オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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41 いざ、倒れ逝くその時まで

ぎゃり、という、金属を力強く引き裂く音と共に、水気を多く含んだ何かが落ちる重い音が響く。

地面に転がるのは一体のマラークの腕。

引き裂くのは葦原クウガの融合したバイクから生える蟷螂の鎌に似た足だ。

変身により大幅に増えた一人と一台の重量を遺憾なく込められた振り下ろしの一撃は、その跳躍の踏み込みと共に念動力の壁を、或いは強靭な肉体を物ともせずに引きちぎった。

 

長大な機械とも生物とも付かない構造の脚が地面を蹴り、バイクと融合した葦原クウガの巨体が勢いよく宙を舞う。

マシントルネイダーの未知の浮遊能力を参考に組み込まれたバイクに対するモーフィング機能により、敵に対しては重く、しかし自らの身体を飛ばす時は軽く。

飛行しないタイプのマラークを眼下に置いた葦原クウガは、見える夥しい数の敵を前に、冷静に、自分が何処までやれるかを考えていた。

 

ごう、と、風を引き裂きクロウロードが、或いは諸々の鳥の原型であるマラークが次々と葦原クウガに襲いかかる。

或いは、飛んでくるマラーク達を同士討ちできるようにも思えるだろう。

だが、多くのマラークは数体の同種でチームを組む為、似た力を持つ同種との連携を習得している場合がある。

更に言えば、幾らかのマラークは古の時代において人間たちとの、その中に紛れるギルス達との戦いを記憶している。

無防備にも空中に飛び上がったギルスへの対処法など、覚えていないはずもない。

地上において怪力無双、全身凶器と言っても過言でないギルスと言えど、空中において自らの動きを制御する術を持つものは居ない。

 

故にこその最速での突撃だった。

有象無象の未覚醒のアギト候補とは異なる、アギトの原種、或いは変種であるギルス。

それに酷似した敵性存在に対して、力を発揮する前に封殺せんと迫る。

 

紫電。

次の瞬間、頭部を向けて突進してきたクロウロードが二体、頭部を失い空中での制御を失い墜落。

稲妻は葦原クウガの両手の銃の表面を迸り、放たれた金属弾は相対速度もあり、マラークの頑強な頭蓋を容易く叩き潰す。

だが、それで対処できるのは二体まで。

一撃でマラークを殺害せしめるこの二丁は、それ故に連続発射が難しい構造をしている。

牽制を行う為の別形態であればまた話は変わったが、それに作り変えるよりも早く他のマラークが葦原クウガに取り付くのが早い。

 

ぎゅぅん、と、硬いバネを捻じ曲げる様な、ある種の楽器に似た音と共に、勢いよく葦原クウガの異形の脚が折り畳まれた。

跳躍の姿勢のまま伸ばされていた脚は身を小さくして外敵をやり過ごす甲殻類の如く折り曲げられ、同時、古代技術由来の浮力を失う。

空を行くマラーク達の狙いが僅かに逸れる。

だが、危機を脱した訳ではない。

地上には今か今かと待ち構える地上生物型のマラーク達。

 

葦原クウガが銃を持つ手を徐にマラーク達から付近のビルに向け直す。

エアガンの発射音を思わせる軽薄な音と共に、ギルスであればギルスフィーラーがあったであろう場所から白い何かを打ち出した。

先端に粘着質の粘着弾を備えた、変身者の体内物質をモーフィングパワーにより水増し、再構成して作られた特殊なワイヤーだ。

瞬間的に微弱なモーフィングパワーによって生成されたワイヤーは、元の体内物質に戻る工程により、半ば自動的に体内に引き戻される。

結果として、葦原クウガはビルへと引き寄せられ、或いはネコ科動物が地面に着地する様にしなやかにビルの壁面に降り立った。

 

ある脚は先端をビルに粘着させながら、ある脚はビルの壁に足先を突き刺しながら、ある種の節足動物の如くビルの壁を登っていく。

この奇怪な移動法に追いつけるマラークは少ない。

しかし、それは全体から見れば少ないというだけの話でしかなく、ビルの下からは既に無数のマラークが這い上がり、或いは跳躍し、葦原クウガへと迫る。

 

