オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
両の手を合わせ、食事とそれを作ってくれた母への感謝を定形で現す。
世界に平和が訪れ無さそうだろうと、一年以内に一夜にして三万人が死ぬ大災害があろうと、来年にはテオス某とかいうンより遥かに危険な糞による蠍座の人間に幻覚を見せて殺すというルールのゲゲルが始まろうと、生きている以上、腹は減るのだ。
緊張のしすぎで味がわからなくなる、なんて話をよく耳にするが、最近はこの世界の脅威を想定して得たストレスで食事が楽しめないなんて事も、ストレスでゲーゲーしてしまう事も無くなった。
人間の顔で死なれると嫌、というのは今でも変わらないが、グロンギの頭を焼いた帰りに、東京と実家の中間地点くらいの都市でちょっとおやつ代わりに焼き肉食べ放題を食べていくのも平気になった。
もしかすれば、これこそ脳に神経を到達させたアマダムの齎す変化という可能性もあるのではないか。
事実がどうあれ良い徴候である。
辛いことも面倒な事も確実に何処かで向き合わなければならない以上、楽しめる場面では楽しんだほうが心の健康によろしい。
食事は心のオアシスだ。
再来年にでもなったら温泉にでも行ってみるのもいいかもしれない。
「……、っ」
無言、というより、体の動きに合わせて出る呼気の音が耳に入り、食後の満腹感に過剰に精神を任せる事で逸していた意識が、隣の席に向いてしまう。
かちゃ、かちゃ、と、慣れない、というよりも、単純に動作が意識に追いつかないのであろう、不器用そうな音が聞こえる。
視線をチラリと向ける。
俺の席の隣、少し前まで来客用にと用意されていた予備の椅子に座って、白い頭と白い顔、意味のない英単語が羅列された黒いパーカーを着た少女が、白い手で拳を握るようにして持ったスプーンで、ハヤシライスを相手に四苦八苦している。
無言で、スプーンが握りしめられた手を取り、指を一本一本ほぐす様に解き、正しいスプーンの握り方に治す。
五指で握ると確かに普通よりも力は入るが、スプーンを持ってご飯を掬うくらいであれば、食べやすい正しい握り方の方が適している。
……分からなかった、というよりは、自分一人ではそこまで複雑な動きができなかったのだろう。
「悪い、気が利かなかった」
「──」
ふるふる、と、少女が小さく首を振った。
ふわりと癖のある髪を揺らめかせながら顔をこっちに向け、口をぱくぱくと動かす。
あ、い、あ、お、う。
ありがとう、だろうか。
「ん、どういたしまして……、ちょっとそのまま」
口の周りがハヤシライスのルーで汚れているので、テーブルの上に置いてあるティッシュで拭いてやる。
「これでよし」
「────!」
に、と、歯をむき出しにした、快活そうな笑みを向けてくる。
無邪気な笑みだ。
たぶん、邪気は無いのだろう。
邪気がない、というのは、敵意がないのとも、害意がないのとも、殺意がないのとも違うのだが。
「あら、あら、本当に懐かれてるわね」
「母さん、犬猫じゃないんだから……」
少なくとも、現時点で彼女の知識量と知性は犬猫よりはましな筈だ。
或いは、俺のそれを遥かに上回っている可能性だってある。
少なくとも、医師の診断を誤魔化す手段は幾つか思い当たる節がある。
彼女がその知識を得ていないという証拠は何処にもないのだ。
……悪魔の証明ではあるのだけど。
―――――――――――――――――――
犬猫ではない、とは言ったが、現在の彼女はまるで犬猫の様な気軽さと手軽さでこの家に引き取られた。
父さんが警察官であり、母さんは父さんとの結婚を期に前の職を退職したのだというが、何かしらの法律に関わる仕事に就いていたのかもしれない。
俺が戸惑い、どのように言いくるめて彼女を家で預かる……というか、引き取るのを止めさせるか考えている間に、諸々の手続きは済んでしまっていた。
手早いにも程がある。
遡ること数日前、具体的に言えば、俺がズ・ネズモ・ダを使って新しい戦い方を試しに東京に向かっていた日の話だ。
買い物に出ていた母さんが家に帰ると、襤褸同然の服を纏った彼女が、家の玄関先でぶっ倒れていたらしい。
薄汚れ、酷く衰弱しているのを見て取った母さんは一度家に彼女を担ぎ込み、休ませようとしたらしい。
何故警察に通報しなかったのか……。警察官の家族が何故警察に通報するべき場面で警察に通報しなかったのか……。
いや、通報は後でしたらしいのだけれど、そういうのは普通はどこかしらの施設に預けられるのではないか。
だが、そうはならなかった。
背中にある大きく鋭い刃物で切り裂かれ、貫かれ、挙げ句まともに縫合もされないまま放置されたと思しき傷。
お腹側にも創傷はあり、恐ろしいことに背中から突き刺されて貫通したものである可能性すらあるらしい。
人相特徴は捜索願の出ている行方不明者のどれとも一致しない。
髪の色、肌の色から日本人ではないようだが、顔立ちは明らかに日本人のそれ。
挙句の果てに、何らかのショックが影響なのか、彼女は声が出せず、自分が何者であるかもわからないのだという。
嘘くさい。
本当か?
