オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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2 蒼嵐、振り下ろすは

時計を確認する。

時刻は昼の十二時二十五分。

日付はといえば二月五日。

日頃の生活態度と成績のお陰で、推薦を貰えたのは本当に幸運だったと思う。

体調不良で休むと言えば先生からは『しっかり休んでね』と本当に心配した風な声で労って貰えるし、母さんもずっと学業やら武道やらに勤しんでさほど子供らしく遊ぶ様を見ていなかったからか、ズル休みを見逃してくれた。

これで、本当に遊ぶために休んでいられたらな、と、少しだけ悲しくなる。

 

だが悲しいかな。

今の俺はとてもこの大都市東京で遊ぼうなんて気にはなれない。

 

あの墓所で感じた封印状態のそれとは比べ物にならないはっきりとした気配。

人の群れの中に武装状態のプレデターがのうのうと紛れているのがわかって、呑気に遊ぶ気分になれるだろうか。

俺はなれない。

首元に刃物を突きつけられているような、とまではいかないが、遠目に剥き身の刀を手に下げた目つきの危険な不審人物が居る程度には心が安らがない。

よくも、まぁ、東京の人達はこんなに平気そうな顔で生活していられるものだ。

 

……いや、俺が『こう』なのだから、未確認のニュースとは無関係にピリピリとした空気を感じている人も居るのかもしれない。

知る限りでも二人、恐らく天然で目覚めた人が居るはずなのだ。

それ以外に複数居たとしてもおかしくはないだろう。

既にオルフェノクは相当数居る。

世界が地続きであるなら、オルフェノクでなくアギトに目覚める人間が増えている可能性は高い。

そんな彼等が、謎の存在に殺害される前に、力に目覚めて絶望する事なく適応してくれる事を切に願う。

標的が多いほど、俺の危険度だって下がるのだから。

 

片耳にイヤホンを挿し、ラジオのニュースを確認しながら当て所なく歩く。

東京に来るまでに使ったバイク(ジャンクを集めてモーフィングパワーで無理やり形になるように組み直し、アギトの力でトルネイダーにした。ナンバープレートは偽物だ)は郊外の、監視カメラが殆ど無い場所を確認して停めてきた。

少し前に比べ、スタミナや筋力は驚くほどに強化されているので不便は無い。

伊達や酔狂で内蔵式のベルトを二本差ししていない。

増やせば増やすほど潜在的危険度が高くなるが、どうせ一本はそうそう外せないし、外したからといってこの世界のその他脅威が目こぼししてくれる訳ではない。

それはともかくとして。

 

「お腹すいた」

 

ぽぽぽぽぽぽ、ぽん、ぽん↑、ぽん↑↑。

そんな効果音が聞こえてきそうなくらい、自然に口から言葉が溢れた。

三段階で遠写になる程だ。

思えば、この時代での俺は前の人生での俺よりも数年だが年上だ。

このドラマが放送される頃は……いや、それを考えるのは、その時代まで生き延びれた時に改めて考えよう。

 

とても穏やかに食事ができるような都市ではないけれど、あれらの気配が、それ程無秩序に暴れだす訳ではない事も知っている。

気配が可能な限り遠くなるような場所まで移動して、適当な店に入ってご飯を食べてしまおう。

……現状、穏やかに食事ができる都市ではないとはいえ、東京、都会も都会、大都会だ。

できればオシャレかつ美味しくて値段も変に高くない、そんな都合の良い店に入れたらいいな。

 

―――――――――――――――――――

 

一つ、言い訳をするならば。

俺ははっきり言って東京の地理には詳しくない。

今の俺は生まれも育ちも地方都市でほぼ東京に足を踏み入れた事はないし、それは前の俺も似たようなものだ。

地方都市だってオシャレな店も美味しいお店も探せばあるし、欲しいものは大体通販の方が安い。

意図して東京に来る理由は無かった。

 

地下鉄は常時すごい混んでるという偏見(実際どうかは知らない)があるので、移動は完全に徒歩及びダッシュだ。

地図すら見ていない。

移動の指針はただ一つ、危険な不審者の気配……有り体に言って、人間体で待機している未確認生命体、グロンギの気配から遠ざかるように遠ざかるように。

本当にそれだけなのだ。

それだけなのに、こんなオシャレな佇まいの、美味しそうな香りを放つ洋食屋兼喫茶店に辿り着くなんて、凄く食運に恵まれているんじゃないかと思う。

……わざとじゃない。

というか、この店がこの辺、文京区にある事すら知らなかったのだ。

 

