オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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48 泡沫の夢

夢のような時間は瞬く間に過ぎる、とは言うけれど。

度が過ぎればそうとも限らなくなる。

止まらないと、と、そう思いながら、もっともっとと続けてしまう。

どれくらいの時間が過ぎたのかもわからない。

もう何日もこうして、こうして……好きな人と繋がっているような。

 

どく、どく、と、私の中の彼が力強く脈打ち、熱いものが流れ込んでくる。

冷静になってから、不味いと思ったけど、彼が言うには後からでもなんとかなるらしい。

……なんとかなるから、と、前置きした上で、色々と、言ってくるのは反則だと思う。

言葉一つで興奮できるなら良いスパイスだ、なんて言うけれど。

 

私が上だった筈なのに、いつの間にかひっくり返されて。

のしかかるようにしてガッシリと抱きしめられて。

息ができなくなるくらいに、口の中を吸われて。

ごりごりと押し付けるみたいにして。

音なんて聞こえる訳がないのに、びゅるびゅると音が聞こえるくらいに、勢いよくお腹の中が彼のもので埋め尽くされて。

出し入れする度に頭の中がばちばちして。

でも、もう、最初からそう作られていたみたいに。

彼の、交路くんのものに合わせて作られたみたいに、私の形がぴったりと合わさって。

引き抜かれそうになると悲しくて。

身体を合わせるように追いかけてしまって。

追いかけようとしたら、また、勢いよく貫かれて。

逃げないように、抱えるように抱きしめられながら。

お尻を痛いくらいに掴まれている筈なのに。

玩具みたいにこね回されているのに、それでまた頭の中に靄がかかる。

頭の中が熱い。身体が熱い、お腹の中が熱い。

どろどろとした気持ちよさが、行き場をなくして頭を、身体を溶かしている。

交路くんが出したものみたいに、外に逃して貰えず、身体が破裂しそうなくらいに押し込められて。

交路くんの手が撫で回し、揉みしだき、触れていない場所が無い程に好きにされている肌の一枚下は、全部融けて気持ちのいいぐずぐずになってしまった。

代わりに、私の喉から、私のものとは思えないような、可愛くない、動物の鳴き声のような、濁った音がこぼれ落ちる。

常の私が聞いたら耳をふさぎたくなる様な、酷く嫌らしいおねだりが頭の中から溢れ出して、息も絶え絶えに、途切れ途切れに口の端から溢れ出す。

 

もう何時間が過ぎたのだろう。

外が明るいか暗いかもわからない。

もう、いまがいつかもきにならない。

ずっとずっとたかいところにのぼったまま。

きもちよくない、が、なくて。

おりれない、おりたくない、おりかたもわからない。

 

頭がばちばちして、めのまえがチカチカして。

でも、めのまえに、こうじくんがいる。

優しい手付きで、意地悪な言葉で、おもちゃで遊ぶみたいに、動物みたいに。

私をめちゃくちゃにしてくれている。

もっと、もっと、もっと。

もっと、わたしを、食べ────

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『説明しよう!』

 

『性の六時間とは、一年の間で最もセックスを行う人が多い』

 

『12月24日の午後9時から翌25日の午前3時までの6時間の事である!』

 

部屋から出ると、既に愛用品と化しているスケッチブックに力強い筆記で書かれた文章を此方に向けるジルが立っていた。

何時も大体天真爛漫なのでその延長線上かな、とも思ったが、常に無いジト目は明らかに機嫌が良さそうには見えない。

 

「その心は?」

 

俺の言葉に、ジルは手に持っていた目覚まし時計をずい、と前に出してきた。

時刻は昼の十二時。

 

「ふむ」

 

昨日、難波さんが来たのが大体日付が変わる少し前頃だから……。

考えている間に、ジルがスケブを捲る。

 

『性の十二時間は流石に長い』

 

「確かに」

 

一理ある。

昨日眠る前に炊飯器で朝ごはんの予約をしておいたので、それも長時間保温で微妙になってしまっているかもしれない。

 

「朝ごはんは食べたか」

 

