オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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71 龍殺し

もっとエグいタイムベント乱発ルートを想定していたのもあって、現状、とても上手く計画は進んでいる様に感じる。

それというのも神崎優衣に迫る危険を徹底的に排除するヘキサギア・改良型光学迷彩搭載チームのお陰だろう。

更に言えば旧神崎邸の思い出の絵に一枚残らずUVカット素材を使ったラミネート加工を施したのも良かった。

旧神埼邸の見た目を変える事なく内部構造と地下構造を作り変えて今から数えて数十年後(この世界なら数年後とかに唐突に在野の天才の脳みそから生えても可笑しくないが)の最新式の耐震構造に作り変えてあるのは確実にプラスに働いたと思う。

念の為に室内に何故か置いてあった水の入った花瓶は絵からなるべく遠ざけ、水は捨てて中身を消毒して乾拭きして乾かした後に生花の代わりにプリザーブドフラワーを生けておいたのも影響があったのかもしれない。

 

因みにドライフラワーでなくプリザーブドフラワーを生けたのは、プリザーブドフラワーの製法を人間としての命を失ってミラーモンスターとしての命を入れて人間の如く振る舞い生きている神崎優衣と掛けた、バレたら神崎士郎がちょっとブチギレそうな小粋なジョークとして機能しているのは言うまでもない。

交渉が決裂したらドライフラワーになるか、瞬間凍結でパリパリになるか……まぁ、そこはどうでもいい。

ぶっちゃけた話、この人が死んでも死ななくても何かに影響があるわけで無し。

いや、ミラーワールドへの干渉能力とかを考えると死んでいて貰ったほうがいいのか?

ミラーワールドを予備戦力を詰め込む箱庭惑星Ziとして使うならイレギュラーになってしまうので不都合な存在とも言えるが。

どうなるかは神崎士郎次第。

彼が一言、交渉の後に『優衣を助けてくれ』と言ってくれれば救われる。

それだけの話だ。

 

しかし、お手々を繋いで協力するか手足を落として箱に詰めるかなんてのは如何にも気が早い話だ。

対戦相手のライダーは残り二人。

オーディンもカウントすると三人だが有る種景品でもあるので除外するとして。

ついにここまでやってきた。

思えば遠くへ来たもの。

 

ここまで来るのに……ライダー抹殺計画に夢中になってしまい気づかなかったが。

時間をある程度自在に操れる、まさに新しい世界!

そこに繋がる鍵はすぐそこまで迫っているのだ。

こうして振り返る事が無ければ、オーディンのデッキも知らない内にゲットしていたなんて落ちも待っていたかもしれない。

そういうあっけない勝利もオッケーと言えばオッケーなのだけれど。

 

そうも行かないのがこのライダーバトル。

絶妙にこちらの探索範囲から外れて動く謎の占い師を最後に残すならば、次の相手はあの新人記者。

俺は主人公補正、なんていうオカルトは信じない。

……などと、このオカルトもSFも溢れる世界で言えるほど間抜けではない。

 

神。

超能力。

超古代文明。

蘇り。

異星人。

不死。

妖怪。

時間移動者。

魔族。

ぱっと思いつくだけでもこれだけの異常が確実に存在している世界で、現在の科学で立証できない程度の謎を非科学的と否定するのは馬鹿のすることだ。

 

運命を引き寄せる力。

周囲の人間の運命すら巻き込む、竜巻の如き運命力を持つ人間、いや、あらゆる存在が発すると言われる業子(カルマトロン)の影響力が極めて強大な人間というのは確かに存在する。

或いは歴史上の偉人、強大なカリスマを持つ人間もこれで説明ができるのだが、ある意味で言えばこの新人記者もまたこの異常者の一人と言えよう。

 

そう、異常者である。

誰も彼もが願いを求めて戦うライダーバトル。

確かに願いが叶うなどという保証も無い中で、誰もが命を賭けるほどの願いの為に戦う。

そんな中で、ただただ、人を殺すのは、殺し合うのは良くない。

だから、戦いを止めよう!

