オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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179 黄昏の種族

工場を脱出した後の擬態神代剣との会話は比較的まともなものだった。

なんでも、彼は時折意識を失い倒れてしまう事があるのだという。

そんな時は決まって彼の執事であるじいやが見つけ出しては屋敷に連れ帰っていたらしい。

何か礼をしなければな、というスコルピオくんに対しては丁重に、より多くのワームを殺してくれる様に伝えると、何かを察したかのように頷き颯爽と去っていった。

 

ノブレス・オブリージュ、という訳では無いが。

家が傾きかけているのすら知らないような相手に金銭や物品を要求するほど落ちぶれてはいない。

基本的にあの擬態神代剣はディスカビル家が経済的に困窮しているのを知らぬまま貴族的振る舞いをするため、ワンアクション毎に負債を増やしてしまう。

後に残される人に経済的に強い負担を残す必要もないだろう。

 

そも、彼の生存を許しているのはワーム殲滅の為。

スコルピオワームくんが神代剣の姿で何かを成し遂げる度に、オリジナルの神代剣の尊厳は踏み躙られているのだ。

ワーム殲滅以外の何かを望むつもりは一切無い。

 

そんな、工場での出来事から数日後。

スコルピオワームの細胞の培養も順調に進み、擬態神代剣くんがワーム殲滅ルートに入らなかった時用の予備の用意が現実的になってきた頃の事だ。

喫茶壽でのアルバイトを終え、スタッフルームで超能力覚醒のための瞑想をしていた後輩がこんな事を口走った。

 

「この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ」

 

「集中切れてる」

 

「あっ、すんません」

 

現在、後輩は最低限の投薬による超能力覚醒実験中だ。

もっとドバドバ薬を入れて脳味噌に外科的な手術を施せばほぼ一発で超能力者にできるのだが、せっかく生身部分が多いのでライト層向けの強化方法の実験に付き合って貰っている。

無論、アギトの力を投与すれば一発なのだが……。

 

アギトの力を株分けされて常人から直でアギトに覚醒した人間は、アギトの力を一つの変身能力として認識してしまい、個別の超能力の使用においては一段二段劣る。

ちゃんと自覚的な超能力者から発展したアギトでないと、人間をアギトとして振る舞わせる為に運用されている無数の超能力を別々のパーツとして認識できないのではないか、という推論が何年も前に出ている。

 

しかし、ラーメンの屋台か。

うちの地方では何年も前に屋台の営業なんて条例で禁止されてたし、東京に来てからは適当な有名店やら知人友人の居る馴染みの店やらアジトとして開業した持ち店くらいしか使って無いので、いまいち馴染みが無い。

魔化魍が頻出していた時期にもちらちら見掛けていたので、滅んではいないと思ったが。

 

「ちゃんと光って浮けるようになったら連れてってやる」

 

「遠い道のりっすね……」

 

魔石のサポートがあるからコツを掴めばすぐのハズなんだけどな。

 

「光れれば夜にも食いに行けるからな、頑張れ」

 

―――――――――――――――――――

 

薬の副作用と脳みその動かし過ぎで知恵熱を出して倒れた後輩の看病をシロクロに任せて、件のラーメン屋の屋台を探す。

探すと言っても、そう難しい話ではない。

なんとなれば、俺が探している屋台が後輩の言う美味いラーメンの屋台ではない可能性すらある。

 

美味いラーメン屋、という話題で思い出したのだが、仮面ライダーガタックが誕生した辺りでZECTから擬態神代剣へワーム討伐の報酬は打ち切られる。

ZECT外部の資格者に無駄に高い金を掛けてまでワームの殲滅を依頼する必要が無くなった為だ。

そこで、収入の大部分を失った神代家を守る為、というよりも、擬態神代剣の本物ロールを守らせる為、彼の無駄遣いの為の金を稼ぐために奔走した結果がラーメン屋、という訳だ。

 