瞬間的に葦原クウガの体色が緑掛かる。

即座に元の赤に変色し、屋上へ向けて壁を足早に登るその足場がざらざらと崩れ始めた。

崩れ落ちるコンクリ片が這い登るマラーク達に降り注ぎ、挙げ句、そのマラークの手や脚が掛かる壁すらも崩れていく。

都内の一等地に建てられたビルはその一面の壁をごっそりと失い、ガラス張りの観察キット内部に作られたアリの巣の如くその内部を晒している。

中に既に人は居ない。

マラークの行進をいち早く察知して避難できていたのだ。

 

屋上に登りきった葦原クウガが眼下に広がるマラークの群れを見下ろす。

元来、葦原は見た目ほど激しい性格をしている訳でなく、情に厚いが損得を考える事ができない程に頭が悪い訳でもない。

そして本人は知らないが、今ではベルトの内部に更に冷徹に思考するもう一つの補助脳とも呼べるものを備えている。

地平線まで届く……かは、わからない。

東京の地形はそれほど遠くまでを見通せる訳ではない。

だが。

ある一方から押し寄せているマラークの群れは、既に常の街に溢れかえる人の数に匹敵している様にすら見えた。

勝てる、勝てないで話をするのであれば、答えは一々口にする必要すらないだろう。

 

心の中の何処か冷めた部分が、眼の前の怪物の群れから逃れる道を示す。

なるほど、と、頷く。

両手に構えた二丁の銃を、ビル屋上の鉄柵に叩きつけた。

人外の膂力をぶつけられた柵はひしゃげる事無くこそげ落ち、二丁の銃に大型のマガジンの様な何かが増設されている。

ぱき、ぱき、と、細い金属板を割る様な音と共に、葦原クウガの異形の脚が解け形を変えていく。

光を透かす昆虫の如き薄い羽。

元の人に近いシルエットの脚先に延長された逆関節の脚。

ばち、と、ベルトを中心に全身に紫電が迸る。

極めて単純な形で増強された装甲は常の鎧の如きつるりとしたものでなく、いっそ亀やトカゲの鱗にも似た荒々しい質感を得て。

 

「バカバカしいな」

 

吐き捨てる様な口調。

だが、何処か獰猛な喜びを帯びているように聞こえるのは気の所為だろうか。

その言葉を耳にする者も、仮面に隠されたその表情を見る者も居ない。

やっと離れる事が出来た忌々しい力。

無くした後に、また自分からそれに近付こうとしている。

やろうとしている事は自殺も同然。

ここで死んだとして誰が自分を顧みるだろう。

放っておけばいいものを。

だが。

 

「お」

 

誰もやらないのなら、やってやらないこともない。

逆関節の脚が撓み、力を溜め。

飛翔。

 

「おぉっ……!」

 

腹の底からの声を、新たなベルトを巻いてから久しく上げていなかった雄叫びを上げる。

連続して銃声が響く。

一撃で砕け散る事無く、しかしバランスを崩す空を行く怪異達。

激突する事無く足元を通って墜落しようとしていた所を、倍近くまで伸びた脚で蹴り落とす。

撃ち落とせずに接近を許した鳥の怪異が掴みかかるのを、金の装飾が浮き上がった銃で殴りつけ、吹き飛んだ所に連続で銃撃を叩き込む。

翼が半ばから断ち切られ、頭部を失い落ちていく。

 

しかし、そんな葦原クウガの背に、薄い羽に手を掛ける、同じく虫の羽を持ち飛翔するマラーク。

羽の根本がぼこりと隆起し、ギルスフィーラーに似た器官を形成しようとするが、遅い。

ガラスを割る様な音と共に片羽が砕かれ、バランスを崩す。

空中で揉み合う様にしながら落ちていく。

落ちる先は地を行くマラーク達。

 

長物を獲物とするマラークの武器が投げれば届くか、という高さ。

横殴りの衝撃が葦原クウガを弾き飛ばす。

狙いすましたかの様に別のビルのガラスを突き破り、もぬけの殻となったオフィスに突っ込む。

衝撃で離れた虫のマラークに銃を向けると、それは既に頭部を半ば失っていた。

視線をビルの外に向ける。

既に見慣れた、金属の、機械の鎧を纏った戦士。

背部に大型のバックパックを背負ったG1が、向かいのビルの中に見えた。

 

