オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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5 助言、それだけを

春休みだ。

春休みなのである。

 

世にオルフェノクやファンガイアを始めとする人間以外の魔族が蔓延り、時折思い出したように自然を満喫するキャンパー達が魔化魍に貪り食われ、恐らく密かにミラーモンスター達が人間を食らい、ワームが着実に人間と入れ替わり続けている。

挙げ句、今年は古代種族であるグロンギが復活して人間狩りのゲゲルを始め、自分はまだゲゲル参加券を持っていると思いこんでいるズ未満の一般グロンギが全国のあちこちに潜伏し、ふとしたタイミングでン・ダグバ・ゼバが手慰みの様にそれらを整理したりしている。

スマートブレイン(焼きたい)は新商品の人間でもオルフェノク(燃やす)でも音楽を楽しめるラジカセ(怪しい)を始めとしたまぁまぁ出来の良い家電製品(これも怪しい)を発売し、鴻上ファウンデーションは世界中で遺跡(粉々に粉砕したい)の発掘(人員焼きたい)を行っていたりする。

 

世界の危機というのは人間を基準にした言い方だから、将来的に人類から区別されそうな身の上からは不適切かもしれないが、端的に言えば人類社会の危機はすぐそこまで迫っている。

迫っているどころか、もう半ば平和な時代は終わりを告げていると言っていい。

なにかできる力があるならやらなければならないだろう。

俺はやりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない、誰か他の人がやってくれるならやってほしい、やりたくないの、やりたくない。

 

しかし、やりたくないけどやるしかないからおれはきょうもやるのだ。

 

だから今日も今日とて近場の山の麓に女声の男と男声の女とでかい動く壁があったので、童子と姫をボウガンで遠距離から射殺してから動く壁は砕いて猛士に匿名で通報しておいた。

前にやった時に比べて、少ない手順で通報まで持っていけたのは、俺の日頃の鍛錬のお陰ではないだろうか。

誰か褒めてくれないだろうか。

誰かに素性ばらして事情話すとか絶対やだしバレたら可能な限り口封じをするつもりだけど。

 

思うのは、魔化魍を人力で砕くのは酷く体力を消耗するという事。

少なくともこれまでまともに相手にしたズのグロンギ二体との戦いとは比べるべくもない運動量だ。

だが良いところもある。

あからさまに化物なので、倒しても肉体的な疲労が残る程度で精神的には一切負担がない。

むしろ地域清掃のボランティア活動を終えた後の様な爽やかさすらある。

やはり殺しても気兼ねしない種族はいい。発生しなければもっといいが。

 

しかし、ジルのリハビリと称して、母さんから遠ざける為のお散歩の途中だったので、戦闘をジルが目撃してしまう事になったが、不可抗力ではないだろうか。

狙撃ポイントに置いていたのに、でかい動く壁を何度も殴ったり斬ったりして細かく割っている最中、狙撃ポイントからずうっと視線が突き刺さり続けていたのは危険な徴候なのではないかと思う。

すわ、戦いの雰囲気にあてられてグロンギとしての本能が呼び起こされたり、生存本能がオルフェノクとしての真の姿を顕にさせたりするのではないか。

と、そんな警戒心を抱きながら狙撃ポイントに戻った俺は、飛び跳ねて喜びそのまま転けそうになるジルに迎えられた。

転けそうになるのを慌てて駆け寄り支えると、声の出ない口で何事かを連呼している。

 

口の形は、う・お・い。

黒い、ではあるまい。まだ黒くないのだし。

すごい、か、つよい、か。

見たままの感想といったところだけど、これ以外のなにか致命的な意味合いの言葉だったりしたら、と思うと、素直に受け取れない。

そも、人間からクウガだかアギトだかの異形に変じて戦う事に恐怖も戸惑いも無い、という点がもう怪しい。

一般常識含む記憶がないからか?

それとも、それがグロンギにとっては当たり前の事だからか?

 

その後、休憩を何度かはさみながら歩いていると、俺の袖に掴まりニコニコと先導されて歩いていたジルが、自分から自販機に近寄り始めた。

補給用のスポーツドリンクは持っていたのだが、味が好みではなかったのだろうか。

母さんから渡されていたお小遣いを使い、なにやらドリンクを買ったジルは、それを俺に手渡し、またもや何かを発言しようと口を動かしていた。

 

『えあいああ、おおうい』

 

袖をくいくいと掴まれ姿勢を低くするように催促された挙げ句、頭を撫でられた。

指も不器用にしか動かないからか、子供がそうする様な不器用な動き。

 

『えあい、えあい』

 

