オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
機械の獣、ロードインパルスから静かに射出されたゼクターが日下部ひよりの手首にとまる。
ちくり、と、虫に刺された程度の痛みと共にブレスレットが形成された。
擬態能力を外側から操作して形成された疑似ライダーブレスだ。
『変身』
電子音声と共にひよりの肉体が金属質の装甲に包まれる。
仮面ライダーディアボリカス。
コブゴミムシダマシに似た性質を持ち、戦闘用の武装を一切持たない、ライダーとは名ばかりの防衛専用装備。
だが、その本質は日下部ひより保護用ゼクターというのが正しいだろう。
全身を覆う特殊複合材ヒヒイロオオガネは、ZECTで開発中のヒヒイロオオガネを日下部ひよりの本性、シシーラワームの甲殻と有機的に結合させたものだ。
無論、この装甲材と甲殻の融合は非可逆的なものであり、シシーラワームの甲殻が元通りの形になることは無い。
更に言えば……。
このカブティックゼクターは魔化魍発生メカニズムを解析して作られた半霊的物質で構成されており、一度変身したが最後、資格者と魂魄レベルで融合する。
これは擬態日下部ひよりが生命の危機を感じ、生物的な防衛本能から本性であるシシーラワームの姿に戻らんとした場合に強制起動し変身を強行する。
言わば、ゼクターに似た性能と見た目をしているだけの強制肉体改造キットなのである。
「安泰だ」
安堵の声と共に鎧武者が大太刀の刃を返し、寄ってきたサナギへと峰打ちを叩き込む。
剣術というよりも野球のスイングの如き一撃で甲殻をひしゃげさせながら吹き飛んだサナギが別のサナギと激突し、爆発。
趨勢は決した。
ライダーが二人、標的は人間に擬態した同胞を追い詰め正体を暴く事。
その程度の話だからこそ、平の成虫一匹と自分、そして雑兵のサナギだけでやってきたのだ。
標的はその全身を覆われ、擬態を解いたとしても自覚を促す事も出来ない。
一人ライダーが増えたとて戦って勝てない相手とも思えないが、そもそも何時でも殺せるような相手、ウカワームからすれば、わざわざ拘るような相手でもない。
日を改めて攫えば良い。
サナギ達がガタックにより吹き飛ばされている隙に、ウカワームが踵を返す。
足止めが多少なりとも存在する以上、クロックアップ可能なウカワームがこの場を離れるのは容易く、虫の群体に擬態できる特異体質のフォリアタスワームともなれば言わずもがな。
数と質の双方でワームは対人間で一方的に有利な戦場を選択可能なのだ。
ワームの常識の中では。
その場を離れようとするウカワームの眼の前に忽然と鎧武者が現れ、大太刀を握った拳をウカワームの顔面に振るう。
虚を突かれながら、追撃の大太刀による斬撃を鋏で抑え、エネルギー波で大太刀の刀身を圧し折りにかかる。
ぺき、と、情けない音と共に呆気なく折れ曲がる刀身。
と思えば、鋏の力とは関係無く掴まれた大太刀の刀身が次々と折れ曲がり、逆にウカワームの鋏を外側から拘束してしまった。
既に鎧武者は大太刀から手を離している。
ウカワームの鋏はただのエネルギー波を放つ鈍器にされ、武者は大太刀を失いながらも両手が自由。
同時に、ウカワームの視界の中で、虫の群体に擬態したフォリアタスワームがパタパタと力なく地面に落ちていくのが見えた。
落ちた先で擬態が解け、甲殻に白く霜の立ったフォリアタスワームの姿が顕になる。
鬼幻術または鬼法術と呼ばれる、鬼闘術よりも陰陽術に近い立ち位置にある技法だ。
鬼幻術・
火炎を吹きかける鬼火の対局にある術であり、対象から
小型の魔化魍である夏の魔化魍であってもその動きを鈍らせる程度の威力ではあるのだが……。
フォリアタスワームが運悪く、熱を奪われる面積の大きい形に擬態していた為に全身が凍てついてしまったのだ。
ギシギシと音を立てながら起き上がろうとするフォリアタスワームは、マスクドフォームのガタックから容赦なく砲撃を浴びせられ、爆発すら出来ずに粉砕。
