オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
遠くにサイレンの音が響く、戦闘の傷跡が残るだけの運動場に、二人の戦士が呆然と佇む。
何が起こったのか、直接目にしながら理解が追いついていない。
いや、理解できてもそれを素直に受け入れる事ができないのか。
「交路くん、……交路くん?」
手から棍を取り落とし、ギルスが煙を上げながら変身を解く。
戦意を向ける相手が居ないからか、本人が戦闘態勢を維持できない程に狼狽えているからか。
あるいは、ベルトに搭載された本人の記憶のコピー兼バックアップであるAIが、変身後の力で錯乱、自傷に至らない様にするためか。
変身を解き、制服姿に戻った難波 祝が、ふらふらと歩き出す。
視線はあちこちにふらふらと揺れ、しかし、二十二号──小春 交路が何者かに光で貫かれ、消滅した辺りへと近づいていく。
理解できていない訳ではないのだ。
普段の振る舞いや戦い方に現れずとも、ベルトの齎す肉体の変質は脳を確実に作り変え、常人を遥かに上回る脳機能を齎す。
そして、ベルトに搭載された補助AIが弾き出す感情に左右されない正確な予測をそれとなく本体の脳に思いつかせてもいる。
だが、それを認めたくないと思う心の動きを抑え込む機能は、彼女の運命を定めたアギトの力にも、彼女の身体を作り変えたベルトと搭載された魔石にも存在していない。
二十二号が消滅した場所にたどり着き、その場にぺたんと座り込む。
力無い姿からは先までの戦闘時の勇ましさは欠片も感じ取ることはできない。
そして、座り込んだまま、何をするでもなく地面を見つめ続けている。
どうすればいいかわからないのだ。
消えた。
ただ事ではない。
一番破壊されてはいけない部分はベルトだと教えられた。
そこを貫かれていた。
死体はない。
無事?
居ない。
ただでは済まない。
彼女に搭載された現代式のベルトは常であれば冷静な判断力を齎す機能を有している。
が、本人が激しい精神的なショックを受けた場合はその限りではない。
混沌とした思考とも言えないノイズで脳が埋め尽くされた様な状態では、ベルトからの一種の思考誘導すら受け取れないのである。
「おい」
ぐい、と、肩を押されても反応はない。
声を掛けたのは明確に自分の意思で変身を解いたアギト──グジル。
「しっかりしろ……って、出来るわけねぇか」
ばりばりと頭を掻く。
余裕がありそうに振る舞っているが、グジルとて決して参っていない訳ではない。
眼の前で先にショックを受けている相手を見てしまったせいで、少しだけ冷静になっているだけなのだ。
挙げ句、肉体の操作権を預けて引っ込んでいるジルも沈黙している。
これならまだ泣きわめかれた方がいい。
どうしたものか。
王であり兄であり自分の所有者でもあるコウジがあれで死ぬとは思えない。
ベルトを、魔石を破壊されたら死ぬなんていうのは元のグロンギでは当たり前だった。
だが、あのコウジが、弱点があるとわかった上で、それにカバーを被せて壊されにくくするだけで終わらせるか、という信頼がある。
無論、どうにかしようと試行錯誤している最中で、どうにかする前に殺されてしまったのだ、という可能性もある。
だが、少なくとも死んではないだろう。
消えた。
跡形もなく消えたのだ。
ならば、それは
当たり前の話だ。
グロンギなら大体爆発するし、マラークとかいうのだって爆発する。
オルフェノクとかいうのは燃えて灰になるし、殺せない魔化魍も死ねば枯れ葉に変わる。
跡形も残さない殺し方というのもあるのかもしれない。
だが。
確実に死んだ、と、そう思える状態を確認できないのであれば、カウントは進めない。
ムセギジャジャの常識だ。
それは、リントとして、小春ジルとして、或いは小春ジルに宿るグジルとしてこの時代、コウジの下で生きていくと決めた今でも忘れる事はない。
「どうすっか」
そう呟き、グジルは辺りを見回す。
酷い被害だ。
大体は焼け跡だが、やはり一部は地面がめくれ上がっているし、爆発したバイクの跡なんかもある。
ここまで戦場が荒れたのは、少なくともグジルとジルが見てきた中では数えるほどしか無い。
そして、この場は地元で良く使う場所だ。
どう誤魔化すか。
誤魔化す手間を考えるのなら、少なくともこの場はすぐに逃げ出す必要があるが……。
