オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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18 受け継がれるもの

冬の厳しい時期を過ぎ、春の兆しが見え始めるこの季節。

俺の生まれ育つ町は未だ寒さ厳しく、コンビニで食べる肉まんやおでんが美味しい。

だが、日本でも最南端にあるこの県では、もうそろそろ半袖に切り替えてもいいのではないか、と、そう思える程度には気温が上がり始めていた。

日差しが強い。

じりじりと照りつける、という程でもないが。

いや、やっぱり暑い。

少なくともこの時期の沖縄でライダージャケットは無謀だ。

 

持たせてくれた母さんには悪いが、ジャケットは既に脱ぎ、鞄に押し込んでいる。

暑くてとても着ていられない。

……というか、このジャケット変身してもそのままだから焦った。

なんなんだこのジャケット、妙に頑丈だし。

 

「家族会議……いや、藪蛇だな」

 

一番腹を探られて不味い思いをするのはほぼ間違いなく俺だ。

健康診断で腹を探られる(医療)危険性が一番身近だと思っていたが、まさかうっかり自分から腹を探り合う(心理)ような真似をしようと思いついてしまうだなんて思わなかった。

謎は謎のママにしておこう。

不都合が出るまでは。

 

バイクを適当な場所に止め、春の沖縄を歩く。

本州北部からだから正確な位置情報が掴めなかったが、ここまで来れば探そうと意識するだけでゲブロンの場所は筒抜けだ。

だから、バイクで近場まで来れば、あとは逃げられる事が無ければ数分もせずに発見できる。

 

「来たか」

 

声を掛けるより、袖の中に投擲用の針を作るより早く、その女は振り向く。

薄暗い店内、しかし、一般的な商店街の古物店とそう変わりなく見える店内には似付かわしくない筈なのに、嫌に空気に馴染んだ姿。

白いサマードレスに身を包んだ豪奢な、妖艶な美しさを誇る女。

以前見た時には背中まであった髪は、首元で斜めにばっさりと切り落とされていた。

イメチェンか、或いは誰かに切られたか。

額に刻まれていたバラのタトゥーは、ファンデーションで隠されていた。

だからといって、顔写真が警察に出回っている以上、それだけで姿を隠せるものではない。

この女が、ラ・バルバ・デが何事もなくこうして居られるのは、間違いなく外部協力者が居るからだろう。

ちら、と、店のカウンターで膝の上の猫を撫でるおじいさんを見る。

ゲブロンの反応。

東京で確認できたどれとも異なる、あの都市に集まらなかったものか。

 

「ドルドはどうした」

 

「そろそろ、新たなンが訪ねてくるだろうとの事でな」

 

バルバが投げた何かを受け取る。

ベルト、それも、完全な品。

ゲドルード、そしてゲブロン。

生物と結合していないから最低限の反応しか無いが、ゴのゲゲルが始まる辺りから東京で感じていた反応と同じ。

 

「どちらでも良いが、私の方が説明は上手い。奴は役目を終えた」

 

「予想していたのか?」

 

「いや、正式な手続きだ。来い」

 

店の奥へと歩き出すバルバ。

その背を追い歩く。

罠を警戒する、という考えは、不思議と思いつかなかった。

グロンギは残虐な殺しを行う事はあるが、相手を罠に嵌める、という事はあまりしない。

ゴの強い方のイノシシなどは珍しい例外と言っていい。

いや、そんな理屈よりも先に、この流れが非常に自然なものである、と、受け入れている自分が居るのがわかる。

良くない感覚だ。

根拠のない思い込みよりもタチが悪い。

 

「設計図というものは存在しない。ヌであれば感覚で作れるだろうが、生憎とヌはもう居ないのでな」

 

「表のは」

 

「あれは、もうヌではない。ゲゲルに関わる事は無いだろう。戸籍もあるそうだ」

 

そういうものか。

いや、わかる。

表の店主は、確かに魔石ゲブロン、或いは霊石アマダムに似た反応を示していた。

だが、見える範囲にタトゥーは無く、そして、恐らくはゲドルードではない何かで魔石を制御している。

 

