オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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174 伸ばした手は届かないし力は及ばないし願いは叶わない、ただの無力な一人の人間

ぎし、と、繊維質の軋む音で目が覚める。

身体に力が入らない。

周囲を見渡そうとして、じゃらりと鳴る金属音。

首には喉が絞まらない程度に巻かれた革と金属の感触。

首輪に、それと繋がった鎖。

太くはないが、しっかりとした造りでとても壊れそうにない。

 

身を捩ると、手首を縛る縄が食い込む。

もう無いはずの利き腕の手首までが痛む。

見上げれば、座り込める高さで天井から吊るされた縄で、生身の両腕を縛られている。

残っていた片腕に刻まれた火傷痕も無い。

身体を見下ろせば、かつて突き立てられた怪物の歯型も、ケロイド状の火傷痕も無い。

 

代わりに、とでも言うように刻まれているのは、腕や脚に残る力強く掴んだ跡、腿や臀部に赤く残る張った手形。

鏡を見れば、首元には人の歯型が薄く残っているだろう。

そして、下腹部に残る痛み交じりのドロリとした性の余韻。

痛みの、感触のある、あると思ってしまう、生々しい夢。

そう、夢だ。

何もかもが、説明がつかない夢。

 

「ぅ、うっ……」

 

嗚咽が漏れる。

涙が溢れる。

なんで、どうして、信じていたのに。

きっと、これは、悪夢。

都合の良い夢を見ようとした代償だ。

 

―――――――――――――――――――

 

数年ぶりの知人との再会。

その相手が、現状ではベストとは言えずともベターな要素を兼ね備えていたので、とりあえずゆっくり話を聞ける場所へ。

おなじみ自前の喫茶店に連れ込む。

 

「昼飯もう食べた?」

 

ふるふると小さく首を横にふる。

 

「そっか。アイスコーヒーと日替わり二つずつ!」

 

厨房に向けて大きな声で注文を通す。

人払いをしているので、店内には当番で詰めていたFAGとやることのないニャンニャンアーミーくらいしか居ない為、変に注目を浴びることもない。

厨房から間延びした返事が聞こえるのを確認して、後輩に向き直る。

 

「まぁ、不味くは無いから安心してくれ。アレルギーは無かったよね?」

 

「うす。……あの」

 

恐る恐る、といった風に、こちらを上目遣いで見上げてくる。

上目遣いではあるが、その実上背は俺よりも少し高いくらいある。

新たに少し思い出した。

こいつ、試合や練習の最中は背筋が伸びているのだが、そうでない時は大体猫背だった、気がする。

確か……変に薄らデカくて可愛くないから、みたいな事を言っていたか。

 

男子平均よりも少しデカい、という程度で変に長身という訳では無い。

剣道着が似合うが、バレーだのバスケで無双出来るほどにデカくない、くらいのバランスだ。

中学生ながらにその筋肉質でスレンダーな体型も含めてモデルでもやったら似合いそうとは一部で言われていた、という事を聞いたことがある。

上背があって筋肉質で背丈があって猫背で常に膝を少し曲げているものだから、俺としては戦闘態勢の猫系獣人ぽいなと思っていたが。

 

「なんも、聞かないんすね」

 

ぽつり、と、そんな事を溢す。

えー?

いや、お前さ、花を咲かせる昔話がそんなにある間柄でも無いのに喫茶店にいきなり連れ込んだ俺もあれだけどさ。

片腕義手になって顔面火傷してそれを髪伸ばして隠してて、季節に合わない長袖とか見るに残った腕なり身体の他の部分も何かしら傷跡あるだろうなってのは、一目見てわかるよ?