「どうすっか、じゃないわよ」
唐突に、背後から上がった、この一年と少しで聞き慣れた女性の声に、グジルが反射的に肩を竦ませる。
振り返れば、この場には余りにも似つかわしくない人の姿があった。
小春交路の母、そして、自分にとってのこの時代での保護者にして義理の母にあたる人物。
乗ってきたのだろうか、後ろには運転席の開いた車が停められていた。
違和感があるとすれば、車のエンジン音も走行音もグジルには聞こえなかった事だろう。
もっとも、グジルがこの母に驚かされるのはいつものこととも言えるのだが……。
「まさか、この土地でこんな派手な真似されるとは思わないじゃないの。あの子ったらもう……」
「あ、いや、これはコウジのせいじゃなくて、その」
「いいから乗りなさいな。後ろの子……難波ちゃんだっけ? そっちも乗っけてあげて」
顎で背後を示す義理の母になんと言えば良いかがわからない。
別段、グジルにとって交路は守護対象でもなんでもない。
だが、同じ戦場に立って戦った上で、交路だけが、この母の実の息子だけが行方不明になってしまった。
仮に死んでいたとして、戦って死ぬなんてのはグロンギとしては、ムセギジャジャとしては当たり前の事ではあるのだが。
だが、死んでいたとして、何も思わずに居られるほど、浅いつながりでもない。
まして実の母である相手になんと言えばいいのか。
「えっ、と、あ」
の、と、そう繋ぐつもりで紡いだ言葉が途切れる。
肉体の操作権がグジルから離れたのだ。
へたり込む祝の襟首を掴み、車に向けて歩き出すジル。
人間態では未だ動作に不安があるジルではあるが、ベルトの齎す身体能力の強化により、単純な腕力で人一人引きずって歩く程度は難しくない。
ほぼ抵抗なく座ったまま引き摺られた祝が車の後部座席に積み込まれ、積み込まれた祝を奥に押し込む様にジルが続いて乗り込む。
それを確認し、統もまた運転席に戻り、エンジンを掛け、車が走り出す。
途中に消防車などの緊急車両とすれ違うのを横目に、ジルはうつむいたままの祝の顔をつかみ、自分に無理やり向けさせた。
生気の無い瞳をぼんやりとジルに向ける祝。
ジルは祝の瞳を真っ直ぐに見つめながら口を開く。
『いいえう』
言葉にはならない。
依然としてジル自身は声を出す事が無いし、できない。
慣れた交路や統であればともかく、祝は直接ジルの口の動きから言葉を読み取る機会は殆ど無い。
だが。
「いいえう……生きてる? 交路くんが? わかるの?」
頷く。
事実かどうか、なぜわかるのか。
詳しい説明はできるのかできないのか。
そんな疑問を抱かせない、確信的な力強い表情。
少なくとも、ジルは交路が生きていると確信している。
恐らく、誰よりも近くで交路の戦いを見てきたジルが、だ。
「なら、助けに行かなきゃ」
祝の瞳に生気が戻る。
ぐ、と、握る拳に力が宿る。
小春交路は生きている。
自分たちも死んでいない。
交路がどうなっているかはわからないけれど、少なくとも自分たちは動けるのだ。
『いあああえ』
「いああ、いまはだめ?」
『おおあああ、あえあい』
「う……そりゃ、そうかもだけど」
このままじゃ勝てない。
なるほど、確かにそうだろう。
あの三体のアギトに対し、祝もグジルも時間を稼ぐ、足止めする事はできても、単独で撃破する事は難しい。
いや、そもそもの話、交路をどうにかする為の隙を作る戦いであった以上、足止めができていた、というのも、相手が手を抜いていたからという可能性すらある。
早い話が、仮にどこに、どうやって助けに行くか分かっても、交路を助け出す以前に自分達が倒されてしまう危険もある。
「むー……」
手詰まりだ。
助けに行く事はできるかもしれない。
ジルはまだ交路が生きていると言っただけで、どこに居るかわかるのかわからないのかすら口にしていない。
だが、助けに行っても助けられるかはわからない。
必ずしもあの三色と黒い人と戦う必要があるとは限らないけれども。
戦って倒さないと取り戻せない、なんて状態なら話は別だ。
それこそミイラ取りがミイラになる、なんて事もありえる。
それが助けにいかない理由にはならないとしても、可能であれば無事に交路を助けられるに越したことはないのだ。
「とりあえず」
車が停まる。
小春家の駐車場だ。
運転席の統がエンジンを切りながら振り向き、祝に声を掛ける。
