オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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149 2月の駅

魔化魍発生の影にクグツあり。

クグツとは洋館の男女の使役する人型実体であり、これは特殊な薬液を充填された器具を用いることで意図的に魔化魍を発生させる能力を備える。

立場……というより、役目、役割として現場で魔化魍を育成する童子と姫の上位にあり、魔化魍にまつわる実験を行う洋館の男女の下位にあると見て良い。

 

という書籍も存在するが、これが恒常的なものであるか、と言えばさにあらず。

少なくとも、洋館の男女の手下として活動するクグツが常に魔化魍を生み出している訳ではない筈だ。

猛士にはそれなりの期間記録し続けた魔化魍の出現パターンが存在し、現役で猛士構成員として働いている人間が、このパターンから外れた魔化魍の出現はおかしい、と首を傾げる事ができる程度には信頼できる資料として扱われている。

クグツを操る洋館の男女及び洋装の男女が常から魔化魍を発生させている、というのであれば、彼らはつい最近魔化魍の実験を開始するまで、延々何の工夫もなく魔化魍を決まったパターンで生成し続けていた、ということになってしまう。

 

説明がつかないでもない。

何しろ、まともに人間との意思疎通を行ったのは洋館の男女のみであり、その背後に居るであろう洋装の男女に関しては何らその目的が明かされていない。

オロチ現象の発生間隔を可能な限り長くする為、定期的に自然界の穢を魔化魍の形で具現化させて鬼に祓わせていた、なんて可能性だって無いではない。

少なくとも洋館の男女はオロチ現象で何が起きるかを知っていて、猛士側に忠告を入れていた。

彼らの術で魔化魍を制御できなくなっていたのも、オロチ現象の引き伸ばしが効かなくなった、穢がオロチ現象の発生条件を満たすまで溜まってしまったから、という可能性もある。

つまり、普段は鬼によって清めやすいタイミングで魔化魍を発生させていた、という説だ。

 

それなら猛士と完全に結託しておけ、という話だが、人食いの化け物を定期的に発生させて餌を与えて成長させる事で自然のバランスを人間の手で調整する、というやり口が決定的に猛士と合わないので難しいのかもしれない。

或いは遠く昔に猛士から出奔した陰陽師が勝手にやっているのか、双方、少なくとも猛士が知らないだけでもっと上の方では今も繋がりが存在するのか……。

どうであれ、彼らが魔化魍の発生を完全に制御できる、という訳ではないのは確かだ。

魔化魍同士の融合実験などを見る限り、未だ持って試行錯誤の真っ最中なのだろう。

或いは自然界の中の穢の量が想定外に高くなれば、彼らも普段より高頻度で魔化魍を製造せざるを得なくなる。

 

クグツが魔化魍の発生率を操作している可能性は極めて高いが、そうだとしても根本的な魔化魍増加の理由は穢の量の変化にある。

残酷な殺人ゲームが繰り広げられた時、或いは社会不安などから人里に想定外の穢が発生する危険性は無視できない。

 

また、オロチ現象の発生がこの世界においても近いというのであれば、その根本原因に俺、或いはダグバの存在が絡んでいる可能性もある。

オロチ現象のオロチというのは、そのまま大蛇を意味するという説がある。

獅子の顔を持ち龍のごとく空を駆ける姿を持つ魔化魍として現れる可能性もあるが……。

現象としてのオロチとは即ち、地脈、或いは龍脈の乱れを表している、という話だ。

この龍脈というのは大地の力、気、星の持つ生命エネルギーが吹き出す流れを指し、プレートテクトニクスにおけるプレート同士の境界を表す。

これが大陸ではそうそう発生しない魔化魍が日本列島では頻繁に発生する原因の一つとも言われている。

 

そう、九郎ヶ岳での決戦において、俺とダグバが兵器化しようとしたものがこれにあたるのだ。

あの時は、もうこいつを殺すにはマグマの、星の力を兵器化してぶつけるしかねぇ!という決死の覚悟でやったことではあるが、冷静に考えてみればあのまま破局噴火とか起きたら大変だったよね……。

あの時にどれくらいの規模でマグマ、地脈を兵器化するべくモーフィングパワーを流し込んでいたか、正確なところは覚えていないのだが。

 

覚えていないのだが、思い返してみれば、おかしな話だ。

あの時、俺は途中で地脈砲の形成とは別の勝ち筋を見つけたのでモーフィングパワーを止め、恐らくそれに対応しようとしたダグバもカウンターに注力する為にモーフィングパワーの使用は中止していた、と仮定して。

途中まで注ぎ込まれていたモーフィングパワーは何処に行ったのだろう。

兵器化しようとした規模が表面的な部分だったので、地球の核に吸い込まれる事で平均化された、というのなら良い。

 

だが、そうでない、というのなら?

