オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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157 故郷の夏

「何でアームドセイバーを使わせてくれないんすか!」

 

眉をハの字にし、ばん、と、テーブルを叩く轟鬼。

先日、見事にアームドセイバー改善型の起動に成功した轟鬼だが、既にアームドセイバーは手元に無く、シフトで休みと記載されている日にも太鼓の練習を継続する日々へと戻っていた。

対面に座る彼の師匠である斬鬼は、そんな轟鬼の怒りにも涼しげだ。

 

「色々とあるんだろう。なんならまだ試作品だって言うじゃないか」

 

受け流す斬鬼ではあったが、アームドセイバー改善型の起動実験の立会人であり、巣立ちの後も弟子である轟鬼から絶大な信頼を置かれているという点を見込まれて、既に製作者(正確には改良を施しただけ)の交路からアームドセイバー改善型が即戦力として投入できない幾つかの理由を資料付きでプレゼンされていた。

一つは轟鬼の問題。

斬鬼の教育方針として太鼓や管を後回しにしていた為に、弦以外の技術が未熟である事。

アームドセイバーは強力な追加武装であり、これ一本あれば太鼓、管、弦、どれが弱点の魔化魍であってもほぼ問題なく清める事が可能になる。

しかし、習熟しきっていない技術がある段階でこれに頼って地力が足りない、言ってしまえば、アームドセイバー無しではいざという時得意武器以外が弱点の魔化魍の相手ができないような不完全な鬼が生まれるのは避けたい。

 

『と、言うような事を猛士でもない外様の技術者でしかない俺が言うと間違いなく反発されてしまうでしょう。これは師匠としての立場から上手いこと指摘してあげてください』

 

などと頼まれてしまったのだが、これが中々難しい。

実際、斬鬼とて正常な巣立ちができた鬼ではない。

今に到るまでに太鼓も管も一丁前に使えるようにはなったが、そこまでの道のりは決して順調なものでも無かった。

 

習得しなければ倒せない魔化魍を相手にして自分が死ぬ。

のみならず、自分が相手ができない魔化魍を他の鬼に任せる事で負担が一部の鬼に偏り体調を崩し活動不能になり、絶妙なバランスで成り立っていた鬼のシフトが崩壊し、最悪全員死ぬ。

なので、死なない為に死ぬ気で覚えるしか無かった、というのが現実だ。

どうやって覚えたかと言えば死ぬほど練習したとしか表現のしようも無い。

 

戸田山、いや、轟鬼の巣立ちにしても、決して早まったものではなく、去年までの魔化魍出現率であればまったく問題の無いレベルには仕上がっていたのだ。

今は鬼ではないサポーターやまだ巣立ちが先の弟子も、外部から購入した装甲服や新たに発掘、開発された鬼の鎧などを用いて戦力化できている。

まだ教えていない知識や技術などは鬼として活動しながら徐々に覚えていけるだろう、という目算だった。

しかし、厄介な都市伝説魔化魍の発生頻度の増加、夏の魔化魍への対応に新装備が使えないなどの問題点の発覚などから、魔化魍退治をしながら新たに必要な技術を学んでいく余裕がなくなってしまったのである。

 

言ってしまえば斬鬼含む猛士全体の目論見の甘さが出た結果とも言える。

今の轟鬼は言ってしまえばノッている状態だ。

実は十分な技術が無いままだけどそこはおいおい覚えていけば良いので卒業ということにしました、などと暴露すれば調子を落としかねない。

しかし、調子を落としたとしても既に独り立ちした以上は鬼としてのシフトからは逃れられない。

下手をすれば不調のまま魔化魍とぶつかって死んでしまうかもしれないと考えれば、事実の告げ方は慎重に言葉とタイミングを選ばなければならなかった。

せめて夏を乗り切ればシフトにも余裕ができるのだが。

 

もう一つは、あのアームドセイバーがあくまでも改善型であり、正式版ではない、という点だ。

使用者への負荷を軽減する機構を取り付ける事でどうにか運用する事が可能にはなっているが、技術としてはまだまだ洗練されていない、恒常的な運用には耐えられない段階なのだという。

