オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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幕間のお話
167 一夜が明けただけの東京を記録しに行こう


一夜明けた。

 

「おー」

 

ジルがパジャマにスリッパのままベランダから外を眺め、感嘆の声を上げている。

まだ日も昇りきっていない時間、遠くから覗く日の光だけが薄っすらと空を照らしている。

単純に焼け落ちた一般住宅も多くあるし、アパートの類も上層階の部分は砕けている、というところもある。

だが、崩れた建築物にはびっしりと蔦が生い茂り、道路は砕け崩落し空から降っていた雨やら地下から唐突に湧き出てきた水やらで半ば水没している。

更に、ヤマタノオロチの出現に合わせて住民の多くは安全であるとされていた避難所に行っている為人の気配が少ない。

この景色を数枚写真に撮って事情を知らない人に見せたなら、大災害の後の被災地ではなく、人類滅亡後を舞台にした映画かなにかの大規模なセットかと思うだろう。

 

「蔦はなんとかせんとなぁ」

 

建築物にびっしりと絡みつく蔦、というのは、一見しておしゃれに見えたりはするが単純に建材を痛めるので建物の寿命を縮めるし、水気と植物は虫(ワームではない)が繁殖するのに有利に働く。

このまま放置していたらハエやら蚊やらゴキブリやらがワラワラと湧き始めるだろう。

このアパート程度なら念動力で一気にむしり取って根絶やしにする事もできるのだが……。

今や日本中の多くの土地がこんなことになっているのだからして、その中でいきなり短時間で綺麗に蔦を掃除された建物が出てきたりなんかすれば怪しまれてしまう。

後々、それとわかる形で人力で蔦の除去を行っていく必要があるだろう。

 

「飯盒炊爨しようぜ飯盒炊爨」

 

グジルが夏の赤心寺での修行時くらいしか使わない(なんなら赤心寺もオール電化に移行しているので野外修行で使うくらいだ)キャンプセットから諸々を持ってきた。

家は常に俺、ジル、グジルの契約モンスターが居るため、電力源としてインフィニティ・パワー・ユニットが三機存在している。

無限のエネルギー元が三つもあるのだから、ちょっとばかり電力会社が本当に復旧できるか頭を悩ませている今でも余裕で文化的生活を送れる為、そんなものを持ち出す意味は薄いを通り越して存在しないと言って良い。

 

「いいな、ベーコンでも焼くか」

 

「いのししのやつ?」

 

「そうそれ」

 

人が生活しているのだ、生きている人が居るのだ、という事を知らせる為に、飯を炊く煙を出して見せる、というのはありかもしれない。

 

「衝動買いしたスキレット、ちょっと使ってみたかったんだよ」

 

「夜のうちにホムセンで木炭仕入れてきて正解」

 

「おかねおいてきた?」

 

「当たり前だろ? わたしゃ文明人だからな」

 

古代の狩猟民族がなんか言うとるわ。

 

──まう

 

ひらり、と、ベランダに一匹の心なしかいつもよりもシルエットがでかい猫が舞い降りる。

屋上経由で帰ってきたのだろう。

 

「おかえりニーくん、街のみんなはどうだったね」

 

──んあぁん

 

なるほど。

まぁ、ニーくんも別に全ての同胞を助けたい、みたいな大それた考えを持っている訳では無い、という事だろう。

町猫の様子に対してドライな反応を見せたニーくんが仁王立ちのまま腹部の毛皮を引っ張るとそこからドサドサと大量の魚介がまろび出てきた。

 

──bake

 

「いや良いけど、どっから持ってきた」

 

流石に猫の言葉だけで説明するのは難しいのか、身振り手振りを交えて入手の経緯を教えてくれた。

ヤマタノオロチ活動中、被害から逃れる為に近辺のアーミー達を引き連れて海中に潜んでいたのだという。

騒ぎが一段落した後にそのまま海を彷徨っていると、エンジンの故障で半ば難破船になる寸前だった漁船を発見。

その船を皆で曳航し陸まで送り届けると、お礼として漁の成果である魚を分けてもらった(無許可)らしい。

まぁ、こいつらに人語を話させていないのは諸々の理由はあれど俺なので、人間との咄嗟の交渉を面倒くさがる事に関して兎や角言う資格はない。

船の材質にもよるが、下手をすれば海上で夜を明かす内に船が植物に侵食されてそのまま沈没、というルートもありえた以上、命の値段として考えれば安い買い物だったのではないだろうか。

 

「焼き魚で朝飯にして、残りは干物か燻製か」

 

「チップ余ってたかなぁ」

 

「ざいりょうひろってくる?」

 

そう言ってジルが指差す先には一夜の内に生い茂った植物に覆われた街。

いくら地脈のエネルギーを浴びて植物が活性化しているからといって、燻製で使うような木材が勝手に都合よく生えているとは思えないのだが。

いや、いや、流石にな?

 

「ていうかニーくん、冬毛か?」

 

「もさもさ」

 

「飯の前にカットだなぁ」

 

―――――――――――――――――――

 

そういう訳で外に出てきたのだ。

と言っても燻製用のウッドチップの材料になる木材探し、という訳では無い。

色々と調査するべき事が山積みなのだ。

オロチ現象の前兆として日夜大量に魔化魍が現れていた訳だが、ヤマタノオロチとして大量の穢が結実して地球外に放逐され、濾過されたエネルギーは地上に降り注いだ。

 

地上に魔化魍が溢れ出していたのは穢を浄化する為のシステムが正常に作用し、地脈を龍にしない為の必死の抵抗だった。

あの龍の発生がまだ猛士の存在していない時代の地球や、或いは他の星でも起きていたというのであれば、現行のシステム、穢の魔化魍化と鬼による浄化は後付によるもの。

元から存在した地脈の浄化、或いは繁殖機能と、推定人類が後付した浄化設備のかみ合わせが悪かった為に起きた事故と言える。

病の元を取り除かずに延々対症療法を行っていたが為に治癒までに時間がかかった、というのがあの事件の真相なのだ。

 

オロチの前兆が見え始めた時点で魔化魍の発生を一時的に停止したりできていれば、被害はヤマタノオロチ発生から飛翔までに産まれた死傷者だけに絞れただろう。

まぁ、この世界で一年ごとに人類の敵対種族が暴れまわったり地下に攻撃的なモーフィングパワーが注ぎ込まれて龍の形成を助けたりしていなければ単純なオロチ現象で終わってヤマタノオロチ発生後から飛翔までの死傷者は発生しなかったのだが……。

が、この世界の人類敵対種族が大量に存在したりそれらが独自に動き回るのを予め止める手段は殆ど無いし、あの決戦で地脈を武器化する相手に対抗して地脈を武器化しないという選択はありえなかった。

どうしようもないことなのだ。

最善は魔化魍の発生を一時的に停止してヤマタノオロチの発生に備えて市民が適当なシェルターにでも避難することだったのだけど、そういう事は余程政治的に高い位置に居ないとできることではない。

 

幸いにして、ヤマタノオロチが龍として飛び立った事で地下に蓄積されていた穢……地球の災厄の記憶は殆どリセットされた。

これ以降、魔化魍の発生率は格段に低下すると見て良いだろう。

無論、完全消滅とはいかない。

ヤマタノオロチが活動していた時間は一日にも満たない為、地球総人口にそう大きな影響は与えていない。

国土面積に対して火山の数がやたら多い火山大国日本であっても、その総人口はついぞ一億人を少し切るか切らぬか、という程度に抑えられた。

一億人前後のアギト候補者達が犇めく国、魔化魍の出現数低下は数年程度で収まって元の木阿弥、といったところか。

上下水道と浄水施設は綺麗さっぱり掃除したが、汚物を流す生き物が居る限り汚れるのを止めることはできない、これはそういう話なのだ。

 

海外はまだ報道が届いていないので知らん。

だが、龍として地上から吸い上げた血肉や魂などの総量を考えれば、地球総人口だって60億はいかないまでも50億以上は確実に残っている筈だ。

そして、穢から濾過された純粋な自然エネルギーが植物として龍脈から地上に還元され、それが動物に食事の形で取り込まれていけば人類の変異も進んでいくだろう。

 

「そういう訳で、これは事件翌朝の記録だ。一見してただの蔦、けど、例えばこの苔類も含めて近辺で見たことが無い種類のものがちらほらある」

 

ロードインパルスの背に乗り移動し、気になるところを見つけては降りて解説していく。

最初はデジカメで撮影していこうかとも思ったのだが、ロードインパルスのカメラアイと集音装置でそのまま映像記録を残しておけばメモの必要もない事に気付いたのでそうしている。

俺が示した蔦と苔にロードインパルスが顔を近づけ接写していく。

再びロードインパルスの背に乗り、集音装置が拾える程度の音量で解説を続ける。

 

「植物分布がぐちゃぐちゃになる危険性はあるが、今のところ致命的な侵略的外来種とかは見つかってない。無から生えたというより、種の一粒とかが紛れ込んでいて、それがあの光酒の雨を受けて一気に繁殖した、という方が正しいのかも。……ああ、あれなんかそうじゃないか」

 

運悪く街に発生した巨大魔化魍によって瓦礫の山になった元マンションの瓦礫。

そこは背の高い植物が瓦礫に完全に根を張り小さな丘の様になっている。

 

「大麻畑ならぬ大麻の草原?大麻の丘? この辺に栽培の有資格者が居たなんて話は聞いたことないし、どっかのバカがベランダでひっそり育ててたか、ヤクザもんが種でも隠してたか。通信網が復旧したら通報……いや、後でお巡りさんを探して直接通報するか」

 

違法に栽培されて違法に取引されれば人に迷惑をかけるものではあるが、適切に対処すればそれほど問題にはならない。

路面が完全に死んでいる為、ゾアテックモードの四足で歩くロードインパルスの背の上で、ちょいちょいそこらの植物を採取。

逃げ出さずに居た人間も居るはずだが、こうして散歩を始めてから他の住人に遭遇していない。

季節柄日は短いが既に朝日は登っており、平時であれば仕事や学校に向かう人々を見かける程度には人通りがある場所なのだが。

 

「龍が出たのが昨日、龍が居なくなってからまだ数時間、と考えれば仕方がないにしても、本当に人が居ない。……ああ、病院に人がいるのは確認済みだから今日はあっちの方にはいかない。方角的には反対側とか、あとはぐるっとその辺を走って東京の結界を確認していければなとも」

 

既に昨夜家に帰るまでに難波さんとなごみさんと仲村くん、配下のFAGども、轟雷の嫁であるいにゅいなどの生命安全は確認しているし、RRKKとブレインスクラッチ社屋及び保護してある天才の無事もあっちから報告されている。

個人的にはそれぞれちゃんと顔を見ておきたい、という気持ちもあるが。

今は光酒の影響を見ていきたいという気持ちが強い。

 

「一晩明けた訳だけど、まだまだ実感が湧いてないのかも。始まりも終わりも突然だったから無理もない。仕方がないのでこのまま近辺の植生を確認しながら結界の要となる施設や立地を確認して、とりあえずは目指せ奥多摩」

 

素晴らしき青空の会、猛士。

この後ろ暗いところのそんなに無い二大人類の味方組織は開店休業状態である。

元々戦闘員を育成維持して必要な場所に送り込む為の組織だし、嶋さんなんかは資産家として各地に災害支援とかで忙しいだろう。

なごみさんはまぁまぁ正義感が強いのでこういう時に自分も手伝う、と言って炊き出しとかをするのだが、何せ昨夜が昨夜だったので自宅で熟睡している(ミラーワールド越しにヘキサギアに確認させた)し、それは猛士のメンバーである鬼やサポーターも同じこと。

 

「奥多摩のあの森が変わりないか、焼けてないか、キメラどもが変な進化をしていないか。同じ理由で青森の方も行きたいが、まずは手近なところだ。こういう非常時だからこそ自分の足元を固めなければならない」

 

ロードインパルスが前進を止めないまま跳躍する。

道路が派手に陥没し巨大な水たまりが小さな池になっていた。

 

「固まっていない地面だと、ああいう事になりかねないからね」

 

嫌に澄んだ水たまりの中には乗用車。

水たまりの水深は深い、元は地下街があった辺りか?

中に人影が見えるが、動いていないので駆けつける必要もない。

龍体で飛翔する時も、こういう形で死んでいると死体と魂を取りこぼしてしまう。

腰のカンテラ型キルリアン振動機が反応しないので地縛霊の類になっていない筈だ。

死体はただの肉なのでいいが、せめて魂はどこぞで救われている事を祈っておこう。

この世界で死んだ魂がどこに行くかは知らないけど。

十字を切って手を合わせ、念のためにカンテラを起動させて浮遊霊の有無を確認して、おやつに用意していた袋入りのお煎餅をお供えしていく。

 

「ブッダエイメン、どうか安らかに。ここからはこういうのは省略していく。出くわす度に祈ってたら日が暮れるまでに奥多摩につくかも怪しい。水の採取も忘れずに」

 

ロードインパルスのカメラアイの撮影範囲外から適当な小型ヘキサギアを呼び出し、採取した水の入った小さなボトルを渡す。

市販品と同サイズで製造したもので、市街を単独で活動していてもチンピラや悪ガキが盗もうとしてくる以外ではそれほど害無く運用できるのは一般販売した利点と言えるだろう。

因みに、市販品はいわゆるモンキーモデルというものでミラーワールドへの行き来もできなければモンスターとして契約する事もできないのだが、この世界には付喪神の概念もある。

先程から人間の代わりにちらほら見る、瓦礫の前でじっと命令待ちをしている市販ヘキサギア達も、もしかしたら主の死を理解して悲しんだり途方に暮れていたりするのかもしれない。

 

「濾過すれば使える水なのか、って問題はある。街のこの惨状を見ればわかると思うけど、今の人類の科学では計り知れない作用を持った水……或いは水に似た何か? 水に溶ける何かかも。そういうのが降り注いだなら、知らず生き物が飲んで影響を受けるかもしれない」

 

安全である事は確認している。

大体の純粋地脈エネルギー……光酒は昨夜の内に殆ど地面に吸収されていき、植物類を活性化させた上で地脈へと戻っていった。

水はけの悪い場所に留まったものも成分が揮発してただの水になっていると見て良い。

予め光酒の雨が来る、と理解した上で確保のために動くような組織は殆ど無いだろう。

ヤマタノオロチの発生後に光酒の雨が降る、なんて事を理解している様な大規模で歴史のある組織はそもそも地脈から直接エネルギーを吸い上げる技術ぐらい元々持っている筈だ。

意地汚くアパートの屋上(FAGのところも)や家人が旅行中で無人の実家の庭に光酒確保用の容器を準備していたのは俺くらいのものだと思う。

 

「再現できれば農業とかにもかなり影響が出せる。たぶん、そういう方面の働き手もかなり減っただろうしね。効率を上げられるならそれに越したことはない。因みに、ベランダで夏場に栽培していたミニトマトの鉢植えはモッサモッサと実を付けてた。種は植えて無かったんだけど、残った根っこから再生した、ぐらいの可能性はあると思う」

 

で、これを何に使うかって言う話なんだけど、動物には影響を与えないというのは確認済みな訳だ。

逆に言えば植物的な形質を持っていれば影響を大いに受ける、というのが確認できた理由がある。

ニーくんの毛だ。

今朝に家に戻ってきた時点で既にブリティッシュロングヘアくらいにはなっていたのだが、どうもあれである程度気合で引っ込めていたらしく、体内に収納していた毛を出させたところ長毛種の猫というよりも猫の鳴き声を発する毛玉の様な有様になっていた。

全てのアンデッドの形質を受け継ぐパーフェクトサイボーグたるニーくんは当然、植物系アンデッドの形質も備えている。

普段は植物を操る力を使って猫草を伸ばして食べるか、適当な道端の花を操って無理矢理に蜜を増産させて舐めるか、猫じゃらしを自律させてじゃれて運動するくらいしかしないが、あの量の光酒を浴びれば無理矢理にその形質を活性化させられてしまうのだろう。

カットした毛の切り心地が生き物の毛というよりも植物のそれに近い感触だった為、よくよく細胞を観察したところ普段のそれと異なる植物質だったことが発覚したのである。

 

非活性状態では種のまま保管できる植物の形質を備えた兵士を作り、光酒を自力で地脈から採取できれば、ミラーワールドを介さず魔化魍メダルも使わない持ち運びに便利な兵隊を作り出す事ができるだろう。

或いはこの形質を利用して、魔石に頼らず人体に寄生して宿主を強化するような植物を作り出す事ができるかもしれない。

人体を強化するシステムは何種類有っても足りることなんて無いのだからして、特定種族しか強化しない、なんて管理が容易く安全性の高い物質があるのならば応用した強化システムの開発は絶対に進めなければならないのだ。

何しろ将来的に生き物を変異させる植物は高い確立で地球にやってくるからな……。

先んじてそれと同種のシステムを作り、対抗策を考えておかなければなるまい。

 

「高台に登るとわかるけど、大麻の草原多いなー。ポツポツある。すがる人が多いから良く売れたのかもね」

 

瓦礫の山などをテクテクと歩くロードインパルスの背から眺める東京の街並みは実に末世感ある。

世紀末は越えたのになぁ。

 

―――――――――――――――――――

 

一通り東京の外周をぐるりと回った結論として、今の東京はかなりすっぴんに近いくらいに結界の要が破壊されている。

 

「東京……というか、江戸に作られた結界は各方角に特定施設や地形を盛り込む形のものだからね、土地破壊系の攻撃にはそれほど強くないというのが実情なワケだ。元から侵略者の類は素通しだったこととか踏まえると、果たして江戸幕府が想定していた外敵とは?みたいな話になるわけだけど」

 

来る災いに全力で防御を固める、というのは悪くないのだが、それは結局来る災いをフルパワーで受けてしまうという訳で、規模で上回るものには無力だ。

それでも東京が完全に壊滅していないのは結界が守ってくれていたおかげなのだから最低限の仕事は果たしたのだろうけれども。

作ったのが南光坊天海ではなく空海坊爆烈だったならもっと攻撃的な結界になったのだろうか。

時代は専守防衛じゃなくて先制攻撃ですよ先生。

 

「とはいえ、結界の構造的に東京のインフラを最重要なものから順番に直していくと結界の起点も優先的に整備されていく事になるから、まだまだ東京の結界も捨てたもんじゃ」

 

と、携帯端末から着信音。

携帯電話ではない。

というか、携帯電話は今は使えない。

中継機とか中継局も無事じゃないし、無事だったとしてもこの事態なので回線はパンクしているだろう。

衛星携帯とかを持っている人ならどうだろう。

この星を攻め落とすにあたって人工衛星はまず破壊するだろうなと思うと、緊急事態の時にはあてにできなさそうって思っちゃって買ってないんだよな。

 

「はいはい、誰か知らんけどおはよう」

 

『あ、パパ? もうおはようって時間じゃないよ?』

 

通話に出ると、オリハルコンエレメント投射技術を応用した空中投影モニターが現れた。

将来的に通話する側のテンションや声量に合わせて動いたり巨大化したりする機能を搭載できたらなと思っている。

モニターに写っているのは配下であるFAGの一体、サイズの合っていないYシャツ一枚で髪を降ろした源内あお。

こいつには手を出していないので、上から二つまでのボタンが外れているのは同衾する相手を誘惑する為のものだろう。

或いは昨日の夜から今朝にかけて一戦交えた後なのかもしれない。

死線をくぐった後の生き物は繁殖意欲が増加するからな。

あおがそのタイミングで仲村くんに迫るのは戦略的にも自然だ。

それに仲村くんがちゃんと応えたかどうかは、武士の情けで聞かないでおいてあげよう。

だが妊娠したら仲村くんにはご祝儀を渡して娘をよろしくお願いしますと頭を下げた上でパパ呼びを提案してやろう。

仲村くん、パパだよ。

これはプリマヴェーラパンテーラ。

 

「明らかに寝起きの格好で言うことか。で、なんか緊急事態か。バイオリズムには問題ないようだが……」

 

あおに限らず、普段各地で自由にさせているFAGやメガミデバイス達の生体情報は常に監視しており、異常が発生した場合は即座に連絡を取り、人目が無ければ遠隔で、人目を避けられない場合は現地に飛んで調整を行うようにしている。

幸いにして彼女らのバイタルは概ね安定しているのでそうそう出張ることは無いのだが、諸々追加した便利機能の為に人間から離れた構造を残した彼女たちのメンテナンスは基本的に自分でやってもらうか同種を近くに置いて相互メンテナンスをするか俺が診るかのどれかになってしまう。

軽い触診程度ならいいんだけど、ケツの充電コードとかあるし、多少機械部品もあるからレントゲンできないんだよね……。

 

『うん、ナオがね、朝ごはん食べた後にお腹いたいってトイレに籠もっちゃって』

 

「正露丸かビオフェルミンか太田胃散飲め、そんで駄目なら病院行け」

 

『パパの方が直すの上手いし』

 

「お前らと違って仲村くんはモータルだから普通の医者に任せていいんだよ」

 

『いやだってたぶん混んでるし』

 