……そういう唇の動きをしている、というだけで、実際に言葉に、音になっているわけではない。

無いが、グロンギ特有のリントにない文化にまつわる言葉でないのなら、何が言いたいのかは、まぁ、なんとなく予測が付く。

天を仰……ごうとすると、頭を撫でているジルがコケてしまいかねないので、瞑目する。

頭を撫でる動きは拙いけれど、細い指が髪に触れる感触は心地よい。

次の瞬間にはオルフェノクとしての真の姿を取り戻し首を折りに来ないか、そう思えば体は緊張しっぱなしだし、思いすごしであるというのなら、それはそれで罪悪感が湧かないという事もない。

頭を撫でられているが、精神的にはまるで逆剥けを繰り返し逆さになぞられる様な……。

 

──世間や世界がどうだろうが、今は春休みだ。

4月になれば高校生活が始まり、新しい人間関係に悩みながら、時に学校を休んででも東京におもむき、グロンギと戦いを繰り広げたりしなければならない訳で。

もう少し、安心して受け入れられる癒やしは、無いものだろうか。

なにせ、春休みなのだし……。

 

―――――――――――――――――――

 

春休みだからと言って、休みを享受する人間全てに等しく癒やしが約束されている訳ではない。

元グロンギの少女を監視しながら、リハビリ散歩コースを歩き、時に道端の土手でふきのとうを採取したり、スタミナ配分や移動距離を調節しそこねて力尽きた時には背に負うて帰ったり……。

癒やしとストレスのどちらをも絶妙なバランスで摂取し続ける生活を送りながら、ふと思い出す。

 

春休み、世間は出会いと別れの季節だなんだと浮かれる中、今年は少しだけ特別な季節。

そう、グロンギのゲゲル参加条件の引き上げである。

ズ集団はこれ以降、ゲゲルへの参加を許されない。

ズ集団の筆頭であるズ・ザイン・ダであっても、後はゲゲルへの挑戦を許されず、明言こそされないものの整理を待つだけの身になるのだ。

本来ならべ集団のゲゲルが予定されていた、などという話もある事を考えれば、今回のゲゲルはかなりの強行軍なのかもしれない。

 

何が言いたいか、と言えば。

メ集団の強さや如何に、という一点に尽きる。

 

別に、もっと強いやつと戦いてぇ! みたいな頭グロンギな話ではない。

これ以降のゲゲルを、俺は止める事ができるのか、という話だ。

勿論、俺は全てのグロンギを倒す、ゲゲルも止めて被害者も減らす、なんていう殊勝な考えを持っている訳ではない。

無いが、東京、というか、対策本部には恐らく父さんが居る。

父さんが矢面に立たされている以上、可能であれば死なないようにしたい、とも思っている。

 

そして、父さんが死なないように、という事は、警察に被害の出るゲゲルには介入し、プレイヤーを倒す、ないし、プレイヤーが警察へ攻撃を加えるのを阻止しなければならない。

父さんだけを庇うという方向性なら身の危険は少なくできるかもしれないが、そうなると身バレの危険性が付き纏い始める。

個人個人の警察官の善性を信じることができたとして、この世界の警察という組織全体の善性を信じるのは難しい。

少なくとも、警察の一部はオルフェノクに対して人権を意識していない類の行動を取れてしまう事は証明されているのだ。

人体改造……いやさ、オルフェノク改造という狂気が、クウガにしてアギトなどというマッド向けの玩具の様なこの体に向けられない保証は一切無い。

 

ズ集団の一部には、俺の力は、俺の戦いは通用した。

だが、メはどうだ。

始まりの段階が全て平等だったとは思えない。

メ集団だからと言ってゲゲルや戦いの経験が豊富であるとは限らない。

だが、少なくとも単純な戦闘能力において、メ集団のそれはズ集団のそれを大きく上回っているのは間違いない。

 

剣術、槍術、格闘術。

クウガの力、アギトの力。

 

俺の積み重ねた力と、手に入れた力。

それは、メのグロンギを倒すに十分か否か。

……試さなければならない。

苦しい思いをしようが、痛い思いをしようが。

望む結果を出せないのであれば、それは無力である事と、何もしなかった事と、何も変わりはしないのだから。

 

―――――――――――――――――――

 

そんな訳で、東京である。

幸いにして自宅近辺の駅から何駅か離れた大きめの街からは新幹線が出ていたり、或いは高速バスが出ていたりするので、バイク移動が不可能であっても移動にそれ程不便はない。

バイク移動はいざという時の逃走用であり、学校のある日に駅を利用して補導されたりするのを防いだり、ともすれば轢き逃げアタックを敢行しダメージを稼ぐためである。

 