声を出さない、記憶がない、というのは、そうであるフリが比較的容易な筈だ……。
だが、医師はそう判断した。
俺も同行したので間違いない。
あの医者はヤブかもしれない。
今後はあの病院の利用は避ける方向で行きたいものだ。
つまり彼女の現状をまとめると。
大きな負傷に対してまともな治療を受けさせて貰えない生活環境だった可能性が高く。
失声症に掛かるほどの精神的負荷を掛けられ。
服も肌も髪もボロボロになるほど長期間放浪したにも関わらず、保護者は捜索願を出していない。
……うん、これは犯罪だね、間違いない。
家族の元で生活していたのだとしても、この様な状態にしてしまう家族の家に預けたままにはできないだろう。
仮に家族が名乗り出たとしても、この少女は保護施設に預けられ、家族にはそれ相応の指導が下される筈だ。
家族による虐待が法で裁かれないのは、偏にその現状が家の中だけで完結し、外に漏れにくいからだ。
一度警察に保護され、肉体に残された虐待の跡などが見つかってしまえば、行政はそれなりに温情のある処置を被害者に行ってくれるし、親には相応の沙汰が下る。
いろいろと批判される事は多いが、この国の法は正常に作動すれば弱者をそれなりに手厚く保護してくれる。
保護してくれる、筈なのだが、何故か家に引き取られる事になった。
見た目から明らかに未成年ではあると思われるのだが、不思議な事だ。
だが、実は家で引き取る事になったのにも理由がある。
身元不明、捜索願無し、記憶無し、声出ない。
これらの証明は、全て、俺の目の前で行われた。
何故か、と言えば。
……彼女は、俺を経由しなければ、まともに他の人間と接する事をしないからだ。
正確に言えば、母さん経由でも多少の受け答えはできるのだが、何故か俺の言葉にはきっちりと反応を返す。
他人を警戒している、というわけではなく、どうも、俺に対して執着があるらしい。
怖い。
怖いが、何故怖いのかという理由を口にする事ができない。
結果的に、このままどこかしらの施設に預けてもまともな社会生活を送れないだろうと結論付けられた。
担当してくれた行政の方々も、父さんと母さんの下であれば、と、この家で一時的に引き取る事を承諾して下さった。クソみたいにありがたい話だと思う。
あと、母さんの行政とか警察からの信頼感が半端ないのだけど、なんなのか。
……ただ、単純に彼女が施設ではまともに生活できないから家で引き取った、というだけではなく。
やはり、同情もあるのだろう。
医師の診断によれば、背中の傷が原因なのか、まるで全身の神経や筋肉を引き裂かれて放置されたかの如き後遺症が残っているらしい。
現状、立って歩けているのも奇跡なのではないか、という程の身体能力しかないらしい。
単純な筋肉の衰弱とは異なり、指先の細かい動きにも支障があり、リハビリを重ねても完全に元に戻るか不明な状態であるらしい。
更に、背中から腹部までを貫通したと思しき傷は内臓にも傷を残しており、一部は正常に機能しなくなっているのだとか。
無論、それで人生の全てが損なわれる、という訳ではないが……。
女性であれば、同情を覚えるのは仕方のない事だろう。
もう止めてくれ。
わかったから。
かわいそうだし、俺に懐いてる風だから、家で引き取ってあげたいってのは凄くわかるから。
懐かれてる風だし、無理のない程度に面倒を見てあげてってのも受け入れるから。
今までひどい目にあってたみたいだから、せめて家では暖かい家族として接してあげてとか、もう、わかったよ、わかったよ、もう!
