オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

17 / 207
仮面ライダーアギト 2001年
16 微睡む戦士


世の中平和が一番だ。

命を脅かすような危機は無いほうが当然良いし、人類と入れ替わり文明を乗っ取ろうなんて輩も居ないほうが良いし、人類を食料としてしか見ていないような種族も生存お断りだ。

だけど、残念なことにこの世界には人類の繁栄を脅かす輩が多量に存在する。

 

勿論、人類だってそれに対して無力なまま蹂躙されるばかりではない。

現在、警視庁では未確認生命体への対抗手段として特殊強化装甲服の第三世代機を完成させようとしているし、先日各新聞の紙面やニュースなども賑わせた、何故か使えてしまった特殊強化装甲服の第一世代機の活躍も記憶に新しい。

人間が知恵を振り絞れば、余程どうしようもない危機でなければ、案外乗り切れるのではないか、というのが、俺の見解だ。

まぁ今年にはそのどうしようもない運任せ同然の方法でしか乗り切れない危機が目覚める訳だが……。

 

だが、それはあくまでも人間という種族全体での話でしかない。

対抗手段を作り出すまでに犠牲になる人間の数はとても必要経費と割り切る事ができる物ではないだろうし、それが自分の知り合い友人家族ではないという保証もない。

だからこそ、人は懸命に自分ができることをやろうとするし、努力を積み重ねる。

 

封鎖された新宿の一部には何故かフレシェット弾が雨霰と超高々度から降り注いで、着弾寸前にバンカーバスターへと姿を変えたりしたものだけれど、これも人類の未来を憂いての事だと思うので、地下に居たかもしれない地球外生命体の方々は慌てず騒がず死んで欲しい。

幸いなことに、着弾から爆発の規模、周囲への飛散物まで計算ずくだったのか周辺被害は軽微だ。

新たな未確認のゲゲルが始まったのかもしれないなぁ。

俺の記憶にそんなゲゲルをやろうとした個体は居ないが、なにせこの世界は必ずしも俺の記憶通りに進むものではない事が先日の東京大襲撃で明らかになってしまった。

 

その結果として、という訳ではないのだろうけれど、父さんの東京出向が終わる気配が一切無い。

俺の知るおおまかな流れでも、ダグバの死後三ヶ月程は追加の捜査が行われ続けていたらしいので、少なくとも現時点で対策本部が解散される理由は一つもないのだ。

だが、そうなると、一つ問題が出てくる。

既に未確認生命体、グロンギはほぼ壊滅し、ゲゲルを行える個体はほぼ存在しない。

だが、人類側からすれば明らかに未確認の同種としか思えない様な怪物は、それなり以上に存在するのだ。

オルフェノクしかり、ファンガイアしかり、ワームしかり。

大概は被害者の死体がまともに残らないので事件が発覚しにくいのだけれど、本格的に未確認の被害に対する捜査網が機能し続けているこの世界ではどうだろうか。

新種の未確認として、それら種族が認定される可能性は非常に高い。

 

更に問題がある。

先日、文京区の中学校で生徒の遺体が発見される事件が起きたらしい。

その生徒の遺体は、木の洞に詰め込まれていたのだとか。

怖い話だ。

新たな未確認の事件かもしれない、という話がアングラサイト()で実しやかに囁かれている。

……馬鹿を言うな。

ズやメの単純なゲゲル、それも殺し方に拘りがある連中であればまだ判るが、これは違う。

そもそも、グロンギは殺し方や殺す対象を縛る事はあるが、殺した後の死体に関しては恐ろしく無頓着だ。

殺した上で、死体を木の洞に詰め込むなんてのは、ゲゲルのルール上で一切意味がない。

 

いや、こいつは死体を詰め込むのではなく、木の洞に生きたまま無理やり詰め込む事で殺しているのだったか。

どちらにせよ、グロンギの殺すための殺しとは趣が異なる。

 