……そんな曖昧な思いのまま剣を振り拳を振り、龍を操り戦う恐ろしい戦士だ。

 

願いを定めるまでの新人記者、いや、城戸真司は確実に今年一番の異常者である。

凄まじき戦士ですら、それに成るための儀式を繰り広げる候補者達ですら、彼に比べたなら正常な戦士だ。

この願いの為なら命を賭けてもいいし、人の命を奪う行為すら厭わない、そんな気持ちであれば、おっかなびっくりでも、ためらいながらでも、人は戦う事ができる。

だが城戸真司には、最後の最後、死に至る寸前までの城戸真司にそんなものはない。

 

戦いを止めたい、無意味な殺し合いを止めたい、というのは一見して願いの様に見えるだろう。

だが、彼がその命題を掲げて戦うのは、何らかの決意を持ってのものではない。

一般的な常識道徳として殺し合いは良くないし、彼の良心道徳に反する行為だから止めているだけなのだ。

 

思うだけなら誰でもできる。

人の命は地球の未来だ。

一つの命を救えば、それは無限の未来を救うことに繋がるのだ。

そう唱えるだけなら誰でもできるだろう。

 

だがそれを、鎧を身に纏い、剣や槍、銃を構えて殺し合いを行う相手に言える人間がどれだけ居るだろうか。

ましてや、それを伝えるために武装して、戦いの間に割って入る事のできる人間が如何程存在するというのだろうか。

 

常に戦場に身を置き、武器を使った人間同士の殺し合いを見慣れた人間が何らかの天啓を受けてそういう献身的な思想宗教に目覚めて行うというのならわかる。

そういった人間は狂ったかどうかしたのだろうと思える。

だが、彼は違う。

彼の人生が暴力と闘争に塗れた道のりだったなどという事実はどこにも存在しない。

彼は一般的な家庭に生まれ、一般的な学生生活を送り、一般的な企業に就職した極普通の、とても真っ当な人生を送ってきた一般人に過ぎない。

格闘経験すら無い彼の人生に闘争という概念は無縁であったと言っていい。

 

祭りの取材に行ってそのまま神輿を担いでしまうタイプの馬鹿、という彼を表す評もある。

それは確かにその通りで、彼は一種空気に飲み込まれやすく、何事かあればそれに没入してしまうタイプなのだろう。

一歩離れてものを見る事が出来ないタイプだ。

並べ立てれば並べ立てる程、善良では有るが記者には決定的に向かないタイプではあるのだが……。

 

今回の、今年の、ミラーワールドにおけるライダーバトルでの彼の立ち位置はまさしくそれだ。

祭りに巻き込まれて神輿を担いでいる。

彼自身は叶えたい願いなど無いにも関わらず、周囲に殺し合いをしようとしている人が居るので、それを止める為に命がけの戦いをしてしまえるのだ。

一歩引いて考えれば、戦う必要のない位置に居るのは直ぐにわかるだろう。

ドラグレッダーに狙われるというのなら、それこそアドベントなりなんなりで呼び出した上でナイトにファイナルベントでもしてもらって殺してもらえばいいのだ。

だが、それを思いつかないし、恐らく、思いついてもしない。

関わってしまった人が殺し合いを続けてしまうから。

 

創作の世界において、悪党はいつも楽しそうに笑っていて、善玉はいつも苦しそうに悩んでいる、という話がある。

悪の組織は幹部同士がバチバチに牽制しあっていても、内部の小さなグループはそれなりに楽しそうに作戦立案をしたり談笑したりしている。

対するヒーローはと言えば、戦いに関係ない部分では笑っているが、戦いに関してはいつも難しそうな顔をしている、というものだ。

原因は目的意識の差なのだと俺は常々思っている。

 

悪党には大体の場合、達成可能かはともかく、明確な願いがある。

世界征服なり、金儲けなり、嫌いな人種の抹殺なり浄化なり。

勝った先には自分へのご褒美が待っているし、彼らの起こす悪事は大体の場合は願いの成就に繋がるものだ。

なんなら暴れる事、生き物を殺す事、戦う事こそが愉しみという社会不適合なタイプの悪党なら、何か行動を起こすたびに楽しくて仕方がないだろう。

 

