オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

61 / 207
60 御馳走!栄養満点のおやつ!

季節も6月となれば、梅雨も近づくというもの。

ミラーワールドにも水があり、風がある。

太陽光もあれば温度もあるので、理屈の上では季節に見合った気候になっていくのだろう。

だが、基本的にミラーワールドは人為的に手を入れない限りは表の世界の鏡写し。

 

不思議なものだ。

人間が丸々居ない。

そもそも表の世界の動物が居ない以上、かなり大気質は変わっている筈だ。

それでいて、植物は観測した範囲内ではそのままの状態で存在している。

動物だけが存在せず、植物のみが活動を続ける世界。

それは幾ら建物や見た目が鏡写し程度の差異で存在していると言っても、最早別の世界と言っていいのではないか。

 

実際、動物的な動きをする植物というのも存在する。

有る種の食虫植物などは言うに及ばず、オジギソウなどもそうだ。

そもそも植物は動物と区別こそされているが、タイムスパンが異なるのみで成長の過程で明らかに生存の為に能動的に動いている。

 

例えば微生物は?

そも生物は構造が単純なものに近づけば近づく程植物と動物の区別が曖昧になっていく。

その中にあって、ミラーワールドにおいて植物のみが明確に存在を許されるのは何故なのか。

明確な理由は存在するのか。

理屈だった答えがあるのか。

 

ミラーワールドとは何なのか。

媒体によっては神崎優衣がミラーモンスターとともに作り出した世界だと説明する場合もあるが、本当にそうなのか?

生き物の群れを作るのと、世界そのものを作るのではそもそもの規模が違う。

この世界における禿げていない禿げ事ロン毛のテオスがどうかは知らないが、世界的宗教のトップである禿げですら、世界を作るのに7日(休息含む為実働時間は6日)をかけている。

テオスの下位互換の超能力者といえど、いや、だからこそ、無意識下であれ意識下であれ、容易く一つの、現実世界の鏡写し、などという大規模な世界の創造は難しい筈だ。

 

今年の終わり、戦いの終わり、神崎士郎の諦めの果てに、ミラーワールドは閉じられる。

実際、あの終わりの後、神崎士郎と神崎優衣は何処に行くのか。

消滅するのか、それともあの世と呼ばれる場所に向かうのか。

あの子供時代の二人が絵を描いている部屋はあくまでもイメージの話なのか。

それはわからないが、実質的に神崎士郎の知識が失われてしまう以上、ミラーワールドやミラーモンスターに関わり合いになる人間は新しく生まれない。

その後のミラーワールドを知る者は居ない。

後の世で閉じたミラーワールドへの干渉を行うものも現れるが……。

あれが、今年に存在しているミラーワールドと地続きの世界であると何故言えるのか。

ミラーワールドをミラーワールド足らしめている今現在の状態は、極めて危ういバランスの元で成り立っているのではないか。

 

少なくとも。

現時点でミラーワールドなる異界が存在しているという事実は大きい。

これから、一年の後に、或いはそれよりも前に、それよりも後に、消えてしまう可能性があるにしても、だ。

まだ、ミラーワールドを使ってできる事は多い。

そして、だとしても、だ。

何時、ミラーワールドが消えても大丈夫なように手を打っておく必要があるのも事実だろう。

 

―――――――――――――――――――

 

「…………む、む、む」

 

掌を上に向け、唸る。

以前にジルと難波さんが、テオスに取られる寸前だったとはいえ、自力で火のエルの力を体外に排出したことがあった。

そうでなくとも、少なくともアギトの力として成立する寸前のアギトの力が、本人の意思と他人の補助があれば移譲できる事は確認されている。

なので、なので……。

 

「ぬ、ぬ、ぬ……」

 

手の上に、ほわ、と、光が浮かぶ。

アギトの力……というより、生命の火だ。

人間の命、という訳でなく、どちらかと言えば肉の器を破壊された後に出てくるエルの生体エネルギーに近い。

或いはファンガイアなどはこれをライフエナジーとでも呼ぶのだろうが……。

器を定めて作られたもの、肉の生き物として生まれてくる人間から採取できるものよりも余分が少ない。

しいて言うなら……光酒と呼ばれるものに近いか。

 

「あ、こら、ジル、突くな」

 