移動の資金は……ある。

数字を当てる系の宝くじを度々当てていたりするので、まぁまぁ金はある。

免許が取れる年齢になったら取って、バイクも自費で購入する事になるかもしれない。

最悪、将来は公権力から逃げ回りながら生活する未来だってありえるのだから、蓄えを作っておくに越したことはないので、余り散財はしたくないのだが、こういう出費は仕方ない。

が、それはそれとして、電車賃は出た。

理由はジル。

ちょっと見聞を広げたり記憶を呼び覚ます手がかり探しに、などの理由でジルを同行させると告げたが為に、母さんが渡してくれたのだ。

因みに、そんな理由が無くても子供の移動費くらいは出してくれるそうだ。

 

良い親を持ったと思う。頑張ろう。

ついでに、東京に行っている父さんに愛妻弁当を届けてくれと言われた。

子供に対して父さんへの愛妻弁当云々を口に出せる辺り、母さんは実はかなり豪胆だと思う。

……繊細な人間は行き倒れのズタボロアルビノ少女とか拾わないか。

流石俺の親だ。

来年も、頑張ろう。

 

「ジル、逸れるなよ」

 

こくり、と、ジルが頷く。

黒いパーカーのフードを改めて目深に被せ、可能な限り顔を隠す。

如何に他人に対して無関心な人が多い東京とはいえ、頭の天辺からつま先まで体色が白い美少女など、珍しがって興味を引いてくれと言っている様なものだ。

そうでなくても、東京は現在のグロンギ達の拠点である。

家に置いてくるよりはいいと思ったが、現地で活動中のグロンギとの対面は記憶を呼び起こす鍵になりかねない。

基本的には俺が超感覚でゲブロンの反応を避けて移動する事になるが、イレギュラーはいつだって存在し得るのだ。

はぐれないように、或いは、記憶を取り戻した瞬間に逃げ出したりしないように、袖を掴ませるのではなく、手を掴む。

顔を上げ、見渡す先は大都会東京。

 

「さ、先ずは……観光だ!」

 

「!」

 

それはそれとして、人生にはいつだって癒やしが必要なのである。

平等に癒やしが与えられないのなら、自分から癒やされに行くバイタリティが必要なのだ。

 

―――――――――――――――――――

 

軽くはしゃいで、服を見て回ったり、事前に朝の全国区向けニュースで得た地方暮らしでは一切役に立たない話題のお店の情報を元に美味しいお店で食べ歩きをしたり、ちょっとゲーセンに立ち寄ってみたりしていたら、何故か警察に補導されてしまった。

何故なのか。

黒いフードを目深に被った少女とその手を引く男、という事で、ちょっとどうしたの君ら、くらいの感覚で声を掛けられてしまった。

 

そんな、俺達は警察のお世話になるような風貌では……うん……まあ、怪しいといえば怪しい。

グロンギとかが活動している時期なのだし、警戒を密にするのは大事だと思う。

別にグロンギのゲゲルだけの話ではなく、便乗犯の類を警戒するのは良い事だ。

童顔でも老け顔でもない顔つきと身分証のお蔭で誘拐の類ではないと直ぐに理解してくれたのだし、それは特に問題ない。

 

流れで何故か保護者として父さんが呼び出されたのは良い誤算なのか悪い誤算なのか。

母さんの愛妻弁当を手渡し、電話でしか伝わっていなかった養子にするかもしれないジルの顔見せも済ませる事ができた。

遊び終わって父さんに電話して、仕事終わりに東京に借りたアパートに帰るか職場に泊まりかどうかを確認して移動して、という工程を省けたのは少なくとも良い誤算だろう。

 

鍛錬とアマダムの力で最近やたら向上している腕力からすれば重さは特に問題ないのだが、母さんの愛の重さだけはずっしりと感じられる、運動会のお弁当もかくやという大型の五段重箱は体積的にかさばっていけなかったのだ。

もしかしたらあのお巡りさん、片手に重箱を下げ、片手にジルの手を引いている俺の事を気遣って声を掛けてくれた可能性すらあるのかもしれない事を今更ながらに思い至る。

絶対に警察という組織は信じられないが、警察官個人個人のこういう善性はとても暖かくて、東京に来て良かった、と、少しだけ感じられる。

 

明日の仕事(とつ……と、言いかけて言い直した。突入作戦、と言いたかったのかもしれない)の為に今日も泊まり込みであるため、一緒にアパートには帰れないと言われた為、鍵だけ借りてジルと共に父さんが過ごしているアパートへ。

稀に帰っているだけなのか、ゴミ屋敷という程散らかってもいなければ、整理整頓が行き届いているとは言い難い、ちょっとだけ汚い、でも生活感はそれほど無い部屋。

 

