オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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156 歌う刃

分厚く黒い雲が空を覆い、月や星の光すら届かない、ある夜のこと。

森の奥に佇む古い洋館の周りを、無数の影が取り囲んでいた。

その数は十か二十か、或いは木々の枝に紛れる様に百や二百は居るだろうか。

四足のシルエットで不自然に直立する小柄な影。

 

猫か?

シルエットは猫なのだろう。

だが、そのどれもが明らかに尋常な猫ではない。

包帯の様に、或いはボディスーツの様にしなやかな金属装甲に身を包み、額に、胴に、それとわかるナンバリングが施された異様。

その手、前足に思い思いの得物が携えられている。

 

内、一匹が前足を掲げると、円筒を束ねた玩具の様なものを構える怪猫達。

掲げた前足が屋敷に向けて振り下ろされるのと、それらの玩具が火を吹くのは同時。

鳴き声による号令の一つとして無い。

ジェスチャのみで行われる極めて統率の取れた一斉攻撃。

炎弾、エネルギー弾、羽手裏剣、或いは鱗の様に細かく薄い刃、毒液、花びら。

統率の取れた動きからはかけ離れた無秩序な、雑多な破壊力が洋館へ吸い込まれていく。

並大抵の要塞であれば数秒とせず崩壊する規模の弾幕はいともたやすく洋館を粉砕し、更地へと変える。

 

やりすぎたか、と、そう考える理性は存在しない。

彼らに与えられた知性は本能に指向性を与えるものであり、蓄積された知性よりも生物的な直感を優先する。

構えていた遠距離武器を前足ごと腹部スリットに格納し、再び取り出した前足は特殊合金製の長大な爪を伸ばしていた。

木々がざわめく音を掻き消すように濁った無数の唸り声が響く。

かつて存在した上級アンデッド達が備えていた洗脳能力、それを応用した精神攻撃音波だ。

単独でも下等な生物の群れを意のままに操るそれらを共鳴増幅させた精神波は敵の思考能力を激しく損耗させ、正常な判断力を奪う。

 

無人の、崩れた洋館の跡地へと十数秒もの間照射される。

隠れ潜むことを、擬死による生存を許さぬ精神波の絨毯爆撃。

その成果は、ナンバリングの施された装甲猫の一体が稲妻に貫かれたかの如く激しくのけぞり、自らの筋力でその全身の骨格を粉砕せしめるという形で現れた。

 

呪詛返しによる発狂。

本来なら精神攻撃を放っていた群れ全体が放っていたものと同等の精神ダメージを受けるところを、テレパシーによる精神的ネットワークを通じて一体に集約する事で被害を最小限に留めたのである。

自らの肉体に宿った過剰とも言える火力による自死。

ぐず、と、猫の形が崩れて液状になったそれを付近の一匹が腹部スリットから取り出したノズルで吸い取り、それ以外の群れが一斉に散開。

てんでんばらばらに、或いは連携であると悟られぬよう、タイミングを合わせて対処されないよう、呪詛返しを行った術者目掛けて襲いかかる。

 

人の目であれば影さえ見えない術者。

その身を鋭い爪が引き裂くよりも先に間に割って入った人型──形成が完全ではない童子と姫達が猫を抱え込み術者から距離を取る。

人造の上級アンデッド、或いは廉価版のジョーカーアンデッドと言っても良い猫兵達が唯一抱える明確な欠点である重量の軽さを突かれた形になるか。

体積に対する重さで言えば並の猫と比べ物にならないが、同じ速度でぶつかりあった時に人間大の重さのそれを跳ね除ける事ができるほどのものではない。

無論、念動力を標準装備として搭載している為にいざ押し合いとなれば負けることもそうそう無いが……不意をつかれてしまえば話は違う。

人間社会に潜伏し、その小柄さから場所を選ばず戦える、という特性が裏目に出た。

 

──りぃん

 