こんな酷い怪我をさせるなんてどんな悪党が、とか、いや、わかるよ!
大丈夫だから!
酷い奴だよね!
わかるわかる!
俺も頑張って世話するよ!
そんな訳で、彼女は家で預かる事になった。
名前は、幾つか普通の名を候補として呼んでみたのだがどれも反応せず、俺がいやいやながらに彼女の耳にだけ聞こえる様に口にした、反応しそうな名前に見事に反応したので、その名を縮めて『ジル』と名付けた。
父さんが東京への出向から帰ってきたら、もしかしたら養子縁組の手続きとかもするかもしれないのだという。
愛のない家族から虐待を受けていたか、何処かで犯罪者に監禁されていたか。
そんなひどい目に合っていた少女は、晴れて何の不幸もない一般家庭に引き取られたのでした。
そして俺にはアルビノの超美少女な義理の妹ができる。
わー、うれちい、泣いちゃいそう。
めでたしめでたしだぞクソが、可及的速やかに静かに誰にも悟られずひっそりと寿命とかで死ね。
……勿論、そんな訳はない。
彼女の家庭環境は知らないが、少なくとも虐待を受けて反撃しないような大人しい性格ではないだろうし、仮に一方的に彼女を虐待し傷付ける事ができたとしても、その傷は残る事はないだろう。
彼女の背に傷が残っているのは虐待された後放置されたからではなく、彼女の肉体の損傷を治す機能を有していた超常の力を持っていた石を抉り出したからだ。
目的も虐待ではなく殺害を目指したものだし、事実として彼女は絶命した。
全身に重度の後遺症が残っているのは、全身に張り巡らされ、そして脳にまで達した人間には無い器官から延びた神経が無理矢理に根本から引きちぎられたからだろう。
魔石ゲブロンが霊石アマダムと同じ力を持っていると考えれば、全身を作り変え、作り変えられた肉体を管理しているゲブロンは装着者にとって第二の脳であり心臓であり脊髄のようなものですらある。
アルティメットフォームのクウガが恐らく傷ついたベルトに神経断裂弾を喰らえば絶命する程のダメージを受けるように、グロンギもゲドルード内部のゲブロンを引き抜かれれば絶命するのだろう。
それこそ、全身の神経や筋肉をズタズタに引き裂かれる様にして、だ。
そう、彼女は、死人で、既に遺骸であるべき人間なのだ。
名を、ズ・グジル・ギ。
ゲゲルの参加者の一人であり、ゲゲルを完遂できなかった、ありふれた脱落者の一人。
俺が殺した筈の相手だ。
そう、殺した。
背を斬り付け、一瞬の硬直の隙を突いてゲドルードを破壊し、変身が維持できなくなった所を蹴り倒し、這いつくばって逃げようとした所を背を踏み地面に縫い付け、背後から心臓を槍で貫いて、完膚なきまでに殺した。
……殺した後に、死体を放置して、帰ってしまったのだ。
死体は完全に破壊すべきだった。
人の顔を見るとストレスが云々などという、俺の精神面での問題などではなく、極めて危機的な理由で、だ。
首を、首を切り離す程度の手間を足すだけだったのだ。
この世界では、死亡した人間は須らく、一度だけ蘇りのチャンスが与えられている。
病気で死のうが、餓死しようが、怪我で死のうが、平等に。
勿論、誰かに殺されたとしても。
人であるのであれば、必ず、可能性がある。
そして、グロンギも、条件は俺達と変わらない。
ゲドルードを巻き、体内にゲブロンを埋め込む事で変身能力を得ただけの人間なのだ。
忘れていた、という訳ではない。
考慮の外だった。
考慮して然るべきだったのだ。
ただ、俺が迂闊だった。
それだけの話だ。
幸いなのは、『彼女が家に引き取られた事』だ。
不幸なのも、『彼女が家に引き取られた事』だ。
現状、彼女の肉体は正常ではない。
一度死に、蘇生したとしても、生前の怪我が完治する訳ではない。
