オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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87 亡国の戦士

「変身」

 

腰部のVバックルにデッキを装填し、交路の姿に鏡面が重なる様にしてその姿が変貌する。

ほんの数秒にも満たない変身プロセスを経て、その姿はライダースーツに装甲を取り付けた様な風貌のパワードスーツに包まれた。

黒い狼面の戦士、疑似ライダー陽炎。

既に実施されていた事実を数名しか覚えていない、ミラーワールドのライダーバトルにおける勝利者だ。

 

神崎士郎謹製のライダーシステムの複製品に独自改良を加えた疑似ライダーデッキ。

それは仮に只人が使用したとしても、並の怪人を大いに上回る程の力を与える画期的な戦闘システムだ。

そして、今これを装着する小春交路は、生まれや本人の自意識とは裏腹に、現時点の地球の支配種族である人間を大きく逸脱する超人である。

日常に置いては常人から大きく逸脱しない身体能力を偽装しているが、既に変身せずとも並の怪人を物ともしない戦闘力を誇る。

 

そして、本来の戦闘形態であるアギトとクウガのハイブリッド、未確認生命体二十二号と比べても、この疑似デッキを使った戦闘形態は大きく劣るものではない。

強度な再生能力を持つ代わりに通常兵器でも傷が付くクウガ──魔石の戦士や、変身解除後にもダメージを引き継ぎ、やはり通常の火器でダメージを受けるアギト。

それらに比べ、ライダーシステムの装甲は装着者に生身の人間を想定して作られている為、非常に堅牢な作りになっている。

通常のライダースーツと同じ程度の厚みしか持たないにも関わらず、身体能力を警察正式採用の強化装甲服と同程度に引き上げるグランメイル。

それだけでも既に生半な銃火器を弾くにも関わらず、全身に装着されるアーメタル製の装甲は輪を掛けて頑強だ。

更に、それら装備の堅牢さは、モンスターとの契約により強大なライフエナジーとリンクし、より高い次元へと引き上げられる。

 

そして、強大なモンスターとの契約で得た力は武装にも影響を与え、一般的なソードベントの威力ですら、一般的な数値に直して100トンにもなる。

ミラーワールドのライダー達は火力面において、グロンギの上位個体と渡り合える程の性能を備えている事になる。

理論上仮面ライダーシステムを使用した場合、ン・ダグバ・ゼバを相手にしても、モーフィングパワーを使用されない純粋な殴り合いに限るが、生身の人間でもある程度持ちこたえる事が可能なのだ。

無論、モーフィングパワーへの耐性の無さ、装着者の肉体の脆弱性などを考えれば、戦いと呼べるものにはそうならないのだが……。

 

だが、今これを装着するのは先の未確認生命体達の頂点すら打倒した超生命体だ。

より強力な外皮、いや、外骨格とも言えるそれを身にまとう事で、強い力で身体を動かす際に発生する肉体への負荷を最低限に抑えられる。

また、装着者の肉体がそもそも頑丈である為、通常ならばスーツが無事でも内部の装着者の肉体が耐えられないような攻撃に対しても強い耐性を持つ。

結果的に、疑似ライダー陽炎は旧二十二号のそれを大きく上回る身体能力をも備えていると言っていい。

 

改造された肉体に、それを保護する瞬間装着可能な強化服。

奇しくもそれは、ショッカーの作り出した怪人の最高傑作──この世界において初めて仮面ライダーと呼ばれた男と同じ形式の変身形態に収まっていた。

神崎士郎が、この次元には存在しなくなった歴史において海外で師事したとある恩師にあやかり名付けた仮面ライダーシステム。

それは、この疑似ライダー陽炎の誕生を持ってある意味では真の完成を見たと言っていいだろう。

無論、十数名にのぼるこの世界における仮面ライダー達の定義する()()からは、精神性その他の理由から大きく外れている存在ではあるのだが……。

少なくとも、こと戦闘能力、純粋スペックにおいては、幾らかの先達を上回っていると言っても過言ではない。

 

だが。

それを置いても、陽炎の目の前で不気味に佇む銀の戦士を相手にした場合、勝利は確実とは言えない。

 