こくりと頷く。

それは、なるほど、ジト目にもなろう。

クリスマスの朝に家に家族が居るのに一人でご飯というのは中々に寒々しい話だ。

日本ではイブが終わればそれでクリスマス終了、みたいな雰囲気があるが、それでも一応は祭日ではある。

 

「悪い。次からは気をつけよう」

 

これにもこくりと頷く。

ジルはグジルの人格と共生する形で成長したおかげか、人間狩猟民族特有のさっぱりした性質を獲得している。

悪いことをしたら謝り反省しなければならないと説いてあるので、それに沿って謝罪と反省を示せばそうそう根に持つ事はないのだ。

 

言い訳というか、長引いた理由もあるにはある。

難波さんが行為を初めて三時間くらいした頃に酔いが覚めてやや恥ずかしがり始めたのだが、その様子が……、まぁ、良いなぁ、となってしまい。

難波さんのお願いを聞く、という形で始めたにも関わらず、此方から難波さんを求める形で継続してしまったのだ。

これが普通の肉体を持つ人間の男女二人であれば疲労その他の要因で途中終了することもあるのかもしれないが。

互いに余程の激しい運動でもない限りスタミナ切れも無く、擦り切れによる痛み、一部膨張を続ける事による痛み、弾薬切れなどはそう起きない。

更に言えば……、刺激を求めようとすれば、脳内麻薬の量をちょい足ししたりもできるので、プレイにも幅が出る。

そうして、ジルの時と同じ様に色々と試す内に、少し難波さんのタガが外れてしまって、脳味噌の電源が落ちるまで延々続ける事になってしまったのだ。

 

魔石の戦士同士で行為に及ぶ際は、目覚まし時計などセットしておかないと、時間を忘れて事に及び続けてしまう可能性があるので、普及の際には注意が必要かもしれない。

 

―――――――――――――――――――

 

……うわぁ。

うわぁ……!

 

気持ちよかった、とか、交路くんとしちゃった、とか。

そういう感覚よりも先に、頭に浮かんだのは、昨夜の……今朝の? 私の言葉と、行動だった。

掛けられていた布団を頭から被り直し、頭を抱える。

 

「う、うぅぅぅぅ」

 

やっちゃった。

やってしまった。

もしかして、女の子にあるまじき行為だったのではないかな、と、何処か冷静な頭が聞いてくる。

少なくとも、初めての女の子がする動きでもなければ、初めての女の子の言動でも、初めての女の子の声でも無かったんじゃないだろうか。

色んな戦いで痛いのには慣れていた、というのもあるけれど。

それ以上に、初めてで、あそこまで気持ちよくなれるものなのだろうか。

 

……スケベな女の子だと思われてるかも。

 

いや、私は別に、そんなエッチな訳ではないけれど。

一般的に、自分から裸になって好きな相手のベッドに潜り込むのはエッチな女の子の行動だけど!

私は別に、えっちな事が好きな女の子という訳じゃ……。

訳じゃ、無い、無かった、昨日までは。

 

布団の中でも、見ようと意識すれば暗い中なのに自分の身体がはっきり見える。

意識を失った後に交路くんが綺麗にしてくれたのか、何かがべっとりとこびりついているということも無い。

でも。

交路くんの手の感触が、合わせた身体の熱が、私を串刺しにしたものの硬さとか力強さとか、そういう感触が、はっきりと残っている。

胸を見る。

痛いぐらいに揉みしだかれて、何故か出る筈の無いものまで出てしまった胸。

もう痛みも違和感も無いのに、思い出すだけで、頭の中にはっきりと感覚が蘇る。

 

痕は何も残っていない。

最初から激しくても傷つけないようにしていたのもそうだし、多少強くされて赤くなってしまっても、この身体は直ぐに直してしまう。

首元を見る。

自分で言うのもなんだけど、綺麗な首筋だ。

少しだけ、勿体無い。

 

「……キスマークくらい、残してくれてもいいのに」

 