犬猫が狩った獲物を隠しておく動物的習性のようなものだ。

それが、犬猫の元になった、もっと高位の生命体のものであったとしても、それは変わらない。

武器もあるだろうにこういう殺し方になるのは、彼ら自身の怨恨も込められているからだろうが……その結果の殺し方がこれという時点で、グロンギとは異なる。

畜生は、どれだけ位階が高かろうが畜生に過ぎない、という証明でもあるだろう。

()()()()()()()()()()()()()()

 

―――――――――――――――――――

 

それはそれとして、おれは正気に戻った。

 

ちょっと、こう、グロンギどもの相手をしている時は、少しばかり殺気立っていた様な気もする。

さもありなん。

相手は基本的に徐々に強い相手が出張ってくるのが決まっていたし、それに合わせて俺も強くならねばならなかった。

何しろ、父さんの生存を目指すのであれば、最終的にグロンギのトップであるダグバを相手取らなければならなかったのだ。

最終的に凄まじき戦士にならなければならない、という前提の上で、強くなり続ける相手と戦わなければならない、というのは、ストレスを感じずにはいられないだろう。

 

だが、今の俺には些か精神的な余裕がある。

勿論、東京で警察官としての仕事を続ける父さんが新たな未確認……いや、もう言ってしまおう。

マラークや野良オルフェノク、雇われオルフェノク、野良ファンガイアに襲われて父さんが死んでしまう可能性は無い訳ではない。

だが、警察だって馬鹿じゃない。

数多くの未確認生命体との戦いを経て、取るべき戦術、取るべきでない戦術は理解している筈だ。

 

近寄らない。

遠くから神経断裂弾を駆使して戦う。

 

これだけでも死亡率は下がる。

マラークを相手にした場合は、そもそも銃弾が念動力で届かないとかいう糞みたいな条件が追加されるが、これも実は手がない訳ではない。

ぶっちゃけた話、弾速を上げればいいのだ。

マラーク全体が持つ力場、それを極端に強化して盾に纏わせていた個体が居るが、これもマシントルネイダーのスライダーモードによる追加加速キックで突破できている。

高質量、超高速。

これがマラーク攻略の鍵であり、それは後のG3Xが証明している。

 

使用される弾頭も神経断裂弾である必要はないが、神経断裂弾はそれ自体の殺傷能力が非常に高い。

後のG3Xの持つ銃火器が通用した以上、それに準ずる性能の銃火器さえ配備されてしまえば、マラークくらいまでならどうとでもなる。

いや、はっきり言おう。

G3Xの銃火器が使用できるように調整されたG3マイルドを大量に配備してしまえば今年は大体解決する。

そして、それはこの世界においては難しい話ではない筈だ。

たぶん。

 

俺にもそれがわかる以上、専門家である警察がそれを理解できないとは言わせない。

だから、今年はそれほど最初から頑張る必要もないのである。

最終的にエルが襲ってくるので、鍛錬を欠かす事は絶対にできないのだけど。

あと、マラークが活動する日付がはっきりせず、基本的にアギトの力が齎す感覚しか当てにならないので、一々現地に赴いても空振りになる可能性が高い、という事情もある。

俺にできることといえば、警察が去年に比べて極端に無能になっていない事と、父さんが賢明で自分の命を大事にしてくれるように祈ることくらいである。

 

今年の努力目標は、人間らしく生きる事。

相手を殺す事ばかりを考えて生きていると、精神的に参ってしまう。

もっと文化的に、力が衰えない程度に鍛錬は欠かさずに。

 

だから、ピアノだって弾いちゃう。

既に数えるほどしか居ないグロンギと同じ、高度な学習能力を備える俺は、この短期間でピアノの演奏をも習得できてしまった。

家になぜピアノがあるのかと聞かれると困るのだけれど。

誰が使っていたんだこのピアノ。

部屋もよくよく調べて見ると防音のようで、気兼ねなく使える。

嬉しい(思考放棄)。

 

トレーニングを終えて、風呂上がり、パンイチで弾くピアノは爽快感抜群である。

もっと、もっと文化的に、もっと!

