オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
「ふん」
黄金の戦士、仮面ライダーオーディンの登場に陽炎が鼻を鳴らす。
仮面に隠されたその表情を読み取る事は出来ないが、一本残らずオーディンへと向けられた、踏み砕かれたものを除くマギアブレードの切っ先が害意だけを如実に表現している。
指はデッキに触れず、しかし、連続してデッキから数枚のカードが独りでに飛び出した。
『アクセルベント』
『ソードベント』
半ば連結するようにして時間差なく使用されたカードは二枚。
陽炎の姿が消える。
光学迷彩でも虚像投影装置でもない。
アクセルベントの齎す超加速。
それを常人揃いのミラーワールドのライダーバトルにおいて、唯一人ならざる肉体を持つ陽炎が使えば、本来想定されていた速度を遥かに上回る。
人間であれば、スーツの恩恵ですら打ち消しきれない反動で手足は捻れ内臓は潰れかねない速度。
手の中には細身の懐中電灯の如き筒。
下手をすれば通常装備の蛇腹剣の短剣状態よりも軽いそれから光の刃が伸びる。
毒々しく輝く
膝を曲げ、地面を横に跳ぶ様な疾駆。
限りなく地面から離れる時間を減らし高速駆動する脚部により行われる連続加速はアクセルベントによる使用者の加速を最大限生かした動き。
地面を壁に見立て登るかの如き姿勢は、その速度も相まって相対する敵の視界から抜け出し、自らを決して捉えさせない。
初撃から必殺狙い……ではなく、低い姿勢からの足狙い。
街の浮浪者などを操り人形にして動かすオーディンに苦痛による行動阻害は難しい。
更にデッキからカードを抜き取るための腕を狙う、というのは、ライダーバトル運営側からすれば想定してしかるべき動きだ。
そもオーディンにはカード使用に依らない時間停止と思しき機能が搭載されている疑いがある。
カードを引き抜く腕を狙う、というのは通ったとしても無意味な一手である危険性が高い。
故に、避けるという意識をさせない為、認識不可能な速度での足を破壊しての逃走防止。
地面スレスレを斜め上に薙ぐ一撃。
すれ違いざま、前から足を払う斬線は、いつの間にかオーディンの足の前に突き立てられていたゴルトセイバーに防がれる。
じじっ、と、ゴルトセイバーの刀身と接触しスパークするLEDソード。
ゴルトセイバーのAPは4000。
無論その威力をコンスタントに発揮できる訳ではないが、それでも最大威力はおよそ200トンにも及ぶ。
当然、その威力に耐えきれるだけの強度を持ち、生半可な攻撃で傷つく事はない。
LEDソードの熱量を受けて、焦げ跡こそあるものの焼き切れる気配すら無い。
オーディンの背後に回った陽炎が、ゴルトセイバーと鍔迫合うLEDソードを起点にドリフトするように振り返り、デッキからカードを引き抜く。
『アクセルベント』
再加速──
『コンファインベント』
──できない。
超加速の中にある陽炎の再アクセルベントに合わせる未来予知じみたコンファインベント。
体感時間数秒にも満たない超加速は途切れ、世界が動き出す。
「うあぁッ!」
殆ど四つん這いになった陽炎の後ろ蹴りによって、犬が蹴る砂のように蹴り飛ばされる龍騎ブランク体。
きゅぅん、と、鏡の中に吸い込まれたブランク体。
蹴り飛ばした張本人である陽炎の頭上に影が刺す。
振り向きもせずに後ろに振り下ろされたもう一本のゴルトセイバー。
加速状態に追従しきれていなかったマギアブレードがその斬線へ割り込む。
念動力によって自在に操られるマギアブレードではあるが、そのAPは非常に低く1500程度しかない。
十数本集まったとして、防御に使われるのであればその最大APを有効活用できるわけでもなく、しかし僅かに斬撃が振り下ろされる時間を伸ばす。
最後のマギアブレードを砕いたゴルトセイバーの刃が陽炎の二指に受け止められる。
びき、と、受け止められた刃が指からの圧でひび割れ、それよりも早く縦に割れ裂けた。
受け止められた一本はオーディンの手から離され、その峰を残りのゴルトセイバーで切り裂かれたのだ。
受け止めていた刃ごと指を押し広げ、陽炎の手を引き裂かんと刃が振り下ろされる。