創世王候補の一人であったブラックサン、仮面ライダーブラック。

それが太陽エネルギーを浴びることで変異した仮面ライダーブラックRX。

そのRXのデータを徹底的に解析して作られた、アンチRXとも言える、怪魔ロボット軍団の精鋭。

それこそ、怪魔ロボット・デスガロン。

 

じり、と、陽炎とデスガロンが対峙する。

距離にして十数メートル。

睨み合いの時間は長くは続かない。

 

デスガロンの額が輝き、破壊光線が放たれる。

相対する陽炎──ではなく、陽炎が背後に庇うイクサに向けて。

陽炎が庇おうと思えば容易く庇う事のできる軌道。

当然の如く陽炎が一歩、ガードベントすら無く腕で光線を遮る。

無防備に、という訳ではない。

腕部に装着されたカードリーダー一体型の腕甲に、黒沼流にて学んだ梅花の型を元にした守りの型で受け流す。

打撃、斬撃、飛び道具、魔法に至るまで防ぎ切る守りの極みである梅花の型は、桜花の型と相反する気の運用法故に同時習得は不可能とされている守りの奥義だ。

黒沼流にて桜花と相反しないよう調整されたとしても、強固な守りの型として通用する。

 

しかし。

破壊光線を受け流した筈の陽炎の腕甲が半ばから焼き切られ掛けている。

ライダーバトルの中ではついぞ破損した事のない、人造ミラーモンスター、ロードインパルスのライフエナジーを通した生きた金属とも言えるアーメタルが、だ。

内部の生身の腕にまで到達してこそいないものの、受けた腕に装着されたカードリーダーは当然のごとく破壊されてしまっている。

 

「チッ」

 

舌打ちと共に、崩れた梅花の型を取ったままの陽炎のデッキからカードが独りでに抜け出し浮き上がり、残った片腕のカードリーダーへ。

再びデスガロンの額から破壊光線が煌めき、カードを撃ち落とす。

焼け焦げた切れ端だけがひらひらと地面に落ちていく。

その後ろでかばわれる様に一枚のカードが飛び、カードリーダーに吸い込まれる。

 

「ロードインパルス!」

 

『ソードベント』

 

叫びと重なる様にカードを読み込む女性の電子音声が響くのと、陽炎が走り出すのは同時。

一拍遅れて、悠々とデスガロンが肩部に装着した二丁のブーメランを両手に構えた。

海の水面から飛び出すロードインパルス。

駆ける陽炎に歩み寄りながら、デスガロンの額から放たれた光線が今度はロードインパルスへと向けられ、しかし半ばでなにか別のものに当たって炸裂する。

翡翠色の透ける刀身の短剣、マギアブレードだ。

辛くも撃墜を免れたロードインパルスがイクサの胴体にトリックブレードを巻きつけ、その場を離れていく。

 

「なっ」

 

イクサが上げる驚きの声が遠ざかっていくのを背後に陽炎が手にしたマギアブレードとデスガロンのブーメランが交差する。

瞬きの半の半も無い程の拮抗。

陽炎の持つ二本のマギアブレードがデスガロンのブーメランに断ち切られ、そのまま陽炎の首へと迫り──直角に上に。

がぎ、と、鈍い音と共に振り上げられたブーメランが透ける刀身を割り砕く。

いや、刀身は割り裂かれるより先に、顎門を開くように、その巨大な刀身を開いていた。

マギアブレードと同色の刀身を備える可変大剣、ギガスラッシュエッジ。

 

宙を舞う残り十五本のマギアブレードの内一本が陽炎のモーフィングパワーで変じたそれが、逆にブーメランを噛み砕かんと刀身を再び閉じる。

しかしそれは刀身が閉じきるより先に手首から先の力だけで投擲されたブーメランに可動部を切り裂かれ、残る刀身は振り下ろされるよりも先にデスガロンの鋭い鉤爪に掴まれ粉砕。

 

もう一方、下から切り上げる様に振るわれたブーメランが陽炎の脇腹に。

ずん、と、ライダーシステムの装甲を切り裂き、呆気なく突き刺さり、肋骨を絶ち、臓腑を抉る。

が、

 

