オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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75 ある亡霊の何でも無い一日

もぞ、と、何かが動く感触に、少しだけ瞼を開ける。

眠っているとも起きているとも言えない微睡みの中、夢心地ながらそれを察知できたのは、もはやそれが慣れ親しんだ感触だからか。

布団から抜け出そうとする人の、恐らく上着の裾を掴む。

 

「起こしたか」

 

首を横に振る。

半ば反射的に掴んだだけで、何故掴んだのかも自覚できていないのだろう。

 

「寝てて良いぞ」

 

首を横に振る。

 

「そうか」

 

布団が剥がされる。

2月の半ばにもなっていない為、朝の空気はとても冷たい。

ぶる、と、身震い。

が、声の主はそんな仕草を知らぬとばかりに、上着のボタンを外していく。

以前はリハビリの為に着ていた前止めのシャツは、成長と共に着れるものも少なくなってきた。

食生活の変化からか、魔石を持たない期間が長くあった為か訪れた、縦には伸びない急成長は、家にもう着れないサイズの合わない服を増やしてしまった。

それを申し訳なく思う頃には、既にパジャマを脱がされ、上下のジャージを着せられていた。

身体をベッドから起こされる。

 

手を引かれ歩く。

最早歩き慣れた廊下をしかし、手を引く人はぶっきらぼうに、それでいて僅かな気遣いを見せながら先導している。

洗面所に着く。

ばしゃばしゃと顔を洗う音。

次いで、しゃこしゃこと歯を磨く音を聞きながら、洗面台に近付き、倣うように顔を洗う。

冷たい。

お湯でもいいけれど、目を覚ますにはこれがいい。

タオルで顔を拭いた辺りで、はっきりとしてきた。

目の前には鏡。

 

「なんだこの美少女はたまげたなぁ」

 

「今日はお前か」

 

「うん」

 

誰、とも問わない。

耳に届く挨拶だけは私のもののまま。

だから、声を出せば私だと気付く。

 

「おはよう、交路」

 

「おはよう、グジル」

 

一日が始まる。

 

―――――――――――――――――――

 

身体を動かすのはジルとの交代制、という訳でもない。

かつて私の身体だったとはいえ、今のこの身体は完全にジルの物だ。

既にジルの身体を使うまでもなく、別に私の身体を用意して貰う事もできる。

が、偶には私が身体を動かす日があってもいい、というのがジルの持論、哲学だ。

 

「哲学か?」

 

朝の冷たい薄暗い空気の中に、白い息と共に放たれた問い。

それに、頷くでもなく答える。

 

「走りたくないとか寝ていたいとかじゃ無いよ。少なくとも」

 

別に、身体を運転しないからといって、その間に休むことができるという訳でもない。

自分で動かす時と比べて感覚がふわふわしているだけで、動いているという感覚もあるし、身体が疲れれば疲れるのに変わりはない。

 

「いざ、私が身体を動かさないと、ってなった時、この身体を上手く使えないのも危ないしね」

 

たぶん、そういう理由ではないか、という程度のニュアンスだ。

本当の理由はまた別にあるのだけれど。

 

「それほど変わりはないだろ」

 

「私はほら、結構弄るから」

 

「たしかにな」

 

こうして夜明け前の道路を走っていても思うけれど、身体の凹凸のある無し、手足の長さ、髪の長さで、身体の最適な動かし方というのは当然の如く変わってくる。

最近はそれほど大きな調整はしていないけれど、それでも普段からこの身体をそのまま使っているジルに比べると、少し動かし方では劣る気もする。

 

「元はお前の身体だろうに」

 

「元とは結構違うよ、やっぱり」

 