資産運用なりで増やす為の種金作りと考えても涙ぐましいというよりも雀の涙過ぎて意味がある行動とも思えないのだが……。

実のところを言えば、このじいやさんの行動も、擬態神代剣誕生から死亡までの流れを考えるとそれ程不思議な話でもない。

もっとも、俺の仮説通りだとすると、ここでのラーメン屋台営業は神代家や擬態神代剣のためと言う訳では無くなってしまうのだが、それは置いておくとして。

 

問題は、このラーメンが作中では一二を争うレベルで美味しいらしい、という事実だ。

あの天道総司が、甘味処たちばなのきびだんごを量産品にしてはまぁまぁだな、くらいの評価を下したらしい(店の人に聞いた、失礼な話である)あの天道総司が食べた瞬間思わず目を見開くレベルのラーメンであるという。

 

家系、二郎系など濃ゆいラーメンが徐々に頭角を現しメジャーデビューしつつある昨今、シンプルな昔ながらのラーメンでなおかつ絶品というのはとても希少だ。

さらに言えば、この味は恐らく期間限定、じいやさんの年齢を考えれば、そしてこれから巻き起こる擬態神代剣の死亡劇を考えれば、そう遠くない未来でボケて料理どころの話では無くなってしまうだろう。

言わば絶メシ指定危惧種と言っても過言ではない。

人工繁殖すら不可能なレベルで個体数が減り交配可能な近縁種も存在しない、まさに今しか食べられない希少なグルメなのだ。

食べておかない理由はないだろう。

 

そんな訳で、後輩の言っていたものと同じかどうかは知らないが、神代邸から出てくるじいやさんの事を尾行すれば、自ずと美味いラーメンの屋台に辿り着ける、という訳だ。

そういう訳で発見した。

真昼の住宅街に佇む何の変哲も無いラーメン屋台というには、店主の身なりが執事服というのは異物過ぎる。

 

異物過ぎるのだが、彼の仕える主の家は経済的に破綻しており、それを知らぬ主の手によって日々散財が行われている。

つまり、彼自身が生活に回せる金銭が如何程のものであるかを考えれば、よくもまぁまともにラーメンの調理が可能な屋台を工面したものだと感心こそすれ、衣装にまでケチを付ける気にはとてもなれない。

後の時代にはラーメンの味ではなく店主のキャラで経営してるようなラーメン屋が生えてくることを考えれば味で勝負してくるだけ真っ当ですらある。

 

「おじいさん、ラーメン一つ」

 

「はい、只今」

 

手際良く作られるラーメン。

この時代のラーメンはそれ程高くもなく、トッピングをもりもりしていくような店でもない為に値段も吊り上がりようが無い。

材料は普通にスーパーで買えるような普遍的な食材ではあるが……利益率はそう大したものではないだろう。

 

「はい、おまちどうさまです」

 

コト、とカウンターに置かれた何の変哲も無いラーメン。

一口啜る。

うん。

 

ラーメンの味がして、美味しい!

 

出汁に何を使ってるだの何だのを言うつもりは無い。

魔石の戦士の超感覚でそれをやり始めると突き詰めた成分分析表にしかならないのである。

無論、後々分子レベルで同じラーメンを再現することは難しく無いが……。

この人が作った美味いラーメンをこのタイミングで食べる、というプレミア感以上の物は得られないだろう。

 

極論になるが、究極的に誰にとっても一番美味しい料理、というものは存在しない。

この繊細で技巧の凝らされたラーメンよりも豚のエサの方が美味い、という評価だって勿論存在するし、その評価、価値観を否定する事はできない。

プレミア感を除けば正直、これと同じかより美味しいラーメンだって探せば普通にある。

プレミア感を含めて言うのであれば、身体がまともに動くようになったジルが初めて作ってくれた飯の方が遥かに美味しいと思えてしまうし。

数ある美味しいラーメン屋のラーメンの一つ、という程度のものだ。

精々が、この人が店を畳んだあとに誰かが食べたがったら再現することが出来て便利、くらいか。

 