特定の対象、或いは究極的には敵対した個人に向けて殺意を持って放たれるように操作された地脈が、そのターゲットを失い、制御すら失い、ただ、放置され、噴火もせず。

込められたパワーが、別の形で結実するのだとしたら?

それが残ったターゲットの片方である俺にのみ向けられる、というのなら、どうにかなる。

当時ならいざしらず、今の俺にマグマ砲は効かないし、寧ろエネルギー源としての取り込みすら視野に入る。

だが、あの時の殺意が穢として噴出し、魔化魍として結実し、人を襲っているのだとすれば?

 

別に、それに対して、俺のせいだ……などという思いは一切無い。

これはあくまで仮説だし、仮説で無かったとしても当時はそこまでの知識は無かったし、後のことを考えて勝てる相手でも無かった。

だから、心には留めておこう。

良かれと思ってやった事、それが回り回って何処かの誰かを殺すことも、或いは自分に牙をむく事も。

来るかもしれない、と、警戒しておけば、意外と色々な衝撃にも耐えられるものだ。

 

―――――――――――――――――――

 

安達明日夢はこの春、難関校である都立城南高等学校に入学した男子学生である。

親戚の法事で向かった屋久島にてツチグモの標的となり、それを救った鬼の響鬼と縁を結び、何かと彼と関わることになった事を除けば平均的なミドルティーンの男子でしかない。

見たもの感じたものに年相応に感動し、それに影響されては言動や行動に反映させようとし、偶に失敗し、偶に成功し、そういう、何処にでも居る男の子だ。

 

響鬼との縁にしたところで、彼が未知の存在に、或いは頼れる大人の男……或いは父性に対して一定の執着を持ち、ヒビキに積極的に関わりに行ったために途切れていない、という点が大きい。

憧れたものに近づこうとする、関わりたいと思い行動する。

勿論、それらも全てがうまくいく訳ではなく、自らの不甲斐なさに落ち込むこともあれば、世の中の理不尽さに翻弄され、人の心の悪意に触れて酷く傷ついたりもする。

理想を抱いたり、憧れたりはするけれど、未だ成長途中であるが為にどうにもままならない。

 

しかし、彼は偶に調子に乗るところはあれど、基本的には大人しく善良な少年だ。

中学時代から付き合いの続く友人も居れば、或いは彼に思いを寄せる異性すら居る。

善性の強い人間である為に、人の縁にも恵まれる。

そういう自覚があるかと言えば、それほど察しが良い訳でもない。

やや鈍い、朴訥なところがあるのも或いは周囲の人間に嫌われない理由なのかもしれない。

 

だが。

彼の心に悪心が無いか、と言われればそうでもない。

正常な人間ならば当たり前の話ではあるのだが、ナイーブな時期の彼だからこそ、今の自分の振る舞いの良い悪いの内、悪いと思った部分には極めて敏感であった。

明確に憧れる対象としてヒビキが彼の人間関係の中に組み込まれた事も原因の一つだろう。

明確に言語化される事の無い思いの中に確かに存在する、憧れの存在と自分を比較してしまう気持ち。

それを人は劣等感と呼ぶ。

 

勘違いも甚だしくはある。

年の差は順当に考えればそのまま人生経験の差であり、それは長距離走で先に走り出した方が前に余分に進んでいる、程度の話でしかない。

或いは彼の憧れの人であるヒビキにしたところで、年相応どころか変に子供っぽいところもあれば苦手なジャンルも存在する。

その程度のことは、明日夢も冷静にゆっくりと考えれば理解できる。

理解できるが……、それは憧れとは最も遠い。

だからこそ、明日夢はこう考えていた。

 

(ヒビキさんだったら、見ない、見な……見ない)

 