パラパラと降り注ぐ同胞の破片の中で、ウカワームが鎧武者に殴りかかる。
全身に鋭い棘を無数に備えた堅牢な甲殻を身に纏ったウカワームの本領は、配下を率いての策略などではなく、自らの肉体を用いた肉弾戦にある。
ヒヒイロカネ装甲を備えるZECT式ライダーが相手であれば、種族由来の運動能力の差で一方的に追い詰めることが可能。
更にウカワームの鋏から放たれるエネルギー波は性質としてはZECT式ライダーが扱うエネルギー兵器と同種、タキオン粒子を波動に変換して放出するもの。
対ワーム用のアンチユニットとして作られたZECT式ライダーに対し、一対一であれば単純なスペックで確実に有利を取れる上澄み中の上澄みである。
なんとなれば、直近の過去で複数のZECT式ライダーとやり合い、同時に手玉に取った事もある。
ある程度頭の回るワームから見れば、人類が運用する装甲服はZECT式のライダーに限らず面倒な相手だ。
生身の人間のように柔く無く、非力な人間にワームに匹敵する剛力を与え、その構造は複雑で擬態で写し盗る事もできない。
クロックアップができないサナギでは相手にもならない程度の強さはある。
それでもウカワームが上位のワームとして人類相手にクロックアップを使わずとも優位を取れているのは、純粋な肉体強度の差に他ならない。
ウカワームの剛力やエネルギー波を纏う鋏で装甲を貫けずとも、人が纏い動かす以上は関節があり、攻撃を受ければ装甲内部で肉体は疲弊していく。
ZECT式ライダーが戦闘後に目立つ外傷も無く、しかし無限に戦えないのは目に見えないダメージが体内に蓄積されていくからだ。
倍力機構を搭載した装甲服の、いかんともしがたい欠点。
それを纏う人間が脆すぎること。
強い鎧でも補い切れない生き物としてのスペックの差。
生物的強者と弱者の越えられない壁。
その壁を、今初めて、弱者の側から認識する。
ウカワームの放つ拳を、鎧武者がやんわりと掌で受ける。
攻撃を受け止めるというよりは、ベッドの上で恋人の手を握るような優しさすら感じる動き。
力が込められているとは感じられないその掌から、棘に包まれたウカワームの拳が離れない。
ぐ、と、ウカワームを押し倒す様に鎧武者の手が押し込まれる。
互いの重量はそう変わらない。
膂力による押し合いになるか。
そんな予想が浮かぶよりも早く、しかし、嫌に緩慢な動きで、ウカワームの腕が捩じり潰されて行く。
躊躇いなく閉じられた鋏で捩じり潰されつつある腕を叩き切り離し距離を取る。
切り離された腕の断面を見れば、そこにスポンジ状になった甲殻と筋組織が見えるだろう。
擬態だ。
ワームの肉体は己の強度を超えない範囲であれば擬態する事が可能であり、普段は強固な甲殻を纏うウカワームも普段は柔らかな肉体を持つ人間に擬態している。
そして当然、その擬態後の姿で身に纏う衣類も含めて擬態であり、つまり、肉体を布製品レベルにまで柔い形に変化させる事が可能なのがワームの擬態なのである。
理屈の上で言えば、自らの腕をぬいぐるみのような柔らかな素材にすることはワームにとっては難しくない、する理由が無いというだけで。
だが、ウカワームの腕は戦闘行動どころか日常生活に不備が出かねない程の強度に擬態し、その上で制御も半ば失っていた。
肉体の乗っ取り。
擬態能力まで含む肉体操作権の剥奪だ。
なんとなれば、あの瞬間に鎧武者が殺す気であれば、ウカワームの全身は張り詰めた水風船になり、動いた拍子に破裂して絶命していた、なんてことも有り得る。
危険だ。
この場で殺さなければならない。
さもなければ触れる間もなく逃げなければ。
高位のワームとしてのプライド、などというものは、ワームには存在しない。
人間らしく見える振る舞い、情動、そんなものは全て、擬態時に人間の精神から写し取った人格を、ワームの本能的な目的達成のために動かしている、言わば精神のキグルミに過ぎない。
個々が独立した行動を取っているような、或いは指導者的な立場にあるように見えても、それはワームという種族全体の為に動いている。