鈴の音、鬼の扱う変身音叉よりもなお鋭い、刀が鞘走る音。

次いで、童子や姫に抱えられたままの猫兵達が、童子や姫もろともに膾切りにされる。

旋風の如き斬撃。

身動きを縛られていなかった猫兵達もまた僅かに動きが遅れているのは、切り裂かれた猫兵と、それを切り裂いた刃が放つ火花が増幅されて反射され、視界を潰された為だろう。

 

音もなく暗闇に立つのは、赤鷲の怪人。

赤鷲と剣道の面頬を融合させた頭部、紫のマフラー、つや消しの施された白銀の帷子、手に下げるのは音叉剣、元は赤かったのかもしれない、僅かに赤みがかった装束。

忍びのようでもあり、侍のようでもあり、陰陽師のようでもある。

鬼の鎧と同じモチーフなのか、しかし、奇妙に別モチーフが混ざり合い別物に変化している。

ルーツを同じくしながら決定的に袂を分かった遠い親類の様な様相。

 

人間の持つ語彙では表しきれない、うねるような音が響く。

それは無数の猫の鳴き声だ。

捨て駒として放たれた童子と姫達ごと切り刻まれた猫兵達がその肉体を再生させ、赤鷲の怪人を威嚇している。

そして、そのまま鳴き声は重なり、先の精神攻撃音波とは異なる物理的な破壊力を伴う。

赤鷲の怪人が持つ固有共鳴周波数と同調する振動波と化した鳴き声の合唱は正しくその肉体を粉砕するだけの術理を備えていた。

そしてその速度たるや文字通りの音速。

通常の魔化魍や鬼の戦闘速度の中では避けることも不可能だろう。

 

影がその場に取り残されるかと錯覚する程の速度で赤鷲の怪人がその場を飛び退き近場の木へと飛び移る事で破壊力は発揮される事なく霧散した。

なんら不思議な事ではない。

魔化魍とそれを退治する鬼という構造に囚われなければ、現代の猛士でも似た速度で動く戦士を()()する事は可能だ。

常人に鬼に匹敵する程の戦闘力を与える鬼の鎧という存在がそれを証明している。

巨大で頑健な魔化魍に至近から清めの音を叩き込みこれを浄化するという役目があればこそ、鬼は古くから今の時代に至るまで剛力と頑健さとを兼ね備えた屈強な戦士として存在し続けているのだ。

別の役目を与えられた存在が居るのだとすれば、それにはやはり最適な能力が備わっていて当然。

魔化魍を操る術師ともなれば、嵐の中に舞う羽の如く人の目に止まらぬ速さで動く超人と化す事も不可能ではない。

 

猫兵の群れと赤鷲の怪人、その視線が交錯する。

赤鷲の怪人は重力を無視する様に、しかしその実、鷲のそれにも似た足の鉤爪を木の幹に食い込ませる事でとどまりながら、油断なく片手に音叉剣を、もう片手をマフラーに当てている。

熟練の呪術師、陰陽師にとって、一定の面積を持った物体は複雑な術を予め記しておく事で発動を短縮するための基本的なツールだ。

それは紙に呪文を記した御札であり、或いは編み物であればその編み方に到るまでに複雑に意を編み込めばより高度な術が展開可能となる。

マフラー一本あれば、この場を人避けの術が張られた森から毒沼や底なし沼、煮えたぎる火口に変えることも、或いはマフラー一本を媒介に巨大な魔化魍を瞬時に生み出すことも可能になる。

 

術を極める、極め続けるというのはそういうことだ。

個体としての単純な戦闘力に優れている訳では無いが、それが問題にならない程に手数が多い。

統率の取れた人造アンデッドの群れ、それは魔化魍の背後に居る術師に差し向けるにあたって、決して過剰な戦力とは言い難い。

魔化魍を作り出しながら猛士に捕捉されることもなく暗躍し続けるだけの実力を備えているのである。

 