喫茶店ポレポレ。

店の前には……外国製かな? 見たことのない格好いいデザインのバイクがある。

何故か名前は知っている。トライチェイサー2000って言うんだって。

日本の警察で採用される予定らしい。

 

周囲を見回す。

監視カメラ、無し。

通行人の視線、無し。

店の窓からは見えない位置にあるらしい。

 

ちょっとしゃがんで。

靴紐を結び直すふりをして。

手袋つけて、エアバルブ外して。

懐から取り出したるちょっとした小道具で……。

 

立ち上がるとあら不思議。

かっこいいバイクのタイヤから不自然に空気が抜けている。

不思議な事もあるものだ。

もしもの事を考えて事前に練習しただけはある。

手袋と小道具は後で塵にしておこう。

 

いや、運がいい。

気分良くご飯が食べられそうだ。

 

―――――――――――――――――――

 

何事もなく、平和に昼食を終える事ができた。

店内で俳優のきたろうさん似のおじさんやオダギリ某似の青年を見かけた。

流石東京、有名人のそっくりさんも多い。

美味しいカレー定食を食した後、コーヒーにたっぷりのミルクと砂糖を入れて冷めるまでかき混ぜていると、外に掃除に出たオダギリ某似の店員さんが何やら叫んでいるのを耳にした。

どうやら店の前に停めていたバイクの空気が抜けているらしい。

パンクかどうかを確認するのにしばらく掛かるだろう。

災難な話だと思う。

ただ、空気を入れるだけで済むだろうと思うので安心してほしい。

 

と、こうしてオダギリ某似の店員改め五代雄介、この時代の正式なクウガの足止めが運良く完了したところで、今回の東京入りの目的を再確認しよう。

覚えている限りの情報が、この世界でも変わらないのであれば。

今日はとあるグロンギが活動を始める日付の筈だ。

それを狙う。

 

グロンギの名はズ・グジル・ギ。

ズ階級の水生生物系の戦士である。

 

彼、或いは彼女を狙う理由は幾つかある。

ズ階級であるという手頃さ。

水生生物系である以上、恐らくは地上で完全な力を発揮できる訳ではないだろうという推測。

ゲゲル開始が二月五日、クウガに仕留められるのが二月六日というスピード解決から、恐らくそれほど突出した能力を持っていないだろうという希望的観測。

開始日と終了日が土日という日程の良さ。

テレビ未放映、設定資料集で二行で倒されているというのは、逆にその時点のクウガで倒せた、新たなフォームチェンジが必要ないという事でもある。

 

勿論、今の俺が本来のクウガと同等の戦闘能力を持ってる訳ではない。

鍛えているが、それでも五代雄介のそれと比較して技術やメンタルに勝るという訳でもない。

だからこそ手頃な、現時点でどうにかできそうな相手を選んだ訳だ。

それに、少し鍛えた一般超能力者程度の戦闘技術であるという現状に何時迄も甘んじている訳にはいかない。

真正面からぶつかってどれだけ戦えるかを確認し、その上で更に鍛えなければならない。

その相手として、実はグロンギが恐ろしい程好条件である事に気が付いてしまったのだ。

 

オルフェノクのように、大企業がバックに居るわけでもない。

同じ理由でファンガイアも無し。

魔化魍のように現れる場所や確率がまちまちでもない。

対策がまだできていないワームは論外。

アンデッド、同上。

ミラーモンスター、耳鳴りと不意打ちに気をつける。

イマジン、頑張れ特異点。

 

対して、グロンギは一般にも警察にも認知されている。

ズ集団のうちは警察の銃弾も目に当たれば効果があり、何より警察に目撃させれば無線を聞いたクウガが駆けつけてくる。

リカバリが効きやすいのである。

……まぁ、今はクウガがしばらく駆けつけられないだろうが、それは仕方がない。

俺よりも先に接敵して倒されては練習にならない。

それで被害者が増えるとしても、諦めよう。

元から、警察が事件を確認してからクウガが駆けつけるという形式上、最初の被害者は助からないのだ。

 