成長している、と、そう思う。

人間的、女性的に、というのもある。

グロンギ……戦士としてもそうだろう。

アギトの力に至っては、生まれつき持っていたジルと、持たない上での狩りに慣れた私ではかなり扱いが異なる。

だから、使って慣れておくべきだ、というのも嘘ではない。

それほど積極的に使う機会がある訳ではないが。

いざという時に対して備えておこう、と、積極的に動けるのは、ジルがこいつに育てられたからだろう。

義理のではあるけど、ジルはやっぱり、こいつの妹だ。

娘かもしれない。

インモラルな話だ。

 

―――――――――――――――――――

 

こうして早朝の町をランニングしてはいるものの、私達グロンギ……魔石の戦士にとって、動き方ではなく筋力を鍛えるという行為にはそれほど意味がない。

どちらかといえば、鍛えるというよりも、身体がどう動くかの確認に近い。

今、日が登りかけた公園で、普段使いの武器に長さと重量バランスを寄せた棒切れを振り回しているのがそれだ。

 

かん、かん、と、軽く打ち合わされる棒。

新しく製法を手に入れたらしい特殊金属で作られたこれは、そのままでもグロンギの生成する武器よりよほど頑丈で、変身後に力任せに叩きつけても歪みすらしない。

私と交路、人間態であったとしても、全力で打ち合えば酷い騒音が出てしまうし、戦っている最中に間に壊してはまずい何かが割り込んだ時に寸止めができるように、という練習でもある。

だから、魔石を新たに与えられて戻ってきた、いや、前よりも格段に向上した身体能力を全力で振るえる訳でもない。

そういった理由で、こうして交路と模擬とはいえ武器を交える事になっても、血湧き肉躍る様な感覚はない。

ここに来るまでのランニングと同じ、雑談混じりにする軽い運動のようなものだ。

 

「最近、音楽とかやってみようかなって思って」

 

「打楽器とかか?」

 

「わかる?」

 

「合わせる音がリズミカル過ぎる」

 

「ありゃりゃ、すまんす」

 

意識的に動きを戻す。

組手中にまでやってしまうのは少しばかり重症かもしれない。

 

「何か買ってくるか。電子ドラムとか」

 

「いいよいいよ。ほら、この間見せてくれたじゃん。ストンプ」

 

「あれかぁ……」

 

心なし恥ずかしそうにしながら呟く姿は年相応に可愛らしい。

ピアノ以外ではあまり自分で演奏する事も無い交路が見せてくれたちょっとしたパフォーマンス。

本場のものはもっと大人数でいろんなものを使ってやるらしい。

が、交路がそれを覚える切っ掛けになった憧れの人が見せたのが、それこそ身近にあるものでぱっと見せられるものであるため、それに寄せているのだとか。

 

「何時になく楽しそうにやってたからさ」

 

「いいだろ、別に」

 

「可愛かったよ」

 

私が半笑いで言ったからか、ひゅん、と、少しだけ早く棍が脳天に迫る。

殺意のある時は意識の外にあったり防ぎようがない位置を狙ったりするけれど、訓練で相手を黙らせたい時には、脳天にげんこつを落とすような感覚でこの位置を狙ってくる。

つまり、照れ隠しだ。

怒っているぞ、というサインのつもりなのだろう、当てるつもりより意思を伝える為の動きである為、早いけれど防げない程の速度でもない。

変身していなくても、この身体には再生能力がある。

なんとなればベルトが常にバックアップを取っているのだから、脳天を割られても特に問題はないのだけれど。

こうして表に出ているのが私であっても、こういう場面ではわざわざ痛みを与えないように気遣ってくれるのは、少し擽ったくもある。

 

―――――――――――――――――――

 

朝の運動で流した汗を熱いシャワーで洗い流す。

時間短縮の為に交路と一緒だけど、本当に軽く洗うだけだ。

流石に私も交路も朝から盛る程にお盛んというわけでもない。

身体も前から自分で洗える。

背中は無理なのでやってもらう。

これは少しくすぐったいけど、変な意味でなく、単純にきもちいい。

 