それは入学式直前、以前に響鬼を追いかけて向かった山の中の修行場を、ふと改めて見直してみたいと思いつき、乗り合わせた電車での事である。

一度魔化魍の現れた場所にはしばらく魔化魍は現れないだろう、という考えで、街中と山の寒暖差などを考慮して僅かに厚着をし、靴もしっかりとしたものに変え、念の為にとペットボトルの飲み物などを持参しての日帰りの小旅行。

憧れの対象に影響を受けて、失敗から自分なりに学んだ上でのちょっとした自分の変化に僅かに誇らしさと清廉さのようなものを感じ、次第に人工物の減っていく電車の外の景色を楽しんでいた明日夢の視線が、本人の意図しないままに一つの方向を向いていた。

 

「ん……」

 

手元に抱えた板の様なものを眺めながら、小さく悩ましげな声。

やや幼気な雰囲気の大学生か、大人っぽい高校生か。

二十歳前後の、しかし前後のどちらかと言われると難しい見た目の、怪しい雰囲気の女性。

電車の中で一切声を上げるな、という決まりは無いし、彼女がなにかマナーに違反している訳ではない。

休日昼間、殆どなにもない郊外に向かう電車には大した人数が乗っている訳でもなく、若者と言っていいのは明日夢を除けばその女性くらいのものだろう。

派手な格好をしている訳でもない。

露出という面で言えば、ロングスカートに厚手の長袖、カーディガンなどを合わせた春と冬の中程には丁度いいコーディネートで控えめと言って良い。

恐ろしく美人、という訳でもない。

笑ったら魅力的だろうな、クラスに居たら目を引くだろうな、くらいの顔立ちだろうか。

それなりに人気はあるけれど、目立つタイプの美人ではない。

というのが、純粋に見た目から得られる印象だ。

 

しかし。

 

(わ、わ……)

 

どこがどう、と、表現するのは難しいが。

身に纏う雰囲気が、仄かに漂う香りが、物憂げな表情が。

思春期真っ只中にある明日夢の本能を、恐ろしいほどに激しく揺さぶってくる。

微かにしか聞こえなかった悩ましげな唸りは耳を経由して脳を麻痺させようとでも言わんばかりに甘ったるく感じられる。

その女性は見た目の印象からは遥かにかけ離れて、蟲惑的な……言葉を濁さず言えば、非常に性的な雰囲気を感じさせていた。

板のようなものを弄る指先、それを見つめる眼差し、揺れる睫毛、僅かに不機嫌そうに尖らせた唇。

その全てが男を誘うための手練手管であると言われれば即座に信じてしまう程。

その一つ一つ、或いは全てを総合的に見ても、何ら性的な要素が含まれている訳でもないのに、だ。

 

安達明日夢は強い人間ではないし、年相応に未熟さが目立つ人間ではある。

当然、性的な衝動もあれば興味もある。

だが、目の前……少し視線を動かすだけで見れる範囲に居る、見ず知らずの相手にそういう感覚を抱く事に罪悪感を抱けるだけの理性も存在していた。

 

どうしても引き寄せられてしまう視線、明日夢は瞼を閉じた。

降りる駅の名前は覚えている。

目的地につくまで、少しの間、軽く眠るつもりで目を閉じていれば良いだけの話だ。

煩悩を振り払う様に、明日夢は目的地についた後の事を考え続けた。

 

―――――――――――――――――――

 

次は、──、──

 

ふと、目を覚ます。

寝過ごしてしまったのだろうか、辺りは薄暗く、目的の駅はとうの昔に通り過ぎてしまったようで、聞き覚えのない駅名が告げられていた。

コンパクトにまとめた荷物を抱え、慌てて降りる。

 

「どこだろ、ここ」

 

目的地にしていた駅も大分都心から離れた辺鄙な駅ではあったけれど、その比ではない程度には寂れた駅舎だ。

前後の駅名すら聞いたことが無い。

無論、明日夢自身、生活圏内の駅名ですら全て把握しているとは言い難いのだが。

 

「ありゃー」

 

駅の看板を前に立ち尽くしていると、後ろから声が聞こえた。

電車内で見かけた女性だった。

先に感じられた異様とも思えるほどの性的な魅力は気の所為だったのか、厚手の上着越しにもわかるほどにメリハリのあるボディラインだな、と、そんな失礼な事が頭に思い浮かんでしまう程度に抑えられている。