こればかりは情報がそれほど多くないので詳しくは不明だが、少なくとも生前の負傷の後遺症を残したままのオルフェノクは存在するし、逆に死亡の原因となった病や怪我は治っている筈なのだ。
死亡から蘇生までのタイムラグの間に作られた傷がどうなるか、というのも不明だし、恐らく個体によってまちまちなのだろう。
或いは、ゲブロンが引き抜かれた後にも残滓程度に肉体の再生能力が残っていた為、古めの傷である背中と腹部の傷は塞がっていたのかもしれない。
ともかく、今の彼女は、とてもゲゲルができる程の力を持っていない。
記憶の混濁、記憶喪失? が本当であるとすれば、そんな心配をする必要はないのだが。
怪我の後遺症か、オルフェノクが持つ人間体でも発揮する事ができる恐るべき身体能力も見られない。
勿論、これも演技である可能性があるが、電気刺激などを駆使してしまえば筋力の確認というのは実は誤魔化しにくい。
外部から筋肉の反応を確認する事は難しくなく、神経の障害を考慮して医師もその診察を行った。
その上で筋力が恐ろしく低いと断じたのだ、これは信じても問題ないだろう。
まず幸いなのは、彼女が俺の認識の外で自由にされなかった事だろう。
下手に記憶を取り戻し、ゲゲルを再開する、なんて考えられたなら大変な事だ。
人間の姿ではああでも、オルフェノクへの変身能力を万が一自覚すれば、それを駆使してゲゲルを再開しかねない。
なにか怪しい行動を起こせば、直ぐにでも対処する事ができる。
不幸なのは、彼女が家に常駐している事か。
母さんも常に家に居るわけではないが、少なからず俺が居ないけれど母さんが居る、という時間はある。
……現状の彼女の体力では、母さんを殺す事すら難しいだろう。
だが、やはりオルフェノクとしての変身能力を自覚してしまえば、殺すのはそう難しい事で無くなってしまう。
幸い、母さんが今の仕事、パートから帰ってくるのは夕方だし、仕事は週に五日入れている。
月から金であれば、学校が終わり次第急いで家に帰れば、そういう時間は減らせる。
不幸中の幸いは、恐らく、彼女が記憶喪失である、という点はかなりの確率で真実だろうという事。
同じくらい幸いなのは、間違いなく彼女の……ズ・グジル・ギのゲゲルはタイムオーバーである事。
我ながらファインプレーだと思うのは、彼女は俺にゲブロンを奪われている、という事だ。
夜の鍛錬に、母さんと二人きりにさせない為にリハビリと称して連れ出した後、俺は彼女に変身後の姿を見せてみた。
彼女は俺が姿を変じさせてみた事に驚きこそすれ、それに対して憎悪や怒り、恐怖といった感情を抱いているようには見えなかった。
更に、グロンギ語を駆使して散々にゲゲル失敗や見事に俺に負けた事実などを論って煽ってみたのだが、心当たりがないからかそもグロンギ語自体を忘れているのか、不思議そうに首をかしげるばかり。
煽られたなら『ふざけんな殺すぞ死ね(攻撃)』とばかりに即座に報復に出るグロンギロジックからは考えられない反応は、俺の拙い煽りに砲撃の様なパンチで即レスを返してくれた生前の彼女の反応とはかけ離れたものだ。
記憶があれば、間違いなく取れない反応だろう。
ゲゲルのタイムアップに関しては、間違いなく過ぎていると考えていい。
ズのゲゲルは言わば予選。
数を熟す事も重要になっている為、目標人数は少なめで時間制限も短めだ。
ゲゲル開始が五日、発見時が十九日で、二週間も経過している。
少なくとも、即座にゲゲルを再開して殺し始めるという事は不可能だし意味もない。
そして、グロンギにとってゲゲルは神聖なものである。
ゲゲルの遂行のために他のプレイヤーに助けを求めるのは重大な違反行為であり粛清の対象となるし、そうなればゲゲル参加の資格を奪われ、石は回収される。
これは、ゲゲルの進行を管理しているラ・バルバ・デの発言だ。