「工房か」

 

「教材が多く有る、説明には都合がいい」

 

古物店の奥には、明らかに現代の文明のものとは異なる様々な器具が修められた棚が並んでいた。

一目で判るとすれば、これらがどれ一つ例外なく、グロンギのゲゲルに関わる祭具を作る材料や工具であろう、という事だ。

わからない部分があるとすれば。

 

「ここで、ゲドルードは作れない」

 

破損しているとはいえ、ダグバのゲドルードの解析は済んでいるため、基本的な機能は理解している。

ここにある器具は、ゲドルードと同等のベルトを作れても、ゲドルードを作るには適していない。

棚の端を見れば、修理を途中で投げ出したベルトのバックルが見える。

ゲドルード、ではない。

アークルでもない。

だが、新たに作られようとしているものではない。

修理している最中に、修理する理由がなくなって放置されている、のではないか。

使うタイミングがなくなったのだ。

ガンバライジングが普及した後のガンバライドカードの如く。

埃の積り具合は一年で済むものではない。

寂れた古物店の隅に放置されたゴミの様な、そんな年季を感じる。

 

「そうだ。だが、役には立つだろう。お前が作ろうとするものには」

 

「……正式な手続きの一環として?」

 

「ああ。今度こそ、正式な手続きとして、だ。座れ。リントの言葉にまとめては有るが、我々独自の言い回しに関しては、私が説明しよう」

 

白のサマードレスが汚れるのも厭わず、バルバは部屋の中心に備え付けられた作業机の椅子に腰掛けた。

 

―――――――――――――――――――

 

無理矢理にでも吐かせるつもりで来て、吐かせるつもりでいた相手が自分から差し出してきた情報は、驚くほどに纏まっており、仰々しい物言いしかできないバルバの言葉にも関わらず、すんなりと俺の頭の中に収まった。

まるで、元からこの情報を引き継ぐ時のテンプレートでも作られていたかの様な無駄の無さ。

教材もいいのだろう。

恐らくは一通りのゲゲルをクリアし、しかしザギバスゲゲルは経験していない。

劣化も無い完品のゲドルードとゲブロン。

 

「覚えが良いな」

 

「お前らは全員そうだった」

 

言ってしまえば、俺のこの物覚えの良さに関して言えば、グロンギは全員が持っていて当たり前のものだ。

覚えが良い、と言っても、覚えることに熱意を持てるかどうか、の違いでしかない。

 

「いや……、ダグバはな、この話に関して、覚えるつもりが無いと言っていた」

 

苦労した。

そう、バルバは目を瞑り、呟いた。

超然とした態度を取り続けていたバルバに似付かわしくない、僅かに疲れを滲ませた様な声。

 

「純粋だった。ンとして、あそこまで完成された者は居なかった」

 

「そうか。……いや、そうだな」

 

ンである為の条件など、俺は殆ど知らない。

だが、ムセギジャジャの頂点として相応しい存在であったか、と言われれば、俺は一も二もなく頷くだろう。

 

「強かったか」

 

「間違いなく」

 

頷くと、バルバは形の良い唇を歪ませ、満足気に薄く笑う。

 

「ならば、お前はもっと強い」

 

「…………」

 

「究極の闇は齎された。ダグバは、役目を果たした。究極の闇にはなれなかったが」

 

「それは」

 

()()()()()()。挑戦権はお前に移った。……ガミオを知っているか」

 

頷く。

 

「今はもう居ない。ダグバも、ガミオも、それ以前の者も。──お前が『ン』だ。解かるな?」

 

しばし考え、頷く。

 

「そうか。……ならば」

 

白い長手袋の細い指先が、バルバの下腹部に充てがわれる。

ず、と、肉を貫く音と共に、手袋を赤く染めながら、その指先が沈んでいく。

進む度にぶつぶつと繊維質の何かが千切れる音が埃っぽい部屋の中に響き、ずる、と、中身が引きずり出された。

 

「役目は終わった」

 

