オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
ヤマタノオロチの首はそのサイズを一定のものとしていない。
地脈上に存在する山という山から一見無秩序に生えているそれらは、地下を走る地脈の太さや噴出孔である山のサイズ、或いはそれが火山として知られているかという点にそのサイズを多少左右されていた。
無論それらは一本であったとしても街に身体を横たえれば信じられない程の被害を齎す。
だろう、という言葉がつかないのは、既に幾本かの首が小規模な人里を飲み込んでしまっている為だ。
海外において竜巻や台風が神や巨人として神話に記されたのと同じく、ヤマタノオロチは噴火やそれに伴う災害の化身である。
有毒ガス、高速で射出される岩石、赤熱した溶岩。
それらは魔化魍としての形を得られなかった、ヤマタノオロチからすれば鱗一枚にも満たない様な破片であったとしても生き物に対しては明確な被害を齎す。
山間の地域に存在していた小規模な集落の幾つかは、ヤマタノオロチの身じろぎ程度の動きによって無惨にも轢き潰され、燃え上がる事すら無く溶岩や土石流に飲み込まれ押しつぶされてしまった。
多くの住民は一溜まりも無かっただろう。
通常の死因であれば、霊的探知能力を駆使すれば死に際の強い感情が地縛霊の様にその場に残響し続ける様子を確認できる。
だが、それを確認する為の場所は既に埋もれ、埋もれさせた土砂すらも巨大な原始魔化魍であるヤマタノオロチの一部なのだ。
死者の魂や死後も残る断末魔すら、穢に飲み込まれてヤマタノオロチの一部に組み込まれてしまう。
死ぬ瞬間に感じた痛みや苦しみ。
それは一瞬のものであり下手に生き延びるよりは楽だったかもしれない。
だが。
無数の死者の念がヤマタノオロチに飲み込まれていく。
色の無い、漠然とした不安を核として明確な攻撃性を持たずに居た龍の顎門に。
各地の気候や環境の差によって体色や生態を変化させる魔化魍として見れば自然な変化をそれは与えた。
肉の器を失い、魂すらも魔化魍の一部に組み込まれ、記憶も思考力も失った無数の魂が叫ぶ。
何故、何故、何故。
痛い、痛い、痛い。
じわりじわりと染み渡る死者の念が、魔化魍ヤマタノオロチの首の一本に個性を与えていく。
龍を満たすのは混乱。
指向性を与えるのは魔化魍としての本能。
苦しみもがく様に、或いは、体内で蠢く魂の感触にむずがる様に身を捩り、木々を、自然を、人々が敷いた道や街を薙ぎ払う。
取り込んだ魂が与える思考エネルギーを、他者を害する形に偏向していく。
未だ、各地の主要都市の多くが無事なのは、曲がりなりにもこの国に長く存在する対魔化魍組織の尽力があればこそ。
常の魔化魍退治の効率化の為、長年かけて魔化魍の発生地点と主要都市を可能な限り遠ざけていたが為に、ヤマタノオロチの初動で大都市が飲み込まれる惨事は免れる事ができた。
だが。
死者の、人間だったものの残骸が上げる苦悶の声が、そこにあるだけで人々に害成す災禍の龍を、明確に周囲へと攻撃性を向ける邪竜へと変えていく。
僅かな、ほんの僅かな、天を衝く龍の姿に人々が怯え、燃え盛る木っ端魔化魍が人々を食らう
意思を持つ噴火現象が、汎ゆる命を憎み噛み砕かんとする龍の顎門が、文字通りに牙を剥く。
今の人類に為すすべはない。
人間と同スケールで存在する脅威にようやく対抗できるようになった程度の備えでは、害意を持って人里を飲み込まんとする自然現象に対抗できるものではないのだ。
そう。
戦っている。
偶然にも対抗できる力を備えていた、或いは、病的なまでの危機管理意識を持つものから力を託されたもの達が。
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時折赤く明滅する黒雲の下、銀の軌跡が描かれる。
脚部とバックパックから炎を吐き出しながら飛ぶそれは、背後から咆哮を上げながら追いかけてくるオロチの首と比べれば大人と子供、いやさ、蛇と逃げ惑う虫程度にも見える。
だが、山の噴火口部分とほぼ同サイズの直径を持つオロチの首との縮尺を考えれば、それは十分に巨大な……、そう、巨人と言って差し支えない。
事ここに至っては人類の守護者、と言ってもいいだろう。
全身に真紅のエネルギーラインを浮かび上がらせた銀色の巨人。
それは、新たに増設されたサバイブのカードにより強化された契約モンスター、セブンガーであった。
巌のように厳しい金属質の体表はより洗練された装甲としての美しさを備え、その体躯はもはや並の大型魔化魍であれば一踏みで粉砕してしまえる程の威容。
棘の付いたハンマーとしての機能しか持たない筈の手指、その片方は人間の持つ五指と同等の機能を持ち、連装式大型ファイズブラスターは五十メートル級の大型モンスターが使用する事を想定した構造が故に都市部での使用はほぼ絶望的な程の火力を備える。
残る片腕は超硬芯回転鉄拳、高速回転する円錐状の刺突武器であり、円錐内部に仕込まれた回転式祈祷文詠唱装置により極めて強力な音撃増幅装置として機能、ノツゴを十体束ねても容易く貫通可能。
並のオルフェノクであれば半径二十メートル以内に入った瞬間に灰化するよりも早く弾け飛ぶ高圧縮フォトンブラッドの効果により、頭部に備えられたカメラアイは平時の困り目から勇ましくつり上がったものへと変化すらしていた。
現行人類が製造できる装備の中では最高峰の性能を誇ると言っても良い、本体であるセブンガーが一部の人間しか製造法を知り得ないという事を除けば、猛士の最終兵器と言っても過言ではないだろう。
そのセブンガーが、ヤマタノオロチに対して挑発を行いながら、ひたすら逃げ回っている。
周囲一帯の山から伸びたオロチの首の尽くに散発的な攻撃を繰り返し、オロチが諦めない程度に加減をしながら飛び回り続けているのだ。
これにより、首都近辺から生えたオロチの首は、活性化しながらも人口密集地を襲うこと無く、被害は散発する溶岩化魔化魍によるものに限定されている。
取り込まれた怨念、道連れを欲する死人の思念、死に際に増幅された穢を動力に、他者を害し、命を奪う形で動く筈のヤマタノオロチの首が、自分への攻撃を繰り返すだけの巨大モンスターに執着しそれを追いかけ、眼下に広がる都市部、そこに住まう人々に目もくれない。
無論それにはからくりがあるのだが、それはこの場では一先ず置いておこう。
サバイブの使用により契約者の乗機と化したセブンガー、そのコックピットの中、セブンガーの契約者がスーツに施された対G機構をフルに起動させ、スーツの下で鬼へと変じた肉体をアームドセイバーで強化する事で殺人的なGに耐え、ヤマタノオロチの首数本の注意を引き続けているお陰で、可能になった事がある。
ヤマタノオロチ出現を乗り越え、未だ使用可能な清めの儀式を行うための儀式場に鬼が集う。
各地に存在していた儀式場の幾つかは既に飲み込まれ、或いは制御弁としての機能が悪さをして逆にヤマタノオロチの出現箇所として機能してしまった。
オロチ現象ではないヤマタノオロチの出現に対して有効打足り得るか不明な清めの儀式。
既にその儀式すら十全な状態で決行不可能。
本部である吉野の内部ですら情報が錯綜しており、残された儀式場に鬼たちが集まったのは現場判断に近い。
各地の儀式場が潰されたが為に、残された儀式場に鬼が集まるのは必然だった。
運良く残った儀式場を守るもの、他所で清めの儀式を行う予定だったもの、それらが集い、儀式を敢行する。
既に一刻の猶予もない、という段階すら通り過ぎている。
魔化魍という超常の存在は既に人々を襲う何かしらの名前も知らない怪物、という程度のものではあるが人々の間に周知され、抑えきれない魔化魍の大量発生すらも限界を迎え、遂には国を焼き滅ぼす龍が姿を表した。
激しく鳴り響く太鼓の音。
既にオロチの胴と半ば一体化した地脈に清めの音が響く度、大地が鳴動する。
だが、聳え立つ無数のオロチの首は小動すらしない。
いや、あまりに巨大であるが為に鬼の視力ですらその影響を確認できないのか。
呪術、陰陽術といった技術を不思議な呪いと言ってしまえる、或いはその実態を殆ど知らない現代の鬼が持つ霊的な感知能力というものはそれほど高くは無い。
魔化魍が魔化魍であるかどうかすら視認してみない事には判別できない彼らは、清めの音を叩き込まれたヤマタノオロチの変化に気付けない。
穢を清め、自然な形に戻す作用を持つ筈の清めの音。
儀式場の効果により増幅されたそれがヤマタノオロチの身体に響く度、溶岩、噴火の化身としてのヤマタノオロチがその存在をより確固たるものとして確立していく。
まるで、それが本来あるべき姿なのだと言わんばかりに。
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九郎ヶ岳は、山頂から伸びるオロチの首の太さと反比例するように穏やかな様相だった。
見えない人食いの魔物と化した火山ガスも無ければ、自然発生した溶岩体の魔化魍も存在しない。
空が魔化魍の雲で覆われていなければ、もう少し人類に余裕が残っていれば、この場が今回の騒動と何かしらの関係があるのではないかと想像できたものは多く居ただろう。
だが今、国内でこの九郎ヶ岳の異変に気が付いているのは、斜面を駆け上がる二人の魔石の戦士……未確認生命体四号こと五代雄介とG1装着員である一条薫のみ。
「これは……」
普及型のトライチェイサーから降りた一条が、天を見上げながら呟く。
さほど高くない九郎ヶ岳の山頂から伸びる巨大な光の柱。
あまりに太すぎるために柱に見えるヤマタノオロチの首、という訳では無い。
マグマと穢の集合体であるヤマタノオロチの赤熱する身体とはまるで異なる純粋な光で構築された天を貫く柱。
その根本、光の柱と対峙する様に佇む、一つの影。
一条の隣に立つ五代、四号のそれと瓜二つの、鋭いシルエットを持つ黒い人型の背。
「……二十二号」
躊躇いがちな五代の声。
同じ未確認生命体関連事件……つまり、グロンギのゲゲルの最中に彼らを妨害する形で戦った、同じ規格のベルトを用いて似たような姿に変身する二人。
彼らの関係は当時に騒ぎ立てられていたゴシップとは異なり、驚くほどに希薄だ。
少なくとも五代雄介は何故二十二号の正体が何者なのかも、何故自分と、クウガと似た姿に変身できるのか、何故自分の名前や誕生日まで知っていたか、それらの理由の一切を知らない。
最初に言葉を交わした時から、そして今に至るまで、それを無理に問い質そうとは思っていない。
当然ながら、そんな事を問い質す為にこんなところまで来たわけでもない。
「来たんですか」
首だけを僅かに振り向かせ、二十二号が視線を五代と一条に向ける。
冷たさすら感じない、ただの事実確認を行うような無感動な声に、五代は反応できず、一条は軽い驚きを得ていた。
世間では怪人に憎しみを抱くカルトの一種か、政府が秘密裏に管理運用している対未確認生命体用の生物兵器か、という程度に非人間的な存在として認知されている二十二号だが、警察関係者、特に未確認生命体対策班やその後釜となる諸々の班の関係者の多くは、二十二号に対してそういった形での悪印象は持っていない。
警察が確認できる範囲での二十二号の行動は記録されており、それがある一定の理屈を前提としてものである事は周知されているからだ。
秘密主義者かつ警察に非協力的ではあるがその行動は概ね市民に害成す非人間存在に対しての敵対行動であり、数は少ないが明確に敵対存在の排除よりも市民の安全を優先して動いた時すらある。
また、意外な事に彼と会話を交わした警察官の数は多く、会話をした長さ、という意味で言えばむしろ五代よりも一条の方が長く、或いは既に警察を離れた小沢澄子女史などははっきりとした意見交換を行い共同作戦を行った事すらある。
変身に際して喉の構造を作り変える事で声を変換しているのか、その身元を割り出す事には成功していないが、彼は世間一般の評判とはかけ離れて、極めて人間的な情動を持っている。
はっきりと言えば、ここまで熱のない、事務的な反応を見せる事はとても珍しい。
「来たよ、約束だから」
それを知らぬがためか、五代は怯まずに言う。
そういう時もあるか、いや、こういう時だからこそ、感情豊かに言葉をやり取りする余裕などあるわけがない。
そう解釈し、告げた。
あの時に言えなかった、ずっとずっと言えなかった言葉を。
「約束……?」
「ダグバとの戦い」
「ああ、まぁ、彼らならわかりますか」
二十二号からしてみても、五代が今回のヤマタノオロチ発生の根本的な原因の一つ、その真相にたどり着く事は難しくないだろうと思っていた。
五代雄介単独であればお話にもならないところだったが、彼は村雨、仮面ライダーゼクロスに連れられていったのだ。
そこから、昭和の時代に活躍した仮面の戦士とコネクションが結ばれる事は時間の問題。
無論、彼らと知り合い、共に行動した上で五代雄介が戦士クウガとしてまたこの国に戻ってきた、という一点に対し、旧い戦士達に対して非常にストレートな嫌悪が胸に沸き立ってくるのも事実ではあるが。
最終安全装置を解除された霊石アマダムとアークル、モーフィングパワーを自在に操る戦士が居れば、この星のエネルギーラインに何が流れているか、という事には気付けるだろう。
破裂寸前の地脈がヤマタノオロチという形に収束する原因の一つは、ほぼ間違いなく、ン・ダグバ・ゼバの残した攻撃的モーフィングパワーである。
2001年当時、未確認生命体二十二号との最終決戦時に地脈……地下のマグマを攻撃手段へと転換するべく流し込まれたそれは、地に満ちる汎ゆる生命体の負の思念と混ざり合いながら地脈を蝕み続け、遂にはこの星が生み出せる最大級の害意の一つである原初の魔化魍、ヤマタノオロチへと辿り着いた。
そしてそれらは更に被害者を増やす事で肥え太り、確実に二十二号を殺傷できる規模になったその瞬間、標的目掛けて射出される。
それが如何なる現象か。
そう、この惑星に生命が生まれてこれまで、一度として発生した事もない規模の破局噴火だ。
それは文字通りの必殺。
二十二号がこの惑星で生まれ生きていく生命である以上は逃れられない、生命活動をする上で必須の、この惑星そのものを滅ぼす威力を備えているのだろう。
事は、この九郎ヶ岳だけの話ではない。
すべてのヤマタノオロチを餌として生まれる殺意の龍は、この場を、この場にいる二十二号を標的にし、大地を突き破り天へと飛翔する。
余程の幸運を味方につけて、最大限楽観的に計算しても、間違いなくこの国は砕け散り、国土は天に登る龍に巻き込まれる形で成層圏の外へと飛び出し、跡形も残らないだろう。
そして、地下を流れる溶岩の大半が流出する事による影響は計り知れない。
残された他国、いや、この星そのものが果たしてこれまで通り生命の活動に適した環境を維持できるかは怪しいところだという。
「俺たちの力なら、この騒動を収められる、って」
「確かなのか」
「ええと」
一条の問いに五代が口ごもり、視線を二十二号に向ける。
「理屈の上では可能ですよ。五代さんや俺や一条さんが作る武器と、あの龍はほぼ同じ理屈で作られています」
「じゃあ」
二十二号が振り向く。
黄金の目、帯電する六本角。
背に負う外套の如き羽飾りを払う様に伸ばされた腕の先から光が煌めいた。
五代と一条が咄嗟にその場から大きく飛び退く事ができたのはこの数年の経験の積み重ねの結果だろう。
広範囲の地面が弾け飛び融解する。
稲妻めいた軌道を描き放たれたそれは生身の生物であれば容易く蒸発させる威力を備えていた。
「妨害するものが居なければ、ですが」
光の柱、他の龍の首と異なるそれを背に、二十二号が五代と一条を睥睨する。
「これから飛び立つ龍は、俺に向けて放たれます。一条さんがオロチにターゲッティングされたのは、明確な形を得る前に俺と似た反応を見つけてしまったからでしょうね」
ばちばちと、二十二号が広げた両腕の先から放たれたエネルギーが弾ける。
致死性の破壊光線と思われたそれは、過剰なまでに増幅された封印エネルギーだ。
「真の龍が現れるよりも先に、お二人には封印されていて欲しいのです。そうすれば、最低限の安全は保証できます」
「なん、で」
致死性の破壊光線に見えたそれが、自分には使いこなせない封印の為のエネルギーだという事はわかった。
避けきれずに五代と一条を掠めた破壊光線染みた封印エネルギーは確かに効果を発揮し、五代の姿をマイティフォームに、一条の纏うG1の装甲を元の赤いそれへと変化させていたのだ。
もしも直撃していたのであれば、力の一部を封じられるのではなく、より強固に、人間の機能を封じる形で、ある種の冷凍睡眠、或いはクマムシの乾眠の如く外からの被害に強い形へと変えられていたのだろう。
だが、五代は問う。
既にわかりきった事を、或いはその理由を。
「この龍は、あの日に俺に向けられた攻撃です。俺を殺すために放たれたものです」
「あの日、あの場所に居なかった誰にも、どうにかさせるつもりはありません」
唯一、魔石の戦士としての最終形態を保つ二十二号。
その表情は当然ながら窺い知ることはできない。
「その為に、誰が犠牲になっても良いというのか!」
「関係のない話と言いました」
互いに互いの顔を確認することができない中で、なおはっきりと感じる隔絶。
五代と一条の目指すところと二十二号の目指すところは同じではない。
二人は龍を滅しようと、一人は龍を飛ばそうとしている。
「回れ右して帰れ、とは言いません」
二十二号が両腕を掲げる。
左右の手のひらに宿る光は先と同じ封印エネルギー。
それを食らったならば、今度こそ五代と一条は変身能力を剥奪され、古代から現代まで死ぬことも老化する事もなく封じられていたグロンギの戦士たちと同じ、或いはそれ以上に強固な封印を施されてしまうだろう。
対して、五代はクウガとしての基本四形態、辛うじてライジングを発動できるかどうか。
二十二号に押し付けられたベルトを使う一条に至っては残されている機能は再生能力程度、実質、数年分の調整が繰り返されたG1システムの素の性能しか使えない。
「事が済むまで、大人しくしていて貰います」
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躊躇うこと無く二十二号に向けて引き金を引いたのは一条だった。
二十二号と協力体制を取れない、五代の想定していた解決策が使えないというのであれば、妨害する二十二号をどうにかして排除して、不足があったとしても五代と事に取り組むしかない。
実際のところ、一条は五代と較べて二十二号への遠慮がない。
何らかの理由から無理矢理にベルトを押し付けられ、数えるほどではあるが対話を交わした上で、既に二十二号と敵対する可能性を考慮に入れていたからだ。
未確認、グロンギの殺人ゲームの時とは状況が違う。
グロンギのゲームを止めようと活動していた時とそれ以降では、二十二号の行動原理には明らかな違いがある。
必ずしも自分たちと利害が一致する、協力できる場面ばかりではないだろうと。
攻撃を加えられて困惑が強く出た五代とは異なり、一条にはやはりこうなるか、という諦めにも似た気持ちがあった。
身体能力で明確に五代に劣る融合強化G1で初撃を防げたのは、予め何かが来る事を想定していた為だ。
ある意味でそれは、二十二号への信頼とも言える。
同じ能力を備えた三人が力を合わせるだけでこの騒動をどうにかできる、どうにかする、というのであれば、二十二号は何の躊躇いもなく、警視庁のど真ん中であろうと一条の自宅であろうと事前説明に訪れ、強引にでも解決法を説明し協力を求める程度の事はする筈だ。
五代を止めることをしなかったのは、或いは相手が五代であれば、二十二号も折れるやもという希望的観測、いやさ、願望が少なからずあったからに過ぎない。
二十二号の視点では、この騒動は既に、止める止めない、という段階を通り過ぎている。
この国、そこに生きる人々の生命安全……或いは、彼自身が求めてやまないという穏やかで平穏な生活すらも諦め、ただ、かつての宿敵との決着のみに執着しなければならない程度には。
標的は自分だ、と、二十二号は口にした。
死ぬつもりなのか、などと問う意味はない。
この期に及んで共に戦うのではなく、会話も無く一方的に不意打ち気味に安全な状態に置いておこうとする、守ろうとする相手にわざわざ説明をするとも思えない。