部品としてサイズが大きいか小さいか程度の差はあれど、どれも歯車の一つなのだ。
間宮麗奈という人間から写し取った擬似的な人格ではない、もっと根本的な位置にあるウカワームとしての無機質な意識が動く。
逃走は不可能だろう。
当然クロックアップは可能だがそれは敵も同じこと。
飛行能力などがあるわけでもなく、雑兵は全滅し、敵は三体。
機動力の無い自分がこの場から逃れる術はない。
戦い、殺す。
これが最善だが、当然ながら難しい。
何故目の前の鎧武者を殺さなければならないのかと言えば、鎧武者の見せた能力がワームという種族の天敵となり得るものだから。
当然ながら、それはウカワームとて例外ではない。
一定時間触れられると擬態能力を乗っ取られ、なおかつ相手は純粋なフィジカルでウカワームを上回っている。
次に触れられたなら命の保証はない。
眼の前に居るのは。
ワームへの絶対的な殺害権と、ワームを越える肉体能力を持つ。
越えようもない壁。
鎧武者から距離を取ったウカワームの選択は迅速だった。
閉じられた鋏から、いや、ウカワームの全身から光が迸る。
本来鋏から照射する攻撃的エネルギー波。
それはZECT製ライダーの扱うタキオン粒子とイオン光弾の関係に近い。
限界を超えて酷使されたタキオン粒子制御臓器が臨界を迎え、ウカワームの体内で爆発的に発生した破壊的エネルギーが、光よりも速くウカワームの肉体を粉々に四散させる。
成虫の中でも突出して頑強な甲殻を持つウカワームは、その身を爆弾として炸裂させつつある。
時間の流れを異ならせるクロックアップとは異なり、実速度として光に迫る勢いでその肉体が爆ぜるとすれば、周辺被害は並大抵のものではない。
少なくとも至近にいる鎧武者やライダー二人、標的にしていた同胞は道連れにできる。
そんな具体的な思考がウカワームにあったかはわからない。
殺さねばならぬ、しかし殺せぬ相手を目の前にした咄嗟のリアクションだったか。
間違いのない決死の一撃。
ウカワームの思考よりも速く撒き散らされる甲殻の破片弾。
だが……。
ウカワームの肉体は、全身に走った亀裂から光を放ったまま、動かない。
ウカワームだけではない。
ライダー二人、装甲を纏った日下部ひより、辺りの木々、空の雲、川の流れ。
風すら、その動きを止めた。
クロックアップによる相対的な停滞ではない。
完全な時の流れの停止。
時間の流れの中の一瞬が切り取られているかのような光景。
「迷惑な奴だ」
その停止した世界の中、鎧武者だけが動いていた。
爆発寸前のウカワームを巻物の中に、巻物の中の鏡の中に押し込める。
鏡の中に、ミラーワールドに閉じ込められたウカワームは、炸裂しながらも鏡面世界に溶解する事でその威力を半減する事だろう。
「だが、参考になった。いざという時、高位のワームはこういう手が使えるのか」
養殖だと出ない発想だったな。
そんなことを呟きながら、鎧武者が懐から1枚のディスクを投げる。
投げたディスクはムクムクと大きくなり、一体のサナギ体ワームの姿を取った。
鎧武者が手を触れると、そのサナギは羽化の工程を無視し、炸裂寸前に見えるウカワームの姿に変わる。
ワームによるワームへの擬態。
無論それは姿だけのものだが……。
時が動き出し、偽ウカワームに駆け寄り攻撃を加えようとするライダーの眼の前で、鎧武者が振り降ろした太刀が、偽ウカワームの脳天から地面までを切り裂く。
なんの工夫も無い、ただ単純にワームの命を奪うだけの一撃は、呆気なく偽ウカワームを爆発させた。
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抹殺完了。
こいつはとにかくしつこく日下部ひよりの正体バレと謎の勧誘をやろうとしてくるので、先に殺しておく方が良い。
あと、自己認識がワーム側の癖に擬態先の名前を度々押し出してくるのが図々しいし生前のオリジナルへの風評被害が強いので、故人の名誉の為にも始末しておく。