「あいつ……」

 

いや、居ないと考える方がおかしい。

時にどんなアギトよりも勇敢にアンノウンに立ち向かっていたあの男だ。

続いて、銃声が響く。

銃声というべきか砲声と言うべきか迷うほどの大音声が、繰り返し繰り返し。

無数に響いている。

──援軍だ。

 

―――――――――――――――――――

 

がしゃり、がしゃり。

()()()鋼の具足が地面を踏み鳴らす。

威圧的とすら思えるその重苦しい音はしかし、やはり彼らの持つ大型銃器から放たれる銃声にかき消され誰の耳にも届かない。

 

『装甲隊は前へ! 避難誘導急ぎなさい!』

 

自らもまた銀色が主体の装甲服に身を包んだ現場指揮官の北条透警部補は、指示を出しながらも自らも新造された重火器を手に決死の足止めを続けていた。

G1、G3、G3Xでデータを取り量産された各種重火器を装備しているのは、G3マイルドの改良型、いや、普及型を目指して設計された新型の装甲服だ。

繰り返し起きるアンノウンによる被害、各地で目撃される、アンノウンや未確認の亜種と思われる各種敵性体への対策として、密かに製造が進められていたこれら装甲服は、おそらくはその全てがこの現場に集められていた。

 

量産型だけではない。

北条警部補が装備するV1システムを始めとして、試作されながらもコンペに負けて封印されていたいくつかの試作機すらチラホラと見つける事ができるだろう。

量産された重火器はマラークのうちの幾つかを打倒し、しかし、無限に湧き出していると言われても信じかねない程に押し寄せるその勢いを僅かに削ぐ事しかできない。

 

弾薬も無限ではない。

弾切れを起こした装甲服達が、ナイフを片手に次々と走り出す。

無謀だ。

少なくとも、これまで警察が公式に運用する装甲服が近接戦においてアンノウンを撃破した記録はG1からしか得られていない。

或いは一体に対して複数で対処すればそれも可能かもしれないが、この場において数の利はアンノウン側にある。

G3から得られたデータにより、少なくともアンノウンの超能力による理不尽な死は免れる事が可能だろうが、それだけでしかない。

アンノウンの過剰な膂力は、鋭く殺意を秘めた凶器は、容易くは無くとも機械の装甲を貫き命を奪うだろう。

 

だが、見よ。

この場に駆けつけた警察の中で、装甲を纏った戦士の中で、前に出る事を躊躇う者は誰ひとりとして居ない。

楽観視している訳ではない。

警察は常に死と隣り合わせだ。

そして、この場に居るのは、既に同じ状況で、運良く死を逃れたものばかりだ。

 

敵の数は多い。

だが、だが。

それでも、今年の始め、未確認による同時多発的な襲撃。

あれよりはマシだ。

あの時に死んだあいつ等よりは。

 

自分達は恵まれているのだ。

敵の攻撃を受ける事ができる鎧が。

敵の命を奪えるだけの力が。

逃げ惑う市民を守るだけの力がある。

民間人が逃げる時間を稼ぐだけの力が。

 

押し寄せるアンノウンの群れは、僅かにその進行を遅らせている。

止める事はできないだろう。

多くはない犠牲が出るだろう。

或いはどれだけが生き残れるか。

しかし、その場を離れる者は居ない。

彼らもまた、市民の安全を守り、それを脅かす者に決して屈する事の無い、ある種の戦士なのだ。

 

そして、東京を、いや、人類を守る戦士は彼らだけではない。

ある区域では白い装甲に十字架を思わせる金の面頬を付けた科学の騎士が。

ある区域では楽器に似た凶器を振るう異形の鬼が。

人々を守りながら戦っている。

そして彼らがアンノウンを、マラークを引きつけている間は、標的となる超能力者や巻き添えの市民も逃げる事ができるだろう。

 

だが。

 

それでもなお、この戦いの結末は、未だ変わらないだろう。

無尽蔵とも思えるマラークの群れは、文字通りの意味で無尽蔵に湧き出している。

装甲服部隊は時間を掛けて制圧されるだろう。

或いはアギトの力が無いものは見逃されるかもしれない。

魔石の戦士もまた、戦いの中で遠からず力尽きるのは間違いない。

この場の結末を変える為の力は、未だに目覚めていないのだ。

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ふと、振り返る。

 

