オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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181 消えた歴史、決死の歴史改変

タイムパラドクス、そして歴史改変を取り扱った作品で一番有名な作品は何だろうか。

世界規模で言えばバック・トゥ・ザ・フューチャー、日本に限ればドラえもんが該当するか。

 

バック・トゥ・ザ・フューチャーに比べて、ドラえもんは知名度こそあれ、歴史改変物である、という認識を持たないものも多いだろう。

延々と続くドラえもんのアニメ放送の中で、基本的に歴史改変は悪事として捉えられている。

その為、という訳ではないが、ドラえもんが歴史改変者であり、未来を変えようとしている、という話はそう頻繁に出てくるわけでもない。

改変者であるドラえもんは積極的に静香とのび太をくっつけるために暗躍する事はなく、のび太の成長を促す事で未来が変わるように消極的にのび太に協力する姿勢を取っている。

これは、時間遡行者が過去を書き換えようとしているのではなく、未来人を見た現在の人間が自分を改めることでより良き未来を選び取ろうとしているんですよ、という、タイムパトロールに対する目配せではないか、とはよく言われる説ではあるが……。

 

そう、ドラえもんという作品にはタブーが存在する。

それは言わずもがな、セワシを主犯とし、実行犯、或いはセワシの運用する道具としてのドラえもんによる歴史改変にある。

如何にタイムパトロールに対する目配せを行い、のび太とドラえもんのお陰で防がれる世界崩壊シナリオが無数に存在していたとしても。

彼らが世界を書き換えた、という事実は覆りようがない。

彼等の明るい未来のために消滅した人間が確実に存在するのだ。

 

遡ることてんとうむしコミックス版ドラえもん第一巻第一話(実際の連載順か、という話はひとまず置いておく)において、セワシは一つのアルバムを提示する。

ジャイ子と結婚した未来ののび太の生活記録だ。

 

新幹線理論、と呼ばれる、後々に至るまで議論が続けられる理屈がある。

経由する道が違っても、最終的に到着する事に変わりはない為、どんな乗り物を使っても問題ない、という話だ。

わかるようなわからないような話として語り継がれてきた理論だが、数多くのタイムリープもの、多くの人の議論などが積み重なった結果、将来的にはそれなりに理解が広まる事になる。

 

後の世で発売される、シュタインズ・ゲートなどをプレイすれば話は早い。

諸々全ての問題は、セワシがリーディングシュタイナーである、の一文だけで大体説明が付いてしまうのだ。

セワシが改変された未来から変わらず介入してこれるのも、歴史改変による記憶の書き換えが行われない為だ。

ドラミちゃんもまた過去改変について認識しているのは、未来において歴史改変を認識する為の能力がある程度解析されており、機械にも応用されているためだろう。

或いはタイムパトロールなどはこれを標準装備としていなければ時間犯罪者を取り締まることはできないはずだ。

或いは選抜の段階で強めのリーディングシュタイナーだけが選ばれるのか……。

改変後の歴史における自分の記憶程度なら未来の技術で手に入れることは容易なはずだ。

 

タイムパラドクスに関しては一例として破壊魔定光でも読んでほしい。

メカが格好良くクリーチャーデザインが秀逸でヒロインが可愛い、というのは置いておいて。

 

宇宙は自らを破綻させないために辻褄合わせを行う、という理屈がこの作品には登場する(別段珍しい理屈ではないらしい)。

未来で作られた薬を過去に送る事で、過去に死ぬかもしれなかった人が未来まで生き抜いたとする。

その薬を入れた瓶がタイムマシンで過去に送られる寸前に、死ぬかもしれなかった人の前で破壊されてしまった。

するとどうなるか。

過去に送られた薬は瓶になど入れられていなかった、プラ製の容器だったが?というふうに世界は惚けて、過去に送られた薬瓶はプラ容器に変化してしまうのだ。

タイムマシンの中には、誰が入れたともわからぬ薬の入ったプラ容器。

無事に薬は過去に送られる、という訳だ。

ガラス瓶であった、という記憶が保持されていてもそれほど問題ではない。

記憶違いだった事になってもいいし、時間遡行の影響で一時的に材質が変化してしまった事になっても良い。

宇宙全体が時間的秩序を失い破綻、崩壊することに比べれば些細な変化だ。

 