予備動作無く赤鷲の怪人から放たれた無数の羽が渦を巻き、猫兵達の視界を一瞬だけ塞ぐ。

次の瞬間、赤鷲の怪人の姿は無い。

猫兵達の感覚器官は並の生物のそれを遥かに上回る程に鋭敏かつ多機能で、羽の渦はその視界を完全に塞いでいたわけではないにもかかわらず、だ。

赤鷲の怪人は、まるで古い映像作品の場面切り替えの如く、ふっ、と、その姿を文字通り消して見せたのである。

 

襲撃者を撃退し、その背後に居る存在を暴くことよりも、この場を早急に離れる事を選択したのだろう。

赤鷲の怪人は戦士を模した姿をしていても戦士ではない。

戦う事が可能、というだけで戦う事は取れる手段の一つでしかなく、目的でもない。

眼の前の敵を相手に負けはしない、しかし逃げ切れる、となれば逃げを選ぶことに迷いはない。

或いは、伏兵の存在に気がついていたのか。

 

くぉん、と、場にも面子にも似つかわしくない、しかし、どこか獣の鳴き声にも聞こえる駆動音が響く。

既にこの場には廃墟どころか瓦礫の山と化した洋館と森、猫兵達しか居ない。

だが、見るものが見ればわかるだろう。

猫兵の体表、しなやかな金属装甲の向こう側に群れる無数の機械の獣達の姿を。

 

──んみゃ

 

駆動音に応えるように猫兵のリーダー、2と記された装甲のものが鳴く。

答えは軽いもので、こうなることを読んでいたと言わんばかりだ。

合金の爪もガトリングもしまい込み、猫本来の四足で瓦礫の山の中にするすると潜り込んでいく。

屈強な変異筋肉と骨格、装甲を持つ猫兵は万一瓦礫が崩れても閉じ込められる心配は無い。

人間向けの建物の中で遭遇戦を気にしながら探索を行うよりも、瓦礫の山にしてから探すほうが集中できる分効率が良いのである。

 

ぼこっ、と、瓦礫の中の不自然な空間を掘り当てる。

無数の実験器具の残骸が溢れるそこには、有機的な茨に覆われた、機械仕掛けの短剣が安置されていた。

 

―――――――――――――――――――

 

大学生にだって夏休みは存在するが、真面目に大学で研究をしようとすると途端に時間は削れてしまう。

研究テーマの資料を集めるのに時間を割き、まとめるのに時間を割き、或いは実験などして新たなデータを集めようと思えば更に時間は消えていく。

そんな悩みは既に過去のもの、と言い切れる時代がすぐそこまで来ている。

だが、それは無限に引き伸ばせるものではないし、現状では引き伸ばしている間は呪術式ゼクターとも呼べる劒冑を装備していなければならない。

意図的にリ・イマジ世界のカブトと似た状況を作り出す実験は既に限定的には成功しているが、変身を解除してしまえばクロックアップもまた解除されてしまう。

時間を加速させた空間さえ実現してしまえば各種実験の類も時短できるのだが、悩ましいところだ。

 

つまり、個人的な鍛錬の時間をほぼ無限に捻り出せる様になったという一点を除けば、俺の夏休みも二ヶ月程度でしかないというのが現実だ。

幸いにして夏季休暇の間に取りたい集中講義の類は無いのでそこで時間を取られる事は無いが……。

 

「むむむ」

 

手元に戻ってきた試作アームドセイバーを見る。

吉野で作っていたものを調整して多少マシにしておいたものだが、見た目にいかつい茨……恐らく、童子と姫などが接種することのある棘玉の一種であろうものが巻き付いている。

だが巻き付いている、というのは見た目上の話で透視して見ればわかるが、この謎の茨、本体内部にまでがっしりと侵食しているようだ。

 

むしろ、外側に残っている茨は抜け殻というか、より運用しやすくする為の入れ物であったような印象を受ける。

アームドセイバーの内部に侵食していると言ったが、何もパーツとパーツの隙間に潜り込んでいるとかいう話ではなく、パーツそのものに染み込んでいる、或いは取り付いている、というのが近いか……?