切り裂かれるギリギリで手を引っ込める半ば四足の陽炎が、そのまま身体を捻るように振り回す後ろ回し蹴り。
大振りのそれがオーディンの腕に、いや、ゴルトセイバーの刀身に当たる。
陽炎の手にゴルトセイバーを振り下ろした時点で既に一歩下がっていたのだ。
そのまま身体を独楽のように回し立ち上がる陽炎。
片手でゴルトセイバーを構え半身を向けるオーディンと向かい合い、構え、腿の装甲に手を伸ばし蛇腹剣の柄に触れ──ばぢっ、と、オーディンの背後で何かが弾ける。
オーディンが隠していた半身、そこに構えていたゴルトシールドに、突如として背後から飛んできた、いや、陽炎が念動力で引き寄せたLEDソードが突き立つ。
ゴルトシールドで受けなければそのまま腕を貫き、オーディンの変身者の心臓を貫いていただろうか。
じ、と、ゴルトシールドの表面を焦がしながらLEDソードが動き出す──よりも早く、ゴルトシールドが傾けられ、下方向に弾かれる。
光刃の発振部分を弾かれたLEDソードの柄がくるんと回転し反転。
ゴルトシールドが振り上げられ、打ち下ろす。
柄尻をオーディンに向けたLEDソードがその柄の半ばからゴルトシールドの縁によって叩き落され、そのまま地面と挟まれるようにして割り砕かれた。
瞬き程の時間、振り向きもしていないオーディンの手による一連の動きはまるで予めそうと決められていた殺陣の如く。
また、ゴルトセイバーを持つ半身は変わらず陽炎へと向けられ、振るわれる蛇腹剣への対応を行っていた。
振るわれるのはソードベントですらない、正規のミラーワールドのライダーがあまり持たない、装甲とそう強度の変わらない基本装備とも呼べる武器。
だが、それを扱うのが陽炎であれば話はまるで異なる。
ガードベントすら使わずにシザースのファイナルベント、AP4000の攻撃を受け止めきる膂力から繰り出されるその一撃一撃は、加減無く振るわれれば通常のガードベントすら容赦なく切り裂き、相対するライダーをスーツごと切り刻み膾切りにしてしまうだろう。
無論、それは防御ではなく攻撃のために使用されるべきゴルトセイバーだとしても変わりはない。
更に、蛇腹剣という特殊な武器の描く軌道は独特であり、それに加えて陽炎が念動力を用いて威力を殺さない程度に不規則に軌道をずらしている。
観察力のある戦士、蛇腹剣を用いた戦いに慣れた戦士であっても対応できるものではない。
だが、オーディンはゴルトセイバーを突き出し僅かに動かし続ける事で、攻撃の全てを捌き切っている。
切り結んですらいない。
振るわれる蛇腹剣の分裂した刀身。
その側面をゴルトセイバーの側面と合わせるようにぶつける事で、威力を真正面から受けること無く反らし、威力を逃している。
ワイヤーで連なる他の刃すら自らに届かないように軌道を修正し続けているのだ。
陽炎のデッキから独りでにカードが浮かび上がる。
シュートベントかアドベントか、或いはファイナルベントか何かか。
何が使用されても拮抗を破るに足るだろう一枚。
回転しながら素早く左腕のカードリーダーに飛んでいったその一枚が、何処からか飛んできた見えない弾丸に撃ち落とされた。
その弾丸の主はゴルトフェニックス……ではない。
ましてライダーなどでもなく、それは野生のミラーモンスターのそれだ。
見れば、周囲に無数のミラーモンスターが追い立てられるようにして集まりつつある。
オーディンの契約モンスターのゴルトフェニックスによるものか。
集まっていたミラーモンスターの中、猿型のミラーモンスターであるデッドリマーがゴルトフェニックスに反撃として放った高周波弾が、偶然にも陽炎のカードを撃ち抜いたのだ。
「チッ」
苛立ちを含む舌打ち。
オーディンに振るわれていた蛇腹剣の斬撃が止み、無造作に背後へ、遠く離れた位置でゴルトフェニックスと戦っていたデッドリマーの身体を、いや、周囲に群れていたミラーモンスターの群れの一部を纏めて寸断する。
当然のように、ゴルトフェニックスは空中へと逃れ傷一つ無い。
延長していた蛇腹剣のワイヤーが巻き戻り、キンッ、と鋭い音を立てて短剣状に戻り、腿装甲の鞘へと収められる。