破綻しない、という事が重要なのだ。

セワシの歴史改変において、介入元セワシ、介入先のび太、この二点が重要となる。

介入の結果として、セワシとのび太の行動の因果は輪を描く様にして繋がる。

時間の流れは硬い一本の棒ではなく、この二点の間を結ぶ紐の様なもの。

多少伸び縮みしようが曲がろうが、始点と終点が定まっていればこの二点においては問題にはならない。

 

無論、そもそもの話としてセワシが嘘をついており、ジャイ子と結婚する歴史など存在しない、という可能性もあるが、そうなると何故セワシはのび太にドラえもんを送りつけたのか、という話でループしてしまう。

逆に、セワシは元からのび太が静香と結婚した未来に居たと考えると、その過去には思春期をドラえもんと共に成長し、ジャイアンやスネ夫、出木杉とも大人になるまで良い付き合いが出来たのび太が存在する事になる。

素ののび太が何の下駄も履かずに静香と結婚するというのは無理筋だろう。

 

何故か未来から、日付で言えば少し先の自分がこの時代にドラえもんを送り込んでいる!

タイムテレビで見たところ、こんな事を自分は言っている!

なにそれ知らん怖……という、リーディングシュタイナーを持たない場合のセワシは思いつつ、歴史の流れを乱さないために行動に移したのだ。

そしてこの場合でも、少なくとも、何処かの改変前の未来には過去改変を目論んだセワシが存在するのだ。

これは作中でもオシシ仮面の回で密かに仄めかされている。

あれは、直接的な経緯がどうあれ、どこかのタイミングで非情な決断を下したセワシが少なくとも存在するという隠喩なのである。

 

セワシの理論はそう間違ってはいない。

因果がセワシとのび太でループする形で繋がっている関係上、余程の大事故が無ければセワシの誕生は保証される。

遺伝子の問題は玄孫のセワシの代までにジャイ子の一族と合流すれば良いし、歴史改変後も改変前の記憶が引き継がれるのなら最悪遺伝子的に同一である必要すらない。

 

そう、セワシの理論は正しい。

どんな道筋を辿るのだとしても、歴史改変の起点がセワシである以上、セワシの安全は保証される。

だが、セワシは邪悪だ。

のび太と静香が結婚した時点で、第一話で見せたアルバムに写るのび太とジャイ子の子供は一人残らず歴史の上から消滅した。

いや、それどころか、ジャイ子遺伝子取り込みのタイミングによっては、セワシは元の両親すら歴史から消滅させているのだ。

ドラえもんという作品内で、ジャイ子との間に産まれた子供も、その子孫も、情報は驚くほど少ない。

それを知るものは既にセワシだけ、或いは、セワシは積極的に忘れようとすらしているのかもしれない。

 

先の理屈で言えばセワシは瓶の中の薬であり、それ以外の家系の連中全員が割れた瓶に相当する。

歴史改変が成った瞬間、セワシがリーディングシュタイナー持ちであったなら、見覚えのない親類、見覚えのない両親と共にこれから生きていく事になる。

そもそも家庭環境経済状況が改善されている以上セワシの生い立ちから交友関係までまるきり変わってくるだろう。

異世界に一人紛れ込んだようなものだ。

 

これが子供故の浅慮からくる行動なのか、玄孫の代まで残る借金という呪いなのか。

相続放棄とかなさらなかったのだろうか。

相続放棄しても玄孫の代まで粘着するようなゲキヤバ暗黒メガコーポから借金でもしてしまったか。

少なくとも、未来世界でセワシが見せる表情に、見知らぬ両親の元で生きる苦悩のようなものは見えない。

改変前の家庭環境は余程のものだったのかもしれない。

推定で、ダークギャザリングの悪霊が見せるエグい過去が代々存在したレベルでも驚くことはできない。

 