「二葉葵!」

 

刀身を切り裂かれて柄だけになったマギアブレードを手放し、手首を合わせた双掌打をデスガロンの鳩尾へと放つ。

ぼっ、と、重い音と共にデスガロンの身体が背後に飛ぶ。

陽炎の脇腹に突き刺さったままのブーメランを握ったままであった為に、そのブーメランは更に陽炎の身体を装甲ごと切り裂きながら引き抜かれた。

びしゃ、と、血と肉と骨の欠片が撒き散らされ、地面を濡らすよりも早く燃え上がる。

 

戦闘の痕跡の中に自分に辿り着けるものを残さない為の隠蔽。

つまり、陽炎は戦いの中にあって、目の前の敵を倒す以外の事にリソースを割いているのだ。

 

「時代遅れの骨董品(アンティーク)が」

 

中身ごと抉り取られた脇腹が、時間を巻き戻す様にして修復されていく。

見れば、先に破壊された腕部装甲もまた元の形を取り戻している。

対し、デスガロンもまた殆ど傷をおっていない。

現時点で陽炎から受けた傷は、双掌打による腹部装甲の凹みくらいだろうか。

だが、ほんの数秒に満たない交差の後に、ダメージを残しているのはデスガロンのみ。

 

「戦いは進化している。お前の稼働していた時代から、十何年分もな」

 

陽炎がデッキからカードを引き抜く。

吹き飛ばされたデスガロンが、両腕と頭部からビームを放ちながら走り寄る。

狙いは当然引き抜かれたカードだ。

が、放たれたビームを遮る様に、陽炎とデスガロンの間に残るマギアブレードがモーフィングパワーで変化した十四枚のシールドが降り注ぐ。

それはビームで熔け、デスガロンの拳に砕け、蹴り割られながら、カードを使用する時間を作り出した。

 

『ユナイトベント』

 

電子音声。

その発生源目掛け、エネルギーをチャージした右拳を叩き込むデスガロン。

ぐずり、と、シルエットの崩れた陽炎の身体にチャージパンチが振るわれ、がぎん、と、音を立てて、止まる。

先までの疑似ライダーの姿とは大きく異なる、有機的な質感を備えた、滑るような輝きを持つ全身鎧の戦鬼。

デスガロンのそれと同じ様に鋭い爪の如き指先を持つ手が握り拳を作り、それに反応したデスガロンが素早く身を翻す。

そのデスガロンの身体を撃ち落とす様に放たれる拳打。

肘から先の装甲の隙間から揺らめく炎を吹き出しながらの一撃がデスガロンに突き刺さり、右腕を肩口から吹き飛ばした。

 

「A,aa..」

 

片腕を破壊され錐揉みするように倒れたデスガロンが起き上がり、陽炎へと残る左腕を向ける。

 

「a,A,あ、あー、アール、R,RX、き、貴様、き、め、冥土の、みや、み、みみmmm..」

 

「……ふん」

 

止めとばかりにマントに隠された腰裏のエクストラデッキから十三枚のファイナルベントを引き抜いていた陽炎の手が止まる。

デスガロンは明らかに正気ではない。

陽炎の知るデスガロンの様に流暢に喋りもしないそれは、最初から言語能力を奪われていたのか。

或いは最初から、このデスガロンは幻の中のRXと戦っていただけなのか。

カードをデッキに戻し、右手を丹田のバックル状の装飾、常ならばアークルやオルタリングのある位置に軽く握った。

 

()()()()()()

 

無論、陽炎の力の中にそんなものは無い。

だが、ベルトの装飾から引き抜く様にして、かつて自らも貫かれたテオスの力による光剣を引き抜く。

 

「お前の所属組織か、製造者は?」

 

じ、じ、と、疑似リボルケインを掴む掌から肉を焼く様な音を響かせながら陽炎が問う。

それに反応したのか、或いは、機能停止寸前で何かを問われるというシチュエーションが断片的な過去のログと一致したのか。

 

「そn、その秘、密だけ、は、お、おお、お前、()に、話す訳にはいかん、さらば、ロボライダー! ()()()()()()()!」

 

破損した箇所から薄紫の放電を始めたデスガロン。

その胸部に投擲された擬似リボルケインが突き刺さり、炸裂。

自爆するよりも先に、跡形もなくデスガロンの存在した痕跡も残さず、その機体を完全に消滅させた。

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

は?

