オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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176 尊敬に値する人

患者衣を着た元後輩が顔に手を当て、姿見をじっと覗き込んでいる。

 

「なんか変だったら言え。参考になるような写真なりがあればその通りにもできる」

 

「や、写真無いんすよ。家、焼けちゃって」

 

何でもない事のように言う後輩。

高校進学の直前に親の都合で隣の県に引っ越し、その家も先日の火災で焼け、両親は行方不明だとか。

元気な親だったそうなので、そのうちひょっこり出てくるだろう、とのことだ。

 

「大学入ってからの写真とかは?」

 

「あー……あんま、行ってないんで、探せばあるかもしんないすけど」

 

剣道強いとこなんすよ、聞いたこと無いすか?

と言われて出た名前は……。

 

「そんな顔しなくていいすよ、講義棟は直ってんで。……まぁ、教授が半分くらい行方不明なんで講義もできないんすけど」

 

因みにだが、先のヤマタノオロチの一件、公式に発表された死亡者数はそれ程多くない。

これは別に被害者が思ったよりも少ない、という話ではなく、死体がそもそも存在しない為に起きている数え違いだ。

無論、それを取り込んだ龍とリンクした俺はおおよその死亡者数を把握しているワケだが。

 

考え方次第だ。

誰しもが何時かは親元を離れて一人で生きて行くし、人によってはその後にほとんど親の顔を見ない、という事もある。

人としての形、命としての形を失った彼等は光の雨として大地に還り、大きな命の循環の中に組み込まれた。

そういう意味では、こいつの両親はこいつの前にひょっこり顔を出しているとも言えるし、ある意味では常に共にあると言ってもいい。

大学の教授の方々に関してはどうしようもないけどな。

彼等の知識は永遠に消失してしまった、それは悲しいことだが、失われた事を嘆いたからといってこいつの大学で講義の再開が早まる訳でもない。

 

「時間があるのは良いことだ。新しい腕に慣れるにも時間は要るし、覚えておくべき事もある」

 

「覚えておくべきことっすか?」

 

「そうだ、腕を手に入れて、そしてそれを失わない為に必要な知識を、順番に覚えて貰う」

 

「勉強そんなに得意じゃないんすけど」

 

「安心しろ、お前なら覚えられる」

 

「っ……っす、なんか、そう素直に信じられると照れるっすね」

 

まぁ、厳密に言えば偽装を施した魔石の戦士ではあるからな。

これで物覚えが悪いままだったらそれはそれで研究対象になるレベルだし。

 

―――――――――――――――――――

 

そういうわけで、現存する人類種に対して敵対的な種族に関しての説明を行った。

魔化魍に関しても知識ゼロで遭遇してまともに対処できないと困るので教えた。

後で呪術と音撃も仕込まなければならない。

普段は新型装備やらの設計図を描くのに使っている部屋でお勉強だ。

 

「地球ヤバくないっすか?」

 

椅子に座って聞いていた後輩が青褪めた顔で聞いてきた。

少し惜しい。

 

「いや、厳密には人類がヤバい。地球は今のところそんなにヤバくない」

 

残る敵対種族は人類の歴史や文明をどうこうする力はあっても地球という基盤を破壊するような力は持たない。

オルフェノクはバラみたいな繁殖特化でなおかつ戦闘力高いみたいな当たり個体が出ないことにはちょっとした超人レベルでしかない。

魔化魍はそもそも惑星環境安定の為の龍脈のスカベンジャーのようなものだし。

ワームは新たな土地を求めて動いてるだけで力の規模も対人程度。

イマジンはそもそも人類の進化先だから星そのものを壊して喜ぶ理由もない。

ファンガイアの王にしても鎧付きでフルパワーで戦ってもせいぜい都市破壊か文明破壊が限界だろう。

 

俺自身、彼らを敵と見做して殺しているのは俺が人類だからに過ぎない。

青い地球も緑の自然も、人類が守らなくても他の種族だって生きてくためには守らなければならない。

俺達がするべきはとにもかくにも自らの身を護ることに尽きる。

 

「だから、仮に人助けとか考えずこれから保身だけ考えて生きていくなら、お前はそのままでも良い。腕も普通のモノを着けてやろう」

 