「どうしたの」

 

「いや、なにか、忘れている気がして」

 

首をかしげるジルに首を振りながらそう答え、部活棟へ向けて歩き出す。

何時もなら難波さんやグジルも一緒なのだが、今日は友人に頼まれて助っ人に入らなければならなくなってしまった。

どうしたってジルが付き添うので一人で帰ることにはならないが、できれば友人と楽しくお喋りしながら帰りたい俺としては、こういう時は少し寂しい。

 

「おーい、むこうさんはもう揃ってるから、ちょっと急いでくれー!」

 

「はいはい」

 

空手着を着たクラスメイトが手を振っている。

本当ならわざわざ助っ人を呼ぶ必要も無い程度には選手も揃っているのだが、運悪く集団食中毒で大量に病院送りになってしまったらしい。

一応、嗜み程度に空手は習っているが、どれだけ力になれるだろうか。

父母に恥じないよう、文武両道を心がけては居るが、俺は平和主義者なのだ。

普段から組み手を積み重ねている様な連中を相手に役に立つかは疑問に思う。

 

「こうじ」

 

「ん?」

 

携帯を弄っていたジルがふと口を開いた。

 

「グジルと、難波、応援に来るって」

 

「むむ、わざわざ?」

 

いつもどおり一緒に帰ろうとしてくれた難波さんに、部活の手伝いで遅くなるからと先に帰る様に促し、彼女もそれに納得したはずなのだが。

……またグジルがなにか吹き込んだのだろうか。

申し訳ない話だ。

だが、難波さんが応援に来てくれる、というのならまた話は別だ。

親友的ポジションである彼女の前でみっともない姿は見せられない。

相手が何処の高校だかは聞いていないが、少なくとも俺だけでもきっちりと相手を打倒してみせなければなるまい。

 

何しろ俺は──────

 

俺は?

いや、難波さんの応援なら頑張るが、別に俺はそう武勇に優れた称号がある訳でもない。

そんなものは必要ない。

必要とあれば、頑張らないでもないけれど。

むやみに争い事に気合を入れる必要も無い。

 

薄暗い男子更衣室に入り、予備の白い空手着を手に取る。

清潔感があってとてもよろしい。

白い装束って求道者って感じがして気が引き締まる。

難波さんも見に来てくれるというし、ジルもグジルも見るらしい。

この空手着に恥じない戦いをしよう。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

銃撃、銃撃、銃撃。

連続する轟音、雄叫び。

徐々にマラークに押し流されそうになりながら、戦場と化した街からは戦闘音が鳴り止む気配が無い。

装甲服部隊は辛うじてマラークの進行を押し留めている様に見える。

だが、街を埋め尽くさんとばかりに溢れかえるマラークの全てを封殺できている訳ではない。

空を行くマラークは撃ち落としきれずに何処かに飛び去り。

或いは後方のマラークは地面を掘り進みこの場を離れ。

単純に包囲の隙を付いて抜け出すマラークもある。

 

如何にマラークが映像記録に残らないからといって、ここまで大々的に動き出せば話は違う。

東京の市街地は既に半ば機能を停止し、混乱の中、警察の誘導の下、あるいは自主的に避難が始まっている。

それも完全ではない。

マラークが大量に出現してからまだそれほどの時間が経過した訳ではないのだ。

誰かと行動を共にしていなければ、或いは避難指示を出す警察官が居ない様な場所に居たのなら、ニュースを確認できない状態であったなら。

風谷真魚もまたそんな逃げ遅れの、事態を未だ把握できていない者の一人だった。

 

しかし、今の彼女の周囲にはマラークは居ない。

風谷真魚は隠れ潜む超能力者達と比べれば、警察から請われて超能力を使うなど力の隠匿に対して意識が低く、マラークにとってもわかりやすい標的の一人だ。

そして現在、大量に出現したマラークへの対処の為、彼女に付けられていた護衛も数を減らしている。

狙われない理由が無い。

そして、それは事情を知る者にとって見れば、彼女を狙いにマラークが寄ってくる事を示していた。

 