完全な無手。
両脇に広げ、大げさに肩を竦めてみせる。
「降参です……とは言えませんが、やはり、強度の高い予知能力者の相手は面倒くさい」
向かい合うオーディンはゴルトセイバーとゴルトシールドを構えたまま。
「それで? 形見のデッキから乗り換えて、運営側に付いてまで、何のご用事で? 占い師──手塚海之さん」
「俺の目的は変わらん。──ライダーバトルを止める」
「構いませんよ、ええ、もちろん」
軽く答えた陽炎が、手を差し出す。
「──では、デッキをこちらにお渡しくださいな」
「それはできない。デッキの破棄は同時に行おう。陽炎、いや、
―――――――――――――――――――
ぶわ、と、手を差し出したままの陽炎から得体のしれない圧が溢れ出した。
陽炎の保有する戦力である無数の
「………………ふぅん、
たっぷりとした無言の後に、しかし、軽い口調で告げられる言葉と共に、いくつかの未来が閉ざされたのをオーディン──手塚は感じていた。
繋がる筈の幾つかの結末が、世界の分岐が崩れ、ただ手塚の記憶にのみ残像を残し消えていく。
「知っていたか」
「ええ、さっきの戦いの通り、貴方の予知は強度が高すぎる。何らかの制限が無いのなら説明が、いや、この制限があったとしても強すぎる程だ」
陽炎の言葉に、手塚は内心で頷いた。
手塚の占い──儀式的手法で以て増幅された予知能力には一つの制限がある。
それは、見える未来は手塚がその生命を終えるまでの間、その眼で見る可能性のある未来しか見れない、という事だ。
手塚の占いは予言の類いではなく、文字通りの未来
あらゆる可能性世界で手塚が見た、手塚が体験したあらゆる記憶を参照する超能力。
以前の、一年前までの手塚に、そこまで大それた能力は存在しなかった。
占いで見ることのできる未来は、確実性こそあれ近い世界のもの、起こり得る可能性の高い未来を読み取る程度のものだ。
だからこそ、親友が暴漢に襲われる未来もミラーモンスターに殺される未来も見ることが出来ず、防ぐ事ができなかった。
だが、なんという皮肉だろう。
親友の死という大きな精神的衝撃が、手塚の魂のあり方にある種の変革を齎した。
その直後、
受け入れられるまま、収まるだけでいた力との融合が精神的ショックにより促され、手塚の力は際限なく増幅を始めていたのだ。
神の愛玩動物からの脱却の
それが、この数ヶ月の間、いや、幾度かのループの中で、加速度的に進化し続けている。
手塚の、オーディンの姿に重なるように、アギトの基本形態のシルエットが浮かぶ。
「お前はこのまま進むべきではない」
増幅された超能が、手塚に遠い未来を垣間見せる。
幾つもの未来、ここで戦いを放棄し、目の前の少年が未来を掴む為にと力を貸した末に訪れる未来を。
無人の荒野、時を司る時空に無数に散らばる砕け散ったレールと、無惨にも砕かれた時を駆ける列車。
或いは。
あらゆる人種、全ての人間が鬼に、アギトに、人ならざる異形へと姿を変えた世界。
或いは。
死を乗り越えて進化した異形、平和に生きるそれらすら狩り出され、子供ですら無慈悲に始末する無数の黒とオレンジの装甲服達。
或いは。
異形の植物に包まれた地球、鎧に身を包む人々、異形となるのを受け入れた人々の新たなる生態系。
或いは。
二人を残して誰一人生き残るものの無い、時の王、魔王と呼ばれるものとの戦い。
或いは。
或いは────
果てしなき時の果て。
黄金の異形と化した、かつて少年だった何か。
銀の従者を引き連れて、魂を食らう龍に乗り、星々を渡り歩き、やがて。
降り立った星は、地球と呼ばれ──
「得たものは大きい筈だ。大きな飛躍の年だったろう。このまま進んでも」
「そのまま進んだ先に、未来はありましたか」
「あらゆる生き物の命は、いつか必ず終わる」
「生きた道筋を、あるべき歴史で無いと踏みにじられるのを受け入れろと」
「今のままでも、お前が失いたくないものを守る事はできる」
言葉を重ねる。
この手塚にとって、陽炎はさして知る相手ではない。
だが。