今でもこいつの体にはちょっとしたゴリラパワー(禁じられた力)が秘められている。

トンネルの中で人間を全力で蹴れば天井に激突させて全身骨折させる程度は可能な筈だ。

戦いの場に身を置かなければ、力が必要な場面に遭遇しなければ、日々を慎ましく生きて行くだけなら、もう何も恐れる事は無い。

魔石の力を骨格に宿したこいつの力はゴリラ、五感は狼、燃える瞳は原始の炎。

普通に生きていくだけなら、義手もせいぜい人工皮膚の自己修復と高速徹甲弾を弾く程度の強度がある普通の神経接続型のもので事足りるだろう。

 

しかしこいつの見た目はあいも変わらず長身目隠れ猫背女だ。

ムラムラした痴漢に襲われる可能性すらある、それだけの外見ポテンシャルはある女だ。

元は活発闊達だったが、今の見た目だと気弱そうに見えるので良い餌食と思われる。

だが、今のこいつは痴漢の手を引っ掴み片手で天高く持ち上げてそのままミスミスミスの効果音と共に振り回せるだけの力を持つし、逆恨みされて刃物や銃器で武装した犯罪者に襲われても素で撃退できる。

 

でも今時代、頑張れば変身アイテムが買えるんだよな……。

悪用防止のシステムはあるが、そういうものはいずれ突破される運命にあるものだし。

レイバーブロスに変身した元痴漢。

言わばレイパーブロス、とでも名付けようか、レイプマンの亜種と思われる。

物騒な世の中になったものだ、こんな時代に誰がした。

恐らくはゴルゴムかテオスの仕業だろう。

間違ってもいにゅいのせいではない。

冤罪はいけない。

 

つまり、こいつは放っておいても戦いの場に巻き込まれる可能性があるわけだ。

今どきの犯罪者は変身アイテムを持っているかもしれないし、オルフェノクかもしれないし、なんならアギトの可能性すらある。

かなまらオルフェノクやディックアギトなんてものが存在しないとは言い切れない。

 

「……普通の腕はやっぱり不安が残るな。前言撤回、どんな道を選ぶにしても多少はギミックを付ける。許せ」

 

「あんま、高価なものを頂くわけには……」

 

「うるさいだまれ。お前は今困ってる側の人間だろうが。助けの手を伸ばす側の人間の癖に助けられる側になった時に拒否するな。人類は(みんなライダーだから)助け合いなんだよ」

 

「う、ウッス!」

 

びっ、と姿勢を正して畏まる元後輩。

よし。

 

「それで、どうする」

 

「どうする、すか」

 

「はっきり言えば、お前の行動そのものは尊敬はできても推奨はできん。自分自身を守れないものは誰かを助けるために手を伸ばすべきではない、と、俺は思う」

 

俺がこうして、ワームの交配実験の見返りもありながら世話を焼いているのだって、俺自身が多少は身を守れる程度の余裕ができているからだ。

これが対ダグバの年や対テオスの年とかだったら余裕で見捨てていると断言できる。

多少の敵なら撃退できて、細やかながらに軍団を保有し、多少護身具の予備をだぶつかせているからこそ、それほど親しくない相手に気を向けてられるのである。

 

「俺はな、元後輩。お前が好きだ」

 

「ファッ!?」

 

「力及ばずとも人食いの怪物を許さぬ正義感、自らも火に巻かれながら誰かを助けたいという挺身の心。どちらも俺には無いものだ。憧れすらある。お前は素晴らしい人間だ。誇って良いし、胸を張って生きていて欲しい」

 

「あっ、っすぅー……す、ありゃざす」

 

余りにストレートに褒めたからか、驚いたり落ち着いたり後頭部を掻きながら頭を下げて照れたり百面相をしている。

だが、こういう人間は貴重なのだ、だからこそキラキラと輝いて見えるものなのかもしれないが、そういう人物が尊敬に値するのだという事を本人に伝えて保全していかなければならない。

 

「だがな、矛盾した話に聞こえるかもしれないが、そんなお前だからこそ、過ぎた人助けはやめて欲しい、という思いも少なからずある。お前が眼の前の人に失われて欲しくないと思うのと同じ様に、俺もお前に失われて欲しくないからだ」

 

少なからずあるというだけで大枠ではその素行を改善して欲しくないという思いの方が強いのだけど。

 