マラークではなく、精神的な何かに追い立てられる様に自転車を走らせる彼女を、遠くから見つめる二つの人影。

ライダースーツを纏いフルフェイスのヘルメットを被りバイクに跨った、二人の少女。

彼女たちの周りには小規模な爆発跡があり、見る者が見ればそれがマラーク達が死亡した後に残るそれであると気付く事ができるだろう。

 

「居なかったよ、どうするの?」

 

「待て、慌てんな。……はぁ? あっち? 逆方向じゃねーか!」

 

「あっち……え、あっち?」

 

「そうだよ、くそっ、無駄足か?」

 

悪態を吐く背の低い少女の影から声が響く。

 

『いうおう。あいうあいうお、おうい、おあう』

 

「困る本人が居なけりゃ困るも何も無いだろが!」

 

自らの影に怒鳴る少女。

その様子をあわあわと見守るもう一人の少女目掛けて、上空から一体のマラークが迫っていた。

遠くから、同胞であるマラークが死んだ気配を感じて飛んできたのだ。

如何にマラークにアギトの力を持つ人間を見分ける力が無いと言っても、状況を見れば嫌でもわかる。

この少女二人もまたアギト、或いはそれに匹敵する、自分達の邪魔をする戦士。

注意が逸れている隙を突き、始末してしまわなければならない。

ばさ、と、翼を翻し、獲物目掛けて一直線に加速。

変身する隙も与えず、衝突の衝撃で首をへし折ろうとし──

 

「ふたりとも、そんな事してる場合じゃ無いでしょ!」

 

──無造作に振るわれた裏拳に弾き飛ばされ、頭部と肩、翼を大きくひしゃげさせながら川に墜落、水しぶきを上げて爆発した。

飛来するマラークを拳一つで撃墜した少女は水柱を指差す。

 

「私達も狙われてるんだから! 急いであっち……あっち? に、向かったほうが被害も少なくなるし、あの女の子へ向かう連中も減らせるよ!」

 

「悪い」

 

『おう、ういうああうい』

 

「ジルちゃんも!」

 

『あう……』

 

背の低い少女とその影が縮こまり、裏拳の少女はむん、と肩を怒らせ、バイクを操り踵を返す。

 

「行こう! 交路君が待ってる!」

 

二台のバイクが、市街へ、増殖するマラークの群れの中心へ、走る。

 

―――――――――――――――――――

 

異常な戦場だった。

未確認の大量発生と比べても明らかに敵の規模が違う。

仮に最初から、アンノウンの関連事件の始まりからこの規模で動かれていたのならまともに対処できなかったと確信させる程の大量の敵。

だが、彼らには、警察には経験があった。

これは、未確認の同時多発襲撃とは質が異なる。

 

アンノウンは、未確認と比べて遜色がない、いや、ある意味ではそれを上回る程の脅威だろう。

神経断裂弾は通用しない。

カメラで記録を取ることも難しい。

だが、決定的に未確認とは異なる点がある。

アンノウンは群れで動く傾向が強い。

それはこれまでの関連事件で得られた教訓でもある。

 

これはどちらが上、という話ではない。

どういう性質の事件なのかという話だ。

 

街に溢れかえるアンノウンの群れ。

一見して無差別に無秩序に人々を襲っている様に見える。

だが、逆だ。

このアンノウン達は、揃いも揃って人間を狩っているのだ。

 

未確認と同じではないか、と、そう思う者も居るかもしれない。

だが違う。

かつて東京の街を襲った未確認達は無秩序に人を襲っている様に見えて、決して他の未確認と協力しないという明確なルールを持って動いていたのだ。

それは、嘗ての現場で残された記録から得られた明確な結論だった。

 

これは、無数のアンノウンがただ人々を襲っているのではない。

無数のアンノウンで形作られた群れが、揃って人々を襲うという目的のもとで動いている。

そして、更に類似する事例があった。

夏の自衛隊基地襲撃だ。

 

この状況を覆す要素がある。

このアンノウンの群れを統率する個体が居る。

 

言い出したのは他ならぬ一条薫だった。

突然のひらめきという訳ではない。

この現場にて、未確認生物対策本部に配備されつつあった装甲服を纏った同僚と連携を組みながら、ふと出た予測。

そういう個体が居るかもしれないという仮定で現場は動いている。

そして、一条は奇妙な直感で、それに間違いが無いと考えていた。

不自然な発想の飛躍だ。

だが、その飛躍の原因に心当たりがあった。

 