でもそれを6年ぶりの再会でいきなり聞いてくる先輩とか願い下げだろ……。

 

俺逆の立場で同じ怪我してて6年ぶりに再会した先輩に、

『いやー久し振りー!片腕無いし顔火傷してるみたいだけどどないしたん?事故か事件?』

とか聞かれたら飯が奢りでもお冷顔面にぶちまけてそのまま退席しても仕方ないと思うんだけど。

 

だが、まぁ、眼の前のこいつの精神状態がそれほど安定してないか、低いところで安定してるんだろうなってのはわかる。

というか、こいつからしたら数年ぶりに再会した先輩に少し挨拶したらいきなり喫茶店に引き摺りこまれた訳だし。

こいつから話すような話題というのも無いのだろう。

 

「俺は優しい先輩だからな。久しぶりに会った後輩に飯でも奢ってやろうかと思っただけ」

 

店内に流れている有線の音楽に紛れて厨房の方から(ドッ!ワハハハ!)みたいな声が聞こえるのを確かに耳にした。

おめーら後で覚えとけよ人型は過充電の刑だし猫型は三味線の刑だからな。

だが、眼の前のこいつにはそんな音は耳に入らなかったのか気にならなかったのか、『ッス……』と小さく呟いてまた俯いてしまった。

 

樺地じゃねーんだから日本語で喋れや。

と、そういう風に言うのも酷なのかもしれない。

こいつは剣道部の中でも、その体格もあってまぁまぁ強め……いや、そんなに弱くない……まだましな方から数えたほうが良いくらいの位置に居た気がする。

剣道専門でもない帰宅部に助っ人を頼むような、基本的に県大会に行けたり行けなかったりの強くも弱くもない普通の運動部なのでたかがしれてはいたが。

 

「今、剣道はやってないの?」

 

「やってない、っすねぇ……腕、こんなんなっちゃったんで」

 

話のフックとしてとりあえず起爆するつもりで地雷を踏みに行ったが、不発。

どころか、へ、へへ、と笑いながら義手にかけていた手袋を外して見せてきた。

義肢を装着する怪我でなおかつ死んでないというのは珍しいが、それよりも気になるのは表情だ。

変なタイミングで無理に態とらしく笑ったり、その笑いも何処となく卑屈そうなものだし、表情の隙間に泣き顔が挟まってる様な、というか。

顔の火傷で表情が引き攣っている訳でも無さそうだし。

 

こいつとの思い出はそんなに無いので、当時の人間性とかをどうこう言える程に積み重ねがある訳では無いが……。

もうちょっと、喜怒哀楽がちゃんとした、怒るような事をすればちゃんと怒るような奴だったような。

いや、怪我の具合からして、人生観とか人格とか変わるレベルで色々あったんだろうけども。

 

そうだよなぁ、腕片方無くなって全身の怪我、多分火傷?顔にまでとなりゃ、中々無邪気なままとはいかんよな。

昔馴染みの連中とか友人とか家族がこうならなくて良かった。

努力の甲斐があった。

それが確認できただけでもこの再会には価値がある、というものだ。

 

しばし、互いに無言。

店内に小さくかかる有線の音楽と、厨房から聞こえる調理音だけが心地よく鼓膜を叩く。

少し前までの焦燥は無い。

ワームとの交配を押し付ける相手は見つからなかったが、適度に可愛く、性的関係になく、完全に知らない訳でもないという都合の良い相手が転がり込んで来てくれた。

 

ワームの擬態メカニズムは解析済みであり、既に模倣が可能な段階にある。

俺より知識がなく弱いやつに擬態しても意味がなく、俺が持たない技術を持つ相手は大体擬態対策持ちなので自己強化にはなんの意味もないが……。

擬態に必要な情報を式神化ワームに転送する中継点に俺がなる、或いは必要な情報を蓄積しておく事でその場に居なくてもワームに擬態させる事が可能なのだ。

ちょっと隻腕で顔とか身体に火傷の跡があるが、サナギ体と比べたら女神みたいなもんだ。

いけるいける。

 

まぁ……冷静に考えると、この眼の前のこいつ、元後輩は知らぬ間に記憶と姿を写し取られて、知らぬ間に自分の記憶全部持った自分と瓜二つの相手をそんなに親しくない昔の先輩が犯すとかいう、なんか前世で悪い事したんかと聞きたくなるような目に会う訳だが。