自分のものだ、と、印を付けるように、服を着ていても見える位置に何度もされたキスの痕は綺麗に消えてしまっていた。

そういう融通もこの身体は効かないのか、それとも、交路くんが気を利かせたつもりなのか。

……はっきりと告白をしなかったせいで、交路くんのもの、と、そういう印を付けるのを遠慮されてしまったのかもしれない。

 

「難波さんが一人暮らしなら残したけどね」

 

「ひゃん!」

 

いきなりの声に身体が跳ねた。

聞こえていたの、とも、聞こえていてそれなの、という言葉よりも先に、喉から意味のない音が飛び出すのは仕方がない。

視界に光が差し込む。

頭から被っていた布団を捲られている。

 

「おはよう」

 

「お、おはよう、ございます……」

 

思わず敬語になってしまった私を誰が責められるだろう。

さっきぶりに見た顔は、いつもどおりの筈なのに……いや、いつもどおりというのもおかしいのだけど。

私に向けて微笑みかける姿は何時もと同じようにしか見えないのに、それを見る私はいつもの何倍も、ときめいてしまっている。

昨夜の事は、もう自分的に反省しきりなのだけど、それでも、彼と、その致したという事実が、何でも無い朝の挨拶をしながらでも頭にちらついてしまう。

 

「色々あるだろうけど、とりあえず、シャワー浴びてご飯にしよう?」

 

「うん……」

 

「……一緒に入る? お風呂」

 

「…………………………きょ、今日は一人で大丈夫だから!」

 

「今日は、ね」

 

「そう、……うん、そう、今日は。そういうのは、()()

 

「楽しみ。あ、お風呂までの着替えは枕元に置いてあるから」

 

楽しそうに笑いながら部屋から出ていく交路くん。

枕元には、綺麗に畳まれた、昨日私がデートに着てきた着替え一式。

お酒の勢いに任せて脱ぎ捨ててきてしまった勝負下着も、当然の様に洗濯してパリッとした状態で丁寧に畳まれている。

これはジルちゃんグジルさん交路くんの誰が洗濯したんだろう……。

誰が洗濯したのだとしても、最終的にここに持ってきたのは交路くんで間違いないわけで。

そりゃ、昨日……今朝まで全部さらけ出してたけど、こう、もうちょっとリアクションが欲しいというか……。

 

「ん?」

 

折り畳まれた着替え、下着の間に、紙切れ……メモ?

 

『次はこれ着てるとこも見せてね』

 

「ん」

 

顔が熱い。

見てみたい、と言われた恥ずかしさと、こういう服を着てるとこを見てみたいと思われている事への嬉しさ。

そして、そういう事を素直に伝えてくるんだなという、積極性への照れ。

そういうものが、入り混じって。

 

「んんんんんんんん…………」

 

もう。

もうどんな顔すればいいのかわかんないよぉ……!

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

今年も無事に大晦日を迎える事ができた。

思えば、一昨年の今頃はこんなことになっているなんて思いもしなかった。

去年の今頃は難波さんと遊びに行っても、年明けのメインイベントのせいで何処か上の空だった気もする。

そして、年明けに難波さんが事故って意識不明になって。

心配してる間にザギバスゲゲルに挑んで、勝って。

難波さんが目覚めたかと思えばギルスの力にも目覚めていて。

ギルスの力を制御するためにラの連中を探してグロンギの持つ技術や知識を継承して。

木っ端マラークを潰して回って。

芦原さんに治験をして貰って。

難波さんと喧嘩別れしそうになって。

かと思えばG1を装備した一条さんが何かよくわからない何かになりそうだったからベルトを使って指向性を与えて。

自衛隊に蔓延るカルト集団が一夜にして何故か滅びて。

ジルの中身が色々判明して。

ムセギジャジャが増えて。

なんやかんやでテオスもどっか行って。

イクサのベルトを持つ謎の綺麗なお姉さん(母さんの後輩)に出会って。

難波さんがエッチになって。

 

そんなこんなを乗り越えて。

今この瞬間、俺の手の中にある平穏の象徴こそこの年越しそばさんなのだ。

 

「これを勝利の味と言わずしてなんと言おう」

 