「くっ……!」

 

ありえない程の敵の数。

重火器を除けば、四号に匹敵する膂力以外に接近戦での武装はそう大したものは搭載されていない。

しかし、一条の直感が──いや、魔石の疼きが告げている。

 

この先だ。

この先に居る。

全ての元凶だ。

倒せ。

打倒せよ。

踏破せよ。

鏖殺せよ。

穿け。

走れ。

 

腹部の石から、明らかに明確な意思が感じられる。

それは一条に行動を強制させるような力はない。

耳障りでも、集中力を途切れさせるようなものでもない。

ただの意思だ。

ただの言葉だ。

だからこそ、一条はその言葉を汲んだ。

 

それは意思。

それは言葉。

それは祈り。

それは願い。

 

意図して組み込まれたものでは無いだろう。

そうだとするなら明らかに弱々しい。

力なきものの叫びだ。

ああ、そうだ。

力が足りずとも願うのだ。

たとえ今届かずとも何時かは叶うと、叶えるためにあがくのだ。

 

波の如きアンノウンの群れ。

援護射撃を受け、一条はその中心へ駆ける。

構えたナイフを振るう。

切り落とされたアンノウンの腕から武器を奪い振るう。

一匹、また一匹。

 

呼気が荒い。

喉から出るのは声ではなく自分を鼓舞するための叫びでしかない。

それでも言葉にせず、しかし、胸の中で、明確に形になる思いがあった。

 

(五代、君がここに居なくて、良かった)

 

そうだ。

自分は今、市民を守る警察官としての職務を全うしている。

それに付き合う、場違いな善人はここに居ない。

それに似た、不幸な男は居るが。

だが、それも一人にはしない。

ここには自分が居る、同僚の、先輩の、多くの刑事が居る。

無力から、戦うべきではない人を戦わせずに済んでいる。

市民を守る為に。

あるいは、姿すら無い誰かの心を守る為に。

戦えているのだ。

 

ばきん、と、手にしていたナイフが折れる。

G3Xが採用しているものと同じGK06ユニコーン。

整備を欠かさず、この数ヶ月に渡って一条の無茶に付き合ってくれた一振り。

グリップと刃の根本だけが残るそれをメリケンサックの如く握りしめ振り抜く。

一体のアンノウンが倒れ伏す。

全身の装甲の隙間から火花が上がる。

当然だ。

G1に搭載されている倍力機構を置き去りにする速度で振り抜かれた一撃は、装着者を守る鎧すらも破壊していく。

 

背後からの一撃。

斧か?

肩口から袈裟懸けに振り下ろされた斬撃が肩部装甲を砕き、切り裂き、しかし、肉を半ば切り裂いた所で止まる。

力任せに振り向いたG1が折れたユニコーンの刃を叩きつけ、斧の柄をへし折りその持ち主を吹き飛ばす。

しゅう、しゅう、と、傷口から上がる煙は破壊された装甲や倍力機構から出るものではない。

僅かな時を起き、斧の刃が押し出されて地面に転がり落ちた。

内側から盛り上がる様にして再生した筋肉が異物を排除したのである。

次いで、G1の装甲がメキメキと音を立てて修復していく。

だが、元の形には戻らない。

 

四号の、或いは、未確認の、グロンギの変身後のそれに近い生物的な甲殻。

荒れ狂う様に暴れまわるG1の、一条の動きに合わせ、その装甲が歪んでいく。

最早グリップの残骸と化したユニコーンを手近なアンノウンに向けて振るう。

届かない。

いや、余裕を持ってそれを避けたアンノウンの首が飛んだ。

G1、一条、その二つが融合した戦士の手の中に、紫を基調とした一振りの剣がある。

見慣れた、嘗て幾度か見たそれを構え、頷き、一歩下がる。

後退ではない。

前に進む為、敵を切り伏せる為に構え直す。

 