「失って欲しくない、すか。あんま、そんなこと考えたことは無いんすよね、自分、考えるより身体が先に動いちゃうんで」

 

なんだおめぇ人類の宝がよ。

この輝く人間性持ちを、生きててすみませんみたいな顔して俯かせてるとか世界法則は恥ずかしくねえのか。

そんな英雄の逸話みてぇな生き方しといて人生諦めるなんて許さねぇからなこの半熟英雄め。

絶対に満足できる人生を送れる力、どこまでも伸びるお前の手を与えてやるからな、廃藩置県。

おっと、興奮してしまった。

こんなに精神が昂ぶっても表面に出さずに済むのが熟練の魔石の戦士の良い所だ。

 

「だから、また、眼の前の誰かが危なかったりしたら、逃げるより先に、前に進んじゃう、んじゃ、ないすかね」

 

「死んで欲しくないって言ってもか?」

 

「っす」

 

「先輩命令って言ってもか」

 

「先輩、そういうの言ったこと無いじゃないすか」

 

「そうか、そうか」

 

つまりお前はそういうやつなんだな(興奮)。

 

「目の前で怪物に襲われてる人が居たら?」

 

「助けるっす」

 

あっさりとした回答。

その答えを当たり前のものと信じて疑わないものの言葉だ。

道徳的には正しくもある。

現実に即さないというだけで。

 

「どうやって? 言っておくが、大概の化け物は人間より脚が速いぞ。力が強い奴はそれを支える骨格も強い、余程のクソデカでもなきゃ骨格が頑丈で筋力があれば当然速く動けるからな」

 

「うっ……」

 

痛い所を点かれた、と言わんばかりに身を縮める。

オルフェノクは寿命の関係でまた違った意味で足が速い……というのは置いておいて。

今年になって少し活発に動いているワームなんかは成虫になれば問答無用で人間より早く動いてくる。

そうでなくても、オルフェノクなんかは人間態でもコンクリを素手で砕くしビルの屋上から落下しても死なない耐久力持ち、なんて個体も居るし、当たり個体はやっぱり加速能力持ちが居る。

 

「当然、人を殺したい、食いたいなんて連中は五感も強いだろう。隠れても探し出される」

 

「が、しかし」

 

「襲われているその誰かを見殺しにすれば、お前一人だけは逃げ切れるかもしれない。 その間に警察に連絡するか、交番に駆け込むかすれば、お前だけは助かるかもしれない。それが賢い人間の生き方というものだ」

 

「そう!」

 

ばっ、と、手を広げる。

 

「助けようと思えば諸共に殺されてしまうかもしれない! しかし! 見捨てて逃げれば助かるかもしれない! そんな時、どうする? どうする? どうする? お前ならどうする!」

 

「それでも!」

 

驚かすようなこちらのテンションアップに釣られるように、音を鳴らして椅子から立ち上がる後輩。

その身体は強張り、机に付いた片手は震えている。

例題に、自分が食われた時のことを思い出しているのかもしれない。

顔は先程までと比べてもなお血の気が引いて白く。

 

「自分は、助けたい、し……その上で、死にたくない、っす」

 

視線はまっすぐこちらの目を見ている。

美しい瞳、力強い眼差しだ。

刳り貫いて時間を止めて永久保存版の資料にして部屋に飾っておきたい。

でもこの眼差しの価値は命の止まった標本には宿らない。

 

「じゃあ、何が必要か、わかるか?」

 

「えっと……、その、怪物に勝てる力、とか?」

 

あはは……、と、力無く笑う。

 

「当たりだ」

 

「はえ?」

 

「人の命を救うという行為には常にそれなり以上の知恵と力が求められる」

 

ポケットに入れていたスイッチを押す。

後輩の机の前の床が開き、一つの箱が迫り上がってくる。

こんな事もあろうかと用意していたギミックに、こういう答えが来たら出してやろうと思って仕込んでおいた、昨日寝る前に拵えておいたとっておき。

 

「賢い生き方をすれば、必要なものは少なくて済む。が、そうできないと言うのであれば」

 

「お前に力を与えてやろう」

 

鈍色に輝く義手を前にして、元後輩は小さく息を呑んだ。

 

―――――――――――――――――――

 

「おお……」

 