俺とジルが寝るスペースを確保するために掃除していると、書きかけの遺言書のようなものを発見する。

衝動的に破り捨てたくなったが、これもまた必要なものであり、父さんの覚悟の形であり、家族への愛の現れとも言えなくもないのかもしれない。

だが、そんな形で残されても悲しいだけだ。

 

「ジル、明日、もしかしたら知らない人に声を掛けられるかもしれないけど、付いていったら駄目だからな」

 

「──」

 

対面で座布団に座ったパジャマ姿のジルがこくり、と頷く。

眠くて船を漕いでいる訳ではないと思うが、もう一度言い含める。

 

「なんだか覚えがあるな、って思っても駄目だぞ」

 

「──」

 

こくこく、と、頷く。

そして顔を上げ、キラキラとした瞳で此方を見つめ、手に持ったVHSビデオテープを掲げる。

タイトルは『海中絶景世界』。

レンタルではない。

この時代のビデオはそれなりの値段がする。

何気ない元グロンギの物欲が稲造君を俺の財布からベントしていった。

それなりの値段をしたのだが、店頭で流されていたこのビデオの映像を目にし、その場から一向に動こうとしなかったので、購入して後で見ればいいだろうと説得したのだ。

 

「遅くまでは駄目だぞ。日付が変わるまでな」

 

明日も早い。

こいつが眠るまで目が離せない以上、そう夜更かしされても困る。

万全の状態で、試しの戦いに挑まなければならない。

いそいそとテープをビデオデッキに挿入するジルの楽しげな横顔を見ながら、余り夜更かしできないようにと、アパートに来るまでに買っておいた牛乳を温めに台所に向かった。

 

―――――――――――――――――――

 

三月十八日、午前十時十五分。

東京都台東区、隅田川沿いにて。

二体の異形が相対していた。

 

人型にイカの特徴を塗り込めた様な怪人、メ・ギイガ・ギ。

人型にクワガタの特徴を被せた様な、未確認生命体四号ことクウガに酷似した姿の怪人。

 

クウガに似た戦士の背後には、逃げていく女子高生が二人。

ギイガと戦士の間には、砕け散った蒼と金の鉾槍。

 

「ラダジャラゾギデブセダバ、クウガ」

 

砕けた槍は、ギイガの吐き出した爆発性のある体液を受け止め、女子高生の身代わりに砕け散った。

ゲゲルの初めの獲物を守られた事に、いや、狩りを邪魔された事に、ギイガは怒りを顕にする。

今すぐにこの場を離れ、別の標的を探すのは難しくない。

ギイガのゲゲルに設定されたルールは時間制限と人数だけ。

ここで取り逃がした獲物に固執する意味も、クウガの相手をするメリットもない。

 

だが、クウガに因縁を持たないグロンギは存在しない。

眼の前に敵として、ゲゲルの妨害者として現れたのであれば、グロンギの闘争本能はゲゲルよりもクウガとの戦いを優先するのが自然だ。

そして、ギイガはその自然なグロンギとしての考え方に逆らうほど特殊な思考形態を持ち合わせては居ない。

まして、目の前に居るクウガは以前戦ったクウガよりも、今までゲゲルを妨害してきたクウガより、よほど好戦的に見える。

仕草一つ一つが、戦いを誘うもの。

 

「はっ」

 

無手の青い戦士が、顎を逸し、見下すようにして鼻で笑う。

 

「未だにリントの言葉もしゃべれないようなメの雑兵のゲゲルだろう? 妨害が無くても成功なぞするものかよ」

 

青い戦士はベルト側面のレフトコンバーターを押し込み、同時に右側面にうっすらと見えるスイッチを叩く。

ばち、と、僅かな放電と共にベルトが熱を持ち、互いに想定していない形態変化が干渉し合う。

丸みを帯びた頭部、僅かに細長い頭部がノイズの如くチラつきながら重なり合い、全身の装甲が、筋骨格が変容する。

瞬発力よりも粘り強さを重視した肉体、軽さよりも強度を重視した紫と鋼色の鎧。

だが、発達した右腕に、右腕を振るうに必要な筋肉は更に強化され、限定的な瞬発力も兼ね備える。

赤い装甲に包まれた右腕は異様なまでの熱気を放ち、周囲の気温すら高めていた。

 

アークル中央のモーフィングクリスタルに重なる影から、炎に似た荒々しいオーラが吹き荒れる。

握る、というよりも、引き抜く、という意志により掴まれたオーラは、モーフィングパワーを受け取る事で一つの形を得る。

反りのある刀身に、金と赤で装飾された柄と鍔を持つ長剣。

燃え盛る炎の刃、フレイムセイバー。

それを赤と金の装甲に包まれた肥大化した右肩に担ぎ、手のひらを上に向けた左手でギイガに手招きをする。

 