「シャワーでも浴びて少し休んでいきなさい。親御さんには連絡しておくから」
「あ、はい。あの……」
口ごもる。
聞きたいことは多くある。
それ以上に、言わなければいけない事も、言ってはいけないけれど言いたい事も。
明らかに尋常でなく破壊された近所の運動場を見ても眉一つ動かさない、動じないのはなぜなのか、とか。
交路が居なくなった事に対して何の言及も無いのはなぜなのか、とか。
だが、それを口にしていいのか。
それを今口にするべきなのか。
躊躇う内に、後部座席のドアをスライドさせて開けたジルに服の袖を引かれて車から降ろされた。
『おうお』
「え、うん。入るけど……いや、入っていいの?」
『いっおい』
「え?」
『ああっえ』
「え、え? 私が? あ、まって、引っ張らな、ジルちゃ、ジルちゃん! 力つよ、強いって力ぁ!」
―――――――――――――――――――
「ごめんなさいね、ジルちゃんはほら、いっつもあの子に面倒みて貰ってるから……ちょっとお姫様なとこがあるっていうかね?」
祝と共に入浴を済ませ、そのまま清潔な衣服に着替えてソファですやすやと眠るジル。
同じソファに座りながら、統はその頭を撫で付けている。
「いえ、身体も不自由だって話ですし」
「もうそんなでも無いんだけどねぇ……。あの子もほら、甘やかす
「そう、ですね。交路くん、優しいから」
両手で包むように持ったマグカップの中身を見下ろしながら、祝はゆっくりと返事をした。
先までの混乱と焦燥感は、ジルと共に風呂に入って、風呂上がりに温かい飲み物を飲んでいる間にすっかりと落ち着いてしまった。
いや、今でも助けに行かなければ、とは思っているのだが、何処に? という至極真っ当な疑問から動けずにいる。
戦闘の疲労からかすやすやと眠るジルを少しだけ恨めしく思いながらも、無理もないとも冷静に思う。
足止めに徹したから無事で済んだが、今日の敵は明らかに格上だった。
そして、交路を助け出すのであれば、交路抜きであの二体と黒い青年を相手にしなければいけないのだ。
一度休んで態勢を立て直すのも間違いではないだろう。
「あの人に似て優しい子だもの」
統の視線が棚の上の写真立てに向けられる。
写真に写っているのは、今より少しだけ幼い交路と、両親の姿。
「でも、私にも似てるのよ。もちろん、顔の作りもだけど、それ以外がねぇ……」
困ったように眉をハの字にしながら頬に手を当てる統。
「というと……?」
「あの子、結構な嘘つきなの」
嘘つき。
イメージが湧かない。
祝から見て、交路は努めて誠実であろうとしている様に見える。
黙っている事、自分が二十二号であった事などは仕方がないにしても、そうでない部分では無闇に人を騙そうとするタイプには思えなかった。
「今をより良くする為に、明日を明るくするために、そういう理由があれば、幾らでも嘘が付けるタイプね。それで人様に迷惑を掛ける訳じゃないのだけど……難波ちゃん、いえ、祝さん?」
「は、はい!」
す、と、居住まいを正しながら祝に向き直る統。
釣られて、祝も背筋を伸ばす。
「あの子は、これから何年経とうと、打ち明けるつもりの無い秘密を持ってる。言う必要のある無しもあるけど、あの子はそういう風に生きると決めている」
「それ、は」
「真面目であろうとか、誠実であろうとか、そういうのはね、お父さんに似たというのもあるでしょうけど、無意識にバランスを取ろうとしているところもあるわ。結局、後ろめたいのよ。常にね」
「…………」
「今から家に帰って、何事もなく過ごす事も出来る。その」
統が祝の胸元を指差す。
何処を指さされた、という訳ではないが、祝にはその指先が、自分に宿るアギトの力を差しているように思えた。
「力もね、その内にあのいけ好かない黒いのが持っていってくれる。自衛するなら、あの子が渡した方の力だけでどうにでもなる」
「……」
俯き、口を噤む祝。
構わず統は言葉を重ねた。
「お守りのあの子が居ない今、戦いの中で貴方の命の保証は無い。あの子も、貴方にそんな無茶をさせる為に特訓をつけた訳じゃない。貴方が死んだら、あの子も悲しむわ」
いっそ優しさすら感じさせる口調。
いや、それこそ、本心から心配しての言葉なのだとわかる。
息子が無事ではないと理解した上で、その上で、息子が自分よりも心配するであろう友人の身を案じている。