 

 

 

……………………周辺被害を考えればあれ以上の対処は無かった筈だが、惜しいことをした。

思ったよりも苦戦しなかったが、モーフィングパワーで分子に干渉できなかったのは何らかの特殊な加工だったのか、ロボット軍団であっても魔法などの技術を取り入れていたのか。

純粋機械であると考えれば、鹵獲して技術を解析できればヘキサギアの大幅アップデートや、単純にデスガロンを量産して戦力化もできたのだろうが。

最後の言葉は……。

いや、今は考えても詮無きことだ。

それよりも。

 

「ロードインパルス」

 

くぉん、と、駆動系から静かな音を立てながら、ロードインパルスが近づいてくる。

操縦席にはトリックブレードでぐるぐる巻にされたイクサが座らされている。

トリックブレードで拘束されていたから変身解除も出来なかったのだろう。

ゆるりと拘束が解かれると同時、イクサの変身が解除された。

 

「…………助かったわ」

 

少し気まずそうに顔を逸している、久しぶりに見るなごみさんの姿。

 

「それより怪我を見せて下さい」

 

気まずいのは分かる。

俺だって正直気まずい。

でも、気まずいからってなごみさんの傷をそのままにしておく事なんてできない。

 

「ああ、顔に傷が」

 

「軽傷なくらいよ、あんなのと戦ったんだから」

 

「そんなわけないでしょう!」

 

額から頭に掛けての裂傷、あと、全身に結構な切り傷、火傷もか?

嬲られた……というより、なごみさんがぎりぎりで避け続けたのとイクサの装甲が仕事をしたからこの程度で済んだのだろう。

イクサの設計者さんは勲章ものだ。

この場で治療……は流石に目につく。

近場で……病院は怪我の理由の説明で駄目。

元バイト先、緊急セットなんて置いてない。

FAGアパート……、微妙に遠い。

 

……………………………………仕方ない。

 

「ごめんですけど、家にあがります」

 

「いいけど……このまま?」

 

「緊急事態ですから。──ビークルモード」

 

ロードインパルスが変形し、手足などを折りたたみ格納し巨大な大型二輪へと姿を変える。

最後に装甲の隙間に隠しておいた偽造ナンバープレートを前後に挿して、ロードインパルス公道仕様(違法)の完成だ。

因みに俺も卒業までは大型二輪の免許取れないので、車検通ってない違法車の上に無免だから捕まったら一発アウト。

 

「ちょっと、今なにか見過ごせない事が」

 

「なごみさんの怪我の方が見過ごせないです!」

 

パトカーがいる場所や交番を避けながら、なごみさんの自宅マンションに到着した。

ロードインパルスは再びゾアテックモードにさせた上で光学迷彩を起動させ、マンションの屋上から見張りをさせている。

あのデスガロンがなごみさんを標的にした可能性もある以上、再び別の襲撃者が現れる可能性だって無いではないからだ。

 

久しぶりに上がるなごみさんの家。

が、感慨に浸っている暇はない。

 

「手酷くやられましたね」

 

「ええ……、ッぅ~~」

 

戦闘を終え、変身を解除し、自宅に戻って緊張の糸が切れたのか。

アドレナリンのお陰で気にならなかった傷の痛みがはっきりしてきたのだろう。

肩を貸して歩いていたなごみさんが痛みを堪えるように唸り始めた。

傷を刺激しないよう、ゆっくりとソファに下ろし、救急箱を持ってくる。

まぁ、これは殆ど使わないのだけど。

 

「ありがと、後は自分でやるか、らっ!」

 