今年、ZECTのライダーやその周辺人物には個性的な人間が多く登場するが、このラーメン屋台の店主、じいやさんは格別だ。

彼が置かれた立場を考えると、これまでの一年は波乱、或いは綱渡りの様な時間だった筈だ。

 

作中、彼は擬態神代剣に対してオリジナルへのそれと同じ様な忠誠を捧げているように見える。

擬態神代剣の正体がなんであれ、ディスカビル家を継ぐ事ができる存在であれば良い、という彼の言動は、ともすれば神代剣個人への忠誠以外にもあの家そのものへの忠誠心にも聞こえる。

だが、それが必ずしも忠誠心から来るものであったかと言われると、とても怪しくなってくる。

 

スコルピオワームによって殺害された神代剣とその姉の死体を手ずから処理したのは間違い無く彼だ。

人格を塗りつぶされたとはいえ、眼の前に自分自身の死体があれば、嫌でも擬態神代剣ことスコルピオワームは自分が人格コピーであるという結論にたどり着いてしまう。

神代姉弟が殺害された直後、第一発見者であったじいやさんは事情は分からないまでも、見知った主二人の死体と、人格乗っ取りのショックで前後不覚になっていた擬態神代剣を引き離したのだ。

 

ワームの知識の有無は関係無い。

姉弟の死体とその片割れに瓜二つの生きている誰かが居たのであれば、生きている方が姉弟をどうにかした、と考えるのは自然な話だ。

そもそもの話として、この世界は少し事情通になれば人間の姿に化ける怪物の情報くらいは普通に出てくる。

人間に化けるなのか人間が化けるなのかという区別は今のところそれほど厳密には行われていない。

 

彼と擬態神代剣の初対面がどの様な形で行われたか。

擬態神代剣がもしかしたら本物かもしれない、そう思いたくなるタイミングもあったか。

やもすれば、彼は二人がスコルピオワームに殺害される現場を遠くから目撃していた、という可能性すらあるのだ。

愛すべき主の片割れ、その死体を秘密裏に処理する傍ら、自らを神代剣と思い込んで行動する怪物を見ていた彼の心境は如何様なものだったのか。

 

そもそもの話として、主を容赦なく殺害してその姿かたちを盗み取った怪物が、都合よく自らを人間と思い込んでくれている。

もしも、擬態神代剣が彼と二人きりの時に怪物としての己を取り戻したならどうなってしまうだろうか。 

その程度の事を思い付かない程に彼は愚かではない。

 

擬態神代剣が自らに疑問を持たないよう、オリジナルの神代剣に対するのと同じ様に接しなければ、自らの自我に疑問を抱いたのなら、直ぐ様彼も主である姉弟の後を追わされる事になっていただろう。

後の正体バレの時に彼が無事だったのは、スコルピオワームにすっかり神代剣の人格が焼き付いてしまっていたからだ。

仮に、神代剣の人格が焼き付いてそれほど時間が経っていないタイミングで思い込みが解けてしまったら?

スコルピオワームとしての本能、或いは元の人格に従い、彼は殺され、また他のワームの擬態先として体よく利用されていたかもしれない。

 

そうして、主と自らの尊厳を代償にした自己防衛の日々が続く内に、彼は絆されてしまったのだろう。

スコルピオワームは勿論神代剣ではない。

神代剣という男は間違い無く死んで、擬態神代剣は神代剣の姿形と人格を利用しているだけの怪物に過ぎない。

だが、擬態神代剣は余りにも真に迫り過ぎていた。

当然だ。

神代剣の記憶を持った、自分を神代剣と思い込んでいる、神代剣の見た目をした者が、神代剣以外の何者でもあるわけがない。

事実はどうあれ、常から接する者からすれば神代剣以外の何者にも見えないだろう。

 