特異な能力もなく実験サンプルとしての価値もないしな。
こいつよりも深海探査に使えそうな圧力耐性の強い配下の方が研究資源的な価値は高い。
『にゃ』
通信で、日下部ひよりから奪取した隕石の欠片、その抹消が完了したとの報告が入る。
実行犯ではない。
ニーくんは俺が携行する時間が長く、親の形見を持っていった猫の飼い主だとでも思われたらいらぬ因縁をつけられかねない。
ニーくんは指揮役、実行犯は別猫に変装させた他のニャンニャンアーミー、関係が疑われる事はない。
ネイティブとの関係を示唆するオブジェクトなど残しておいても損するばかりなので、これは善行と考えて良い。
ミラーワールド側に居るヘキサギアの視界を写したワイプが視界の端にある。
本物ウカワームは少し抵抗したが無事にミラーワールドの大気に溶けて消えたのを確認できた。
クロックアップシステムを搭載したバルクアームで取り囲んでミラーワールドからの脱出方法を思い付かれないように消滅まで延々高圧電流刺股で引っ叩かせていたのも功を奏した。
ちょっと消滅に抵抗してみせた上、クロックアップで其の場から逃げようともしてたからな、ワンチャン逃亡もありえたかもしれない。
死んでくれて良かった。
ロードインパルスの上では日下部ひよりがライダーへの変身を解除し、ちゃんと人間への擬態を完了している。
魂魄融合型の半魔化魍式ゼクターによる変身は、無自覚型の擬態解除に合わせて変身をオートで行う。
それが解除されたということは、シシーラワームとしての本能がこの場を安全と判断したのだろう。
そして見たところ、変身時の装甲展開速度はまずまず、うっかりネイティブとしてのボディが露出することもあるまい。
協力的な人格を写した式神ワームで繰り返し実験を重ねた甲斐があるというものだ。
ひとまず、この場でやるべきことは一通り終えた。
このまま飛んで帰っても良い。
戦闘による破壊痕に関しても俺がやったのは偽ウカワームの自爆によるものだけだし、そこらの木が吹き飛んでるのがガタックによるものなのは、ムラマサとロードインパルスのバトルレコーダーに記録されている。
あとはこのレコーダーを提携している警察の部署に渡せば公的な仕事はおしまい。
ロードインパルスも日下部ひよりを地面に降ろしている。
ライダー二人にとっても日下部ひよりを狙う相手が死んで万々歳といったところ。
の、筈なのだが。
カブトとガタックが変身を解かない。
武器まで手にしたままだ。
ガタックのカリバーはともかく、クナイガンは成虫の撃破率すらそんなでもないのに。
警戒、というより、困惑だろうか。
そりゃ、裏の世界の秘密組織のエージェントと宇宙生物の戦いをしてたら、表の公権力に近い立場の人間が出てきたら困惑する。
道場を壊しながら元維新志士と元新選組がバトってたら内務卿の大久保が参戦してきたようなものだ。
ウカワームが殺されたのも、大久保必殺の
当時のジャンプ読者も驚いたアレである。
敵と認識されているのなら、ガタックもカブトも飛び道具があるのだから牽制代わりに撃ってくる。
これは、電話が終わったけど、どちらが先に切るか空気読みをしているようなものなのだ。
とはいえ、仮に帰る俺の背中に向けて撃ってきたとしても、あの二体の火力はバリアを破れず俺の
そもそも、ZECT製ライダーは対ワーム、対クロックアップを意識しすぎてというより、人間の反乱を警戒してか全体的に基本性能がイマイチなんだよな……。
「さっき、そこの女の子にくっついたものは、ZECTとかいう怪しい組織の変身システムを参考に作った護身具だ。追加のアタッチメントが欲しければ会社に来てくれ。試供品なら提供できる」
「ほう、太っ腹だな。何が目的だ」
探りを入れるようなカブトの発言。
「さっき言った通り、害虫駆除は警察から業務委託を請けている。人命救助はそのついで」
「公明正大、という訳か」
「今やブレインスクラッチは難波製作所と並ぶ大企業だ。人命を軽視するような真似をして社会的な信用を損ないたくもない」