この発言をした際に粛清されたプレイヤーはゲドルードを引き剥がされ、ゲブロンを回収されている。
この事から、恐らくゲブロンというよりも、外装にして変身機能を管理するゲドルードの方こそが、参加権でもあるのだろう。
そして、現在のズ・グジル・ギにはベルトが存在しない。
俺が壊したからだ。
つまり、彼女の生存がバルバに伝わったとして、ゲゲルを再開できる可能性は極めて低い。
ベルトを修復するのは職人であるヌにしか行えず、その職人も現在はン・ダグバ・ゼバのベルトの修理に掛り切りな筈だ。
そうでなくても、ゲゲルに失敗したズのベルトを改めて修復してゲゲルに復帰させるかは微妙なところ。
本来、ゲゲルの失敗は即座に死を意味する。
ベルトが壊れて死ななかったからといって、コンテニューが許されるようなものではないのだ。
ゲゲルとは、ゲゲルであって、ゲームでない。
美しい575であり、これがグロンギにとっての真実だろう。
危険は少ない。
俺が監視を続ける限りは、という前提はあるが。
そして、それも永遠に死ぬまで続けなければならない訳ではない。
一度死に、オルフェノクとして蘇生した以上、彼女の寿命はそう長いものではない。
長く見積もっても十年。
これからリハビリを続けてどれだけ結果が伴わなく、延々介助と監視の日々が続くのだとしても、十年もすれば、彼女は灰になって死ぬ。
僅かな労力だ。
少なくとも、彼女をオルフェノクにした時の命がけのそれと比べれば、遥かに精神的、肉体的負担は少ない。
今直ぐに殺して、俺や母さんに何らかの疑いの目が向けられたり、母さんが悲しんだりするのに比べれば、よほど気が楽な作業だと断言できる。
十年も経てば、彼女は見た目完全に大人になるし、ふらっと何処かに失踪したとしても悲しみは少なくなる筈だ。
元を正せば俺の迂闊が招いた結果なのだから、喜んでこの負担は背負わせてもらおう。
―――――――――――――――――――
そういう訳で、母さんと俺の二人暮らしと化していた我が家に、居候にして恐るべき義妹候補にしていざとなれば抹殺対象となるジルが加わり、しばしの月日が流れた。
幸いにして推薦入試にて地元の公立高校の合格が確定していた俺は、残りの中学校生活を思う存分満喫した。
そして授業が終われば数少ない友人からの遊びの誘いをそれとなく断って家に全力ダッシュを行い、即座にジルの監視及び介助を始める。
高校での勉強内容を予習(復習)したりする時も、部屋にジルを居させておく。
勉強の合間に、現代での一般常識が無い(記憶喪失のせいだと思われている)彼女に、リントの常識、倫理観、道徳心などをレクチャーしていく。
文字の読み聞かせなどから始まる基本が早々に完了したのは、彼女の脳がやはりグロンギとしての学習能力を残しているからか。
労力が少なくて済むのは良いが、根幹の倫理観にグロンギの気風が残っていたなら危険かもしれない。
現時点で、スポンジが水を吸うように素直に学習しているが、危険と言えば危険だろう。
映画、ドラマ、アニメ、漫画、小説、漫画などなど、情操教育に使えそうなものも、逐一チェックしながら見せ、それに対する反応を観察していく。
彼女はなにもない時はぼうっと呆けたような顔で居る事も多いのだが、楽しければ、面白ければ笑い、喜び、悲しい時に涙を見せ、恐ろしげなものには恐怖を現し、理不尽には怒りを見せた。
子供のように素直に感情を表現する様は、まるで普通の人間と変わらないようにも思える。
だが、それらの感情の殆どはグロンギも持っているのだ。
悲しみの感情を示したグロンギを俺はついぞ見たことはないが、その感情を持っていないとは言い切れないだろう。
グロンギにも個性があり、ものの好みがあり、ギャンブルや文学を楽しむタイプすら存在する。