怪我人も病人も普段からみんな苦しい中混んでいる病院に行ってるんだよ甘えるな。

いや、逆にこのタイミングならまだ病院にたどり着けている怪我人の方が少ないから外来は空いている可能性もあるか……救急車が走れる程の道路状況じゃないし。

 

「そもそも、今の仲村くんが腹を下すとか何食わせた」

 

仲村くんは鬼としての練度では新人枠の中でも最高峰であり、疾風鋼の鬼と同じく日常的に人体を強化している関係上、ちょっと腐った肉とか、ちょっと毒残した河豚とか、何なら割れたガラスとか食べても消化しきれる筈だ。

しつこく食い下がってくるあおに問い質すと、困ったような顔で明後日の方向に視線を向ける。

 

『アパートの敷地にね? みんなで柿とか桃とか栗とか色々種撒いててぇ……』

 

「誰発案かは後で確認させてもらうからな、何食わせた」

 

『トマトとナスのお味噌汁、水道が死んでたから雨水濾過して……。それと、デザートにいちごとスイカ』

 

季節感殿が死んでおられるぞ。

そんでぜってー何が起きるかわかった上で種飲み込ませる為のチョイスじゃねーか。

種飲まずに食える安全な果実他に絶対たくさんあったろ。

 

「お前ら全員おしりペンペン」

 

『首謀者はシロとクロだよー?!』

 

「連帯責任だ」

 

通話を切る。

どうせあれだ、ちょっと腹痛くなったとこを看病してあげよう、みたいな目論見があったのだろう。

流石にお尻から生えてきたスイカのつるを引き抜いてあげようなんていう特殊な性癖には目覚めていないと思いたい。

自作した小童どもの考えることなど俺には御御御付だ。

いやお見通しだ。

 

「あー、植物を仲介した場合の人体への影響を確認できる被検体が見つかったので、今日は奥多摩めぐりとその辺の植物採取は中止。記録は続行、テーマは、影響を受けた植物が人体消化器内部で成長した場合の経過観察と影響、かな。被検体の彼は常人の中ではかなり鍛え上げた戦闘態を持つから、常人の参考にはならないけど、実際の悪影響とか考えて再発防止のためにデータとして残しておくのは悪くないと思う。この状況の病院で緊急手術とか、お医者さんにも迷惑だしね」

 

今日の今後の予定が大幅に変更されてしまった。

ただまぁ、元からそんなに厳格なチャートを組んで動いている、という訳でもない。

昼飯は外で食べると家に連絡、いや、いっそ食材とBBQセットを持って仲村くんの部屋の前で皆で食べるか?

復興の為の被害調査の前の危険度調査は他の大規模組織とかがやってくれているだろうから、それの後追いで良いか。

巨大化した果実やら見知らぬ植物や怪しい動物を見つけたら報告する様にだけ各地のヘキサギアに命令を飛ばさせ、仲村くんの家に急ごう。

 

 

 

 

 

 





事変後一日目
復興一日目、とかいう段階でもない日の話
まだ世間的には本当にあの災害は収まったのか、という疑問が残ってる段階
シェルターとかにいれられた人たちは怖くて外確認できてないんじゃないすかね
地上の避難所に居た人たち?
夜に眠れた人たちは朝起きて外見て唖然
眠れずに外で雨の中にょきにょき成長する植物を見て戦々恐々
空が晴れた後に天を登る龍を霊視してしまった人たちはSANチェック
アイデアロール成功してしまうと龍信仰とかに目覚めちゃうかも

☆能天気義妹ズ
ピクニック気分でしかない
生活が不便だったら最悪赤心寺地下基地でしばらく生活すりゃいいか、くらいに思ってるのでこんなもん
そうでなくてもグジルは最悪の場合古代の生活に逆戻りかあーくらいに覚悟してるけど、当時に比べりゃ百倍千倍マシだよなと楽観的
元々の赤心寺は家電の類も無いしあそこでの夏場の修行みたいなもんだと考えればある意味年一のイベントがちょっと長く続くかな、くらいのもの
特にジルは産まれてから毎年赤心寺修行に同行しているのでちょっと家電とかがない生活にも慣れてる

☆平和な街並み
まだ人々が安心して外を歩けるようなタイミングでもないので
しばらくするとポツポツと人が出歩き初めて無事な物資を巡って争いとかが起こるしこのタイミングで馬鹿なオルフェノクとか馬鹿なアギトとかはヒャッハーする
まぁ無事な主要都市には無事だったなりの理由となる戦士が居るので結末はライト版北斗の拳
音速を超えた拳によって爆烈されたりするのだろう

