オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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52 激突!粉砕!ライダーバトル!

ミラーモンスターとは、テオスに相当する役目を神崎優衣に置き換えた場合のマラーク達である。

スケールの差は大きい。

宇宙の、或いは人類の創造主であるテオスと、少しばかり似た方向性で超能力が発現しただけの少女では、当然の話ではある。

完全無補給で超能力すら操り人間を殺し続けるマラーク。

対して、存在を保持するために人間を定期的に喰らい、それでも表の世界で存在する時間は限られ、能力と言えば特異な形状からくる物理的なものばかりなミラーモンスター。

 

そういう意味で言えば、仮面ライダーオーディンと契約したゴルトフェニックスは本当の意味でマラークに、或いはエルロードに似た存在だろう。

ライダーとの契約により引き出される能力は時間の支配と言っても過言ではない力だ。

巻き戻し、一時停止などを含め、オーディンの力の源は当然だが契約モンスターの力。

もとからそういう権能を備えていたのか。

或いは契約により秘めたままだった能力がライダー側で花開いたのか。

 

だが、如何にスケールに違いがあると言えど、そのあり方は本当に似通っている。

まずは本体だ。

彼らは人間の様に肉の器が主体ではない。

そもそもあの頑健な肉体は仮の器でしかなく、本体となるのは神崎優衣の異能そのものである生命エネルギーだ。

これが、彼女が幼い頃に描いた怪物の絵などを媒介にして実像を得たのがミラーモンスターになる。

惜しい話だ。

仮に神崎優衣が二十歳までの命でなく、ライダーバトルなどという危険な催しを知らなければ、彼女はモンスターなどのデザイナーにもなれたかもしれない。

何せ天下のスーパーヒーロータイムで採用されたモンスターをデザインしたという事になるのだから。

 

ともかく、ミラーモンスターの本体は生命エネルギーである。

これを喰らい合う事でライダーと契約したモンスターは自らの力を高めていく訳だが、ここで重要なのは器から解き放たれた生命エネルギーだ。

仮に、この生命エネルギーがモンスターに捕食される事無く放置されたならどうなるのだろうか。

霧散するのか、或いは何かに溶け込むのか。

いや違う。

実の所を言えば、その答えは最初も最初の段階で明かされているのだ。

放置された生命エネルギーは再び実体を得て、ミラーモンスターとして活動を再開する。

しかも、一度命を奪われた時の事を考慮し、より強靭な肉体を形作る。

 

そう、まさしくディスパイダーが一度撃破され、捕食される事無く放置される事で半人半獣の姿を得たのがそれである。

この人間の上半身に似た器官は糸とは異なる針を飛ばす構造を有しており、先のディスパイダーと比べても多くの戦局に対応可能。

なんと、マラーク相当の存在でありながら、主の力を借りずともエルロードのそれと似た自己強化を行う事が可能なのだ!

 

では、この死亡からの自己強化は再現性のある事象なのか。

あらゆるミラーモンスターは撃破後に放置される事でより強い肉体を構築する事が可能なのか。

結論から言えば、可能である。

これはディスパイダー以前に撃破したミラーモンスターの生命エネルギーを利用して確認している。

 

今回、俺はとりあえずオーディンと正面から戦う為に順当にライダーバトルに参加させてもらうつもりだ。

時間停止、時間遡行などの能力を持つオーディンを解析するのであれば、居所の分からないオーディンをやらされている浮浪者を探すよりは、バトルで最後まで勝ち上がるのが確実だからだ。

……実の所を言えば、ライダーバトルを勝ち進んでオーディンを破壊したとしても、それでライダーバトルが終わる訳ではない。

確かに少なくとも一度、仮面ライダーナイトが勝利を収めてライダーバトルが終結した時間軸がある。

しかしあれは最後の最後で神崎士郎が妹に説得される事でライダーバトルを終わらせる決断をしたからであって、あそこで聞く耳を持たなければ消えかけのオーディンか、さもなければ何処かに居るバックアップのオーディンなりがタイムベントを発動してライダーバトルをやり直していた事は想像に難くない。

 

仮に、オーディンのデッキが無くともタイムベントが可能というのであれば、それはそれでありがたい話だ。

一度のデッキの分解や実験で時間制御技術の全てが手に入るとは思っていない。

記憶を持ち越せるかどうかは難しいが、恐らく、そう何度も完全に俺の記憶が巻き戻される事は無い。

改変前の記憶、或いは所持品、技術がある程度残るのでないか、という予感はある。

完全に、とは行かないだろうが……。

積み重ねれば、慣れでどうにかなるという確信がある。

仮にも神の力の断片を宿しているのだ。

下手をすれば全国のアギトのみなさんも巻き込まれてしまうかもしれないが……それはまぁ、ご愁傷さまという事で。

全国で謎のタイムリープ体験者が増えてしまうだろうけど、流石に俺はそこまで面倒見きれない。

お手軽にループものの主人公気分を味わえるのだからそれで勘弁して欲しい。

しかも最後は自分で解決しなくてもループが終わるのだ。

悪い話ではないのではないだろうか。

 