ほあー、と、惚けるように口を開けたジルが掌の上に浮かべた光を人差し指で突く。

それだけで光の塊はゆらゆらと揺らめく。

分類として、アギトの力ではなくテオスの権能とも言える力である為か、まだ制御に不安があるのだ。

ちょっとした刺激で出力が増幅されてしまいかねない。

その証拠に、ジルが突いた端から輝きが増している。

蛍光灯で明るい部屋の中、それでもなお眩さを感じる程に明るい。

仮にこれを魔石の戦士の腕力やアギトパワーなどで思いっきりぶっ叩いたりすると、破裂して周囲一帯の住民がいきなりアギトになってしまう可能性もあるので乱暴な運用は許されない。

 

「ロードインパルス」

 

部屋に新たに備えた姿見に、のっそりとした動きでロードインパルスが映る。

機械的で必要なパーツのみを組み合わせて辛うじて獣の顔のような造形になっただけのそれは、当然ながら表情を作るような機構は備えていない。

が、内蔵したセンサーが何処を向いているか、というのはとても分かりやすい。

鏡に映る時、最初からそのセンサーは鏡越し、こちら側の俺の手の中に向いている。

それなりに大きい姿見に大きく映るロードインパルス。

鏡に映る俺を塗りつぶして大写しになる、という事は、俺よりも更に鏡に近い位置に、言ってしまえばすぐにでも鏡から飛び出せるような位置に陣取っているという事になる。

なおかつ、指示を待たずに勝手に鏡から出る訳でもなく、お座りに近いポーズで待機している。

顔、センサーは俺の手の上の生命エネルギーに向いており、俺の顔と交互に見比べている様にも見える。

 

「…………」

 

生体エネルギーをロードインパルスの鼻先に差し出したまましばし無言。

当然、ロードインパルスも何も命令を出していないので動かない。

が、度重なるミラーワールドとの行き来により、鏡の向こうにまで俺の探知範囲は拡張されている。

鏡に映らない範囲では、部屋の内装を破壊しつくさんばかりの勢いでブンブンとトリックブレードが振られている。

 

「……よし! って言ったら食べていいぞ」

 

フェイントに反応したロードインパルスの顔面先端、センサーの先が鏡に振れて水面に振れたように鏡面に波紋が生じ、再び戻る。

くるるる、キュゥン、と、カメラアイがズームインとアウトを繰り返す音が聞こえ、先程よりも姿勢が低く、怒っているようにも元気をなくしている様にも見える。

まぁ、冗談はここまでだ。

 

「よし」

 

許可を出すと共に、鏡から、ぬ、と顔を出すロードインパルス。

その開けた口がエネルギー塊に齧りつく……寸前。

横から伸びた手が、ひょい、と輝く光球を掻っ攫う。

あ、と、俺が声を出すより先に、ジルが口元を手で抑えてもぐもぐと咀嚼するような動きを見せる。

食ったのか……。

と見えるかもしれないが、ジルが被ったタオルケットがわずかに膨らんで輝いているのが俺の角度からだとわかる。

そもそも物理的な存在ではない為に重みも硬さも無いのだが、あの一瞬でくすねたエネルギーを背後に回しタオルケットに隠すとは、大したものだ。

最近テレビでマジック特集が頻繁に行われているのでその影響かもしれない。

悪影響の類だが。

 

が、それは見ているのが俺だからわかる話だ。

ロードインパルスからすれば捕食できる筈だったエネルギーが口の中に入らず、横を見れば何かを食べているようなジルが目に入る。

そしてエネルギー塊はジルの真後ろのタオルケットの下、死角だ。

よくよく注意深く見ればジルが僅かに後光を放っている様にも見えるのでバレバレなのだが……。

 

ぐるぅ、ぐおぅ、ごぉん。

近所迷惑になりそうなエンジン音が鳴り響く。

ばきん、と、前足付け根側面にパーツだけ配置していたアームが弾け、動き出す。

見れば、ちょっとした小型火器をマウントできる程度だった筈のアームがメキメキと音を立てて伸長し、ロードインパルスの唸り声に応える様に甲高い、ジェットエンジンの吸気音にも似た音鳴り始めている。

段階で言えばまだまだ発生する筈のない機構なのだが、感情の爆発によって進化が促されてしまったのだろうか。

が、多くのミラモンを圧倒する程の出力を持った今のロードインパルスでも、この武装を運用する程のエネルギーは蓄えていない筈だ。

そもそも周辺環境を汚染することを前提として設計した武装なので、俺の部屋で使われるととても困る。

 