擬態神代剣はオリジナルの人格の残響、動く遺言状のようなものだ。

神代剣であればこう思う、神代剣ならこんな時こう動く、という想像通りに動くそれは、間違い無く生前の神代剣との思い出を想起させるものだ。

そうなると、この擬態神代剣が望むものは、やはりオリジナルであれば同じ場面で望むものなのだ。

実態は異なるものの、彼の擬態神代剣への忠義は未練を遺した幽霊に対するのと同じ対処と言えるだろう。

 

最初は殺人モンスターであるスコルピオワームを目覚めさせない為の行動だった。

そしてそれが次第に、亡き主の面影を手元にとどめて置くための代償行為に摩り替わっていったとして、それを責めることは難しいだろう。

亡き主と同じ顔、同じ声、同じ人格で動く亡き主の仇を憎み続けるというのは、大きなストレスとなる。

脳が防衛反応で絆される方向で自らを錯覚させるのもおかしな話ではない。

有り体に言ってしまえば、彼は狂っている。

恐らくは半ば自覚的に。

 

一年以上擬態神代剣と生活する中で、都合好く彼の目の前ではスコルピオワームに戻らなかった、という事は無いだろう。

だが、彼はそれになんの対策もしていない。

無防備なままで、擬態神代剣を主として仰ぎ、もはや実態のない名門であるディスカビル家を、借金を右から左に左から右に転がして切り盛りしていく。

絶対にどこかのタイミングで破綻する、嘘を嘘で塗り固めた嘘の生活。

スコルピオワームに立ち戻る瞬間から上手く逃れられなければ、そんな悪夢のような生から、真実である救いなき死へと目覚めるのみ。

今の擬態神代剣との生活は、命を懸けたごっこ遊びであり、主が殺された瞬間から今まで続く幸せで悍ましい悪夢なのだ。

 

……などという事はなく、彼の行動の端々には生存欲が見て取れる。

絆されていないという訳では無いだろうが、擬態神代剣に本物と同じ生活をさせているのは自分が神代剣であるという思い込みを解かせない為の物だろう。

密かに出かけて外で金を稼いでいるのは不安定になりつつある擬態神代剣から距離を置く為とも取れる。

誕生日に外でご飯を食べる、或いは度々人を屋敷に呼ぶという行為も、スコルピオワームとして暴れ始めた時にタゲを分散して逃げやすくする狙いもあるだろう。

なんなら、資金繰りが種金を作っての資産運用でなく借金転がしなのは、最終的に擬態神代剣がスコルピオワームとして討伐された後に借金の取り立て先が無くなるから後腐れが無いので都合が良いからか。

日に日に不安定になりつつある擬態を見て、大まかな残り時間にも見当が付いていたのかもしれない。

 

弱さと強かさ、生き汚さを兼ね備えた味わいのある人物である。

無害であるところも良い。

料理が上手いのでラーメンだけでなく色んな料理を作ってボケる前にレシピとかを残しておいて欲しい。

指南書、神保町でも探したら見つからないだろうか。

あの街も去年まぁまぁ燃えたから見つかる確率はかなり下がってるだろうけど……。

 

―――――――――――――――――――

 

こうして、呑気にラーメンなぞ食べていられる程度には、今年の敵は難度が低い。

低いと言うより、相対的に低くなった、或いは最初からこの世界においては低い位置に居たというべきか。

その最たる理由は言うまでもなくゴルゴムの存在だ。

人間ベースの創世王をトップに据えた彼等が最低保証として人類滅亡を防いでくれている。

その過程で一般人が犠牲になる事もあるので平均的成人男子である側の俺は彼らに頼り切りになれないのだが。

 

更に次いでワームの脅威度を下げていたのは猛士の存在だろう。

長年魔化魍をメインに据えつつも多くの種類の敵と、或いは人間同士の戦いすら乗り越えてきた彼らの蓄積は多く、成り代わりの見分けだけでもワームの戦略を大きく阻害している。

更に言えば、俺があくせく働かなくとも、放っておいても対ワーム戦法を編み出していた可能性が高いのがこの組織だ。

その秘密は人間鬼化の術……ではなく、ディスクアニマル技術にある。

 