システムとしてはアーメタルに対する契約ミラモンのエネルギーの様なものかもしれない。

無論、似たようなものだ、と即座に断定できない程度には別物である為に即座に再現できる代物ではないのだが。

 

この試作アームドセイバー、以前に俺が調整して各地に散ったアーミー達に託した時と比べて格段に使用者にかかる負荷が減っている。

体感としては、負担を軽くする為に倍加率が下げられている、というより、負担を逃している、或いは肩代わりさせている、という感覚に近い。

棘玉の本来の使われ方は、童子や姫、或いはその上位機種に対する餌のようなものとして描写されているが、作劇上の都合か詳しい設定が明かされる事はついぞなかったものと記憶している。

鬼に掛かる負担を肩代わりできて、童子や姫、人間を模した式神相当のものを動かす燃料として機能するものといえば……?

 

──む゙る゙る゙る゙る゙る゙……

 

物思いに耽っていると、机の上に置いておいたカンテラにニーくんが顔を突っ込んで遊び始めた。

ニーくんは当然霊視能力を標準装備しているし、俺が覚えた呪術に関しても順次インプットを続けているが、カンテラは霊障などでうっかり中身が漏れ出さない様に猫状態では中身を取り出せない程度には複雑な機構になっている。

それでも、ニーくんが顔を近づけるとカンテラ内部に収められた霊は水槽をバンバン叩かれた時の金魚の如く逃げ回ろうと動き始めるので、叩くと動くちょっとおもしろい玩具、くらいの認識なのかもしれない。

無論、内部の霊に負担が掛かるのはそれほどよろしいことではないので、放っておくのもよろしくない。

 

ニーくんからカンテラを取り上げ、中身を一つ摘まみ出す。

下水に居た鼠やらゴキブリやらの霊だ。

雑多な小動物からまとめて引き抜いたので色々と混じって元が一体だったかもわからない不定形の雑霊だが……。

 

つまみ出されてぴちぴち暴れる雑霊に、ニーくんの視線が注がれる。

尻尾がゆらゆらと揺れ、今にも飛びかからんと瞳がランランと(原付きのライトくらいには)輝いている。

この魂魄を少し削って、放る。

一瞬遅れてニーくんが飛びかかるのは、放り投げられた獲物に逃走の時間を与えるためだ。

本気のニーくんが飛びかかると大体の玩具は即座に捕まってしまうので、本猫なりに楽しむための加減を心得ているのである。

まして、収穫時に元の形を忘れる程に雑多に纏められたせいであの雑霊は自発的に走ることもできない。

位置もサイズ感もてんでんばらばらに生えた鼠や諸々の虫の足が必死に蠢き、半端に形の残ったミンチを詰めた水風船の様なボディが蠕動するのみ。

 

放り投げた先に、適当に組んだ試作ディスクアニマルのボディ。

加工して投げた雑霊は空のディスクアニマルのボディに吸い込まれ、新たに得た身体でカシャカシャと逃げ回り始めた。

猿の頭、狸の胴体、虎の手足、尾に蛇を備えたディスクアニマルは慣れないはずの身体を器用に動かし、嬲るように繰り出されるニーくんの猫パンチで少しずつ削り節に変わっていく。

 

一見して邪悪な呪いに見えるかもしれないが、現代式神であるディスクアニマルも似た方法で作られている。

ディスクアニマルは動物を模した形に変形して活動するが、その関節機構は当然モデルとなった動物とは似ても似つかない。

単純にモデルになった動物の霊を入れてもそもそも新たな肉体の動かし方が理解できず立ち上がる事すらできない。

器であるディスクなり、中身である魂なりに新しい肉体の操作方法を先んじて覚えさせておく必要がある。

この加工技術が発達した事で、ディスクアニマル制作に必要な魂魄はより集めやすいものへとシフトしていったのだという。

 

古式の即席式神などは花や石などに仕掛けた術そのものが燃料も兼ねており、術者の霊力的なものを魂の代替として活動する。

これがディスクアニマルが生まれる前の、御札などを利用し始めた時期に燃料と術式が分離され、術、呪文の刻まれた御札に術者が力を注ぎ込むだけで式神として運用できるようになった。