なんとなれば、ミラーワールドのライダーの大半はこっち側に分類される。

それが病で先が短い人生を長くする為だとか、意識不明の恋人を治したいとか、そういう一見していい話に見えるものであってもそこを否定する事は誰にもできない。

何故なら、彼らは自らの願いを叶えるために、自分以外のライダー、主催側のライダーを除いても十一人にも登るただの人間を殺す事を許容しているからだ。

幸せになりたかっただけなのに、などというが、そのために殺しを許容したならば十分に不幸になる資格があるし嘆く資格はそんなに無い。

 

対し、ヒーローと呼ばれる人種には戦いに対する明確な願いが無い。

大体の場合はまず悪党が居て、彼らから被る被害を減らすための戦いを行うもの、抵抗者こそがヒーローと呼ばれるからだ。

みんなの笑顔を守るために。

良い言葉だ。

そして、それを唱えた人は、人を殺す事の罪をはっきりと自覚し、全て背負ってしまう程に善良だった。

彼の奮闘は実を結び、殺人種族による被害者はひとまず増えることは無くなった。

だが、彼自身の笑顔は守られただろうか。

戦いを終え、自らの手を見た彼の瞳には何が写っただろうか。

守りきったみんなの笑顔か?

彼が善良であればあるほど、手のひらが、拳が、数十人の古代人の血によって真っ赤に染まっている幻影を見る事になるだろう。

今、あの人は上手く笑えているだろうか。

人に見せられる笑顔を取り戻せるのは何年後の話になるだろうか。

 

守ろうとしたものは、脅かされる事が無ければ元からそこにあったものでしかない。

それを守れたという達成感と安堵を得ることができるとして、数え切れないキルスコアはずっしりと背中にのしかかってくる。

 

だが。

城戸真司は厳密に言えばこれですらない。

大別すればヒーローと言える。

その他大勢からすれば正しくヒーローと言っても過言ではない。

人々を襲うミラーモンスターと戦うだけであれば。

 

極論を言えば、人をミラーモンスターの餌として食わせるタイプの一部ライダーを除けば、ライダーバトルに参加するライダーは、無関係な人間にとってそれほど害のない存在である。

殺人バトルを仕掛けて一般人を殺し合わせたとか、そもそも凶悪犯であるとか、そういう連中はライダーバトルとは関係なくただの危険人物なだけだ。

ミラーワールドのライダーはその性質上、遭遇したミラーモンスターを餌にするため、生きている間は表の世界の住人にとって有益であるとすら言える。

更に言えば殺し合いはライダー同士で行われる為に一般人への被害は無い。

 

しかし城戸真司は。

人に害するモンスターを倒す。

その上で、人を害する事すら許容して殺し合うライダーを、命を賭けてまで殺し合わない様に戦うのだ。

 

何故か。

人を殺すのが悪いことだからだ。

身近な誰かが危険だからでもなく。

人類愛に溢れているからでもなく。

彼の良識がそうすべきだと訴えるから。

武器を持って戦うのだ。

 

理屈は理解できる。

ありふれた一般論だ。

だが、それを実践する為に命をかける馬鹿が何処にいるのだろうか。

そんなの居るわけ……東京に居るじゃないか。

城戸真司だ。

恐ろしい話だ

城戸真司は恐ろしい男だ。

 

よくよく考えれば考える程、そこまでして、命をかけてまで戦う理由が無いこの人、いや、こいつが。

参加ライダーの中で極端に強くて。

最後の最後の方まで生き残っているという事実が恐ろしい。

 

俺は、怖いものは嫌いだ。

わからないものも嫌いだ。

何処でこちらに敵意を向けるかわからないから嫌いだ。

城戸真司という人間は、ただの人間として見るなら好意に値する馬鹿だとは思う。

だが、彼はライダーだ。

天才的と言っていい戦闘センスを持ち、竜巻の如き運命力を持ち、ライダーの戦いに割り込んでくる。

或いは、完全に威力を発揮する様に使えばダグバの攻撃すら上回る威力を振るえる。

そんなものが、俺の願いの前に立ちはだかってくる。

 

恐ろしい。

わからない。

怖い。

 

そして、俺はこれまで、そういったものに対して一貫した対処法を取ってきている。

彼を、ライダーではない、ただの人間に戻してしまおう。

 