普通に恐ろしく気持ちの悪い話だと思う。

 

少しだけ申し訳ない。

でも俺もワームサナギ体をプレーンで食べるのは難しいのだ。

誰かが犠牲にならないと成立しない実験なので、やむなく人知れず尊厳を破壊されてくれ元後輩……。

お前自身には何の悪影響も無いはずだから。

許可とろうものなら正気を疑われるのは目に見えてるから、断固として眼の前のこいつには無許可でヤルが。

結果として俺はお前の身体が今どんな事になってるか残さず知ることになるが、それを表に出す事は絶対にしないことを今ここで心の中だけで誓おう。

 

「お待たせしましたぁ、日替わり定食とコーヒーです」

 

クラシックスタイルのメイド服に身を包んだ店員のシロが食事と伝票を置いていく。

馴れた相手だと舐めた口を効くが、知らん相手だと何も言わなくてもまともな対応ができるのがこいつらの良いところだ。

ニャンニャンアーミーに運ばせなかったのも細やかな気配りだろう。

珍しく出来合いの品の組み合わせではない定食を前に手を合わせ食べ始める。

 

「センパイは知らないかもっすけど、自分、高校行ってからも、剣道続けてて」

 

飯を前に、箸にも手を付けず、膝の上に手を載せて肩を強張らせたまま、元後輩はポツポツと喋り始めた。

進学先の県外の高校でも剣道を続けたお陰で二年三年ではレギュラーだったこと。

勉強も頑張っていたので大学に推薦も貰えていた事。

それが、センパイに追い付こうとしていた為だということ。

俺かぁ。

幼少期からの脳開発と魔石の恩恵ありきだからなぁ。

常人が憧れて真似るには非現実的なスペックになってしまっているから非推奨なのだけど。

 

「そしたら、ボランティア先の孤児院で……あ、あれと」

 

テーブルの上に置かれたスプーンがカタカタと揺れている。

膝に置かれていた手は、義手、というより、無くなった腕を抱くように身体を丸めて、半ばテーブルに突っ伏す様な姿勢に。

俯く顔は伸ばされた前髪で殆ど見えないにも関わらず、ダラダラと冷や汗が流れ、短い呼吸音が響く。

 

「こ、子供が、食べられてて、たす、助けなきゃって、咄嗟に」

 

彼女は俺のひとつ下の学年なので、高校三年生で推薦が決まった時期となると、マッドアークの発生時期と丸かぶりする。

進学が決まって受験勉強に時間を割かれない為に、課外活動に勤しんでしまったのだろう。

それがボランティアで、挙句の果てに向かった先が孤児院だった。

そこの孤児がマッドアークに変じてて、その場の人間を食べ尽くして飛び去る前に遭遇してしまった。

で、咄嗟の判断で逃げるのでなく助けようとなったわけだ。

 

「え、人食いでその時期だとあの白い化け物だろ? どうやって助かったの」

 

「し、竹刀で斬り掛かったら、ぶんっ、て振り払われて、う、腕、うで、あの、うで、ぶちって」

 

うわ。

痛そう。

というか生身の人間でそれは大体ショック死すると思うのだけど。

人間を鷲掴みにして持ち上げて頭からばりばり喰い殺せる怪物を相手に竹刀一本で立ち向かうのは勇敢通り越してる。

たぶん、使命感とか正義感ってより、混乱してたんだろうなぁ。

 

「取れ、た、うで、食べられちゃって、そしたら、あいつ、こっちに近付いて、腰が抜けて、か、アイツのかお、口が」

 

ガクガクと身体を震わせながら自らの身体を抱き締める。

生身の手が脇腹辺りを庇っている様にも見えるが……、力が入り過ぎている。

コーヒーと飯の臭いに混じって血の匂いが漂い始めた。

あの辺りに古傷があって、それが開いてしまったのだろう。

或いは服の上から強く握り過ぎて爪が剥がれたか。

 

