オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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166 転じる災い

火口へと落ちていく二十二号。

光の柱の中、水に落とした雪の様にその輪郭が、色が、緩やかに滲むように解けていく。

実際には数秒ほども無い出来事だったのだろう。

二十二号へと放ったキックの反動で跳ぶ四号が着地するまでの間に、二十二号の漆黒は光の柱の輝きになんの陰りすら残すこと無く消えていた。

 

「っ」

 

呼びかけようとする四号、五代の声が喉まで出て途絶える。

二十二号をなんと呼ぶか。

五代は彼の本当の名前すら知らない。

そも彼を蹴り落としたのは五代だ。

それは互いの決定的な断絶の末のもの。

或いは、五代雄介が葬り去ってきた数多の未確認生命体へと行ってきたそれと変わりはない。

こうするしかなかった。

だからこうなった。

 

本当にそうか、と、改めて問う余裕すら今は無い。

地鳴りは最早地震と言って差し支えない程に明確に地を揺らし、二十二号の予言した龍の誕生は目の前まで迫っている。

それをこの場に残された五代一人でどうにかしなければならない。

荒れ狂う龍を別の形に変化させて鎮める。

やることは普段武器を作る時とそう変わりはない。

グロンギが作り出した武器を自分の武器に作り変えるのと同じ要領だ。

駆け出し、四号の手が光の柱に触れる。

 

その寸前。

光の柱が、まるで電源を落としたかの様に細まり消える。

 

「まさか」

 

呟くとほぼ同時、常に鳴り響いていた地鳴りが静まる。

暗雲の下にあってなお昼間の様に明るかった周囲が闇に包まれた。

電力インフラが尽く破壊されたこの状況で光源が消えるとはどういうことか。

周囲を見渡せば、日本中どこからでも見えた、山を貫き屹立していた無数の龍の首、ヤマタノオロチの姿が消えていた。

 

一際強い衝撃。

地鳴り、地震、どう表現するのも正確ではない。

まるで、巨大な生き物の身体に耳を当てた時に聞こえる様な。

巨大な生き物の上に立つ小さな虫になったなら聞こえるだろう音。

ゆっくりと、しかし途絶えること無く連続して鳴り響くそれは鼓動。

 

「わ」

 

四号の足場が崩れる。

九郎ヶ岳の火口が内側から迫り上がるように隆起している。

火口から噴火の如く現れたオロチの首とは比べ物にならない。

山そのものを引き裂きながら、何かが現れようとしている。

 

落ちる。

遠目に見ればゆっくりとしたせり上がりに見えるかもしれないが、人間のスケールで見れば地面ごとピンボールの玉の様に弾き出されるのと同じだ。

崩れる足場でバランスを取ろうとした数秒で、四号の身体は既に数十メートル上空に投げ出されていた。

そこに見覚えのある巨大な影が迫る。

複数の金属によって構成された巨大な鍬形虫の様なオブジェ。

突如として飛来したゴウラムの手を掴み、四号がその場を離れる。

 

ゴウラムと共に浮遊する四号の眼下で、九郎ヶ岳が崩れていく。

当然その一部に含まれる九郎ヶ岳遺跡もまた、隆起する大地に巻き込まれる。

戦士クウガとグロンギの因縁の地が。

 

咆哮。

 

最早山でも岳でもない、崩された大量の土砂を、九郎ヶ岳周辺一帯の大地を突き破りながら、それは現れた。

これまで、無数の山々から現れたオロチの首とは比べ物にならないほどの巨躯。

長い首だけではない、巨大な顎門だけではない、東洋の龍のイメージに違わぬ、鋭い爪を備えた手、長大な胴体を晒す、白黒一対の龍。

蛇の交合の如く絡まり合いながらしかし、一歩も譲らぬ殺意を交わし合い、その身を削り喰らいながら天へと登る。

その目には互いしか写っておらず、二匹の龍をその体内から見上げる四号には目もくれない。

龍の中に取り残された四号は、空を征く一対の龍と心を重ねた。

 

殺さなければならない。

殺さなければならない。

眼の前のこいつを殺さなければならない。

 

最早自分が何者かすら分からぬ龍は、鏡写しの様に瓜二つの相手への殺意だけで飛ぶ。

視界の端に映る燃え盛る大地から熱を穢を瓦礫を死体を魂を吸い上げ、行く手に立ち込める魔化魍混じりの穢の雲を飲み込みながら肥大化。

眼の前の龍へと身体を擦り合わせるように、その身体を押し潰すように。

自らと同じく肥大化し延々と伸び続ける巨躯を食いちぎらんと噛みついていく。

 

永遠に続き無限に肥大化するかの如き龍の争いは、その体躯が地球そのものを覆い尽くす程に伸び切る頃には、争いですらなくなっていた。

削り喰らい合っていた白と黒の龍は、欠けた身体を互いの肉で補う様に色を混じり合わせ斑に、斑は更に混じり合い輝く()に、取り込んだ物理存在と熱量は砕け混じり合う中で純粋なエネルギーへと変換されて。

そして、かつて九郎ヶ岳のあった大穴から龍の尾が引きずり出された。

溶け合う様に繋がり、尾というべき部分の存在しない末尾。

 

天を覆う無色の、多色(虹色)の、或いは黄金()と化した龍が叫ぶ。

それは歓喜の声だ。

殺してやった、という叫びか。

既に目の前の龍は居ない。

殺し、喰らい、生き残ってやった。

そんな叫びだろうか。

無論、その叫びの意味を知る者は居ない。

ヤマタノオロチも、白い龍も、黒い龍も、既に無い。

その発端となった殺意も、その持ち主も。

 

―――――――――――――――――――

 

顎門()(顎門)が甲高く吠える。

勝鬨の声。

満足したかの様な声と共に、龍の身体が崩れていく。

 

人を食らう黒雲は龍に飲まれ、空を覆う程に巨大化した龍がその身を解いていく。

半ば以上廃墟と化した街並み、そこで呆然と空を見上げる傷だらけの戦士達は、それを見た。

満天の星空。

降りしきる雨が焼け焦げた街と戦士たちを、逃げ遅れた人々を濡らす。

ほのかに輝く雨。

正常に機能している組織はその雨が危険物質を含んでいないかの検査を迅速に開始する。

 

「恵みの雨、か」

 

キタラに似た音撃斬を抱えた朱い鬼が、東京を遠くに望む清めの儀式場で空を見上げてぽつりと呟く。

既に、先程まで地上に溢れかえっていた魔化魍は居ない。

儀式場にあった地脈の安全弁とも言える巨大な音撃鼓はすっかりただの石の遺跡と化し、辛うじて生き残っていた音撃戦士達は不思議そうに自らの身体を確かめていた。

魔化魍との戦闘、そしてアームドセイバーの長時間連続使用による過剰な負荷により籠もった熱で体細胞の蒸発と再生を繰り返しているような有様だった、無事なところなど何一つ無い程に疲弊し傷付いていた身体が癒やされていく。

 

穢の元となる人の思念、それに力を与える地脈に本来流れる、形の無い力。

人の定義する命という形すら取らない最も原始的な生命の源。

旧い文献においてそれは龍そのものであり、命の水であり、光の酒であるという。

 

生き残りの音撃戦士達が、徐々に魔化魍とオロチの消滅を実感し初めざわつきながらも喜びの声をあげ初めていた。

空に吸い上げられずに残った戦士の亡骸に縋り付き、緊張の糸が途切れた様に涙を流し始める者も居る。

事態は一応の収束を見せた。

既に命を失ったものこそ戻らないが、生き残る事ができたものは、この戦いで負った傷で死ぬ、という事も無い。

 

呪術に明るいその鬼は、既に降りしきる光の雨が染み込んだ地面から命の芽吹きを感じ始めていた。

一日とたたず、焼け焦げ穢された大地には驚く程生命力に満ち溢れた草木が生い茂るだろう。

戦いは終わった。

だが、帰った先には何があるのかと言えば破壊された街しかない。

普段の戦いの後の様に、戦いが終わったからと、ゆっくりと身体を休める場所があるかも、戦いで消費したカロリーを補う、空っぽになった腹に詰め込む様な食料があるかも怪しい。

 

その事実に、彼らはほんの数分と掛からずに気付く事になるだろう。

そしてどうにか眠りにつくことができたとして、彼らはまるで数十年人の手が入れられなかった廃墟の如く力強い草木に覆われた街並みに卒倒する事になるかもしれない。

戦いは終わった。

それは間違いなく一つの大きな戦いであり、人類の命運を左右するようなものだったのかもしれない。

だが、生き残った以上、生きていく以上はその先にも目を向けなければならない。

 

「未熟だな」

 

しかし、それを理解した上で、一先ずの勝利を噛み締めている、というのであれば、それもまた優れた戦士の資質と言えるだろう。

最新の馬鹿弟子を思い浮かべる。

奴なら、即座に自宅周辺のライフライン復旧にでも向かうのだろうか。

或いは経営しているという喫茶店か、最近起こしたという会社の社屋か。

仕事が早いのは奴の数少ない美徳だが、そんな真似を誰も彼もができる訳では無い。

一仕事を終えた後に、自分のスイッチを切る事もまた必要なことなのだ。

 

清めの儀式場の結界から離れ、高台に登り、街を見下ろす。

東京の街は、思っていたよりは無事だ。

結界が良いのだろう。

人為による破壊で無ければ、自然災害の類であればそれなりに有効に働くのか。

少し前の空襲などでこれと同じ効果があれば、そう思わなくも無いが。

こんな状況だ、建物が無事でもしばらく華道教室では稼げないだろう。

そも自宅はどうなっているだろうか。

遠目に見れば無事な建物もそれなりにあるが、建物があったのかもと想像する材料にしかならない瓦礫もそれなりに見える。

たちの悪いロシアンルーレットのようだ。

これからのことを考えれば考えるほどうんざりする。

 

「飯と、仮のねぐらでも用意させるか」

 

一先ず、どうにかできそうな弟子を使う。

その程度の堕落は許されて然るべきだろう。

 

―――――――――――――――――――

 

山も木も、遺跡も、何もかもが消え失せた九郎ヶ岳跡の大穴が塞がっていく。

周囲の土砂が流れ込んだのか、或いは地の底からせり上がってきたのか。

傷跡の様に巨大な凹地が残されたそこに、晴れ渡った星空から降りしきる雨が溜まりつつあった。

何事もなければ、そう時間も掛からずに湖にでもなるのだろうか。

その凹地のほとりに、四号が降り立つ。

 

地上の電源設備が尽く破壊され、街の灯りも無く、燃え盛るオロチも消え失せた今、見上げる空はかつてない程に星が犇めいて見える。

宝石箱をひっくり返したような、という表現でも足りない程の星空。

だが、空を見上げる四号の視線の先は星空ではない。

 

その手前。

空に溶けるように浮かぶ、ある種の霊的存在。

天に登る、互いに喰らい合う龍と僅かな時間心を重ね合わせた為に、偶然に脳のチャンネルが一致した。

一時的な霊視能力が見せるそれは、明け方の月のように仄かに輝く龍。

そしてその背に乗る、未確認生命体二十二号。

その身は龍と同じく、四号の視界の中にありながら、物質的な視覚では感知できていない。

 

「決着を、つけたんだね」

 

『ええ。何度やろうと、俺が勝ちます。そういう儀式なので』

 

呟くような四号の言葉に、遠く上空に居る二十二号の霊体が静かな声で返す。

それは最早物理的な空気の振動のやりとりですらない。

今の二十二号は大気に干渉する肉体を持たない。

四号こそ言葉を口にしているが、一種の精神交感(テレパシー)によるやり取り。

 

ふと、四号の口から謝罪の言葉が零れそうになる。

あの時駆けつける事ができていれば、違った結果になったのか。

君は、違う道を歩くことができたんじゃないか。

その言葉を、飲み込む。

 

幾つかの不幸や偶然は重なったかもしれない。

もう少し、誰かが、或いは誰もが何かをできたかもしれない。

しかし、出来なかったことがあるからと、辿り着いた今を否定するのは、違う。

間違いや損失の中でも、無数の選択があり、そこで得られたものがあるのなら。

否定は、進み続けたものへの冒涜であり、侮辱だ。

 

「これから君は、どうするの」

 

口にした問いに、二十二号は答えない。

黙ったまま、天を指差す。

星空、或いは、宇宙、この星の外。

 

ああ。

それは、とても良い。

きっと、自分も見たことがない様な、胸躍る旅、冒険だろう。

変身を解いた四号……五代の口元には、小さく、困ったような、呆れたような、少しだけ羨ましがる様な笑みが浮かべられていた。

 

二十二号を乗せた龍が身を翻す。

龍の角を手綱の如く掴んだまま、天を指さしていた手を降ろし、人差し指と中指を立てた片手を、敬礼の様に頭の横に立てた。

 

 

──幾久しくお健やかに!

 

 

月色の龍が天気雨の空を登っていく。

暗雲で閉ざされた偽りの空ではない。

無数の雨粒の先、数え切れない星が煌く天へ、無限の宇宙へ。

その後姿が星の灯の中に見えなくなっても、五代雄介は、いつまでもいつまでも、星の海を見上げて続け。

手向けの様に、サムズアップを空に突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

G(ジャイアント)・さらば!

 

 

 

 

そこまで全部自力で言うべきだったか、と思いつつ。

血肉のつまった皮袋同然だった轟鬼さんの手術(改造)を終え、血塗れの手術衣を脱ぎ捨て手術室を出る。

本来ならば地下秘密基地にある施設を使うのが改造手術には最適なのだが、不幸に不幸が重なるもので彼を不自然無く移送するだけの余裕が無かった。

前々からヤマタノオロチの出現待ちではあったが、轟鬼さんもよくよく運の無い人だ。

 

もっとも、本当に運の良い人はこの世界に生まれてこないし、この世界の運の良い人の上澄みは人類敵対種族とも出会わなければ今回の様な超々自然災害にも出くわさないので、俺がこの人生の中で出会う事はもう無いと思うが。

居るとすればどこか別の星かマルチバースの別宇宙とかそういう場所だろう。

戦士になってしまう様な人間は確実に該当しない。

きっと特にメインテーマとかも存在しない日常垂れ流し型のきらら漫画みたいな世界か。

羨ましい話だ。

接続方法が判明したら土地に魔化魍発生メカニズムでも組み込みにいってやりたい。

 

そういう訳で、多少のアクシデントを起こしつつ、未確認生命体二十二号はヤマタノオロチの核とも言える部分と融合し、星の海へと旅立った。

彼はこれから、綿密に計算された航路を経て遠い宇宙の果て、少なくとも現時点では周辺星域に機械惑星も植物に溢れた惑星も星喰い種族も見当たらない、これから運が良ければ生命が誕生できるかもしれない、比較的若めの恒星付近のハビタブルゾーンに存在する地球型惑星に着弾する。

 

ヤマタノオロチとは恐怖を核にして具現化した巨大な穢であり、元を正せば地脈、地球という巨大生物の霊的な血管であり、この星を命溢れる星として成り立たせているシステムだ。

ヤマタノオロチの発生は龍脈が恐怖によりその形を歪められた、といったものではなく、龍脈が元から持つ正常な働きの一つに過ぎないのである。

人々、或いは生きとし生けるものの数が、或いは惑星上の総思念量が増えすぎた時、その量を調節する為のものだ。

言ってしまえば新陳代謝のようなものであり、同時に、惑星を生き物としてみなした場合は繁殖行動の一種でもあると言える。

 

一つの惑星上であぶれていた思念、魂を取り込み天へと上り、新たに命が生きていける環境を備えた惑星に着弾した時、そこには命が生まれ始める。

ヤマタノオロチは討伐された訳でも清められた訳でも封じられた訳でもない。

地球上でオーバーフローを起こしかけていた多量の穢を一身に取り込み、穢、思念エネルギーとは異なる余剰エネルギーを放出しながら分裂。

片方は大地に還り地脈の形を取り、もう片割れは分蜂の如く新しい巣……この場合は未だ生命循環が成立していない惑星へと旅立ったのである。

 

分裂する際に放出されたフリーエネルギーは思念が微弱な植物や微生物などに還元され、それを糧に生き残った動物たちが繁殖する事で再び地上には命が溢れ、やがて再び地上を穢が覆い尽くした時、ヤマタノオロチは発生する。

何故肥大化した身体を縮ませてまで増えようとするのか、何故ねぐらの上に生きる小動物達を食い殺して入れ替えようとするのか、などと問うのは馬鹿げた事だ。

生き物は本能的に増えようとするものだし、健康を保つために代謝をする。

繁殖と代謝の否定は生命そのものへの否定になる。

 

恐ろしく気の長い代謝と繁殖方法だが、惑星の如き巨大な鉱物の塊をねぐらにする巨大な精神生命体のすること、むしろ百年前後しか生きられない今の人類が記録上のものも含めて二度も観測できる辺り、同種の生き物の中では生き急いでいるのかもしれない。

何しろ、現時点で俺が観測できていないというだけで惑星を食らう種族はほぼ確実に存在しているのだ。巨大で強大だからといって生きることに怠惰ではいられないのだろう。

更には惑星の環境を丸々作り変えてしまう、空間転移すら行う伝染病の如き植物すら存在する。

この世界に逃げ場はない、とかつて俺は言ったが、この世界というのは勿論宇宙も含めた話であるらしい、諸行無常にも程があるべきではないだろうか。

 

無論、これは地球型惑星とそこに命が産まれる過程の一つであり、これ以外の方法で命が産まれる事も勿論あるのだろう。

なにしろこの地球そのものが半分ID説を実証してしまっている。

別の世界、例えば虚無には繋がらないけど虚無ってしまったケン・イシカワユニバースの一つでは光の国からやってきた使者がフェイスフラッシュした事で命が生まれた地球、なんてものも存在しているかもしれないが、それはそれ。

 

ここまでの半ば妄想でしか無かったものを裏付ける存在を、俺は知っていた。

クライシス帝国。

正確に言えば、クライシス帝国によって支配されていた怪魔界。

地球の双子星とも言われている怪魔界だが、別次元に存在する怪魔界が何故地球の双子星であると認識されていたか。

それは、文字通りの意味で地球と怪魔界が同じ親から生まれた兄弟だった為だ。

 

無論、そんな事実は惑星上で生活する矮小な諸々の生物が知る由もない話だろう。

だが、それを確信を持って言葉にした事がある奴が存在する。

ダスマダー、その正体であるクライシス皇帝だ。

クライシス皇帝は、その生命を怪魔界と一体化させていたが為に、怪魔界の全てを道連れにして死んでしまった。

 

では何故、クライシス皇帝は怪魔界と一体化していたか。

何故、ダスマダーという化身を積極的に使うまでもなく、殆ど自ら力を使うこと無くクライシス帝国を建国し、怪魔界をその支配下に納めることができたか。

それは、彼が怪魔界全土に張り巡らされた龍脈と同化することで星そのものとなり、地脈の変異により無限の戦力を産み出し、そこに住まう生命の感情の機微を読み取る事で行動を先読みする事ができた為である。

龍脈……かつて、どこかの星から飛び立った龍と同化する事で、彼は()()()()を手に入れたのだ。

繁殖のため、代謝のため、無慈悲にも繰り広げられる超常的な破局(クライシス)の記憶。

そして、その破局から共に生まれた、地球という星に変じる龍の記憶を。

 

病院内を歩く。

奇跡的に病棟そのものが破壊される事は無かったが、外部からの電力供給は途絶えて久しい。

院内は非常に慌ただしい。

ヤマタノオロチが活動を停止し、魔化魍の出現も収まった事で怪我人が運び込まれ始めたのだろう。

非常用電源で辛うじて最低限の設備は使えており、未だ死者の類は出ていない。

なんとなれば、一定空間内の死者数で言えばこの病院内は外部と較べて非常に安全だったかもしれない。

 