とにかく、オーディンのデッキを手に入れる、というか、オーディンの時間制御技術を体験する為にも、ライダーバトルは進める。

後は、神崎士郎にイレギュラー扱いされてライダーバトルからハブられる可能性だが……。

ライダーバトルを推し進める意思を見せれば、或いはあちらからデッキを渡してくる可能性だって無いではない。

この時点ではまだデッキも最低一つは余っている筈だし。

 

そこで。

契約するミラーモンスターが必要となってくる。

ここで話は巻き戻る訳だが、回収したディスパイダーのエネルギーもこれに関わる。

捕食されなかったエネルギーがミラーモンスターとして再生するというのは事実だ。

では、その再生に指向性を持たせる事は可能なのか。

結論から言えば、可能だ。

ミラーモンスターがそもそも神崎優衣の描いた自分を悪いものから守る怪物の絵に力が宿る事で産まれた存在である以上、依代を作ってそれに宿してやればそれに準じた姿を得る。

つまり、少なくともデザインとある程度の機能は自由にできる。

 

更に言えば、依代が元からしっかりとした機能を持ったものであれば、余剰のエネルギーを出力に回す事が可能になるのではないか?

そういう仮説を元に作り上げたのが、このロードインパルスである。

これはライドシューターから回収した技術に、更に改良した疑似デッキをロードインパルス用に調整したものを複数搭載する事で、ミラーワールドでの長時間活動を可能とした非人型疑似仮面ライダーだ。

残念な事にディスパイダー以前のミラーモンスターのエネルギーは実験で消費してしまったので封入していないが、仮面ライダー相当の機能を備えたこれに、実体の無いミラーモンスターのエネルギーを取り込ませる事で、所謂疑似ミラーモンスターだとか、そういう代物として機能するという訳だ。

これで、疑似デッキに俺自身やジルとのリンクを作り力を借りてくるセルフ契約モンスター形式とはおさらばできる。

微妙に規格が合わないのでデッキが怪しい熱を持つのだ(この問題点は追々解決していくこととする)。

 

さて、ではこの疑似ミラーモンスターは如何ほどの能力を備えているのか。

何せ元がアンノウンとの戦闘も想定して作ったマシンだ。

それにバッテリーの代わりにパワーユニットを装着してエネルギー問題は解決し、各種ライドシューターからの転用技術、専用の疑似デッキは据え置きで搭載。

そこにミラーモンスターの元とも言える生命エネルギーを足している。

単純に考えれば強くなっていると考えても良いだろう。

 

だが。

この手の机上の空論がどれほど役に立たないかを俺はG3Xで知っている。

実戦で運用してみて初めて色々な問題が洗い出されたりしてくるものなのだ。

日本の海域にあるいくつかの無人島にて魔化魍と戦わせてみたり、生命エネルギーを封入していない点以外は変わらない量産型ロードインパルスの集団で囲んで逃げ場を奪ったオルフェノクと戦わせてみたりしたが、これは言わば試験起動の様なものなので、実戦とは言い難い。

やはり、戦わせるのであればライダー……、ミラーワールドの仮面ライダーとその契約モンスター達が相手でなければならない。

 

「ふぅむ」

 

教室内のカレンダーを見る。

今年の出来事は、正確な日付を知りようがない。

が、それも重要ではない。

警察に被害が出る案件ともなれば話は別だが、今年は警察に大規模な被害が出るのは最後の最後くらい。

父さんの護衛に関しては疑似ライダー状態のロードインパルスやアビスクロウラー、ボルトレックスの群れをつけているので、そうそうミラーモンスターに襲われる事も無いだろう。

バトルロイヤルに参加しているライダーで戦闘能力のテストをするというのであれば、大体のヤサが割れてる奴に直接変身した状態で喧嘩を売りに行けば良いだけの話だ。

不幸な事に仮面ライダータイガ君は脱落し、変身者も何故か行方不明になってしまったが……。

ライダーバトルに積極的で、相手を脱落させること、殺すことに躊躇のない、本筋では知らぬ間に消えていたライダーを標的に選べば良し。

後は俺の都合なのだが。

 