興奮が演奏の激しさにつながる。

楽器は良い、音楽はいい、実に文化的だ。

肉体の精密な動作の訓練にもつながる。

この俺の身体は、指先の細胞一つ一つに至るまで完全に俺の制御下にある。

 

「ふぅ……」

 

一頻り演奏を終えると、拍手の音が聞こえる。

少し離れた場所で、薄い青色の、小さいクジラが大量にプリントされたパジャマを着たジルが椅子に座って控えめな動作で手を叩いている。

 

『おーうあうお?』

 

「ショパンだ」

 

今度CDでも買ってくるか。

情操教育に音楽は欠かせないからな。

できればこういうのはコンサートにでも連れて行った方が感動を得やすいのだけれど、ちょっと値段がな。

音質がどうのと言う輩も居るが、気軽に聞ける、というのは文化が広がる上で重要な要素だと思う。

楽譜を買ってきて俺が弾くのが一番早いかもしれない。

 

「二人共、もう遅いから部屋に戻りなさい」

 

と、もう一曲行ってみるかと思ったところで母さんが部屋に入ってきた。

壁掛け時計を見ると、もう十時を回っている。

もう寝なさい、ではない辺りに、母さんの年頃の少年の夜更かしに関する理解が見て取れる。

もっとも、同室のジルに夜更かしをさせるつもりもないので早めに寝るが。

 

「ほいほい」

 

「あと服は着なさい」

 

「ふぉい」

 

ピアノを弾くのでもなければ、パンイチのまま家の中をぶらぶら歩いたりはしないのだ。

何しろ俺は文明人だからな。

ジルに持たせていた俺のパジャマを受け取り、その場で袖を通す。

今日は少し興が乗りすぎてピアノに時間を使いすぎた。

予習復習は終えているが、()()に関しては時間が取れそうに無い。

だが、慌てる必要も無いだろう。

研究成果をフィードバックしたからといって即座に戦力増強に繋がるわけでもないし、今年を乗り切れるかどうかには直結しないのだから。

気長にやろう。

でも、なるべく急ごう。

もしかしたら、の話だけど、近い内に、研究の成果を使わなければならない場面が出てくるかもしれない。

 

―――――――――――――――――――

 

夜が明け、日課の早朝トレーニングなどを終えれば、登校の時刻がやってくる。

 

「服は着たほうがいいんじゃないかなぁ……」

 

「別に服を脱いでいる事に拘りが有るわけじゃないよ?」

 

何しろ、パンツは履いているのだ。

それも自宅の一室での話、誰に憚る事があるだろうか。

いや、冷静に考えれば、クラスメイトの人くらいには憚ったほうがいいのかもしれないけれど。

 

会話の内容はともかくとして、会話の相手は、勿論麗しのクラスメイトの人だ。

通学路の途中から合流できる事に気が付けば、朝に示し合わせて共に向かう程度には親しい友人だという事実はとても喜ばしいものだと思う。

そう、このクラスメイトの人、既に退院し、復学しているのだ。

全治数ヶ月だの、リハビリにも相当な時間がかかるだの、という話はどこに行ってしまったのか。

いや、まだ完治とは言い難いし、以前に比べれば体力も衰えている。

時折体温が異常に高くなるなど、不調も残しているのだけれど、それでも退院して学校に通える程度には回復してしまっているのだ。

………………うん。

 

「? どうしたの?」

 

「あー……いや、身体は大丈夫かなって」

 

「うん、最近は全然! 前よりも調子がいいくらいだよ!」

 

明るく笑い、少し早足に先に行き、振り返りながらぐっ、と、脇を締めて両手でガッツポーズを取ってみせるクラスメイトの人。

ぞいっ! と言わんばかりのやる気はいいのだが、後ろ歩きのまま足元の小石を踏み、バランスを崩して転けそうになってしまった。

こういう部分が、完治していない証拠なのだろう。

単純に元からおっちょこちょいである可能性もあるが。

 