隣に並ぶものがあった。

薄羽を失い、異形の脚を失い、基本形に戻った真紅の戦士。

角だけにギルスの痕跡を残す葦原クウガ。

手に下げているのは、マラークから奪ったものか、長大な槍。

背から生えていたと思われるギルスフィーラーもどきは半ばから千切れ、不要と判断されたのか再生される気配すらない。

 

空気が変わる。

恐れを知らぬ筈のアンノウン達がその場から一歩下がった。

共に万全とは言い難い二体を相手に、アンノウン達が引いたのだ。

預言者が割った海の如く割れたアンノウン達の間から、二体、前に出てくる異形があった。

 

「お前達は、アギトではない」

 

翼の意匠を全身に備えるもの。

超戦士、風のエルアギト。

 

「アギトになるべき人間でもない」

 

陸の、百獣の王を彷彿とさせる鬣の意匠を残したもの。

超戦士、地のエルアギト。

 

「何者だ」

 

葦原が、槍の穂先を下に、構える。

 

「知るか」

 

仮面の下で、恐らくは笑っているのだろうか。

対し、一条が正眼に構えた剣を揺らさず。

 

「見ての通りだ」

 

遠く、爆発が起こる。

一定の距離を置くマラーク達で取り囲まれた僅かな空白地帯で、四体の異形が、静かに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





原作どこ……どこ……ここ(自転車で疾走する風谷真魚)……?
…………原作から離れた位置で、ふと振り返り、遥か向こうにちらりと原作の影を見て
ああ、遠くに来たものだなぁ……
と、ふと懐かしく原作沿いで楽に書けていた頃を振り返る
という意味ではタイトル詐欺ではないのではないかという希望を抱いている
そんな四十一話でした
ちなみにワードで書いてるんですがこっちだと暫定タイトルが話数じゃなくて本数でカウントしてプロロを一でカウントしてるからちょっとややこしい



☆もう二話くらい寝太郎な主人公
次回、ヒロインパワーで蘇ります
キーアイテムは出た
色々あるけど次回せやそれ夢して復活したらいいんじゃない?

☆実質ヒーローASHRさん
多脚から羽生えて一瞬飛行形態へ
魔石側もなんだか進化したギルスの力に影響を受けて進化してる
ちなみにいっぺん病院送りにされて蘇生処置受けたりしたけどそれでも明確にはライジングれない
でもモーフィングパワーの操作術はやたら向上した
継戦能力というかできることの幅が増えてる
明確なパワーアップはギルスパワー戻ってからなんだけど、たぶん戻った時点でほぼアギト編終わりなので
まぁどうせ後々の話でゲスト出現したりするかもなので問題はない
危うく俺は人間だする危機はニヒルさで乗り越えた

☆みんなのヒーローG1条さん
俺は人間だチャンスはクソ真面目ムーブで乗り越えた
バックパックには多数の重火器が収まっていたけど使い切ったり同僚に配布したりでなくなった
変身してない?大丈夫?
ベルトさんそこんとこどうなの
彡(-)(-)「鎧をちょちょいと直しただけやからセーフやろ」
セーフやで
内部で皮膚と癒着してたり倍力機構が筋肉と半ば溶け合ってたりしても鎧脱ぐ時に治るからセーフセーフ

☆逆転の糞刑事with先行量産型警察用特殊装甲服ブラザーズ
なんでこいつが指揮してるかって言えばたぶん何時もの無駄に高い政治力
今年の初めに大災害経験しているからたぶん原作よりアギト警察成分が抜けて半ばクウガ警察が入ってる
ブラザーズは一般クウガアギト警察なので指揮高し
正式に部隊が組まれてた訳ではなくて急遽製造中のを運用してる
火器が切れたら戦闘力はナイフ持ちマイルド相当しかないけど
それで引くと思ったら大間違いだかんな
馬鹿野郎俺たちは勝つかは知らんけど市民は守るぞお前(クウガ警察感)
警察は軍隊と違って犯罪者相手に決して降伏したりしないのだって皆川漫画の警察官も言ってた
化物相手でもそれは変わらんのやで

☆G3Xやらショーイチくんやら
書けたら書く
少なくとも氷川さんは別の場所で戦ってる
でもこの状況だと翔一くんはどうかな
出てくるのか?
まぁこのままフェードアウトするならそれはそれでいいのでは?
マナちゃんと会ってアギトの力を無くしたと言ったら無茶ぶりされた結果アンノウンの群れの中に単身突撃するかもしれないがどうかなぁ
原作側の描写が少ないのは葦原さんから連動して原作が既に崩壊していて書くのが難しいからなのは知っての通り
でもこの状況で生身翔一くんを前に出すのもなぁ……