―――――――――――――――――――

 

「ライダーバトル参加者も、残り三名になりました」

 

そう切り出したのは、真司にとってはあまり馴染みのない相手だった。

ライダーバトル参加者の一人であるらしい、陽炎というライダー。

真司が何時ものように見習い記者としての仕事を終え、暗い夜道を帰る中、この男は現れた。

変身を解くことすらせずにそう切り出した男は、顎をしゃくる様にして近場の公園を示し、異様な程に静かな公園へと真司を誘い出した。

 

「元のライダーの数は知っていますか」

 

真司は首を振る。

十二人のライダーが願いを叶えるために戦っている、という、基本的な部分は真司も覚えている。

そのために殺し合うなんて馬鹿げていると思っているし、ライダー同士の戦いを見かけたなら直ぐにも止めてやろうとさえ思っていた。

が、実際のところ、真司が真っ当にライダー同士の戦いを目撃した事は一度たりとも無い。

自分以外のライダーは占い師である手塚と蓮の二人しか知らず、その片割れである蓮にしても先日叶えるべき願いが無くなりライダーバトルから脱落したばかりだ。

一度見た戦いにしても、手塚と蓮の戦いのみ、自分が止めるまでもなく手塚がまともに戦うつもりが無かったためにお流れになった半ば模擬戦のような戦いのみ。

 

「そんなに、減ってたのかよ……」

 

ベンチに腰を下ろした真司が、肘を膝に載せてがっくりと項垂れる。

手塚と蓮と自分は、なんだかんだとやり合いながらも殺し合いをする事もなく過ごせていた。

だから、他所のライダーもそれほどまともに戦ってはいないのでは、と、無意識に楽観していた。

或いは、蓮がライダーバトルから脱落し、手塚がいつしか姿を見せなくなってから、ライダーバトルそのものから意識が逸れていたと言っても良い。

稀に現れるミラーモンスターを倒し、契約モンスターである龍に餌を与えるだけの日々。

無論、野良のモンスターとの戦いもまた命がけのものではあったが、人と人の命のやり取りではなく、害獣駆除に近い感覚だったのかもしれない。

それだけに、すでに九人のライダーが命を落としているという現状に、現実に引き戻された気分だった。

 

「生き残りは勿論、貴方、占い師の人、そして、俺です」

 

ちゃき、と、両腿側面の装甲から生えた突起に陽炎が触れる。

陽炎の戦いを見たことが無く、強いショックを受けている真司には気付くことができないが、それは陽炎のサブウェポンである可変蛇腹剣であるビーストマスターソードの柄。

変身していない生身の真司と、変身し武器に手で触れている陽炎。

ともすれば、戦いの始まる前から一瞬で決着が付きかねない状況だ。

或いは、ライダーの残り人数を最初に教えるという行動自体がこの状況に持っていくための罠だったのか。

 

「棄権していただけると助かります」

 

指先で剣の柄を弄り、今にも逆手で抜剣しそうな動きをしながら、陽炎は項垂れる真司に声を掛けた。

 

「貴方が止めたいと思う戦いは、もう起こらない。貴方が戦わない限りは」

 

ぱちん、ぱちん、と、手慰みに音を立てて抜剣と納剣を繰り返す。

 

「貴方達はもう、デッキを放棄するだけで、願いが叶う」

 

「でも、それじゃあ、モンスターが出た時に、戦えない」

 

「ご心配無く。もうミラーモンスターによる被害者は増えません」

 

「なんでそんな事言えるんだよ」

 

「それは」

 

剣を弄る音が止む。

 

「貴方の周り以外で、ミラーモンスターはこちらの世界に来られないからです」

 

「え?」

 

真司が顔を上げる。

 

「他の人間、一般人であればミラーモンスターなど存在しなくても問題ありませんが、ライダーとなると話が代わります。餌を与えなければ、ライダー自身が食い殺されてしまいますからね」

 

「じゃあ、あんた……ミラーモンスターを操れるのか」

 

「いいえ、ですが」

 