インフィニティ・パワー・ユニットを提供する訳にはいかないが、()()()()()()の為に利用させてもらった恩もあるし、猛士紐付きの病院となれば今後もなにかと利用できるかもしれない。

バイクにも搭載できる安心安全BOARD製の小型原子炉があるので、それを提供してもいい。

各種インフラが回復するまでの間なら、この病院の電力源として十分に機能するだろう。

RRKKの方だと原子炉の提供なんて怪しすぎるので、ブレインスクラッチの方から被災地への支援という形で、開発中の新型発電機という触れ込みでばら撒かせよう。

ちょっとばかりの大盤振る舞いをしてもいいと思えるほど、気分がいいのだ。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

毎年毎年、思いもよらぬイレギュラーによって多くのガバとリカバリを繰り返してきた。

だが、苦節五年。

五年目にして初めて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、最終決戦に相当する戦いを終えることができた!

 

病院の屋上から、半ば崩れた東京の街を眺める。

おお、見よ!

東京が半分も残っている!

そして、なんということだろうか!

日本列島が砕けても沈んでも浮上してもいない!

 

()の記憶が確かであれば、繁殖時に起こる破局はその時点での構造物をその住人ごと尽く破壊し、実質的に文明の発展にリセットをかけるようなものだった。

古代日本での()()()()()による討伐(ふしぎなこと)などが起きない限り、その運命を免れる事はできない。

その絶対の運命が、覆ったのだ!

 

「ははは!」

 

両手を広げて、空から降り頻る雨を一身に浴びる。

あの日あの時、ダグバとの決戦の日。

地脈にモーフィングパワーを送っていなければ。

ダグバと同じく、相手を殺すために地脈を武器化せんと試みていなければ。

こうまで上手く事は運ばなかっただろう。

 

産まれる寸前のヤマタノオロチを、ダグバの残したモーフィングパワーを刺激する事で発生のタイミングを調整する事も。

ヤマタノオロチの核となっていたダグバのモーフィングパワーを打ち消し、俺の武器として再構築する事も。

ダグバは強かったがそれは腕力や特殊能力の強さではなく、優れた学習能力と対応力にこそ力の根源があったのだ。

仕手の居ない放たれたままのモーフィングパワーなど、どれだけ増幅されていようがアドリブが効かない時点で野良魔化魍と変わりはない。

まして、同じタイミングで放った俺自身のモーフィングパワーも存在するとなれば。

 

あの日、あの時。

国や星や無数の命なんて気にもせず、ただ相手を殺すために汎ゆる手を尽くそうとした戦いが無かったならどうなっていたか。

もしも、労せずしてダグバの力を封じて、一方的に殺す事ができていたら。

眼の前の光景も、生き残りも。

ヤマタノオロチの成体、()の記憶も。

決して、手に入ることは無かった。

ああ、五代さん。

 

「本当に、本当に」

 

「貴方が来てくれなくて、本当に良かった!」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

晴れ渡る夜の空から、大粒の雨が降り注いでいる。

最早豪雨と言っても過言でないその恵みの雨は、かつて少年だった一人の男の笑い声をすっかりと掻き消していた。

非常時の最中、病院の屋上で両手を広げ、大笑しながらくるくると嬉しげに回るその奇行を目撃するものは居ない。

 

 

 

かくして、未確認生命体二十二号は、打ち倒した龍と共に星の海を行く旅にでた。

一人の冒険家に見送られた彼が、再びこの星に舞い戻る日は、二度と来ないだろう。

素性の知れぬ怪しげな魔石の戦士が、一方的な顔見知りである刑事の家を訪れる事も、警視庁にアポ無しで突撃することも、もう、無い。

多くの苦難を乗り越え、未確認生命体二十二号の戦いは終わりを迎えた。

 

 

 