真っ赤な、血よりも薔薇に似た赤に染まった魔石。

完全に肉体から離れると同時に、血液と漏れ出した内臓に塗れた白いドレスの上に、ゲドルードが浮かび上がる。

それを、白いままの手袋で覆われたもう片方の手でつかみ、テーブルの上に置く。

並べられた、赤く濡れた魔石とベルト。

 

()()()()()()()()

 

―――――――――――――――――――

 

死体を消す事は、モーフィングパワーを極めた者にとってみればどうということも無い。

ただの身元不明の死体ならばともかく、未確認生命体として知られている人間の死体なぞ、残しておいても悪い事態を呼び起こすだけだ。

 

だが、ここにちょうど、良い材料が二つもある。

周囲の器具や直し掛けの知らないベルトも材料にできる。

念のためにと持ってきていた、一番どうでもいいゲブロンが一つある。

今、教えてもらった知識を元に、一先ず試作を完成させてしまおう。

 

しかし、その前に。

バルバの死体に触れる。

漏れ出た内臓を腹の中に念動力で押しやり、傷を塞ぐ。

破れたドレスも直し、床に溢れた血液だけを消し、部屋の隅に横たえる。

消すのは後だ。

 

「お疲れ」

 

そう告げて、机に向かい直す。

後は、頭の中にあった設計図を修正しながら実物を作るだけ。

家に置いてある造りかけに関しては、このベルトを使った実験の後、被験体の経過を少し観察してから改めて修正を入れて作り直そう。

 

今日は、収穫の多い日だった。

収穫の多さが幸福に繋がる訳ではない。

知らなくてもいい、余計な事を知った様な気もするが。

少なくとも、貴重な被検体を無駄死にさせる危険性がなくなった事だけは、手放しで喜んで良いだろう。

 

―――――――――――――――――――

 

そして、俺の沖縄旅行は無事に終わった。

本当なら、沖縄に来たのなら、美ら海水族館くらいには行きたい。

行きたいが……残念な事に、この2001年にはまだオープンしていない。

いや、正確には前身となる海洋生物園は存在しているのだが、聞いた話では老朽化が進んでいて、少し今向けの水族館とは言い難い、らしい。

それでも見てみたくはあるのだが……、流石に今はベルトの完成を優先するしかないだろう。

 

ベルトの完成を優先する関係で、一度家に帰宅。

大荷物を抱えて戻ってきた俺を、居間でテレビを見ていた母さんとジルは何事も無かったかの様に出迎えた。

……実は、ジルが本性現すか本能覚醒させて襲いかかっても余裕だったりするのだろうか、母さん。

まさかね。

 

「あら、早かったわね」

 

「うん、途中(瞬間移動で移動距離を)飛ばして来たから。はい、お土産」

 

マシントルネイダーで飛ばしても二から三時間ほど掛かる距離だが、行きの途中で米軍とかに捕捉されたりする可能性を考慮して転移に切り替えた。

この瞬間移動というのがまた曲者で、中々に感覚的で信用ならない。

大体ここ、というのはできるのだが、知覚範囲の外へ行くとなると割りと洒落にならない誤差が生じる。

これが元からそういう仕様なのか、慣れでどうとでもなるものなのかはわからない。

今後の実験で検証していくしかないだろう。

 

それはともかく、転移直後を目撃されては堪らない。

変身せずに転移しても超能力者か何かとして噂が立ってしまうし、二十二号が瞬間移動を可能とする、という情報が出回るのも不味い。濡れ衣を着せられ放題になってしまう。

だからこそ、時間が掛かってもバイク移動をメインに据えてきたのだ。

が、今回は海に囲まれた土地、という事で、沖縄周辺の海中へと転移を決行した。

お蔭で、俺は学校帰りに決断的に沖縄行きを決定し出発してから、なんと夜の十時頃には自宅への帰宅を完了してしまったのだ。

移動二時間、説明一時間、ベルト試作一時間、お土産屋巡り一時間。

余裕の帰宅だ。

 