失礼な事を、と、密かに恐縮しながら視線を戻す。

前後の駅名に挟まれ、少し掠れた塗料で記された見慣れない駅名を読む。

 

「きさらぎ駅……?」

 

少しも聞き覚えのない駅名だった。

生活圏内の駅名を辛うじて覚えている程度で、更にここ一年は受験勉強に集中する為に自発的な遠出はしていないので、少し離れた場所の駅名となれば何一つピンとくるところが無い。

背後の女性も同じなのか、携帯電話を取り出して何事か通話を行っている。

小さな無人駅の周囲は草原と山に囲まれている。

奥多摩駅前と比較してなお田舎だ。

田舎というより、自然の中、山の中に駅がある、と言うのが正しい気もする。

ざっと見渡しても民家の一つも見当たらない。

 

「かたす駅、やみ駅?」

 

一駅二駅なら歩いていく事もできるかもしれないが、一駅二駅歩いた程度で知っている場所にたどり着ける気もしない。

電車が来るのを駅で待つか?

しかし、ここまで田舎の電車となると、どれほどの頻度で来るものなのか。

狭い駅舎内を見渡しても時刻表の類は見当たらない。

 

線路を辿って元の方向に歩き続けてみるか。

山中を歩く準備をしていた明日夢は、田舎とはいえ舗装された道路を歩く程度なら、と、僅かに強気な考えが浮かんでもいた。

或いは、ある程度歩けばバス停くらいはあるかもしれないし、タクシーが通りかかる事もあるかもしれない。

幾ら見覚えのない駅と言っても、電車で行ける範囲でしかないのだ。

最悪、本当に最悪の場合、母さんに電話して迎えに来てもらう事もできる。

仕事中に、というわけにもいかないだろうから、結構遅くなってしまうだろうけれど。

 

総じて、明日夢は電車を乗り過ごしてしまった事に対してそれほど悲観的な考えを抱いていなかった。

山の中で魔化魍に襲われている訳でもなければ、何年か前の未確認の様なものと遭遇してしまった訳でもない。

日常の中のハプニングの一つでしかないのだ。

休みの日が一日潰れてしまったと考えれば、それは惜しくもあるし、入学前にして幸先の悪い話ではあると思いもするが。

 

ふと、着信音。

ポケットから携帯電話を取り出して発信者を確認。

見覚えのない番号……番号ですらなく、意味不明な文字列が表示されている。

以前に買ってもらってから大事に使っていたが、長く使っていた為に壊れてしまったのだろうか。

そんな事を考えながら電話に出ようとすると、す、と、横から伸びてきた手が携帯を操作し、そのまま着信を切ってしまった。

え、と思い伸びてきた手の持ち主に視線をやれば、それは自分と同じくこの駅で降りていたさっきの女性。

自分のものであろう携帯を耳に当てたまま、その女性は真剣な表情で明日夢の顔を見つめ、ほっ、と、溜息を吐いた。

 

「一緒に降りた子は無事っぽい。……うん、電話も切った。……どうかな、レイちゃんも呼んでみたんだけど、ちょっと遠いっていうか、時間がかかるのかも」

 

明日夢の携帯から手を離した女性は、明日夢の何故と問いたげな視線を片手で制したまま通話を続けている。

 

「んー……どうだろ。私はわざと降りたけどこの子になにか問題があるわけじゃないっぽいし。……うん、うん、ちょっと試してみて、駄目ならお願い」

 

ぴ、と、通話を切り、女性が明日夢に向けて申し訳無さそうに片手を立てて頭を下げる。

 

「ごめんね。ちょっと今、えーと、電話に出ると危ないっていうか……ほら、未確認生命体って覚えてる? ああいうのが関わってて」

 

「えっ、あ、はい……え?!」

 

目の前で頭を下げた女性の胸元がゆさりと重量感を持って動く様に視線と思考能力を一瞬奪われて、次いで、復活した思考能力がその発言内容に驚愕する。

未確認生命体。

言わずと知れた、日本中を……というか、東京近辺を恐怖に陥れた謎の殺人怪人集団。

つい一昨年に日本中を震撼させた人食いの怪物に印象を薄れさせられたが、ほぼ一年に渡って儀式的な殺人を繰り広げた彼らの事を覚えていない日本人は殆ど居ないと言っても過言ではないだろう。