しかしそもそもの話として、ジャイ子と結婚してしまった、という話は悲観的に語られるが、少なくともアルバムの中の大人のび太はどれも笑顔で写っている。

そりゃ記念写真に不幸顔で写るなんてことをわざわざすることは無いと思うが……。

子供が居るのだ。

当然のび太とジャイ子はセックスをしている。

確認できるだけで六人の子供が居るので、のび太が持ち前の射撃の腕前と同じく夜の射撃も百発百中だったとしても最低六回はセックスをしているのだ。

しかも作中アルバムからの推測になるが、二人目以降は借金塗れになった後に拵えている。

 

まぁ……金がないからセックスしか娯楽がない、ゴムを買う金も無い、避妊するような計画性もない、ので、子供がぽんぽこ産まれて更に家計が火の車、なんて事は珍しい話でもない。

この時代では狂ったようにテレビで流されてる大人気感動ポルノである大家族スペシャルなんてのは大体そんな背景がある。

所謂河嶋文具家庭環境というものだ。

必ずしも愛情があってのもの、とは言い切れないかも知れないが……。

 

我々は、のび太とジャイ子が如何なる経緯で結婚したかを知らない。

なんなら、改変前の貴重な描写として経緯不明ながら逃げるのび太に馬乗りになり「正ぎはいつもかつ、ガハハ!」なんて言うジャイ子の姿が描かれる。

これは一見してDVだが、解釈によってはこの後目茶苦茶ウマぴょいするやつで間違い無い。

なごみさんも一緒に青空の会で戦闘訓練として組手をした後に合流すると濃厚なのだ。

 

更に言えば、借金をこさえた後に子供を連れて夜逃げしようとする描写もあり、夫婦仲が完全に良い、とは言い難いように思える。

だが忘れないでほしいのは、のび太はいざ静香と結婚する直前という段階になっても腹を括れず逃げ出したりするような描写をされるような男なのだ。

スタンドバイがミーミーしてしまう様な作品は関係ないだろ、と言われればそうなのだが。

これまた忘れないで欲しいのだが、起点で終点のセワシと起点で終点ののび太が不動であるだけで途中経過は幾らでも変わり得る。

フルCGで気持ち悪いくらい髪の毛がサラサラなのび太もまた幾つもある正史の一つに過ぎない。

なので、のび太が逃げた程度の話は人格の相性を判断する材料にはなり得ない。あいつはいくらでも逃げる。

 

そんな常に変わり続ける歴史の中で変わらない事実として、のび太は美化されるようなエピソードでなければ中々のクズである、という点がある。

のび太自身が自らを律して背筋を伸ばして格好つけながら生きて行こうと思えるような伴侶を隣に置けない、というのであれば、だ。

無理やり引っ張って立ち上がらせるガハハ系のカカア天下な相手というのは選択肢として決して無い訳では無い。

というか、実際のび太がジャイ子に嫌われようとしたり軽蔑されようとしたりした結果として逆に尊敬され、なんとなく満更でもない雰囲気になる話すらあるのだから、人間的な相性は決して悪くないのだろう。

 

まぁ……そんなものは合法性の薄そうな借金を背負わされてまともな生活を送ることもできなかった子供には関係無いのだろう。

セワシにはそれだけの覚悟があるのだ。

始点と終点だけが保証された歴史改変、それを認識できる立ち位置というのは安定したものではない。

最低限文化的な生活が保証されている、というだけで、親兄弟はふとした瞬間に見た目も性格も変化し、交友関係は微妙に切り替わる。

定住しながらにして流浪の民になるようなものだ。

そんな生活と比較しても、今よりはずっとずっとマシだと、そう思えたからこその歴史改変なのだ。

 