『おいいい?』

 

「美味しい……、とても良い」

 

「高かったのよー、その天ぷら」

 

母さんが言うには近所のスーパーの中でも特に惣菜が美味しいところのものらしい。

わかる。

例えば同じ系列のスーパーでも店によって微妙に、或いは時に露骨に味の良し悪しがあったりするのだ。

さらに言えば大晦日の天ぷらなんかは普段しないような大量生産だから、微妙に油が悪くなってるんじゃないのって代物があったりするのだが、これはそうではない。

季節のイベントものだからと値段をぼったくってるところが多い中、この天ぷらはやや高めの値段相応の品質になっている。

高い油を使っているとかではなく、恐らく揚げ油を交換する頻度の違いによるものだろう。

 

「チャンネル変えていい?」

 

「良いけど何見るの?」

 

「超常現象ファイル。黒いピラミッドが飛んだりデビルズテーブルが飛んだりしないか確認しなきゃ……」

 

えなりの威勢のよい歌声とハムちゃんずの楽しげな歌唱に勇気を貰った以上、最早紅白に用は無い。

MIBの如く数多の嘘(楽観的予測)に紛れた数少ない(逆ではないと思いたい)世界の真実を見極めなければならないのだ。

この頃はまだノストラダムスの大予言がこの時代のエロゲやスパロボの如く延期を繰り返していた時期だが、それを除いてもオカルト話が堂々とテレビで語られていた時期なので扱うネタの幅も広くて良い。

現状の戦力で対処できそうなネタであれば純粋にバラエティとして楽しむ事ができるのも嬉しい。

 

「最近はバイクも飛ぶらしいし、怖い世の中よねぇ」

 

「はえー」

 

呆れたものだ。

普通に考えればバイクとは自動二輪車(空は飛ばない)の事を指すと思うのだが、何処のバカがバイクで空を飛ぼうなどと考えたのだろうか。

俺の知る技術の進歩から考えても空を飛ぶバイクの実用化はかなり先だというのに。

墜落したらどうするつもりなのだろうか。

常識知らずも居たものである。

そのうちテントも飛ぶのではあるまいか。

勿論、言うまでもなくマシントルネイダーは飛行形態時はバイクではなくよくわからん細長い飛翔機械であり、空を飛ぶバイクではないのでノーカンだ。

 

未だ分厚いブラウン管の中でその筋の研究者の方が、ノストラダムスの大予言が新たな暗号解読結果によりもう一年先延ばし、来年の7月に無事延期が決まった事を頭を下げて詫びているのを和やかな気分で眺めていると、母さんが立ち上がった。

 

「もう寝るの?」

 

『いうおいううおいあ?』

 

「明日はお父さんも帰ってくるし、寝貯めしておかなきゃだから。行く年くる年は三人で見てね。紅白どっちが勝ったかだけ後で教えて」

 

録画しておけばいいのに、とは以前も言ったのだが、そこまでして見るものでもないらしい。

ひらひらと手を振りながら居間から出ていく母さんがふと振り返る。

 

「ああ、あと、お蕎麦と天ぷら残ってるから、食べちゃっていいわよ。じゃ、おやすみー」

 

「おやすみー、良いお年を」

 

よいお年をー、と、背中越しに返して戸が閉まる。

足音が離れていき、母さんの部屋の戸が開いて、閉まる。

よりも少し早く、ジルの輪郭が滲み、陽炎の様な人影が現れ、間を置かずにハッキリとした像を結んだ。

 

「正月ってお酒飲めるって聞いたんだけど」

 

「その前に蕎麦を食え蕎麦を」

 

「もちろん食べる、ジルも食うか」

 

『あんうんお』

 

「おうおう。海老はしっぽじゃない方をやろう」

 

仮の像に宿ったグジルがジルを伴って台所に向かう。

恐らく、ジルの中にグジルが居る事を母さんは察している筈だ。

何しろ元イクサであるらしいので、それくらいの超常現象は慣れっこだろう。

スーパーで買い物するとき天ぷらを多めに買った時は、おっ、海老天もう一本食べられるんですかやったー! と一瞬ぬか喜びしたものだが、こいつを仲間外れにせずに済むというのはそれはそれで良い事だと思う。