「そうかも、しれません。交路くん、本当に、友達想いだから」
俯く祝は、小さな声で統の言葉を肯定する。
だが。
「けど、私が、無事でも、生きていても」
顔を上げた祝の瞳は、悲しみでも、怯えでもなく、決意で満たされていた。
「交路くんが一緒に居ないと、
続けようとした言葉が思わず詰まる。
視線の先で、交路の母が、統が感極まったような笑顔を祝に向けていたのだ。
「っ~~~っ! こぉんなに愛されているのねっ! うちの息子っ!」
両頬に手を当て激しく身をくねらせる。
その動きに押し出されたジルがソファから滑り落ち、ごんっ、という鈍い音と共に声にならないうめき声を上げた。
ふらふらと頭を擦りながら立ち上がるジル。
『おあおうおあいあう……』
「おはようジルちゃん。それで、グジルちゃんとの相談は済んだ?」
『ういうあ、おっおいああっえあえお』
統の問いに、祝の読唇術では読み取りきれない何事かを唇の動きだけで音もなく応えながら、リビングの小さな本棚に歩み寄る。
もたもたと幾つかの本を退かし、一冊の本を取り出す。
ぺたぺたと足音を立てながら戻ってきたジルが、テーブルの上にその本を置く。
「これは……」
―――――――――――――――――――
小春家の前、統が電話一本で急遽用意した二台のバイクに、祝とジル、いや、祝とグジルが跨っている。
急遽用意されたからか、二台のバイクにはナンバープレートが無い。
公道を走り、警察なり警察に通報する善良な一般人なりに見つかれば即座に捕まるだろう。
「捕まらずに行けるのは、この町の中までだから」
それを玄関から見送る統の顔は穏やかだ。
二人が捕まらない様に、どうにかして手回しをしてくれたのである。
「……あの!」
あれよあれよと言う間に、何故かサイズがぴったりなライダースーツに着替えさせられた祝が、悩んだ末に口を開く。
聞きたいことが山ほどあるのだ。
交路が隠している筈の異形との戦いの事、敵の存在。
それら全てを知りながら、なぜ、知らないふりをしていたのか。
それがなぜ、今、こうして表立って手を貸してくれるのか。
「みなまで言わなくても大丈夫。貴方の聞きたい事はわかっているわ」
す、と、発言を遮るように手のひらを向ける統。
「はっきり言えば、私があの子の母親だから、かしら」
「わかんないです! あ、いや、なんかわかる気もしますけど」
秘密主義者で色々ともったいぶる辺りは実に親子だなと、そんな考えが頭を過る祝に、統がにっこりと笑みを深めた。
「貴方も母親になればわかるわ」
「はえー」
母親って凄い。
反論を許さないレベルで断言する統に、最早惚けるしかない祝は口から間抜けな声を出しながらある種の感動すら覚え、ふと視線を上に、頬を染める。
それを見て、統は懐の深そうな笑顔を意地悪そうな笑みに変え、人差し指と中指の間から親指を突き出した拳でガッツポーズを向ける。
「ちょっと心配だったけど、あの子も普通に性欲あるみたいだから! 期待していいわよ!」
「ひゃえ!?」
考えを読まれたかと、或いは直接的過ぎる言葉への衝撃に顔を一気に上気させた祝の肩を隣のグジルが叩く。
「漫才してないでそろそろ行くぞ難波ぁ!」
「ご、ごめんグジルさん!」
「コウジののデカさと形と使われ心地の話なら後で幾らでも聞かせてやるから!」
「え!?」
「まずは本体助けに、行くぞぉっ!」
「まってグジルちゃん! 今の話くわしくぅ!」
ギャリギャリとアスファルトを削り、前輪を浮かせながら急発進したグジルのバイクを追う祝のバイク。
夜道を遠ざかり続けるテールライトを見送りながら、統はしばらく手を振り続けると、何事も無かったかの様に、家の中へと戻っていった。
―――――――――――――――――――
夜が明け、東京都港区芝浦一丁目。
白昼の公園にて、二体の異形と一人の戦士が激しくぶつかり合っていた。
白いフクロウに似た人型、オウルロード、ウォルクリス・ウルコス。
青い隼に似た人型、ファルコンロード、ウォルクリス・ファルコ。
相対するのは、赤い滑らかな装甲に身を包んだカミキリムシにも似た装甲を身に纏う戦士、葦原涼の変ずるギルス調整体。
公園に設置された大きな柱状のオブジェやビルの壁面を中継点にオウルロードとファルコンロードがギルス相手に代わる代わる一撃離脱を繰り返す。
それを拳や蹴りで、あるいは槍、剣などに変化させたギルスフィーラーで迎撃するギルス。