無数の未来の、無数の世界の、この場を生き延び、力を貸した、生き残れるように、大事な人を守れるように、平和な世界を保てる様にと、長い道程を共にした、無数の手塚がこう叫ぶ。
止めてくれ。
止めてやってくれ。
何もかもを捨てれず、諦められず、立ち止まる事も振り返る事も忘れてしまう様な歩みを──
「いいや」
力強い、決断的な声。
「
淡く滲むように見えていた、手を取り合う未来が、消える。
「まだ足りない」
数えるほどのか細い分岐を食い破るように。
「奪わせない」
無数、無量、無限とも思える程の、
「失わない、終わらない」
禍々しい分岐が未来を埋め尽くす。
それは人が地球という星で生き続ける世界だ。
だが。
時間という秩序は壊れるだろう。
人という形は崩れるだろう。
密やかに、人々の営みをゆっくりと歪めていく。
それでも。
「この世界で、幸せに生きる事を、絶対に諦めない……!」
「知っている」
恐らくは、今目の前に居る本人よりも。
だからこそ。
世界を壊させない為に、破滅的な未来を避ける為に。
いや。
人並な幸せという生き方を、忘れさせない為に。
「交路、お前を止める」
『サバイブ』
無限の力を持つ黄金の戦士が、風を、
『サバイブ』
そして、炎を纏う。
激しく吹き荒れる風に巻き上がる炎に照らされるのは、神崎士郎が設計したライダーの規格を完全に超越した姿。
アギトの力が生み出すマシントルネイダーの如き、科学で計り知れない進化の力。
黄金の翼を外套の如く背負う、黄金の騎士。
「視えているだけの分際で、未来人気取りですか、なら」
陽炎がカードを引き抜く。
『ユナイトベント』
ごう────!
遠く、遠くから遠吠えが響く。
モーターやエンジンの駆動音でもない。
電子頭脳の放つビープ音でもない。
正真正銘、巨大な獣の喉から放たれる咆哮。
次いで、陽炎のシルエットが崩れる。
疑似ライダーの装甲に重なる様に異形の姿が影法師の如く重なり、如何なる高熱、如何なる圧力も容易く通さない装甲が泡立ち、滲み、膨らみ──
やはり、そこに残されるのは、ライダーの規格を逸脱した姿。
アギトの力が、アマダムの力が、ゲブロンの力が、テオスの力の一部が、デッキの力が。
互いに熔け合う様にして融合した、人智を超えた進化の力。
奇しくも同じく黄金の、しかし、鮮血の様な赤で孔雀の羽に似た意匠を施されたマントを背負う、漆黒の戦鬼。
「他のライダーと同じ所に送ってあげます」
―――――――――――――――――――
黄金の不死鳥を模した騎士と、四足の獣──黒い狼を模した戦鬼。
互いにライダーの様にレザースーツの様な部位の殆ど無い全身鎧の騎士に似た姿でありながら、その戦力差は先までのそれとは比べ物にならない。
無論、それはオーディン、手塚にとって悪い意味でのものだ。
今のオーディンは覚醒した手塚のアギトとしての力によって三枚のサバイブのカードの力を撚り合わせ、超越肉体、超越感覚、超越精神を持つ手塚によって運用されている。
更に言えば、この手塚自身が見た未来における無数の戦闘経験を一部引き継ぎ擬似的に歴戦の戦士になっていると言える。
有り体に言って陽炎を除く正規のミラーワールドのライダーが束になって掛かってきてもそうそう負ける事はないだろう。
だが。
陽炎の手の中、大鉈の如く反った、無数の乱杭歯が生えた荒々しい造りの大剣が大上段から振り下ろされる。
当然の如く分裂し伸びるその様は常の陽炎が扱うビーストマスターソードのそれと同じ挙動。
交路が本来持つ力とカードデッキの融合により大幅に変質したそれは当然の如く、二十二号として振るわれる力が上乗せされる。
一瞬だけゴルトシールドで受けよう、ゴルトセイバーで逸らそうと浮かんだ思考を捨て横に跳ぶ。
振り下ろされた蛇腹剣──獣肉断ちの刃がアスファルトの地面をまるで無いものの様に引き裂き埋まり、返す刃で振り上げ、土を僅かに撒き散らしながらオーディンに迫る。
半ば倒れる様に身を屈ませながら軌道から体をずらすオーディンの肩の装甲が、まるで土塊と同じとでも言わんばかりに刳り飛ばされた。
予知が通用しない。
という訳ではない。
アギトとしての覚醒を果たしながら、肉体的変質をカードデッキとの融合により簡略化した手塚はその超能を失う事無く発揮し続けている。