「チラガー、サーターアンダギー、ちんすこう、あと、クソダサ海人Tシャツ、クジラのぬいぐるみ、あとは……」

 

「暫くは沖縄づくしかな」

 

うん、まぁ、見た目の面白さでチラガーを何枚も買ってきてしまったのは俺の落ち度だ。

袋に入ったままのチラガーをお面の様にしてはしゃぐジルを横目に、母さんがなんでもない風に聞いてくる。

 

「それで、目当てのものは手に入ったの?」

 

「うん。……あ、それと明日は東京に行くから体調不良で休みって伝えておいて」

 

夜通しバルバとかドルドとかとの追いかけっこをする可能性を考慮していたのだけど、向こうの覚悟が決まりすぎていて大幅に時間が余ってしまった。

夜の内に東京に行って被検体を確保するのもいいか、とも思ったのだが、夜分遅くに尋ねるのは失礼だし、相手を警戒させてしまうだろう。

そも、どうやって被検体に試作ベルトを装着させるか、という問題もある。

装着後の経過を多少なり観察したいので、できれば双方合意の上で、というのが望ましいのだが。

 

「彼女には連絡しなくていいの?」

 

「彼女なんて作れてないよ」

 

仮にそういう関係になれる相手ができたとして、四六時中その相手と行動をともにできる訳でなし。

知らぬ間にオルフェノクにされてスマブレの尖兵になっていたり、ワームに入れ替わっていたりしたら精神面で非常にダメージを受ける可能性がある。

実はそれほどダメージを受けないんじゃないか、という可能性も無いではないのだが、もしとかたらとかればとかで弱点になる可能性のある人間関係を作りたくない。

 

「そうじゃなくて、ほら、いっつも話してくれてるでしょ、クラスメイトの子」

 

「ああ、クラスメイトの人」

 

「名前で呼んであげたら……?」

 

「いやぁ……どうにも」

 

名前を覚えていない訳ではないのだけど、名前で呼ぶと唯でさえ強すぎるくらいになってる思い入れが更に強くなりそうで、ちょっと躊躇う。

現状、友人としてそれなりに仲良くやれているとは思うのだけど……。

それも、これからどうなるかわからない。

 

彼女がああなってしまったのは、極端な話、彼女に運が無かった、というのが一番大きい。

が、俺が彼女の身体を治すのに手を入れてしまったから、という可能性も無いではない。

明確にそうなのかと言われると決して断言できる訳ではないのだけど、そういう可能性が欠片もないのか、と言われれば、わからないとしか答えられない。

彼女に発生している問題を解決する上で、完成したベルトを装着してもらう必要がある。

そうなれば、そのベルトが齎す諸々の効果、生活する上で生じる問題などを説明しなければならない。

 

いっそ、素知らぬ顔でベルトだけこっそり装着させる、という手も無いではない。

……が、彼女がこれからの人生で生きていく上で、自衛の為の力が必要になる場面も出てくるだろう。

少なくとも今年の間は必要だろうし、何の知識も無いままに本能的に戦いの場に向かってしまう可能性だってある。

 

あと、ベルトの構造上、服の上から装着する場合は確実にベルトの下になっている服は破けてしまう。

例えば変装して、雑踏の中ですれ違いざまにベルトを付けたとして、彼女はその瞬間に激痛に呻きながらその場に倒れ込み、痛みが収まったと思ったらヘソ出しルックである。

原因不明の突然の露出に加え、こちらもやはり自らの身体に起きた新たな変化に無知でとても危険だ。

不用意にレントゲンでも撮ろうものなら、何の心当たりもないままに研究者の玩具にされかねない。

 

だから、たぶん。

クラスメイトの人を根本的な部分から助ける、普通の人間に戻すのは無理だし、俺にできる解決手段を示した段階で、彼女はもう俺のことを友達とも思ってくれなくなってしまうだろう。

クラスメイトの人はとてもいい人だけど、それでも、自分が怪物になる原因になったかもしれない奴に親しみを覚え続けてくれるのを期待するのは、酷な話だ。

何しろ、似たような怪物が去年、東京周辺限定とはいえ、大量に人を殺し回っていたのだ。

 