きぃん、と、ミラーモンスターの出現を知らせる共鳴音が一瞬だけ鳴り響く。

音に反応する様に立ち上がった真司はしかし、すぐさま止まった共鳴音に戸惑い、それを見る。

暗がりの中。

鏡の中に光る眼、眼、眼。

眼だけが光る四足の機械の獣の群れ。

それら獣の口に、引き千切られた金属片の如き物体は、ミラーモンスターの残骸か。

獣の群れの中、一際大きく、洗練されたデザインの一匹の口の中、元が如何なる形だったかもわからないミラーモンスターの頭部が、ぐしゃりと噛み潰され、光の粒となる。

顔に纏わり付く光の粒子を振り払う様に、或いは全て捉える様に首を振り、

 

くおぉぉぉ────

 

大きく身を反らし天を仰ぎ見る獣の全身から出る駆動音は、控えめな遠吠えの様に。

共鳴する様に、追従するように動く無数の子機の駆動音が鳴り響く。

デッキを持たぬものにとってみれば静かな夜。

だが、デッキを持つライダーからすれば、夜の森の中で狼の群れに囲まれたかのような感覚に陥るだろうか。

 

「ミラーワールドは、半ば俺の物となりました。ライダーが居なくなれば、ミラーモンスターをこちらに出す必要も無くなります」

 

「……あんたが、モンスターを出してたのか」

 

「貴方が間に合う範囲で、貴方の龍が餓えない程度の頻度でね」

 

「じゃあ、俺がデッキを渡せば」

 

「ミラーモンスターの被害者は増えなくなります」

 

「……それ以外の被害者は?」

 

ほう、と、陽炎が感嘆の声を漏らす。

ここまでの会話で、僅かに違和感はあった。

陽炎はミラーモンスターをミラーモンスターと言う。

しかし、真司はモンスターとしか言っていない。

それは陽炎の知識の中では当たり前の事だったが……。

無数のモンスターが犇めくこの世界において、それは重要な意味を持つ。

 

「警察が対応しますよ」

 

「間に合わないかもしれないだろ」

 

真司の言葉に、陽炎は顎に手を当て首を傾げる。

 

「多くの犯罪は起きた時点で手遅れで、警察の仕事は原因の特定と対処、後始末と次の発生を防止する程度のもの。……それに文句を言うのはお門違いでは?」

 

「それでも」

 

振り返り、陽炎と向き合う真司。

その手の中にはドラゴンのエンブレムの刻まれたカードデッキ。

 

「これが、誰かの命を守る力なら……、俺は」

 

真司の腰に浮かぶVバックル。

デッキが装填され、真司の姿が静かに龍の騎士へと変わる。

仮面ライダー龍騎の姿へ。

 

「俺は、戦う。デッキは渡せない」

 

溜息。

 

「少しだけ、神崎士郎の気持ちがわかった」

 

音もなく短剣を引き抜く陽炎。

鏡の中の無数の眼が、一斉に龍騎へと向けられる。

待機状態の薄い青から、警戒色の赤へ。

 

「死んで治れ」

 

―――――――――――――――――――

 

変身し、鏡の中へ向かおうとする龍騎の身体を、鏡の中から飛び出した機械獣の顎門が捉える。

ミラーモンスター程度ならば食い千切る程の咬合力にも龍騎の装甲は軋まず、そして、機械獣もまた噛み殺す為に喰らいついた訳でもない。

一般的なミラーモンスターの捕食行動と同じく龍騎をミラーワールドの中に引きずり込むと、咥えていた顎が開き、

 

『ソードベント』

 

ぎん、と、その下顎が切り落とされた。

力任せの斬撃。

しかし、龍騎のソードベントのAPは2000。

これは理想的な形で威力を発揮した時に限るが、通常表記にて100tの威力を発揮する事が可能な凶器。

魂の通わないマシンであれば、無理な体制からの一撃でも紙くずの様なもの。

 

しかし、相手もまた命通わぬ機械。

下顎を切り落とされたところで行動に支障は無く、即座に追撃が可能だ。

ばぢ、と、切り落とされた顎から紫電を漏らしながら、巨大な金属塊である身体を振り回し龍騎へとタックルを仕掛ける。

が、龍騎は僅かに早くその懐に潜り込み背後に走り抜ける。

遅れて爆発音。

タックルを躱された機体が爆散。

自爆ではない。

周囲を包囲する機体が破損した機体諸共に龍騎への砲撃を行ったのである。

 