感情を素直に現す、というのは、グロンギではない事の証拠足り得ない。
危険かどうかは、やはり逐一監視して、その都度判断するしかない。
時折、俺の監視の視線に対して視線を返し、にぃ、と笑みを浮かべる事がある。
その笑みが『上手くリントのマネができてるだろう』という意味でないとは、誰にも断言できないのだ。
やはり、監視は必須だ。
猛士の皆様にどうにかお願いして、ディスクアニマルの使い方だけでも習得させては貰えないだろうか。
監視以外にも、ディスクアニマルの可愛らしさは情操教育にも役立つ筈だ。
記憶が本当に消えていた場合でも、きっとプラスになる。
―――――――――――――――――――
そんな日々を過ごし、とうとう俺は中学を卒業した。
三年の月日を過ごした校舎に別れを告げ、母さんに正門の前で記念写真を撮ってもらう。
一枚撮った後、何故かジルも一緒に写真を撮った。
写真に写して見る事でなにかわかる事もあるかもしれないし、別に減るものでもないので共に写真を撮る。
見た目の感想としては、白い肌に白い髪に、黒い礼服はコントラストがキレイだな、という程度か。
母さんに感想を求められたので口にしたら、白に少しだけ赤が差していた。
まだリハビリの成果もクソもない時期だ。卒業式の人混みで疲れて熱が出たのかもしれない。
体調を崩して意識を失い、悪夢の中で過去の記憶の断片を垣間見られても困るので、早々に家に帰るべきか?
そう思っていると、同じクラスの友人、更に顔見知り程度の連中にまで、ジルの事で質問攻めに合った。
まぁ、わかる。
いきなり卒業式に漫画の登場人物もかくやというアルビノ美少女が現れたら、それは思春期の少年少女であれば何らかの反応を示してしまうだろう。
当然、やましいことも無いので、怪我の跡とか虐待されてた疑惑とか、そういう好奇や同情の視線を集めそうな話題は避けて説明する。
身寄りのない子であり、ちょっとした縁があって家で引き取った事。
何故か懐かれているので、不自由がない様に俺が生活の諸々を手伝っている事
そのうち家族になるかもしれないこと。
数少ない友人達は、驚愕の表情で俺の説明を受け入れ、何故かいくらかの軽い罵声を浴びせてきた後、祝福の言葉を掛けてきた。
情緒不安定なのかもしれない。可哀想に。
そして、卒業式の後に俺の事を校舎裏に呼び出していた、ちょっとだけ名前を貸して稀に助っ人で顔を出して指導したりしていた剣道部の後輩の女子は、涙ながらに別れの言葉をくれて走り去っていった。
校舎裏への呼び出しはもう良いらしい。
お礼参りかと思って密かに用意しておいた伸縮式警棒は不要になったが、なんだったのだろうか。
涙の理由とか呼び出しの理由とかを確認する為にちょっと呼び止めようとしたら、まぁまぁ仲のいい友人に『今はそっとしておいてやれこのクソが』と言われた。
何だよ人をクソ扱いするとかこのクソが。猫のうんこ踏め。
高校進学で別れたり別れなかったりする友人達としばし騒ぎながら、中学生活を、そして、最近の激動と言って過言でない日々を振り返る。
二度目の人生イージーモードだな、などという甘い夢から覚めたり。
この世界が地獄である事を再確認しつつ試作アークルを巻いたり。
日常に潜むオルフェノクとかいう元人間の害獣をどうにかこうにか始末したり。
魔化魍を頑張って散らして猛士に匿名で通報して、遠間から音撃ライブの生演奏を聞いてちょっと嬉しかったり。
グロンギを殺しに行って新聞に載ったり。
殺し損ねた相手の面倒を見ることになったり。
いろいろと、普通の人生では経験したくない事も経験できない事もたくさんあったが、それを差し引いても、良い中学生活だった。
これから、何処まで行けるのか、何時まで生き残れるかはわからない。