なごみさんの発言を無視し、救急箱を開け、消毒液をさっと吹き掛け、ガーゼで傷口周りの血を拭き取る。

語気が荒くなったのは何の許可も無くいきなり消毒液を傷口に当てたからだろう。

痛みに悶絶している間に、傷口に手を翳す。

自分以外の傷を治すのはそれほど経験が無いが、傷口を再生する、という工程は普段こそ自動化されているが、その工程が如何なるものかはベルトからのフィードバックで頭の中にきっちり入っているのだ。

モーフィングパワーで痛々しい傷口の細胞を作り変え、傷のない状態に戻していく。

元々生き物の身体は破損箇所が出来れば自分の力で治そうとするので、その働きを加速させれば大体は治せるものだが、それだと修復跡が残るので、その点だけは気をつけながら。

 

「これでヨシ」

 

ついでに顔に垂れて固まっていた血液を拭えば、頭の傷は大丈夫だろう。

が、それはあくまで表面上の話。

俺に透視能力は無いので、脳内の精査はせいぜい、念動力で血液の一部を掴んで、脳内の血管を通す中で破けていたりする所が無いかを念動力越しの感覚で探る程度しかできない。

人間の脳味噌はデリケートにできているし、俺は単純に力をビャッと浴びせて傷を治す様なヒーリング系の超能力者の様に気軽に怪我を癒せる訳ではないのだ。

だから本来ならあのままあの場から動かさず救急車を呼ぶべきだったのかもしれないが……。

最悪ベルトつけるなり煙吸わせるなりテオスが津上翔一にしたように使徒にするなりで蘇生もできるから、騒ぎにならない方向性でこうさせて貰った。

 

「治ってる……?」

 

「首から下がまだですよ」

 

なにか呆然としているなごみさんをそのままに、首から下に負った傷を繕っていく。

こちらはもう本当に単純に表面上の傷に消毒液ぶっかけてから直していくだけ。

複雑な構造でもないし、何より彼女の体表で把握していない部分は無い。

…………。

 

「あの」

 

「何?」

 

「ごめんなさい、この間は……いきなりあんな事を」

 

「えっ、今?」

 

「ちゃんと、顔を合わせて謝るべきでした」

 

「ふーん……、まぁ確かに? メールで謝って終わり、ってのは、誠意がなってないわよね」

 

それだ。

気まずさと申し訳無さからなごみさんの状態を整えてさっさと姿を晦ましてしまったが、普通に考えれば、本当に申し訳なく謝罪する気持ちがあるなら、その場に残って謝って、攻撃なり罵声なり浴びて、こっ酷く追い出されるところまでちゃんと受け入れるべきだったのだ。

それをしなかったのは、単純にそうされるのが怖かった、というだけの話でしかない。

ちょい、ちょい、と、なごみさんが手招き。

覚悟を決めて、心を強く持ちつつ、肉体強度をなごみさんが殴ってきてもなごみさんの手が怪我をしない程度の強度にまで下げ、顔を寄せた。

 

「生意気っ!」

 

ごんっ、と、頭頂部に拳を落とされる。

 

「勝手に思いつめてっ!」

 

ばしっ、と、頬を叩かれる。

そのまま、両頬をがしっと両手で挟み込まれた。

 

「まるで私が、完全に無警戒で家に男を上げて、襲われるなんて考えても無かった、みたいに!」

 

じっ、と、顔を向けられて、瞳を合わせられる。

眼差し、顔つきは真剣そのもの。

 

「ね、私、そんな馬鹿な女に見えた?」

 

「いや……」

 

無警戒そうには見えたし、簡単に人を家に上げる人だなとは思っていたけど。

それでも、普段からやり過ぎれば釘を差してきて、貞操観念もしっかりした、自立した一人の大人の女の人に見えた。

そういうかっこいい人だから、身のこなしとかそういうのを超えて、綺麗だなと、そう思えたのだし。

という部分をどう言語化するか悩んでいると、ぐ、と、頭を引き寄せられた。

 

「別に、私にも非がある、なんて言わないけど」

 

豊満という程でもなく、しかし、無い訳ではない、鍛えられてはいるけれど、女性的な靭やかな柔らかさも同居する胸に抱きしめられる。

 

「……年頃の男の子を家に上げて、そういう期待が、全然無かった、って事も、無いのよ?」

 

「え」

 

「だからって」

 

ぱっ、と頭を放される。

人差し指を立て、眉を立てた怒り顔。

 

「ああいうのは駄目。……ちょっと、ほんとに怖かったんだから。ちゃんと順序を踏むこと」

 

じゃあ、ムードとか盛り上げてそういう雰囲気にしたらいいんですか?

