オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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168 主役はそう!これを着た、そこのあなた!

例えばの話、半ば崩れたビルが存在したとして、壊すにしろどうにか直すにしろ絡みついた蔦の除去から始めないといけない。

雨風が入り込む形で崩れていたのなら、内部設備に到るまで植物に侵食されて構造的にボロボロになっていたりもして大変危険だ。

文明が崩壊して数百年、みたいな外見になってしまったかつての住居や職場を前にして膝をついて呆然とするしか無いボロボロの人は問題ない。

その時点で絶望しているだけで危険行動を取っているわけではないからだ。

そこで絶望せず建物内部に果敢にも侵入し使える物資が無いかを確認しに行った人が、植物の侵食によって強度の落ちた廃墟に対して最後のひと押しとなってしまい、崩落に巻き込まれる、という事故が多発している。

見てわかるくらいに即死していれば良いのだが、まだ生きていそうかな、くらいの人を救助するにも手が取られてしまうというのは大きな問題の一つと言って良いだろう。

 

せっかくあの大災害を生き延びたというのにその直後に命を落としてしまう、というのは、実際こういう大災害では珍しくない。

如何に普段生活していた文明がコストを掛けて安全な生活環境を整えていたのかを実感する。

以前に存在していた安全な生活の場というものは少なくとも今は存在しないも同然。

最近では警察組織とかもまともに動き出せている為か、スピーカーを増設し白黒に塗装したバンディットホイール(警察向けとしては良くない名前ではあるが、元々警察だけに向けた商品ではないので問題にはならなかった)で巡回しながら、定期的に廃墟への立ち入りが危険である事を触れ回ってくれている。

が、そうは言っても物が無いこんな状況では、もしかしたらと危険を冒してしまう気持ちもわからないではない。

 

「という具合なのが、事件後一週間の東京なワケだ。東京と言わず全国の都市部はだいたいそんなもんらしい。まだまだ落ち着く事は難しい」

 

ちなみにそういう事が起きていない土地もあれば、そもそも住居も何も残らず焼けた無人の土地だけが転がっているというところもある。

探せば山の中に廃村やら廃屋くらいは見つかるものだが、ヤマタノオロチが運悪く大暴れした場所では文字通り何もかも薙ぎ払われ焼き潰され、植物の侵食によって文明の残り香すら感じることはできないだろう。

が、どうにも各地に点々と奇跡的にほぼ無傷、という土地も存在しているらしく、そこを起点に緩やかに復興作業が始まるかな、という雰囲気がある。

雰囲気があるだけで実際に実りある復興作業が始まっているか、と言われれば難しい。

流石にここまでの出来事があったなら世界も終わりだろう、と判断してしまった人たちも少なくなく、この国にしては珍しく一般市民の一部が初期型の暴徒と化して奇跡的に無事だった食料品店などを襲撃したりしているのだ。

もう一月もこんな状況が続けば頭部がモヒカンヘアになり前を開けた裸革ジャンに肩パットを付け始めて暴徒の成虫になってしまうだろう。

 

さもありなん。

礼節というものは衣食住が足りた上でしか発生しない特殊スキルだ。

まず生き物は生きていかなければならないのだから、それに役立たないものは真っ先に切り捨てられてしまう。

数は少ないがアギト暴漢フォームにも遭遇した事がある。

ちょっと治安がどれくらい低下しているか肌で感じるために一人それっぽい格好とそれっぽい性別になった上で野外にテントを張って一泊してみれば股間部を異常発達させたアギトが釣れたのだ。

それくらいには街の治安が低下している、ということだ。

 

ここはごちゃまぜとはいえ基本的にTV版っぽい雰囲気のある世界なので、ちょっと世界が滅びかけた程度で暴徒化する弱小精神アギトに存在して貰っては困る。

流石に身の危険を感じたため、変身無し黒沼流無し臨技無しのハンディキャップマッチで挑ませて貰った。

基本的にアギトの進化は前向きな奴ほど早く強く具体的な形を得る。

世界が滅びかけた後にやけになって暴漢になるような後ろ向きな犯罪者の進化がどのようなものであったか、というのは、わざわざ語るべき話でもないだろう。

超越精神を持たず容易く外道に堕ちるようなアギトは元から存在しなかった、という事だ。

 