ちょうどご飯を食べ終わったので、立ち上がり、自らの体を抱えて丸くなった元後輩の横に立つ。

家族恋人友人が殺された復讐心抱えたまま山に登って赤心寺見つけられる奴らなんて、被害者遺族の中ではメンタルの強さでは上澄みも上澄みだったんだよな。

そんで、こいつは自分で立ち向かった挙げ句に腕一本取られた上に喰い殺されそうになってるんだから、そりゃこういう形にもなるか。

このレベルでトラウマが残ってる奴の脳みそは弄った事ないが、なんとかなるだろう。

 

隣の席に座り、丸まった元後輩の身体に腕を回し、頭の辺りを胸元に抱える形に抱き締める。

モーフィングパワーを使って無理矢理に脳内物質を調整して正気を取り戻させることも出来るが、現象として余りに不自然な為に後々変に勘繰られる可能性が残る。

こうして今この場にしか居ない人間の体温と鼓動を感じさせることで、意識をトラウマとなっている過去の記憶から今現在へと緩やかに引き戻す事が可能になるのだ。

……という理屈を立てること前提で、触れた箇所から脳に干渉して、安心感を強く、思い出している記憶へのアクセスを曖昧にして、徐々にリラックス状態に持っていく。

 

ここで、落ち着けるのに最適な言葉の一つも出てくれば良いのだが。

燃える復讐心に燃料を継ぎ足し限界を越えさせる言葉は無限に浮かんでくるものの、トラウマでその場に蹲るしかなくなってしまう人を安心させる言葉はありきたりなものしか浮かんでこない。

だが、元後輩の身体の強張りは緩くなり、力が抜けて行くのは感じられる。

よし、丁度いいから、一旦意識を失わせてしまおう。

 

「大丈夫、ここには、怖いものは居ない」

 

「う、ぅ……」

 

脳の波形を睡眠時の物に書き換えるよりも早く、意識が飛んでしまった。

眠ったのか気絶したのかも曖昧だ。

身体を抱き起こす。

トラウマをセルフで穿り返している間に流れたのか、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ、良く見れば眼の下には濃い隈が出ており、顔色も決して良くはない。

栄養状態が極端に悪い訳では無いようだが。

素人判断だけど、ストレスから来る睡眠障害とかかもしれない。

で、そんな半病人みたいな顔色なもんだから、髪で隠してる方の顔、火傷痕もコントラストでそれなりに目立つ。

 

「お父さまぁ……、流石に、そんな感じの娘に手を出すのは、倫理的に不味いんじゃないかしらぁ」

 

救急箱を抱えてやってきたシロが嗜めるようにそう言ってきた。

 

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

 

「擬似孕ませプレイ大好きマン」

 

否定できないけども。

なんの罪もない人間のけが人の寝込みを襲うほど落ちぶれてはいない。

とりあえず、開いた傷口だかなんだか、生傷の方は今のうちに処置してしまうか。

 

―――――――――――――――――――

 

バックヤードの休憩室に運び込んで上着を捲りあげて調べてみたところ、案の定脇腹にある古傷が開いて出血し、ついでとばかりに手の爪も剥がれかけていた。

更に言えば爪の変形が酷く、剥がれかけては治る、治っては剥がれかけるを繰り返していたのが容易に想像できる。

 

脇腹の古傷……そんな古くないけど、傷としては閉じていたのは、恐らく獣の噛み跡。

自然界の生き物のそれとは異なるちぐはぐで不揃いで奇妙な歯型は、やはり元後輩の証言通りマッドアークによるもので間違い無い。

これも皮膚を裂いた程度の傷ではない。

恐らく中の筋繊維、その下の肋骨まで深々と噛み付かれた筈だ。

 

姿勢が常に丸まっていたのも、元からの癖以上に傷跡を庇う動きからのものと思われる。

噛み千切られている訳でもないし、噛み付かれて断裂した部位の縫合もしっかりしてる。

が、物事には限度というものがある。

アスリートとしても武術家としても絶望的と言っていい怪我だ。

 