という言葉が喉から飛び出そうになるのを、ごくりと飲み込む。

 

「それは勿論」

 

「なら、この話はこれでおしまい。はい仲直り」

 

「……いいんですか?」

 

「いいのよ。私が良いって言ってるんだから。返事は?」

 

「はい!」

 

「よろしい」

 

良いの……?

いや、本人がこう言ってるから、良い、のかな?

良いなら、良いんだよね?

そりゃ、完全に元通りって訳ではないんだろうけども。

少なくとも、もう会えないって訳じゃあ無くなったって事で。

良かったぁ…………!

 

「あら」

 

と、感慨に浸っていると、メールの着信音が響く。

何事か、と見てみれば、轟雷からの、しかも、持たせている携帯ではなく、轟雷に内蔵している緊急連絡用の端末からのものだ。

 

『いにゅいさんを助けてあげてください』

 

…………寄り道はするなと、口を酸っぱくして言って聞かせておいたというのに。

 

「行くの?」

 

メールを見て露骨に顔をしかめてしまったのを見られた為だろう、なごみさんが先とは違う、戦士としての真剣さを備えた顔で告げる。

それこそ、荒事であれば自分も、と、言わんばかりの戦士の顔つき。

 

「はい」

 

「じゃあ、私も」

 

「スーツも壊れてますし、傷は直せても失った血は戻ってないんです。……この件は、俺の方の話なので」

 

「そう。……じゃあ、今日の借りは、また別の時に返すわ。精神的に、ね」

 

「ええ、また今度、休みが合った時に!」

 

別れと、そして再会を約束できる気分の良さが、端的に過ぎる轟雷のメールを思い浮かべる事で消えていく。

毎日と言っていい程、今日職場で何があったか、いにゅいとどんな交流があったかなどを送るようになってきた轟雷が、緊急時と言えどあの短いメール。

 

「ロードインパルス!」

 

玄関を出ると、呼ぶよりも先に玄関前の壁まで降りてきていたロードインパルスの背に飛び乗り、GPSの示す轟雷の現在地へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

機械の獣の背に跨り駆けて行く少年の姿を、マンションの屋上から見送る人影。

登りかけた月を背にするのは、赤い瞳の黒い戦士、そして、緑の瞳の銀の戦士。

共にバッタを思わせる風貌の二人の内、黒い戦士が口を開く。

 

「彼は、大丈夫そうだね」

 

「今の所は、だろう」

 

釘を刺す様に告げる銀の戦士。

 

「だから、最初から言ってるでしょ。あの子なら平気だって」

 

半ば笑う様な声は女性のものか。

その場に居ない何者かの応えに、銀の戦士はため息を吐く。

 

「お前の子だろう」

 

「私とあの人の子供だからよ」

 

「あんなものまで引っ張り出して何をするかと思えば」

 

「あら、私がやったみたいに決めつけて……そういうの、良くないと思わない?」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか。……彼なら、任せられそうだ」

 

黒い戦士のその言葉に、銀の戦士がふんと鼻を鳴らし、それを最後に、屋上から人の気配が消える。

後に残るのは、まるで何が居たという形跡すら残っていない、無人の屋上のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




それ本当に任せて大丈夫?
ま、まぁ、あんたほどの実力者がそう言うなら……
あんたほどの実力者……いったい何者なんだ……

因みに前回の話、頂いた挿絵とか載せて再投稿?修正?してたりするのでそちらも良ければご確認の程を!
ダグバくんの貴重な姿が見れたりします!