ごつん、と、ジルの頭頂部に拳を落とし、背後のタオルケットを剥がしエネルギー塊を取り出す。

すると甲高い吸気音が途切れ、ロードインパルスが手の中のエネルギー塊に顔を勢いよく突っ込んだ。

仮にも金属の塊であるロードインパルスが勢いよく顔を突っ込んだ手は、俺が常人だったなら確実に複雑骨折級の被害を受けていただろう。

それを知ってか知らずか、生命エネルギーの塊を貪り終わったロードインパルスは顔面先端のセンサー内蔵部を掌に擦り付けてくる。

小刻みに、曲線多めの軌道で動いている為か首のアクチュエーターがキュゥキュゥと音を立ててやや不安になり、頭部を抱えるように引き寄せると顔全体を押し付けてきた。

金属特有の冷たさ、そして、ミラモン化した影響で奇妙に生物的な柔らかさ、新たに取り込んだ生命の火による、装甲奥に感じられる熱の脈動。

 

取り敢えず、加工には成功したようだ。

ミラーワールドが仮に何かの拍子に崩壊したとしても、表の世界で存在し続けるのにそれほどの不都合はあるまい。

頬を膨らませ、シャツの裾をぐいぐいと引っ張ってくるジルを残った片手で宥めながら、溜息。

これはあくまでも保険に過ぎない。

神崎士郎がミラーワールドを舞台にライダーバトルを行っている以上、俺が想定するよりもミラーワールドは安定した世界である筈だ。

だが、あの大天才である神崎士郎にしても完璧な頭脳という訳でもあるまい。

今年のうちにどうにかなるかはわからないが、何れは空間、世界そのものを補強する様な技術も手に入れる必要が出てくるかもしれない。

……明確に、表側の世界に対するミラーワールドの様な特異な立ち位置に存在する異世界というのは俺の知る限りでも珍しい。

あるいは、時間の因果から切り離された世界の一つもテオスの力で手に入れることができたのなら、そこに移住する、というのもありかもしれないが……。

現時点では夢物語だ。

 

本当に。

心の底から安心して生活する、というのは、存外に難しい。

 

―――――――――――――――――――

 

さて。

武力に寄る危険への対応力を維持あるいは継続的強化しつつ心の底から平和な生活を満喫するのであれば、日々の鍛錬を欠かす事は許されない。

例えば殺怪人ドローンをばらまいたとして、それで安心というわけではない。

機械である以上は乗っ取られる可能性は十分にあるし、あるいは乗っ取られずとも構造を把握されてしまえば生産力に勝る怪人組織などがあった場合にパクられて殺人ドローンを配布されかねない。

どう足掻いても自己強化を怠る事はできない。

 

できないが、だからといって、自衛のための自己強化の為だけに人生という恐らくは限りが有ると思われる時間を全て費やしてしまうというのは本末転倒だ。

自分の体にさらなる破壊力と耐久力と速度と持久力、頭脳に新しい知識と智慧と発想力が生まれる度に嬉しくなってしまうというのを否定するわけではないが、そればかりが人生の喜びではない。

三大欲求は抑えない限りは発生するし、年頃の少年としての楽しみもそれなりにある。

そればかりに時間を割くというわけではないが……。

単純に、何かのプラスになる事ばかりを考えて時間を使うわけではない事は確かだ。

結果として地球総人口がプラスになるかもしれない行為も余暇の一部で行っているが……、避妊しているから大丈夫。

まだ家庭を持つとか育児とかを考えられる程の余裕は無い。

俺は俺の安全を背負うだけでまだ精一杯なのだ。

 

つまり、遊ぶ時間が欲しい。

毎日毎日雨ばかりになりつつあるこの微妙な季節に何を言っている、という話になるが、このタイミングだからこそ、だ。

同学年の友人たちは大半が受験へ向けての追い込みで時間を取れないが、俺は違う。

魔石直結脳のお蔭で学習能力と演算能力の高さには自信があるし、これで日々に予習復習だって欠かしていない。

 

いや、あえて言おう。

正直、浪人したところで死ぬわけではないのでそこまで受験は重視していない!