起動実験後に医者に行き精密検査を受けた際には、強い疲労を除けば特に問題はない、と結果が出た。

だが、実験中の轟鬼の肉体は常にデータが取られていたらしく、異常が出なかったのは鬼の持つ再生能力のせいであるという。

変身直後の轟鬼の肉体は過剰に増幅された稲妻の力によりかなりのダメージを負っており、アームドセイバーによる身体能力の増幅率がとても高い為に気付かなかっただけで、変身直後の肉体は本来なら戦闘に適さない程度のダメージが刻まれていたのだという。

最終的に増強された鬼の再生能力により元通りに戻ったように見えるが、一度の変身、一度の攻撃で強い疲労という形で肉体にはダメージが残った。

この状態で繰り返しアームドセイバーによる装甲を繰り返せば、引退する頃には半ば寝たきり、アームドセイバーの本来の開発者のようなボロボロの肉体になってしまうだろうとの事だ。

 

『害を極限まで減らした正式版になる段階でなくなる予定の欠点なので出来れば言わないでおいて貰えるとありがたいです。使用を躊躇われるのもそれはそれで問題ですし』

 

無くなる予定、というがどうするのか、とは聞かなかった。

斬鬼は師が師である為に現代の鬼では学んでいないような術も習得しているが、それでも技術職というわけではない。

だが……、これは告げる機会が無いというか、そもそもの話として接触する機会が無い為に言っていないが、斬鬼はアームドセイバー改善型を持ち込んだ技術者、いや、自らの身体を治療した術者である男の事をそれなりに信用していた。

それは人間的にとか人格的にとかそういった話ではなく、純粋に術者、或いは技術者としての腕前に対する信用だった。

 

巧妙に科学と陰陽術が混ぜ合わされた、見習いやサポーターでも運用できる戦闘システムUギア。

Uギアのハイエンドモデルと言っても良い、熟練者、或いは玄人向けの強化装置である劒冑。

最近では猛士で新たに発掘されたとしている鬼の鎧や、鬼の使う諸々の装備の開発協力。

 

極めつけに、自分自身の、数ヶ月は入院が必要になったかもしれない肉体修繕の有り難みは斬鬼が文字通り身を以て体感している。

鬼といえども一部の例外を除いて抗う事ができない筈の老化による衰え、それに伴う諸々の古傷による運動能力の低下が、軒並み感じられなくなっていたのだ。

逆に、所々の不調を抱えながら戦ってきた斬鬼からして、不調無く衰えのない、久しく忘れていた全盛期に近い運動能力に慣れるのに時間を必要とした程である。

 

はっきり言えば、表立って何かしらの要求をしてこないのが不安になりかねない程に、あの技術者、小春交路の猛士という組織に対する貢献度は高い。

それほどの人物が『まだ』というのであれば、間違いなくまだなのだろう。

彼と繋がりが深く、彼をしてアームドセイバーを使いこなせてしまいかねないと言わしめた新人の嘆鬼ですらアームドセイバーを使っている訳では無いのだ。

それに……。

 

「試作中だって言うなら、それこそデータを取る為とかで使わせてくれても良いじゃないすか……ケチケチしちゃって」

 

「轟鬼」

 

グチグチと文句を言い続ける轟鬼に、斬鬼は優しい目を向けながら声をかけた。

 

「管を巻くような体力が余っているなら、少し稽古でもするか?」

 

「ええっ! 斬鬼さん付き合ってくれるんすか?! 是非!」

 

轟鬼の見た目の厳つさに似合わぬ子犬のような反応に苦笑する斬鬼は、小春交路が最後に告げた説明を思い出した。

 

『そも改善版と言っても私家版というか海賊版の改造品なので、費用対効果はまだ考慮して無いんですよ。ちなみにこれがカートリッジの原材料費。吉野にデータは送っているので……まぁ……このへんの問題は組織力でなんとかして頂ければ』

 

猛士において、最も足りていないのは鬼のなり手、後継者だ。

だが、それ以外にしたところで、無限に余裕があるわけでもない。

今はまだ、技術の進歩を待つばかりである。

 

―――――――――――――――――――

 

夏だ! 海だ! 山だ! 実家だ!