……母さんがそういうのに耐性ありってんなら、イクサの人にはジルの事情、部分的に話しちゃってもいいかな。

いや、元グロンギって時点で駄目か。

ガリマみたいに貫禄のスコア0とかガドラの奇跡のスコア1ならともかく、こいつ曲がりなりにも十数人殴り殺してるからな。

元ズの癖にやるものである。

おかげでこうして面倒な立ち位置になってしまうのだから困ったものだ。

 

「ていうか、コウジも寝た方がいいんじゃね? 明日難波と初詣だろ?」

 

湯気を立てる丼を持って戻ってきたグジルがそう言うが、

 

「もう風呂入って着替えてるから、あとは歯を磨けばすぐ寝れる。日付が変わって行く年来る年見たら寝るし、最悪寝なくても支障はない」

 

何しろ天下の休日なのだ。

しかも大晦日から正月の夜と言えば、何故かテレビで映画が連続で放送されたりで少しお得感がある。

しかも魔石の戦士はこたつで眠ったところで余程の事が無い限り体調を崩したりはしない。

まさに万全というやつだ。

何も問題はない。

 

「あとは、ちょっと内職」

 

手元にある裁縫箱から作りかけの手袋を取り出す。

 

『うええんお?』

 

「難波にかぁ?」

 

「彼女は何故か冷え性気味だからな」

 

蜘蛛の糸の構造を参考に作り出した特殊繊維を独自に編み出した……というか、未来において実用化されていた網目構造を又聞きのデータを思い出しながら再現したもので、これ単体で単純なパワーアシストができる。

理屈の上ではこれで全身を覆うボディスーツを作れば簡易パワードスーツになる。

まぁ、強化倍率に関しては実戦に耐えうるかも怪しい。

実験とプレゼントの作成を同時に行っているようなものなので、これ自体にはそれほど重要性はない。

仮にこれが見つかっても少し凝った裁縫をしているとしか思われないだろう。

更に難波さんは人間体での身体能力も高めなので、これを装備して全力をだしてもせいぜい万力が油圧カッターになる程度。

どちらかと言えばこの人工筋肉手袋の外面を整える素材の保温性の方が難波さんには嬉しい効果になる筈だ。

結構な寒がりだからな。

この手袋が、難波さんの助けになればいいのだが……。

 

―――――――――――――――――――

 

……じ。

……うじ。

 

「こうじ!」

 

「おっ! ……おおう、すまん、寝てた」

 

身体を揺さぶられながら呼びかけられて、ようやく意識がはっきりと覚醒した。

すっかり明るい。

何処かの常に彩度が低い世界とは対照的というか、若干白飛びしているのではないだろうか。

画面写りが心配だ。

……なんだこの思考は。

ともかく。

 

「あー、あけましておめでとう?」

 

「おめでとう!」

 

ジルがにっこにこの笑顔で返してくる。

挨拶には挨拶を返す。

これができないやつは認めてもらえないのだ。

伝説を作った男もそう言っている。

……誰だ?

いや、五代さんは挨拶を大事にしてそうだからきっと五代さんの事だろう。

 

「でもね、まだ明けてないよ」

 

「……そういえば、喋ってるな」

 

ジルが喋っているのだ。

声を出して。

グジルがジルのフリをしているという可能性も無いではないが、グジルにジルのこの表情は恐らく出せないだろう。

実は出せるのだと言われたら俺の女性全体への不信感が3くらい上がる。

さんっ!