「受験生は辛いなサム……」

 

「辛いのか?」

 

「いや辛くはないけども」

 

サムと呼びかけても返事を返してくれる優しい仲村くんの疑問も尤もで、俺は特に勉学の面でも素行の面でも一切の問題の無い優等生で通っているので、受験自体は問題ではない。

が、だからといって、自分に余裕があるからと言って、来年に受験を控えたこの時期に毎週毎週東京に遊びに行っていたら周囲の人間の目にはどう映るだろうか。

 

東京ではこの間までは謎の殺人事件が起きまくっていたし、今も行方不明事件が多発している。

なのにあいつは毎週毎週東京に遊びに行っているという……怪しい……。

朝なのにモーニングセットじゃなくてトーストセットを頼むくらい怪しい……。

このパンティーセット、パンとティーでパンティーセットとかなるほど発想が怪しい……。

この罠に引っかからずトーストセットを頼むとか怪しい……。

 

みたいに思われてしまうかもしれない。

それを怪しく思った誰かが尾行してきて、ライダーバトルに巻き込まれて運命的にライダーになってしまったりしたら目も当てられない。

流石にミラーワールドのライダーになったからといって、クラスメイトを手にかけるのは少し気が引ける。

まぁクラス替えとかもあるのでそう長い付き合いの連中ばかりという訳でもないが。

 

「……クラス替えどうなるかなぁ……」

 

「受験よりもそれか。……まぁそれだろうな」

 

「一年二年と良い連中ばっかりだったからなぁ。難波さんも仲村も二年連続で一緒だったし」

 

「並べるな並べるな」

 

「俺の側からすれば並び立つ程良い友人だと思うんだ」

 

二人共ね。

勿論、仲村くんにはアギトやら何やらの話をする訳にはいかないので難波さん程ではないと思うのだが。

友人に優劣を付ける事ほど愚かな事もあるまい。

 

「よせやい。照れるぜ」

 

ゴシゴシと鼻を人差し指で擦りながらへへっと笑う仲村くんの仕草は実に昭和だ。

これは彼が実は元少年ライダー隊の人と知り合いとかそういう話ではなく、最近ローカルテレビ局で古い青春ドラマなどが再放送されているのでその影響だったりするのかもしれない。

 

「それにお前はあれだろう、クラスが違っても難波さんとの付き合いが無くなる訳でもなし」

 

「うーん、まぁ」

 

クラス替えで新しい友達が増えて疎遠になる可能性もあるし、それこそ卒業後に進む大学が違えばどうしても離れてしまうだろうけれども。

出来れば友人付き合いは続けたい。

 

そして。

彼ら彼女らとこの時代この歴史で友となったという事実を、無かったことにされてやる訳にはいかない。

それを許すことは決してありえない。

だからこそやるのだ。

徹底的に、時間の流れの謎を解き明かし暴き奪い取り込み我が物とする。

時を止められても、巻き戻されても、改竄されてもびくともしない耐性を手に入れる。

この、後の時代に資料の殆ど残らない一年の間で。

誰に知られる事も無く、時を超越する力を得るのだ。

 

―――――――――――――――――――

 

都内某所。

高見沢グループ総帥、高見沢逸郎は、自宅である豪邸にて、貴重な休日を満喫していた。

部下からの見え透いた世辞や、大企業のトップであるが故の煩わしい交流。

そういったものから解き放たれた安らぎの時間。

そして、ラフな格好でくつろぐ彼の手の中には、高級なワインではなく、場違いとも思えるような一つの四角いケース。

 

カメレオンの顔面をモチーフにしたようなレリーフの入った黄緑色のそれは、デッキだ。

日本でも有数の大企業のトップに立つ男の最近のお気に入り。

或いは、これまで彼が手にしてきた権力という力よりも、余程彼の御眼鏡に適う、分かりやすい力の象徴。

勝者の願いが叶うというライダーバトルへの参加券であるそれを持つ彼の機嫌は良い。

デッキを手にする事により得られるモンスターとの有る種の感覚共有により、鏡の中の自らの契約モンスターである人型のカメレオン風ミラーモンスター、バイオグリーザを見る視線も楽しげだ。

 

仮面ライダー。

そう、仮面ライダーだ。

彼ほどの大企業の長ともなれば、その名前に込められた正確な意味も知っている。

あいにくと、彼の手にした力は()()と直接関係のあるものではない。

だが、それでも彼にとってそれは愉快な出来事であった。

あの仮面ライダーの名を冠する力を、超越者の力を自分は手にしたのだ。

今まで自分が手にしてきた、常人が得られる権力という名の力なぞ、この力に比べれば屁の様なもの。

より直接的に、より直感的に振るう事のできる力。

超人として振る舞う事のできる快感。

それが彼に、ここ数年でも、いや、或いはこれまでの人生でも比較する対象が無い程の愉しさを与えていた。

 