翻って、この世界の歴史改変者はどうなのか、という話になる。

家族がどうこう友人関係がどうこう、という心配が必要な歴史改変者は殆ど存在しない。

奴等にあるのは野望だけ、或いは強い決意を秘めたセワシくんタイプ、そう言い切っても問題ない程度の連中ばかりだ。

 

ライダー世界の歴史改変者の中でも最もセワシくんに近いメンタリティと行動方針を持つ者が居る。

それはそもそも作中には顔も名前も存在せず、明確な意思表示すら行わず、送り込んだドラえもん相当のマシンにも説明をさせていない。

他の歴史改変者が揃いも揃って人任せにすることができず、馬鹿みたいに本人が過去の時代にやってきている中では珍しいタイプ。

そう、天道総司が運用するハイパーゼクターの制作者だ。

 

勘違いされることも多いが、天道総司の運用する事になるハイパーゼクターの制作者はZECTではない。

この時代に生み出されたハイパーゼクターはアホな争奪戦の末に破壊されてしまったのである。

そして、カブトの世界では後にZECTは解体されるので将来的にZECTが作ることはあり得ない。

そもそも開発までが難しいのであって一度完成したのだから作り直すくらいできるだろとは思うのだが、何かしらのレアメタルでも使っているのだろうか。

 

なのだろうか、と、ZECTの開発環境を覗いておきながら断言出来ないのは何故か。

それは、この世界において未だZECTがハイパーゼクターを完成させていない為だ。

ちょっと人類社会を裏から操れない程度の組織しか作れず政府にもパイプを持てずかろうじて警察のトップに下僕である人間を押し込める程度のことしかできず、渋谷が渋谷隕石とは関係なく更地になり地下にあった貴重な資料と実験体である元人間の少年が行方不明になった程度で開発を遅らせるとは。

情けない奴らだ。

 

実験体が居なくなったのなら新しく適当な個体を攫ってくれば良いものを。

だがまぁ、渋谷隕石の墜落よりも前、もっと世界が混沌としていた時期でないと適切な実験体も手に入れられなかったのかもしれない。

ZECT式のゼクターは適合者システムがあるし、奴らの最終目的を考えると真の目的は人類を簡易な方法でネイティブに作り変えるシステムの構築にある。

それにあの実験体は最適な体質をしていたのだろう。

 

あの地下にあった無数の標本。

俺がワームの幼体の標本と誤認していたあれは人類のネイティブ化実験の成果物だ。

それこそ、人間の母体の中にある胎児を変異させようとしたもの、赤子を使用したもの、外科的な改造、などなどなど。

それら無数の、不適格である方法を選り分けた結果、残された最適解があの少年だったのだ。

それが居なくなった今、ゼクターのアッパーバージョンであるハイパーゼクターの開発が遅れるのも仕方のない事だ。

 

そもそもの話として、ハイパーゼクターによる歴史改変は危険だ。

ライダー世界の歴史改変がどのような結果を引き起こすかというのは作品ごとに違ってくるので断言できるものではないが、ハイパーゼクターによる歴史改変がどのようなものか、というのは作中で劇場版とTV版という形でしっかりと、とまではいかずとも描かれている。

 

ここで、劇場版世界が歴史改変前の世界である、と断言できると話は早いのだが……。

そもそもネイティブとワームの関係性の時点で違う世界線である為、直接的な繋がりは無い。

が、恐らく劇場版世界線から見たエピローグに近い世界線がTV版世界線であるように、TV版世界線から見た劇場版に近い世界線が存在する。

それがゴッドのスピードがラブな世界と同じく巨大隕石で海が干上がったような世界かはともかく、ワームとネイティブが同族扱いになっていない、それでいて滅びに瀕した世界。

 