「すいません、お会計お願いします」

 

何食わぬ顔で、支払いを済ませて店を出る。

空振った時の事を考えて、頑張って無数にある気配から弱そうなのもピックアップしておこう。

 

―――――――――――――――――――

 

基本的に、グロンギの出現を知るには死人の情報を頼るのがいい。

目撃者を大量に出しながらゲゲルを行うタイプなら避難情報が聞ければ大体の場所がわかる。

不自然な連続殺人事件なんかがあればそれも怪しいが、そういうのはラジオでは聞けないので除外していい。

今回当たりをつけているのは、船の事故だ。

撮影の関係で海中での戦闘などはほぼ無かったが、水生生物型であれば、船を沈没させれば手っ取り早く人数を稼ぐ事ができるから狙い目だろう。

活動開始から撃破までに一日掛かっているということは、恐らく一件目の事件がグロンギの仕業であると判明し、二件目の標的になりそうな所を狙って撃破したという可能性が高い。

 

此方には正式なクウガにも警察にも無いアドバンテージがある。

アギトの力なのか何なのか、魔石ゲブロンの気配がなんとなくわかるのだ。

大まかな場所ならわかるので、水辺に近い位置にある気配をピックアップして注目しておけば……。

 

―――――――――――――――――――

 

「見つけた」

 

遠目に沈みゆくフェリーを確認しながら、物陰に隠れた少年が両手を広げる。

いつの間にか現れていたベルト。

これこそが古代人リントが作り上げた戦闘用強化装具アークル。

 

「変身」

 

つぶやくと共に、腰に据えた左手で静かにレフトコンバーターを押し込む。

薄っすらと別の像が重なったアークルの中で、霊石アマダムが活性化、バックル中央に収められたモーフィンクリスタルが緑色の光を帯びる。

体内に収められたアマダムから伸びた強化神経から未知のエネルギーが肉体に送り込まれ、身体能力は飛躍的に向上し、肉体の表面には強固な外殻をも形成する。

柔軟かつ強固な強化皮膚ブラックスキン。

昆虫の甲殻に似た構造の各部装甲、ブロッカー。

その他諸々、人間の肉体には有り得ぬ強化器官が形成され、左肩にのみ形成されたショルダーブロッカーが特徴的な緑色の戦士が姿を現す。

クウガ・ペガサスフォーム。

 

変身が完了すると同時、戦士の五感を常人では処理仕切れない程の大量の情報が流れ込む。

紫外線、赤外線、電磁波、超音波すら捉える超感覚を持って遠く離れた敵を射抜く狙撃手としての能力を備えているのがこのペガサスフォームだ。

常人では数十秒で脳がパンクして気絶するこの形態を、しかし超越精神、青の力が押さえ込む。

全ての情報を受け入れる必要はない。

標的が何処に居るか、それは既に感覚が捉えている。

 

手に握られているのは、簡素な作りの小さな弓矢。

お土産屋で売られているような小さな弓矢に、手首のコントロールリングからモーフィングパワーが流れ込みボウガン状の武器、ペガサスボウガンへと変質させる。

 

弓を引くように後部グリップを引き絞り、離すと同時に引き金を引く。

連続して放たれた封印エネルギーの矢は、海中に潜みその場を離れようとしていた異形の体を掠めていった。

 

少年にとってもこのやり方はある種の賭けであった。

自分を狙うクウガの攻撃に対して、グロンギがどの様な反応を示すかは、週に一度三十分を一年分と参考資料数冊分程度の知識しかない。

闘争本能に忠実であれば向かってくるだろう。

だが、グロンギにも人間……リントと同じく個性がある。

ゴ階級の戦士ともなれば人間社会について学び読書やギャンブル、芸術などを趣味とする者も居れば、リントの少女に成り代わりアイドルとして活動する者も居れば、政治家として国のトップに近い位置に辿り着く個体すら居るのだ。

攻撃を受けたのならば、ゲゲルの完遂を優先して逃げに徹するタイプも間違いなく存在する。

中にはゲゲルを始める前に時間切れで自爆してしまう個体すら存在するのだから、見ず知らずのグロンギが攻撃に対してどう対処するかなど、予測が付く訳もない。

 