今の言葉が建前に過ぎない、という程度の事は理解できている筈だ、天道総司なら。
いやまぁ、仮にあの場にいるのが日下部ひよりでなくても似たような保護が可能ではあるから完全に建前という訳でもない。
今回は保護にかこつけてシシーラワームとしての姿を隠す形の改造をさせてもらったが、一般人を保護するならブレス自己生成型の資格者制度をオミットしたザビーゼクターでもつけさせてやればいいだけの話だし。
「では、ここらの害虫駆除は終わったので俺は帰る。ではな」
ここで、物語上の登場人物だと、去り際にカブトの耳元で日下部ひよりの正体を仄めかす言葉を吐いたりするのだろうが……。
日下部ひよりの秘密を知るもの、疑いを持つものはこれから天道総司を除いて全員死ぬので、最早その正体にはなんの意味もないのだ。
「あ、ああ、助かった、ありがとうな……えっ?!」
穏便に話が済んだので、日下部ひよりを降ろしたロードインパルスに跨り帰ろうとしたところで、ガタックが何か大声を上げた。
後ろ暗いところのある組織の下部構成員は大変だなサム……と思っていると、徐ろにガタックがこちらに声を掛けてきた。
「なぁ、あんた、俺の上司があんたと話がしたいって言ってるんだけど」
「反社と話す口は持ち合わせてないけど……通信が繋がってるなら質問の一つくらいは許すよ。言ってみな」
「反社って」
「まぁ、揃って銃刀法違反ではあるか。殺人教唆もか?」
「誘拐未遂もだ。あんたも気を付けろよ。こいつら一般人に平気で兵隊差し向けてくる」
「なるほど……それくらいはしてくるだろうな」
「うぐっ……」
カブトクナイガン使ってる天道総司はどうなんだ、と思われるかもしれないが、あれは所持してるしてないの基準が微妙なので高みの見物を気取っているのだろうが、危険物所持に対する警察の対応は現場の判断次第な部分があるからアウトかセーフかは微妙だったりする。
携行可能な変身アイテムが普及したこの現代なら普通にアウトだろうけどな。
だが、そこのところの法的な判断がわからないのか、ガタック、加賀美新は口を噤んだ。
法にそんなに詳しくないタイプだとしても、ZECTが法的に見てかなり怪しい、というか、正面から警察に叩かれたらホコリしか出て来ない組織である、という自覚はあるらしい。
「なんで、ワームの事を触れ回ってるのか、クロックアップ技術を何処で手に入れたのか、って」
ナチュラルに二つ聞いてきたな、質問内容も含めて、ZECT隊員の首の上に乗っかってるのは面の皮の塊か?
「侵略的外来種の情報は迅速な駆除のためにも周知するのが当たり前だし、そのために効率よく駆除できる道具は必要だ。研究して開発した以外にある? 逆に、どんな後ろめたいところがあれば敵性種族の情報や対抗手段を隠蔽したくなるんだ、悪の秘密結社か?」
「ZECTはそんな組織じゃない!」
ガタックが声を荒げる。
「本当に信じてるなら、怒る必要ある? 何か考えが有ってのことだ、とか、混乱を避けるためだ、とか、考えの浅い者にはわかるまいとか、幾らでも言い訳できるだろうに」
タイミング的に、この時期のガタックは……というか
、割と早い段階で加賀美新はZECTという組織に対して一定の疑いを持って所属していた筈だ。
なんやかんやと絆されてなぁなぁのままZECTに所属したまま最後まで話は進むわけだが。
しかし、それはZECTに居ることが諸々の疑問を解決する糸口になるとか、その世界の他組織が頼りにならないからこそ、無くはない選択なわけで。
「……何が言いたいんだよ」
「信用できない組織の末端でうろちょろしてるくらいなら、ゼクターとベルトを手土産に警察にでも駆け込んでしまえば良いんでは? 少なくとも警察にはワームとか近縁種は入り込めてない」
「なるほどな、アギト部隊か」
得心するカブト。
ワームしか敵が居ない世界なら警察とか舐め腐ってそうな気もするが、この世界の警察は対異形相手に長年目に見える実績を積み重ねてきているから、俺様系男子からの信頼も厚い。