そこから少し先、現代ディスクアニマルの直接のご先祖である古式のディスクアニマルの段階で、式神側に生き物の魂を直接組み込む事で燃料と術式を完全に一つのデバイスの中で完結させるに至り、特定の起動手順を踏むだけで運用できるようにまで簡易化されたのである。

 

古い時代のディスクアニマルは技術が未熟なので、ディスクアニマルのモデルとなる生き物の魂を入れなければいけないという欠点もあったが……。

ディスクアニマルを量産すればそれを運用するのは呪いに精通した術者でなくても良い、というのは、鬼やそれをサポートする人員の育成期間短縮に大いに貢献した。

無論、それによって現場の人間からは呪いの知識を持つものが減っていき戦術の幅が狭くなった、という意見もあるが、各々がより専門分野に特化していった事は一概に悪いことでもない。

一説によると、術を学ばなくなる事で鬼の単純な身体性能は向上した、という話もある。

これは術を学ぶ時間を肉体を鍛える時間に置換した為とも、術を運用する上で消費していた霊的な力が肉体にプールされる事で生命力が強くなった為とも言われていて……。

 

「これか……?」

 

―――――――――――――――――――

 

そういう訳で、東京とは名ばかりの外れの方の糞田舎的場所、鬼の方々が修行で使ったりする場所にやってきたのだった。

 

「じゃあ、起動してください」

 

「ウス」

 

緑色の体色をした一本角の鬼、轟鬼さんが頷き、腰に下げていた試作アームドセイバー改善版を引き抜く。

完全版に見た目は寄せているが、洋館の男女の技術に依らずに完成させる為に部品点数が増えており、三寸ほど全長が長くなっている。

轟鬼さんはアームドセイバーの刀身と柄の半ば程を中折れさせ、腰に吊るしていた350ml缶と同サイズの銀色の円筒を装填、再び刀身と柄を元に戻す。

 

「そういえば、嘆鬼はお前の友人と聞くが」

 

俺の隣に立ち遠巻きに轟鬼さんを見つめるのは今日偶然にも非番だった(という言い訳で恐らく元弟子が心配でついてきた)斬鬼さん。

何気ない世間話の様な雰囲気でそんなことを聞いてきたが、まぁ、意図はわかる。

 

「仲村くんは猛士の新人の中だと肉体的な完成度では群を抜いているじゃないですか」

 

「うちの轟鬼も負けちゃいないさ」

 

「でも、変に古い呪いとかを覚えさせたりはしていないでしょう?現代式の純粋な鬼だ」

 

「鬼の中でのスタンダードが好ましい、と」

 

「仲村くんだと不具合があっても対処できちゃう可能性があるんですよね」

 

育てすぎた、或いは育ちすぎた、とは言わないが、猛士に所属する新人の鬼全てに仲村くんの水準を期待するのは酷だ。

既に仲村くんは修羅の国(福岡ではない方)に上陸しても名無しの修羅くらいならば変身せずにどうにかできるくらいの練度に到達している。

そもそも赤心少林拳の達人達に鍛え上げられているので、体内を廻る気の強さ清廉さも一般的な鬼と比べて極めてレベルが高い。

最悪、今回組み込んだ安全装置が無くとも装甲できてしまう可能性がある。

 

今回の改善版は最低限の安全は確認しているが、並前後の鬼が使って正常に起動するか、或いは何らかの不具合が生じるかを確認するには、普通の鬼として育てられた新人で試す必要があったのである。

その上で、俺は斬鬼さんの命の恩人だ。

この師弟との交流はそれほど無いが、轟鬼さんからは割りと信用されているので協力を取り付けるのは難しくなかった。

やはり人助けはしておくものである。

 

「……行きます!」

 

轟鬼さんは気合の声と共に、アームドセイバーに装填された円筒形のパーツに手を当て、押し込む様に回転させた。

円筒の回転に合わせて起動スイッチが入り、アームドセイバーから放たれた波動が轟鬼さんの肉体へと干渉を始める。

 