「……よし」

 

海中の異形が自分に向けて高速で移動してくるのを確認し、再びレフトコンバーターを横から叩く。

すると、アークルに重なっていた像の中心部が青く輝き、ぼやけた棒状の何かが現れる。

未だ完全には覚醒していない進化の力、風を司る力。

蜃気楼の様なそれを掴み、躊躇いなく引き抜く。

引き抜いた手のコントロールリングから流れ込むモーフィングパワーを依代に実体を得たそれは、青と金で構成された刃の畳まれた斧槍。

 

獲物に合わせるように少年の姿も変わっていた。

全身の装甲は青く、ショルダーブロッカーのある左腕だけがやや肥大化した姿は、流水ならぬ嵐の斧槍にて敵を薙ぎ払う人類の進化系。

 

五秒程の時間をかけて姿を変えた少年の、いや、異形の戦士の前に、水面を波立たせながら勢い良くもう一匹の異形が姿を現す。

腰布、手首足首と肩から胸元までを覆う装飾品を除けば何も身に着けていない。

一目で人間のそれとは異なると理解できる、暗い薄灰色の肌。

しなやかに、しかし異様に発達した筋肉に覆われたその体は、よく見れば人間の女性に似たラインを持っている。

だが、その首から上を見れば、それが決して人間で無い事が理解できるだろう。

大きく張り出した額と鼻、分厚いゴムの様な黒い皮膚、埋没するような小さな瞳。

頭部を上下に割る様な幅の広い口。

まるでクジラを人型に押し込め、古代の装飾品を纏わせたかの如き異形。

彼女こそ、現ゲゲルのプレイヤー、ズ・グジル・ギだ。

 

「バレダラベゾギデブセスバ、クウガ!」

 

非常に表情の読み難いクジラの顔から、明確な怒りの感情を滲ませた叫びが放たれる。

それに対し、青の戦士は斧槍を持たない手を顎に当て首を傾げ、次いで鼻で笑った。

 

「ゴセパゴグザ。バレデロジョギジョグバ、ジャボゾベサダダバサバ」

 

で、あってるかな。

グジルに聞こえない程度の声量で呟いた戦士に、

 

「ズザベダブヂゾ、ゴラゲパボソグ!」

 

グジルは拳を握り怒りに任せて踊りかかった。

 

―――――――――――――――――――

 

奴隷或いは労働者階級のべ階級を除けば、戦士としては最下級であるズ階級の戦士は、魔石ゲブロンによって変異した肉体的特徴をそのまま武器として扱う場合が多い。

蜘蛛の異形と化したなら蜘蛛の糸を扱うし、飛蝗であれば跳躍能力を駆使する。

最低限の変異しか熟していないズ階級はまず、変異した肉体を操る事にのみ重きを置くからだ。

人間的特徴、武器を扱う様になるには、変異した肉体ではなく、肉体を変異させている魔石の力に適応する必要がある。

 

青の戦士に殴りかかったグジル。

彼女の強みを一言で言うのであれば、それは『重さ』だろう。

海中生物の中で最大と言っても過言ではないクジラの体長は、彼女の肉体にそれ相応の変化を与えている。

それは水中における自由度を除けば、過度に圧縮された筋肉にこそ顕著に現れていた。

水中でその巨体を自由に泳がせる為の筋力、それは逞しい筋量に、更にその見た目すら凌駕する実際の力として振るわれる。

 

つい数分前に沈んだフェリー、その乗客たちの遺体こそがその証拠となる。

爪すら無く、ただ人が殴るのと同じように殴られた被害者達の肉体は、中身を皮膚の下に収めておく事すら許されず、砲で撃たれたかの様に『破裂』させられているのだ。

クジラの尾びれが海面を叩く様な、或いはその尾びれの一撃を拳に集約したかの様な一撃は、人間を水風船の如く容易く破壊する。

 

幸いであったのは、逆に彼女が古代でのものを含むこれまでのゲゲルにおいて、獲物を狩るという点で然程苦労した事が無いという事だろう。

ただ近づき、殴る、蹴る。

ただそれだけで彼女のゲゲルは完了する。

船を狙った理由にしても、海上であれば無駄な邪魔が入らずゆっくりゲゲルを行えると思ったからに過ぎない。

最初から持ち合わせていた力だけで事足りていた彼女に、技術を磨く理由は無い。

 

「っ」

 

折りたたまれたままの斧槍で砲撃の如き拳を受け流す。

見えない程の速さでもなく、格闘家のそれと比べて効率的な殴り方をしている訳でもない。

だからこそ初見で受け流す事ができた。

だが、受け流してみて初めて分かるその拳の重さに思わず息を飲む。

受けるべきではない攻撃だ、少なくとも、今の姿では。

拳を受け流した動きの延長で、グジルの背を突いて距離を離す。

 

対してグジルの思考は単純なものだ。

避けられた。なら、当てるまで殴るだけ。

斧槍で背を押され姿勢を崩されながら、力づくで体を捻り振り返り、地面を這うような高さから拳を振り上げる。

狙いは顎、当たればクウガと言えども無事では済まない。

本人はそういった狙いすらなく、どこでも良いから当てる、程度のもの。

無理な姿勢から放たれた拳は、それでも直撃すればクウガのブロッカーを砕く程の威力を備えている。

 

対して青の戦士は半歩下がりながら振り上げられた拳を追うように斧槍を振り上げ、振るわれた拳の勢いを増して重心を崩し、がら空きになった脇腹に前蹴りを叩き込む。

距離が開き、次のグジルの一撃が即座に届かないだろう事を確認し、青の戦士は斧槍を振るう。

グジルではなく虚空に向け振るわれた斧槍はその柄を伸ばし、斧状に畳まれた刃を展開。

倍近くまで伸びた両刃の斧槍。

ごう、と、渦巻く風を纏う双刃の槍こそがこの武器の真の姿。

嵐の鉾槍ストームハルバード。

 

グジルが青の戦士を睨みつけたまま、じり、じり、と歩きながら間合いを計り。

青の戦士は風を纏う鉾槍を腰だめに構え、鏡合わせのように間合いを取っている。

 

先に動いたのはグジルであった。

無手と長物の差による不利を理解していない訳ではない。

だが、グジルはこれまでのゲゲルにおいて逃げた事がない。

また、長物を持ち、それでいて自分を傷付ける事ができる程の力を持った相手と戦った事もほぼ無かった。

リーチによる差も、獲物ごと相手を打ち砕いてしまえば無いも同然。

 

そう考えるに足るだけの力も実際に持ち合わせていた。

ズ集団の中ではナンバー2の実力を備えているのが、このズ・グジル・ギなのだ。

鍛え上げた技術でなく、ただ得た力を振るうだけで手に入れた地位。

それは即ち才能の差であり、魔石ゲブロンへの適正の差でもあった。

長じればメ、果てはゴにすら届く程の成長も得られたかもしれない。

 

殴れば勝てる。

当てれば勝てる。

それがグジルのゲゲル。

力への圧倒的な自負。

それを胸に、グジルはその過剰な脚力に任せ……、『地面』を蹴った。

 

「ヌッ」

 

舗装されたタイルが蹴り砕かれ、青の戦士目掛けて蹴り飛ばされる。

塊のままの石材と砕けた砂が青の戦士を僅かに怯ませた。

一番の脅威だと感じた鉾槍は塊のまま飛んできた石材をはたき落とす為に使われ塞がっている。

視界も遮り、グジルのダッシュに一瞬反応が遅れた。

 

力への自負はある。

殴るだけで勝てるという自負もある。

だが、だが、『クウガ』が相手であれば、それは全て覆される。

それを理解していない訳ではなかった。

故に、現代にもクウガが存在すると聞いた時点から虚を突く為の手段も多少は考えていた。

考え、実際に相対したのであれば使わない理由は無い。

 

僅かな距離を走り抜け、その鳩尾目掛けて拳を振り抜く。

届く、勝った。

勝ったのだ。

かつての時代に封印された雪辱を果たした。

クウガが居ないのであれば、ゲゲルはクリアしたも同然。

もはやズ・グジル・ギではない。

私はメ・グジル・ギになるのだ!

 

勝利を確信したが故か、現実を認識するのが遅れる。

拳を振り抜いた。

ならばいつもの様に、肉がはじけ飛ぶ感触がある筈だ。

不意まで打っての会心の一撃であったが故に拳に感触すら残らない威力が乗った訳でもない。

 

彼女が過ちに気付いたのは、その背を貫く冷たい衝撃を受けてから。

裸で吹雪の中に立ち尽くす様な寒気、次いで感じるのは熱にも似た激痛だ。

ズ・グジル・ギは、その背を袈裟懸けにばっさりと斬り付けられていた。

 

何故、という疑問がグジルの思考を埋め尽くす。

だが、実際に起きたことは単純だ。

グジルが勝利を確信した瞬間、迎撃する事が叶わないと理解した青の戦士は、その場から跳躍。

空中で身を捻り、グジルの背後に回り込み、落下しながらその背を斬り付けたのだ。

 

鉾槍による一撃はグジルの背を深々と切り裂き、その傷は肋骨や背骨すら半ば断ち切っていた。

常人ならば致命傷、しかし、クウガと同じく魔石ゲブロンから全身へと新たな神経組織が形成されているグロンギにとって、脊椎の損傷は一時的には甚大な被害になり得てもそれが死や後遺症に繋がる事はそう無い。

通常の肉体の損傷に対するのと同じ様に、僅かな時間で修復を終えてしまうだろう。

 

だが、修復が完了するまでの僅かな時間、確実に隙が生まれる。

その隙は、こと戦闘においては致命的。

 

ばきん、と、自らの腹部が発する異音にグジルが目を向ける。

異音の主は腰に巻かれた、魔石ゲブロンを内蔵した強化装具ゲドルード。

変身能力を含むあらゆる異能を制御、ゲゲルの進行にも使われるそれが、腹部から飛び出た黄金の刃によって貫かれ、真っ二つに割れていた。

 

「ゴンバ、ダババ、パダギパ『メ』ビ、『メ・グジル・ギ』ビ……」

 

再生能力を失い、なまじ強化された生命力のお陰で死ぬことも無く、ゲゲルを完了させる事が不可能になった絶望に喘ぐグジル。

人間体と怪人体が点滅するように入れ替わりながら、痛みと絶望に呻くグジルが、背後からの衝撃に地面に倒れ伏す。

 

「ヂガグ、ボンバボパ、パダギパ、ゲゲルゾ、クウガゾ、パダギパ……」

 

纏まりのない、譫言の様な独白。

ごぼり、と、口から血が溢れ出す。

貫かれた腹部から血を流しながら、グジルは、古代人の少女は地面を掻く様にもがき、ずりずりと地面を這う。

顔を上げ、震える手を海へと伸ばす。

 

その最後の前進が、止まった。

青の戦士が、グジルの背を踏み、逆手に鉾槍を構えて、大上段に構えている。

刃の先は、背に空いたままの傷の奥、心臓。

逆光が青の戦士を照らし、影に覆われた顔の中、ぼんやりと輝く巨大な赤い複眼はまっすぐにグジルを見下ろしている。

 

「ギベ」

 

冷たい。

突き立てられた凶器の感触を感じながら、グジルの意識は閉ざされた。

 

―――――――――――――――――――

 

封印エネルギーを叩き込まなかったからか、ゲドルードを真っ先に破壊したからか、ズ・グジル・ギの死体は爆発するでもなくその場に残された。

ゴ集団のゲドルードの自爆かライジングの力かは知らないが、後半は撃破時の爆発にも気を使っていた筈だ。

クウガの力でなければ倒せないのではないか、と、そんな不安もあったが、今後グロンギを殺す際には此方の力で殺した方が都合がいいかもしれない。

 

「……」

 

残されたグジルの死体を見下ろす。

ゲドルードかゲブロンを破壊された状態で瀕死であった為か、その肉体は斑に人間に戻りかけたまま事切れている。

 

肌の白い、白髪の年若い少女。

衣服は、ところどころしか戻っていないからわからないが、レインコートに、水着、だろうか。

水生生物モデルだからといって、そこまで水に寄らなくとも、とは思う。

或いは、ゲゲルとは無関係に、水辺が好きだったりしたのだろうか。

酒を楽しむ文化はあったらしい。

ゲゲルの無い時は泳いで遊ぶ程度の文化もあったかもしれない。

現代に蘇って、舗装された水辺を見てどう思っただろうか。

或いは、現代の知識を仕入れる中でプールにも行っていたかもしれない。

勿論、そんな事を今更確認する事はできないし、確認したところで意味はない。

 

彼女は死んだ。

俺に殺されて死んだ。

俺が殺したのだ。

だから、そんなものに意味はない。

死人の趣味嗜好など、想像を巡らせてなんとするのか。

しかもよりにもよって、自分が殺した相手だ。

悪趣味にも程がある。

 

「……そうだ」

 

死体の傷口に手を差し入れ、内部を探る。

まだ温かさの残る内臓を掻き分け、それを抉り出す。

小さな、見たことのない鉱石。

グロンギの気配はこれから感じる。

弱々しいを通り越して、この距離でなければ反応を探る事すらできない。

恐らく、これが魔石ゲブロン。

何かに使えるかもしれない。

余裕があれば、追々回収していこう。

……そう何度も、回収したいとは思わないが。

 

「帰ろうか」

 

遠巻きに視線を感じる。

素早く殺せたので警察はまだ来ていないけれど、間違いなくあの中の誰かが通報している事だろう。

追われると困るので、一度海の中にでも隠れて、ちょっと距離を置いて人気の少ない場所から上がって、フレイムフォームで服を乾かして……。

 

そこまで考えて、ふと、ズ・グジル・ギの死体に振り返る。

口からは血が溢れ、目からも鼻からも体液がこぼれた跡があった。

事切れたグジルの表情は、なんと表現していいのかわからない。

絶望? いや、錯乱していたのか、笑みにも怒りにも見える。

 

「……」

 

しゃがんで、瞼だけ閉じておく。

まだ変身は解いていない、指紋が残ったりはしないだろう。

見た目、これがグロンギの死体である事はわかる筈だ。

研究の為、最終的には切り刻まれる事になるだろう。

だから、だけど、せめて。

 

「……いや」

 

考えるだけ、無駄だ。

オルフェノクと違って死体が残るものだから、思考が変な方向に向いてしまった。

これから、何度だって、何度だって、何年も何年も繰り返す『作業』には、無用な思考だ。

 

帰ろう。

グロンギの力はわかった。

パワータイプだったろうから、全てがこうではないだろうけど。

真正面からでも、戦えない訳ではない。

戦っている最中は、不思議と頭も冴える。

アマダムの力か、アギトの力か。

そのどちらかは分からないけれど。

 

戦える。

なら、戦おう。

戦って、戦って、戦って。

殺して、殺して、殺して。

生きよう。

 

 

 




☆クウガだかアギトだかわからんマン
アマダムから神経伸びてその内こんな悩みとはおさらばできるだろう、くらいの想定で今は我慢して戦ってる
でもそこまで行ったら究極の闇になっちゃわないかなっていう疑問はひとまずおいとく、生きてくためだからね、仕方ないね
戦闘中は無我の境地的なあれも発動してるヤバいやつ
今回は警察の被害が大きいグロンギではなくそのグロンギとまともに正面戦闘できるかの確認に来た
死体が残ってちょっぴりビビる
やっぱり死体の残らないオルフェノクは殺しても心が傷みにくくて良い種族ですね! 褒美として滅んでいいですよ!
よく考えると序章最後にクウガ本編開始直前みたいな日付入れたけど、こいつがベルト取りに行った時期であるとは言ってないからそこから一年くらい前に取りに行った事にしてもいいかもしれない、そういう事にしよう
クウガの変身を起点に未覚醒のアギトの力も引き出せる
ちな変身ポーズは五代さんが戦意を引き出すために考案したものらしいから別に無くてもどうとでもなるみたいな話があるのでそちらを採用している

☆ベルトさん
ずしゅーん、ぎゅぃーん、ぎゅいぎゅいぎゅいぎゅい、 (`・ω・´)シャキーン!
平成初期特有の無口なベルトさん
効果音凄くかっこいいので本編見るかベルト買おう
出典は小説版仮面ライダークウガ
本編終了の十三年後をメインライターである荒川稔久先生が直々に描いた実質正式アフターストーリー
かわいいおっさんと化した一条さん
長期間人間社会に潜み続けた場合のグロンギのヤバさ
それをある意味上回る人間のヤバさとか愚かさ
十三年前のダグバとの最終決戦後の隠された真実
再び巻き起こる、しかし恐ろしく巧妙化したゲゲル
そして、十三年の年を経て現れる未確認生命体、第二号……
名作です! ちょっとアフターとしては賛否わかれるけど読んで損は一切無いので買うべき
ベルトそのものとしては、原作で使われていたアークルが作られる前のテスト機であり、諸々の安全装置が付いておらず、装着者の心持ち次第で容易くアルティメットフォームに切り替わってしまう危険なベルトである
東京タワーにモーフィングパワーを流し込んで広域殲滅兵器にしたりできるやべーやつ
実情知っててこんなもん巻いて戦おうとか考えるのはちょっとおかしいけど、おかしい真似をしないと死ぬので巻いた。もう逃げられんぞ★

☆ズ・グジル・ギ
原作本編未登場
設定本で名前とゲゲル開始日と終了日とタトゥー、そしてマイティーキックで殺されたことだけが明かされている
資料集に乗ってる組織図らしきものから一応ズ集団の序列二番目ではないかと目されているが、実際どうかは不明、ここでは一応序列二位ということで
男か女かも不明、なのでこの作品では女、ヒロインにするつもりほぼない戦って死ぬキャラだからゆるしてゆるして
死に際が一見してリョナだけどこれ戦いだから一切不純なあれは無い
人間体は黒ビキニに黒いレインコートかなにかを羽織った色白白髪の少女
どっかで見たことあるって?
口の付いたでかい尻尾は無いし、グロンギを裏切ったべ集団の気になる男の子も居ないし、俊敏体ではなく剛力体寄りの性能だからセーフ。グジ×ガデいいよね……
書いててちょっとだけ生かしておいてどうにかヒロインにしたかった気もするけど、主人公からすれば生かしておく理由も方法も無いし、仕方ないので全力で死に際をノリノリで描写しときました
ビキニでずりずり匍匐前進してるのはたぶんライダー特有の男の子へのサービスシーンではないだろうか、みえそでみえない血まみれ美少女の胸元、歪め性癖
最終スコアは多分二桁くらい
よっしゃゲゲル開始や! とかやった直後、運悪く黒塗りのブラストペガサスにぶつかってしまう(黒塗りではない)
水遊びというか泳ぐのというか水の中が好き
笑うと可愛かった

☆翻訳
グロンギ語翻訳機による直訳だから誤訳とかあっても許してクレメンス

「バレダラベゾギデブセスバ、クウガ!(舐めた真似をしてくれるな、クウガ!)」

「ゴセパゴグザ。バレデロジョギジョグバ、ジャボゾベサダダバサバ(それはそうだ、舐めても良いような、雑魚を狙ったからな)」

「ズザベダブヂゾ、ゴラゲパボソグ!(ふざけた口を、お前は殺す!)」

「ゴンバ、ダババ、パダギパ『メ』ビ、『メ・グジル・ギ』ビ……(そんな、馬鹿な、わたしは『メ』に、『メ・グジル・ギ』に……)」

「ヂガグ、ボンバボパ、パダギパ、ゲゲルゾ、クウガゾ、パダギパ……(ちがう、こんなのは、わたしは、ゲゲルを、クウガを、わたしは……)」

「ギベ(死ね)」

煽り耐性0からの即オチ2コマレベルの急転直下、美少女顔を晒しながらかすれた声で譫言言ったりしてる方がグロンギです
煽ってるのと死にかけの美少女片足で踏んで槍向けて殺害宣言してるのが主人公です


次回、短時間とは言え派手に暴れたので警察による捜査が入る描写とかしたい
ぱっと見、二号四号系列の何かが戦ってた様に見えるだろうからね
次の話投稿したらこの話のケツにクウガっぽい予告とかも入れたい
今回も前回の話のケツに予告入れたいけどセリフ少なすぎて入れらんないの悲しい
でゅるらーん、でーでー、でーでー、でーでーでーでーででー、づーでー、づーでー、づーでーでーでーででー……みたいな予告BGM流しながら読める感じのやつ
全部擬音にしようと思ったけど記憶より長くて断念

たぶん各ライダーを五話か六話くらいで終わらせればエタらずに一期終わらせられるんじゃないかという見通しで行きます

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