シャワーを浴びて、シャンプーやら石鹸で洗って、シャワーで洗い流して、終わり。

リンスの類は付けない。

髪質まで魔石で管理しているから、というわけでもなく、風呂上がりにドライヤーで髪を乾かした後、交路が櫛を入れている間にいつの間にか魔法の様に髪質が整っているからだ。

少なくとも、魔石を使うという点だけで言えば私の方が長く使っている筈なのだけど、交路のこういう繊細なモーフィングパワーの使い方は真似できる気がしない。

 

それが終われば朝ごはんだ。

本当ならお母さんの手伝いをしたいところだけど、朝の運動を終えてシャワーを浴び終える頃には、既に朝食は完成している。

鼻孔を擽るお味噌の良い匂い。

豆腐とわかめのお味噌汁だ。

匂いにつられてふらふらと台所に引き寄せられる。

 

「つまみ食いはだめよー」

 

「しないよー」

 

「あら、今日はグジルちゃんなのね」

 

「おはようござ」

 

います、と、続けるのを中断するように朝食の乗ったお皿を渡される。

 

「はい、おはよう。それ持ってっちゃってねー」

 

「は、うん」

 

ジルと一緒に礼儀作法を学ばされた後遺症だ。

他の人はともかく、お母さん相手になると自然と敬語が出そうになってしまう。

もっと気軽に、とは思うのだけど。

なんでだろうか。

これが母の愛というものか。

すごくふしぎだ。

 

―――――――――――――――――――

 

昔、ベの連中に飯を用意させていた頃はリントもグロンギも大して食べるものに違いは無かったけれど。

ううむ。

 

「リントも変わったな……」

 

食文化、ゴ階級……。

魚を切って塩振って焼いただけ。

菜っ葉を茹でて切って調味料かけただけ。

お湯で具を茹でて出汁と味噌入れただけ。

穀物を始めちょろちょろ中ぱっぱもせず機械任せに茹でただけ。

細かい工程を省けばどれもこの程度のものなのに、こんなにも心が満た、あーもう、優勝! 三冠王!

 

「ジルちゃんの分はどうする?」

 

「あ、それはお昼に食べ」

 

身体の自由が一瞬にして無くなり、身体が勝手に動き出す。

うわぁ、やめろジル、それ以上食べたらちょっと気だるくなる。

ぐわー、ああ、私が食べてるわけじゃないのに、ああ、美味しい!

ふんわりとお腹がいっぱいになってる感覚が!

と、誰にも聞こえない悲鳴を上げている間に、ジルが朝食を食べ終えた。

 

『おいおうああ』

 

両手を合わせてぺこりとお膳に頭を下げるジル。

 

「あれ、今日はグジルちゃんじゃないの?」

 

『おうあお、おうあ、ういうおい!』

 

「それでも飯は食うのか」

 

『いんあ、いっお!』

 

「そうか、良かったなぁ」

 

どういう感想?

と、内心でつっこむと、身体の自由が戻ってきた。

同時に過剰な満腹感がはっきりと感じられる。

 

「うー……満腹丸」

 

「おっ、その発言はなんか雑JKっぽいな」

 

「あら、今どきの娘はこんな感じなの? 祝ちゃんも?」

 

「いや……十何年後のJKかな。難波さんはJKじゃなくて女子高生だから」

 

「流行の最先端ねぇ」

 

くそっ、なんか楽しそうに喋ってるけど、満腹過ぎて幸せな眠気が襲ってきた。

まるで東京に押し寄せた天使の大群だ。

私一人では対抗できそうに無い。

でも、もうちょっとだけ頑張らねば……。

 

―――――――――――――――――――

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃーい」

 

学校に出かける交路の挨拶に、リビングからお母さんの声が返事を返す。

私は靴を履き終えて玄関のドアノブに手をかけた交路に、スリッパのままその背に近付き、ちょいちょいと背を叩く。

 

「なんだ」

 