しかも、場合によっては、説明の仕方によっては、俺の正体にも勘付くかもしれない。

そうなれば、どうしようか。

言いふらされたりするのだろうか。

脅しつける、なんて真似ができるなら、そもそもこんなにベルトの完成を急いだりしない。

ああいや、去年の俺の、二十二号の評判を考えれば、下手に言いふらそうとも思わないかもしれない。

逆に正体に関してはばらした上で説明する方が、安全と言えば安全か。

その後、どういう目で見られるかは、考えないものとしよう。

 

「うん、でも…………呼びたいよね、名前」

 

気軽に名前を呼び合えるというのは、とても素敵なことだ。

なんでもない、他のクラスメイト連中は、気軽に呼べていたのに。

大事にしたい、今の、たぶん一番の友人であるクラスメイトの人の名前を呼べなかったのは、そんな理由なんだと思う。

セバスとかいうあだ名が定着したのも、運が良かった。

皆が呼んでいるから、距離を置かれても、その呼び名は変わらないだろう。

回りに変な目で見られるのを好む人でもないと思うし。

 

「──」

 

くいくい、と、燻製にしたチラガーを勝手に開封して齧り付いていたジルが俺の袖を引いていた。

袖を引く手の中には、俺との共用である携帯電話。

通話状態である、と伝えたいらしい。

チラガーを母さんに取り上げられるのを名残惜しそうにしているジルから携帯を受け取る。

 

「はい、代わりました」

 

『あ、セバス君?』

 

「ん……、あれ、どうしたの、何かあった?」

 

クラスメイトの人だ。

直前まで考えていた相手の声を突然聞いたせいで、少しだけまともな反応を返すのに時間がかかってしまった。

 

『いや、私はなんとも無いんだけど、ジルちゃんからメールがあって』

 

「なんて?」

 

『電話するから、切らずに待ってて、って』

 

「何やってんだあいつ……」

 

ちらと視線をやれば、母さんが食べやすいサイズにカットしてくれたチラガーを齧ってご満悦だ。

俺の視線に気が付けば、片手でピースを作り軽く左右に振ってみせた。

……もう記憶完全に戻ってるか、さもなきゃ随分と『いい性格』に育ててしまったのかもしれない。

 

『ジルちゃんはなんて?』

 

「電話代われ、ってさ。俺に」

 

『セバス君に?』

 

「体調不良で休んだやつの家に上がり込んで話し込んだんだから、その後の体調に気を使え、みたいな事を言いたいんじゃないかな」

 

『私が上がってくれ、って言ったんだけどなぁ……』

 

ははは、と、呆れるように笑うクラスメイトの人。

こうして話している分には、普通に話せるらしい。

逆に、人と話している間のほうが精神的に落ち着くのではないかとも思う。

気を張ってるだけ、とも言えないでもないのだけど。

相談して貰えれば、とも、思わないでもないのだけど。

自分でもできないような事を、人に強要できる訳もなし。

 

「あのさ、明日、学校行けそう?」

 

『……ん、まだ、ちょっと、わかんない、かも』

 

「そっか。俺も明日体調不良で休む」

 

『え?』

 

「で、ついでに出かけるんだけど、お土産は甘い物としょっぱいものどっちが良い?」

 

『えぇぇ?! あ、甘い物? かな?』

 

年相応の女の子っぽくて好感が持てる。

しょっぱいものって答えられても似たような感想だったろうけど。

 

「じゃあ、お土産渡すついでに遊びに行っていい?」

 

『へぇぁ、ぉ、ぉぅ、いや、うん、いぃですよぉ?』

 

声が上擦ってる。

急過ぎたか、とも思う。

良く考えれば、思春期の少女の家に男の方から予告して上がり込む、なんてのはマナーに反するとも思う。

が、実際、何が起こるかわからない以上、早いに越したことはない。

どうせ要件済ませた後は親しみもクソもなくなるだろうから、気にするだけ損だ。

 