婦女子に対する暴行を繰り返していたらしい一般不審者は、大麻畑から採取したであろう大麻を過剰摂取した挙げ句、ねぐらにしていたビルの崩落により死亡した。

ニンジャ強盗の様なものだったのだろう、廃ビルからはレザースーツにウレタン製のパーツを取り付けて作った精巧なアギトのキグルミが置かれていたそうで、中には死亡した不審者の体毛や体液が付着していたらしい。

怖い話だ。

俺の内包するアギトの力が微増していることとはなんの因果関係も無い。

 

「ただ、混乱は徐々に収まりつつある。全国で創設され始めていた装甲服部隊とかのおかげもあるだろうけど、それ以外の現地組織の力も少なくない」

 

少なくない、というか、かなり大きい。

俺も全国に市販品とサイズを合わせた潜伏用のヘキサギアを派遣して情報収集ついでに暴徒を抑えさせたり犯行現場を撮影させた上で近場の警察に突き出させたりしているのだが、各地でポツポツと人ならざる存在による暴徒鎮圧が目撃されている。

人ならざる存在、と言ってもオルフェノクやらワームやらファンガイア、ましてイマジンなどでは無い。

明らかにデザインラインが違う謎の怪人たち……恐らくはゴルゴム怪人や、何故かクライシス帝国の怪魔ロボットのようなものまでもが動いている。

暴徒をその溢れるパワーで押さえつけ怪しげなガスを吹きかけたり謎のヘルメット型洗脳装置を被せたりして気絶させてどこへともなく消えていく。

そして、気絶から目覚めた暴徒たちはすっかり落ち着きを取り戻し、ついでに前後数分の記憶を失っている。

 

ゴルゴムがこういう場面で暗躍するのは別に不思議な話ではない。

古代のヤマタノオロチの討伐は当時の創世王だろうし、言ってしまえば今の地球文明はゴルゴムが管理する牧場のようなものだ。

普段は半ば放置状態だとしても、本当に壊滅してしまえば一番損をするのはゴルゴムなのだから、こんな状況では秩序側として動かざるを得ない。

そこまでするならもう全面的に表立って支配しろ、とも思うが、支配者になんてなってしまえばプライベートな時間を作ることもできない、と考えれば裏から全てを支配してやろう、という気持ちもわかるので咎める事はできない。

 

彼らに関しては特に思うところはない。

俺が思うところがあるのは俺を打ち負かした創世王のみ。

今の彼らはこの国を元の平和な状態に戻すための同士も同然。

同士も同然なのでその明らかに量産しているであろう怪魔ロボットの設計図とかくれよ。

今度太刀川のおじさんに会ったら言ってみよう。

 

でも仏像型でトップレスな怪人のお姉さんはちょっとゴルゴム違いではないだろうか。

そりゃ、ヤケになって理性飛んでる相手にトップレスの美女が微笑みかけるとか油断させるにはもってこいかもしれんけども。

小型量産品のロードインパルスの頭を撫でていたからたぶん優しい人ではあるのかもしれないけども。

複数のシュライジンを率いる姿とか広く知れ渡ったらなんか新たな宗教発生したり仏教が改めて流行ったりまたまた仏教が派生しちゃうかもしれないだろ。

 

「ただ思うのは、ああいう大組織が表に出ずにできることって結局は陰ながらの手伝いというか、人類が自力で立ち上がるのを少し支える、くらいのものなんだなと」

 

この状況では陰ながら支えてくれているだけでも十分ありがたいけどもね。

そう付け足すように口にしたところで、丁度よく公園に到着した。

今の都内でこの公園の人口密度は結構高い方と思われる。

まだまだ目が生きてる人や、それに引きずられてやってきた目が死んでる人、作業服を着た休憩中と思しき人々に、手に使い捨ての器を持ってぼうっと天を仰いでいる人。

なんでこんなに人が溢れているか、と言えば、炊き出しを行っているからだ。

交通網が尽く寸断されてまともに物資の移動ができない中、確実にまともな食事にありつけるとなれば人が来ない訳がない。

 

「炊き出し、中身はすいとんかな。具材はキノコ、根菜、お肉がちょっと、卵も落としてある。これ一杯でとりあえずの栄養は十分取れる良いチョイスだ。食わないと動けないし、動かなければ何も始まらない」

 

実は、光酒のお陰で流通がかなり寸断されている今でも野菜を手に入れるのはそれほど難しい話ではなくなっている。

街中でもちょいちょいあるレンタルの畑とかが生命力増幅されて野菜をアホみたいに実らせているので、実は食料品店を襲うよりも確実に食べ物が手に入ったりする。

家庭菜園などの野菜が異常成長して、家は潰れたが野菜だけは腐るほどある、という避難民も居るらしい。

大麻畑が大量発生しているからそれに目を取られがちだが、普通の植物を趣味で栽培している人の方が圧倒的に多いのだから当然の話だ

 

野菜の種を売ってるタイプのホームセンターとかも狙い目か。

デカ目のホムセンなら園芸用の土も売っているのでブーストされた植物が成長するのにもってこいの環境になっている。

季節感一切無視した多様な野菜に根を張られ崩落寸前のホームセンターなんて今後見られる機会はヘルヘイムの森でも来ない限りそうそう無いだろう。

レンタル畑付近のアスファルトで固められた道路が無数の大根やかぼちゃによって耕されている光景も実にシュールだ。

 

保存も補給もある程度可能な野菜に較べて、事件直後数日は電気がまともに使えなかった為に早々に駄目になったのが肉だ。

寒い地方だと工夫の仕方次第では保存ができたりするが、都心で、となると途端に難しい。

まともに人々が元の生活に戻るために動き出す頃には殆ど腐っていたか、腐るのを見越して先に食べられてしまっていた。

猟友会の方々が協力して野生動物をどうにか仕留めて、というところもあれば、変わったところではヘキサギアを使って狩猟を試みている人も居るらしい。

野性味溢れるジビエ肉だが、この状況では食べられるだけでも十分ありがたい筈だ。

 

「炊き出しはここだけじゃなくてあっちこっちの飲食店がやってる。東京タワー近くまで行けばあのビストロサルもやっているね。普段はオシャな料理を出してるとこが作る大量生産前提の料理ってのもレアではあるからチェックしておくのも悪くないかも」

 

飲食店経営、という事でできた繋がりを駆使してあちこちに食材をばら撒いて炊き出しを実施して貰っているのだ。

因みに個人的なオススメはオリエンタルな味と香りのお店が出すカレー。

 

「因みに、いち早く動き出した組織は自衛隊。噂の野外炊具も大活躍だ。近年は警察装甲服部隊の台頭に伴って冷や飯喰らいだったけど、逆に市街地で魔化魍と戦えないからこその活躍だったかもね」

 

これでイメージアップすれば自衛隊も装甲服を導入の許可が出してもらえるかもしれない。

まぁそういう事情とは関係なく彼らは懸命に己の仕事をこなしてくれているのだけれど。

ついでに言うと、崩落した建築物からの救助作業とか、龍に吸い上げられずに残った死体の回収とかでも意外な活躍を見せている。

ブレインスクラッチ名義で販売した簡易倍力服を自衛隊で独自に進化させていたらしく、今の自衛隊員の標準装備と言っても過言ではない。

なんと、最近では警視庁とも話を付けてG計画のデータを一部入手したらしく、改造ベースとなったブレスク製倍力服が無電源倍力機構を採用している為その性能は事実上稼働時間に殆ど制限の無いG3マイルドと言っても過言ではない。

 

はっきり言って敵がクロックアップしたりしなければ無敵の軍団と言っても良いのではないだろうか。

何しろ一体一体の馬力はそれほどでも無いにせよ重機が必要な作業も数人でこなせる上、火力が必要とあれば銃火器で武装すれば良く、なおかつ装甲はGシリーズ準拠なのでマグナム弾や2000度の炎にも耐える。

鍛えた常人では単独で使用することが出来ないような大型銃器でも使用できるようになるのだから、筋力強化倍率の低い装甲服も侮れるものではないのだ。

まぁ、自衛隊は出動するまでに必要な許可がかなり多いので、その出番は警察組織で対応できない恐るべき敵でも無ければ無いのだろうが、そういう相手に通用するかと言うと難しい。

ついでに言うと人類敵対種族はだいたい市街地に現れるので、自衛隊の強みである強力な銃火器を十全に使えるシチュエーションが来るか、という問題もある。

 

なお、フレイムフォームになったアギトの操る熱は7000度なので、理屈の上で言えば警察のアギト部隊の中から適当にフレイムフォームが基本形態の人員を見繕えば単騎で殲滅できる計算になる。

訓練したアギトなら銃弾を防げる程度の念力による障壁は張れるだろうし、向かい合ってのヨーイドンならまだ警察有利だ。

仮にも警察がそんな真似をできるか、と言えば、できるだろう。

警察のアギトは野良アギトと違って日々日本の治安維持の為、任務の合間も鍛錬に勤しんでいる。

装甲服だけを焼いて裸にする、或いはバッテリのみを焼いて装甲服のセンサー類を無力化する、武器だけ焼く、程度の精密な熱操作は可能と見て良いだろう。

自衛隊が名実ともに信用してもらえる日はまだ少し遠いのかもしれない。

 

「美味そうな匂いではあるけど、自宅が無事で生活環境が整ってる人間が来るのは筋が違うから、ここはいい加減退散しよう」

 

―――――――――――――――――――

 

一週間なんてこういう大規模な災害の後だと考えれば何も出来ないのが普通だ。

国の一部が被災地、というのならば無事な土地から支援が来るものだが、生憎と被災地の方が無事な土地よりも格段に広い今の日本でそれを望むのは難しい。

俺は死人の魂とか死体を吸い上げた側なので大体の死者数を把握しているが、国は今各地で人命救助とかしながら被害総数を確認しているところだ。

 

運良く(運悪く?)死体がそうと分かる形で地上に残った人数はそれほど多くもないだろうから、死者数よりも行方不明者数の方が圧倒的に多くなるのは間違いない。

死体がない、だから生きているかもしれない。

そんな希望に縋って、肉も魂も空の彼方に持ち去られ、果てにただの生命力に還元され地上に降り注いだ死人の影を追い続ける人が増えたりもするのだろう。

もう少し社会に余裕が出来てきたら、行方不明者の目撃情報を募る張り紙などがあちこちに張り出されたりもするのかもしれない。

これだけの被害なので、写真すら残っていない、という事例も多くあるだろうが。

 

とはいえ、そういった状態になっているのは何も日本だけではない。

火山地帯が直接生活する土地と隣接していない国などはまあまあ余裕があるのでは?と思われがちだが、空を覆い尽くす巨大な龍とかいう如何にも示唆に富んだ現象が起きてしまったせいで、余裕のある国では信心深い人たちが混乱を巻き起こしてしまっていたりする。

 

信仰というのは恐怖の裏返しというか、根底には恐怖が組み込まれ、各種教義によってそれから逃れられるよ、という構造によって信徒を獲得している。

それはそうだ。生きていく中で不安が何もないというのであれば宗教にすがる理由など無い。

自らの居る苦境を納得する為の、そしてそこから逃れられるという現実への目隠しこそが宗教なのだ。

荒神信仰とそれ以外の信仰は逃れるべき恐怖をどの位置に置くかという点、恐怖に対してどのように向き合うか、という点で区別されているだけで、やっている事は同じなのだ。

妖精、妖怪の類が身近に感じられる土地ではそれらがモチーフになった魔化魍の類が発生するのと同じく、黙示録の日が制定されている宗教が広く信じられている土地では、それをモチーフにした魔化魍の様なものが発生する土台が存在する。

無論、海外においては日本ほど高頻度で魔化魍が発生する訳では無いのだが。

 

翻って、数ヶ月前から昔ながらの魔化魍が街に現れて人を襲う日々が続いており、数年前から普通に人を襲う怪物が跳梁跋扈していた日本と比べ、それら被害が少なかった土地で発生する魔化魍が如何なる姿をしているか。

空を覆い尽くす暗雲、それを引き裂く無数の稲妻、どこからか鳴り響く喇叭の音色、天から舞い降り人を拐う天使と悪魔。

彼らの国の物理的な被害は日本と比べれば軽微も良いところではあるが、混乱は日本の比ではない。

なんとなれば、ハワイの方では火山から龍ではなく踊り狂う艶めかしい女体のシルエットを持った炎の巨人が現れた、なんて話もある。

無論、これもラジオで聞いた情報でしか無いのでどこまで事実かはわかったものではないのだが。

いっそ日本以外が全て核を打ち合って滅んでくれれば話が楽になるのだが、牧場主の意向を考えれば適当なところで混乱は収まってしまうのだろう。

 

そういう訳で、海外からの支援もあまり期待できない以上、日本はどうにかこうにか自力で復興していかなければならない。

事前に販売していた簡易倍力服は耐熱構造がそれほどでも無かった為に被災者の生存に直接的に役に立つ事は殆ど無かった。

が、瓦礫の撤去などではまぁまぁの活躍を見せている。

自衛隊の様に積極的に改造でもしない限り、簡易倍力服の筋力増加性能はゾアノイド換算でラモチスの半分ほどでしかなく、また、構造上倍力が掛からない動作も存在している。

例えば素早い動き、跳ねる様な動きには対応していない為、走力も跳躍力も上がらない。

高いところに登ろう、となったら高く跳躍するのではなく、例えば強化された握力腕力脚力を駆使して登坂を試みるなどの工夫が必要となる。

更に言えばグランメイルと違ってオートフィット機能も無いので衝撃に対する保護能力も完璧ではない。

高所からの落下時、スーツの中で関節が捻れて骨折、という危険性は充分ある。

販売店では試着も可能なのでできる限りしっかりと体格に合ったサイズを購入しよう。

金額次第では特注サイズも受注している。

 

重いものを支える、ゆっくりと持ち上げる、という動きに特化しているのは、外部からの衝撃吸収と倍力機構が共にダイラタンシーを利用した液体装甲、液体筋肉の複合物である為だ。

これは防犯上の意味もあってあえてそうしており、この世界における専門家が内部構造を分析して改造すれば解消できる程度のものだが、街のインフラが尽く破壊された今の状況では足かせになってしまっている。

普段遣いならば良いし、復興作業のメインとしてはこれで十分とも思うのだが、この荒廃した土地を戻すには僅かばかり性能に不満が出るのは当然の話だと思う。

 

『働く人の強ーい味方!』

 

事件後二ヶ月程が経過した。

各地の都市は今、驚くべき速度で復興を遂げており、なんと発電所が正常に稼働するようになり、電線等のインフラが整えられ、自家発電設備が無い場所でも普通に家電を利用した文化的な生活が可能になりつつある。

テレビ局もようやく撮影したり中継したりの映像を公共の電波に乗せられる様になり、その御蔭で各地の被災状況と、復興状況も正確な情報が出回りつつある。

 

『重い瓦礫もこの通り!』

 

お陰でDVD再生装置兼テレビ通話時のモニターと化していた家のテレビもようやく通常のテレビ放送を見れるようになった。

無論、全てのご家庭が元通りに、などという話ではなく、無事ではないところの方が多いのは当然の話だ。

だが、瓦礫と化した建築物はその殆どが綺麗さっぱり解体され、跡地には割りとしっかりした構造の災害公営住宅が建築されている。

最初の数週間の様な、崩れそうな廃墟を屋根にしたり、狭い避難所にすし詰めになったり、テントを使ったり、なんとなれば樹の下で野宿したり、という人は殆ど見なくなった。

 

『──難波製作所とブレインスクラッチが送る新定番、レイバーブロスが、明日の日本を作る!』

 

それもこれも、番組の間にひっきりなしに垂れ流されるクソダサCMですっかりお馴染みになってしまった

画面の中、黄と黒で縞模様な曲面装甲に各部を覆われた人型が、巨大なH鋼を肩に担いでもう片方の腕でガッツポーズを取る。

場面が切り替わり、H鋼を降ろした人型が腰に下げていたトランスチームガンに似た装置を操作し、変身を解除する。

 

『日本再建の主役はそぉ! これを着た、そこのあぁた!』

 

「これ、10回くらい取り直して一番良い発音だったんだよねー」

 

「普段人前に出ない人に滑舌を求めてもな。ましてや全国放送されるCMとか緊張もあるだろうし」

 

久しぶりにうちにご飯を食べに来た難波さんが、カレーを咀嚼して飲み込む合間にそんな事を呟く。

画面の中、最後に変身を解除して現れたのは剣崎一真さん。

今の状況で捕まえられてCMに出しても問題ないくらいのイケメンで、なおかつ顔バレしてもそれほど問題にならない人、という事で俺が素晴らしき青空の会から引っ張ってきたのだ。

一案として、そこらのどこにでも居るおっさんがスーツの中から出てくる事で誰でも使える変身装置、という一面を押し出すという案もあった。

だが顔バレして産業スパイに狙われてもいいかな、という丁度よいおっさんが難波製作所にも、勿論ブレインスクラッチにも居なかったのでイケメンヒーロー案が通り、無事このCMが完成したわけである。

 

「まー、宣伝効果は抜群だからいいんじゃね? これのお陰で今日本で二番目くらいに顔が売れてる強化装甲服の中の人だろこいつ」

 

「人が寄ってきて落ち着いてご飯も食べれないしトイレにも行けない、とか言って最近外ではずっとウォーメイジ姿だけどな」

 

ウォーメイジシリーズの性能以外での良いところは、メットと各部装甲が渋めのデザインをしているので人目を引かない事だろう。

なんとなれば自衛隊お手製の簡易倍力服ベース強化服に似ている為、市販の倍力服のカスタム品くらいにしか思われないのも良いところだ。

今日日、廃墟の町で元気に働いている肉体労働者は大体簡易倍力服くらい標準装備しているし、その中には今さっきCMでやっていた新作強化装甲服もちらほらと混じっている。

派手な配色のBOARD製ライダーに変身するよりは余程復興作業が熟しやすい。

 

──レイバーブロス。

CMプランナーなど一切雇っていない、身内だけで作ったやっつけのCMでやっていた通り、これは難波製作所で研究が進んでいたフルボトルシステムを利用した強化装甲服だ。

システムとしては以前に難波さんが使っていた試作トランスチームガンの発展形で、悪用されない為、勝手に戦闘用に改造されない為、量産に当たって両社で技術を交換しながら完成させた、日本初、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になる。

と、言っても、正式販売はまだまだ先で、今市街の復興の為に動き回っているものは災害支援という名目で各地にばら撒いている宣伝用でレンタル品ですら無い。

今は、実際に使ってもらってその便利さに慣れてもらう段階にある。

 

並の車を凌ぐ走力、警察用装甲服を軽く上回る馬力と跳躍力、装着者の安全性を重視したスーツのオートフィット機能と耐衝撃、耐熱、絶縁性能。

これに慣れたならば、素の肉体での重労働など考えられない筈だ。

暫くしたらばら撒いた試供品をメンテナンス名目で少しずつ回収し、希望があれば使用料金を取るレンタルに移行、需要の数を見ながら徐々に一般販売台数を増やしていく、という寸法になる。

 

「とにもかくにも審査が通って良かった。ていうか難波さん、元はどう売るつもりだったのこれ、平時なら認可通らないでしょ」

 

「標準型を先に警察にでも持ち込んで新装備として採用して貰った後に出そうかなって廉価版として作ってたの。でもあの災害があったでしょ? このタイミングなら行けるかなって。交路くんのお陰で代用ボトルも数が出せるようになったし」