☆平和な街並みを侵食する諸々の植物達
だいたいの場合は無害
生えてる植物も無害
この時点で生えてきた植物を夜の内に採取して密閉して成分の揮発を防いでいた光酒成分入の水で煮て食べたりするとスイカの種がお腹の中で成長するとかいう古の都市伝説が真実になってしまう
実害はそんだけ
そんな稀有な被害者も一人だけ

☆ちょっとしたイタズラで恋人かそれに類似する関係であろう相手の腹を破裂させようとしてしまったアホの子
人間に対する好き嫌いで多少マシになったが元々は生も死も価値はいっしょいっしょって感じの試作品なので倫理観が稀にバグる
流石に相方にしてる仲村くんが死ぬとそれらが一緒ではない事を理解して対称性の破れとかそういうので安定した人格になるのではないだろうか
仲村くんは早めに彼女にちゃんとした人間性を与えないとガバって死ぬかもしれないが、本人の強度が既に人間の中では上澄みなので死亡確率は低い

☆いかんな、破裂する前に中身を出してみるか……とかナイフ持って覚悟決めてたら友人が凸ってきて心霊医術的に中身を取り出したので切腹せずに済んだ友人枠
ワンチャン、腹切って中身取り出すくらいならホッチキスと消毒薬と綺麗めの布があれば傷跡が残るくらいでなんとかなった
まあその場合後遺症で少し弱体化するのであぶないところではあったのだ
弱体化の理由が素人手術による後遺症なので後日直せば弱体化も解除されるけど、弱体化中に強敵に襲われたら死亡率が上がるからね
術後、腹痛の原因があおの食わせた野菜と果物である事を説明されてもげんこつ一つで済ませる程には心が広いし心を許している

☆ぬけぬけと素知らぬ顔で記録映像撮影マン
なんか不思議なことおこっとるなぁ記録したろ
不思議な作用なのでサンプル集めて実験したろ
これ復興前に写真とか取っといたら写真集とか作って金になるかもなぁ……
誰かこの段階で映画とか撮り始める人居ないかなぁポストアポカリプスものとかさぁ
罪悪感?
なんでぇ?
しらなぁーい
今後素知らぬ顔でRRKKの社長としてレンタル用のヘキサギアを各地に放出したり支援物資のやり取りに無償で貸し出したりして信用を得ていくことにもなる
四足や二足で動くモードがある主力製品であるロードインパルスとボルトレックスはこういう災害時には非常に役立つのだ
えぇー! バイクと合体して二足歩行ロボになって各地に迅速に荷物を輸送できるトラックまであるんですかぁー!?
実は二年目とか四年目とかで既に軽度の似た事態にはなっていたから怪しまれることはないんだなこれが

☆街の各所で瓦礫の前に佇む市販ヘキサギア達
愛情がどうこうとか覚えられる程のCPUは積んでいないのだけども
まぁそういう事もある世界観なのかもしれない
数は少ない
守ろうとして一緒に瓦礫になってしまったものの方が圧倒的に多いからね

☆まだ書かれていないヒロイン達
幕間使ってちょっとづつ描写していくと思う

☆まだ書かれていない原作キャラ達
幕間で復興編(カブト開始までに無理やり終わらせる)とかやる関係でたぶん描く事もあると思われる



今回の幕間はちょっとした破滅を向けた地球文明とそこからのインスタント復興を描いていきます
なんでインスタントかって言うと混乱してるよりも安定している方が都合が良いと思っている組織が大量にあるからじゃないすかね
そんでこういう裏の事情を知らない人の間ではまた別の話があって
人の力だけでは諸々が及ばない事態はそれをどうにかする為の新製品がよく売れるし普及もし易い
社会の形を変えるのに丁度よい場面でもあるのです
次回はヒロインの一人をメインに据えつつそんな話の予定
そんな話をやるもんだから原作キャラの出番とかをちゃんと描けるかは未知数も良いところというか
最近、むりくり原作要素を出すために筆が止まるよりはオリジナル要素ばっかりでもとりあえず話を書いてった方がいいのではないかな、と思うようになりました
それでもよろしければ次回も気長にお待ち下さい

次回、幕間その二
「主役はそう!これを着た、そこのあなた!」
お楽しみに

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