機械的に調整された聴覚で無ければこの時点で龍騎の鼓膜は弾けていただろう。

直撃せず、爆風や爆炎に晒されずとも身体を震わす爆音は最適な音量に調整されて龍騎の、真司の耳に届く。

無音のミラーワールドを支配する爆音を背に、走る、走る、走る。

ふと、背筋に悪寒。

振り向き様に振り抜いたドラグセイバーが火花を散らす。

軽い感触。

走りながら身を捩る様に見たのは、宙を舞う無数の金属片とワイヤー。

陽炎の振るう蛇腹剣、ビーストマスターソード。

だが、その持ち主の姿が見えない。

 

かっ、と、龍騎の頭部に軽い衝撃。

振り向かず、転げる様にして横に跳べば、龍騎の視界にはもう一本のビーストマスターソードを短剣の状態で振り抜く陽炎の姿。

振り抜かれた剣先が掠めたのだろう。

ゴロゴロと転がりながら音のした辺りを触れば、僅かに残る切り傷。

通常であればファイナルベントを食らってもそう変形する事のないライダーの装甲が明確に切りつけられた痕を残していた。

 

『シュートベント』

 

『ガードベント』

 

銃撃音。

正確無比な弾丸が転げる龍騎を狙う。

デッキの破壊を狙う軌道、バイザーの端を狙い脳震盪を狙う軌道、視界を火花で塞ぐための顔面を狙う軌道。

飛来したドラグシールドがそれを受けて吹き飛び、地面に落ちる寸前で龍騎の手がそれを受け止める。

ドラグセイバーを地面に突き刺し起き上がり、二枚のドラグシールドを両肩に装着。

ドラグセイバーを引き抜き、

 

『ホイールベント』

 

駆ける。

陽炎の呼び出した無数の回転鋸が地面を斬りつけながら無数の軌道を描き迫る。

周囲を遠巻きに取り囲む機械獣が断続的に放つ砲撃が、景色を炎に包む。

ただ元からの装甲と、両肩に取り付けたドラグシールドだけを頼りに走り抜ける。

剣の心得も無く、野球のバットを持つようにしてドラグセイバーを握りながら、二本の短剣を手にしたまま悠然と佇む陽炎の元へと。

 

『アドベント』

 

右手をドラグセイバーから離し、カードを切る。

星すら見えない夜空から赤い龍が降りてくる。

地上の砲火に照らされその赤い装甲をより赤く染めながら、魂の宿らぬ機械の獣を焼き払っていく。

いや、それはもののついでに過ぎない。

赤い龍、ドラグレッダーの真の標的は黒いライダー、陽炎に他ならない。

 

『ソードベント』

 

陽炎の黒い鎧姿にもその契約モンスターにも似つかわしくない、煌めく紫の刀身を持つ金と白の豪奢な大剣(アーセナルアームズ)

ずっしりと腰を落とし、迫る龍騎と真っ向から切り結ぶ構え。

 

「お、お、りゃぁぁぁぁ!」

 

かつ、と、軽い金属音。

僅かに拮抗し、龍騎が大上段に振り下ろしたドラグセイバーが振り抜かれ、陽炎の肩口から斜め下へ。

真っ二つになる陽炎。

僅かに動揺する龍騎。

殺すつもりは無かった。

どうにか納得できる決着を付ける為に、と、そこではたと気付く。

ドラグセイバーを振り下ろした感触があまりにも軽い。

そして、斜めに両断されたはずの陽炎の身体が、倒れる事もなく霞の如く消え失せた。

後に残るのは、折れた大剣──ではなく。

砕け散った、宝石の如き透ける刀身の短剣(マギアブレード)のみ。

 

「赤心少林拳」

 