時を同じくして、()の記憶を、世界を砕く危機と難局の記憶を備えた、未だ名前もない怪威が産まれたのを──今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ヒロインが居ない場合に回収できた筈の、強敵から奪った力を誇らしげに掲げて廃墟の町の高所で人知れず高笑いをするエンドにたどり着く事ができました
新記録が出る可能性があるのでガバを無視して走り続けた結果ですね


☆ほんとのほんとにただのイレギュラーで想定外の乱入者だった五代さん
来なければ来ないで特に何事もなく事態は進んだのだけど、せっかく来てくれたので既に未確認生命体二十二号の命が無く、その魂も地球上に存在しない、という欺瞞情報を持ち帰るのに利用された
昭和の戦士め五代さんを戦士として利用しやがって……みたいな憤慨をしてみせてはいるものの、そもそも未確認生命体二十二号からの接触はその大半が彼を都合よく利用するためのものだったことを忘れてはいけないのだ
バレンタイン?
本格的にメンタルがブレイクして挙動が読めなくなると困るでしょ
本心としてはそりゃ戦いから離れて冒険家しててくださいよという気持ちはあるが、クウガの力を手に入れてこの世に生きている限り戦いから完全に離れる事はできないから、せっかくなら都合よく動いてもらわないと……
みたいな扱いだった
ホントのホントに五代さんの心を大切にしてるなら一緒にダグバ囲んで殴り殺そうぜ!みたいな打診はしないのだ

☆ヤマタノオロチの挙動と結末についてかなり正確に把握していたかもしれない朱い鬼さん
便利な弟子にたかりに行こうと思っていたら、自宅周りがなんでか強固な結界で守られていて大体無事だったし小型の発電機と保存食セットが勝手に家に送りつけられていた
なんか良いことあったのかあいつ、と疑いつつも、昼夜ぶっ通しで戦い続けていた疲れからそのままダウン

☆五年目にして初めてチャート通りの結末を迎えられた未確認生命体二十二号とは最早微塵も関係ない謎の男
チャートもなにも完成したのはヤマタノオロチが目覚める直前で、ほぼぶっつけ本番で当然試走ができる環境でもなかったけど、これが一番穏当な結末だと思います
日本沈没からの列島復興編を始める可能性も考慮に入れていたから今回に関しては大勝利
龍の記憶とは、星の記憶とは何か
それは未だ平成一期を走っているこのSSにおいては関係のない本棚なので特に気にする必要はないのかもしれない

☆その他諸々の話
エピローグに収まらなかったので次からの幕間
今からでも絶対に間に合う日本復興編、何ヶ月かでできる都市機能回復計画ゴルゴムを初めとした諸々の組織の陰ながらの協力も添えて
の中で語っていく事になります
ワームが暴れ始めるまでに暴れる為の平和な街を取り戻さないといけないからね
その中で暗躍する影とか、復興の合間の雑談とかをしていき、最終的に装甲悪鬼カブト編へと繋がります
何しろグッスマから三世村正が出ますからね……あの造形であのお値段はリーズナブルが過ぎる
絶対改造して初代村正の妻が他所で作らされた子供を人質に打たされた劒冑とか初代村正とかつくる人居るでしょあんなの


さて、仮面ライダー響鬼編、如何だったでしょうか
原作キャラの出番極少かつ原作主人公の出番ほぼなしという章になってしまいましたが、まぁライブ感だけで書いてるオリ主二次創作などそんなものです
出そう出そうと思いつつ手癖で書くので出るかどうかは書いてみるまでわかりません
その点で言えば、次のカブト編ははっきりとした敵対勢力が存在していてその殲滅手段も原作で提示されていて、挙句の果てに真の黒幕の目的もはっきりしています
響鬼編よりは確実に原作を振り返ることができる話になるのではないでしょうか
それはそれでどうなんだ、原作をそのままなぞるだけの二次創作で本当に良いのか、それなら原作見れば良くないか、という思いもあるかもしれません
そういう小癪な事を考えながらSSを書くと今回の様な迷走が起きてしまうわけです
たぶん今後もそういう事が多発するのは間違いありませんが、それでもよろしければ次回も気長にお待ち下さい

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