ボールが飛んできた。

弾丸より遅いとか掴んでくれと言っているようなものだ。

キャッチすると、当然ボールには3と描かれている。

なるほど。

 

「初夢か」

 

「そうだ」

 

少しだけ懐かしい、聞き慣れているという程ではない、しかし役割上の関係でそれなりの時間聞いた覚えのある冷たい声が。

ウェーブのかかった黒髪の妖艶な女性。

ただし、普段着ていた、或いは、死に際に着ていた様なドレスとは異なる晴れ着に身を包んだこいつは……。

 

「ラ・バルバ・デ」

 

「バルバで良い。……初夢だからな」

 

そう告げて、僅かに、最後の邂逅の時よりも幾分柔らかい笑みを浮かべた。

ああ。

なるほど。

これは夢だろう。

見渡せば、()()には、見覚えのある様な、或いは、知識の中でだけ知っているような顔が。

だが隅っこの席で不機嫌そうにチーズを齧っているのは……知らんな。

が、消去法でネズミのやつだろう。

変身後に遭遇して顔焼いて殺したからわからんが、チーズ食ってる弱そうな奴ならたぶんネズミだ。

他は、こちらに僅かに視線を向け、ふんと鼻を鳴らして顔をそむけたスコア0の女性。

腕を組み、不敵に笑う全身傷だらけのスコア1の男性。

その前のテーブルに置かれた湯気を立てるイカ飯はなんだろうか、食べないのかな?

カウンターの上には縁起物であるダルマが置かれているが、ミニチュアの黒い傘が立てかけられて目の辺りにバッドマンのマークが刻まれているのはなにかの暗喩か。

とうきおう……(ねっとり)。

 

「選ぶが良い、強き戦士よ」

 

白くモデルチェンジされた軍服を身に纏う中々いかつい男は、黒かった口紅も白く変えている。

縁起物だからか。

渡されたメニューを見れば、常のこのお店には無いメニューとして、すっぽん鍋とサメの唐揚げが。

見事な珍食だと感心するが何もおかしくはない。

 

「此処は我らが出そう。初夢だからな」

 

ううむ。

初夢と言われては仕方がない。

 

「お雑煮カレーを一つ」

 

メニューからガーン!という音が聞こえた気がするが、初夢だからだろう。

しかし、カウンターの向こうには突っ伏した五代さんしか居ない。

今頃は総集編だろうか。

彼の中の最終回は東京で起きたらしい大規模ゲゲルだろうが、絵面は地味にならないのか。

そもそも国外に居る筈なのに今更総集編……国外で何かあったのかな?

つまり今年の頭に出国して年明けまでに総集編ができそうな何事かに巻き込まれていた可能性があるのだろうが、店員として店に出ているなら居眠りはいけない(戒め)。

恐らく肉体は休んでいるのだから精神だけの夢の中では店員として働くべきではないだろうか。

嫌なら客として来る夢を見るべきだろう。

そんな思いを他所に、すやすやという寝息すら無く死んだように眠っている。

果たして注文は届くのだろうか。

少し心配だ。

 

明るすぎて白んだ空間に、とぽとぽと何か液体が注がれる音が響く。

眼の前のテーブルにグラスが並べられていた。

注ぐのはバルバ。

三つのグラスの中に、バラの如き赤い液体が注がれていく。

 

「めでたい時に、行うものなのだろう」

 

赤い液体の注がれたグラスを掲げ、心持ち柔らかい声色のバルバが告げる。

初夢でもなければありえないシチュエーションだが。

……たぶん、彼らにとっても、年明けの如くめでたい事があったのだ。

 

「目指すだけで、成した後にどうするかは伝わっても、考えてもいなかった」

 

「リント式でも?」

 

「等しくなった。変わりはしない」

 

どこか、ほっとした様な。

仮に生きていたとしても聞けたかどうかわからない声色。

それに吊られるようにグラスを掲げ、ふと、置かれっぱなしのグラスを見る。

その視線に気付いたのか、小さく、気のせいかどうかという小さな溜息。

 

「あいつは、こういう文化にも疎くてな」

 

「何に詳しいんだあいつ……戦いか」

 

「それもお前が上手だ。今ではな」

 

「相対して何分上手で居られるか……」

 

と、疑問に思ったからか、話題に上がったからか。

存在感が現れた。

数メートルしか無い筈のカウンターの奥が、陽炎で歪む。

そこから現れるのは、白い青年。

黒髪、白い肌、白い服。

全てを焼き尽くす白い光の様な。

彼は、お盆を持って近づいてくる。

二つは、お雑煮カレー。

俺とバルバの眼の前に。

そして、やつは空いた席に座りながら、もう一つを自分の眼の前に置いた。

 

「なれたんだね、究極の闇に」

 

「それは……」

 

白い青年に似合う、白いどんぶり。

しかし、その中に満たされているものは。

なみなみと注がれた茶色いスープ。

それを纏う、青年と同じ純白の麺。

カレーうどん……!