一人で東京を彷徨けている、つまり、日常生活をなんとかこなせるようになっているのは彼女の血の滲むようなリハビリの成果なのだろう。

一年ちょい、一年と半分くらい?でここまで動けてるのは努力の賜物か、或いは元の身体能力がかなりのものだったのか。

で、その果てにあのヤマタノオロチ、という訳だ。

 

呪われてるんじゃねぇのかこいつ。

とは思わない。

何かの悪霊付きだったりはしないようだし、体内に直接手を入れて探ってみたが、呪物の類がインプラントされてもいない。

というか、本当に運が悪い奴はマッドアークかヤマタノオロチのどちらかで死んでいる。

生きてるやつは少なくとも死んだやつよりは運が良い。

 

悪運が強い、とでも言うのか。

火傷も、なんだろう、手のひらから腕、くらい?

後は腕から肩、片胸、脇腹、背中周りに薄っすら。

燃えてる瓦礫でも持ち上げようとしたかなこれは。

片腕の、肘から先の義手、安物使ってるのはもしかしたらその時に前に使っていたのが焼けてしまったのかもしれない。

溶岩化した魔化魍に襲われた、とかでは無さそうだな。

 

「……なに脱がせてんすか」

 

火傷痕の残る手を掴んでしげしげと眺めていたら、手を握り返しながら元後輩が目覚めた。

 

「出血してたからな」

 

「こんなの、ほっときゃ止まります」

 

「頭の悪い体育会系じゃないんだから」

 

「頭、良くないんすよ」

 

そう告げる元後輩の目は虚ろだ。

意識が朦朧としている訳では無い。

 

「この間の噴火で、火事で、運良く火には巻かれなかったのに、見つけちゃって、倒れてるひと」

 

「あのひと、気絶してたのかな……もう死んでたのかも……なのに必死で、瓦礫持ち上げちゃって飛び込んで、声かけて、そしたら、目の前で……」

 

「助けられるかも、なんて、変に思い上がって、こんな怪我して、ただの馬鹿じゃないすか」

 

精神の鎮静は引き続き行っている為に、痙攣しながら泣き出す、なんて事は無い。

のだが、逆にダウナー方向に振れすぎてしまっている。

虚空を見詰めながらブツブツと後悔らしき言葉を繰り返している。

 

「おみぐるしいもん見せて、すんません。……どうせ見せるなら、こうなる前に、見せたかったんすけど」

 

にへら、と、顔を無理矢理に歪めて作ったような笑顔。

目の端から一筋、涙が溢れる。

それを、零れ落ちる前に、指で受け止め拭う。

 

「確かに馬鹿だな」

 

こいつは運が良かった筈だ。

マッドアークが目の前で子供を食べていたというのなら、それを食べ切るまでは猶予があった。

人食いの怪物に恐れをなして逃げ出していれば助かった筈だ。

こいつは運が良かった筈だ。

溶岩化した魔化魍に襲われることも無く、火災に巻き込まれながら、自分自身は炎に巻かれることも倒壊に巻き込まれる事もなかった。

 

こいつが腕を失ったのも、火傷を負ったのも、全て、こいつが自らの身を顧みる事なく、誰かを助けようと動いたからだ。

一度なら、突然の事に混乱したからなのかもしれない。

だが、こいつは、腕を失い、武道家として、アスリートとしての道を絶たれる様な怪我を負った後も、同じ事をしてみせた。

 

自らの生命のために敵を排除するのではない。

誰かを助ける為に、その生命を投げ打ってでも動ける。

それは判断ミスで、考え無しで、或いは二次被害を産むような愚かな行動かもしれない。

普通に鍛えただけの生身の人間は怪物に負けるし、火災に巻き込まれたら自分の身の安全を優先しなければならない。

当たり前の事で、それをしなかった、できなかったこいつは間違い無く馬鹿だ。

必ずしも称賛されるべき行いではないだろう。

世間的にはその結末と共に、憐憫と共に窘められるように注意されて終わる危険行為でしかない。

 

「だけどそれは、()鹿()()()()()()()()()()()鹿()だ」

 