或いは単調とすら見える繰り返しだが、スペックにおいて二体のロードを上回るギルスが攻めあぐねるのは戦場の立地にこそある。
例えばここが郊外で、周囲に人の多く入った建造物が無いというのであれば、戦いはそう長引く事は無かっただろう。
葦原涼の変身するギルス調整体には、というより、ギルスをギルス調整体足らしめる現代式アークル型ゲドルードには、ギルスフィーラーによらずとも適当な質量を持つ物体を変化させて作られる飛び道具がプリセットされている。
金属弾頭を広範囲にばら撒く事も可能なそれは、高速で移動する標的にとりあえず当て、機動力を削ぐという点では非常に有用と言える。
だが、二体のロードがギルス相手に戦闘を仕掛けたこの場所はほぼ全方位において高層ビルに囲まれており、飛行するロードを撃ち落とす為に射撃を行えば、流れ弾が無関係の人間に当たりかねない。
或いは、切断されにくい構造の投網の様な武装を新たに生成すれば捕獲は可能かもしれないが、片方のロードが飛行している最中、もう片方が付かず離れずギルスに接近戦を挑み、新たな武装の生成を阻害している。
事前に登録されている基本的な武装であれば戦闘の隙に作り出す事も容易ではあるが、集中力を相手に向け続ける戦闘中に新たな構造の何がしかを作り出すのはそれなりに難しい。
結果として、ギルスは一対一であれば容易く撃破可能なロードを相手に、延々と戦いを強いられているのであった。
もちろん、それはギルスが不利、という話ではない。
これはあくまでもロードが有利な地形でギルスを相手に足止めできている、という話でしかない。
空中からの高速での一撃離脱、或いは、反撃によるダメージもある程度受け入れた上での決死の接近戦は、確かにギルスにダメージを与えている。
しかし、葦原涼はギルスであると同時に魔石を用いて変身する、現代のグロンギとも言える存在。
生中な負傷であれば、そう時間を取らずに回復してしまう。
そして、二体のロードにはギルス調整体の回復が間に合わない程のダメージを与える様な攻撃手段がほとんど存在しない。
そして、グロンギとしての側面を持つギルス調整体とは異なり、一般的なマラークである二体のロードに戦闘中に取れる回復手段は無く、着実にダメージは蓄積していく。
ギルス調整体、葦原涼もまた、それを理解しているからこそ、長々とした戦いでも焦ること無く対処していた。
高い跳躍力で飛行中の相手を狙う事もなく、接触時に着実にダメージを与えていく。
傷は浅いが、確実に二体のロードの動きは悪くなっていく。
そして、狙われているのが自分である以上、誰かを守るために注意力を奪われる事も無い。
或いは、ここに新たなマラークが現れたとして、ギルスとしての、火のエルの力の残滓がその出現を知らせる為、不意打ちを受ける心配はそう無い。
そうでなくても、ギルスとしての優れた五感が戦いながらも周囲を警戒している。
油断、ではない。
少なくとも、この時点までで明確に敵として向かい合った相手には、この戦い方で問題なく対処できていたのだ。
変身の副作用も無く以前よりも全身に力がみなぎり、しかし、頭は冷静でいられる。
理屈の上では万全な戦法。
故に、イレギュラーに対処しきれない。
背後から迫る謎の威圧感。
気配は無く、しかし、音もなく伸びてくる力の存在感にその場から逃れようとするギルスに、二体のロードが身体をぶつけるようにして動きを止める。
逃げ切れなかったのは、威圧感の出処から何も感じることができなかったからだろう。
唐突になにもないところから五感では表現しきれない威圧感だけが飛んできた。
そうでなければ、その場を跳躍して難を逃れる事は難しくないはずだ。
或いは、二体のロードがその攻撃が来るタイミングを事前に知らされていたからこそ、回避よりも先に妨害が間に合ったのか。
「ぐあああああっ!」
光、いや、空間の歪みが真っ直ぐにギルスの腹部に伸び、そのベルト、メタファクターを貫く。
それは如何なる力か、葦原涼の肉体のみならず魂までをも変質させていたアギトの力が引き剥がされる。
アギトの力、火のエルの力の欠片それ自体は形を持たないが、少なくとも変身中のアギト及びギルスの肉体はそれによって物理的に作り変えられている。
そこから無理やり、本人の意思とは無関係にアギトの力を引き剥がされるというのは、全身の神経を引き抜かれるが如き苦痛と衝撃を齎す。