この世界において、セワシくんの新幹線理論は適用されない。

適用されるのならば、介入の始点となる未来の天道総司は消滅せず、何らかの変質を遂げた形であったとしても生き残った筈だ。

だが、過去の天道総司にベルトを託した後に、未来の天道総司は消滅した。

歴史を改変した場合、あの世界においては改変前の世界は普通に消滅してしまうのだ。

なんでベルトだけが消滅を免れたか、適当な辻褄合わせが行われたか、無論、宇宙の法則全てを知るわけではないので明瞭な説明は難しいのだが……。

 

将来的に現れる歴史改変者、イマジンやらタイムジャッカーやらはその辺を上手く調整している。

イマジンはある程度の時間制御技術を持つ、というか、時間制御技術を発展させる方向で進化した人類の成れの果てで、アホな連中ばかりだった気もするがどいつもこいつも自らの世界を発生させる、自分の世界を守るための決死隊だった。

 

それに比べて鎧武!ではなくタイムジャッカー。

カスどもである。

現時点で現物を目にしていないので断言は出来ないが、奴らは時間を時間として捉えているのでなく歴史として、或いはエピソードとして捉えているふしがある。

この世界のような直列でなく並列に世界を繋げた上で未来世界、つまり不安定さの極地から自らを安定させた状態で過去に介入している以上は通常の時間的秩序の中にはないと見て良い。

これがライドウォッチを起点に発生した技術なのか、或いはこの技術の最終形態がライドウォッチなのかはわからないが……。

ルールとしては、異なる時間の流れに乗るクロックアップと似ている。

異なる時間の流れに乗るのではなく、異なる時間のルールを用いることで時を止めているように見せている、というか。

時間のルールが異なる世界で自分達の時間のルールで動いている為に、通常の時間からは止まって見えるというか。

ともかく、奴らはある程度タイムパラドクスを無視して安全性を確保された状態で歴史改変が行えるという訳で。

だからこそあそこまで好き勝手な真似が出来るわけだ。

 

そこから考えるに、天道総司の求めに応じて未来から過去にやってくる機能を持たされたハイパーゼクター。

これを作った人間は狂人の類だ。

ハイパーゼクターによる時間移動は歴史改変の影響をもろに世界に与える。

単純に考えて、ハイパーゼクターが過去に飛ぶ度に、過去に飛んだハイパーゼクターで天道総司が何かをする度に送り出す側は消滅する危険性があるのだ。

 

では、そんな真似をするのはどんな輩か。

単純な話で、これは自らが消えても良いと考えている未来人の仕業である。

 

ハイパーゼクターは現代の天道総司に都度呼び出されている以上、その全てが同一個体であるという保証すら無い。

天道総司がハイパーゼクターを呼び出すタイミング、それは総じて天道総司とカブトゼクターの力だけでは現状を打破できない場面である。

仮に、ハイパーゼクターを使わなければ親しい人が死ぬ、という場面があったとしよう。

ここでハイパーゼクターが天道総司の手元に現れなければ、親しい人が死んだ未来へと時間は進む。

その先には、救えなかった後悔を抱えた天道総司、或いは天道総司だったものが残る。

後悔に駆られた天道総司は、長い時間を掛けてハイパーゼクターを完成させる。

つまり、現在の天道総司にハイパーゼクターを送りつけているのは今の歴史が消滅しても構わないと考えるようになってしまった天道総司である、と考えられる。

 

天道総司は何でも出来る超人のように描かれるが、彼が超人として振る舞えるのはおおよその場合、長い時間をかけて鍛錬を積んだジャンルに限られる。

事実として彼は常に勝ち続ける訳ではなく負ける場面も存在するし、現状の戦力でどうにもならない場面でハイパーゼクターを呼ぼうとするのも一種の神頼みにも近い行動だ。

ワームとの戦い、ネイティブとの戦いで何らかの失敗をした後に、改めてハイパーゼクターを作るための技術を習得するにはそれ相応の時間を必要とするだろう。

或いは、天道総司自身が力不足で死んだ場合、それを救うために彼の友人が同じ様に時間をかけてハイパーゼクターを作る世界もあるかもしれない。

或いは後悔を抱えた本人では間に合わず子孫やら弟子やらに託すという可能性もある。

その弟子が歴史改変による消滅を恐れてハイパーゼクターを完成させなかったとしても、未来の何処かのタイミングで天道総司の呼び声に応えるハイパーゼクターが一度でも完成すれば、それは過去に飛び歴史を改変できる。