「はぇ……?」

 

「誰も、お前の行いを笑うべきでない。お前自身も含めて」

 

こいつの生き死にに関して、実のところ今もまだそれ程興味を持てない。

未だもってこいつは、昔々の中学生時代に少し交流があった後輩、ちょっとした知り合いという枠から出ない。

 

「ひわっ」

 

元後輩の手を掴んだまま立ち上がり、脱力した身体を引き起こす。

間抜けな声を出しながらそのまま転けそうになった身体を抱き止める。

 

「ひょぁ、ぁえ、あの、しゅみましぇん……」

 

情け無い声だ。

顔を俯かせたままの、蚊の鳴き声の様な謝罪。

またまた、少し思い出す。

昔、部活の時だっつか、似たように助け起こしてやった事があった。

その時こいつは、ありがとうございます、と、そう言えていた。

迷惑を掛けてしまったのでなく、親切をしてもらえたから、と、後にそんな事を言っていた気がする。

 

抱き留めていた身体を引き剥がし、顎を掴んで顔を上げさせる。

伸ばした前髪も乱れ、火傷痕の残る顔が剥き出しになり、顔を逸らそうとするのを力で押さえつけ、目を見る。

 

「その身体、嫌か」

 

「え」

 

「剣を握るための腕が無くて、爪も剥がれて、醜く焼け爛れて」

 

「……」

 

「それでも、そこまでしても、化け物に喰い殺されるしかない、火事場では焼かれるしかない、後から思い出して、怯えて震えるしかない、後悔に俯くしかない」

 

死や痛みではない。

誰かを失ってしまう事が。

 

「誰かを救うことのできない無力が嫌か」

 

精神操作は解いている。

その後遺症か?

それとも、一度泣いたから、喚いたから落ち着いたのか。

涙の跡も乾かず残る、濃い隈の浮かんだままの顔で、瞳を揺らすことなく、まっすぐに俺の目を見返している。

 

「自分は……」

 

「よしわかった!」

 

言葉を遮る。

この視線を見て、全てを語らせるのは野暮というものだ。

 

「全て任せろ」

 

「これから乗るのは大船だ」

 

お前の払う代償はたった一つ。

それで、俺はお前に必要な全てを用意してやろう。

 

「あ、……、……ウッス! ヨロシクお願いします!センパイ!」

 

俺のちょっとした昔の知り合い、尊敬すべき元後輩は、ようやく、少しだけ聞き覚えのある、快活な返事を返してきた。

 

 

 

 

 

 

 




一つの話の
書き始めと書き終わりで話の方針が変わるのは
無計画ということもあるけど
話を書いてる内にキャラ同士の感情の矢印に変化が生まれてしまうからなので
結局は無計画に書いているからなのです
冒頭の部分、最後の方書いてる段階で消すかどうか迷ったんですが
これ、尊敬を抱いたのは後輩に対してであって
そんな後輩の精神コピーに対しても尊敬を抱くかっていうと
べつにそんなタマじゃねぇなぁ
普通にヤルだろこいつ
という事で続行になりました
次回に何が起ころうと式神ワームは後輩ちゃんの肉体精神をコピーした交配ちゃんになり無慈悲な凌辱を受けます
エロ話書くか書かないかも次回に合わせた方が良いのでまだということで
そもそもエロ話書く前にちゃんとワームとかZECTとかゼクターとかの絡む話を書けってね
でもどれくらい原作要素を前に出すかが自由なのもこういうSSを書いてて楽しいところなので
わたしはわたしの楽しいことをします