陽炎の声。

叫ぶでもなく、しかし砲撃音の中でもなおはっきりと聞こえるその声は。

龍騎の目の前ではなく、はるか上空。

地上を焼き払うドラグレッダーの目の前。

獲物を探していたドラグレッダーの目の前に突如として現れた陽炎の足元には、先に龍騎が砕いたものと同じ半透明の刀身の短剣。

見れば空中に飛び石の如く同様のものが浮かんでいる。

だが、ドラグレッダーからすれば獲物が文字通り火の中に飛び込んできたに過ぎない。

その口に5000℃にもなる炎が生まれ──

 

梔子(クチナシ)

 

天地上下に構えた陽炎の両腕が、ドラグレッダーの上下の顎を思い切り閉じた。

自らの生み出した炎が口内で炸裂する衝撃。

いや、それはドラグレッダーにとって痛痒にも値しない。

しかし、閉じられた顎門は陽炎の二本の腕に挟まれる形でひしゃげ押しつぶされている。

 

悶絶するドラグレッダーの目の前、ふわ、と、音もなく陽炎が跳ぶ。

宙返り気味に前に飛んだ陽炎の両腕は、天地上下でなく、左右に、交差する鋏の刃の如く構えられ、

 

「寒椿」

 

龍の首を、跳ね飛ばした。

 

―――――――――――――――――――

 

赤心少林拳、梔子は本来額と顎を同時に撃ち抜いて意識を奪ったり脳障害を狙うし、

寒椿は左右こめかみを打って意識を奪ったり脳挫傷を狙ったりする技な訳だけれども。

狙う位置をちゃんと調整すれば顔面を削いだり喉を裂いたりできるとても強力な殺人技なのだ。

師範に教えてもらう際に、罪もない人間に振るうのは余り宜しくない、みたいな話をされた覚えがある。

この現代で殺人拳を公言する黒沼流にも最低限のモラルがあるのだなぁと関心しきりだ。

 

当然、彼らよりも余程現代的で人間社会に適応している俺は言うまでもなくそんな殺人技を罪もない人間に打つ事はそんなに無い。

城戸真司相手に使うとなんやかや対応されそう、という不安もある。

運命力というのは実際に存在するのだ。

故に契約モンスターを潰す。

当たり前の話だ。

俺が自分の利益の為に簡単に罪もない人を殺したりするように見えるのだろうか。

ぷっぷのぷーというものである。

 

「さて」

 

地に落ちるよりも早く光の玉になったドラグレッダーだったものを前に座り込むロードインパルスに『よし』の合図を出し、振り返る。

これで、仮面ライダー龍騎は居なくなった。

城戸真司それ自体は怖い相手ではない。

稀にナイトのデッキを回収して復活したりするのだが、この時間軸において既に一般参加者用のデッキはライアのもののみ。

ブランクデッキになってしまった参加者を神崎士郎がどう扱うかは知らないが、契約のカードの再配布などが無いとも限らない。

 

「溶けて消えるより早く、元の世界にお返ししますので」

 

マギアブレードを手の動きで操作し、デッキ目掛けて射出。

咄嗟に腕でデッキを庇う龍騎。

ああ、あれでは腕が取れるかもしれない。

表に出たら繋いであげなければ。

 

がきん、と、重い金属音。

マギアブレードがブランク体の装甲を貫く音にしては重い。

いや、そうではないのは、正しく龍騎のデッキを破壊する過程を見守っていたからわかる。

 

赤色を失い、ほぼ無力化された元龍騎。

その前に差し込まれた、黄金の盾。

から、と、地面に落ちたブレードを踏み砕く茶と黄金の脚甲を備える足。

 

仮面ライダーオーディンが、城戸真司を庇うように、その姿を表していた。

 

 

 

 

 

 

 





ライアさんはまともに戦うことも無く脱落ですね
所詮奴は新作外伝でホモにされた小物……味方ライダーの面汚しよ
クリスマスを同性の親友と二人きりで過ごしていたから元から疑惑はあったって?
うん
正直クリスマスに時系列とか無視したクリスマス回とか書きたかったけど
そんな思いついて即座にネタを作って書けるほど速筆ではないのだ