本題を済ませられるかどうかは明日の人体実験次第なのだけど。

九割九分成功する筈なのだが、被検体候補の人は運が極端に悪い。

うっかり感電死したり過剰成長で一瞬で老衰死したり、その後に何らかの悪運から蘇生してベルトのデータ取りには役立たない人体の神秘だけが実験記録として残ってしまうかもしれない。

そうなれば、少し条件から外れるが、適当なスマブレ所属オルフェノクでも見つけてモルモットにするしかないが、どちらにせよ遅かれ早かれだ。

 

ベルトは完成させる。

完全な形でだ。

 

「楽しみにしててね」

 

『うん、……へへ、楽しみに待ってるから』

 

―――――――――――――――――――

 

そういう訳で、俺は久しぶりに東京にやってきた。

今年の秋には修学旅行が予定されているが、行き先の候補の一つが東京になっている。

……冷静に考えてみれば、未確認の完全壊滅が確認されていない状態でアンノウンの事件も発生している東京に修学旅行に行くとか正気ではない。

生徒による厳正なる投票によって決まるとの話なので、是非とも修学旅行は京都に行きたいものだ。

グロンギを殺しに来た時にはほぼ毎回どこかしら観光しているので、わざわざ修学旅行でまで来たくない、などという浮ついた気分から言っている訳ではない。

 

さて、実の所を言えば、被検体の居場所どころか、今現在どのアンノウンが現れて殺されたか、ということすら把握出来ていない。

一応の目安として、ジャガーロードが死んでいる、城北大学から葦原涼が退学している、という二点だけは簡単に把握できた。

この年は、事件が発生する正確な日付が記録されておらず、アンノウンに関してもニュースで取り上げられることがない為に、去年ほど先を見越した動きができない。

できないのだが、時系列を把握するコツと、俺にしかできないであろう裏技がある。

 

まず、事件性の有る死亡記事。

殺され方が明確で無かったりするものは怪しく、被害者の名前はプライバシーもクソも無く新聞に取り上げられる為、その名前が覚えのある名前であれば、大体の時期が把握できる。

そして、つい先日三浦智子なる人物の死体が発見されたという記事が確認できた。

となると、少なくともタコの前後。

更に言えば、どこぞのビルで車に乗ったミイラが目撃された、というクソスレを発見できたのは非常に大きな収穫と言えるだろう。

タコは死んだので、馬だ。

 

……面倒な時期だ。

この時点で、被検体候補の人は、闇の力に老化した部分を治癒して貰っている。

そして、変身後の老化現象は必ずしも毎回起きる訳ではない。

例えば、闇の力の急成長にびっくりして踵落としをかましに行った時は、本当に変身して踵落としをするだけだった為か、変身後も老化現象は起きていない。

事態が逼迫していない状態で、というか、副作用がどれくらいの頻度で起きるか、命にどれほどの別状があるかもわからない状態で、それを解決する為の手段を見ず知らずの相手から受け取るだろうか。

 

「スタンガン……ガス……当身……いや、説得からか」

 

説得……。

そうだ。

よくよく考えてみれば、だ。

このタイミングなら、割りと説得がしやすい。

逆に、今こそ接触するべき時じゃないか?

 

昨日、バルバから変な話を聞かされたせいで妙に気を張ってしまったが、俺にはリントの基礎にして最終奥義である説得がある。

話し合いに向いていない、殴ったほうが早い、などと言っている場合ではない。

手持ちの情報をちらつかせて、上手いこと言いくるめてみせよう。

 

 

 

 

 

 