未だ持ってアングラなサイトでは彼らの行動に関して考察が行われていたりする程で、当然、当時小学生だった明日夢もそんな彼らのことを忘れている訳もない。

 

「だっ、大丈夫なんですか……?」

 

「んー、と、かもしれない、っていうか、未確認そのものではないんだけど」

 

腕組みをして、なんと説明してよいか、と悩む女性。

その仕草で重々しく持ち上げられながら変形する2つの膨らみに視線が向かない様に、意識的に女性の顔を見る。

未確認みたいなものが来るかもしれない、と、そんな言葉を軽々しく嘘として使える人間は余程の悪人だ。

未確認事件は実際に多くの被害者が出ている為に、大体の人間が知り合いの中に被害者の関係者くらいは居る、というのが日本の現状である。

更に言えば数年前の人食いの怪物の件も含めて、怪物が出た、というのは冗談で済まない嘘の一つとして挙げられている。

人の良さそうなこの女性が、見ず知らずの自分を騙すためにとっさにつく様な嘘ではない、と思う。

だが、そういう驚異が迫っているにしては女性の顔に困惑はあっても恐怖は無い。

明日夢の頭に一つの閃きが浮かんだ。

 

「もしかして、猛士の人……ですか」

 

「猛士ではないよ。同業他社みたいなものかな? でも、猛士の事を知ってるなら魔化魍の事も知ってるよね。今、私達は魔化魍のお腹の中、みたいなとこに居るの」

 

「ウェッ?!」

 

「だから、食べられる前に出ていこうか。ついてきてね」

 

―――――――――――――――――――

 

足取りも軽く、散歩でもしているかの様に歩く女性の後ろを、おっかなびっくり付いていく明日夢。

空は薄曇りで、普段なら美味しいと思えるような豊かな自然の中の空気は、春先の冷たさもあってどこか寂しさを感じられる。

桜の一本もあれば話は変わったのだろうか。

明日夢が見渡す限りでは、明日夢の知識の中にある春をイメージさせる植物が見当たらないのも原因であるように思えた。

人里離れた、民家の一つも無い田舎。

その言葉を元に作られた漠然とした風景。

 

「無いでしょ? 電信柱」

 

「ほんとだ……」

 

言われて初めて意識できたが、確かに電信柱が一本も無い。

余程の片田舎だったとしても、日本であれば電信柱程度は立っているものだ。

まして小さい無人駅とはいえ人工物があるのだから、電気が通っていない、というのは考えられない。

 

「生まれて日が浅いから、こういう細かいところの造形が甘いんだって。人を食べて育ったら生えてくるかもだけど……あ、今する話じゃ無かったかな? ごめんね」

 

「いえ……あの、出てきて良かったんですか? あの駅で迎えを待った方が」

 

「狭いから駄目かな。君、鬼になれないでしょ? いざって時、建物に押しつぶされたりしたら死んじゃうかもだし。それにほら、こういうのって、なにか行動しないと動かないんだって」

 

「動く?」

 

「相手が」

 

短く返す女性に、明日夢は問い返す事もできない。

何が、などと、聞くのは愚かな事だろう。

この現状が魔化魍のせいだというのなら。

問題は、この女性がなぜわざわざ魔化魍に動いてもらわないといけないと思ったかだ。

話の流れで、勢いで、なんとなくついてきてしまったが、本当にこの女性についてきて良かったのだろうか。

 

無言、しかし、無音にはならない。

田舎道を歩く明日夢と女性の足音だけが響く。

嫌になる程の静けさ。

振り向けば、それなりに歩いたのか、背後にはもはやあの小さな無人駅は影も形も見当たらない。

どれほど歩いたのだろうか。

民家すら無い寂れた田舎道で、どれくらい歩けば建物が見えなくなる……?