「う、ぐ、ぅぅ」

 

苦悶の声。

バチバチと緑の肉体が帯電を始め、肉を焦がすような音と煙が立ち上がる。

吉野で俺が使った試作品なら、この辺りで轟鬼さんはアームドセイバーによる鬼の肉体機能の増幅が加速し、自らの得意属性の力によって血流とチャクラを廻る気が高速化。

穴という穴から気化した体液と気が勢いよく噴出して体内から引き裂かれて弾け飛ぶ様にして死ぬ頃だろうか。

身体を焼かれながら耐える轟鬼さんの手の中、アームドセイバーに装填された円柱、霊的触媒に可能な限り純化した魂魄を詰め込んだカートリッジが悲鳴にも歌声にも聞こえる高音と共に高速で回転しながら激しく放電している。

本来轟鬼さんが受ける筈だった肉体干渉による負荷を肩代わりさせているのだ。

九割九分のダメージを肩代わりさせる事ができている……筈。

 

轟鬼さんの体色が徐々に緑から黃へと変化し、周囲に配置していたディスクアニマルが身体に纏わりつき装甲化していく。

こちらも通常のディスクアニマルではなく予めカスタムしておいたものだ。

現状、波動を垂れ流して周囲のディスクアニマルを変質させるほどの出力は危険であると判断した。

頭部の一本角を飾るように追加で二本の角が生え、額に甲の文字が浮かぶ。

 

「くうぅぅぅぅ、おりゃぁぁぁ!」

 

裂帛の気合と共に縦に振るわれたアームドセイバーによって一層激しい稲妻が身体から放たれ、後には金に近い装甲を身にまとった轟鬼さんの姿が。

アームド轟鬼さんの爆誕だ。

 

「轟鬼さん、まだ動けます?」

 

「なんとか……いけます!」

 

「じゃあ、次でラストです」

 

光学迷彩で隠していたキラードームが、木々を薙ぎ倒しながら轟さんの目の前に現れる。

変身が成功したら実戦テスト、と言っていたので驚くような様子は無い。

今どき動物型メカは街を行けば割りと見かけるようになっているのも大きい。

まぁ用意したキラードームは成熟したバケガニくらいを想定したものなので町中で見かけるものとは比べ物にならないが。

ゾイド分類である以上、コアにはアギトの力が搭載されており、また、以前スマブレの社員さんから提供してもらった魔石も併用している為、これを一撃で倒そうと思えば結構な火力が必要になる筈だが……?

 

「はぁぁぁぁ……」

 

中腰になった轟鬼さんが、アームドセイバーを逆手に構え直す。

カートリッジが高速回転すると共に刀身の放電現象が激しさを増し、アームドセイバーは正しく稲妻を束ねた大剣と化していく。

 

「せいやぁ!」

 

一閃。

柱と見紛う程の稲妻の大剣は、一切の抵抗なくキラードームを上下に両断。

断面を溶解させたキラードームは一瞬の間を開けて爆散。

機密保持機能によってモーフィングパワーが発動、残骸が微塵に砕け、残った魔石が露出するよりも先にカバンの中に転移させる。

轟鬼さんはアームドセイバーを振り抜いた姿勢のまま残心。

立ったまま気絶している、という風ではなく、しばし後にアームドセイバーを順手に握り直しながら姿勢を正した。

アームドセイバーに装填されたカートリッジも、今のところは多少の焼け焦げがある程度。

実験は成功だ。

 

「こりゃあ……」

 

「ええ、すごいものです」

 

見たところ、轟鬼さんはアームドセイバーの制御の為に何かしらのアクションを起こしていない。

もとからそういう技能を持っていない事は知っていたが、偶然に負担を減らすような行動を取っていた、という事も無かった。

アームドセイバーは、鬼の中で特に鍛え抜かれた一人という訳でもない、巣立ちしたばかりの新人の鬼の力によって制御できる武装として完成したのだ。

 

 

 

 

 

 





目をやって胃腸をやって肛門をやって、そんなこんなで間が空いてしまったのでした
文章書く感覚忘れてるのでしばしリハビリみたいな話になると思います
次回は開発に関係ない夏休みネタ、たぶんね

☆よっしゃこの実験映像吉野のおっさんに送りつけたろ!
いえーい疾風鋼の鬼さん見てるー?
そっちで開発中のアームドセイバー完成しちゃったけど吉野の方の開発はどうなってるかなー?
みたいなビデオレターを郵送した
背後には首を傾げるアームド轟鬼と青ざめる斬鬼さん
吉野では一人のおっさんが湯沸かし器になっていた
おいらはボイラぁ!