 

つまり。

カブトの世界において、ハイパーゼクターの資格者が何らかの致命的な後悔を抱えたまま長生きした場合、高確率で将来的に歴史改変マシンとしてのハイパーゼクターが誕生し、その度に歴史が一つ消滅してしまうのである。

これを防ごうと思ったなら、ゼクター関連の技術、クロックアップに関する技術、ワームやネイティブに関する資料の尽くを抹消しなければならない。

或いは資格者本人やその友人知人を皆殺しにするか。

 

無論、この世界ではそうはいかない。

時の運行を守る戦士とそれをバックアップする国営ならぬ世界運営の鉄道組織が存在するし、歴史改変で消滅させられない戦士が確認できるだけでも二、三人は居る。

なので、一部地域の一部時間だけを繰り返し最後には全てなかったことになる、みたいな局所的なものを含め、歴史改変による消滅の危機はそれほど気にしなくて良い。

 

……と言い切れれば良いのだが。

時の運行を守る連中は装備こそ多彩だが運用する戦士があまりにも少ないし、度々その装備も強奪されたり乗っ取られたりする。

歴史改変に強い戦士は敵を倒す能力こそ信用できるが誰かを守る力はどうかと言われると失礼ながら首をひねる。

まぁ後者はこの世界では大組織の紐付きみたいなのでバックアップも万全なのだろうが……。

 

その他の、特に構造的に歴史改変に対抗できなさそうなのに何故か戦えてそうな人々にしても、時代が昭和でなく平成だと呆気なくレジェンド系変身アイテムに作り変えられそうで信じられるかは微妙だ。

まだそういうアイテムを使う戦士が居ないから大丈夫だとも思うけど、だとしてもこれまで日本にまともに寄り付いていない様な連中をあてにできるかの言うとそんなわけもない。

 

歴史改変を防ぐ側に戦力があるからと、手を拱いているだけというのは良くない。

特に、ハイパーゼクターに関しては十割推測の域を出ないが、この推測が正しければ仮面ライダーカブトという単純性能ではそれほど強くないシステムを支える天道総司という人間が、自らの存在すら顧みずに歴史を作り変える側に回ってしまうのだ。

 

迷惑さで言えば神崎士郎を遥かに上回る。

諸々の補正込みで考えればタイムジャッカー以上、いや、ZECTや警察に潜り込んだ手腕を考えると失敗した未来の天道総司がハイパーゼクター製作のためにタイムジャッカーに潜り込む可能性は無視できない。

しかも天道総司自身から吸収できる有益な技術は存在しない(彼の素の才能の高さは兎も角、閃きよりも努力の積み重ねの人なので)為、彼を助けても何か得をする訳でもない。

損得勘定や安全性を考えたら天道総司及びその関係者皆殺しが歴史改変を防ぐ意味では一番確実ではあるが。

 

何をするにしても賭けに近い。

なので……。

 

―――――――――――――――――――

 

ある川辺の木立の中、激闘が繰り広げられていた。

無数の棘で埋め尽くした白い甲殻に身を包んだウカワームに、コノハムシに似た外観のフォリアタスワーム。

それら二体の成虫に率いられた無数のワームサナギ体を相手に、仮面ライダーカブトと仮面ライダーガタックが拳を振るっている。

ZECT製アンチワームシステムであるゼクター式のライダーであるカブトとガタックが、成虫が率いているサナギ相手に苦戦するなどということは本来ならあり得ない。

だが、状況が悪い。

 