それで掛かるお金に関しても、最悪、自費でどうにか出来るし……。

兎にも角にも遊ぶ時間が欲しいのだ。

 

不真面目に思われるだろうか。

生き残るためにもっと真剣に戦いを続けるべきだろうか。

どうやら安全であるらしい元殺人儀式系狩猟民族出身の義理の妹だとか、どうしてか自分との肉体的な交合を許しあまつさえ自ら求めてくれる可愛らしい異性の友人が居るならそれでいいじゃないか、贅沢を言うな、と。

だが、だが!

 

確かに、合間合間に遊んではいた。

だが、基本的には生存重点の日々だったと言っていいだろう。

高校一年、グロンギとの戦いの事ばかり考えていた。

高校二年、マラークを率い、最悪、人類を自殺だけで滅亡させることができる神をどうするかと悩み続けて。

その果ての今年なのだ。

なにやら願いの為なら他人を殺してもいいと思って戦う連中が勝手に殺し合って、ついでにミラーモンスターがちょいちょい行方不明者を出すだけの今年なのだ。

父さんが何らかの事件事故に巻き込まれて死んでしまうかもしれない問題は、ミラーワールドに不定期にばら撒いているヘキサギアのお蔭でほぼ解決していると言っていい。

三年目にして十分に余裕のある年になったのだ。

そう、高校三年。

高校生としての最後の年だ。

最後の年!

 

勿論、時間制御技術は欲しい。

喉から手が出る程欲しい。

が。

その準備は着々と進みつつ有る。

 

少しくらい。

少しくらい、今年くらいは、前の二年より、自由時間多めで良いのではないだろうか。

それが許されない程、この世界は狭量ではないと思う。

 

現時点で、陽炎の正体が、というか、変身者が俺である事は神崎士郎には気取られていない、筈だ。

少しの期間、ミラモン狩りやライダーバトルを中断しても、押し掛けて来てキィンキィン鳴らしながら『戦え……戦え……』と、いにしえのロボットアニメやヒーロー特撮のOP主題歌の如く急かし立てる事はないだろう。

そもそも、俺はこの時点でカメレオン、白鳥、カニ、サイと四人のライダーをガワも中身も破壊している。

最終目標であるオーディンを除けば全ライダーの三分の一を撃破しているワケだ。

挙げ句、先日は神崎士郎に先んじてライダーバトルを活性化させそうな参加者を増やしてもみせた。

今現在、一番ライダーバトルに貢献しているのは間違いなく俺と言っていいだろう。

 

正直に言えば、火砲の威力を高めたり種類を増やしたりするのに弁護士を倒したりしたいのだが。

……飛び道具、って、見た目は派手なのに、何故か決まる気がしない。

実際どうなのか、というのはわからないが、少なくとも俺は飛び道具一本で仕留められた事はない。

ガメゴは仕留めきれず、ジャーザに至ってはまともに当たったかも怪しい。

マラーク相手のもの、自衛隊出身の出来損ないを纏ったなりそこないは藁束を薙ぎ払ったようなものなのでカウントしないとして。

 

実際問題、推進力を内蔵した燃料に依存するロケットや発射時に与えられた運動エネルギーにのみ依存する銃弾や砲弾は、理屈として防ぎやすいというのもある。

当たればかなりの相手を殺せる神経断裂弾にしても、結局は当たらなければどうという事も無い。

基本的に、当たっても平気だから避けない、というのはありえない選択だからだ。

俺の知ってる技術でも当たったらゴやンでも危険そうな武器があるのだからして、俺の知らない知識の中にも当たったら危険な武器は多くあるだろう。

だから、避けられるものは避ける。

勿論、手段を増やす、という意味ではいずれ手に入れるべきだろうが……。

 

俺の居ないタイミングでオーディンが顔見せをする可能性も無いではないが、これにも手は打ってある。

浅倉に渡した特製疑似デッキに括った人造ミラーモンスターであるハイドストームは内蔵したセンサーから得た情報を常にロードインパルスに送信する機構を内蔵している。

更に言えばあの疑似デッキによる変身及び戦闘ログも同上。

残ったライダーで自発的に他のライダーと戦おうというのは弁護士と浅倉くらいのもの。

ここを見張っておけば高確率でオーディンの顔見せに間に合う、という寸法だ。

 