だが、先までの戦いとはわけが違う。
受ける、反らす、という選択を思い浮かべると同時に予知が途切れる。
その時点以降を手塚が見ることができない。
それらはどれほど上手くやっても確実に手塚の死へと繋がる。
モーフィングパワーによる分子間結合への干渉だ。
天から降り注いだ力を受け入れることによりアギトとして早熟とすら言える程の速度で進化を続ける手塚の肉体は、モーフィングパワーによる直接的な干渉を受けにくい。
マラークの如くゆっくりとプラズマとして分解される事も無く戦えているのがその証拠だ。
少なくとも、アギトの如き進化を選んだエルロード達と同等以上の耐性があると言っていいだろう。
しかし、直接物理的に接触され、直接的に力を流し込まれれば話は異なる。
そして、陽炎、交路の持つ力全てが融合した今の陽炎の武装は、当然の如く肉体の一部と同じものとして扱われる。
接近して触れられたら即死、という話ではない。
陽炎の持つ武装は、既に受ける事も反らす事も許されない。
いや。
そもそもの話として。
この戦闘の結末がどうであれ、手塚の命はこの戦いの中で途絶える事が確定している。
戦いが始まった時点で、手塚の視えていた戦いの先の未来は全てただの記憶と化していたのだ。
回避行動を取るオーディンの動きが一瞬鈍る。
獣肉断ちを片手に持ち替えた陽炎が手を向けている。
手の動きをあわせる事により集中を増した念動力によるグリップがオーディンの首を捕らえたのだ。
対し、アギトとして覚醒した手塚は反射的にその念動を衝撃波で振り払う。
が、僅かに遅い。
炎。
比喩ですらない、太陽の如き眩さを放つ巨大な火球が陽炎の手から放たれた。
アギトフレイムフォームの操る熱量と比べてもなお過剰な熱量の塊。
アギトの力として制御されずに解き放たれたなら、日本の国土程度なら一瞬で焼け野原すら残さず焼き滅ぼす様な危険物。
ゴルトシールドを構え、駆ける。
火球に触れた面が融解し、しかし、手塚のアギトとしての力が火球の熱量を操作し、完全に溶け落ちる事無く。
構えたシールドから伝播した熱が腕を焼く。
駆ける。
火球をかき分けるように、黄金の鎧を赤熱させながら。
ず、と、オーディンの黄金の鎧を、切っ先の無い大剣が貫く。
未だオーディンは火球を割り切っていない。
アギトの力でかろうじて即死は避けられる火球を何故陽炎が撃ったのか。
目くらましだ。
受ければ死ぬとしても予知の力とアギトの持久力であれば何時まで経っても千日手が続く。
だが、手塚の予知は文字通りの未来視。
攻撃される瞬間を視覚的に捉える事ができていないのであれば、手塚は予知能力で攻撃を回避する事はできない。
思いついてしまえば簡単な話だ。
最初から勝てる戦いではない。
戦いになった時点であらゆる未来が途切れる。
死ぬ。
では、死ぬと決まっている戦いで、何をするべきか。
獣肉断ちに貫かれた黄金の鎧が、更に刃を押し込む様に一歩進む。
「何?」
何のことはない。
火球に飛び込んだ時点で、アギトの力の守りもライダースーツの守りも越えて、内部のアギトと化した手塚の肉体は死滅していたのだ。
黄金の騎士を動かしていたのは。
肉体の死と共に消えつつあるアギトの力。
融解した鎧の腕、手の中。
アギトの、火のエルの力のかけらを用いて守った、最後の切り札。
──無数の未来、無限とも思える破滅の未来。
永遠とも思える旅路の未来。
それらを捨てて。
手塚は一つの
「タイムベント」
―――――――――――――――――――
アギトの力とは。
本質的には物事に切っ掛けを与える火種に過ぎない。
無から宇宙を生み出す切っ掛けであり、分岐した闇の対が光であった為に光のテオスであり、火のエルになった。
故に、アギトの力の派生系は光のそれにとどまらない。
手塚海之の辿り着いた力の形を、あえて例えるのであれば。
時のエル。
或いは。
アギトタイムフォーム。
―――――――――――――――――――
「これは」
そこは、荒野だ。
時の列車の走る荒野。
かつて知ったる、知識の中でだけ確認できる場所。
いや、はたしてそうか?