☆知らん人から一方的に任されたお姉さんとの仲直りに水を刺されたけどそれはそれとして一応助けには行く人
最初は苦戦させようとしていたんだけど
ニコ動で該当話をレンタルして見直してみたところ
……実はRXあんま苦戦してねぇなこれ……
ってなったのでライダーバトルのルールと力を奪われた時に備えたモーフィングパワーと超能力なし縛りから解放された二十二号ボディに改造疑似デッキを合わせた完全版新戦法でほぼ完封
なんやかやお姉さんとも仲直りできたけど実は秘密は完全に明かした訳でもない面倒な関係を引き続き
それでも交流が断絶していた頃を思えば全然嬉しい
その嬉しさにも次回で水をめっちゃ差される

☆デスガロン(複製機)
破壊されたデスガロンのデータをサルベージして作られた模造品
当時品と性能的違いは無いが、自我を抑え込まれて言語能力も封じられていたので余計な事を言って相手を煽りパワーアップさせないという進化を遂げている
が、RXを研究して作られたロボである為、頭を潰されても内蔵を破裂させられても瞬時に再生する化け物への対処法は存在しなかった
映画版の方ではリボルケインで死んでるので別にリボルケイン含む必殺技が効かないという訳でもない
デバフ系能力も持たない純粋に強い機体なので単純に性能を上回れるとこんな感じになる
実は作中ライダーなどを除けば格闘戦の能力と複数の強力な飛び道具を兼ね備える高いバランスで纏まった敵なのだが
そのビームは即死効果などは……無い?
じゃあ一撃で敵を蒸発させたりなどは……無理?
得意技にチャージパンチとありますが、それは相手の再生能力を封じて肉体を爆散させたりは……ははぁ
なるほど、それでは、今日はお疲れ様でした、気をつけてお帰り下さい
という具合にお祈りされた
じゃあなんで出したって……?
だってかっこいいんだもん……
なお、怪魔ロボット軍団のデータは実は地球上にそのほぼ全てが回収されて保存されている

☆怒涛の展開に頭が追いつかなかったけど、謝られた事でまぁ許したるわと無事に若いツバメを手元に引き戻す手腕、先ずは見事なイクサの人
肉体を回復させてくる点に関しては、以前にあとがきで書いたママンがイクサしていた時代にブラックとクロスオーバーしている為、そこで人間の超能力者の存在を認知した為と思われる
割と平気で超能力者とか子供スーパーソルジャーとか出るからねブラックとRX……

☆謎が謎を呼ぶ!謎の二人の戦士の謎!
謎なんだよなあ
なんで二人揃ってるのかは謎
たぶん二人居たからデスガロンも二体居たかデスガロン相当の戦士がもう一体居たか
それも謎だ
喋ってた相手だって謎
てつおん!とヤンデレな幼馴染がのぶひ子なてつをの動画は今見ても楽しい
なお、主人公がイクサの人の部屋から出ると玄関先に二人が並び立って待ち構えていて、主人公が絶叫しながらぶっ倒れる展開を一瞬考えた
でもテンポ悪くなるし実際この話の裏ではかなり良くない事態が進行しているのでスムーズに進行させた

☆謎の声

先の謎の戦士二人とはなんか親しげ

☆今回の話の裏面
いっちゃうと轟雷&いにゅいサイド
いにゅいさんを助けて下さいと轟雷は言ったのだ
どういう事かは次回でな!



クライシス残党とか謎の組織とか色々思い浮かべていた人には申し訳ない事をしたなーと思いつつ
最初からこういう乗りで行くと決めていたので仕方ないね……
まぁ後に大ショッカーにクライシス帝国がしれっと混ざってるけど
あっちはあっちでたぶん別の世界のクライシス帝国とかなんじゃないかな
こっちのクライシス帝国はたぶん完全に滅んでる
でも何もかも失われたかと言うと、みたいなあれは残しておきたい
私は最初から、このSSは平成一期を振り返るものだし今は555編だと言っていますよ!(虚構推理感)
うなぎの話をテレビでやってほしかったという悔いだけが残る
二期あるならぜひ……
一クールってんならスリーピング・マーダー編が長さ丁度いいんだろうけど、電撃のピノッキオも好きなんですよね……
あとうなぎの話……(未練)
2クールあればぜんぶいけるんでしょうが
そういう未来に話をしつつ、次回も気長にお待ち下さい

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