接続された腕を動かし、照明に照らしながら感嘆の声を上げる。

ぺたぺたとあちこちに触れて、更に驚く。

 

「触ってるっす、感触が、ちゃんと」

 

「神経接続型だからな」

 

大枠ではニャンニャンアーミーと同じくトライアルシリーズの流れを組む技術だ。

接続の理屈はニーくん相手に少しやった手押し相撲と似たようなもので、腕と本体が相互に肉体を取り込み合う事で成立している。

代謝を接続先の本体に依存しているので、魔石を搭載してない人間に繋ぐと衰弱するが、お陰で腕一本分の体積でありながらかなりの機能を詰め込めた。

生き物としての機能を廃したニーくんが繋がっているようなものだ。

 

「ほれ」

 

教鞭代わりに使っていたエアーソフト剣を投げて渡す。

 

「わわっ、わ」

 

反射的に義手で受け取り、目を見開く。

マッドアークの件で腕を失ったのなら、隻腕の期間も二年近い。

ものを持つのにも受け取るのにも残った生身の腕を使っていた筈だ。

それにも関わらず、今接続されたばかりの腕が反射的に動いたのだ。

 

「持ててる」

 

「そうだな」

 

当たり前の事を改めて口にする後輩。

それに頷きながら、テーブルと椅子を退け、部屋の中にちょっとだけ動けるスペースを作る。

手には、どこからともなく取り出したエアーソフト剣。

 

「構えろ」

 

「へ……?」

 

「か・ま・え・ろ」

 

「……っ、うっす!」

 

返事とともに、表情が引き締まる。

握るのはスポチャン用のエアーソフト剣だが、縮尺は剣道で使われるものと同じ。

構えは基本中の基本、中段の構え。

鏡合わせのように同じ構えを取る。

ほんの少しだけ懐かしい。

部活動の助っ人としてこいつの相手をしたのは極短い時間でしかなかったが、小さい頃は父さんに教わったものだ。

今では剣道の動きを応用することすら無いが。

 

「やぁーッ!」

 

叫びとともに剣が振り下ろされる。

エアーソフト剣であることを差し引いても、笑っちゃうほど鈍い剣筋。

軽くいなすも、何度も何度もめげずに打ち込んで来る。

あぁ、思い出した。

部活の中ではマシ、ってだけで、そんなに才能があるタイプでは無いというか。

下手の横好き……ではなくて、好きこそものの上手なれ、というか。

練習の相手が居なくても、延々素振りとかしてたような。

 

「たぁーっ!」

 

汗が滝のように流れ、息も荒い。

魔石で強化されてるから、スタミナ切れ、という訳では無い筈だが。

暫く剣道をしていなかったから、気持ちに身体が追い付かないのだろう。

動作による疲労ではなく、興奮から来る疲労。

魔石で強化された身体が追い付かないくらい、気持ちが逸っている。

 

「りゃぁーっ!」

 

燃える瞳は原始の炎、などと冗談で言ったが。

一心不乱に下手くそな剣を振るうその目に映るのは戦いの相手だけ。

その瞳の輝きは宝石に喩えるべきかもしれない。

 

「えい」

 

「あっ!」

 

振り下ろされた剣を剣で絡め取り、跳ね上げる。

返す刀で振り下ろし。

すぱんと音を立ててエアーソフト剣が後輩の面を取る。

 

「あいたーっ!」

 

スポチャンでも防具を付けることから分かるように、ソフト剣でも勢い良く当てれば当然痛い。

勢いによるが使い手によっては鞭打相当の痛みも与えられるのではないだろうか。

当然、加減をして打ったのでそこまでではない筈だが。

後輩は剣を持ったまま大の字にぶっ倒れた。

そのまま、顔に腕を載せて、ぜぇはぁと荒い呼吸を繰り返している。

 

「大丈夫か?」

 

こく、と、小さくうなずく。

徐々に呼吸も落ち着き、緩やかに小さな嗚咽へと変わっていく。

口はぷるぷると震え、腕で隠した顔の上半分、横から水滴が溢れている。

 

「ぜん、ばい」

 

「うん」

 

「じぶん、まだ、げん、にぎっで」

 

「うん」

 

「まだ、げ、剣道、やれるんずね」

 

「……おう」

 