見える。
神の列車を強奪したライダーを惨殺し、そのままガオウライナーを乗っ取る俺が居る。
見える。
鬼と化す技術として修練された妖術を復旧させ、人類敵対種族に対抗できる様に人類全体を強化する計画を進める俺が居る。
見える。
無限に湧き出るオルフェノクを始末するため、ジルをオルフェノクですらない何かへ変貌させ、オルフェノクを狩り出す為の技術を普及させる俺が。
見える。
見える。
見える。
幾つもの未来、ありえるかもしれないいつかの可能性。
手塚の見た未来、だけではない。
手塚の視界でない、俺の見た、俺の見る未来が見える。
「これが、本物の予知能力者の視界か」
俺の力ではない。
手塚の力の残滓が、俺に擬似的な時間旅行をさせている。
ここで知り得た知識ですら、完全な形で持ち帰る事は難しいだろう。
それほどに、手塚が得た進化は俺と方向性を異ならせている。
だが。
「これを見せるなら、最初からデッキを渡した上で説明してくれれば良いものを」
それとも、説明したとしても、俺はこれらの結末のどれかに辿り着いてしまうと思ったのだろうか。
バカバカしい話だ。
知ったのであれば、それを下地に改善する事はいくらでもできる。
より上手くやれるのだ。
いや。
そういう考えをする、と、知っていたからこうして見せたワケだ。
「ふん」
笑ってしまう。
どこの分岐で素性を明かしたかは知らないが、まるで人のことを人より知っていると言わんばかり。
その上、身の丈に合わない戦いで命を落とすとは。
…………鏡の世界だけに、鏡でも見せて来たつもりか? ん?
「これで仏心の一つも出さなかったらなぁ」
俺の心の広さが、テオス未満みたいになっちゃうじゃないか。
糞が。
これだから予知能力者は嫌いなんだ。
こいつふんふん言い過ぎじゃない?
うんちトークが好きなんじゃ無ければ星くずであった可能性
ふんふんァ!ふんふんふんふんァ!ふんふんァ!ふんァ!ふんふんァ!ふんァふんふんふんァ?ふんふんァ〜!
っし川ぁ!
でも男の子はみんなうんちとかちんことかの雑トークが好きなのでうんち好きな可能性はあるな……
あ、バトルはこれ以上長引かせる展開が思いつかなかったのでこんくらいで勘弁してください
まあそもそも内容からして前回時点で思いついてたのとは微妙に違ってたりするので予定とかあてにならないなぁと
ラストバトルなのに短めだけどまぁそういう年もある
来年は下手をすればバトルすらなく一話で終わり可能性あるからへーきへーき
☆仮にも人間であるライダー相手に残虐ファイトを繰り返した結果ついにテレ朝の朝からテレ東の深夜帯に移動して闇落ち魔戒騎士と化した仏心無理矢理引き出されマン
ユナイトベントで全部の力を融合させてミラーワールドのライダーフォームからデスメタル製の鎧を纏う感じにする予定は結構あった
あったけどその時点ではおでんサバイブ全部のせ相手に後出しで披露して圧倒してデッキ剥ぎ取るくらいの漠然としたイメージしか無かった
戦闘前に手塚が説得を試みるのではなく降伏してデッキを渡してきた場合は協力者として取り込み、未来予知で擬似的に原作知識を知る相手としてそれなりに気を置かない仲になれたりしたらしい
無数のベターエンドとかいつか辿り着くJUDOルートとかの場合いわゆる同性の相棒枠を手に入れられていたのだなぁ
何が悲しいかってバトルとシリアスしかない話だからあとがきもこの様にボケのない味気ないものになる事なのだ
なお仏心は神崎士郎には向かないし、今回のユナイトベントと疑似時間旅行でテオスの力の制御もよくなりつつあるので捕獲も可能になる
☆アナザールートの相棒枠にして龍騎編のラスボスにしてアギト編ラストのテオスがぶちまけた力に直撃した被害者にして占い師にして強めの覚醒を果たした時を司る属性の新たなアギトにして愛のあるホモ
なんで命を賭してまで主人公が地球を変に歪めたりするルートに行くのを止めたかって?
ホモだからだよ
ホモなのに未来の世界でちょいちょいフォロー入れつつも相棒枠やってる年下の逞しい美少年との記憶とかが流れ込んできたんだよ
自分に見える未来では必ずどこかでその少年の最初の思いが歪んでしまう姿を見ているしかできなかったからだよ
Q,つまり?