勿論、俺が倒れゆく怪我人の友人をそのまま地面にダイブさせる筈も無い。

少し踏み出し、手をばたつかせながら後ろ向きに倒れかけていたクラスメイトの人の腕を掴む。

強く握ってしまうのは多めに見てほしい。

すっぽ抜けて後頭部を強打するよりは余程マシな筈だ。

そして引っ張る。

予想よりも軽いクラスメイトの人の身体が引き寄せられて腕の中に収まる。

いや、クラスメイトの人が軽すぎるのか、俺が自分の平時の筋力を把握しきれていなかったのかはわからないけれど。

 

「わ、わ」

 

腕の中でわちゃわちゃと慌てふためくクラスメイトの人の身体は柔らかく温かい。

体温が高いのは代謝が高い証拠だし、俺のモーフィングパワーを抜きにしても、怪我の治りが元から早い方なのかもしれない。

或いは一条さんと同種の、特に理由はないけれどすごい頑丈な人、という可能性だってあるじゃないか。

一条さんならトラックに跳ね飛ばされたくらいなら翌日から仕事に復帰するかもしれないけれど。

天然道士かな?

鬼の素質とかだと一番面倒が無くていいのだけど。

……少なくとも、病院の記録では心肺停止に陥った事は無いとの事なので、寿命やスマブレのスカウトの心配をする必要はないだろう。

来ていたら始末しよう。

 

「あの、あの、これは」

 

腕の中、チラチラと上目使いに俺の顔を見上げるクラスメイトの人の顔は赤い。

元の代謝が高い、という可能性はともかくとして、今は熱があるのかもしれない。

怪我の治りかけにはよくある事だった気もするが。

 

「病み上がりなんだから、気を付けて。俺も気をつけるから」

 

「う、うん…はい」

 

少し俯いて小さく頷くクラスメイトの人。

きつく言い過ぎたのだろうか。

でも、病み上がりこそ身体に気を使わなければならないのは当然の話だ。

クラスメイトの人の俺への好感度と引き換えにクラスメイトの人が無事に怪我を完治させる事ができるというのであれば、喜んで嫌われ役になろう。

 

「じゃあ、はい」

 

腕の中に居たクラスメイトの人から距離を取り、手を差し出す。

 

「……ええと、転ばない様に?」

 

「うん、転ばない様に」

 

差し出した手と俺の顔を交互に見比べ、一言では言い表せない百面相をした後に、手を繋ぐ。

まぁ、差し出しておいてなんだが、転けない為に恋人でもない友人の手を握って登校、というのは、高校生に対してするべき提案ではないとは思ったのだけど。

もう、そんな事しなくても転ばないってー! くらいの軽い返しを予想していただけに驚きだ。

それくらい、脚がふらついている可能性もある。

入院生活でスタミナ、というか、筋力が低下しているのかもしれない。

疲労からまた転倒しないように、彼女の歩行速度を意識して、気持ちゆっくりめに歩いていく事にしよう。

 

―――――――――――――――――――

 

そんなわけで、ダグバを殺してからここ一月程、俺は極めて平穏な日々を過ごしている。

どういう訳か魔化魍の発生現場に居合わせる事もないし、人気のないところでオルフェノクに襲われる事もない。

異様な程の平穏に、少々落ち着かない、というのが正直な所だ。

仕事漬けの日々を送る中、唐突に長期休暇が取れてしまった時の様な、やりたいことが無い訳でもないし、やってもいるのだけど、長引けば長引くほどに『仕事の方はどうなっているのだろう』と、不安になるのと同じ症状だろう。

……実際、これがアンノウン出現の感覚なんだろう、という感触は幾度かあった。

場所もはっきりとわかる。

だが……遠いのだ。

仮にマシントルネイダーをスライダーモードにしても間に合わないだろう、と、断言できてしまう程に。

加速をマシントルネイダー任せにせず、火で加速して風を操り空気抵抗を低減すれば間に合わないでもない筈だが、そこまでする理由もない。

 