☆世界の危機を知る前の様子を元後輩を経由して描写されそうでされないマン
世界の危機を知らずに人生2周目は幼少期からの自分育成ゲームで高スコア叩き出せてたので、表面上社会性を備えたお調子ライダーだった
物腰柔らかで礼儀正しい方向に振った天道と矢車のミックス……みたいな
んでちょくちょく平成ライダーの名言を使っていたので、部活の助っ人を頼まれた時にはここぞとばかりにみなまで言うな!とか言って言葉を遮っていた
今みたいに気を張ってなかったので人当たりは柔らかかったし、人格的に気に入った相手を強化改造しようともしないし、禁術や危険な戦闘力を備えたキメラを量産したりもしなかった
基本的に善人が好き
好きになった相手は死んで欲しくないので改造するか護衛をつける
え?自分がいざとなれば普通に死ぬであろうことを体験して痛みと共に実感してるのにそれでもなお自らの窮地の中でも人の命を救わんと足掻く精神を持った昔の知り合いがかたわになって全身やけどでトラウマを抱えている?
まかせろ(天衣無縫)
もう昨日今日明日未来全ての涙を宝石に変える勢いでなんとかしてやるぜ!
でもたぶんその魔法魔族とか邪神から力を借りるタイプだし乗る大船は殴り込み直前のヱルトリウムとかだけど……
本人の意思が硬そうだからいいよね!(意思未確認)

☆不幸にもマッドアークに遭遇して不幸にも喰い殺されかけて不幸にも火災に巻き込まれて不幸にもそこで眼の前で人が押し潰されて死ぬのを目撃して不幸にも片腕欠損全身やけど歯型で腹筋周りの筋肉にも後遺症残ってそれらのどこに一番不幸を感じているかと言えば
助けられなかったこと、力が及ばなかったこと
それに悲しみ涙を流せるし
誰も助けられない非力な一人の人間でしか無いことを、焼け爛れた顔よりも恥じるしそのお陰で剣で培ったプライドとかはへし折れて卑屈になったりする
伸ばした手は届かないし力は及ばないし願いは叶わない
でも誰かを助けたいと願うし力があればと思いながら届かなくても手を伸ばし続けようとした
無謀で無思慮ななんの力もないただの一人の人間
そんな一人称自分語尾ッス系後輩
ということに書いてるうちになったのだ!
だってあのままだと火傷あるし片腕無いけど素ワームより全然いけるちんこたつよ普通に
ってなって話膨らまないなぁってなったので
ちんこは幾ら膨らませても良いけどカブトの年にワームやらZECTやらと一切関係ないオリキャラを出して話を膨らませるんじゃあない!
と言われるかもしれませんが
返す言葉もない
返す言葉もないというのは謝罪の言葉も無いということです
別にいいじゃないですか僅かにカブト編との繋がりはあるエピソードなんですから!
結局本筋に一切関係無い料理人と料理バトルして最後に取って付けたように相手がワームだったからぶっ殺して終わり、みたいのが許されるのがカブトの懐の深さなんですよ!
最後の方でちょい元気になったのは、大船云々が主人公が普通の調子乗り男だった頃に言ってた台詞と被っていたとかそんなん
助っ人として試合に大将として出て、先鋒一人に4枚抜きされた後に5枚抜きする直前とかにそういう事を言ってた、みたいな
そんなこんなで次回大改造
本人は凌辱されたりしないから安心してほしい
それはともかく、書いてみるとあんまり後輩犬系ッスキャラをかわいく描写できない難しさを感じる
まるで操虫棍みたいに複雑で扱い難い……使いこなせたら楽しいんだろうなって手応えも含めて
あ、ひとつ下という事に今回しましたがそれだと説明と学年やら事件のタイミングやらが違うとか以前に違う学年で説明してたとかあったら教えて下さい
過去にクォーツァーを送りこんで凸凹で醜い過去を改変します(ISSA)

ちなみに当然ながらヒロインは増えない
今のヒロインですら増やし過ぎて扱い切れてないしなんなら全員を平等に描写することに関しては考えもしてないし
でも書いてるうちに筆が乗ってしまったので後の扱いをどうするかは一旦全て投げ出して書きたい話を書いていく
原作でやりたい話もあるけど、まぁ、それは今の話を区切ってから考えよう
ぐによりはプロット立てとか書き溜めとかそういう、器用なことはできないので
出たとこ勝負!
という向こう見ずなSSですが、それでもよろしければ次回を気長にお待ち下さい

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