 

「馬鹿な、まさか、やめろ」

 

白い青年は目の前に置かれた自分のグラスを気にもとめず、お箸に手を伸ばす。

美しい持ち方で支えられた箸の先が、カレーうどんの中に突きこまれ……。

跳ねたカレーの汁が、白い青年の純白のシャツに────!

 

―――――――――――――――――――

 

やめろーっ(にゃめろーん)!」

 

飛び起きる。

呼吸が荒い。

ベルトの調整を乗り越えてここまで俺の動悸を乱すとは、恐らくはかなりの、世界滅亡系の話があったのかもしれない。

例えばそう、ウエディングドレスを着てカレーうどんを食べるような暴挙が行われたとか。

 

身体を起こす。

案の定、作業をしながら眠ってしまったようだ。

隣には俺にもたれかかるようにして眠るジルの姿。

周囲は、オリエンタルな味と香りの店ではない、見慣れた自宅の居間。

 

「……夢か」

 

恐らく、何か恐ろしい夢だったのだろう。

或いは、少しだけ楽しい夢だったかもしれない。

だが。

どれだけ恐ろしくとも、どれだけ感慨深くとも。

夢は夢だ。

それで何かが変わるわけではない。

 

「どうせなら、何かアイデアが浮かぶような夢が良かったなぁ」

 

簡単に偽装用のパワードスーツを作れるようになる画期的なアイデアの片鱗が詰まった夢だとなお良し。

収集したミラーワールド関連のデータが不足しているから、それを補うものでも良し。

それが無理なら縁起物の一富士二鷹三茄子のどれかにでも掠ってくれればいい。

……が、そういう気休めも叶わないのであれば、自分で起きている間の現実をどうにかするしかないのだ。

 

「…………」

 

意味のないジルの寝息、寝言。

声にはならずとも呼気が立てる音は声にも聞こえる。

はしゅ、とも、しゅふ、とも聞こえる、楽しげな寝息。

ジルか、或いはグジルかは知らないが。

こいつもまた、何か楽しげな、懐かしげな夢でも見ているのかもしれない。

お雑煮カレーでも夢の中で食べているか。

ぼんやりとだけしか覚えていないが、後少しで食べられそうだったのを、何かに妨害されたような気がして少し悔しい。

 

「お雑煮カレー、いつまでやってるかな」

 

そもそも実在するメニューなのだろうか。

というか、実際に正月に営業しているのだろうか。

店の電話番号は覚えているので、夕方、店舗が開いているかもしれない時間になったら、電話してみるのもいいかもしれない。

そうしたら、こいつを連れて、或いは、難波さんも誘って。

現実の方で食べに行くのも良いだろう。

起きている間なら、やれることは、やればできるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初夢回(断言)
半分がクリスマスの朝だとしても初夢を描いたのだから初夢回なのだ

作中にいかがわしいように思える描写があるかもしれないけど、懸命な読者の皆様なら既にすっかりご存知と思われるが
ポーカーである
何か肉体的なあれをやっている感じのあれだが
ポーカーである(予防線)
いいね?