さもありなん。

確かに、アギトになる素養を持つ人間は全国各地に存在する。

いや、神話の時代から考えれば、人類の大半はアギトになる因子を少なからず備えていると言っても良い。

だが、今、アンノウンことマラーク達が襲っているのは、あくまでもあかつき号事件の関係者回りでしかないのだ。

何しろ低位のマラークはアギトの因子を持つ人類と通常人類の区別が付かない。

 

上位の天使、エルロードが出張るか、テオスが自らアギトを探そうなどという殊勝な考えを持たない限り、地方に居るアギト候補及び隠れアギトは襲われる事はない。

……と、思う。

少なくとも、俺の知る知識の中では、アンノウン関連事件と似た事件が地方でも発生している、なんて話は無かった筈だ。

 

エルロードに関してはともかく、テオスに関してはそこまで気にしなくても良いだろう。

奴が自ら出張る段階になったというのなら、標的はアギトの因子持ちの人間などというケチな規模では収まらない。

手始めの段階で、人類のおよそ十二分の一程を巻き込む超大規模ゲゲルを始める筈だ。

なるほど、確かに人間はこいつをモデルに作られたのだろうと思わず納得してしまう程の蛮行。

そこまで来たら、流石に何かをするべきかな、とは思うのだが。

俺にできることと言えば、最終決戦回りで唐突に現れてエル達を撃破する手伝いをするくらいか。

それまでは、特に手出ししようとも思えない。

闇の力は割りと説得に弱かったりするので、試してみようかな、とも思うのだが。

……どうにも、本人……本神に会ったら、煽り同然の文句の山しか口から出てこなさそうで、説得できるビジョンがまるで浮かばない。

 

「俺ってば、つくづく話し合いに向かない性格してるわ……」

 

グロンギ脳の高性能さにかまけて気付けなかったが、コミュ力は据え置きなのだ。

基本的に、話し合って決めよう、とか、相手を言いくるめよう、なんて方向に使える頭ではないからな……。

正しく文化が違う。

 

『?』

 

「なんでもない。ほら、電気消すぞ。布団に戻れ」

 

何故か俺の布団の上でゴロゴロと転がっていたジルが不思議そうな目を向けてくる。

これが、元の記憶と価値観を取り戻しているというのであれば、今の視線は『話し合うより戦ってみればいいんじゃね?』くらいの視線なのかもしれない。

勝って、相手を負かして、それで言うことを聞かせろ、くらいの。

だが、相手は神だ。

後の時代に出てくる自称神とか惑星単位の小規模な神とは異なる、正真正銘の神。

戦って勝ってこちらの道理を通す、という事は難しいだろう。

聞く耳を持たない、という時に、殴って耳を引っ張って、耳元に言いたいことを怒鳴りつける、くらいがせいぜいだ。

 

それで説得に成功するならいいが……そういう穏やかな神ではない筈だし。

何しろ一発いいパンチ喰らうだけで人類滅ぼす方向にシフトチェンジする様な神だ。

話し合うなら、言いくるめる為の材料を全て用意した上で、暴力的な事は一切無しに言いくるめるしか方法はないだろう。

考えても考えても、答えが出る話ではない。

今日は寝よう。

何かを思い付くまでは、保留という事で……。

 

―――――――――――――――――――

 

目が覚める。

今まで何度かあった、マラークどもが活動を開始した時の感覚だ。

これまでも何度か似たような感覚はあったが……。

近い。

 

「……?」

 

勢いよく飛び起きたせいか、ジルが目を擦りながら目を覚ましてしまった。

 

「ちょっと出てくる。お前は寝てろ」

 

パジャマを脱ぎ、学校指定でない市販品のジャージに袖を通し、襤褸を接いで作った大きな布を手に、部屋に常備しているシューズに履き替え、窓から飛び降りる。

塀の上に音もなく着地。

反応は……走るよりまだバイクの方が早い、という位置。

周囲に視線が無い事を確認し、変身。

変身体の上から布を被り姿を隠した上で、トルネイダーを呼びながら走る。

 

母さんは家に居る。

父さんは東京。

俺がこの反応に駆けつける旨味は少ない。

が、近場にマラークが出た、という事の方が問題だ。

あかつき号事件の関係者がこの辺りに来ているのか?