☆正義のヒーロー的な生き方に理解があまり及ばない一般人経由乱入ムセギジャジャ経由ン型暗躍マン
それでも命がけで戦ってる中に割り込んで兎にも角にも戦いを止めようってのは中々居ない精神性じゃない?
まだ誰かを守るための戦いとかなら理解が及ぶ
世の中の平和のためとかも百歩譲って理屈は理解できる
でも勝手に殺し合ってる連中を止めるというのは理解できない
理屈はわかるけど実際割って入るのはどっかネジ抜けてないとできないと思ってる
それだからン人公とか変な称号を付けざるを得なくなるんだよなぁ
初期に比べて戦力的余裕が出てきているが……

☆実は神崎優衣が巻き込まれたのに巻き込まれる形で、とか、ミラモン被害を防いでいたら他ライダーから喧嘩ふっかけられて、みたいな形が多い新人記者
OREジャーナルが万一倒産せずに存続しても一人前の記者になれたかと言うと微妙な適正
剣闘士とかなら一山当てれたかもしれないね!
或いは単純に便利屋とかさぁ……
あ、便利屋は連鎖的に世界観が小説版に成るからNGなんですが

☆十数年経ってもまともに笑顔を出せなくなってしまった旅人
今センチメンタル・ジャーニーしてるとこ
ゼクロスが十号、ZO、J、真、ブラック(RX)でプラス3なのでたぶん十四号
でも正直本編後で得意技だった笑顔すら傷ついてしまった五代さんを正義の戦いに巻き込むのは色々悲しいと思う
もう五代雄介はただの旅人だ、じゃ駄目なんですかね?
え、被害者が出た時点で本人が戦いに向かっちゃう?
そう……

☆ドラ/グレッダーくん(捕食済み)
強いけど初期ナイトからみても良い餌になりそうだ判定を食らうので単体で勝てない程強い訳ではない
ナイトデッキを使っても強い城戸真司と違って誰が契約者でも強いみたいな描写が無いので懐に潜り込まれたら割と死ぬ
陽炎が相手でなくても多分ファイナルベントで普通に死ぬんじゃないかなぁ

☆救いのヒーローおでんくん
一枚絵を思い浮かべようとして団子剣を構えたパルタがどんどんずずんと歌っている構図が浮かんでしまい一瞬元のおでんくんが浮かばなかった
餅巾着はセブンイレブンのが一番美味しい気がするけど、色々バカッターとか見た後だとコンビニ売りのおでんは買うのが怖くなっちゃうよね
汁と具がパックの状態で売ってるのでそれを買うのも手
おでんを扱ってる酒飲まずにご飯だけ食べれる飲み屋とかあればいいんですが……孤独のグルメ二巻のお店みたいなの
龍騎編ラスボス(強化済み)
ホントは別のラスボスを用意する予定があったけど急遽こうなった
どうなったかは次回


最後ら辺をどうするか悩んでいた龍騎編ですが
すごく大雑把な予定表がちょっと大雑把なシナリオ表くらいにまとまったのでそろそろ終盤というか
実質次回がラストバトルです
次回か次次回まで使ってバトル書いて
その次でエピローグ書いて
そんで龍騎編終わり!

予定!
去年もクリスマスくらいにラストバトル直前だったから、だいたい一つのライダーに一年使ってる……
アキレスと亀かな?
まぁ龍騎で空いた一年で他の年のライダーの映画版とか小ネタとか拾いつつ、555は本当に短く纏まると思うので
剣で不死身ファンタジアな敵相手に死なない相手だからこその残虐ファイトをしたり(剣崎とムッコロ救済あり得るかも)
響鬼はたぶん修行の年で
カブトは原作に行く前にダカブトの子とのロイスを結びに行きたい
電王も劇場版多めだからこれは少し関わるくらいにして
キバも、原作突入前に手に入るものがイクサベルト以外にあるからそれも触れたい
ディケイドに行く前に、というか、たぶん555の前の幕間で自力ループの中でイクサのお姉さんの関してもがっつりヤりたいヤラせたいとかやらしい話だとは思いませんか
何年かかるのこれ
一期完結までにどれくらい読者の人らが付いてくるか……
まぁ、ついてこれる奴だけついてこいッ! ってアイドル大統領も言ってるし……
来年以降の話をしたらわらわ笑っちゃうし……
それでもいい方は次回も気長にお待ち下さい

良いお年を

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