その場で倒れずに済んだのは、ギルスの、いや、葦原涼の驚異的な生命力の賜物だろう。
或いは唐突にもう一つの変身機構であるアギトの力が消失したショックに対し、ゲドルードが一時的に脳神経に働きかけて意識を保たせたか。
ざり、と、倒れ込みそうになるより先に脚を深く踏み出し踏ん張る涼。
だが、既に変身は解除されている。
二体のロードを相手にして生身を晒してしまっているのだ。
だが、既にロード達の視線は涼に向いていない。
当然だ。
敵対していたとはいえ、憎き人間とはいえ、既に涼はアギトに連なるものではない。
ロード達にとって、今の涼は主であるテオスの愛する人間、ただの人間に過ぎないのだ。
ファルコンロードとオウルロードが涼に背を向け、その場を去る為に翼を広げ──血が吹き出す。
パスパスパス、と、軽い音と共に広げられた羽に穴が開いていく。
狙撃だ。
羽を貫いた弾丸が公園の地面を穿っている。
狙撃の軌道を辿り、ビルの上を確認する者が居れば、そこに不審な人影が何一つ無い事に、そして、上空に一つの影を見つける事ができるだろう。
大腿部と背部に展開したジャンプ用ブースターユニットの火を切り、手に大型の狙撃銃を構えた戦士が、陽光に照らされ金属的な輝きを放ちながら降りてくる。
轟音。
雷でも落ちたかと錯覚するような音と共に地面に降り立った機械的な装甲を纏った戦士。
G1システムを装着した一条薫であった。
両脚を地面につき、やや前のめりに地面に着地した一条の眼の前には、唐竹に割られたオウルロード。
見れば既に一条の手の中の狙撃銃には刃の分厚い銃剣が装着されている。
高高度からの落下の勢いと強化された膂力に任せた不意打ちにより、一刀の下に切り伏せたのだ。
「大丈夫か」
一条薫にとって、ギルス、葦原涼は知らぬ顔ではない。
一部自衛隊が暴走した夏の一件以来、アンノウンと戦う彼らとはある程度面通しを済ませている。
昨年における四号、五代雄介の様に警察と協力関係を結んだという訳ではない。
アンノウンに対応できる人員でありながら四号の様に行かないのは、今年始めの未確認同時多発襲撃事件で警察の上層部の一部が責任を取り職を辞し、内部の気風が変わってしまった為だ。
が、もしもの時は力になると個人的に約束し、幾度か共闘した事すらあった。
「ぐ、うぅ」
だが、涼は返事を返す余裕すら無い。
一条はそんな涼をかばう様に残るファルコンロードに向き直る。
仕事上の相方の様な存在であるオウルロードを倒されたファルコンロードは翼を畳み改めて一条に向き直ろうとするも、ふと、何かを感じ取ったかの様に一条から視線を外す。
そして、一条に向き直り、ジリジリと距離を開け物陰に隠れ、完全にその場から姿を消した。
「逃げた……?」
不可解な行動に疑問符を浮かべ、しかし、今は被害者の救助を優先する。
付近の住民から通報を受けて駆けつけた一条が上空から目撃したのは、ギルスがあの二体のアンノウンとは全く別の何かが発したと思われる攻撃に貫かれた場面。
この場にまだ居るのか、もう去ったのか。
少なくともG1のセンサーにも、鋭くなり続ける自分の五感にもそれらしい存在が発見できない以上、被害者を放っておく訳にはいかない。
そして、警察の一部の過激な連中から狙われている涼を、秘密裏に診断してくれる病院に連れて行く事ができるのは、一条しか居ないのである。
そして、その光景を遠くから見詰める黒い衣服の青年──闇のテオス。
奪われた涼のアギトの力は何の抵抗もなくテオスの中に吸い込まれ、テオスに何の痛痒も与える事は無い。
「これで良いのです、これで……」
誰に向けたものでもない呟き。
口元には薄っすらと笑みすら浮かべている。
テオスは踵を返し、涼し気な顔でその場を去った。
とぅーん♪とぅれんてんてててーてーてー♪(次回予告のテーマ)
不意打ちに味をしめたテオス様、完全にマラークを足止め要員としてしか使わないの巻でした
それ以外まったく話進まなかったし重要な話も無かったけど許して
筆が乗った通りにしか書けないから重要か重要じゃないかで話を書けないのだ
☆一切出てこないのに母親に嘘つき呼ばわりされる実はここまで未来知識の出処一切ホントの所を明かしてない全ての理由を超能力になすりつけ続けている嘘つきマン
やったか!?