別にあかつき号事件の関係者の殺害を妨害するつもりも無いが……。

確認だけはしておこう。

 

―――――――――――――――――――

 

空を切る音、肉を打つ音、地を蹴る音。

月のない夜に響く、田舎町の公園には似付かわしくない非日常を告げる音。

 

戦いの音色を発するのは、向かい合う二体の異形。

虎に似た()()異形。

その姿は、つい先日に東京で佐伯一家を殺害したアンノウン、パンテラス・ルテウスに酷似している。

違いがあるとすれば、その姿がかつてのルテウスとは異なり、同種であるアルビュスに似た白を基調とした体色に変化していることか。

灰に近いくすんだ白。

真っ赤だったマフラー、黒いベルト、腕輪、靴などの装飾品に至るまでを灰に染めたジャガーロード。

だが、少なくともこの場にその体色を気にする者は居ない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

少なくとも、相対する緑の異形にそれを意識する余裕はないだろう。

金のアンクレットとベルト、赤い瞳を除けば、その体色をほぼ緑と黒で統一した短い角を持つ異形は、明らかに戦い慣れていない様子で腕を振り回す。

良く言えば本能的な、野性的な動き。

しかし、どこかその動きには躊躇いがあった。

そして、向かい合う灰のジャガーロードには、その躊躇いを慮る理由も無い。

 

「がぁっ!」

 

しゃがみ込んでいた緑の異形──ギルスが、振り上げる様に拳を振るう。

まともに振るえば十トンの威力を備える拳も、破れかぶれに振るわれては当たる筈も無い。

ジャガーロードはそれを一歩後ろに跳ぶ事で避け、そのままギルスの顎をつま先で蹴り上げる。

人間が喰らえばそのまま首の骨を折って絶命するであろう一撃。

ギルスの身体が重力を失ったように背後に飛び、転がるように墜落する。

 

「う、うぅぅぅぅっ!」

 

獣同然の唸り声。

だが、獣のそれと異なり声にはわかりやすい程に感情が乗せられている。

痛み、外敵に対する恐怖。

同時に、恐怖を自覚しながらも目をそらす虚勢。

逃げる事ができない為に、立ち向かうことしか出来ないが為に、自らを奮い立たせなければならない。

背を向ければ背中から殺される。

逃げ切る事もできない。

 

怖い。

戦いを知らない者の恐れだ。

そして、暴力の恐怖を知る者の恐れだ。

敵だけではない。

自らの姿への、自らの力への恐怖。

 

死ぬような勢いで蹴られた。

痛くて痛くて、泣きそうなのに、この身体は涙も出ない。

痛みが残っているのに、動かなければならない、と、必死になれば直ぐに身体が動く。

誰の身体かわからない。

いや、自分の身体の筈だ。

この、恐ろしい身体が。

 

「っ、がぅっ!」

 

倒れていたのに、虎の様な化物が迫ってくるのが良く見える。

異常に広い視界。

反射的に脚が跳ぶ。

蹴りを食らった相手が後ろに吹き飛ぶ。

 

人を、いや、生き物を思い切り蹴った事など一度も無い。

脚に伝わる肉を蹴る感触に嫌悪感。

蹴りぬくよりも早く、思わず脚が引っ込んでいた。

 

「ふー……ふー……!」

 

荒く息を吐くギルス。

吹き飛んだジャガーロードは、着地すると同時に、ゆっくりと歩き出す。

走る事はしない。

本能的なものか、相手が戦う気力も、自分から逃げる気力も失い始めているのに気付いたからだ。

両手を体の前で重ね、印を結ぶ。

貴方の子である人間を、貴方の元に送る。

そんな意味の込められた、対象に取っては殺害を予告するものでしかないジェスチャ。

 