「行ってらっしゃいのついで」

 

爪先立ちになり、交路の首の後ろに腕を掛け、唇を軽く交路の唇に触れさせ、腕を離す。

 

「リントにはこういう文化があるんだろ?」

 

「一般的ではない」

 

「いい文化だと思う。事故とか病気も減るんだってさ」

 

そういう意味では火打ち石でもいいみたいだけど。

こっちも同じ効果があるらしいので。

それならこっちの方が好きだ。

 

「どっかの保険会社が調べていたな」

 

「それじゃ、いってらっしゃい」

 

「ああ、行ってきます」

 

ばたん、と、閉じる玄関にひらひらと手をふる。

 

「ふふん」

 

普段、私やジル、難波にはもっと凄いことをしている癖に。

不意を打つと、可愛い表情を見せる。

本人が気づいているかは知らないけれど。

ぺろ、と、舌を出して唇を舐める。

薄っすらと交路の味。

 

「ふん、ふふん♪」

 

顔が心なしか温かい。

足取りも軽い。

二度寝を我慢して良かった。

気持ちよく昼寝ができそうだ。

 

―――――――――――――――――――

 

パートに出るお母さんを見送れば、後は家に一人だ。

家に一人だからとだらけている場合ではなく、掃除に洗濯と大忙し……という訳でもなく。

交路が用立てた地面を這う小さな円盤状の機械が家を綺麗にしてくれるので、掃除に関しては機械の届かない場所に少しだけ手を入れるだけで良い。

それにしても、段差があれば足を出して上り下りするし、なんとなれば壁の汚れだって普通に壁に張り付いて掃除するので、手を出せる場面は殆ど無い。

洗濯にしても色落ちしやすいものを分ける程度のもので、基本的には洗濯機に放り込んで終わったら干すだけ。

 

少し微睡み、ラジオを垂れ流しながら、手慰みに毛糸と毛編み針を弄る。

ジルが手先のリハビリにと仕込まれた技術だけど、それはつまり当然私だって仕込まれたようなものだし、今では趣味の一つと言っていい。

マフラーに関しては、それこそ凝った模様を作ろうとしない限りは本当に単純作業だ。

ラジオを聞きながらの作業でも黙々と取り組める。

更に言えば、肉体面での不備がない今、こういった編み物は早く作ろうと思えば際限なく早く作れる。

が、あえて急がない。

このゆったりとした時間をも楽しむのが粋、らしい。

 

今作っているのは、グロンギの言葉で戦士を意味する文字を編み込んだマフラー。

交路は正体がバレるのを恐れる為にこういったものを好んで身に付けない傾向にあるけれど……。

戦士の文字は四号、交路ではない方のクウガがバイクに描いていたりで知る人ぞ知るマークではある。

ネットで探せばこの文字を使ったキーホルダーなどを個人制作して販売しているところもあるほどだ。

だから、避ける程のものではない。

交路は付けてくれるだろうか。

バレンタインに渡すつもりだから、流石に受け取り拒否まではされないと思うけど。

 

因みに、戦士の文字の角の部分は当然六本角にしてある。

隠しミッキーのようなものだ。

交路はリントなので変身体モチーフの入れ墨を入れる文化は無いし、私も銭湯に入れなくなるので改めて彫るつもりは無いけれど、身につけるものにロゴの様にしてつけておけば代用にはなるだろう。

これを身につければある意味ダグバとおそろい、みたいな感じで常用してくれる可能性だってある。

 

そもそもの話、交路に限らず、私達グロンギ……交路の言う魔石の戦士は、服装による体温調整にそこまで拘らなくても良い。

殺されるまでの私にしても、普段着はビキニに前とじのレインコート、ワンポイントのオシャレとしてネックウォーマーといった具合で、これを封印解除直後から殺されるまで、冬の終わりから春先くらいまで貫き通していた。