そこに至るまでに、占い師さんが自分の占いを外す為に命を懸けて死んだりするが……。

どうしよう。

神崎優衣の護衛として生かしておくべきか。

しかしここから神崎優衣に危害が加わるような場面はほとんど無い。

香川教授製造の疑似デッキが完成すればまた話は変わってくるが、既に参考にできるタイガのデッキは無い。

というより、疑似デッキが完成するまでにライダーバトルを終わらせてしまえば話は早い。

今回は早めの顔出しに合わせて初遭遇だが、オーディンの出現時期を早めようと思えば早めることは難しくない。

なんなら香川ゼミに残った資料と試作デッキを定期的に破壊してしまえば遅延工作も難しくはない。

香川教授に完全記憶能力が有るために完全に防ぐ事はできないだろうが……。

まぁ、いざとなれば倒すのも難しくはない。

そもそも神崎優衣の周辺、ミラーワールドの中には、神崎優衣が知覚できない範囲からヘキサギアを監視と護衛につけている。

 

神崎優衣の事を自由に狙える人物が居ない以上、占い師さんの身の安全は重要ではない。

彼には本懐を果たしてもらった上で自由になって貰おう。

 

彼には自由になってもらう。

ついでに、俺も少しばかり自由を満喫する。

なかなかに無い感覚だ。

戦いの中で戦いを忘れる。

今の今までやろうと思ってもなかなかできなかった事だ。

 

何をしよう。

改めて休もう、遊ぼうと思うと、きっちりとした予定がなかなか浮かばない。

春の行楽の季節は過ぎ、夏の盛りはまだ遠い。

季節に関わらない遊びは日頃から多少こなしてはいるが、改めて遊ぼう、というタイミングでとなると、首をひねる。

別にゲーセンに一日籠もりたい訳ではない。

公園で一人あそぶというのも中々に虚しそうだ。

受験シーズンである今年に学友を頻繁に連れ出して遊びに行くのも気が引ける。

難波さんに至っては週に何度も家に来て勉強をしたり、休みの日にも暇を見ては外に連れ出してくれている、このうえ、更に時間を奪って何処かに連れ出すというのは問題が有る。

ジル、或いはグジルを連れ出す、というのも一つの手だが……。

あいつはあいつで最近は母さんから料理や裁縫などを教えて貰っていたりと、下手をすれば俺よりも親子らしいことをしている。

 

自由な時間を取れるのは良いが、どうにもタイミングが悪かった気もする。

だが、先延ばしにするには、俺の心はもう絶対に休んだり遊んだりする方向にシフトしてしまっている。

主、曰く、新しい酒は新しい革袋に盛れ、だ。

少し違うか。

焼き肉と決めた胃袋には焼き肉を入れろ、の方が近いか。

思い立ったが吉日、それ以降は全て凶日、でもいいな。

 

例えば、ツーリング、というのは、意外と悪くないのではないだろうか。

もう普通に免許を持っているし。

青森、は、いつも行ってるから除外。

……やっぱり長野かな。

戸隠流忍法資料館は行ってみたいところではあった。

鬼が居る以上、変身の技術として妖術があるのは確定している。

もしかすれば、変身忍者や化身忍者が活躍していた痕跡くらいは見つけられるかもしれない。

技術として気になる所では有るが、純粋に好奇心が掻き立てられるところも良い。

長野の美しい自然を満喫するのも良いだろう。

コンビニで線香とかを買って九郎ヶ岳に行くのも悪くはない。

 

うん、うん。

遊ぶ、というとご近所と思い込みがちだが、脚があるのだから遠出しても良い。

ちょっとした小旅行(ショートトリップ)というのも乙ではないだろうか。

二連休を使えば、或いはその前日夜に出発すればなお日程に余裕が出る。

 

 

他のライダーが脱獄犯や野良ミラモンに四苦八苦している間に、俺だけが休む。

中々痛快じゃあないか。

酒飲みのツマミで下戸が飯を食うが如し。

酒に合うものはご飯に合う、みたいな話だ。

つまりご飯に合うものは酒に合う。

じゃあ、あんこは酒のつまみになるのか。

今度父さんが帰ってきたら勧めてみよう!

なんか秘蔵の酒が無くなってたとかでしょぼくれてたし。

 

カレンダーを確認。

次の休みが……二連休!