「う、うぅぅ……」

 

逃げられない。

戦っても、相手は逃げないし、まして倒すなんてできる筈もない。

大声を出して、助けを呼ぶなどできる筈もない。

今は、自分も化物なのだ。

 

目まぐるしく身体を動かしていたからこそ、戦う事ができた。

だが、一度攻めが止まれば、身体が止まれば、理性が強くなってしまう。

何故。

ただそれだけが頭を占める。

本当なら溢れ出る筈の涙すら流せず、恐怖と悲しみが内部で滞留する。

動けない。

動かなければならないと身体が言っているのがわかるのに。

生存本能が突き動かしていた身体が、理性の鎖に囚われる。

 

「い、いや……」

 

後退る。

攻撃の為の距離を取るでなく。

驚異からの逃走の為でもなく。

ただ、迫る怪物という現実からの逃避の為に。

だが、ジャガーロードのゆっくりとした歩みは、じりじりと、確実に距離を詰めていく。

 

「……けて、誰かぁ……」

 

理性では意味のない行為だと思いながら。

誰かが来る時間でも場所でもない事を知りながら。

誰かが来たとして、化物二匹が戦っているようにしか見えないと知りながら。

 

「助け……、助けてよぉ……!」

 

()()()()()()

その願いが声となり、

 

「?!」

 

ジャガーロードが、唐突に真横に吹き飛んだ。

暴風が吹き荒れる。

ジャガーロードを吹き飛ばしたのは超高密度に圧縮された空気弾。

だが、それがただの空気砲でない事は、ジャガーロードの肉体に浮かんだ輝く印が証明している。

封印の紋章。

それはジャガーロードの動きを数秒だけ封じ、霧散。

受け身も取れずに地面に激突したジャガーロードが素早く起き上がり、それを目にする。

自分と同じ顔、同じ姿の同種達。

そして、僅かに女性的な身体的特徴を備える統率者。

それらが、同胞が。

手足を奪われ、身体に無数の杭を打たれ、鎖に縛られ、引きずられている。

 

じゃり、じゃり、と、金属が地面に擦れる音を立てながら、それは姿を表した。

夜の闇に溶け込む様な、血管の如きラインの浮かぶ漆黒の鎧。

全身に走る金の装飾は絶えず火花を散らし、血霞みの如く赤い靄が浮かんでいる。

 

その姿を目にした者は、そう居ない。

だが、その姿を、佇まいを見るだけで、多くの者がその正体を想起するだろう。

 

「運がいい」

 

背にマントの如くたなびく、孔雀の羽根を思わせる金の装飾が揺らめく。

金に輝く瞳が公園を睥睨する。

 

「事情を話せそうなのが居る」

 

手足をもがれ、杭打たれ、鎖に縛られ。

未知の力で生かされていた二体のジャガーロードとクイーンが、一瞬にして燃え上がり、跡形もなく消え失せた。

 

「そこの緑の人。俺とお話しませんか」

 

未確認生命体二十二号。

吹き飛ばされたジャガーロードを無視するように掛けられた声は、場違いな程に明るく。

しかし、ギルスにとっては、どこか、馴染みのあるような声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てってれーん、てってれーん(予告編BGM)
という事で、アギト編の様でクウガ編よりも更にアギト本編から遠くにあるアギト編、始まります
アギト編は時系列とか日付とか場所とかがふわふわしてる上に発生直後に現地のライダーが駆けつけるので本筋にはそうそう絡まないからそこんとこは勘弁な
本編見返すと手元にある資料とかネットで漁った資料とかとかなり違う部分が出てきて、本編かなり忘れてるなぁと焦る
でも間違って書いてしまったものは仕方がないのでそこら辺はなぁなぁで