殺されずに夏を迎えればむしろ丁度いい着こなしになっていたかもしれないけれど、恐らく冬になってもこの装いは変わらなかったのではないか。

何しろ魔石の戦士の身体は頑強であるし、変身後の姿にもよるが大体の場合気温の変化にも強い。

 

では何故季節や気温に合わせた服装を選ぶのか。

人間性を保つ為だ。

周囲の正常な人間に合わせた生活を心がける事で、自分が人間であるという自覚を持つ。

そして周囲の人間に合わせる、溶け込む事で怪しまれる危険性を減らす事もできる。

だから、究極的には衣類による体温調整どころか食事による栄養補給も最低限、睡眠も少し工夫すればいらなくなる様な肉体を持ちながら、普通の人間に似た生活を送っているのだ。

 

なるほど、なるほど。

確かに、私はズだからあんなスタイルだったけれど。

メやゴはそれなりに外見も周囲のリントに合わせていた節がある。

勿論交路がそれに意識して寄せている訳ではないだろうけれど。

 

いじましい話だ。

交路だって理解しているだろうに。

普通の人間は、普通の人間らしく生きよう、なんて、意識して生活しようとはしない。

意識しないと寄せられない時点で、既に致命的な程に離れてしまっている。

戻れなくなりつつある。

 

だけど。

意識してそうしよう、いや、そうしたい、という思いもわかる。

朝起きて、運動して、ご飯を食べて。

交路であれば学校に行って、お母さんなら仕事に行って、私は家でこうしてのんびりして。

夕方になればみんな家に帰ってきて、夜になれば眠りに着く。

ゲゲルですらない、ゲゲルに繋がる要素がまるきり見られない穏やかな生活。

初めて一年、二年程度の、半ばジルの中で見ていただけの私ですら愛着が湧いている。

生まれてからずっとこうして生きてきた交路が、必要なくなりつつある人間らしさを惜しむ、愛おしむ気持ちもわからないじゃない。

 

だから、それに合わせて付き合ってやろう。

それが年長者としての余裕というものだ。

 

―――――――――――――――――――

 

洗濯の終わった洗濯物を干し、マフラーも完成させてしまったので、モーフィングパワーの練習をして過ごす。

ゲブロン、魔石を新たに貰ってから半年程経過したけれど、まだまだ、交路のそれに及ばないのは地味に悔しい。

元はと言えば私の方が長く使っていたのだけど、細かく使いこなすとなると話は変わってくる。

交路を見ていて思うのは、実はリントの方が戦いの才能はあるのではないか、ということ。

母数が多いからそういう連中が増えている、ということなのかもしれないけれど。

 

五百円玉を二枚、人差し指と親指で挟んで、すり合わせる。

高速でそれを行う事で、ほうら二枚の五百円玉が三枚に!

なんて冗談を言う間に、五百円玉二枚の間から銀色の円盤が滑り落ちる。

銀色の円盤は、五百円玉……に、近い何かだ。

よくよく見ると表面と裏面がズレている。

これでは自動販売機どころかお店で使ってもすぐにバレるだろう。

 

使い慣れた武器なりなんなりを出すのと違い、加減が難しい。

元々モーフィングパワーでそこまで細かい造形を作るムセギジャジャなんてそうそう居なかったので、こういうのは慣れていない。

が、できる様になれば色々芸の幅が広がるし、時間を掛けずにさっとものを作れれば相手の眼をごまかすのにも良いという事で、こういう形の練習になった。

上手く行った、と思ったら、鍵をかけていない交路の貯金箱から五百円持ち出して使っていい、という事になっている。

 

『ういう、おいう』

 

「おう、もうそんな時間か」

 

お昼ごはん代として渡されたこの五百円二枚。

増やすのに成功したら茶店にでもいってちょっと良い飯でもと思ったが、中々うまく行かないものだ。

 

「何か作るかぁ?」

 