ではない。

仕方ない。

しかし気分が盛り上がってはいるので、前日夜から移動開始でいいか。

行きは高速道路かっ飛ばして。

景色を楽しむのは昼間にすれば良し。

なんなら帰りはこっそり転移すればいいし。

行程は適当、ぶらり旅だ。

 

くぉん。

 

姿見から犬の切ない鳴き声の様な音が。

見れば、少しだけ身を小さくしたロードインパルスが、鏡の中で行儀よくお座りしている。

尻尾も振らず、姿勢を正している。

出番か?

みたいな雰囲気というか。

お出かけ?

みたいな雰囲気というか。

ゾアテックモードではさほど目立たない座席部分が心なしかピコピコと上下している様にも見える。

だが、残念。

ビークルモードは車検を通っていないので表の世界の公道ではまだ走れないのだ。

今回ロードインパルスはお留守番である。

 

短い排気音が連続してヘッヘッヘッへと鳴り響く。

やる気に満ち溢れている様にも見える。

表情をつけられる様な変形機構は頭部には無いのだが、どこか使命を帯びたような顔をしている。

さぁ、命令しろ!

といったところだろうか。

だが、バイクはお前ではないのだ。

そもそもお前は正式にはバイクではないのだ。

排気量がどれくらいかという疑問もあるので車検を通るかも怪しい。

悪いな。

 

そう思いながら視線を外す。

しかし、鏡の中では、ロードインパルスが焦れる事もなく、じっとお座りを続けている。

じっと、こちらを見詰め続けている。

………………。

 

―――――――――――――――――――

 

「なぁるほど、それでサイドカー」

 

「急ごしらえですけどね」

 

夕刻。

長野探訪を終えた俺は、ついでとばかりに立ち寄ろうとしたカフェ・マル・ダムールの前で鉢合わせたイクサの人と合流し、なんやかやと夕食を御馳走になっていた。

イクサの人もまたバイク移動だった為に並走する事になったのだが、視線が時折サイドカー及びそこに搭載したものに視線を取られていた。

 

「ま、そんなかわいいコにおねだりされたら仕方ないわよねぇ」

 

テーブル対面に座る俺の隣、体を丸めるようにして待機している中型犬……に偽装したロードインパルスの子機に視線を向け微笑む。

そう、結局、ロードインパルスを完全に置き去りにする事ができず、ロードインパルスの主観を移した子機を連れ歩く事になってしまった。

途中立ち寄った自然公園でのフリスビー遊びが思ったより楽しかったのには謎の敗北感を味わわされた気分だ。

外装を偽装しつつも隠しきれないぶっといトリックブレードをブンブン振り回しながら喜ばれるのもそう悪いものではない。

が、風を受けてビロビロに広がる外装(きぐるみ)の口元から零れ出る子機のメカヘッドが対向車にバレやしないかと冷や冷やしたりもしたので考えものだ。

 

「撫でさせてくれたらもっといい子なのにねぇ」

 

「警戒心が激しい奴なんで、許してあげてください」

 

「いいわよ、でも、その分は君が可愛がられてくれるのかしら」

 

と、いたずらっぽく笑うイクサの人。

ぬー。

偶に思うのだけど、このイクサの人は人の年齢を少しばかり幼く見すぎではないか。

警戒心が薄いことはイクサのベルトとイクサナックルを借り受ける意味では喜ばしい事なのだが。

勿論、本当に警戒心が薄いのであれば、当初の予定通りぐっと押して押して、犯罪にならないラインで強引に関係を持って、スタミナと若さとで押し切って、意識もなく動けない状態になった所でイクサの装備をじっくりと解析させてもらう。

が、しかし、イクサの人のこういう態度は幼気な青少年男子を誂う、ちょっといけない大人のお姉さんムーブなのだ。

俺自身はこういうムーブで接されるのが満更でもなく、誂われるのもちょっと楽しいので余暇の最後らへんの時間をこうして過ごす事に一切否はないのだけれど。

 

「……そういう事、誰にでも言ったら嫌ですよ」

 

ホントの本気でイクサの人を狙う人であれば、このタイミングでぐっと前に出て攻勢に出る事も十分ありえる。

イクサのベルトを持っている、という点が重要な人ではあるが……。

無闇矢鱈と何かの被害にあってほしい訳ではない。

勿論、何かされても余裕で反撃して切り抜けてしまうだろうけれども。

 