特に警察擁するアギト部隊は国内のアギトの中で最もメディアへの露出が多く知名度も高い。
対テオス事変当時からの古株以外にも新人警察官アギトは微増を続けており、各々の覚醒タイミングはともかく、切っ掛けになる敵性種族との因縁も多岐にわたり、まともな世界ならイタズラで片付けられる様な怪事件にも即応してくれる為に市民からの好感度も高い。
超越感覚の赤などが基本フォームになっているアギトなど、鑑識の人達にくっついて優秀な補助役として活躍する場面が良く目撃される。
先日のオロチ現象の初めの頃にあちこちを鑑識と共に走り回っていたのは記憶に新しいだろう。
まぁ、結局すぐ現場検証なんてまともにやれなくなるレベルで忙しくなって単騎で魔化魍を相手に連戦し続ける分かり易い暴力の仕事人になってしまったのだが……。
逆にわかりやすく市民の生活を守る姿を見せていた為に、例年に比べて子供のなりたい職業に警察官が多く挙げられるなどの影響を残したほどだ。
「そ。なんならさ、その命令を送って来てる上司とも連れ立って警察に行ってみれば良い。そうすればほら、万一あんたの上司がワームに成り代わられてても見破って貰えるから、やって損はないんでないかな」
人間なら助けてもらえるよ、人間ならな!
実際、擬態したワームが警察にしょっ引かれそうになり、擬態を解いてそのまま撃破される、という場面は多く見られるようになった。
警察へのワーム知識を徹底したおかげでもあると思うので俺も嬉しい。
無論、貴重なサンプルである素性の割れてるネイティブの皆さんはこちらで保護させて貰っている。
妊婦への擬態からの出産はメスネイティブだけの特権ではない、ということだ。
これは日下部ひより型ネイティブ亜種の研究に漬物石くらい大きな一石を投じることとなったのだが、今は関係のない話か。
「それと」
わかりやすく身体と顔の向きでガタックからカブトに向き直ってみせる。
「さっきの女の子にあげたゼクター、本人が命の危機を感じたら、勝手に変身する様に設定してあるから、そこは色々フォローしてあげるように。変身できる事は、戦えるという事にはならないから」
カブトの視線が向く。
こちらを品定めするような、考え込むような、たっぷり数秒の無言を置いて、息を漏らすように笑って見せた。
「言われるまでもない」
天道総司流の強がりである。
こやつ、敵に回すとクソほど面倒くさいし、努力タイプの天才肌なので基礎が疎かになっていない良い戦士ではあるのだが、想定外の、つまり備えていない未知の脅威やアクシデントにはあっさり倒れてしまったりする。
なんならワームとの乱戦の中で影山ザビーに重めの一撃を食らってしまう(ワームとの乱戦中に仮にも人類側のライダーを狙うのは合理では予想できないので避けきれないものと思われる)とか、真実を突き止めようと捜査を繰り返す中で想定外の答えが出るとフリーズしたり(知らない警視総監が両親の事を知っていた)とか。
水面下でめっちゃ足を動かす白鳥タイプというか、スペックの高い詐欺師というか……。
高いスペックとふてぶてしい態度で場の空気を支配してハッタリかまして乗り切る、劇場型探偵みたいなスキル構成をしている。
そんな男が、日下部ひよりの正体を知っている風で、その正体を隠すために色々と便利な道具を押し付けてきて、その上でいやぁ自分は企業イメージの為に一般市民を助けただけですよ、みたいな事を言い出す人間を目の前にした時、どんな内心だと思うだろう。
怒らない、問い詰められない。
何しろ、一応話の筋は通ってしまっているのだ。
そんな何の得にもならないような人助けをする人間が、実は日本のあちこちに居ることを、彼は知ってしまっている。
そう、猛士や素晴らしき青空の会の事を知ってしまっているばっかりに、善意で命を懸けたり貴重品を渡してきたりする人間の実在を知っているばかりに。
否定しきれない……!純粋な厚意を……!こんな怪しい鎧姿の男に対して……!