冷蔵庫の中身を検分する。

肉魚野菜、一通り揃っていて、何か適当に作っても夕食に何も作れなくなる、という事は無さそうだ。

お母さんから教えてもらったレシピを頭の中で反芻し、しかし、どれもピンと来ない。

レシピノートを改めて確認。

 

「うーん、ジル、何食べたい」

 

『おうあ、ういうおい』

 

「食べさす相手なり一緒に食べる相手なりが居ないと手抜き飯になりそうで嫌なんだよ」

 

『ういう、おうい、うあうあっあ』

 

「だから何作っても美味いって?」

 

お母さんも交路も言っていた。

食べたいものを聞いて、何でも良いと返されるのが一番困る、というのがこれだ。

何作るかの指標が無いから困ってるのになぁ。

こうして考えると、自分でどういうゲゲルにするか予め考えてるメやゴの奴らは意外としっかりしてたんだな。

楽譜の譜面に合わせてとか、色とりどりのネイルの色に合わせてとか、何を食ってれば思いつくんだか。

こいつらは食生活も無駄に凝ってそうだ。こだわりのジャンルの料理、中華だけとかイタリアンだけとかジャンクフードだけ、とか。

強いリントの戦士を標的にするぜ! みたいなのはわかりやすい。

焼肉定食! とか、がっつり肉の入った丼もの! みたいな潔さを感じる。

前のン?

トリプル豆腐バーガーでも食ってたんじゃねーの?

まさかあのナリでカレーうどんとかは食わないだろうし。

私も交路と一緒に新たなゲゲルしてく身だし、そういうとこはしっかりしていこう。

 

―――――――――――――――――――

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

洗濯物もすっかり乾き、手慰みに五百円玉の出来損ないを増やしながらオカマが人のファッションにケチを付ける番組を眺めていると、交路が帰ってきた。

が、いつも大体聞こえる追加一人の声が聞こえない。

 

「あれ、難波は?」

 

「今日は別の友だちと勉強会だ」

 

ぺい、と、学生鞄と上着をソファに投げ捨て、隣に腰を下ろす交路。

身体を倒し、座り込む交路の腿に頭を乗せる。

自然に交路の手が頭に伸び、髪を手櫛で梳く。

頭皮のマッサージのようで心地よい。

 

「あいつ勉強とかすんの?」

 

「何時も家に勉強会しに来てるだろ」

 

「交路の交路の味と舐め方と腰の振り方と交路の搾り取り方とおねだりの仕方とだいしゅきホールドと48手しか勉強してないじゃん」

 

「お前は難波さんを何だと思っているんだ」

 

「ドスケベ……いや、ヘタレドスケベ」

 

「お前それで良く難波さんと喧嘩しないよな」

 

だって、イッた後にベルト経由で無理矢理身体動かすやり方教えたの私だし。

 

「料理も教えたりしてるかんな」

 

「教えてたか……?」

 

「教えようとはしてるんだけど……」

 

前に、『やっぱり交路くんのお家の味を覚えなきゃ!グジルちゃん、教えて!』って来て以来、一応教えてはいる。

物覚えは当然良いし、変に基本を無視したりしないんだけど、どうしても勉強時間がね……。

 

「エッチの時間の半分でも料理教える時間に充ててくれればあっという間だと思うよ」

 

勉強会つって家に来て、部屋に二人で入って三十分持たずに部屋から難波のイキ声が大音量で響くの流石に笑うんだけど。

その後に夕飯食べてく時、私とジルが作ったおかず食べて『え、これジルちゃんとグジルちゃんが作ったの?! すごーい!』じゃないんだよ。

すごーいじゃないんだよ!

危機感を!

持て!

難波お前今のままだとただの性欲凄い友達としか思われんぞ!

アピールをしろ!