高見沢グループを取り仕切る彼だからこそわかる。

ライダーバトルは、優勝者の願いを素直に叶えるような催しではない。

ライダー同士で、人間同士で殺し合いをさせ、それでもなお、参加者に願いを叶えさせる為のルールではない。

そんなのは考えれば直ぐにわかる事だ。

そんな事をして、主催者に、神崎士郎になんの得がある。

 

部下を動かし、神崎士郎の記録は調べてある。

少なくとも、誰かの願いを叶えるためだけにこれほど大掛かりな仕掛けを作るような男ではない。

それだけの生い立ちの男である事は調べがついているのだ。

自分たち、神崎士郎お手製のライダーを殺し合わせる事で奴がなにか得をする。

願いが叶うのは大嘘である可能性も十分ある。

 

だが。

それに高見沢は不満を抱いていない。

当然だ。

賭けは胴元が儲かるように行われるもの。

イベントは主催者が利益を得る為のもの。

それを承知でバトルに参加すると決めたのだ。

そしてそれを神崎士郎も恐らくは承知している。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

今よりも更に先に進む事が。

今は無い力を得る事が。

今を超越する事が。

 

超人になる事が。

仮面ライダーになる事が。

その力を存分に振るう機会を得る事が。

秘められた彼の望み。

 

だからこそ、ライダーバトルに参加するためにデッキを手にし。

自らを狙うモンスターと契約を交わした時点で、彼の願いは叶っている。

 

「何か用か」

 

きぃん……、と、金属の共鳴音の様な音が高見沢の耳に届く。

ミラーモンスターの出現の予兆だ。

鏡の中。

誰も居ない筈の背後に立つ影がある。

 

『用事も何も』

 

狼の意匠を施された騎士然とした鎧姿。

知らない顔だ。

だが、知っている顔だ。

 

『ライダーが二人居るのなら、やることは一つ』

 

未知のライダーの隣に、するりと姿を現す巨大な四足のミラーモンスター。

にや、と、高見沢の口の端が釣り上がる。

ソファから立ち上がるとそのまま左手のデッキを顔の前まで掲げ、ガラスへと向ける。

高見沢の腰にベルト、Vバックルが巻き付き、腰を捻りながら右手で指を鳴らす。

ポーズ自体に意味はない。

だが、これこそが彼の定めた変身のポーズ。

世を忍ぶ仮の姿(総帥高見沢逸郎)から仮面ライダーベルデ(超人高見沢逸郎)へと自らを切り替える精神的スイッチ。

 

「変身……!」

 

自らの腰を見ることも無く、慣れた動作でバックルへとデッキを挿入。

鏡の中の高見沢の姿に重なるように緑の装甲の戦士が現れ、高見沢の全身がグランメイルとアーマーに包まれた仮面ライダーへと変貌した。

 

―――――――――――――――――――

 

ミラーワールド内部。

反転した高見沢邸にて、二人のライダーが僅かに距離を詰めて睨み合う。

 

緑の戦士、ベルデ。

相対するのは全体的に黒い装甲の戦士。

先に高見沢、ベルデはそれを狼と心の中で称したが、明確なモチーフはわからない。

大型の四足獣型のミラーモンスターは姿を消しており、なにより、その戦士のデッキの表面には契約モンスターの紋章が刻まれていない。

 

ベルデが慎重に、相手から目を離さずに左手で自らの太腿に装着された舌召糸バイオバイザーからカードキャッチャーを引き抜き、デッキからドローしたカードを挿入。

カメレオンの舌の様にカードキャッチャーが巻き戻される。

 

『ホールドベント』

 

ミラーワールドのライダーバトルにおいて、通常の戦闘とは異なる要素として、デッキからのカードドローが挙げられる。

相手を打倒する為の攻撃能力の殆どを契約モンスターの力を借りる形で得るライダー達は、一部例外を除き戦闘時に必ずと言っていい程、デッキからカードをドローし、そして各々の召喚機に挿入して効果を発動するという工程を踏む必要がある。

このカードの効果を発動するまでの一連の動作はそれを保護するための機能やルールなどが存在せず、当然これを妨害する事は可能である。

大凡のライダーは相手とカード使用のタイミングを合わせる事で妨害を予防するため、向かい合うライダーと鏡合わせの様にカードを使用する事になるのだが……。

 

(何もしてこない、か)

 

素人か?