という訳で夏休みを利用して久しぶりに実家に戻ってきたのである。

夏と言えば修行、或いはレジャー、という気持ちもわかるし近年は大体それとセットで人類敵対種族との戦いを繰り広げていた訳なのだが、猛士との繋がりが太くなるにつれて少し気になる事が出てきたのでその調査も兼ねている。

 

「~♪」

 

口笛の旋律に乗せて呪いをばらまきながら故郷の山野を行く。

懐かしい、まだ魔石と半覚醒のアギトの力しか戦闘力が無かった頃、魔化魍のヌリカベやらと戦ったのも大体この辺りだった。

あの時は現れた魔化魍を物理的に打ち砕いたりする程度の事しかできなかったが、今ではこうして旋律一つで魔化魍の元である穢にある程度干渉できるようになった。

思えば遠くに来たものだ。

 

日差しの暑さを攫っていく、森の緑や濡れた土の匂いが混じった爽やかな風に混じり、不吉な雰囲気が漂い始める。

空は晴れているし、山の中と言えどまだ早朝、日は登りつつあるため光が遮られる要素もない。

そして視覚的に何かしらの変化があるわけでもないが……。

空間の彩度が下がっている。もちろん雰囲気の話で光学的に下がっている訳では無い。

薄ぼんやりとした、常人の視界には何ら影響を与えない揮発した穢の気配。

 

「おうい」

 

少し離れた場所から呼びかける様な声。

どことなく聞き覚えのある様な、と、思考を巡らせれば、それが高校時代の同級生の声であることに思い当たる。

 

「こっちだ、こっち」

 

声が聞こえるのは、登山道から離れた、しかし、少し無理をすれば入っていけそうな、或いは山に慣れていなければ迷い込んでしまいそうな、見通しの悪い獣道の奥から。

木々の奥、茂みの向こう、暑さで地面から立ち上る蒸気。

特に不自然でない程度の障害物の向こうで誰かが手を振っている。

 

「ちょっと、手を貸してくれんか」

 

手を振る誰かは、茂みの更に奥を指さしている。

誰かが動けなくなっているのか、と、不用心な人間ならノコノコと近付いてしまうかもしれない。

 

「そっちは崖だよ」

 

「──下で誰か倒れているんだ」

 

指摘に、気のせいかと思う程度の沈黙の後に事情を説明する声。

土地勘が無いと……というか、この山に入り慣れていなければ騙されてしまうのだろうか。

取り敢えず従って足を進める。

 

「こっちだ、こっち、早く」

 

急かすような聞き覚えのある懐かしきクラスメイトの声。

しかし、聞き覚えのあるクラスメイトの声とは誰の声だ。

苗木くんか、後藤くんか、香久山さんか、藤田さんか、それ以外の諸々の誰かか。

クラスメイトの声だ、と、そう認識することは出来ても個人までは特定できない。

当然の話だが、高校時代に交流があって会話したことのある同級生の声と顔と名前は今でも全てセットで思い出せる。

聞いた相手に限るが将来の夢やら音楽の趣味、嗅いだことがあるなら体臭まで。

疑問に思いつつ歩を進める。

 

足場が途切れる。

この一帯は崖の縁まで植物が茂っており、知らずに歩くと足を踏み外して滑落してしまうのだ。

もっとも、地元民なら学校で注意喚起を受けるくらいには有名な話なのだが。

 

「それで?」

 

崖から足を踏み外し、崖の先にある空気を足場にして振り返り、声の主に声をかける。

視線の先に人影など無い。

いや、先まで見えていたと思っていたのも、人影が見える、という気がしていただけか。

だが、気配はする。

意志力が弱い、或いは精神に対する作用を防ぐ技術を持ち合わせていない人間ならば、そこに収束しつつある穢が人間の影に見えていたかもしれない。

 

「はやく」

 

「こっちだ」

 

こっち

 

「はやく」

 

「はやく」

 

はやく

 

最早聞き覚えのある声だ、という形すら保てない、何かを急かす様な感情が直接触れてくる。

森のざわめきと合わせて、周囲全てから声が聞こえているように錯覚してしまうかもしれない。

懐から紐で括られた大きめの金属板を取り出し、振る。

振り下ろすまでに金属板が変じた鈴が、しゃん、と、涼やかな音を鳴らす。

精神に触れようとしてきた意志が止まる。

しゃん、しゃん、と、音を重ねる毎に、周囲の穢が震える。

これで散る程薄いものではなく、むしろ刺激によって明確に魔化魍としての形成が開始される筈だが……。

 