A,愛、ですよ
何故ここで愛!?
いや、だからこそここで愛!
どれくらい愛かっていうと怪しい仲だった親友の死によってアギトの力が覚醒を始めるくらい愛の人
龍騎編のあとがきでさんざんホモ呼ばわりしていたのはこの伏線だったのだ
嘘なのだ
こいつれんちょんの今カノの元カレルートもあるから厳密にはバイなのだ
でも愛でここまでやれる男なのでこのSSでは実質ホモ
なお仏心を出すのを期待して命をかけたが、神崎士郎が色々されるのは恨みもあるしべつにいいかなって
☆遠くから聞こえてきた遠吠え
契約モンスターである契約者小春交路こと未確認生命体二十二号との融合を果たしてついに声帯を得たロードインパルスくん
実はユナイトベントを使う際、契約モンスターであるロードインパルスも同時にユナイトベントを使わなければならないという縛りがある
このユナイトベントが成立した時、場にある契約モンスターロードインパルスの全ステータスとスキルを擬似ライダー陽炎融合体と同一のものとして扱う
また、ユナイトベント発動から1ターン経過した場合、デッキからロードインパルスをサーチして場に攻撃表示で召喚する
つまり戦闘が長引くとロードインパルスが乱入してくるのでホモは融合後に短期決戦を挑んだりしたのかもしれない
融合時は巨大で真っ黒な金眼の狼みたいな姿をしているぞ!
☆これからひどい目にあう神崎士郎
突如として占い師が凸してきて襲いかかってきたのでミラモン使って対応したら妙に強かったのでオーディンを出したらデッキを奪われる
まぁオーディンに変身すれば自我は奪えるし……
みたいに考えてたら超越精神を乗っ取れずにデッキを持ち逃げされる
なんやこのライダーバトル
まぁええわタイムベントしたろ、と別のオーディンを使おうとしたら何故かタイムベントが発動出来ず困惑
めっちゃ蚊帳の外
繰り返しになるがこれからひどい目にあいます
占い師さんがラスボスというのもこの展開も急すぎるという人も居ると思うのだけど
龍騎編のラストはこうだと思いついて書いて投稿してしまったので龍騎編のラストはこうなのだ
思いついてしまったものを思いついていないものに変えて欲しいというのは難しいニャンねぇ……(ねっとり)
まぁ占い師さんを重要ポジにするという話はしていたから別にええやろ!
なお人と同じサイズのFAGをあてがってバディものをさせる予定もあったけどお流れになった
或いはアフターとかで手塚へのお礼(別腹)として渡される可能性もある
無感情気味のロボ娘が占い師の手伝いをする中で感情をゆたかにしていく様子を描きたくなったら唐突にそういう話を書くかもしれない
ヒューマギア?キョーダイン?
知らんなぁ
二期以降の話はディケイド挟まない限りだいたい無効だよ!
そろそろえっちな話とほのぼのな話が書きたいのです
なので次回でエピローグ書いて泣いても笑っても龍騎編は終わり!
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくおねがいします!
エピローグ後にアギトの後と同じ様にライダーあんまり関係ない日常話とか書くと思うんですけどそういうの嫌だなーって人はなんか555編始まったなーと予感を得てから見直して貰えればなって思いました
正義の系譜、主人公もヒロインズも関わらずというのは決まってるんですが関われそうな人が居るっちゃ居るのでやろうかと思うんですけどアギト解決から四ヶ月後にするか2004年4月に取っておくか決めかねるという贅沢な悩み
多分すげーショートというか部分的なエピソードになると思うんですけど気が向いたら書きますし気が向かなければ描かないです
そういうわけで、今年もそういう流れでよろしければ、感想など大いに書き連ねつつも次回を気長にお待ち下さい
※追記
感想で言及されてたのを見てAlive A Lifeを聞き直してみたんですよ
一番サビ、なるほど全体テーマとしてそれっぽいなー、と久しぶりに主題歌を楽しんでいたんですが
二番サビ回りが今回ラストバトル手塚の心境過ぎる上、その直後の歌詞が未来を見せられちょっと心変わりする主人公ぽくてビビる
主人公が他のどのライダーよりも強くいのちの砕け散る音を鳴らし続けた龍騎編は原作主題歌を下敷きに作られでもしたのだろうか……(他人事)