 

「難波さんもすっかりやりての女社長だなぁ」

 

「できる女だねぇ」

 

「よ、にっぽんいち」

 

「てへへ……そんなそんな、褒めても黒字しか出ないよぉ」

 

おほほ、お調子を扱かれておられる。

そう、黒字なのだ。

人道支援という形で大量にスーツをばら撒いたが、その過程で警察にも情報は行っており、スーツを利用した犯罪に先んじて手を打っておく為、警察の保有する装甲服部隊の装備更新を依頼されているのである。

現状の警察用装甲服と、市販品のハイエンドモデルとも言える戦闘用に調整されたトランスチームガンを組み合わせて、今後予測される装甲服犯罪を抑え込んでいく、という訳だ。

国からのお仕事であり、支払われる報酬もかなりのもので、相手側の本気度が伺える。

 

一見してマッチポンプの様に見えるかもしれないが、警察が危惧しているのは当然装甲服犯罪だけではなく、ヤマタノオロチが出現するまでに起きていたオロチ現象の前兆、魔化魍の大量発生や、それ以前にも幾度か起きていた異形による大襲撃。

龍脈は綺麗さっぱり詰まりを解消されたので、あのレベルの魔化魍大量発生も今後十年くらいは確実に起きない筈なので、魔化魍に関してははっきりと取り越し苦労ではあるのだが。

 

だが、無駄にはならない。

今後、アギトを始めとした人類の進化種は増えていくし、それに対抗する様に人類敵対種族もより強化されていく事が想定される。

なんとなればフレイムフォームが使えるアギトが一人ヤケを起こしてしまえば、ビルの一部を焼き熔かして倒壊させてしまう程度はそう難しい話ではない。

車を運転できる人間がやけになって歩道に車を突っ込ませるのと同じレベルで、市井のアギトはその超自然的能力を振るいかねない。

そこまでいかずとも、現状アギトよりも自然発生確率が高い筈のオルフェノクにしても突然変異的に強力な能力を持つ個体が生えてきても何一つおかしくない。

大体の場合倫理観のおかしな人間ほどオルフェノク化にあたって強力な能力を持ちがちだ。

現行人類が持つ技術では破壊に対して再生の速度が間に合わず、最悪文明が維持できなくなってしまう。

 

余程の監視社会、管理社会にでもならない限り、強化装甲服の需要がなくなる事は無い。

強化装甲服市場は少なくともこの国ではブルーオーシャンであり、その市場を先んじて制する事ができたのははっきりとした強みだ。

ヘキサギアの販売で地盤固めをしていたブレインスクラッチはより強固な立場を得られ、今回の事で実績を上げた難波製作所もまた、市場規模に合わせてより拡大していく事になるだろう。

そして、強化装甲服という少し前まではSFの世界の話だったアイテムは、警察の装甲服部隊の活躍によって市民にも馴染み深いものになり、一種の憧れにもなりつつある。

安全を表向きの理由に、ミーハーな欲望から購入を考える人間が増えるだろう、という事を考えれば更に購買層は広いものと思われる。

 

イマジンやワームの様に特殊な体質、特殊なシステムが無ければ対応できない相手でも無ければ、市販の装甲服を纏ってしまえばただの人間でも命を脅かされる事が無い。

そんな世界は着実に近づいてきているのだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 





だからお仕事頑張ってね浦賀社長と実際の社長業務を回す事になる秘書!
難波さんも仕事に関して根を詰めすぎないようにね!
というおはなし
まぁ日本を壊滅させておいてなんの説明も無く年明け一月も経たずにワームとZECTが元気に暴れだしてもなんだなって話なので説明回ですね

☆割りと全国の市町村とか再編し直さないといけないくらいの空白地帯が産まれているというお話
じゃあそれでどんな事が起きるかって言えば、空白地帯が近隣の生き残りの都市に併合されるのか名前そのまま復興されるのか
それとも現代日本では聞いたこともないような地名の街が発生するのか、というアレ
その案件で少しやるべき話もあるので前の話で書いた恐らく原作キャラを出さないといけない、を回収できるかが不明になる
なるけど、冷静に考えると元々このSSそんなの原作キャラを出す事に拘泥していた訳では無いから逆に原点回帰って感じで良いものとしよう
誰それを出さなければならない、というふうに考えてしまうから筆が止まるのだからして