「怖くないなら、掛かってきな」

 

返答は、言葉でなく行動でのみ示される。

言葉より攻撃が早く出るグロンギの中で、とりわけギイガはその傾向が強い。

闘争本能が強く堪えが効きにくい、という訳ではない。

そこらは平均的なグロンギと変わらない程度でしかないが、ギイガの場合は口は喋るだけ、食べるだけの器官ではない。

口吻から吹き出された体液は何らかの物質に触れると爆発する性質を持ち、彼が嘲り、侮り、挑発などに反射的に返すものとしては手足を使ったものよりも余程早く、感情に直結していた。

直撃すればクウガのショルダーブロッカーすら焼き焦がし変形させ、内部にダメージを与える程の爆発力を誇る。

 

反射的に放たれた体液は、無意識に命中しやすい的に、胴体部分に向けて放たれる。

体液の爆発力は驚異的なものであり、ゲゲルで使う場合にも急所を狙う必要すら無く、胴体の何処かに当てさえすればカウントを一つ稼ぐ事ができる。

相手がクウガだったとしてもそれは変わらない。

弾力と強度を併せ持つクウガのブロッカー、装甲ですら、彼は焼き焦がす事ができるのだ。

 

だが、例外が存在する。

紫の鎧を纏うクウガは、その装甲の堅牢さを増しており、生中な攻撃が通用しない。

それを忘れていたのか、それとも、以前のクウガとの戦いでは、当てる事すらできなかったのか。

紫の鎧に赤い腕の戦士は、一歩一歩近づきながら、発射された体液を真っ向から受け続ける。

衝撃を逃がす構造すら含まれているのか、爆発の衝撃で仰け反る事すらしない。

 

体液の一撃が頭部に向けられた。

これを、まるで予測していたかの様に、戦士は剣を掲げて受ける。

なるほど、と、ギイガは内心でほくそ笑む。

防ぐ事無く受けていたのに、剣で受け止めた。

つまり、頭部であれば攻撃は通る。

いや、或いは装甲の無い手足のどこかでも、ダメージは通るかもしれない。

 

そう考え、次弾を発射するために息を吸い、再び体液を飛ばそうとした瞬間。

口の中に、剣が突き刺さっていた。

何が、と、その思考が浮かぶよりも早く、ギイガの頭部が内側から(・・・・)弾け飛んだ。

 

ギイガが怪人態時に吐き出す体液は、物質に触れる事で激しく爆発を起こすが、当然体内では爆発する事はない。

自らの体内の毒で死ぬ毒虫が居ない様に、ギイガの体液を発射する機構は体液が化学反応を起こすのを阻害する物質で覆われており、体内で爆発する事はありえない。

 

だからこそ、戦士はギイガが体液を発射する瞬間を超越感覚で察知し、折れたフレイムセイバーをモーフィングパワーで紫の直剣に仕立て直して投げつけた。

発射される直前の体液は口内で刀身と反応を起こし、見事に爆発を起こしたのだ。

それが狙ったものか、それとも防ぐつもりで投げたものが偶然突き刺さったものかはわからない。

だが、結果だけは残った。

頭部を失ったギイガの死体が、ゆっくりと後ろに向けて倒れ込む。

 

どす、と、ただ人間一人が倒れるのと変わらない音を立て、ギイガの死体が転がされる。

顔面は無い、頭部ごと消えた。

ゆっくりと歩み寄っていた戦士から、紫の装甲が消える。

 

倒れ込んだ死体に座り込むその手には、赤金の短剣。

戦士はそれを、まるで獣を解体するが如く躊躇いのない手付きで死体の腹部に突き刺し、ベルトのバックルを真っ二つに破壊。

破片を海に投げ捨て、ベルトの下の腹部を刃で切り開く。

じゅう、と、肉が焼ける匂いと共にその腹部の肉が焼き切られ、こつり、と、硬い音を立てる。

刃が引き抜かれ、切り裂かれた腹部に戦士の手が差し入れられ、内部を僅かに弄り、硬い音の主を掴み、引きずり出す。

 

ぞる、と、音を立て、獣の体毛にも似た無数の神経を引き摺りながら、それは現れた。

血に塗れた、肉塊に包まれた石。

これこそ、グロンギをグロンギたらしめる恐るべき秘宝。

魔石ゲブロンである。

 

―――――――――――――――――――

 