案の定、刺激に反応した穢が魔化魍としての肉を形成していく。

崖下が沢だからバケガニか、少なくともスタンダードな大型魔化魍であるように感じる。

半端に像を結んだ魔化魍が、いかなる形かも定まっていない巨大な腕をこちらに目掛けて振り下ろした。

 

―――――――――――――――――――

 

「久しぶりのお山はどうだった?」

 

「東京にも山はあるけど、やっぱあっちとは違うね」

 

形成された魔化魍を滞りなく清め、昼前には実家に戻る。

久しぶりの里帰りという事もあり気合の入った手料理、ということもなく、あっつい夏に相応しい冷やし中華だ。

隣に座るジルも器用に箸を使ってちゅるちゅると啜っている(グジルは暑いからと引っ込んだまま)。

冷たいそばや素麺と違って錦糸卵とかまでやろうとすると途端に面倒になるので、これはこれで実家に帰ってきた時ならではかもしれない。

 

こっちに来る前に東京を始め、各地で魔化魍の生成実験を行ったのだが、やはり他所と比べてうちの地元は魔化魍の発生形態が異常だ。

この時期に条件を満たせば生えてくる筈の分裂増殖機能を備えた夏の魔化魍が生える気配が見られない。

明らかに発生する魔化魍の種類が大型種……清めの音や各種ルールを無視できる特殊な火力があれば簡単に焼き払えるものに絞られている気がする。

 

今回の怪現象にしても、本来ならば夏の魔化魍になるかはともかく、もっと異なる魔化魍に変じる前段階で発生する筈のものだった筈だ。

呼びかけて来るタイプ、知り合いの声を真似して餌を呼び込むタイプは割りと魔化魍の中でも出現頻度こそそう多くないものの、各地で散見されるポピュラーなものだ。

ものによっては声掛けに対して返答した時点でアウト、という厄介なものも存在する。

まぁそのアウトというのも人間基準のもので、鬼かそれと同等の耐久があればどうにかなってしまうのだが……。

 

今回の魔化魍の形成は明らかに急というか、本来なら別のものとして結実する筈だった穢を無理やり別の型に押し込めたような不自然さがある。

ゴルゴムの戦闘員……では、無いだろう、仮にも創世王候補の似姿を取り、戦闘を行う構成員として存在が許されているブラックダミーが住まう土地なだけあって、余計な手間が発生しないように調整されているのだろうか。

思えば家がまあまあ田舎だからかと思っていたが、近隣の街まで含めて都市伝説系の魔化魍が発生した事案が異様に少ない。

で、この偏り、二十年以上前とかになると他所と同じ様な魔化魍発生分布になっていたりする。

大体二十年前後くらい前に、この土地に、或いは地脈に何かが起きたのだ。

二十年くらい前に何が起きたか、と言えば……。

 

「マヨ切れちゃった、ごめんね」

 

と、冷やし中華にマヨを出していた母さんが小さく呟いた。

全国的にどうかは知らんがうちの地方では冷やし中華の付け合せはマヨ、だが家では基本的に冷やし中華の時はテーブルにでんと出されたマヨを使いたいタイミングで使う形式なので、こういう事も起きる。

母さんもこの家で一人で居る時間が長かったのでそこらへんは気を抜いていたのかもしれない。

 

「後で買ってくるよ。久しぶりにその辺も見て回りたいし」

 

「おさんぽ?」

 

「お前も行くか」

 

「ん。かきごおりかう」

 

「帰りにな」

 

―――――――――――――――――――

 

じわん、じわん、じじじじじ、と、やかましく蝉の声が響く。

先の山の中ではあまり聞こえなかったが、穢を魔化魍として祓ったお陰で虫も気配を殺さずに繁殖活動を再開できたのだろう。

じりじりとアスファルトを焼く太陽光に照らされた田舎町の光景は、彩度から見ても魔化魍やその他人類敵対種族が出現する様な気配は見られない。

 

「知らんなぁ」

 

「知らんですか」

 

スズキ輪業の店先で、キコキコと工具を使って自らの身体を整備しているオートバジンを眺めながら、太刀川のおじさんの生返事に生返事を返す。

店の奥がそのままおじさんの自宅の居間になっており、テレビからは甲子園の中継が垂れ流しになっている。

トランクスにランニングシャツというラフにも程がある格好で、扇風機から送られてくる風に当たりながら中継を見ていたおじさんは、情報料代わりに持ってきたれん乳氷の蓋を開け、スプーンを差し込み一口。