☆去年に引き続き素晴らしき青空の会の人
ボタンむしりの人ではない(断言)
だって劇場版を含めると、たぶんこの頃は別の組織で落ちこぼれハンターしてるから……
嫌味な先輩にいびられてる頃では?
中身は女性、オリキャラは増やしたくないので名前は出ないぞ
気持ち程度紫がかった黒髪ロングをなびかせた凄女様がバイクに乗って颯爽とマラークの群れの前に現れて
「私のシマで好き勝手してくれてんじゃないわよ!」
とか言いながら変身してステゴロ殺法したりする場面を書こうと思ったけど
それはあくまでも浜辺の聖女様の姉御っぽいのが好きなだけのぐにょりの趣味なので本筋では書かない
多重クロスと言えどライダー限定なのでモチーフにしてるだけで別の人だけど、ライダー限定のクロスだから、ライダー限定のクロスだから!
でも姉御系ヒロインはそのうち書きたいなぁと思うのでした
ござると絡んでる時とぐだに絡んでる時のイキイキしてる部分を混ぜ合わせた塩梅の姉御ヒロインにしたい
いや、実姉ヒロインじゃなくてね?

☆迫真音撃部
たぶん今年初めの過労死マンのことも受けて、魔化魍の数も少なくなってきたから東京にそれなりに配置されていた
彼らが活動している最中にちょうど警視総監どのも姿を眩ませたけど、こういう時に持ち場を離れて現場に向かってしまうようでは虫どもの傀儡に足元を掬われるのでは?
その他ライダーは大体通常時間のことには介入できなかったりそもそも変身アイテムがまだ無かったりで参戦不可だったりする

☆薄汚い灰の化物ども
スマブレ傘下の連中はアンノウンが大量発生した時点でもうとっくに東京から離れてるよ?
さよならピザ屋のおっちゃん……
まぁ従ってないだけで監視下にはあるだろうから避難指示は受けていたと思われるので無事
というか、東京周辺でオルフェノクの謎の死が繰り返されたからちょっと前から東京からは疎開しているかもしれない
ファイズ編の原作キャラのどろどろネトネトした絡みを書くのがあれになったら、流星塾の記号埋め込まれた連中をここで全滅させると短縮できるなぁなんて考えてないぞ
それやると振り返れないので羊のお父様がどうにか逃していたんではないかと思われる

☆各種旅行会社及び全国の学校
はー、東京は怖いとこだなー
それじゃあ、来年の東京行き修学旅行は例年通りという事で
たぶん来年は大丈夫だからそれでいきましょうか!
いわゆる、この火山は300年噴火してないからこれからも噴火しないでしょう的精神

☆ヒロインズの内三人
三人というか2,5人というか
パワーアップのお披露目は次回
最新話の展開に詰まるとコイツらのエロシーンの個性分けにばかり思考が行ってしまう
誰がオリキャラヒロインのエロシーンを一般年齢制限無しライダー健全SSに求めるだって話で
なお誰が求めずともぐにょりが書きたくなったら書くのでその時は適度に見逃していただければ
年齢制限に引っかからない様に書くのでゆるしてゆるして


そして、アギト編クライマックスの中、ナナス様よりイラストをいただきました!
我らがヒーロー、ASHRニキ!


【挿絵表示】


別名CG班殺しフォーム
燃料は番組予算
四脚を動かす動きが地味に手間なので早々に四脚移動は打ち切られるぞ!
ネタとして後に響鬼の年にキャンプ中に魔化魍に襲われて対抗する為にこの形態が再登場したりするかもしれない




今回戦闘ばっかだったけど、お蔭でもうエルアギトの倒せばテオスが待ち構えるだけなので多分一話に収まると思われる
なのでたぶん……次回アギト編最終回
テオスとの決着は大筋はキマってるけど未だに細部はふわふわしてるからどれくらいで完成するか不明
それでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい

次回、仮面ライダーアギト編最終回
『ΑGITΩ』

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