 

遠くから笛の音が聞こえてくる。

調子の外れた音色で、節も無い。

合わせるように鳴らされた太鼓の音も、明日夢の記憶の中にある響鬼の奏でる清めの音とはまるで異なる。

人の心を不安にさせるような不協和音。

それが、どんどん大きく、近づいてきている。

 

人工物の奏でる音が聞こえるから、そこに人が居る。

そう考えることができる程に明日夢は楽観的では無かった。

この音は、違う。

人の奏でるものではない。

そんな奇妙な確信だけがあった。

 

どくん、どくん、と、自分の鼓動が感じられた。

大きく鳴り続ける祭ばやしの出来損ないよりも強く響く恐怖の鼓動。

思いっきり走り出して逃げ出したい、という思いと、その場で蹲って耳を塞ぎたい、という思い。

明日夢が足を止めず、しかし、走り出しもしなかったのは、偏に、現状を説明して自分を脱出させようとしてくれていた女性が居るからこそだった。

彼女がなにかをしようとしてくれているのなら、自分がそれを邪魔してはいけない。

なけなしの、しかし、ありったけの勇気が、辛うじて明日夢の正気を守っていた。

 

「止まって」

 

女性の静止の声。

緊迫感を含む、有無を言わさぬ声に、明日夢がようやく足を止める。

 

「道の端に寄って、できれば目も閉じてた方がいいかな。……もう少しだから、がんばって」

 

指示の最後に付け加えられた優しげな言葉。

染み入るような優しい声色に僅かに恐怖心が緩む。

瞼を閉じる寸前、明日夢は確かに見た。

複数のケーブルやパイプが露出した、拳銃の様なものを構える女性の姿を。

 

―――――――――――――――――――

 

女性──難波祝の視線は、それをはっきりと捉えていた。

無数の斑点がある、青白い肉の塊。

その頂点には、角の間に奇妙な鏡を頂く黒い牛の首。

 

「丁度いい、なんて言っちゃ、不謹慎かもだけど」

 

不敵な笑みを浮かべ、この現象と思しき相手を前に、ざり、と、足を開く。

手には機械的な、或いは出来の良い玩具の様な拳銃一つ。

無数のケーブルとパイプがはみ出すそれに、まるでマガジンの如く一つの小さなボトルを装填。

 

《ネフィリム》

 

くるん、と、遊ぶように拳銃──トランスチームガンをガンスピン、銃口を肉塊の足元に向け、

 

「蒸血」

 

反動があるかの如く銃口を上げながら引き金を引く。

 

《ミストマッチ》

 

重々しい認証音と共に銃口から放たれた毒々しい色の蒸気が祝の体を包み込む。

偶発的に発見されたネビュラガスをベースに、ギルスとしての体液その他を生成して作られた特殊な薬液が、祝の肉体を半ば変異させながら特殊なスーツと装甲に包んでいく。

祝の変身が完了するのとほぼ同時に、散布されたガスがまるで花火の如く火華を散らしながら消えていく。

後に残されたのは、異形の装甲服を纏う戦士。

滑るような光沢を持つ濃緑のボディースーツ、虹色に焼けた銀の装甲、各部から生えたスチームパイプに、顔面を覆い尽くす半透過バイザーを備えたマスク。

 

「褒められちゃうかもね」

 

祝の新たな変身態、『カーマネフィリム』は、戦場には似合わぬ艶やかな声色で小さく呟きながら、躊躇うことなく肉塊へと突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いたいけな思春期の少年にエッチなお姉さんを接触させたかっただけの話

☆どこから来たのかネビュラガス
地球上には存在しないってだけで外宇宙まで手を伸ばせば存在しないとは言い切れない
後に本編で言うけど次元エネルギーとかを安々と利用してるとうっかり別次元の存在が流れ着いたりするのがライダー世界なのだ
無尽蔵に湧き出す訳ではないのでご安心

☆私は謝らないって言ってたし俺も当然謝らない
でも地脈砲打ってもダグバが死んでたかっていうとうーん
多分主人公もダグバも直撃したマグマで新しいボディ形成して戦いが新たなステージに進んでしまっただけではないだろうか
その場合は流石にバッドエンドだった
創世王辺りが出張って収集つけていた可能性もある
たぶんママンは悲しむ展開

☆オロチ現象
地脈とかが乱れる和風伝奇ものではよくある騒動の原因のアレ
時には日本列島が龍として目覚めたりするけど、まぁこの世界はこの世界なので普通に日本列島が元は移動要塞だったんだよくらいは普通にありそう
もしかしたらウキウキダグバ殺意とウキウキ主人公殺意の乗せられたモーフィングパワーがオロチのお腹の中でグルグルしているかもしれない