まぁ、肉体の事を考えれば公式の試合には出れないだろうが……。

それも、これからの世界ならどうなるかもわからん。

アギトもそうだし、オルフェノクなんかも発現した時点で公式のスポーツには参加できないだろう。

安全性を考えれば階級分けと同じ様に種族別に分けられていく。

人の枠を超えた人種を集めた新しい枠が産まれるのは遠い未来ではない。

無論、それはうまい具合にアギトやオルフェノクが受け入れられた場合の未来に限るだろうが。

 

剣を握り締めたまま、とうとう堪えきれずにわんわんと泣き出した後輩にそういう事を言うのは野暮というものだろう、たぶん。

 

―――――――――――――――――――

 

しばし大声で泣き続けた後、落ち着きを取り戻した後輩が床に座り込んだまま、ぺこりと頭を下げた。

 

「お恥ずかしいところを……なさけねっす」

 

「別に良い。元気な証拠だ」

 

「へへっ、でも、あれっすねこの腕、色がかっこよくて目立っちゃうのが……あれ?」

 

掲げた義手を見て、後輩が首を傾げる。

トライアルEと同色で、装飾を極限まで削ぎ落として人に近いシルエットに近付けていた義手は、既に人のそれと見分けの付かない肌色と形状を獲得していた。

大まかに人、という形状だった手指も、残った生身の手と似た形になっている。

剣だこまで再現されているのもご愛嬌。

 

「お前がその腕を、自分の身体の一部だと認識したからだな」

 

剣を振ってる間に、腕を無くしたことすら忘れて、剣を降っていた時代を思い出したから、腕がそれに合わせて擬態したのだ。

トライアルシリーズからニャンニャンアーミーまでが必ず備える、カメレオンアンデッド由来の擬態機能だ。

 

「慣れれば肌の色を変えたり、ちょっとした装飾を着けた形にも出来るぞ、そうだな……」

 

対面に座り込み、手を取る。

外から少し干渉して、中指にシンプルな形の指輪を形成してみせる。

 

「わ」

 

「その腕の機能は、全てお前の思い通りに動かせる。手を握る、開く、それくらいに、できて当然、と考えろ」

 

「できて当然……むむ、むむむ……」

 

義手の手首を握って唸るも、指輪に変化はない。

まぁ……できて当たり前と思うようになる、というのは実際難しい。

手を握る、開く、という時に何かを考える事は無い。

無意識にできている事を意識的に行うというのは返って難しいものなのだ。

だからこそ、身体に動きが馴染んでいる剣道をなぞらせる事で生身の感覚を取り戻させ、義手の見た目を元の生腕に戻すことができたとも言えるが。

だから、必要なのはできると思い込む、錯覚する、という方が近いかもしれない。

 

「まぁ、最初から使いこなす必要はない。最低限の機能は音声入力で可能にしてある」

 

「なんだかむずかしくなってきたっすね」

 

発話の知能が低い。

おめー、せっかくかっこいい起動文章を設定したのになぁ。

 

「徐々に慣れていけばいい。それまでは付き合ってやる」

 

「うす……でも、いいんすか、自分は休校みたいなもんすけど」

 

「ふむ」

 

まぁ、交配実験を続けないといかんから、暫くはここに居ても良いんだが。

大学もあるし、ワーム狩りもしておきたい気持ちもある。

上手く行けばワームのサンプルは自家生産できるようになるが、自然発生した上位個体は確保しておきたいし、ZECTがどう動くか、という問題もある。

俺単独なら東京と基地の往復は一瞬で済むから……。

あ、でも、実戦経験を積ませたほうが良いのか。

監督下で戦わせるなら臨場感があった方が良い。

精神安定効果がトラウマ持ちにどれくらい作用するかの確認にもなる。

 

「じゃあ、引っ越しだ」

 

「うす!……引っ越しすか?」

 

「丁度いい物件がある。暫くはそこに住め」

 

喫茶寿の入ったビル、上のフロアに空きがあった筈だ。

あそこ、住居にしてしまおう。

店と同じフロアにあった仮眠室もついでに上のフロアに移す。

んで、俺が居ない時は店に居る連中に面倒を見させる。

護身の術は全員使えるからそこから覚えさせれば良いし、地下にあるロボタフを使えばリハビリもトレーニングもこなせる。

ホモがよく店に居るから、こいつに不吉な未来が近付いたら嫌がらせみたいな不安を煽る不吉占いで知らせて来るだろうし、防犯もばっちり。

 