次から次へと現れる新たなサナギは、カブトやガタックを相手にできるような戦力ではない。

だが、ワーム側の目的は二人に庇われている一般人である日下部ひより。

これを攫おうとするワームと阻止しようとするライダー二人という構図は宜しくない。

サナギ体と言えども一撃で倒せる訳でもなく、その多くはひよりを捕まえるために動く為、倒すことよりも動きを阻止する事に集中せざるを得ない。

その為、サナギの群れは傷付きながらも倒れること無くひよりを追い続ける。

 

クロックアップして一息に仕留めるというのも難しい。

もしもここでカブトとガタックがクロックアップしようものなら、後ろで指揮をするウカワームとフォリアタスワームが抑えに入り、その間にサナギの群れがひよりを連れ去るだろう。

ZECT製ライダーの、部隊を率いない場合の難点がこれだ。

ネイティブが組織的にワームに対抗するために作り上げたライダーシステムはZECTの元で運用することを前提に作り上げている。

クロックアップする成虫をライダーが、クロックアップしないサナギをゼクトルーパーが対応する事で、組織的に敵対してくる高位のワーム相手にも戦えるのが利点なのだ。

そういう意味ではZECT製のライダーの性能はクロックアップシステムを除けばいっそ凡庸と言っても良い。

或いは、それはネイティブに対する反逆防止の意図も含まれているのかもしれないが……。

 

ZECTの作戦行動とは関係なく戦うガタックにも、そもZECTに所属すらしていないカブトに付き従う兵隊であるゼクトルーパーは居ない。

そして逃げるひよりもまた身体能力は一般人の域を出ない。

無数のサナギを相手にしながらまともに数を減らすことも出来ないライダー二人。

サナギの追跡速度よりも速く走ることなど出来るはずもないひより。

 

状況は決しつつある。

サナギは無限に居るわけではないが、ワームは繁殖力が高く、潜伏している数も多い。

位の高い成虫が集めようと思えばそれなりの数が揃う。

たった二人のライダーで一人の一般人を拐おうとするワームの群れをどうにかする事は難しい。

 

サナギから隠れようにもただの木立にそんな都合のよい場所はなく、木の後ろにしゃがみ込み身を隠したひより。

その眼の前に当然のように回り込む複数のサナギ。

 

「ひより!」

 

サナギの群れを突っ切りひよりに近付こうとするカブトをウカワームが抑え込む。

倒す必要すらない。

なんなら、ウカワームの狙いからすればワーム側はひよりをここから拐う必要すらない。

ひより自身が、生命の危機を感じるような状況に仕向けさえすれば……。

 

ひよりは咄嗟に、常日頃から持ち歩いている両親の形見である緑色の石を――

 

――シャッ!

 

手に持とうとした瞬間、木の上から振ってきた猫にはたき落とされた。

そのまま形見の石を口に咥え、サナギの足元をすり抜けるように猫は音もなく走り去っていく。

 

「あっ、こら」

 

ワームに囲まれているという状況を一瞬忘れて猫に向けて手を伸ばすひより。

その眼の前で、ひよりを捕まえんとしていた数体のサナギが黒い巨大な何かに弾き飛ばされる。

そして、巨大な質量に高速で跳ね飛ばされると生き物は死ぬ。

そんな当たり前のルールの下、サナギは爆散。

 

目まぐるしい速度で危機を脱したひよりは、眼の前の黒い影を見る。

それは機械の獣だった。

ここ数年で良く見かけるようになった新型モビリティ。

詳しくは知らないが、ひよりが街中で見かけるものよりも随分と大きい。

その背には、ひよりの知り合い達が変身する姿に似た人影が跨っていた。

 