 

「そうは言っても、難波さんもお年頃だからなぁ」

 

「お年頃って書いて発情期って呼ばせるの止めない?」

 

「うーん……。年頃の人間なんて男女問わず猿みたいなものだし……、そういう相手が居れば、ああいう風にもなる、んじゃないか?」

 

「なんでその発情期のお前が自信なさげなんだよ」

 

「だって性欲なんて引っ込めようと思えば引っ込むものだろ? そういう機能は入れてる筈だぞ、ベルトに」

 

「年頃かどうかに関わらず自分の脳みそゲームのコンフィグ感覚で弄るのは可能だとしても躊躇うもんなの」

 

「便利なのになぁ」

 

首をかしげる交路。

まったく……。

 

「参考になるかと思って多めに作っておいたんだけど、無駄じゃん」

 

テーブルの上に乗せておいた器に視線を向ける。

暖房を効かせすぎている訳でもないからこの時間で腐るという程でもないが、夕飯に出すには心もとない量だ。

 

「肉じゃがかぁ。ありがちだな」

 

「人生は大体が日常だからありがちな料理を覚えておけば間違いは無いんだよ」

 

というのはお母さんの言葉だ。

流石、交路のお母さんにして私達の義理のお母さん。

なんとも含蓄のある言葉、な、気がする。

 

「違いない」

 

ひょい、と、交路が私に覆いかぶさる様にテーブルに手を伸ばし、手づかみで肉じゃがをつまむ。

箸を使うか手を洗ってからにしろ、と言おうと思えば、良く見れば手指の少し先で肉じゃがが一口分だけ浮かんでいる。

人間らしさなんてものを語る癖に、超能力でこういう横着をするあたりは何なのか。

何なのかと聴けば、時と場合で主張が変わるのも人間らしさとか言うのだろうけど。

 

「うん……美味い」

 

「だろぉ? これ覚えれば何時でも嫁に来れるレベルなのになぁ、難波なぁ」

 

「遠回しのようで結構直接的に自画自賛するよな」

 

「事実だしー。交路も私とジルの料理、毎日食べたくなるだろ?」

 

「まぁな」

 

「難波が料理サボるってんなら、私らが一生飯作ってやるからよ」

 

「悪いなぁ、それは、家政婦でもあるまいに」

 

「じゃあ、そん時は代わりに一生養ってくれ」

 

「そんくらいならお安いご用だ」

 

んふ。

 

「言質取ったぞ、忘れんなよな」

 

うりうりと頭を腿に擦り付ける。

 

「はいはい」

 

生返事を返す交路。

うかつな奴だ。

こいつは悪意や敵意には敏感だけど、こんな風に好意には滅法鈍い。

そして、全ての好意が良い方向に転がるものではない。

変な女に引っかからなければいいけど。

難波が駄目だったら、そん時は私とジルで面倒を見てやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




日常回とかを書こうと思ったんですよ
日常回ってどう書けばいいかわからなくなってたんですよ
そもそも平和で穏やかな家族の日常ってどんな感じなんですか
それでは将軍様、その屏風の中から虎を追い出してくださいませ案件なんですけど
将軍様、ついでにそのライダー塗り絵からライダー要素も出しておいてくださいよ
でも時代によっては将軍様自身がライダー要素になれるので徳川の統治はやっぱりすばらしいなぁと吉宗は思うのであった(神州無敵感)

☆戦いに備えたり策謀を巡らせたり機械怪獣軍団を構築する中で憧れの人へのリスペクトを僅かに見せたりする好意に対して意図的か無意識か知らんが鈍感マン
鈍鈍感感鈍感感
どんぶりマントリオでかまめしどんが変に優遇されてるのはなんなんですかね
やなせ先生が釜飯好きだったりしたんでしょうか
こっそりストンプを習得しているが、この人生で習得したのか一回目の人生で習得したのかは不明
ピアノ弾いたりストンプしたりと意外と文化的な行動もできるのは恐らくこの世界の脅威に気づいていなかった頃の名残
因みにピアノを弾くというのは殺人の隠語でも48の殺人ピアノを乗り越えて幻の暗殺拳ピアノ拳を習得したという意味ではなく黒いブーメランパンツでショパンとか弾くという意味
日常回だと活性化率が下がる
元気で居られるから戦闘回も書く
各ライダーメインストーリーの時はなんやかんやで連想ゲーム的に繋げられるから楽っちゃ楽だけど、そのへん自由な幕間はそれはそれで色々やれるので何年か先のライダーの話も回収していきたい