ディスクアニマルは動物霊を器物に組み込むことで簡易な操作で式神を運用できる優れものなのだが、この魂を組み込むという一点に単独組織でのワーム攻略の鍵がある。

草花を燃える蝶に、石塊を虫に、紙が折れて鶴になど、組み込む魂の形に合わせて器物の性能を変化させる式神術が源流にあるこれらの真骨頂は、霊的思い込みによる現実改変だ。

飛翔に必要な揚力を無視して飛ぶ折り鶴などがわかりやすく、込められた魂が生前繰り返して来た肉体動作とその結果を物理法則を捻じ曲げて再現する。

強度の高い地縛霊が起こす霊現象を動物霊に再現させているというか、自らの死に気付かず生活する動物霊の動きに肉体を与えている、というのが近いか。

 

これは超能力の目覚めと同じ理屈、できると信じているからこそできる、というものだ。

科学文明にどっぷり浸かって生きているとついつい忘れそうになるが、この世界の生き物の大半はテオス或いはマラークの系譜にあたるため、こういう無茶が通ってしまうのだ。

或いは、この科学という理屈すらも、テオス由来の潜在能力を備えた人間が自然現象はじめ万物一切に理屈を付けた結果現れた、人類発祥前は存在しないルールだったのではないか、という疑惑もある。

閑話休題。

 

動物霊を憑依させた物体は生前の性能を担保されるというルールを利用し、過去の陰陽師は草花の式神から紙を利用した式神に進化させ、紙を利用している為に鳥や犬と同じ速度で移動する手紙という、電信技術の無い時代では大きすぎる情報アドバンテージを手に入れた。

時の権力者が情報戦の為に挙って陰陽師を重用し、戦後のGHQがこれら日本のエキゾチックな技術を接収或いは隠滅しようとしたのは当然の流れと言えるだろう。

 

ディスクアニマルは猛士が生み出した最新最高の式神術だ。

紙の式神を遥かに越える光ディスク方式の大容量に、魔化魍に物理攻撃をしてもなかなか破損しない強度。

(なお、現在のディスクアニマルが完成する前に磁気記録媒体を利用した式神が考案された時期もあるが、これは逆転パートのないプロジェクトXになってしまったので割愛する)

これだけでも十分に画期的な発明だが、ディスクアニマルの優れたる点はそんなものではない。

それは、内蔵する動物霊の種類を問わずに製造できる、という一点に集約される。

 

鳥なら鳥の、猿なら猿の霊が必要だった音式神の時代との最大の相異点はこれだ。

元が虫の霊だろうと人の霊だろうと犬の霊だろうと、茜鷹のディスクアニマルになった時点でその魂魄は茜鷹として定められた機能を発揮する。

生前に飛んだ記憶のない生き物の魂魄が、自らを鷹と思い込み空を飛ぶのである。

 

これは、元を正すと戦時中に陸軍により研究されていた秘匿名人間戦車計画、戦術鬼部隊構想の為に作られた記憶操作技術に端を発する。

これは即ち、鬼に変ずる力を得た人間の意識、記憶をコピーし、同じく鍛え上げられた軍人の肉体にその記憶を上書きすることで、数年掛かる修行を省略しインスタントに鬼への変身能力を与えよう、という計画だ。

最終的に軍からの要請内容が傷病軍人、或いは病人そして女子供などへの記憶焼付へと及んだ事で猛士側が雲隠れすることで有耶無耶になり、計画書を徴発したGHQも妄想の類と断じることになったのだが……。

 

戦後の混乱期、実験中に廃人となり、記憶の焼き付けに失敗したと思われた被検体が現れ、元軍人の生き残りを殺し回る事件が発生した。

その被験体は奇妙な人と鬼のモザイク体であり、その特徴は全て記憶のコピー元である鬼の変身体と一致していたのだという。

記憶の焼付は完全に失敗していた訳では無い。

人間の記憶という余りにも膨大な情報を流し込まれる事で、被検体の魂魄は砕けて消滅した。

だが、残された肉体には、コピー元の鬼の記憶と被検体の苦しみながら消滅した記憶が、ぐちゃぐちゃに混濁した形ではあるが、まるでデスマスクの様に鋳型として刻み込まれていた。