人影……、甲虫に似た鎧武者が、機械の獣の背からひらりと降りる。

次いで、機械の獣はその長い尾でひよりを巻取り自らの背に載せた。

その間数秒の出来事。

僅かな思考の硬直から抜け出したサナギ達が機械の獣に敵意を向ける。

が、その敵意が具体的な行動に移されるよりも早く、ひよりに近いサナギが残らず両断された。

鎧武者が大太刀を振り抜いている。

爆発するよりも早く上下に分かたれたサナギの身体を、獣の肩部と頭部の間にマウントされた機関砲が容赦なく撃ち抜く。

威嚇射撃の一種だ。

埒外の火力を見せた一人と一機に対し、この場全ての注目が集まる。

 

突き刺さる視線の中、ワームの体液を払うように大太刀を振るいながら、鎧武者は高らかに声を上げた。

 

「名乗らせてもらう」

 

「ブレインスクラッチ技術部顧問、小春交路」

 

「微力ながらワーム殲滅と民間人の保護に協力させて頂く」

 

「これは警視庁及び自治体からの正式な許諾を得ての駆除活動である」

 

「なお、当方は地球外生命体の降伏は受け付けていない」

 

「抵抗せよ」

 

「殲滅する」

 

鎧武者の面頰、その瞳は朗々と唱えられた通り、敵意でも害意でもない、熱のない事務的な殺意だけが鈍く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





カブトで誰が一番ヤバいかって話をドラえもんで一番闇が深いと思われるセワシくんに絡めて

☆将来的にハイパーゼクター作って過去に送りつけてくるやつ
天道総司しか居なく無い?
劇場版みたいな切羽詰まった状態になってる可能性もあるから一概に基地外とは言えないんだけどね
だってZECTは解散したけど地球に残ってる他のネイティブに関しては有耶無耶になってるから同じ様な暗躍が起きる可能性は普通にあるし……
そんで最終話でカブトゼクターとガタックゼクター放流してたけど資格者でなくなった訳でもないから変身は出来るわけで
少なくともカブトとガタックが変身できてそれでも過去改変しないとあかん、みたいな未来だとするとやっぱ碌でもないんではないかなと
なんでセワシくんの話に絡めての説明になったかって言えば、ぐにょりがセワシくんに対してずっと抱いていた思いを綴ってたらそういえばカブトも結構ざっくばらんに歴史改変してるしカブト式の歴史改変だと消滅するのが劇場版よ描写で確定してるよな……
となったので、書き出した時点でセワシくんの話が何処に繋がるかは決まってなかったというか
只管文書を繋げていけばそのうちカブトの何処かの要素にはぶつかってくれるだろうという超絶見切り発車の産物
でもハイパーゼクターの歴史改変問題は触れておかないといけないしこれで良かったのだ
セワシの元の歴史での家族も知り合いも事実上全て消滅してるけどセワシ的にはこれで良かったのだ
たぶんダークギャザリングの赤いドレスの話とか先生の話とか卒業生保管所の百円物件みたいな話がセワシの代までちょいちょいあったりしたんでないかな
それもこれも借金が悪い
まぁそんな借金まみれの中でも正月だけでもお小遣いをあげたりと努力をしていたんだけどね親御さんもね、もう居ないから気にしなくていいんだけどね
2112年ドラえもん誕生の描写が改変前のものなら闇深案件ではないはずなんだけど、曲がりなりにも子育てロボットを買えてなおかつ普通に生活できてるあたり経済状況はどう考えても改変後だしなぁ
まぁドラえもんそんなに詳しくない人間の言うことなので

そういうわけで表立って天道総司が過去改変してぇなぁってなりそうな部分を消していきますみたいな方針で動きます
ハイパーゼクター?
ギリギリで理論上は動くかなどうかなみたいな試作品の設計図はある
モックアップすら作られてない
そこをどうにかするのが腕の見せ所なんではないでしょうかね
詳しいとこは決めてないけどセワシくんの話からハイパーゼクターの話に繋げられるんだからどうにかなるよ
大筋は考えてある
細かいとこは書いてみないと
つまり続きを読めばわかるという話なので、次回も気長にお待ち下さい

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