☆フォルムと振る舞いは年下メスガキだけど実年齢でお姉さん疑惑もある古代人ヒロイン
古代人ヒロインって聞いて誰が思い浮かぶ?
僕は、この子(第二次スーパーロボット大戦αのゼンガールートのライバルキャラにして邪魔大王国の使い走りにして生存ルート無さ過ぎなククル)
もちろん、全部すき(他に思いつかない)
現代に馴染みまくっているので個性が薄い気がするのでテコ入れ
テコ入れ……?
朝の運動に付き合わない時にはお弁当を作ってくれたりする
大学進学後は自動的に付いてくるため、難波さんがインターセプトしない限り、朝に早起きしてジル共々新婚さんごっこでおはようしてきたりする
難波さんの事は好きだし信頼してる
何やかや言いつつも現状それなりに信頼してる
これが信頼していた、になる前に難波さんは何かしないといけない
何もしないなら普通に交路は貰っちゃうし貰われちゃうぜ、みたいな煽りで奮起させようとも思っている
こうしてみると口はあれだけどかなりの世話焼き
でも雑絡みはしても変にお姉さんぶったりはしない
実質傍らで見守るお姉さん枠でもある
イクサのお姉さんとのかき分けをどうするかは未定なのだ
あっちには真相を伝えないままでいくというのもありかもしれない

☆難波ぁ!
魔石の戦士は節制しようと思えば幾らでも節制できるけど、一度覚えた快楽を自分から切り捨てる事は難しいのだ
オンオフは自分の意思でしないといけないからね
完全に自動で最適な行動を強制なんてしたら制御装置の筈のベルトが洗脳装置になっちゃうので仕方なし
だからこの意思の弱さは難波さんの人間性なのだ
まあ一期終わるまでとは言わないけど、イクサのお姉さんを攻略し始めたらいい加減焦って名前呼びして貰うように画策したりはするかもしれない


感想じゃなくて評価の方で書かれてたのを薄目でちらっと見たのに返答するのだけど
やっぱり元になる原作が現時点で十個くらいあって一つ消費に一年って考えて、その中で主人公に成長させつつ戦闘もそれなりに見栄えを出して恋愛要素もやっていこうってなると無理があるよねって
現状ヘキサギア軍団を真正面からぶつけるだけで大体の敵は熔けるからなぁ
でもそれで溶けない相手と敵対する可能性を考えたら鍛え続けるのは仕方のないことだよね
自分より弱い手勢を幾ら量産しても自分より強い相手には勝てないし

でも恋愛面での展開の無理さについてはまぁ知ってたとしか言いようが無いというか
そもそもの話、このSS始めた時点では難波さんどころかジルグジルのレギュラー化すら想定していなかったんだから無理が出て当たり前だわ
書いてる内に愛着湧いちゃって結局殺せなくなっちゃうし
じゃあ話を引き締める為に無理矢理殺すかってなると別にそんな事は無い
そういう展開を書いて楽しいと思えるならそうするけど
少なくとも今はそうではないので
なのでまぁ無理ーって思う人は、うん、仕方ないのです
それでもこのSSはぐにょりの気が向き続ける限りは続くので
なんやかや右往左往しつつも進んでいくこのSSを容認できる、という人は
これからも一緒に楽しんでいただけたらなぁと思います
それでもよろしければ、次回の更新も気長にお待ち下さい

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