「へぇぇぇぇー……」

 

にま、と、いたずらお姉さんな感じの笑顔が、ネズミの玩具を見つけた猫の様な表情に。

ああ、変なスイッチを入れてしまったのか。

 

『臨時ニュースです』

 

ふと、つけっぱなしにしてあったテレビから硬い声が聞こえてくる。

逃亡中の脱獄犯、浅倉威が再び警察の包囲網から脱出した、という旨の話だ。

まぁ、別段驚くような話ではない。

ミラーワールドと表の世界を行き来できるデッキが使用できる状況であれば、警察がどれだけ厳重に包囲したとしても意味がない。

そして、仮に浅倉が変身した状態で警察の包囲に飛び込んだりしたなら、大惨事になる。

警察は引き続き神経断裂弾などを常備しているが……ミラーワールドのライダーに対しては一般的な武器はさほど通用しない。

正直、防御性能だけで考えればここ三年の間ではずば抜けている。

攻撃性能にしても中々のもので、シザースのファイナルベントですらダグバの通常のパンチを上回る打撃力を秘めていたりするのだ。

力づくで包囲網を突破なんて事をすれば、たちまち警察官の死体の山が積み上がってしまう。

 

いや、それどころか、後先を考えないのであれば、自分を追跡する警察を全てミラーモンスターに食わせる、という選択肢も生まれてしまう。

死体は残らず、邪魔者は消して、なおかつ契約モンスターは強化される。

それをしないのは、大事にすると対策を練られてしまう事を本能的に感じ取っているからだろうか。

実際、浅倉はその凶暴性にそぐわない、いっそ理性的とも取れる振る舞いが多い。

放送時間帯の都合、というのもあるのだろうが……。

現実に存在する以上、学と理性が無くとも馬鹿ではない、という事なのだろう。

それなりに学も理性も戦闘センスも正義感もあるのに満場一致で馬鹿扱いされる新人記者とは対照的だ。

 

「怖い話ですねぇ」

 

凶暴なだけの馬鹿ならば良い。

だが、一般道徳を持たず、世間一般人類全般に対して憎しみとも取れる鬱屈とした感情を秘めた、野生の本能とも言える危機回避能力を備えた相手となると、これが困る。

 

「嘘つき」

 

「はぁい?」

 

先まで笑っていたイクサの人が、何処か探るような視線を向けている。

 

「全然怖がってない」

 

それはそうだ。

俺は浅倉に力を与えた。

当然、浅倉がそれに恩を感じる訳でもない。

いっそ偉そうな奴、イライラする、ぶっ殺してやろう、程度には考えているかもしれない。

だが、それは俺が与えた方向性なのだ。

何処に刺さるかわからない敵意の切っ先を整えた。

 

何処に飛ぶかわからない弾丸は怖い。

でも。

もう俺は、自分に向けられる力を恐れない。

自分に敵意と害を向けるものがあるのなら、持てる力を以て、粛々と対応していくだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 





どうしてこんな原作に絡みがない話になってしまったかと言えば
原作を構成する要素が既にズタズタになってしまっているからなんじゃ……
って、アギト編でも似たような言い訳してたなって
残りライダーが少ないから少しづつ味わうように戦うのだ
というか、既に龍騎編がクウガ編の話数に迫りつつあるのでそろそろ雑ループを挟んでクライマックスに突入しても良いのかもしれない
劇場版は別ループって事で、なんかループしたら微妙に前提が変わってた、から始めて一話で終わらせても良いし……

☆実質モノローグと室内でのペットへの給餌だけで一話を終わらせる男
グロンギ狩り世界チャンピオン!
龍騎編終わった時点でライダー技術が消え去って主人公の手元にのみ残る、そんでミラーワールドが残るとすると、鏡の世界とかいうフリースペースがまるまるこいつの手に渡ってしまうので色々と面倒になる
どう使うかはわからんが、多分悪用しようと思えばいくらでも悪用できる
だからミラワはそのままにするかどうするか
父親に強めの護衛を付ける事に成功しているので徐々に本性が現れてきた感
自分が脱獄幇助した相手が好き勝手しててもさほど気にならない
目撃者もいないし……最終的になかったことになるというのも大きい
身分偽造用の変身とはいえ、変身を見ても特に追求してこない理解力も包容力も有る大人のお姉さんへの好感度は本人が自覚している以上に高い
戸隠流忍法の資料館で見つけたものとは
そもそもこの世界の各地の遺跡に記されてる謎の人間でない人型存在ってもう纏めて全部厄ネタだよなあと