☆結局難波さんが夜這いしてきた理由に関して深く考えてないマン
まぁ性的欲求は誰にでもあるし、ギルスはそのへん結構データが無いからなぁ……とか思ってる
まぁ身近なところで発散する相手として選んで貰えたなら光栄だなぁ、ぐらいの認識
不思議な力で避妊できる
という説明をした上でプレイの一環として「絶対に当てる。当てるまで撃つ(比喩表現)」みたいな事を耳元にささやくのが少し好き
初夢はなんか意味ありげだが本人のモノローグの通りどんな理由があるにせよ夢は所詮夢なのだ
仮面ライダーの世界なのに作っているのはアーカムで開発されてそうなアーマードマッスルスーツ
精神感応金属なんて謎物質は生成できないので身体能力三十倍にするジャケットとかいうイカれた代物は作れないし作れたら諸々の問題が解決する
しかしその劣化版みたいなものを防寒具として異性の友人にプレゼントする
手編み(人工筋肉製)の手袋をプレゼント……素材はともかく逆じゃあるまいか

☆朝まで?昼間でだよぉ!という事でアリバイ作りの言い訳をクラスの友人に後々メールで頼む事になった人
エキサイエキサイしてしまったので仕方がない
えきさーいはらますこーい
えっ、孕ます恋?!
痛みに耐性がある状態で脳内物質も色々いじれそうな相手に気遣われながらとかそりゃマジチン使われたみたいになるわ
何故初体験にも関わらず、R元服草紙の如き快感を得られたのくぁぁっ!
私が……スケベな子……?
ッヘーイッ!(煽り)
実際スケベ
じゃあ告白したら成功していたかって?
うーん
因みに手袋プレゼントされても結局手は繋ぐぞ
初詣ではぐれたらいけないからなぁ!(策士)
主人公はなるほどなーと納得するし察さないぞ
ずるずる告白できないまま十年くらい同棲しろ(豹変)

☆分身して双子形態で一杯の年越しそばを分け合うマスコットムーブ
分身体が腹に収めた飯は分身を解いた後どうなるのだろう
わからん
わからんが、こいつに限らずヒロインは龍騎編で日常パート以外で出番が殆ど無い予定なので精一杯の出番なのだ
少なくともグジルは夢の中でメの強豪の癖にクソみたいなスコアの二人を煽ってるぞ
よくよく考えるとこいつクウガ編から通しで日常パート出ずっぱりだわ
出番減らさなきゃ……

☆グジルのことは認知しているけどお年玉の事を考えてあくまでジル一人として換算する節約術を嗜む主婦のかがみ
でもグジルちゃんも買い物したいでしょうし、少し多めに包んであげようかしら
ジルちゃんもだいぶ動けるようになったし自分の買い物用のお小遣いも必要かしらねぇ……
みたいな
ほら、何事もない普通の主婦だ!
年中怪しいわけじゃない
ちゃんとグジルの分の年越しそばも用意してくれる優しさもある

☆初夢という名の祝勝会
夢だからなんでもありなのだ
石が手元にある連中……というわけではない
所詮夢だからね
え、一人足りない?
保護色で隠れてるんじゃないすかね……

☆ゲスト出演の五代さん
世界のどこかで回想シーンが必要になるほど何かに巻き込まれている
つまり海外で頑張っている昭和ライダーさん達の仲間入りだね!
年明けに何故かめっちゃ魘されていた
たかが初夢だから気にすんな!

因みにあとがきで書いてる設定っぽいことはかなり適当言ってるので話が進むにつれて古い情報は価値が下がっていくぞ!
あとがきは右脳くんと脊髄くんの落書き帳、みんな知ってるよね
左脳くんは本編書いたら寝てる




……誰だこんな下品なあとがきを書いたのは!
許せん!
俺が叱っておいたからこのあとがきを書いたやつのことはこれで勘弁しておいてほしい
お願ぁい♡
これハートの記号になってます?
そのうち番外編とかでハートの記号を馬鹿みたいに使いたいんですけど、これでいいのかよくわからなくて……
良く言うでしょ、ハートが乱れ飛んでたら和姦だって
憎んでいる、全てを……(結婚エフェクトでハートを飛ばしながら)
しかしそんな番外編はしばらく無し!
次回は2月に飛んで龍騎編の導入です
前々から言っている通り、これまでのクウガ編アギト編とは少し毛色の異なる形式の話になると思われるので
特に導入は少し戸惑うかもしれない
逆に特に戸惑わないかもしれない
それでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい

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