☆隣人友人知人が死んでも腹は減るよねって話
植物を異常成長させた光酒の原料を考えればちょっと倫理観ってなるけど、冷静に考えればそれって地球上でちょっと長めのサイクルで行われているものを少し近道させただけだからみんな腹いっぱい食べて復興頑張ろうねくらいの話
今回みたいに文明が残らずに生き物だけがギリギリ生き残っていた場合はこの植物類を経由して光酒の影響を受けて原始世界で逞しく生きていく事になった
今回は文明が分かりやすく残っていたからイージーモードかもしれない

☆邪悪なゴルゴム(ボランティア)
真の支配者的な立ち位置を考えたら定期的に農地を焼く系のイベントみたいなものなので対応が手慣れている
先代とは異なる意向を持った創世王がまとめている為、主要怪人の中にはTV版で見られなかった漫画版怪人が交じるし鹵獲兵器も戦力に組み込むし多少量産もする
やってることが誰かと同じ?
目的が同じだとやることが似るのは当然の話しなのだ

☆災害救助で成果をしっかり上げて信用を回復させたい自衛隊の皆様
市販の強化服で戦力増強を図っていると見られてプラマイゼロくらい
それが無ければもっと被害が、みたいな話を押し潰して自衛隊をどうにかしたい連中とかも居るのかもしれない
この世界観的にワームとかファンガイアとかが議員にまぎれててもおかしくはないし

☆日本初市販変身システム
葛城のおじさまのボトルシステム、浦賀社長が研究中のネビュラガス(まだファントムリキッドは生成できていない)圧縮技術、そして主人公が手に入れた地球に眠る厄災の記憶を元に完成した最新の変身システム
ボトルではなく完全一体型として組み込まれたギアを用いて変身する
このギアは難波祝が使用していた時と異なりネビュラガスに特殊な成分を混ぜる形式ではなく、機械装置を一体化させて地球の記憶によってガスの性質を変化させる半ガイアメモリの様な物体
結局ギアエンジンとギアリモコンってどういうシステムだったんだよ……となったので折角なのでこういう設定で使う事に
もしかしたら元の設定を見逃しているかど忘れしているかで原作でしっかり説明されているかもしれないが二期にたどり着かない限りは名前だけを借りた別物という事で押し通せるから兵器兵器
使用ギアは厄災限定地球の記憶から抜き出した労働者の記憶を組み込んだギアレイバー
労働の記憶が厄災の記憶に含まれるのは、この厄災の記憶ってのが要するに積もり積もった人類含む汎ゆる生き物の負の感情が根底にある穢由来のものだからだよ
有史以来誰も文明から駆逐できたことのない恐ろしい厄災の記憶なので限りなく低出力で作ったギアでも市販品として或いは自衛用として見れば恐ろしく高い性能を誇るよ
恐らくこの地球の記憶でガイアメモリとかを作ると有史以来の労働者達が味わっていた労働の苦痛とかが実感できて精神的に即死するよ
分解して解析されるととても不味いので、実は一台に付き一匹ヘキサギアがミラーワールド側についていて監視していて、ある程度破損した場合は遠隔で破壊する為のスイッチを押すか事故に見せかけて物理的に破壊することになるよ
使用者が普通に危害を加えられてる、とかの場合は特に何もしないよ
トランスチームガンベースで作られているけど銃撃機能は無くて、代わりに万能工具としてドリルやグラインダー、溶接機としての運用がアタッチメントの付替えで可能になっているよ


そういうわけでもうちょい続く幕間です
日本中の労働者がG3マイルドもどきか劣化ナイトローグくらいの馬力を得てせっせと復興するので幕間は恐らく次回に終わります
なのでカブト編はまたしばらくお待ちを
それでもよろしければ次回も気長にお待ち下さい

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