☆犬
犬種はヘキサギアです
なんか特に劇的なイベントではなく念の為でテオスに対するエル的なエネルギーを取り込む
いわゆるイニシエーションとかパワーアップイベントなので決して金の缶詰開ける系のイベントではない
アギトの力……エルの力?で小さくなるとか普通の犬に化けるとか考えたけどそれはあざといので止めた
あくまで巨大な機械の四足の獣なのが良いというワガママ

☆妹枠
ペット飼うの始めてで愛でるよりも取り敢えず構いたくなる系
たぶん実生犬飼ったら鼻先にキンカン塗るくらいの無邪気な邪悪
モーフィングパワーあれば繕い物とかする必要はないけど、出来るなら便利だよね?
向上心の化身!
なお向上心の高さはある意味グロンギの種族的特徴とも言える

☆未成年を夕飯に誘うという口実で家に連れ込むキャリアウーマン風肉弾系戦士
あげく誘惑したりする
こういうからかいをしたりするのは自分の実力への自負もあるけどこれまで積み重ねてきた信頼が物を言ってる
なので今押し倒されると割と困惑したりする
そもそも先輩の息子さんという事と趣味嗜好くらいしか知らないので、色々と興味を持ちつつ有るって程度の段階
次回は遂に龍騎編のメインディッシュなので出番は無い

☆変身時間の制限とかあるけど普通に考えたら立てこもりとかする必要あんまり無い意外とライダーパワーでゴリ押しとかしない凶悪犯浅倉
でも北岡弁護士の住所を調べる手段とかが無かったのかもしれない
でもミラワ経由で盗み放題なのにトカゲの丸焼きとか食ってる辺り意外と自制心が
あ、焼きそば食ってた
じゃあなんで警察の人員を餌にしなかったのだろうかという謎はいつも残る
食わせる餌に態々ミラーモンスターをおびき出したりする理由が思い出せない、作中で言及されてましたっけ
躊躇なく弟を食わせたりしてるのに、見知らぬ人間で契約モンスターの腹を満たしたりしない不思議なやつ
やっぱライダーバトル専用に過去改変されて悪人キャラにされたりしてません?

☆役目を終えた占い師さん
原作通りなら死ぬかも
でもこの世界にはアギト制度があるので超能力者疑惑がある奴はバフがかかるのだ
でも占いで浅倉を完封したりするとそれはそれで占いがハズレないのだけどどうする
そもそもまだ主人公への好感度上がる理由が思いついてないけどどやんす!
最終的にループを終わらせるきっかけになったとわかればいいかなとも思う
占いの内容次第ではサバイブを譲る理由が無くなる

☆ガチャ良し悪し
シンフォギアXD二周年で初めたけど、限界まで限凸させると考えると結構ガチャ糞ですね……普段のログボでどれくらい石集まるかによりますが
それに比べると、アリスギアではない方のアイギスは取り敢えず一体出れば戦力になるし重ねる必要無い分有情に思えてくる
皆も戦略性の高さとキャラの可愛さが見事に両立されている千年戦争アイギスをプレイするギスよ


色々と切れの悪いうんこみたいな回になってしまった
でも書いた以上は取り敢えず投稿
投稿してしまえばウォシュレットの如きさっぱり感を得られるのだ
さっぱりしたので梅雨の湿気で絵がカビる系ループを挟む前にオデン出します
もうオデン倒してゴルトフェニックスと契約して終了で解決しそうだけど……
ちょっとくらいループ重ねたほうが龍騎らしかなと思う
死んでいったライダーの命の重さはどうなるでしょう
キッド君の解答、二倍になった
正解は?
色々書いてる内に変にゴルトフェニックス入手を先延ばしにせずしかし龍騎らしくループさせる手法を思いついた気がする
忘れたらごめん
自分用にメモ『僕の気持ちを裏切ったな!』
なんか勤め先の人らがどいつもこいつも体調崩してて自分も微妙に体調悪くて頭がうまく回らないのです

そんな弱音をあとがきに織り交ぜたりもするSSですが、それでもよければ次回の投稿も気長にお待ち下さい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。