☆パンイチピアノ航空爆撃ボスドロップ装備マン
平和を謳歌しつつもどうにも馴染めないというか不安が残る
不安からか東京の一部封鎖区画にグロンギがゲゲルを仕掛けてしまったのを見逃してしまったなぁまいったなぁ追跡できないなぁこれ絶対グロンギの仕業やろってなったりする、無罪ですよ無罪、証拠不十分で
というかこの世界観だと驚異を一つ倒した程度で日常を完全に満喫できる訳ではない
実は何もせずに居ればワンチャン何事もなく今年を越えられる可能性があるが、エルロードが出てきた時点で戦いには巻き込まれるので予め戦いには備えていくスタイル
クウガ警察が引き続き存在している事を知っているので警察に対する信頼は厚い
でもどうせ裏でオルフェノクとか研究してるんでしょ? 人権無視してモルモットにしてるんでしょ?知ってるんだからね……?
という事で正体ステルス続行
でも警視総監に会ってV3の設計図を持ってるか聞きたいのでどうにか警視総監には接触したい
でも劇場版の話は入れると本編の整合性がううんってなるけどどうしようね
ちなみに自分はG4は映画として好きだしG4もデザイン的に好きだけど、主人公の立場からすると何この鉄くず、ってくらいアンチG4にならざるを得ない
相変わらず人から見られた時の印象に関しては考慮できてない
指摘する人が居ないからなぁ……
背中の何処かで見たこと有る金色のビロビロは知らない間に生えてた
レベルとスキルを完全に引き継いだまま次回作に出るとどうなるかをこれから実演したりする

☆ヒロイン
モーツァルトとショパンの違いがわからない程度には音楽に明るくない
今回は眠気を優先したのだ

☆クラスメイトちゃん
全治数ヶ月のところを一月かからず退院した奇跡の人
ラブコメ……ラブコメッ!
手をつないで登校という事、心配してくれてる点は嬉しいけど、恥ずかしがって貰えてないのは意識されてないからかな、という不満が入り混じったりする
ラブコメ要員だよーほんとだよー
不穏な要素なぞ一つもないぞ!
ただ奇跡的に身体が回復しただけだぞ!
なんか夜中に急に目が覚めてしまって近場の自販機までジュース買いに行ったけどそこまで治安の悪い町でもないので別に騒動に巻き込まれたりなんかしないよ!

☆上の項目とはまったく関係ない主人公の地元に何故か出現した謎のギルス
角伸びない、上手く戦えない、本能に任せても生来の優しさがストップをかけてしまい力を出しきれない
珍しい種族らしいけど珍しいだけで一匹しか居ない訳ではないんじゃないかなって思うよ
葦原さんは東京の方でちゃんと終わらない上に乗り越えても命が繋がるだけの苦しい試練を受けてるから安心してくれ

☆白いジャガーロード
平成一期を一繋ぎにした結果生まれた超捏造存在
とりあえず東京に絡みに行けない間はこいつの同種を出したりしてお茶濁します
設定とかは……次の話で?
モノローグで主人公が説明できなかったら次のあとがきでどういう存在か説明するかも




クウガ編がやたら評判良かったからアギト編すごいプレッシャー
このSSは平成一期を振り返るとは言っているけど作者の思いつきを書き綴るだけのような内容だから過度な期待は禁物だという事を忘れないで欲しい
原作キャラ救済とかも無いのはクウガ編を見ての通りだし、よくよく読み返すとここの主人公時折出てきて人の獲物を横取りするだけで日常面はほぼオリキャラと戯れてるだけだから
でも高校二年だから、修学旅行とかで東京に行かざるを得ない展開にできなくもない……?
時間経過もふわふわしてるから、そこを佳境に当てる事も難しくはないし
無理にクウガ編みたいな長さにしなければまぁまぁまとめられるかも?
というような志の低さから成り立っているので
時間経過とかも本編できっちりと言及されてたり場面の繋がりがあったりしなければ一話一週くらいで進めようかなって思います
そんなSSでもよろしければ、次回もまた、気長にお待ち下さい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。