いやまぁ、そこまで混乱しているとも思えないが。
俺が日下部ひよりと同じく角の生えたワームの亜種であり、この行為は同族を守るためのものではないか、という想像もできない事はない。
だが、そうなると天道総司は嫌でもこちらも警戒対象にしなければならない訳だ。
未知の警備システムに守られた難攻不落のブレインスクラッチ、そこらのレンタカー屋くらいの警備システムしかないRRKK。
無駄な事に時間を取られ、その中で日下部ひよりを守らねばならず、影も形もないハイパーゼクターに関わる時間は取れるかな?
「何かあればブレインスクラッチに問い合わせるように」
「ああ、そのうちクレームの一つも入れに行ってやろう」
「相手になりますよ」
受付のメガミデバイスの誰かが。
天道総司よ、貴様は今後、歴史改変が必要な悲劇や世界の壁を飛び越える場面に出くわす事も無く、ハイパーゼクターなど求める必要も無いまま、ワームやネイティブとの戦いを終え……。
日下部ひよりの秘密を独り護り、その幸せの助けとなるような人生を送ることになるのだ……!
ひとしきりワームとかネイティブが滅んだあと、加賀美新とか日下部ひよりと共に劇場版エンディングの如く浜辺で馬鹿みたいに無邪気にはしゃぎ回ったりするがいい……!
☆特定キャラを削除すると途中シナリオがまるっと省略される仕様
葦原さんが健康でフラフラしないとアギトのシナリオが半分くらいに短縮されるのと同じ効能を持つ
ウカワームをここで殺してシシーラワームのバレを防ぐ事で本筋に関係ない寄り道シナリオを全てカットできるしそれはハイパーゼクターの完成に関わり無いし渋谷が封鎖されてないのでシシーラワームが行方不明になると本格的に発見不可能になる危険性もあるので豪運の持ち主以外はウカワームは早急に殺さないといけません
というかライダーに限らず重要イベントの発生がほぼ運で決まるシナリオは積極的にイベントの発生フラグを叩き潰さないといけない
ただ、ハイパーゼクターを欲して動くワーム側の高級幹部と考えると、ワームは何がしたかったのか、その一端を垣間見ることができるかもしれないので後々掘るかも
☆俺様系天才キャラになった努力型人情家
執筆のために本編を見返すと印象ががらりと変わる
カブトのスペックは低いが天才型の天道総司がそれを補っている、という言説が目立つが
7年の努力積立に始まり、普通やらんだろ、という道理から外れた挙動に弱かったり、家族大事ながら家族が狙われてるかも、という場面で特に対策が無かったり
ある程度の才能がある中でそれを十二分に活かすために天才風俺様キャラを演じている、という印象
料理対決とかもそうなんだけど、劣勢からの逆転劇のトリックがひらめきとかでなく反復した努力や学んだ知識からくるものがメインで、本人のビジュと言動からは掛け離れて地味
威圧、言いくるめ、魅惑に高く振ってる
でも変な場面で普通に外したりする
目星がいらない範囲でわかることはあるか?とかこまめに聞いてくタイプじゃないかね
技能値は一部高く振ってリアル言いくるめで補正を得ようとしてくるのが見えてる
料理で動物の解体ができるから生き物の構造を把握している、応急処置に補正が入るはずだ、みたいな
劇場版ラストの浜辺では年相応な無邪気なはしゃぎを見せていたので平和な世界での素の性格は普通のあんちゃんなのかもしれない
まぁ子の世界は平和ではないので天道総司は天の道を行くのだが
投稿間隔が色々あって空いていたけど、ここからカブト編は巻いていくことになると思います
なにせひよりが行方不明にならずウカワームが絡んでこないので
なんなら既に擬態神代剣の生贄フラグは立っているのでかなり早く済む
この年は小粒な敵でしたからね
というか劇中のワームの擬態性能的にどう頑張っても擬態でアギト、擬態で装甲服コピー、みたいな真似もできないし、小粒にするしかない
そういうわけで今度の今度こそ大した波乱もなく終わるエピソードになる筈です
そんな人気ライダーの話を尻すぼみな結末にしてしまうようなお話でも良ければ、次回も気長にお待ち下さい