或いはそう思わせる策とも取れる。

高見沢とて、勝ち残り制のライダーバトルでよーいドンと戦いを始めるような男ではない。

普段であれば相対する前から変身を済ませ、最低限武器を召喚し隠し持った状態で戦いを始める様にしている。

だからこそ、最初に発動するカードをどうするかは悩んだ。

まずは姿を消すクリアーベントという手もあったが、目の前で消えてみせたのなら、探知能力の高いミラーモンスターと契約していた場合は無意味になってしまう可能性もある。

 

「ふんっ」

 

ベルデは自らの思考を中断するようにバイオワインダーを振るう。

契約モンスターであるバイオグリーザの目を模した様なデザインのヨーヨー型の武器は、剣や槍、銃などといった一般的な武装に比べてそのトリッキーな動きから初見では避けにくい。

ぎゅん、と、ワイヤーがしなりながら巻き戻る音を響かせ、独特の軌道で戦士の斜め下を通り背後へ。

一歩ズレてバイオワインダーを避けた戦士の背後から、戻りざまに脇腹を狙う。

金属の擦過音。

いつの間にか戦士が手にしていた短刀がバイオワインダーを受け流していたのだ。

ゆっくり歩き出す黒い戦士。

ベルデが続けざまに放つバイオワインダーを逆手に持った短刀で切り払いながら、その歩速は徐々に上がっていく。

 

不味い。

ライダーバトルの経験がどうかはわからないが、少なくともベルデには黒い戦士の動きが戦い慣れた人間のそれに見えた。

恐らくは未知であろうヨーヨー型の武器に対する冷静な対処。

しかし、視線は一度もバイオワインダーに向かず、ベルデを捉え続けている。

 

『アドベント』

 

バイオワインダーで時間を稼いだベルデは、デッキからドローしたアドベントのカードで契約モンスター、バイオグリーザを呼び出す。

ミラーワールドのライダーには全員に搭載されている契約モンスターに自らの意思を伝える機能により、バイオグリーザはベルデの意思を汲み取り即座に行動を起こす。

ベルデの遥か後方、高見沢邸の屋上に現れたバイオグリーザは、ファイナルベントの時と同じ様にその長い舌を伸ばし、黒い戦士──ではなく、ベルデを絡め取り勢いよく引き上げる。

恐ろしい速度で邸宅の反対側へと投げ飛ばされるベルデ。

無論、ベルデの本来の跳躍力を持ってすれば同じ様に跳ぶ事はできたが、その場合、恐らくではあるが滞空中に追いつかれてしまっていただろう。

仮面ライダーベルデは超人ではあるが、他の同類と比べて身体能力で勝っている訳ではない。

黒い戦士の能力まで把握している訳ではないが、劣っていると考えて行動する方がより失敗からは遠ざかる事ができる。

 

投げ飛ばされ、反対側に着地する寸前に屋上を見て、黒い戦士が追いかけてきていない事を確認し、ほ、と、安堵の溜息を吐くベルデ。

その背を恐ろしい衝撃が襲い、ベルデは自らの契約モンスターに投げ飛ばされる時の数倍の速度で鏡の世界の自らの邸宅内部へとガラスを突き破りながら吹き飛ばされた。

鏡写しになった高価な調度品の数々だった瓦礫の中からベルデが見たのは、いつの間にか自分が投げ飛ばされた方向に立ち、前蹴りの姿勢を取っている黒い戦士。

黒い戦士は投げ飛ばされたベルデを追いかけてこなかった訳ではない。

ファイナルベントに利用される程の速度の投げに対して、ただ走って追い抜き、着地地点で待ち構えていたのである。

 

かつ、かつ、と、大理石の床で足音を鳴らしながら戦士が歩み寄る。

 

「次は?」

 

怒りをにじませるでも、嘲るでもなく、ただ問う。

 

「今の契約モンスター、カメレオンか。なら消えるカードがあるだろう。使ってみたらどうだ? 今なら瓦礫と土煙で見えん。姿は追えないかもしれん」

 

かつ、と、足音が止まる。

邸宅の中にギリギリで入らない位置。

バイオワインダーでは届かない位置だ。

しゃり、と、無人の邸宅に嫌に響く音と共に黒い戦士がカードを引き抜く。

左腕よりも僅かに分厚い右腕の腕甲にあるスリットにカードを滑らせる。

 

『シュートベント』

 