やはり、と言うか、ズのゲブロンとはだいぶん様子が違う。

宿主が生きていた時程ではないが、ズから引き抜いた後のものとは気配の濃さが段違いだ。

魔石周りの神経の強固さもまるで別物。

ゲゲルを終えた後、込められたエネルギーがゲブロンのリミッターを外している、という事だろうか。

この様子では、ゴは倒せたとしてもゲブロンを引きずり出すのに一手間必要かもしれない。

 

メの強さに関しては、それ程確信が持てなかった。

メ・ギイガ・ギの爆発する体液は、ゲゲル向きではあるかもしれないが、余りにも応用性に乏しく、戦う力を鍛えているようにも、使い方に工夫を施しているようにも見えなかった。

元のクウガ戦でもタイタンの鎧にダメージが与えられないのを確認した後も延々同じことを繰り返していた筈だ。

爆発が通じなかった、という経験自体が無いからかもしれないが、それでも脳機能まで優秀なグロンギとは思えない。

メの中でも、手に入れた特殊能力に慢心して創意工夫や自己強化を怠った個体だったのか。

こいつを殺せたからといって、メに俺の力が通用する、と考えるのは早計だろう。

 

ゲブロンも可能であればもう少し回収しておきたい。

できれば、メの中でももう少し戦いに、狩りではなく闘争に力を入れている様な個体のものを……。

 

「いてっ」

 

強めのデコピンくらいの衝撃が側頭部に。

見れば、一足早く駆けつけたらしいお巡りさんが拳銃を此方に向けている。

仕事熱心だな、と思う反面、少しばかり迂闊だったと反省。

近づいてきているのはわかっていたけれど、考え事に没頭しすぎて無視してしまっていた。

これが神経断裂弾だったら……。

いや、でも、アギトの力があるから、どうなるのだろうか。

系統としてはアンノウンとそう変わらないだろうから、通用しない可能性だってある。

実験はしたくないけど興味深い。

俺の代わりに気軽に神経断裂弾を食らってくれる気さくで美人で此方の苦労を事情を語らずとも察してくれたりする優しい一般アギトのお姉さんとかが居ればなぁ。

 

ぺし、ぺし、と、繰り返し撃たれる度にどんどん威力が減っている風にも感じる。

ともあれ、警察に通報されてしまっているのであれば、長居は無用だ。

座っていたギイガの体から、短めのフレイムセイバーで首を切り落とす。

ここまで炭化していれば復活の可能性も低いだろうけれど、予防措置は取っておくに越したことはない。

そして、仕事熱心で正義感と勇気に溢れた東京の警察官さんに向けて、投げつける。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

剛速球、という程でなく、ノック練習の時のトスくらいで投げられたギイガの頭部を、お巡りさんは慌てて避ける。

そして、銃撃が止んだ瞬間に、青に切り替えて、その場から離脱。

みるみる内に離れていくギイガの死体とお巡りさん。

東京はやりやすい。

監視カメラこそ多いけれど、高層建築が多く、ビルの上を跳んで逃げれば追跡は容易な事ではない。

なるほど、グロンギの連中もゲゲルの舞台に選ぶ訳だ。

 

さて、目的の半分くらいは達成できたのだし、人気のない場所に落ち着いて改めてゲブロンからキレイに神経を削いで、できれば手も洗いたい。

郊外の寂れた公園とか、無理なら……。

 

いや、何か近づいてくる。

ゲブロンの気配……じゃない。

もっと身近な……。

 

「待て!」

 

()()から声が聞こえる。

冗談じゃない、今地上何メートルだと思ってるんだ。

そして、この聞き覚えのある声。

ちらり、と、振り返る。

予想と、そして記憶にある声の主と相違無い。

だけど、できればまだ接触はしたくなかった相手。

 

「クウガ……!」

 

バイクを持ってくれば良かったとはっきり後悔する。

モーフィングパワーで無理やりスライダー形態にすれば空路で逃げられたかもしれない。

だが、こうなれば逃走は難しい。

ならば、少しだけ、予定を前倒しにしておこう。

 

―――――――――――――――――――

 

午前十時四十二分。

昨年の隕石直撃を受け、未だ一部が廃墟のまま放置された渋谷区を望むとある高層ビルの屋上で、二人の青い戦士が向かい合っていた。

 

戦意は、互いに無いのだろう。

無言のままに戦士を見つめるクウガ。

視線を無視するように、渋谷廃墟へと視線を向ける、よく似た姿の青い戦士。

ふと、クウガの姿がかすみ、その姿を人間のそれへと変じさせた。

現れたのは、現代において戦士クウガの力を引き継いだ、黒髪の好青年。

二千の技を持つ男、五代雄介。

 

「なんで」

 

問う。

距離は離れている。

だが、声の届かない距離ではない。

戦士が、或いはクウガが、どちらかが害意を持っているのであれば、生身を晒すには致命的な距離だ。

 

だが、雄介は変身を解いてみせた。

確信があった、という訳ではない。

一目見て、それがグロンギとは違う、と、そう思えた。

見た目がクウガと同じ、という事ではない。

纏う空気、というのだろうか。

旅を続ける中で得た、人を見る目。

少なくともその戦士が、誰彼構わず殺す様な人間ではない、と、そう思えた。

根拠にするには、余りにも弱すぎる、願いの様な思い。

 

「なんで、あんな殺し方をするんだ」

 

沈黙。

青の戦士は数秒の間を置き、視線を渋谷から外す。

青い瞳、クウガのそれと比べて、幾分か小さくも見える結晶質の瞳が、雄介を貫く。

何かしらの感情が込められている訳でもない。

無機質、とも言える視線。

グロンギのそれとは、確かに違うのだろう。

 

「必要なことです」

 

冷淡な、いや、平坦な声。

冷酷というより、無感情な、或いは、感情を押し殺した様な響き。

だが、雄介はその声に込められた感情よりも、その声の青々しさに、僅かに残るあどけなさに戸惑う。

背丈は、まるで自分の変身した姿と変わらない。

だが、その声は、まるで、子供のそれだ。

 

「必要? なんで、君みたいな子が」

 

「一身上の都合により。……姿をお見せする事は、できませんが」

 

感情を押し殺した様な平坦な口調。

しかし、その声には、抑えても抑えきれない感情が載せられている事に気づけない雄介ではない。

申し訳無さそうな、そして、自分への、尊敬、だろうか。

 

「うん、……わかるよ」

 

雄介は警察に対して、いや、誰に対しても自分がクウガである、という事実を隠していない。

お前は四号なのか、と問われれば、躊躇うこと無く自分がクウガだと答えるだろう。

だが、それを自分以外の誰かに強要する事は無い。

誰かを信じる心は大事だ。

それは、誰かを信じるのは難しいからでもある。

そして、生きていく上で、疑う事、隠す事は、『必要な事』なのだ。

自分の命を守る、という上で、決して間違いではない、一つの選択。

 

顔を見た訳ではない。

事情を聞く事も、恐らくは難しいのだろう。

そういう人間は、世界に幾らでも居る。

それは日本でも変わらない。

まして、グロンギとクウガは、普通の人にとっては似たようなものなのだ。

 

「一緒に、戦えるかな」

 

それでも、事情を話せなくても、共に戦えない、という事はない筈だ。

いつか見た、クウガではない、グロンギでもない仮面の戦士達がそうであった様に。

彼等の素性を知らなくても、力を合わせる事ができたように。

 

「…………誰もが」

 

「うん」

 

「誰もが、泣きながらでも戦える訳じゃないんですよ」

 

「そう、だね」

 

沈黙が流れる。

痛い所を突かれた。

妹にも、友達にも心配された事だ。

だけど、彼の言葉には酷く実感が籠もっていて、確信的な言い方だった。

無理をしているのを知っているのだと言われたようで、どきりともした。

少しだけ、安心し、同じくらいに悲しくなった。

 

彼は、戦う事の悲しさを知っている。

血も涙もない戦闘兵器ではない。

だけど、その悲しさを知りながら、彼は彼の事情で戦わなければならない。

誰かに吐き出したくても、吐き出す事ができないのだろう。

そして、自分にも、その悩みを解決する事はできない。

それは当然の話で、だからこそ、悲しい。

 

「一つだけ、知っておいて貰いたい事が、あります」

 

「何?」

 

「ン・ダグバ・ゼバ……第0号と戦うのであれば、凄まじき戦士にならなければなりません。それ以外で戦えば、死にます」

 

「ダグバ、凄まじき戦士……、まって、君はなんでそんな事を」

 

「それと」

 

しゅ、と、青い戦士が雄介に何かを投げ渡す。

反射的にそれを掴み取り、手のひらを広げる。

 

「ハッピーバースデー」

 

「えっ、わ!」

 

閃光。

投げ渡された何かが破裂し、激しい光と音で雄介の視界を塗りつぶし──

 

「……彼は、一体」

 

視界が戻った時には、青い戦士は跡形もなく姿を消していた。

 

 

 

 

 




☆グロンギに対しては高圧的だけど尊敬できる相手には普通に敬意を持ってお手製スタングレネードを誕生日プレゼントとして贈呈するマン
モーフィングパワーを駆使することで無限にスタングレネードを生成できるアンリミテッドスタングレネードワークスの使い手
母親が出かけてる時に自室で実験して暴発して一人でムスカっていた頃もあったけど今では手のひらの上で爆発させても怪我をさせず的確に目と耳を潰せる
電車で恐らく二時間くらい揺られて東京へ
道中ジルの世話を焼いたりする姿は仲のいい兄弟にしか見えないとかどうとか
現時点では春休みだからジルを連れていけたけど、もう一度ちゃんとメのグロンギと戦うのであれば、入学したばかりの学校をぶっちして平日に東京に突撃するしかなくなる
どうする新一年生! どうなる最終出席日数!
因みに魔化魍とか童子とか姫はこの時点では自然発生するものしか居ない為、頻度としてはそう多くなく、規模も小さい為撃退だけならそう難しくはない
最近では重箱とジルを両手に下げた状態でも東京観光ができる程度には図太くなってきた
アマダムさんが頑張って神経節をうんしょうんしょと脳みそ目掛けて伸ばしてくれているお陰である
あまだむさんがんばえー
アマダム「おう、任せとき!」
なおアマダムは喋らないし主人公のアマダムは忠告すらしてくれない
悲しみを乗り越えて、行け、ガンダム!
ガンダムではないし、作中地の文でクウガとも呼ばれていない

☆ただの東京満喫要介護ヒロイン
危ういヒロインみたいな宣伝打っておいて今回やってることは東京観光だけである
変身して戦う主人公を恐れない?
純粋な子供は異形へ変身する主人公を見ても恐れず笑顔でありがとうって言って心を癒やしてくれるのはASHRの兄貴が証明してくれただろ、いい加減にしろ!
なお、古代の時代にも魔化魍やファンガイアなどが存在し、それを撃退したグロンギの上位戦士達は群れの中でも英雄として褒め称えられた、みたいな設定があったりするのではないか、という疑いは勿論ある
勿論あるけどそれでヒロインを疑うなんてナンセンスだろ!
パジャマはポップな絵柄のクジラの小さい絵が散りばめられた可愛らしいものを着用
昼間はフード付きパーカーにショートパンツを上下黒で揃えて、黒のタイツも添える黒ずくめコーデ
隙間から覗く白い肌がアクセントになってるし、なんかこう、主人公との絆を高めた後にプレゼント・イベントとかで更にワンポイントつけると何らかの別離イベントとかで使えそうだけどそんなバッドエンドにはならないといいなと思いながら書いてるから別に大丈夫だと思いますよ
ホットミルクをちびちび飲みながら深海の美麗な光景を移した映像を見ていたら一時間もしない内に寝落ちしてしまった
因みに戦闘中は父親のアパートで留守番という安牌
一人で外出歩いてたらバラのタトゥーをきざんだ怪しい女性と遭遇する危険性とかがあるからね、仕方ないね

☆bな人
話してみたら残虐超人の正体が明らかに思春期の少年くらいの声で悲しい人
謎の人と話してみたら余計に謎が増えるわラスボスの話を事前知識無しでされるはもう散々
でも世界中で今日も戦う仮面の戦士達の事を思えばなんのその
精神的ダメージは蓄積している
生身旅人時代に謎の仮面の戦士達に力を貸したりした感じの経歴が生えた

☆口から爆発物吐く人
ちゃんとしてないメのグロンギ
距離が離れると爆発物嘔吐しかしないからワンパターン
もっとちゃんと戦ってほら
でもゲブロンに罪はないので回収された

☆善良な東京の一般おまわりさん
困っている人を見れば放っておけないし、市民の敵が相手なら命を賭して戦えるぞ!
謎の子供二人を保護した次の日、謎の残虐四号からグロンギの炭化した生首を投げつけられる
頑張れ公務員、負けるな公務員!
クウガの一般警察官ってG5ユニットくらいなら普通にみんな適正ありそうなくらい勇者揃いだよね

☆アギトフレイムフォーム
アギトの基本フォームの一つ
フレイムアームズは七千度の熱を一瞬にして作り出す
バーニングナックルは炎を司る奇跡の拳、生み出した炎を自在に操る
なんだこの化物……メくらいまでなら多分余裕で燃やし殺せる
どうりで苦戦しない訳だよこいつ、アギトやべえな捕獲して研究しなきゃ(アギト警察並の感想)
でも多分警視総監が止めるから大丈夫な気がする


今回思ったけど、話数にして五話もつかって置きながらまだ原作で言う10話前後までしか来てないというスローペースはたぶん不味い
だから多分次は梅雨くらいまで話が飛ぶ
なぜかと言えばその頃まで休みの日にゲゲルが行われないからなのだ
そして次回こそ完全ノープラン
頑張るけど頑張れなかったならこのSSは爆発する
ザインさん?
今更パワータイプのズ集団とか、その……ね?

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