☆説得ロールよりも先に言いくるめロールよりも先にこぶし+赤心少林拳が出るマン
文字通り言葉が届くよりも早く届くこぶしをぐっと堪えて、被検体をだまくらかせると信じて……!
グロンギの運営サイドが持っていたバトンを渡されて正式に今年の案件に取り組む役目を引き継がされた
聞かなきゃ良かったとおも思うが、聞かなくてもどうせどこかで関わらなきゃいけないハメになるので動じない程度の落ち着きは手に入れた
高校の時期に得た友達は生涯の友になる、みたいな話は聞くけど、じゃあ高校の時期に友だちを作って維持するのってきっと難しい事なんだろうな、とか思う
でもクラスメイトの人は助けたい
ホントの所は名前で呼びたい
助けた後の事を想像するとお腹が重くなるけどそれも仕方がない事だよねという割り切りもできる
生きると決めたからには後ろを振り向く暇も下を向く余裕も無いのだ
だから前向きに出先では観光するしお土産も買う
割りとアマダムの力が脳を変えたから保ってるって部分はある

☆ラ・バルバ・デ
前グロンギ運営サイド
時代のグロンギの始まりを確認し、クランクアップ
「終ったな」
「あれなら大丈夫やろ」
「みどころがある、あの子の言う通りやったわ」
「……なんやダグバ、向かえか」
「殊勝やん。ええわ、ゆっくり行こな」
などと書きつつ、ここから主人公が心臓にフレイムセイバーぶっ刺して蘇生して仮面ライダーG1に力を貸す謎の赤バラグロンギオルフェノクアギトの人として活躍するルートを一瞬と言わず数秒考えたりもした
555まで生き残って薔薇幹部怪人対決とか……素敵やん?
でも主人公が今更死体の処理を人任せにするとは思えないので蘇生ルートは消滅なのだ
登場人物増えると管理が面倒というまっとうな理由もある

☆ラ・ドルド・グ
一言の出番も無く終了
仕事を終えた
というか、グロンギ回りの設定は弄りすぎて改めての説明が必要なのではないか、とも思うけどどうだろう
元考えてた使い道とは異なるけど、グロンギがデザインされた種族だ、というここでの設定からすると有る種規定路線である

☆ヒロイン
内部にいろいろ溜め込みがちな主人公にさりげないフォロー
男女の関係にある事だけがヒロインの役目ではない事を教えてくれた
最近ジョーズを見たのでクジラよりもサメのぬいぐるみが欲しい
でもチラガーは見た目が面白いし美味しい
サポとして優秀なのではないか
だがまだいろいろ隠してるイベントがあるので油断もならない
爆発しなさそう、という状態が一番あぶないのでは
いぶはボブかしんだ

☆クラスメイトの人
この子との平穏なやり取り書いてるとラブコメっててわきわきする
いろいろあるけど、この子がベルト受け取って説明受けて、そこからどう反応するかで主人公の今後の方針が決まるまであるレベル
できれば主人公の予測を覆すレベルの善人ぶりを見せて欲しいけどどうなるかはこれから考えるので未知数なのだ
原理原則だと貴方のせいで私はこうなったんでしょからの疎遠か転校ルート
でもそれは多分書いてる方がしんどくなるのでどうにか真の天使とか女神みたいな感じで救われて救って欲しいとも思う
祈れ祈れ……

☆ママ↑ン
結局、主人公の名字と名前を考える上でこの人の設定も考えたけど
名字の由来だのなんだのはよっぽどの事が無いと主人公に説明したりはしないと思う
仲良くなった友人に尽く絶縁されたりしても最悪でもこの人が居る、と思えばまだ救いはあると思われる
父親の影が薄い?
クラスメイトのエピソードに入って露骨にヒロインの影が薄くなってるのにこの上で更に父親まで登場させてそれなりにキャラ付けなんてしたら話進まないので



世にも珍しい一切バトル描写が無い平和な説明回
だからきっと読んでて心が安らぐ感じに……
なんだこのネガティブ話(驚愕)
画面が薄暗いし音楽もしっとりしてるし
気軽に書けて気軽に読めるを表題としているだけにこれはいかん
救われる展開を書かなければ……
そのために生贄を捧げなければ……
具体的には放っといても救われなさそうな元大学生
なんと結果的に双方win-winの結果が訪れるかもしれないぴょん
たぶんな
書かないとどうなるかはわからんし
結局この話で東京まで行けなかったし
それでもよければ次回も気長にお待ち下さい

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