テオス様がちゃんとやったかどうかは次回か次次回
でも俺達は退場キャラは蘇生できないレベルでグズグズになった死体を確認しないと油断できない事を知っているのだ
誠実な警察官であるパパンを尊敬しているのは本当だけど優等生ムーブは単純に内申のためだったり自分がやりたいからという部分もある
ほんとに無意識的に罪悪感があったりするかは不明
☆何か隠し事があるとしてもそれはそれとして私は彼と居たいと言える勇気を本人に対して出せればもっと関係が進展するクラスメイト難波ちゃん
関係が進展するどころか現状では恋人未満な関係の期間を伸展させる展開しか用意していないけどゆるしてくれ
完全にくっつけてしまうとそのキャラをメインで出す場面を多くせねばならないので自由度が下がってしまうのだ
でも今回なし崩し的に気になるあの人がジル&グジルと関係を持っているという情報を手に入れてしまって……
はわわー、いったいこれから、どうなっちゃうのー?(ここでアバン終了、流れるプリキュア的なOP)
みたいなゆるふわ展開は少なくともアギト編が終わるまではないぞ
現在グジルのナビに従いパワーアップイベント進行中
そして時代的にプリキュアではなくおジャ魔女なのだなぁ
魔法の力でも直せないので死ぬしか無い病弱な少女がOVAで出たりするけど
そんなあの子も、この現代式アークル型ゲドルードがあれば、もう安心!
それと同じくらいの再生能力をもたせる事ができるプリマエンジェル!
美少女魔法少女恐竜天使戦士プリマエンジェル!
殺意の高さと結構な戦闘力があるけど二次創作で見かけないんだよなぁと不思議に思う
みんなもオリ主にプリマ端末を掲げさせて我、たちまち変身す! させよう
☆なんか身内判定食らっている為か微妙にママンからの扱いが雑になってるジルそしてグジル
無垢な状態から一介の超能力少年が努力と死体の山を積み重ねながらンに上り詰める姿を見つめ続けていたので実はグジルよりもジルの方が精神的に頑丈だったりするのだ
グジルに肉体の運転を任せてアギト的な力で主人公の無事を確認していた
これは主人公のアギトの力を株分けされたから的なあれだと思われる
寝てる間に脳内会議ができたりするんじゃないかな
割と流れと勢いで書いてるからそこらへんはふんわりしてる
身体も全体的にふんわりしてるぞ
水に浮く
別に何処がとか書いてないのに特定部位だと思った人は反省しよう
昔(古代グジル時代)みたいに潜水が上手くできないって話なのだ
パワーアップイベント立案はジル
グジルは未だに旧ゲゲルのルールが頭に残ってるので変なパワーアップ方法には乗り気でないのだ
でもバイクの運転をするのはグジル
自分であり妹であり娘みたいなものなので実は割と判定が甘い
前にAV視聴中イヤホン抜ける現象の話をしたが、行為中に片方の意識がトンで入れ替わったりする場合もあるので割と制御は難しい
☆アギトの力を引き抜かれて最早戦う力が無いという事もない葦原さん
全然描写が無いのにギルスの力を制御できているのとクウガ警察が一部稼働したままなので全体的に救われている
でも警察に紹介したら解剖がどうこうみたいな話になるので、顔見知りの警察の人の個人的な知り合いの司法解剖専門の法医学士が半ばかかりつけになっている
死なない人間関係の輪が広がって救われたのも四号がベルトを分けてくれたおかげなんやなって……
という話を警察の人にしたらすっげぇ難しい顔をされたし、なんか医者の人も接し方が優しくなったし検査も無料で定期的にしてくれるようになったぞ!
ありがとう四号の人!
フォーエバー四号の人!