次の瞬間、がこん、という音と共に、黒い戦士の腕の中には巨大な砲が収まっていた。

次いで、耳を劈く電動ノコギリの稼働音にも似た音と共に、無数の砲弾が放たれ、鏡の世界の高見沢邸が粉砕されていく。

驚くべき事に、巨大な豪邸の一角がものの数秒も掛からず無残な瓦礫の山と化したにもかかわらず、その中に居たベルデにはその恐るべき砲弾は一発たりとも当たっていない。

いや、当たらなかった訳ではないのだろう。

 

「当たると死ぬぞ。だから、撃てなくするなり、隠れてみせるなり、やってみろ」

 

銃口は、砲撃が放たれる寸前まで、ぴたりとベルデの方に向けられている。

僅かな身じろぎも逃さないとばかりに据えられたそれは、遥か遠くにありながら、口の中にナイフを突き入れられているが如き危機感を与える。

そして、放たれる直前、わざとらしくベルデから銃口が外れる。

狼、と、そう評したが、今の戦士の振る舞いはネズミを嬲り殺しにして遊ぶ猫のそれだ。

冗談ではない!

 

『クリアーベント』

 

瓦礫に、土埃に紛れる様に、透明化した状態で、戦士に背を向けて走り出す。

一人で勝てる訳がない。

あんな化物を相手に。

自力がまるで違うではないか。

だから、そう、

 

「ああ、そうそう。届け物があったのを忘れていた」

 

背を向けて走り出したベルデの顔に、小さな包みが当たる。

かしゃ、と、音を立てながら地面に落ちた包みの結び目が解け、中身が溢れ出る。

それは、白に金の意匠の施された、ベルデのVバックルにも装填されたそれと同じデッキの、残骸。

 

「護衛を雇うのもいいが……出来れば、常に侍らせて置く方がいい。こうなるからな」

 

ベルデが合流しようとしていた、金で雇い入れた仮面ライダーのデッキだ。

 

「ド低能が……!」

 

絞り出す様な怒りの声。

それは自分よりも先に密かに敗れていた護衛のライダーへのものか。

或いは、もっと多くのライダーを丸め込んでおかなかった自分へのものか。

 

「がっ」

 

続く言葉が音にならない。

首が、喉が半ば切り裂かれている。

血が溢れ出て、地面を濡らすよりも先にミラーワールドへの不適合により消滅していく。

それはグランメイルを切り裂かれたベルデ、高見沢の身体そのものも例外ではない。

おおよその部分を覆われている為に即座に消滅する事こそ無いが、このままではライダーの活動限界を超えるよりも先に高見沢の肉体はミラーワールドに溶けて消える。

しかし、そうはならないだろう。

 

『ファイナルベント』

 

気づけば、目の前には腰を低く構えた黒い戦士。

その遥か後方から、戦士の契約モンスターであろう、四足の獣が脚を折り畳んだビークル形態に変形し、恐るべき速度で迫り──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、二人の仮面ライダーが脱落した。

残る仮面ライダーは、十人。

 

 

 

 

 






※オデンを含めて数えているので残り十人という事で
たぶんあってるよね?
でもリュウガは劇場限定でTV版世界線では別のライダーが居たという可能性も無いではないよね
なんか進まないライダーバトルに業を煮やした神崎が出したリーサルウェポンみたいな設定のつもりで演じてたみたいな事を超全集だかで言っていたのでそういうルートもありかな、と
そうするとアビスも出せるし……お得!
ていうかリュウガが居るならTV版ルートで出てこないの明らかに変だし
TV版では画面外で密かに脱落していた、とか、ヤでしょ?

☆契約モンスターがサイコローグではないから新変身デザインを変えねばならなかった絶対歴史改変させないマン
そういえば怪人でもないスーツ変身型のライダーを明確に殺害しちゃったけどそこんとこどうなの?
グロンギだって魔石を搭載しただけの古代人だって人間だったでしょ
魔石を搭載したら人間扱いしなくていいってんなら殺し合いを良しとしてライダーバトルに参加したミラーワルドライダーだって怪人みたいなもんだよ
そんな感じ
そもそも証拠物件も何も残らないので別にいいかなって
そんな事を思い出しながら、元の時間では何事もなく節分やらバレンタインやらを満喫してる
節分は豆を撒くからって嫌らしい方向に勘違いをした人は腹筋753315回の刑
機関砲は確かにわざとベルデに当てなかったが嬲っていたわけではなく、普段できない建造物への大規模破壊が楽しいだけ
ミラーワールドの建造物は基本いくらぶっ壊しても問題無いはずなのでしばらくは意識的に遊ぶ
一応瓦礫で動きを封じる、クリアーベントで消えたライダーを土埃の中にできた不自然な空白から見つけ出すなどの理由もある
ここがつけ入る隙だぞ!飽きると消えます

☆別段怪人という訳でもないけどあっさり殺害された被害者Tさん
人間はみんなライダー

ライダーは怪人のなりそこない

人間はみんな怪人の元みたいなもの

人間は怪人

チェスト採石場!
QEDなんやな……
そういう理屈をこねられるでもなく普通に殺された
本来の戦法は姉の死体を自社の施設で冷凍保存して、願いを叶えた場合は蘇生にも協力する、みたいな形で丸め込んだ白鳥女詐欺師ライダーと連携して一人ひとり倒していくというもの
決して正面戦闘が好きなわけではなく、今回は変身前から変身後のライダーと相対してしまったが為の事故
え、連携してれば勝てたかって?
可能性は0じゃ無かったんじゃない?

☆壊れた白いデッキ
ラブロマンスなんて無かったねぇ!
姉の死体の冷凍保存は高見沢に頼れたので結婚詐欺師にはなっていなかった
普通に戦って普通にデッキを砕かれて、ミラーワールドでの人間の消滅時のデータを取るのに使われた
装備的にナイトの互換だけどトリッキーな真似はあまり出来ないので自力がはっきりと出る、出た、そして生き残るには不足していた

☆非人間型機械式疑似仮面ライダーロードインパルス改疑似ミラーモンスターロードインパルスくん
時速900キロくらいで走っていたけどミラモン化する時にさらに早くなった
機関砲、グレラン、前腕にブレード、長い尻尾にマニュピレーター兼ブレード、割りと幅広く対応できる
ディスパイダー君の魂を取り込んでいるので機関砲からクモ糸を出したりできる
取り込んだ魂が増える毎に多芸になっていく
魂を入れていないヘキサギア型機械式ライダー達を子機として操れる
ちょっと多芸過ぎない?と思わないでもないかもしれないが
サバイブ後のドラグランザーの吐く火の温度がようやくアギトフレイムフォームの操る炎と同じ温度という事で仕方のない面も
そも自分で契約ミラモンを作るなら弱く作る理由も無いので残当ではある
なお、元になったヘキサギアのロードインパルスは短時間ながら重力を制御して天井に逆さまに立ったりもできるので元に比べて控えめな部分もまだ多い

☆偽装変身体
ロードインパルスとの擬似的な契約を果たした疑似デッキにより変身した新たな形態
カード使用方法は香川教授製のそれと同じくスラッシュ形式
カード使用を最低限にするため、基本的な武装としてギミック付き短刀その他が最初から身体の各部装甲内部に隠されている
ロードインパルスの進化と共に機能が増えたり改造で機能が増えたりするぞ!
ファイナルベントは中身の頑丈さありきで後ろから全速力のロードインパルスに自分を跳ね飛ばさせた勢いで相手を蹴り殺すという単純なもの
デザインは犬とか狼とかそのへん
ヤツルギ七期のシャドウハウンドとかそんな感じのデザイン
ガバナーのどれかにしようかとも思ったけどあんまりモンスターの意匠が無いのもどうかなという事で
初登場にちっこいキサラにだけ割りと優しくどけてくれるの優しさが透けて見えて好き
でも全話は見てない
ニコ動で買うと高いのでそのうちDVD買います
この変身体も契約モンスターの進化に合わせて後々変わっていく可能性があるので別に覚えておかなくても良し
仮の姿だしね

☆非人間型機械式疑似仮面ライダー『ヘキサギア』
以前に少しだけミニチュア状態で登場したボルトレックス君を含めた主人公お手製機械獣こと多脚ドローン達
元の技術はスマブレから自衛隊に流れたものだが、繰り返された改造と技術革新、新たに導入されたライドシューター関連技術、複数搭載した疑似デッキによりミラーワールドでの長時間運用が可能となっている
トカゲっぽいボルトレックス、犬猫っぽいロードインパルス、蜘蛛ともヤドカリともつかぬアビスクロウラーが確認できる
どいつもこいつもビークル形態やタイヤ出してる時は時速900キロくらいで走る
主人公のパパンの護衛にもつけられている
構造を理解しているので材料を揃えて作ることも可能だが、指パッチンでそのへんの質量を犠牲に一瞬で生えてくる
みんな、コトブキヤのキットはいいぞ!

☆50話を超えても出番のないパパン
デッキを持った人間がパパンと一緒に鏡を見ると鏡の中にみっちりとミラモンの様なヘキサギアが並んでいるのが見える
視線に気付くとさっと引っ込むぞ
パパンがうっかり引きずり込まれても搭載した複数の疑似デッキを強制使用する事でレスキューできる
爆沈完了!
バレンタインにママンがチョコを持ってきた
特殊な素材が配合されていた為に都市伝説的なガラナチョコ的な効果があったのは言うまでもない

☆エピローグ時間軸のジル&グジル
鬼は外はダメェ!福は、福は内にしてぇ!
みたいなことを行為中に言って笑わせようとしたが事前に釘を刺されてしまった、悲しい
年齢の分だけ豆を食べるという風習を前にグジルは腕を組み悩み、ジルは物足りなげにしている
チョコ?
一緒に自宅で作って一緒におやつとして食べたぞ!
すっかり牙を抜かれたただの家族

☆エピローグ時間軸の難波さん
すっかり彼女気取り……とは行かず
受験勉強一緒にしよ!
と誘っては開始十数分で保健体育と淫語の勉強が始まる日々
受験生がそれでいいのかって?
しばしの行為の後に賢者モードでグロンギ脳フル活用の受験勉強が改めて始まるのでセーフ
自己嫌悪とそれを上回ってしまう嬉しさと強すぎる快楽に溺れる日々だけど好きな人と一緒だからいいかなぁって
志望大学を主人公のそれに合わせているのは秘密
隣の部屋とかに転がり込めたらなぁと思い、主人公の母親に相談したりしている
チョコは当然手作りを渡したけど、お返しのお菓子に込められた意味とかに関してはもう期待してもしょうがないかなぁとか思っている

☆大学でも一緒に過ごしたい……純情ね!
因みにここに小さい穴の空いたゴム風船が……あ、生なのね
あの子も大胆ねぇ……
排卵誘発剤とかもあるわよ?
え、いらない?
そう……(しょんぼり)
一緒に過ごしたい、という部分は聞いたが隣の部屋がイイなという部分は上手く聞き流した
或いは隣の部屋……ああ、つまり隣の部屋ね、という謎理解を見せたり
ママチョコを素直に喜ぶ息子に、ちょっとくらい反抗期があっても良かったかも、とか思う時もある
何事も無ければ普通のママンなのだ
何事かあっても普通のママだって言ってるだろ!(豹変)
今年はループという事で一話くらい巻き込まれる周があってもいいかもしれない(遊び心)

☆バトルが続いている時間軸でのカフェ・マル・ダムール
戦いの後のここのコーヒー牛乳は美味しいなぁと主人公に入り浸られている
が、基本的にライダーバトルに参加するのが休日限定である為常連かと言われると微妙
店主のおじさんはメニューにコーヒー牛乳は無いけど、あの子いっつも牛乳別に頼んでコーヒー牛乳作って飲んでるからもうメニューに入れちゃおうかなとも考えている優しい人
なんか来るたびにイクサの人と絡んでるなあと注目はされている

☆カフェのイッヌ
主人公が来ても確率でジョバらなくはなった

☆体脂肪を気にする人間フェチのファンガイアアンチおじさん
あの少年、なかなか良い動きをしているな、君の後継者かね?
みたいな事を聞いて、イクサの人にセクハラですよと返される日々
最近の女性は難しいな……という悲しみを背負う
イクサの人を最近の女性、と、心の底から思っているので紳士ではある

☆ライダーバトル後の主人公に普段とは違う匂いを感じてちょいと無防備になりつつあるイクサのお姉さん
なんか今日はちょっと汗臭いわね
うちでシャワー浴びてきなさい
服も洗濯してあげるから
みたいな事を平気でいう
そしてそれを素直に受け入れる主人公という図
そのやり取りは勿論他にも客が居るカフェ・マル・ダムールで行われている
シャワー中にデッキを発見するが、一部の若い子の間でこういうカードゲームが流行っているのを教えてもらっているので特に不自然には思わないというガバムーブを挟む
フラグが足りていないのでシャワー中にうっかりドア開けちゃって、みたいなイベントはお預け
デッキを持っている間、不思議な気配を感じるが、ロードインパルス君が全力で身を伏せて息を殺していてくれたのでギリセーフ
バレンタインの日にマル・ダムールでチョコケーキを奢ってくれたりした


誰だよ一周2,3話で終わるとか言ったのは
俺だよ!
しかしその予定は続行なのだ
まだ破れちゃいない
でもまだ二月から三月くらいの時期やぞ
どうやって次の話で一周目を終わらせるんや工藤!
どうするか分かる人もわからない人も、次回も見てやっていいぞと思う方は次回も気長にお待ち下さい

次回、仮面ライダー龍騎編一周目最終回
『廃刊!創刊!新周刊ライダーバトル!』

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