甘いなぁ、と、嬉しそうに漏らした後、人差し指と親指で挟んだ木のスプーンを振りながら続けた。

 

「俺は……っつうか、()()は確かに元ゴルゴム……面倒だからゴルゴムって呼ぶが、その一員だけど、別に普段からあのお方の部下として働いてる訳じゃねえんだ。普段の仕事はあくまでこっち。これは、よっぽど偉くなきゃ変わらん」

 

「大神官とか、そういう?」

 

「その役職も今は無いけどな。そもそも、俺は元々ただの暴走族のチンピラだぞ? 呪術だの陰陽師だのなんて、ほれ、何年か前にやってた映画、あれくらいでしか知らん」

 

「そりゃあそうか」

 

戦闘員とか創世王関連儀式の関係者を除くと、俺の知るゴルゴムの構成員は企業の偉い人とかそういうものが多く居た気がする。

大体の場合は恐怖でそれらの行動を縛っていた気もするが……。

この世界であれば、健康安全の保証、護衛に不老など、常人を組織の言いなりにする事ができる餌は幾らでも需要があるし、ゴルゴム程の組織であれば用意するのも簡単だろう。

 

「まぁでも、この土地はあのお方にとっての思い出の場所らしいからな、私的に保護してたりはするんじゃねぇか? 光太郎さんに信彦さんも似たような事はできるらしいし」

 

創世王の思い出とか私生活とかまるで想像できん。

というか。

 

「光太郎に信彦?」

 

知り合いから無造作に知っているけど知らないことになっている人の名前とか出てくると少し驚く、というかビビる。

 

「あー……、坊っちゃんは会ったことないか」

 

「ゴルゴムの高級幹部か何か?」

 

実際この世界における二人の創世王候補がどういう立ち位置なのか知らないので、そういう可能性だって十分にあるだろう。

彼らに関する情報は、何故かこの時代にまで存在していた壊れかけのデスガロンから得た、共闘していたかもしれないという不確実なものだけだ。

あのデスガロン、消さない方が良かったか。

いや、でも残骸を回収させるタイプの罠という可能性もあったし、あれが最善だったと思いたい。

思い悩む俺を他所に、おじさんは腕を組んで眉間にシワを寄せてうなり始めた。

 

「難しい立場の方々でなぁ……詳しく説明すると長くなるけど、いいか? もちろん本人らとあの御方にお伺いを立てることになるから、実際に説明できるのは後日って事になるが」

 

「いや、今はやめとく。ジル、行くぞ」

 

「うい」

 

頭によく冷えるタイプのニャンニャンアーミーを乗せて店の売りもののキックボードで遊んでいたジルを呼び戻す。

どこかのタイミングで確認する必要はあると思うが、流石に今の段階で創世王候補二人とそれとは別に創世王が存在する理由を聞いて脳がまともに処理できるかがわからない。

というか、創世王候補二人に探りを入れていた、という情報が現創世王に伝わるのもよろしくない。

またサタンサーベルを食らう羽目にはなりたくないのだ。

せめてサタンサーベルを防げる目処が立ってからにしたい。

 

色々と並行して進めているが、俺の処理能力にも限度というものがある。

幸いにして、創世王は人類全体の改造などの、自分の縄張りを荒らされる行為をしない限りは殆ど手出しをしてこないようでもある。

今はまだ手が届かない位置の話よりも、近い時期と対処できるレベルの問題についてのみ考えさせてもらうとしよう。

 

スズキ輪業から離れ、古びた民家、サビの多い金属階段がくっついた二階建てのオンボロアパート、空きの多い小さめのビルなどが並ぶ道を行く。

細い道で、この辺りの道は昼を過ぎるとずっと日陰で、こんな真夏でも気持ち程度に過ごしやすい。

 

「こうじ」

 

頭に猫を乗せたジルが手を引き、空を指差す。

 

「りゅうのすだ……」

 

「入道雲な」

 

抜けるような青空に、巨大な白い雲が浮かんでいる。

 

「かきごおりみたい」

 

「白いから練乳味かねぇ」

 

「かるぴすのげんえきかも」

 

「甘いなぁ」

 