☆少し年下の同性の一般市民な非公式協力者に対する名前の呼び方がわからなかったので終始葦原さんの名前を呼べなかった、眉間にシワが寄る事が多いけどベルト巻かれてから一度も体調悪くなってないし胃が痛いなんて事も強制的になくなったG1条さん
なお眉間のシワの原因
現場に急行する際は疑似ドラゴンフォームで向かう事が多くなった
燃料は何故かどうにかなっているのでまぁまぁ連続跳躍可能
持った武器が何故か頑丈になったりするけどその原因は科学警察研究所で解明済みなので仕方なしに有効活用してる
葦原涼に対する感情はめっちゃ複雑
ここに至るまでの背景をある程度聞いている為に色々と気を使って黙っている部分も多い
☆一条さんに内蔵されたベルトさん
彡(゚)(゚)「なんやこの身体めっちゃ酷使されとるなぁ」
彡(^)(^)「せや、変身機能は開放でけへんけど、再生能力の延長として武器やら燃料やらごまかしたろ!」
やさしみあふれる
回復力も上げてくれてるし、変身機能以外はひっそりと使われている
ちなみに変身しないグロンギの身体能力に関してはメビオさんがDVD一巻で見せてくれているぞ!
脚力特化ならズでも成人男性を十メートル前後はある天井に勢い良く蹴り上げて即死させられる
うん、変身能力を封じておけば日常生活に問題は無いな!
☆闇のテオスと愉快な下僕達
前回回収直後に消えたのは
「こんなやばいアギトの力吸収したら絶対苦しくなって動けなくなるで、面倒なのも近づいてるしはよ帰ろ。あの二人はどうせほっといても来るやろ」
的なあれがあった
今はなんでかアギトの力を取り込んでも全然苦しくないので調子乗ってる
問題なのは、本来なら調子に乗っても一切問題ない程に存在としての格が高い事
そして全然苦しくない理由を一切考えていない事←ここガバ
☆息子の友人と義理の娘が困ってそうな時は車も出してくれる色々な事に理解のある優しいママ
名を『
ジルに貸したセカンドバイクに関しても
「あら、私のバイクなら車庫にあるわよ?」
と、明らかに新品に交換された同車種のバイクが家に運び込まれて不問になった
嘘つきである事、隠し事が多い等、息子に多く遺伝している
息子に伝授すべきかどうか悩んでいる知恵として
家族が日常的に出入りする場所、手を伸ばせる場所に隠し事に関するものを置かないこと
というのがある
何の変哲もない警察官を夫として妻を、明らかに何かを抱えている子供の良い母親をやれているのは、彼女が色々な嘘を貫き確固たる足場を築き上げた結果なのだ
つまりそれだけ旦那さんにはベタボレだし、すごく良い母親であるという事なので何も問題はない
☆パパン
一切何の嘘偽りも無く正真正銘ただの一般警察官
警察にパワードスーツが配備されれば装着する事もあるかもしれないが彼自身はただの一般人であった
だからこそ今の奥さんのハートを射止めたとも言える
でも主人公の両親の馴れ初めとか明らかに需要が無いものは書かないのだ!
ただ男と女が出会って恋に落ちて結婚するだけの平凡な話だからな!
※パパンからすればの話
☆ナナス様よりのいただきもの!
これは所謂お年玉とかクリスマスプレゼントの類に入れても良いのでは
カラーリングもね!
【挿絵表示】
在りし日の主人公
ちょっとライジングなのは気にしない
何気にライジングせずにアメイジングしちゃったのでレア形態
まだゴリ押しができなかった時代ですね
思えばこの頃が一番工夫していたのではないだろうか
単調にならないように頑張りたいものです
ナナス様、ありがとうございました!
そんな訳で次回は奪われたアギトの力を取り戻しに行く話ですね
翔一くんはたぶん話の行間で奪われてるのでそこも
ヒロイン二人は何処に向かったのか
テオスはこのまま何事もなく全人類からアギトの力を奪ってしまうのか
そして消えた主人公は
なぜ葦原さんはアギトの力を奪われながらもゲドルードとゲブロンを奪われなかったのか
究極の闇を齎す者の役目とは
グロンギの始まりとは
魔石とは
霊石とは
現代に新たに生まれたンが再びその姿をあらわす時、グロンギという種族の真の目的が、光と闇の終わりなき戦いが、遂に一つの結末を迎える!
と、壮大なテーマっぽいものを添えた断言する形の文章は格好いいなぁって話なので
次回や次次回がそれほど盛り上がらない話だとしても許してくれる人や許さないけど読みはするという方々
適当な事を適当に書く様な信用ならないSSでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい