オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
クリスマスといえばクリスマスソングだ。
街を行けばクリスマスソング、店に入ればクリスマスソング、テレビもラジオもクリスマスソング。
なんならこの時代、まだハロウィンがそれ程うまいこと商業的に根付いておらず、下手をすれば十月からクリスマス気取りな区域すら存在している。
お陰でクリスマスが過ぎるどころか、正月が明けた頃にふと脳みそに刻まれたクリスマスソングが口をついて出て、季節外れにも程があると笑ってしまう事があったのを覚えている。
まぁ、クリスマスから年明けまで一週間も無いので、仕方のないことではある。
クリスマスソングといえば、とある歌で悲しかった出来事を消し去るように、と歌っていたのを、楽しかった出来事を消し去るように、と間違えて覚えていた時期がある。
正確に言えば時期どころか数時間程度の話だ、楽しかった出来事を消し去るなんて歌詞がクリスマスソングというのもおかしな話だと思い、すぐに確認して間違いは修正された。
まぁ恋人に振られたヤケクソソングが他言語であるのを良いことに良い雰囲気のクリスマスソングとして扱われていたりするので、別に失恋ソングとか絶望ソングがメロディの良さでクリスマスソングとして盛大に採用されててもおかしくはないのだろうが……。
楽しかった出来事を消しされたら楽になりそうな奴も居ると言えば居る。
いやまぁ世の中にはそういう人間もごまんといるのだけど、自分を人間と思い込んで人を好きになった怪物に比べたらまだまだやり直しが効きそうだと思うので、今日死ぬ彼に免じて少しだけでも前向きになって欲しい。
みんな、調子乗ってたリア充が破滅する姿を見て愉悦〜とか言うの好きだって言うし。
俺も別に勝手な思い込みで自ら不幸に陥ったワームに同情するつもりはないけど、正直そういうのどうかと思う。
スコルピオワームくんは自分が殺した原住民の自我に負けて自分を原住民と思い込んでいただけ。
彼が今感じてる他人への好意も自分自身が神代剣と姉の仇そのものである事への苦しみすら借り物。
スコルピオワームくんの発生時期は不明だが、リア充どころか下手すれば生きてた期間の大半が仮想現実での出来事だった、くらいの非リア充だ。
リアルが非充実どころかリアルが無いのだからリア無と言っていい。
自分が真っ当に誰かに向き合って恋をして、心を通わせて、いつか結ばれるだなどと。
実に夢見がちなリア無、夢見リア無である。
相対的に弱者なので死を以っていたわりとするのが良いと思う。
人間、死ねば仏だ。
ワームなので死んだら標本だが。
今回殺すのは天道総司なので標本も残らん。
まぁ、スコルピオワームの特徴的な毒素は手に入っているので、標本も必要ない。
で、そんなスコルピオワームくんの自我をマスクした神代剣人格が、自分の神代剣としての自我が消える前にスコルピオワームの力を最大限利用してワームを殲滅しようとしてくれているのだ。
とても助かる。
オリジナルの神代剣のことを誰一人知らず、誰もが擬態神代剣のことをこそ神代剣として扱っているというグロテスクな状態が延々放置されていたのもこの為だ。
死に際の激情が激しすぎて推定殺害場所に出向いても残留思念すらまともに計測できない程の神代剣の怒りは遂に成就するのである。
現在、日本中に散らばったワームが東京、スコルピオワームに向けて集結中だ。
国外はどうだろう、単純にそこまでスコルピオワームの支配力が強くないのかワームの探知能力の限界値の問題か、或いは国外では何らかの問題でそこまで大規模な繁殖ができていないのか。
ともかく、国内のワームは順調に集まりつつある。
そこにハイパーモードのハイパーゼクターを連れたハイパーカブトがパーフェクトゼクターを備えて決戦に赴く。
そして、スコルピオワームを相手に少し躊躇した上で張本虫から背中を押されてこれを討つことになる。
因みに。
ハイパーゼクターには天道総司に渡すために外付けで持たせたパーフェクトゼクター以外に、ノーマルモード時の角が変形して成立するもう一本のパーフェクトゼクターを装備させている。
言わば、うちのハイパーゼクターはハイパーゼクター二つとパーフェクトゼクター一本が合体した複合兵装なのである。
優れた兵器は一品物である必要がない為だ。
言うまでもない事だが、俺の作った兵器であるハイパーゼクターに血や涙は無い。
ワームの集結が完了した時点で一切の躊躇無くマキシマムハイパーサイクロンをローリングバスターキャノン撃ちしてくれる。
無用な感情に振り回されず、赤い靴システムよりも柔軟に殺虫をこなすすごい奴だよ。
有情コマンダーは感情が有効に働く時の為に、情の厚い人間に持たせるためのブースターに過ぎない。
なんならハイパーチェンジはハイパーゼクター内蔵装甲をカブトに譲渡して軽装甲になった分を機動力で補うためのものでしかない。
変形時に手足が伸びるという事は通常形態で戦う時に手足を伸ばすこともできる訳だし、リーチの問題ですらないのだ。
そんな無慈悲殺虫マシンを投入して、それでも万事解決とは行かない。
何しろこのあとも普通にワームが現れるのだ。
一時的に絶滅危惧種にまで追い詰める事が出来る、というだけの話でしかない。
だが、ワームの自我を掻き消すほどの強大な自我と、上澄みの成虫ワームの統率力を併せ持ったワーム、これらが合わさって生まれる誘引能力は現時点では再現性がそれ程無い。
絶滅タイムへの大きな一歩として大切に利用させて貰う。
その上で、俺に何が出来るか。
視線を上げる。
海岸線に近付くサナギ達。
その未成熟なタキオン粒子制御臓器を念動力で擽り手慰みに破裂させていく。
遠くにはクロックダウンされたカッシスワームが空間に貼り付けにされている。
どこまでも広がる冬の太平洋。
ずぶ濡れの男がそこから上がってきた。
「やあ」
声をかける。
相手は訝しげな表情。
顔を顰めながら人間への擬態を解き、それは銀のサソリに似た姿に変じた。
スコルピオワーム、しかし、その本性は直ぐに隠される。
本能的なものだ。
スコルピオワーム側には一度撃退された記憶があるのだろう。
勝ち目が薄い時にこの種族は相手の同種に化けて命乞いをする。
本能的なものだ。
「お前は……」
無論、命乞いをする、というのは比喩表現だ。
ワームの姿のままであるよりは、相手の同族の姿の方が殺されにくい為、反射的に一度擬態をおこなってしまう、というのが正確なところか。
まぁ、時間稼ぎの域を出ない。
その時間稼ぎの間に各々のワームが何を思うかはまた個体差が出てくるのだろうけれども。
ワームの生態は兎も角メンタル面の研究は興味をひかれなかったのでデータが少ない。
「わかっていたのか」
「無論だ。君の結末は、神代美香を、そして神代剣を殺した時点で決まっていた」
眼の前の個体と神代剣を明確に分ける発言に、擬態神代剣の表情が歪んだ。
悔しさ?苦しみ?躊躇い?或いは決意か。
そのどれもが入り混じった顔で、擬態神代剣はサソードヤイバーを構えた。
「俺は……まだ、死ねない」
まだ神代剣人格の支配率が高い。
変にワーム側の支配率が高いと自爆特攻仕掛けかねないからな。
それを理解してか、或いは自己認識がまだ神代剣寄りだからこそなのか、ライダーとして抵抗しようとしている。
砂浜を突き破り現れたサソードゼクターを制するように手のひらを翳す。
サソードゼクターはサソードヤイバーに飛びつくこと無く擬態神代剣の足元に伏している。
「そうだ。君はまだ死なない。
「な、に」
少しだけ助言を授ける。
擬態神代剣への気休めと、スコルピオワームへの追い打ちに。
―――――――――――――――――――
工場地帯にワーム集結。
首魁は擬態神代剣、スコルピオワーム。
関東一円から集まっているのかと見紛う程、雲霞の如くワームが犇めき合っている。
当然、それだけの数のワームが集まっている以上、その道程を多くの市民に目撃されている。
だが、不思議と集結地点であるこの工場地帯以外で混乱は起きていなかった。
一心不乱に一点に向けて移動を続けるワーム達は、積極的に人間を襲っていた訳でもなく、遭遇戦になる事はそう多く無かった。
無論、本能的に近くの人間に攻撃行動を取ることもあったが……、その多くはサナギだ。
市販の強化装甲服を身に着けた人間であれば十分に撃破できる程度の脅威でしかない。
それは警察が定期的に実施している強化装甲服の運用研修、避難訓練ならぬ、敵対種族を相手にした際の自衛訓練の成果でもあった。
強化装甲服に日頃から馴染みのある市民は既に、異形を見て混乱するよりも早くそれを撃退する動きが身体に染み付きつつある。
サナギに紛れた成体、或いは、殺されそこねたサナギが羽化した成体も、警察を始めとしたクロックアップシステムが搭載された装甲服が配備された組織によって適切に処理されていく。
何しろ事の規模が大きい。
そもそもの話、人間に擬態して人間の群れに潜むからこそ脅威だったワームが擬態を解いて練り歩いているとなれば、通報されない筈もない。
警察に通報されれば横のつながりで他の組織にも通達が行くし、市民に潜む『歩』が猛士に通報したならば、そこから警察にも話が行き、繋がりのある素晴らしき青空の会も動き出す。
ワーム対策組織であるZECTはワームの集結を恐れているし、集結したワームはそれなりに脅威ではある。
しかし、スコルピオワームを中心に、日本中のワームが集結し、集結地点をZECTが包囲し、その外では集まりつつあるワームが緩やかに殲滅されつつある。
ワームにとってこれは決戦ではなく死の行軍だ。
集結したワームがゼクトルーパーに襲い掛かる様を見ながら、パーフェクトゼクターを携えたノーマルモードのハイパーゼクターが、カブトに声を掛けた。
「ソウジ、行かないカブか?」
カブトはこの戦いに消極的だ。
さっさとハイパーカブトに変身してしまえば、雑魚の群れを薙ぎ払い、この騒ぎの首魁の首を取ることは難しくない。
しかし、カブトは工場外縁のサナギを散発的に撃退し続けるのみで、積極的に中心部に向かおうとしていなかった。
それをハイパーゼクターは不思議とは思わない。
人間は感情の生き物である為、人間として振る舞うワームと数ヶ月も付き合いを続けると情が湧いてしまう。
それは誰にとっても酷い勘違いでしかないが、勘違いであると納得して直ぐに切り捨てる事が出来ないのが人間である、という理屈も理解できた。
「チェンジ、ハイパーモード」
「なにっ」
パーフェクトゼクターをカブトに投げ渡したハイパーゼクターが、自主的にハイパーモードを起動する。
全身を覆うヒヒイロノオオガネ増加装甲が剥離し、カブトのボディに纏わりつく。
強制ハイパーカブト化だ。
「キミの勇気がこの胸に、熱く響いてイイ感じ!」
通常の挙動ではない。
ハイパーゼクターが持参した仕様書によれば、ハイパーゼクターはその高いスペックと高度なAI故に安全装置として自力によるハイパーモード化(ハイパーチェンジ)を制限されている。
故にこそ、情のある人間がその起動スイッチである有情コマンダーを持たされる。
生き物の強い情が無ければその性能をフルに発揮できないのだ。
「Bロボの一番星!ハイパーゼクター!」
力強く名乗りを上げたハイパーゼクターが天に手を掲げる。
「
ノーマルモード時の角付兜が変形した武装を、重厚ながらスマートな、手脚も伸長してスタイリッシュな身体で構える。
「有情コマンダーは、情の増幅器。強い情念が……勇気が、この胸に響けば、必ずしも必要ない」
ハイパーゼクターは振り返らず、ゆっくりと工場の中心に、ワームの密集地帯へと歩きながら、言葉を紡ぐ。
「いいかいソウジ。戦ってるみんなも、ここに来たソウジも、ソウジを待ってるヤツも、強い勇気を持っているんだ」
この場の誰もが強い勇気を持っている。
強化服もなくワームに立ち向かうゼクトルーパーやそれを指揮する人達。
ここ以外で戦う人たちであっても、戦う力を与えられたとしても、実際に戦うのは勇気がいる。
そして、この戦いの中心で待つ者も。
「今日、ここで死ぬのはワームだけ、どのワームを誰が殺したなんてのは些細な、意味のない話だ。だからソウジ、君は」
『ハイパークロックアップ』
ハイパーゼクターが気遣わしげな口調で全てを口にするよりも早く、その眼の前のサナギの群に一筋の道ができた。
ハイパークロックアップを起動したハイパーカブトが、パーフェクトゼクターで通り道の敵を一掃したのだ。
だが、開いた道は数秒もせずにサナギで満たされた。
それだけではない、青黒い甲殻をした成虫ワーム、カッシスワームクリペウスまでもが立ち塞がる。
まるで、ハイパーカブト以外を奥には通さないとでも言わんばかり。
それらのワーム全てを無視し、ハイパーゼクターはその奥に向かったハイパーカブトに思いを馳せる。
「どうして人間は、苦しい生き方が好きなのか。不思議な生き物だ」
ビリットスティックを肩に担ぐように構え直す。
赤心少林拳の基礎的な武器術の構え。
黒沼流必殺の間合いである。
「データ以上に面白い、知れば知るほど興味深いな、博士」
独り言ちながらカッシスワームに向けられたゴーグル状のカメラアイは温度のない機械的な視線のみを放つ。
全戦闘システムを解禁された自律式ハイパーゼクター、その本質は慈悲の心を持たぬマシン兵器。
ビリットスティックを一振りする度にワームが切り飛ばされていく。
ハイパーモードの制限時間一杯戦い続け、ノーマルモードになる頃には、ハイパーゼクターの周囲にはサナギ一匹残されておらず、特殊能力らしいものを全て失ったカッシスワームも諸共に切り捨てられ跡形もない。
「せめて痛みを知らず安らかに死ぬカブよ」
カブトに装着した追加装甲分だけ細身になったノーマルモードのまま、ハイパーゼクターは誰に向けるでもなく静かに呟いた。
―――――――――――――――――――
工場の奥で待ち構えるスコルピオワームの前に、ハイパーカブトが姿を見せる。
手にはパーフェクトゼクター。
スコルピオワームはワームとしての本性でも、神代剣の擬態でもない、仮面ライダーサソードマスクドフォーム。
言葉はない。
いや、サソードからはワーム特有の掠れた鳴き声が漏れ出ている。
ワームの姿のままに変身したのだろう。
人間の叡智の結晶たるライダーシステムすら使いこなし、無数のサナギを従える姿はワームの王と言っても過言ではない。
シュルシュルと掠れた鳴き声を放ちながらサソードヤイバーを振るう。
擬態神代剣として変身していた時よりもなお鋭い太刀筋。
ワームの膂力をライダーシステムで増幅しているが故の強さ。
パーフェクトゼクターで受け流した一撃が紙でも引き裂くかの如く気易く周りのサナギすら切り裂いていく。
ハイパーカブトであっても油断できない。
それ程の力がサソードにはあった。
剣の腕は互角。
打ち合うたびにパーフェクトゼクターからは内蔵された各種ゼクターの力が、サソードヤイバーから血の如く迸るナノ粒子構造体ポイズンブラッドが、辺りに破壊を振り撒いていく。
二人の、一人と一匹の戦いに、誰も近付く事すら出来ない。
戦いの余波が取り巻きのサナギ達を半壊させた頃に、拮抗が崩れる。
『キャストオフ』
無言の動作による、サソードのキャストオフ。
マスクドフォームの装甲が重し以外の役割を失ってしまった為だ。
ヒヒイロノオオガネ装甲に全身を守られたハイパーカブトと異なり、通常のヒヒイロカネ装甲のサソードには、互いの剣が打ち合う度に発生する破壊力に耐え切るだけの耐久力が無い。
そして……。
こと優れた戦闘技術を備えたライダー同士の正面からの戦い、更に言うと殺し合いにおいて、クロックアップは行動の選択から除外される。
互いに必殺の間合い、一撃一撃を交わし合う中でクロックアップをするための動作は明確な隙。
致命的な一撃を喰らいながら、瀕死のままにクロックアップをしたところで、それは良くて相打ちにしかなりようが無い。
ZECT製ライダーシステムでの、それも近接戦を専門とするライダー同士での戦いはマスクドフォームで行うのが安定。
ライダーフォームは追い詰められている証と言える。
故に。
キャストオフはそこまで追い詰められる前に発動するのが基本となる。
一撃が必殺となる間合で、唯一キャストオフにより全方位に射出される無数の装甲こそがクロックアップを発動する隙を作る。
装甲が破損し、射出される装甲が与える威力が下がってしまえばその隙を作れるかも怪しい。
壊れたから外す、というものではないのだ。
まして、今サソードの中身は擬態すらしていないスコルピオワーム。
マスクドフォームのままノーモーションでのクロックアップすら可能。
ライダー同士の戦いのセオリーに従う理由も意味もない。
ハイパーカブト、天道総司もその事には気が付いている。
勿論、スコルピオワームも。
武術の達人同士の高度な戦い。
しかし、ハイパーカブトとサソードのこの戦いは非常に儀式めいて意図的に手順が踏まれている。
当然の話だ。
この場に集まったワームは、市井に溢れるワームを殺し得る力の中を越えて集まっている。
死の行軍を乗り越えてきた。
その先に待ち受けるのは何か。
それは死の儀式なのだ。
今更確認するまでもない。
この場に集められたワーム、一体の例外もなく。
マスクドフォームの装甲を失いながら、サソードの剣は益々鋭くハイパーカブトの命を狙う。
だが、既に天秤は傾いている。
サソードライダーフォームの装甲は崩れかけ、崩壊した部位を中心にスコルピオワームの銀色の甲殻を曝け出している。
既にそこにサソードは居ない。
それはサソードの破損したスーツを甲殻にまとわりつかせ、サソードヤイバーを握るだけのスコルピオワーム。
戦いながら工場の外に出る。
一合、二合、剣を振るう度にサソードヤイバーが軋みを上げ、遂にはサソードゼクターがスパークしながら煙を吐き出し、サソードヤイバーから零れ落ちる。
機械的耐久力の限界だ。
ゼクターはネイティブが使用する想定こそあれど、高度な戦闘力を備えたワームが全力使用することまでは想定していない。
「……大義であった」
スコルピオワームが呟く。
ワームの声帯が人間の言葉を発音できない理由など無い。
変幻自在の肉体は、大きく形を変えずとも声を真似る程度は造作もないのだ。
唯一、本物の神代剣と繫がりがなく、擬態の神代剣にのみ従っていた忠臣。
事実はどうあれ、スコルピオワームの中ではそれがサソードゼクターへの評価だった。
或いは、純粋な擬態神代剣のままであれたなら思い浮かびもしなかった発想かもしれない。
サソードヤイバーを握り締め、スコルピオワームの姿もそのままにハイパーカブトに襲い掛かる。
『君は自らを神代剣と思い込み、彼が手に入れる筈の立場、人間関係、その全てを奪った。だが、それこそが神代剣にできたたった一つの復讐だった』
脳裏に浮かぶのは勝つための戦い方ではなく、ひとつの呪い、或いは祝福。
『人として生き、人として絆を育み、人であるという自認を持っているからこそ、君というワームはそれ程の苦しみを得た。ただのワームが人間のふりをしているのであれば、また別の擬態先を探すだけだ』
サソードヤイバーがパーフェクトゼクターの一撃を受けきれず、ひび割れ、あっさりと圧し折れる。
『神代剣という人格、彼だけが唯一、ワームに心の底から思い知らせる事が出来たんだ。自らの存在を奪われ、否定される苦しみを』
へし折れたサソードヤイバーを投げ捨て、殴りかかる。
『君の感じている苦しみはね、神代剣の勝利の証だ。意図したものでこそ無いが、彼は全ての人類で唯一、存在を奪うワームの生態に打ち勝ったんだ。誇っていい。君が、まだ自らを神代剣だというのであれば、笑おうじゃないか』
『そして』
『君がワームであるというのなら、やはり笑うべきだ。君が感じているその苦しみは、全て君が擬態した人格が感じているものに過ぎないんだから、君は自分を取り戻せる』
殴り付けた拳がひしゃげる。
スコルピオワームの甲殻は硬いがヒヒイロノオオガネ装甲に勝るものではない。
まして、人の手指に近い関節構造を持った手で殴り付けたところで。
意味のない、攻撃と言えるかも怪しい、しかし、鬼気迫る拳。
『君が神代剣なら君は仇のワームに打ち勝っている。君がワームならその痛みも苦しみも幻だ』
ワームにも痛覚がある。
肉体が傷付けば怯み、それだけで動けなくなる事もある。
この痛みは、少なくとも、この痛みはたしかに存在している。
心の痛みはどうか。
本当に痛んでいるのか?
本当なら。
ああ、神代剣がいまこの世に居たのなら。
あの人を、ミサキーヌを、クリスマスデートに誘って。
お茶をして。
遊園地でデートをして、素敵なディナーに、プレゼントを渡して。
『最期の最期は笑ってみな』
その神代剣が、自分であったのなら。
この痛みが本物であれば。
『散り際に微笑まぬものは生まれ変われぬと言うし』
拳を振るう腕が切り落とされた。
パーフェクトゼクターの刃はスコルピオワームの腹部に当てられている。
絶体絶命。
スコルピオワームの歯が剥き出しの口元は、怒りを噛み締める様に歪んでいる。
躊躇うようにパーフェクトゼクターのトリガーを引かないハイパーカブトを余所に、スコルピオワームが前進する。
「俺、は」
硬い甲殻の隙間を、パーフェクトゼクターの刃が押し切り開いていく。
はっ、と、パーフェクトゼクターを引こうとするハイパーカブト。
構わず前に進むスコルピオワームの顔がハイパーカブトの肩に触れる。
「すべての、ワームを」
何が神代剣の勝利だ。
何がワームなら痛くないだ。
俺が苦しんでいるのは俺の気持ちの問題だ。
誰の手柄でもない。
ミサキーヌと仲良くなったのも、デートに誘えたのも、俺だ。
俺なんだ。
俺は、姉さんを殺されて悔しい。
姉さんを殺したのが俺で恐ろしい。
俺を殺したのも俺だ。
俺は死ななければならない。
悔しくて口惜しくて悲しくて虚しくて。
喜ぶ理由なんて一つもない。
笑えることも何も無い。
だから、俺は。
「すべてのワームを、滅ぼす、男」
スコルピオワームの肩から伸びた針の付いた触手がパーフェクトゼクターのグリップに絡みつく。
トリガーに掛かっていたハイパーカブトの指に重なるように巻き付いている。
力はない。
巻き付けられただけの触手は既に脱力していた。
緩やかに、ハイパーカブトの身体にスコルピオワームの体重が伸し掛かる。
ハイパーカブトはスコルピオワームの身体を支えるようにパーフェクトゼクターを掲げ、そして。
―――――――――――――――――――
人間慣れるもので、街中に突如として無数のワームが溢れかえり大規模戦闘が始まっても、街そのものに大きな被害が無ければ既に混乱を引き摺ることすらしない。
さもありなん、ワームは人間に化けるが人間を生きたまま貪り食わないし、マグマの身体で周囲を延焼させたりもしない。
儀式的無差別連続殺人もしなければオカルト的な殺し方もしない。
ワームの脅威は高度な擬態能力とクロックアップ、サナギの段階で一息に殺せる火力が街中に溢れているこの世界では、大量発生しても夏頃の魔化魍くらいの脅威でしかないのだ。
勿論、知り合いが擬態だった事が今回の事で判明した人もいるだろうが。
ワームの話は市井にも都市伝説的に広まりつつあるし、治安維持組織の類には周知されている。
結果として、スコルピオワームによるワーム大集結は、昼前くらいに始まり、日が沈み始めるよりも早く収束した。
ZECTやら警察やらは後始末に追われる事になるが、強化服を自前で持っていて勝手に対処した一般市民の空気は既に弛緩している。
今日はちょっと怪物多かったねー。
でも警察の人たちとかも直ぐに来てくれたし、そんな大事にならなくて良かったー。
◯◯くん怪我して病院だってー。
お見舞いにケーキ持ってくー?
今日の出来事は世間的にはその程度のお話になる。
大山鳴動して虫一匹、というところか。
ワームの総量を一気に減らせたので、実は割と良いイベントだったのだが。
『スコルピオワームの死亡を確認したカブ、映像も添付しておくカブよ』
送られてきた伝書ゼクターの映像記録は、俺が遠くから見守っていたのと同じスコルピオワームくんの死に様を映していた。
良い戦いぶりだったと思うんだけども。
やっぱりワームの顔って表情がわかりにくい。
怒ってるんだか泣いてるんだか。
「コウジー、スポンジ焼けたぞ」
「じゃ、カットしてクリームとイチゴ盛ってくか」
「もるぺこ」
こいつらも少し前までは街に現れたワームを撃退したりしていたのだが、こんなものだ。
何しろほら、今日はクリスマスなので。
荒事は早めに解決しておきたかった。
スコルピオワームくんが人質をとってゼクターを破壊するフリをする、みたいな余分な工程の起こりをカットしたので、話も早く済んだ。
ハイパーゼクターも今は天道邸でクリスマスの準備を手伝っている様だし。
年が明ける前にワーム対策が一区切りできて良かった。
ネイティブ対策もあるが、今日のところはクリスマスを楽しもう。
恒例のクリスマスイベント
まぁまだクリスマスから一月も経ってないから季節ネタでいいかな……
☆作中タイムスケジュールがギチギチなカブトクリスマス回
正確には二話にわかれてるんだけど
擬態神代剣の正体バレ、自覚、入水、ワームの頂点に立つ、無抵抗ガタックゼクター、拉致、プレス機、じいやおやすみ……
ここまでで夕日すら見えてないのと、作中時間がクリスマスと明言されてるので日が沈むのが早いのを考えるとリミットは15時くらいとして
擬態神代剣がデートに遅れる!と言った時点で10時なので、大凡5時間以内の出来事である
そりゃ、スコルピオワームがどんだけワームとして優れていても日本中のワームを集めるのは無理だよ
当日告知で即座に集合は難しいよ
あいつは夢を叶えたんだ(天道総司流の忖度)
☆主人公なりの気遣い
お前が苦しんでるならそれはワームに奪われる側の気持ちを教えて復讐完了できたので神代剣の勝ち、つまりお前が神代剣なら喜べる
お前が神代剣でないならお前のその苦しみは幻覚とか気の迷いだから気にすんな(そしてもしそうならこの場で殺してやる)
(ワームとして振る舞う気配がないので会話続行)本質的にお前が苦しむ理由は無いので、あとは好きにやれ、そしてこれからお前がやるのはお前が好きに選んだ行動なんだから笑ってやれ
私はやむなくこういう事をしてるんだ!みたいな顔をするな、自分の好きに振る舞うなら笑え
ほら、こう考えれば気持ちが楽になるでしょ?
☆うるせー!知らねー!
ファイナルフォームライド
嬉しいわけ無いだろ!
気の所為なわけないだろ!
というわけで神代剣でもスコルピオワームでもいられなかった男は全てのワームを滅ぼす男(暫定)になりましたとさ
めでたしめでたし
ゴア表現って程でもないけど欠損あり世界観なので少なくとも五体満足でじいやのとこでは死ねない
そもそも原作でもゼロ距離マキシマムハイパータイフーン喰らってるんでボディが跡形も残る筈もないのでまぁたぶんじいやが見たのはオバケだったのでは?
この世界?
人質イベント省略のためにガタックと接触できなかったのでミサキーヌのクリスマスプレゼント回収不可で人間性補給できなかったから化けて出るのは難しいんでないかな
スコルピオワームが駄目だったときのサブプランのおかげで本気で日本中のワームが集結してくれたのでミサキーヌもスコルピオワームくんの死に目は見れなかったし
装弾数無限のZECTガンでも切り抜けるのは難しい戦場だったと思われる
リロードの描写無いのに場面によっては延々打ち続けてるの平成の凸凹を体現したような武器だが無理なものは無理だ
☆血も涙もないハイパーゼクター
血も涙もないけど情緒を司る機能はある
表面上人を気遣う事もできる
人目がない時には殺戮マシン
最新のロボタフベースのボディと直近までの赤心寺での組手データを元に作られているので
ハイパーモードが解除されても素手でワームくらいは引き裂く
ただし、ハイパーゼクターとしての基本機能はハイパーモード時にしか使えないので
ノーマルモードの時は全身機械の疲れ知らずのクロックアップまでしか使えない黒沼流の達人程度の戦闘力しかない
ハイパーゼクターの機能はハイパーモードの時にしか使えないので、付属品のビリットスティック(パーフェクトゼクター)の使用は問題ない
まぁノーマルモード時の角飾りが変形したものなので被ったまま使うかハゲ状態で使うかの二択
言うまでもなく見た目はカブタックなんだけど
この令和の時代にカブタックをなんの説明もなく出して読者さんに理解してもらおうなんてのは酷く甘えた考えではないだろうか
少し前までは映像ソフトがVHSくらいだったらしいけど、今は東映特撮ファンクラブで見れる
デフォルメロボからヒーロー体型のロボに変形するガラットの子孫でエグゼイドのご先祖
なお、なぜかごく最近中国のメーカーがノーマルモードのカブタックとクワジーロ、スパイドンとシャークラーのプラモデルを発売した
しかもかなり出来が良く、かわいい
近々コブランダーとガニランも発売する
なんで……?
☆もう慣れた人々
まぁ少し高い電動ノコギリくらいの気安さでネビュラスチームガンのモンキーモデルが手に入る世界になってしまったし、地の底から炎の龍が飛び出す光景も経験した市民たちなので
変身して殴って殺せる程度の相手ならもういちいち騒がないし、戦闘手段のない連中は粛々と避難する
市民が簡易ナイトローグとか簡易G3に変身する世界なのでいい加減異形であるだけで暴力で勝てる時代は終わりつつある
平成ライダー連結世界ということで薄々お察しと思われるが、こんな世界が滅ばずに成長を続けるとどう足搔いても劇場版みたいなトンチキ世界になるしかないのである
ワームは倒すと爆発して跡形も残らないのも悪い
この後は何事もなく例年通りのクリスマスが行われたので、家族や恋人と楽しく過ごしたり明石家サンタにクソみてーなお便りを送りつけたりする
☆そういえばここで語っておきたかった冬アニメとかの話
ニコニコでコメ付きで見てるから二話まで、冬アニメのネタバレ注意
ミスターブレイバーン→実はミスターの部分を否定してる可能性?ミスブレイバーンとまではいかないまでも男性ではない?無性?女性?ジェンダーとか地球上だけでも難しいしな……
あいつらの仲間なのか?違う!→彼らの仲間だったのか?と過去形で聞いたら肯定するか濁すかしたんでないかという不安。世界各地に戦艦が落ちた→落ちる段階ではデスドライヴズ側だったが、仲間を助けようとするイサミの姿に一目惚れしてあの場で裏切った?根拠は各地にオープニングのまだ見ぬ強敵たちやスピルベアが小さな軍団を率いて襲撃していたと考えると、最初にハワイを襲撃した連中にボスロボが居なかったのは本来ブレイバーンが率いていたからとか。怖いことに二話までのブレイバーンの発言にすべて嘘が無かったとしても辻褄が合う。名前を知ってた理由?直前で仲間のおっぱいの人がよんでたからそれを盗み聞きしてたで通る。一目惚れしたイサミと戦って一緒に死にたいだけの元デスドライヴズか死ぬなんてくだらねぇせ推し活だ!スピルベア、お前も推し活するんだよ!死ねぇ!かは知らんけど、でもそんな予想も乗り越えて来るのだと信じてる。そして仲間意識を保ちつつも変に個人に肩入れせずに自分の使命を全うしたZくんは優等生というか言葉遣い変なだけで距離感の保ち方はほんと美味かったんだなおまえ……。それに比べてブレーザー!お前もスカードの仲間だもんげ!裏切りのアーくん(善)ラスボスが神とか概念とか超宇宙存在とかでなくシンプルに強い怪獣なのは一周回ってなんだか新鮮というかシンプルに強すぎる無法か?という点を踏まえて宇宙技術で作られたにしてもアーくん頑丈過ぎる……数があれば星の軌道変える爆弾喰らって原型留めて再起動出来て短時間で修理できて正面からガチンコしたあとも普通に修理できるしおじさんとおつきの人!やはり説得という人類固有の武器は強い、武器も強い、そしてニュージェネの記録で強化されるセブンガー、再放送にちょい新録付け足すだけで満足感あるからあのシリーズ好きなんすよね……というか他作品のデータで強化する前に他の特空機で培った技術をつぎ込むだけで激強になるのでは?D4レイ以外は中身と武装をウルトロイドゼロに差し替えるだけで激エロでしょいやまぁ宇宙セブンガーの時点でエンジンは差し替えてるんだろうけど、差し替えてるよね?流石にペダニウムエンジンの複製には成功してるんだし、この話は前にもしたけど無限にするダンジョン飯?出来が良すぎて逆に語りどころが無い!魔法少女にあこがれて?エロにつられて見てる人も多いだろうけど普通にストーリー面白いから原作も買おうねぐにょりはまんまと原作最新刊まで買いました。悪役サイドのスカウトが有能過ぎるあの主人公見つけてくるのスカウトマンとして強さがすごい
悲報ですが、ネイティブさん、たぶん隠し玉とか無いです
恐らくサブプランとかあるので渋谷の研究成果とか無くても人類ネイティブ化は実行してくるんですが
じゃあ人類に勝てる?
となった時に、ネイティブが謙虚になれれば共存の可能性もあるかもしれません
まぁ人体実験して罪もない人間の子供をネイティブに改造してたとかそもそも普通にネイティブが人類襲って成り代わってる描写があるのでそこのとこ突っ込まれると無害アピール難しいとかあるじゃないですか
警察の上層部がまるまるネイティブの手先で組織的に無能化されてるとかなら勝ち目あると思いますよ
この世界の警察は毎年毎年異なる苦難を乗り越え続けてきたクウガ警察の成れの果てで正義感溢れる歴戦のアギト(直感に優れた超能力者)が無数に配属されてるけど
勝負はやってみなけりゃわかりませんからね
わかりきった決着でも、見てやろう、みたいに思ってくれるのならば、次回も気長にお待ちください