実のない会話。

備えるべき事態が多くあるこの世界ではとても貴重な贅沢品だ。

 

「そういうときは、しょっぱいのもいっしょにたべる」

 

「じゃあついでに大判焼きでも買うか、ハンバーグのやつ」

 

「はむちーずも」

 

「食い過ぎだ」

 

「はんぶんこ」

 

「なら良し」

 

だが、贅沢品だからといって無闇に節制すればいいというものではない。

修行でもなんでもない、なんの変哲もない夏休みの一幕。

 

「せっかくだから雪花冰でも作るか」

 

「しゅえ、ふぁ?」

 

「美味いやつだ。たぶん時代の最先端じゃないか」

 

「なうなやんぐにばかうけ」

 

「どこで覚えたそんなの」

 

次の課題に取り組む前に、少しばかり休みを満喫してもバチは当たるまい。

まずは、材料を集めにスーパーにでも行こう。

 

 

 

 

 

 





正直夏休みの思い出の比重はばあちゃんちへの里帰りが一番強い

☆めちゃつよ変身アイテムを起動できたもんだから取り上げられて不満タラタラ轟鬼くん
正直轟鬼くんはレギュラー鬼の中でも成長役みたいなところがあったのでこれくらいの事は言うかもしれない
作中で鬼を目指すことに関して特に夏休み明けの番組方針転換後に色々言われるけど、警察からの転職後二年くらいで鬼になれてる時点で、今から無理して目指さず色々経験してから鬼になるか考えよう、みたいなルートは確実に存在している
実際十六だかの頃から鬼として活動してる響鬼さんの方が猛士の中でも異端みたいな部分あるしね……
諸々の技術が未熟なまま巣立ちを迎えたのは正直一人前云々とか人手の問題もあるけど、放っておくと延々「斬鬼さんからはまだ教わってない事が沢山あるっす!」みたいに巣立たない可能性が見え隠れしていたので無理やり引き離した面もあるのかもしれない
ただ斬鬼さんからして轟鬼くんに伝えていない技は確かに山ほどあるのも事実だったりする
弟子に技術を伝えていくためのマニュアルとか、一人前になるために最低限備えておかなければならない知識や技術を確認する卒業試験とかは作中登場しないぽいので組織改革とかするならそこからかもしれない

☆里帰りで浮かぶ幾つかの謎
都市伝説魔化魍とか夏の魔化魍とかそういえば地元で遭遇していなかったよな問題
書いてた当時はそんなもん頭の中に居なかったというのもあるけど書いてるうちに生えてきた諸々の設定のお陰でなんとなく辻褄はあった
現創世王縁の地という一文で全てのかたがつく
なおノーリスクではなく、この土地が特定種類の魔化魍ばかり出る代わりに近隣区域では多様な魔化魍が発生していたりする

☆荒事が無い限り世を忍ぶ仮の姿が本職の二輪車修理工
バイクも直せるけど店先には無動力二輪である自転車とかも並んでる
創世王候補の似姿を戦闘形態として持つが、普段の仕事場である自宅兼店舗は自宅の玄関先がそのまま自転車やら二輪車を仕舞うスペースになっている古い見た目の木造建築
ただまあ、野垂れ死なない程度に資金援助は受けているので表向きの仕事は半ば道楽なのだ
現状のゴルゴムは大体こういう形で何らかの援助を受けたりした人員とかが回している
もちろんガチ勢も居るがそれは極一部
ちょっと規模が地球全土に及んでて人類史に収まらない程度に長い歴史を持っているだけなので恐れる事は無い
普段は普通に生活するけど驚異が現れると高い戦闘力で自衛するタイプなので、ある意味現在のゴルゴムは主人公の理想を一部体現していると言っても良い
光太郎、信彦なる人物と知り合い

☆光太郎、信彦、あのお方、ときどき、オカン
あのお方が創世王だとすると創世王候補二人はいったいどういう処遇なのか
なんていう話を聞かされてもゴルゴムに対抗する手段が無い現状ではどうしようもないので主人公はあえて情報を遮断した
ゆったり時間が流れているようでやることは無限に湧き出てくるしね
どうしようもない問題なんて抱えてはいられないのである
今はゴルゴムなんて気にせずにそういうのと関係がまったくない母のいる実家で静養だ!


次回、おそらく夏休み明け
気長にお待ち下さい

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