だけど、この三年間は、間違いなく俺の人生の中で輝かしい時間だったのだと断言できる。
願わくば、高校での三年間も、負けないような素晴らしい時間を得られます様に……。
「──」
くい、と、手を掴まれた。
ジルが手を掴み、母さんが回してくれた迎えの車に引っ張って行こうとしている。
白く、冷たく、頼りない力で引かれる手。
その手が、少しだけ、似ていると思った。
未来は白紙で、先行きは凍えるように寒く、先に進める保証は無いに等しい頼りない道行きで。
そして、何時か、絶対に消えてなくなる。
何処かで、確実に途絶える。
先にあるのは、一度だけ体験した、絶対に忘れることのできない結末。
死。
絶対の無。
約束された、唯一平等な結末。
一度だけ、もう一度だけ校舎を振り返る。
徐々に解散していく友人達に手を振り一度の別れを告げて。
頼りない力で引っ張ってくる手に逆らわず、歩き出した。
☆今回は別に最終回じゃない今後十年くらいのヒロイン介助生活を余裕で覚悟してるマン
オルフェノクの寿命考えれば最後まで監視するくらい楽勝楽勝
ここから十年だとディケイドだから無事そこまで生きてもおのれディケイドみたいになる
そもそも寿命死見届けとか展開盛り上がらないから間違いなく無いけど作中で普通に人生送ってる主人公君は物事を道理で考えるのでそこら辺には思い当たらないのだ、タァーッ!(嘲笑)
殺したのは自分だし蘇生を許してしまったのも自分だし後遺症残したのも自分なので責任は取るし、石が無くなってグロンギとしては無力化したけどグロンギの種族的思考法にオルフェノクのパワーが合わさると大変危険なので監視もする
夏目ちゃんが警察に0号調査せんと死ぬで、ワイが。とか脅しかける話は当然スルー、行く意味無いので
中日にあった日曜にゲゲルしてる連中は今回スルー、監視があるからね
今後は同伴させる可能性があるけど、連れてくのも危険ちゃ危険、どうしよう、解決法が思い浮かばなかったらこのSSは爆発する
マシントルネイダーにタンデムは危険なので背もたれ増設された絶妙にダサいマシントルネイダーが爆誕する可能性、あります
因みに今回蘇生阻止戦法を試す為にイカを焼きに行く予定だったが、ヒロインの説明が長くなったので今回は卒業式回
生き残りに必死だから人間関係への気配りは最低限な!
☆薄幸の虚弱ヒロインジルちゃん
元ズ・グジル・ギにしてゲゲル脱落記憶喪失虚弱系ヒロイン
記憶喪失かどうかは不明
記憶を取り戻すかは秘密
たぶんクウガ編は乗り越えられる
空の器とかスプーンは辛うじて持てるけど、中身の入ったカレー皿とかは持ち上げられない
手を握ったり閉じたりはできるけど、手指を複雑に動かす事はできない
一人で歩こうとすると割とコケる
あと風邪とかもひきやすい
弱体化の理由はあれ、デモンパラサイトの長期間共生生物に寄生されてた悪魔憑きが能力失うと後遺症出るのと同じ感じと思ってもらえれば
着替えは主人公が手伝うし、お風呂も主人公が手伝うし、食事も主人公が手伝う
めっちゃ主人公に懐く
なんか心臓ぶっ刺されて死んだけど生き返った
この世界特有の現象やで工藤、わかるか工藤、殺人事件やけど無効事件やで工藤
でも主人公の家の前に正確に辿り着けた理由はここまで一切説明してないんやで工藤
今回は原作絡まない説明回でした
残念でした
次はイカを焼きにジルちゃんと手を繋いで電車で東京に遊びにいくよ
ふたりはとってもなかよしなんだね
因みにゲゲルに参加してないグロンギは結構全国に潜伏してるっぽいので集めようと思えばゲブロンはもっとたくさん手に入ります
次回
「必要な事です」
「誰もが、泣きながら戦えるわけじゃないんですよ」
「一つだけ、知っておいてもらいたい事が、あります」
【助言、それだけを】