魂が砕けて廃人と化した被検体の肉体に、人間のものか動物のものかは不明ながら魂が入り込み、肉体に残された魂の鋳型に押し込まれ、実験を命じた軍人への怒り、恨みなどを晴らす被検体のコピーとして動き出したのだ。

 

激しい死に方をした魂が、それそのものは消滅しても死に際のリフレインが地縛霊と勘違いされる形で残るのは知られていた。

だが、その影響が魂の抜けた肉体にも残る、というのは、猛士にとっても青天の霹靂だった。

猛士が、或いはそこに所属する陰陽師が観測するのは凡その場合魔化魍に食い殺された被害者のものだった為だ。

苦しみながら死に、しかし肉体は無事、というケースは猛士関係者では中々発見しにくいのだろう。

無論、元々魂とセットで産まれてくる肉体が魂の影響を受ける、というのは、考えてみれば当たり前の話ではあるのだが。

 

それから数十年。

このインシデントを元に研究開発が重ねられ、封入した魂がプログラミングされた都合のよい形に変質する器として誕生したのがディスクアニマルなのだ。

もはや黎明期の様に、術者に忠実に調教された動物霊を器に押し込み魂魄を砕くという工程すら必要無い。

魂の鋳型は純粋なデータとしてディスクに焼きつけられ、押し込まれた魂は登録された通りの挙動を可能とする様になった。

奇しくも、広瀬義人が科学的に行った記憶の読み取りと移植と同種の技術が猛士では数十年前から利用されていたのである。

 

そう、猛士は既に魂魄が引き起こす霊現象をデータ化することに成功しているし、そのデータによって魂魄は生前にどうだったかとは関係なく様々な生き物の性能を再現できる。

倫理的な問題でやらないだけで、鬼を量産する事も不可能ではない。

不可能ではないが人間は自我が強すぎる為、作った場合間違い無く暴走する。量産できても制御が効かない訳だ。

だがここに、高度な身体能力、擬態能力、クロックアップ機能を備えながら、一部を除いて極めて自我が希薄な生き物が存在する。

ワームだ。

 

ここで話は戻ってくる。

つまるところ、猛士はやろうと思えば、ワームを捕獲して精神改造を施し、その魂を器に鋳型として焼き付ければ、術者の言う事を聞くワームをディスクアニマルとして量産が可能なのだ。

そしてその生産速度は一度魂魄の鋳型をデータに起こしてしまえばワームの繁殖速度を余裕で上回る。

完全な不意打ちで猛士が全滅でもさせられない限り、猛士は正面から種族としてのワームを擦り潰す事が可能なのである。

 

というか、俺が使っているワーム式神がそのディスクアニマルワームの前身と言えるだろう。

俺のワーム式神は殺したワームの肉体に、殺されて肉体から剥がれた魂魄を編集して再封入する事で完成する。

言わば式神というよりも、安い作りのキョンシーなのだ。

この式神は、ワームを爆発させずに殺せば殺すほどに増やすことが可能。

敵の戦力を減らしながら味方の戦力を増やすことができる。

 

まるで将棋だな!(古典)

更に言えば自我上書きで素直に言う事を聞くワームを配下として作っているので、これらの死体も再利用できる。

ワーム式神にする際に死体と魂魄の扱いをインストールする事で、ワーム式神がワームの死体と魂魄をワーム式神に改造するというオートメーション化も既に実現済みだ。

便利極まりない。

 

そして当然の話ではあるが、猛士だってワームの脅威を認識した時点で研究開発が開始されている。

試作されたディスクアニマルワームである織部蟲が正式に採用されないのは、先んじてクロックアップシステムを搭載した剱冑が鬼全体に行き渡る程に有り余っていたからだろう。