☆年上女性にエッチな視線を向けるのは失礼……という紳士な少年
ちょっとエッチ、とか、大人の女性だな、くらいなら素直に受け入れるんだけど
電車の中に無防備などエロ存在が居たので逆に腰が引けてしまった
ニチアサなので下手にエッチな事を考えさせる事ができないとも言う
でもここはニチアサではないので揺れるエロ心

☆大いなる力には大いなる副作用が存在する久しぶりの本編出番ァ!
日常的にえっちをしている間は良いのだが、間隔が開いて欲求不満が溜まってきたりすると周囲にそれとわかる程にフェロモン的なものが撒き散らされてしまう
原因は取り込んだ大質量の精ですかね……
多分気のバランスとかがどえらい事になっている
ヤリなれてる常人だと誘っているようにしか見えない(気の所為)
どれくらいの雰囲気かというと、見た目と行動には一切現れないが雰囲気だけなら夫に先立たれて数年、近所に済むがっしり体型の運動部の朴訥な男子を家に招いて食事を作って上げてお風呂まで沸かして上げて本人はなんでか薄着な未亡人(すべての行動が無意識で他意はない)、くらいの雰囲気を濃縮したような空気を放ってしまう
偶然発見したネビュラガスの実験を主導していたが、無事だったのはこの大質量の備蓄が犠牲になりつづけてくれていたおかげ
なお減った分は全て補充済み

☆変身態『カーマネフィリム』
まぁ言ってしまえばナイトローグとかブラッドスタークの亜種でこの二体の間の子みたいなデザインをしている
原作に登場する諸々の要素が無いのにボトルとか作れるんとか色々あるだろうけど、今精力的に親戚の工場に人材をスカウトしているのでそこに結構な天才が紛れ込んでいた可能性が高い
葛城のおじさま! うちの工場ならもっと良い条件が出せますよ! 有給取得率も高い! ボーナスもこんなかんじ! お子さんの参観日とか行けますよ!
みたいな事があった
当然フルボトルも原作のものとは諸々異なる、というかフルボトル相当の別の何か
作れるの?と言えば、まぁ財団Xとかは各種変身アイテム作れたからええやろ感だけで出された
本来はネビュラガスを積極的に利用したドライバーに近い構造になる予定だったが、実験中の難波がネビュラガスを受けた際に『あいたぁーっ!』ってなったのでこれはもしかして危ないガスなのではとなって安全性を求めて原作に極めて近い安全設計で作られた
パンチ、キック共に20t前後くらいは出るため、平成一期中盤の量産可能装甲服としては破格の性能を誇るが、安全性を考慮した結果まだ生身の一般人での運用試験はされていない

☆ゲーム版メガトン級ムサシ(デモンエクスマキナ)
え?!ヤマトくんってお金払って人体改造とかしないんですか?!
ローグ級は60メートル級の機体?なんだかこのメカ10メートルも無いような……
いやメガトン級買おうと思ったんですよ
でも続編まで一年かかるし急がなくていいかなってなったしアマゾンで新品が三千円くらいで買えるしで今更ながらデモンエクスマキナになりました
こっちをやりこみ終わったらさすがに買います
ACと方向性は似てる気がするけど、傭兵たちのキャラ付がね……
キャラはともかく敵の残骸からパーツ回収できるのは楽しい
強敵が出ても残骸漁れるとなれば嬉しくなるのでこれは良いシステム
傭兵達が傭兵同士で戦うなんて……ってやってるけどプレイヤーはウッヒョーお前の死体が欲しい!ってなるやつ
そう考えるとヤマトくんは理性的で良い子ですね……偽りの日常も無駄では無かった
この星は俺達のものなんだからなってなるのがメガトン
人間界も悪魔のものなんだからなってなるのがメガテン
お前の死体は俺のものなんだからなってなるのがデモンエクスマキナ
アニメも面白かったので続編気になるし中村さんのキャラはアニメで今後どう絡んでくるんすかって気になるTV
ムサシオーは……優しさが生きる答えなら良さそうなコックピットがヨシ!(風のノー・リプライ派)



たぶん年内最終投稿
なんでかって言えば今年ラスト4日は二連夜勤(16時間勤務をインターバル挟み二回)なので多分書ける暇が無い
これがメリクリ回であり良いお年を回であると想っていただきたいのです
クリスマスに向けてクリスマス特別回とか書ける人は毎回尊敬しちゃう
そんな鈍足なSSではございますが、次回も気長にお待ち下さい

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