き合ってもらうぞ」

 

 

「否が応でも」

 

 

 途端、大きい火薬の音が、空を切った。どうやら肩に装備されてるあのレールガンみたいなのを発射したらしい

 まずい、と思った瞬間にはもう遅い。ドンッという重い着弾音が鼓膜に鳴り響いた

 

「……?」

 

 しかし音に反して衝撃はほとんど感じなかった。見ると、シャルル君がシールドを展開し、弾丸をはじいていた。

 

「……こうも周りを見ない戦い方をするとはね、アルマンド(ドイツ人)っていうのはみんなこうなのかい、マドモアゼル(お嬢さん)?」

 

「消えろフランソーザ(フランス人)、貴様の相手をする暇はない」

 

「連れないな。僕じゃダンスのお相手には不足かい?」

 

「あいにくだが、とっくに相手は決めているのでな。一人でバレエでも踊っていろ」

 

 ……やだ、おしゃれ。めっちゃおしゃれな掛け合いしてる……しかも美男美女だから余計絵になるわこれ。

 

『そこの生徒、何をしている!』

 

 アリーナのスピーカから声が聞こえてきた。騒ぎを聞きつけた教員が駆け付けたのだろう。なんにせよ、この場はここで終わりそうだ。

 

「ふん、今日は引こう」

 

 そういって、ラウラさんは武器をしまった。どうやら大事にはなりそうでなくて、ほっとした。

 

「……佐丈晴明」

 

「え、あ、はい……?」

 

 しかし今度は俺に用があるようだ。何だろうか?

 

「私は織斑一夏を倒す。その様をしっかりとみていろ」

 

「え、いやそれは……」

 

 

 

 

「倒した時に、貴様にまた花を贈ろう」

 

 

 

 

「……え?」

 

「昨日のようなありあわせではない。本当に貴様にふさわしい花を捧げよう……受け取ってくれるな?」

 

「あ……はい……」

 

「それは良かった……」

 

 そういって、彼女は妖艶に微笑み、その場を後にした。凛としたその後ろ姿は、どこか幻想的とさえ思った。

 

「……」

 

 ……やだ、イケメンッ……何あのイケメン。生まれる性別間違えたんじゃないかあの人? 今までのポンコツ具合はどこ行ったの?

 

「なあ晴明……あれって一体……」

 

「織斑……見たか今の?」

 

「ああ……スゲエイケメンだったな……」

 

「ああ、少女漫画の世界に迷い込んだのかと思っちまったぜ」

 

 

 

 

「でもキザだよな」

 

「うん、後々黒歴史になったりしなきゃいいけど」

 

 

 

 

 そんな見当違いな心配をしていると、終了時刻のチャイムが、アリーナに鳴り響いた。

 

 

 

 

--場面転換

 

 あの騒動も落ち着き、時間は夕方、そろそろ学食が混み始めるころだろうか。

 

「……さあて、今日は早く帰らないとな。清香さんが怖いし」

 

 なんてことを考えながら歩を進めていると、突然携帯が鳴りだした。なんだろうと思って見てみると、どうやら織斑からのようだ。

 

「もしもし、どうした?」

 

「ああ、晴明か? ちょっと、シャルルのことで話したいことがあるんだ。俺の部屋に来てくれないか?」

 

「なんだよ、俺これから飯食いに」

 

「真剣な話だ」

 

「……すぐ行く、待ってろ」

 

 

 

 ……清香さんには申し訳ないけど、あとで遅れる旨を連絡しておこう。とにかく、織斑の部屋に行かなきゃな。

 そう思いながら、俺はいつの間にか、織斑の部屋に向かって走り出していた。

 

 




 母の日に黄色のカーネーションとかも危ないそうで。贈り物って上司とか取引先とかだとシャレならないし、いろいろ難しいですよね……

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