既に多くの鬼が外付け装備によりクロックアップ対策を完了している猛士は、総戦力でZECTを完全に上回っていると言っていい。

そして、彼らには既に死体を残す殺し方を伝達しているので、余裕がある時には死体が回収され、警察との共同研究に回されている。

遠からぬ未来で、猛士のワーム理解度はZECTのそれを上回る事になるだろう。

まぁ順当に行けばそうなる前にZECTは壊滅して解散している頃合いだろうが。

 

既に、クロックアップ一つで有利を取れる時代は終わりつつある。

擬態能力で人間社会にワームが紛れ込める時代もそう。

この世界において、ワームは既に終わりの見えた種族なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 




仮面ライダーカブト二次創作の為のメモ
ワームは強敵ではあるがストーリーの軸として動くのは人間で道中大半のバトルが添え物、昔のFGOのワイバーンみたいな扱いなので、原作沿いをやりたいなら面倒でも原作キャラに絡みに行った方がいい
でも冷静に考えれば考えるほどカブトの原作キャラ、画面越しに見る以上の関係性を築きたくない
555の原作キャラとはまた違ったベクトルで面倒なやつしか居ないし

☆そうか、こいつもワームに大切な人を……
みたいな勘違いをして颯爽と去っていくスコルピオワームくん
別に主人公は今のところワームに大切な人を殺されてもいないしスコルピオワームくんも別に大切な人を殺されている訳では無いという二重勘違い
記憶も人格もコピーされて利用され、敵への憎しみすらもその仇自身に奪われているオリジナル神代剣くんの事を考えれば考えるほど主人公からスコルピオワームくんへのヘイトは高まっていく
人格と記憶の侵害は殺人そのものよりも罪が重い

☆結局日が沈むまで浮けなかったし光れなかった修行中の後輩
そういうわけで夜に行くッス!
とは行かず、店でまかない飯を喰らうのであった
順調に行けば天道総司のラーメンは食えるかもしれない
語尾にスの元気系後輩ヒロイン好きなのはそうなんだけど、語尾にスで体育会系な喋りを見るとミーム汚染によりいかがわしいネットのおもちゃが浮かんでしまうのはニコニコ動画の功罪だと思う
だってこいつ告白すると先輩好きっす!ってなるんだよ?
いや、先輩好きっす!という文章に違和感を覚える方に問題があるんだけど……

☆作中恐らくは一二を争うほどお辛い立ち位置のじいやさん
最終的に擬態神代剣に多少なりほだされては居ただろうけど、この人姉弟の死体を隠蔽した後に、殺された神代剣と同じ姿になった加害者に素知らぬ顔でオリジナルへのそれと変わらぬ態度で接しないと怪物が自我を取り戻して殺しに来るかもとか思いながら生活してたの地獄の濃度が濃すぎる
おめーそれでよく死にかけの擬態神代剣にあの優しい態度で接することが出来たよな……
メジャー紙に乗れないレンタル漫画家なら死に際の擬態神代剣に対してじいやさんが豹変して……?!みたな復讐展開にしてたと思われるし別にそれを誰も責めることが出来ない立ち位置のお人
それでいながらあの最後の擬態神代剣との会話シーンがあるからマジでこの人はすげぇし仮面ライダーカブトという作品はどうしても嫌いになれないのだ

☆終わりの見えているワーム
主人公がどうこうとか関係無しにこの世界のこの星に来たのが運の尽き
なんなら猛士がなければ本郷猛の知り合いの科学者とかがワーム見分けメガネとか作るやろ
或いは結城丈二
まぁそんな天才に頼らなくても良い上に組織力まで有る猛士は最高だなって

カブトは味の濃い原作キャラと距離を置くととたんにやることがなくなるので一気に話進めても良いかもね
次にどんな話になるかは決まってないけど
そんな原作キャラの相変わらず登場しない作品ではありますが、次回も気長にお待ち下さい

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