G1の持つGM01スコーピオンと同系統の自動小銃より放たれた高速徹甲弾が極めて正確に二十二号の腹部、恐らく魔石のある位置と、ついでとばかりに心臓と頭部へと吸い込まれていく。
ただの高速徹甲弾ではない。
ベルトを埋め込まれてから繰り返し制御訓練を繰り返す事で、或いはベルトへの適合率が上がっていく事で使いこなしつつある基本機能、封印エネルギーが込められている。
残されていた肉体の強化、再生能力をあえて意識的に封じる事で瞬間的に機能を取り戻したのである。
発想としては二十二号とそう変わらない。
正確な封印エネルギーの原理を知らない為に二十二号程意識的に行う事はできないが、相手の能力、或いはベルトの機能を封じようという魂胆である。
自分たちが力を封じられたというのであれば、二十二号の能力を封じることで同じ土俵に引きずり下ろす事もできる。
それができたのであれば、あとは数の利で勝る事ができる。
組織的に動く警察官ならではの思考だ。
「良い判断です」
放たれた弾丸は恐ろしい精度で二十二号の急所目掛けて飛翔し、そして、半ば程の位置で力なく地面に落ちた。
アンノウンが使っていた、ある種の念動力の障壁か。
しかしそれはアンノウンが使っていたものと違い、神経断裂弾ではなく高速徹甲弾にする事で無力化できるような生易しいものではない。
急所狙いの遠距離狙撃は魔石の戦士にとってのウィークポイントだ。
二十二号の展開する念動力による防御は壁や膜ではなく、二十二号を中心とした自動選択式の減速。
大まかに二十二号目掛けて飛んでくる、一定以上の速度を持ったものだけを捉える。
「今後もその調子でお願いします」
ぐん、と、二十二号が輝く手のひらを握り込むと、一条の姿が消えた。
封印エネルギーは何も物理的な接触を経由しなければ打ち込めない訳では無いし、常に視認できるものでもない。
そもそも、クウガのペガサスボウガンからして圧縮空気弾に封印エネルギーを乗せて放つものなのだ。
旧グロンギやリント製の戦士であるクウガであれば難しいことではあるが、現代で猛士の技術を学んだ二十二号にとって、自分の声に封印エネルギーを乗せる程度の事は容易い。
音撃戦士の声を増幅して清めの音に、或いはその音を収束して巨大な刃と化す技術を理解していれば、或いは呪詛などの概念を学んでいればこそのものだろう。
先んじて攻撃的な広範囲攻撃の様に見せた過剰な封印エネルギーの放出、露骨な手のひらの発光などは全てブラフだ。
或いは、ほぼ完全に安全装置の解除されたクウガ、そしてそれに限りなく近い状態であるG1であれば瞬間的に抵抗できたかもしれないが……。
攻撃してくるとは思っていない相手からの不意打ち、しかも殺意を感じずにはいられない破壊力を備えたそれに動揺し、力の一部を封じられた状態であれば話は変わってくる。
五代と一条、二人が二十二号の初撃を完全に読んだ上で回避しきれていれば話は変わってきたのかもしれないが。
長い時を封じられていたグロンギ達と同じく、より単純な形に生命活動を封じられた一条は、二十二号のモーフィングパワーにより分解され、九郎ヶ岳から遠く離れた場所で再構築される形で転送された。
グロンギ達を封印し続けていた古代クウガの様に近くに二十二号が居ない為に、転送先でそう長くかからず封印は解除されるだろうが、もはや一条はこの場で起きる出来事に干渉することはできない。
残るは、二人。
地を砕く龍へと転じようとする光の柱を背負う二十二号。
それを見上げる五代雄介、未確認生命体四号、
いや、
両者の間に最早言葉はない。
優しい人と称される五代雄介ではあるが、彼はこれまでに公的に記録されているだけでも数十人のグロンギ、つまり古代の人間を殺害してきている。
未確認生命体第一号、ズ・グムン・バを相手にして、アークルを巻いて初めて戦った時もそうだったように。
暴力を持ってしか解決できない事態に直面した時、五代雄介は躊躇うこと無く決断する事ができてしまう。
生き物を殺す事を。
人を殺す事を。
そして、ここではない世界。
二十二号の居ない世界で、未確認生命体0号と初めて対峙した時もそうだったように。