「えっ、えっ? あの、さっきも言ったけど、自分実家焼けて、金もそんなにあるわけじゃ」

 

「養ってやると言っている」

 

目を白黒させる後輩の義手を握る。

 

「ひゃえッ?!」

 

背筋を伸ばし驚くが、手は離さない。

こいつは平穏な道ではなく、戦いのある道を選んだ。

新たな身体を与え、武器を与えたからって、即座に戦えるようになるわけじゃない。

よく切れる剣を持たせたとして、剣道の戦い方では敵を斬り殺す事は難しい。

身体を作り、武器を握らせたのなら、振るい方を教えてやる。

そこまでやるのが責任というものだし、そこまでできるようになってこそ、戦士というもの。

 

「黙って俺に付いて来い」

 

「は…………はい」

 

こいつを、志と力に相応しい、一端の戦士(フェダイーン)に育て上げてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 





☆義手を握る力強い手と真っ直ぐに見つめてくる眼差しと胸の鼓動に気を取られて義手の指輪が中指から薬指に無意識の内に移動してる事には気付かないサウスポーな後輩ちゃん
まぁでも出番はここでいったんおしまいなんすよね……
本編の出番を終えて本編背景に移動
なんか、こう、また日本全国大乱闘みたいなイベントがあったらちょっと出る
あと日常描写の中に紛れてたりする
たぶんもっと書けるんだけど、これ以上カブト編の本筋から外れっぱなしなのは良くないよって事でね
黒包丁回ですら二回で終わったのに三話もかけてしまった時点で手遅れなのは言うまでも無いし裏面も合わせると四回もやってる
もっと書きたいことあったんすよ、変身コマンドで義手だけ変身とか、決意が固まると全身変身とか、義手中心の変身だから左右非対称で片方マントで剣士というか騎士っぽいフォルムになるとか
変幻自在義手でゼクター受けも作れるからザビー強奪可能とか、義手から受け付いた剣を作ってサソードゼクター強奪とか
お前が尊敬するべき先達の生身戦士である中村くんだよとか、こやつまた女を拾ってきよったとか呆れられるとか、中村くん経由で女性関係を知って呆れたり奮起したりとか
でも思いつきで出したゲストキャラなのでここでおしまいなのだ
本編への干渉度で言えば裏面の交配ちゃんの産物の方が強く関わってくる可能性すらある
このまま描写したら擬態解除して戦闘形態になった交配ちゃんを卒業試験としてぶつけて勝って無邪気に喜んだりする話を書くことになったけど
ライダー二次創作って言ってるんだからオリキャラで人形遊びしてるんじゃないよってことで本編にもどるのでこやつは射程圏内の画面外におしこみます
剣道モチーフの強い変身というとあやつマンしか思い浮かばないという話もしたかったけどそんなのはもういいじゃないか
調和の神がなかなかツワモノキャラっぽくて嬉しい気持ち、なんだあの扇子

☆逸材を見るとつい興奮が抑えきれなくなる男
自分があんまり持ってないものの塊だからね
そこに自分が与えられる不足分の要素を足せるなんてなったらこうもなる
なお、本編で話した余裕の話でわかる通り、後輩ちゃんの告白タイミングは、こやつの戦力がプロトアークルとちょっとした超能力のみで尖兵無しで殺した相手が記憶喪失で家に転がり込んできて危険度測定不能っで時期だったので
まぁそんな時期に告白されても……って事で告白が未遂に終わっていたのは不幸中の幸いだったかもしれない

ちなみに年齢制限版も同時公開
エロいかどうかはともかくできれば本編でやりたかったけど、本編の裏面って事にする方が良いような感じに仕上がったので見れる方はそっちも読んでもらえると嬉しいなという気持ちになります
そんで次回からは何事もなく本編に戻ります
ZECTに喧嘩とか売りたいよね
たぶん自社製品でないゼクターとか喧嘩売ってくると思うんでいけると思うんですよ
融和路線は無いです
侵略者の手先とは徹底的に殴り合います
それでもよろしければ次回も気長にお待ちください

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