☆洋館の男女のどっちか
最終回の描写的にこいつらも童子と姫とかクグツの上位機種でしかない
でもこいつらですら猛士の情報網に引っかかっていないので現代の術者では太刀打ちできない程の能力を持つと思われる
怪童子とか妖姫とかと同じく変身体があるが、量産型と異なりエースユニット扱いでスペックは高い
対鬼ではなくよりハイスペックな何者か、或いは高速戦闘を想定しているようだが……?
見た目は鬼の鎧に近いが下半身が袴のようになっており、鎧を纏った陰陽師、といった雰囲気
古い時代に鬼と共闘した戦士を模したものと思われる
平成二期になってから増えた過去のヒーローを何故か敵側で出してしまうあれみたいなものだが、これは明確に偽物
魔化魍は完全駆除がシステム的に難しい上に単独で糞強にできない、なので本編で戦闘していないキャラに戦闘形態を付け足してしまえば良いというあれで生まれた

☆ヘキサギアとの共同作戦も行えるアーミー達
ニャンニャンアーミーという表記だと文字数が長いので猫兵表記になった
真面目な三人称でニャンニャンアーミーって出てくると空気が弛緩するからね……

☆無限に絞り出せる修行時間
時間経過と経験の蓄積によるアギトの力の進化とかはもう進行度を考えるのが面倒なので雑に処理する為にこうなった
多分複雑な装甲とかを廃したトレーニング用の激しく動いても壊れない劒冑とかが作られた
これが発展して一定空間をクロックアップできるようになると技術発展とかも雑になっていく
今のところ長時間のクロックアップは劒冑を纏わないと不可能なので無限にスケベしたりはできないからご安心
あと寿命問題で現状は魔石搭載してないと許可されない
しばらくすると赤心少林拳の兄弟子らはこっそりモーフィングパワーで若返らせればええやろの感覚で修行にクロックアップが取り入れられたりし始めるかもしれない
最近、なんだか一日が十倍くらいあるように感じるんだよな……という怪現象が起こり始めるし師範は怒り始める
一期が終わる頃に赤心寺や臨獣殿が通常の時間の流れの中にあるかは怪しいところ

☆試作アームドセイバー改善型
恐らく殆ど元の歴史の延長線上にあるだろうジオウ編の時期にアームドセイバーに関する言及が無かった事から洋館の男女側で加えられた改良は再現性が無いか、時間経過で使えなくなるものだったのではないか、という推測から
変身者に掛かる負担を肩代わりする何かしらがアームドセイバーの中に埋め込まれていて、それが消耗し切る事で元の誰も使いこなせないアームドセイバーに戻ってしまい、正式採用されずに廃れてしまった、というお話
マニ車的なパーツがあり、回している間に流れるメロディは圧縮された呪文詠唱で使用者がアームドセイバーから受ける負担を軽くするための物、みたいなやつ
貴重では無いけどそれなりに高価な触媒に高度に精製された大量の魂魄が材料のカートリッジは数度の変身で焼ききれて使えなくなる
中折れ式のリボルバーの様にカートリッジを交換するアクションをさせたい、というか、そういう玩具が発売されたら楽しそうだなって思って……


そういう訳で次回はたぶん夏休み回
何をやるかは未定
というか、夏休み後には猛士側で弟子入りイベントとかがあるのでそこらで少し関わるかな、みたいな事もやりたい
でも結局は未定なので、それでもよろしいという方は気長にお待ち下さい

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