敵わない、と、確信してしまう様な相手であっても、立ち向かえてしまう。
赤い戦士、クウガマイティフォームが片脚を後ろに、腰を落とし膝を軽く曲げ、両腕を広げる。
じゃり、と、後ろに下げた足先を撚ると同時、込められた封印エネルギーが行き場の無いまま充填され、炎の如く足裏で揺らめく。
走り出す。
直撃したとして、通じるようなものではない。
赤の時、このキックで出せる威力は、凄まじき戦士、黒い時になんとなく出すパンチよりも数段威力で劣る。
実際に協力者の元で実測したそれを五代は理解した上で、
「っ!」
跳躍。
「おりゃぁぁぁぁ!」
破れかぶれか。
霊石アマダムが齎す戦闘に最適化された高速思考は着弾よりも早く蹴り足を掴み取られる未来を予測している。
だが同時に、そこからどうにかして二十二号を止めるための方法を導き出さんと脳細胞を焼け焦げる程に回転させて思考を止めずにいた。
とても打開策を思いつかない中での、必死の抵抗の一撃。
ともすれば先の弾丸と同じく、受け止められるどころか届かせて貰えるかも怪しい。
そんな一撃が。
両腕を広げた二十二号の胸に無抵抗に突き刺さり。
その身体を盛大に吹き飛ばす。
「え?!」
キックの反作用で未だ空中に留まり、吹き飛ばされる二十二号とは反対側に落ちていく中、五代の思考が停止する。
二十二号を止めなければならない。
今の自分ではどうにもできないかもしれない。
それでもこの場に居る自分が、任された自分が、頼られた自分がどうにかしなければならない。
そんな頭で居た為に、この光景を想像できなかった。
「ああ」
光の柱の中へ、二十二号が九郎ヶ岳の火口へと落ちていく。
声が聞こえる、二十二号の声。
「あの時、
大きな声でもない。
誰に聞かせるつもりでもないその呟きを、五代の耳が捉える。
「これで」
遠ざかる二十二号の声は、どこか晴れやかさを感じさせる。
「この殺意は、俺だけのものです」
クウガと瓜二つの二十二号の仮面。
その仮面が光の加減か、まるで笑みを浮かべたようにも見え。
瞬く間もなく、龍の顎門に飲み込まれた。
あけましておめでとうございます
今年もよろしくおねがいします(2023年)
ところで響鬼編のどっかで、響鬼編のラストはだいたい決まったって言ったじゃないですか
このラストであってましたっけ?
あの日のぐにょりの頭の中の行方に心当たりのある方はご一報下さい
でもこのオチにたどり着いちゃったので
やっぱラスボスはライダーキックで沈めないと
九郎ヶ岳で戦士クウガがグロンギの長であるンを撃破する……
そう、これは数年越しに果たされた原作再現なんですよ
響鬼編だって言ってるのに……
☆未確認生命体二十二号
各地で多発している火山口から出現する龍に食われる形で死亡を確認
☆未確認生命体四号
未確認生命体二十二号を撃破
☆G1専属装着員
遠隔地にて四号より二十二号撃破の報を受ける
人物紹介に響鬼要素が無いのはなんでなんだい
まるでクウガ編をやりなおしてるみたいじゃないか
一条さんも五代さんも前の話のラストでいきなり脈絡もなく引っ張られてきてるんですよ
響鬼のレギュラーメンバーとかその他の諸々の原作キャラとか出すんじゃ無かったのかい
でも全人類がライダーである以上全人類がクウガであり響鬼であるとも取れるのでクウガを描けばそれは響鬼という事になりませんかね編集長
だから最初の方でわちゃわちゃしていた諸々の説明は無いんですよ
なりませんかこれで響鬼編という事に
なるかどうか
それは次回になっても別にわからないのだ
それでも日本が無事かどうかくらいはわかるので
エピローグはこの響鬼編最終回と違ってはっきりしているのでそんな先にはならないと思います
ヤマタノオロチとか焼かれた街とか死んだ人々とかにどう決着つけるか、みたいな話をするのでかなり響鬼濃度は高い話になると思います
この後なら五代さんもまともに一条さんと会話できまいと思うので二人の描写はしなくて済むでしょうし
そんな感じでも良ければ、次回も気長にお待ち下さい
次回仮面ライダー響鬼編エピローグ
『転じる災い』
お楽しみに