オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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148 懐かしむ過去

完璧とは絶望である、という言葉がある。

言った人物の人格見た目タイミングなどのお陰でなんとなく深いことを言っている様に見える言葉だがそれほど奇抜な意見ではない。

大人になるとふと、自分の頭の上に天井が見えてくる、という言葉と言いたいことは同じであり、この絶望は別段科学者特有のものではない。

絶望と仲良くなろう、という言葉の通り、見える限界に対してどう付き合うか、というスタンスこそが重要なのだ。

天井が見えたので、我武者羅に走るのをやめて穏やかに生きるのが、できる人間の賢い選択というものだろう。

 

この世界において一般的な戦士というものにはどうしたところで限界がある。

人間ベースであれ異種族ベースであれ、物理的耐久力を始めとした諸々の問題が付き纏うからだ。

単純な加齢による衰えというのは現代医学ではそう避けられる問題ではないし、戦士として戦い続ける以上、完全に癒やすことの出来ない怪我の類もあれば、それまでの行動と一切関係なく発症する無数の病もある。

この文明が今後も問題なく発展を続けていけばそのうちの幾らかは解決できる時代が来るかもしれないが、そんな時代はまだまだ先だろう。

 

三十ともなれば、或いは肉体労働である戦士の各部関節はメンテナンスを丁寧に行っても摩耗が目立ってくる時期だ。

若かりし頃と比べて、或いは自分の思い描く最適な動きに比べて精細を欠いてしまう、というのは悲しいことだ。

だから、命を落とす前に一線を退き後進の育成に務めるというのは、いわゆる天井が見えた人間の取れる賢い選択だとは思うのだが。

 

今は恐らく、時代の転換期であり、激動の時代と言っても良い、と、そう思う。

首都壊滅級の騒動が起きたり全世界無差別テロの様な騒動が起きたりするし……、後者は或いは今後も不定期に起きる可能性だってある。

後進を育てる事ができる程度に経験豊富な戦士であるというのならば、もう少しだけ、もう十年二十年と、前線に居座り続けて頂きたい。

 

―――――――――――――――――――

 

「蔵王丸」

 

くぐもった、薄布一枚通すような、何処か不明瞭な声。

意識を失っていた……何故、と、その原因に思い当たるよりも先に、謝罪の言葉が口から溢れる。

聞こえる声と同じく、はっきりと像を結ばない視界の中で、凛々しい、と思える容姿をした女性が焚き火に枝を投げ入れていた。

 

「良い、しばし休んでおけ」

 

いつもどおり、厳しく、固く、しかし、今の声は何処か労りが含まれている気がした。

 

「弟子の管理も師の仕事だ。……お前があんまり熱心なもので、調子に乗ってしまったのかもしれん」

 

自嘲の様な、照れの様な。

声だけでなく、自分に一切視線を向けず、どこか誤魔化す様な口調で火を見つめている。

見た目にそぐわぬ、言ってしまえば母どころか祖母よりも長い時を生きる()の珍しい感情に、困惑、していた事を思い出す。

 

あぁ。

これは夢か。

久しく思い出す事も無かった記憶。

師の普段出すことのない苛烈さが良くない形で現れて、自分はあわや命を落とすところまで行き、師は鬼としての適性を疑われ、猛士を去った。

重症を負った自分は、別れの言葉を交わすことも無かった。

猛士に所属する師弟の中では、最悪に分類される形の独り立ち。

失われてしまった時代だ。

 

「しっかりと休め」

 

「……心配しなくても、お前は()()()になる」

 

「私が保証するよ」

 

都合の良い夢。

不明瞭なのをいいことに、綺麗なものとして思い出す。

だが。

師からの期待は、あの時の自分にとって、間違いなく……。

 

―――――――――――――――――――

 

目の前には白い天井。

イヤというほど、という訳でもないが、鬼として活動する中ではそれなりに見慣れた光景。

或いは直前まで見ていた夢のせいもあってか、蔵王丸……斬鬼の意識は未だ目の前の光景が現実なのか、それとも夢の場面が変わっただけなのかがあやふやな程だ。

 

弟子である戸田山を庇ったのは覚えている。

覚えているが、どうにか治療して目覚める事ができたのか、それとも未だ自分は死ぬ直前で、心残りだった記憶を思い返しているのか。

そんな考えが浮かんでしまうのは、ベッドに横たえられているにも関わらず体になんら痛みが無い為だろう。

 

鬼に変じたままでも危険な程の痛みがあったはずだ。

似たような理由でここに運び込まれた時は、目覚めとともに痛みが襲い掛かってきた記憶がある。

強い麻酔を打たれてそれが残っているのか。

 

「眼を覚まされましたか」

 

どこかぼんやりとした意識の中、大きくは無く、しかし良く通る声が耳朶を打つ。

声の出処に視線をやれば、見覚えのない男が一人。

少年から青年の、その境に居るような、知り合いの中で言えば宗家の鬼、威吹鬼と似たような年頃の男。

 

「まずは、お医者様にお伝えしなければなりませんね」

 

枕元にあったナースコールを押す男。

知らない顔だ。

歩の一人だろうか。

付きそうにしても戸田山ではないのか。

そう疑問に思いながら、再び瞼が降りてくる。

やはり麻酔が残っているのか、意識を保つ事ができない。

聞かなければならない事は多くある。

 

バケガニはどうなったのか。

戸田山は無事なのか。

自分をここまで連れてきて、或いは運び込んでくれたのだとしたら礼を言わなければいけない。

幾つかの思いつきが頭の中に浮かんでは消えていく。

 

「この短時間で意識を取り戻すとは」

 

「なるほど、確かに()()()だ」

 

「お師さんの言った通りだったな」

 

見覚えは無く。

しかし、どこか懐かしさを感じる男の気配を感じながら、斬鬼は再び意識を手放した。

 

―――――――――――――――――――

 

実際問題として、この再び意識を失ってしまった斬鬼さん、今後も人間社会で活動を続けるタイプの人なので、常に俺が手元で管理できる訳でもない。

つまり彼は自らの肉体に異変を感じたら自分でかかりつけ医に相談に行くし、なんなら定期健康診断なんかも受けたりするわけだ。

そういった人間の肉体、骨格とか軟骨を自己再生する特殊合金と自己保全ゲルにすげ替えたり、遺伝子情報を弄って特殊能力に目覚めさせたりするというのは極めて難しい。

誰も目撃者が居ないというのであればワンチャン超能力に目覚めさせるとかは可能だったかもしれないが、今回は残念な事に戸田山さんが目撃者として存在している以上、斬鬼さんの身に異変が起きれば即座に俺が容疑者として浮上してきてしまう。

 

悲しい話だ。

俺は善意でやっているのだし、命をつなぐための施術の一環であれば大体無罪で良いのではないだろうか。

戸田山さんが斬鬼さんによって完璧に庇われてしまったが為に、斬鬼さんの肉体は一部の骨しか自己再生金属(カリスの装甲材などを参考に作ったもの。ニーくんを始めとしたニャンニャンアーミーの装甲とほぼ同質)化できなかったし、全身至る所にあった古傷を修正して傷一つ無い二十代成り立てくらいの状態に戻す事しかできなかった。

グロンギ化小動物から取り出した魔石のなりそこないの肉瘤をレントゲンなどではわからないように各部に潜ませる(バレたら各地で回収した仏舎利を培養した特殊細胞という事で押し切る予定)程度の改造しかできなかったので、即死しない限り数ヶ月単位の時間をかければほぼ確実に戦線復帰できるが、死ぬ時は死ぬ程度の改造でしかない。

これで斬鬼さんが死んだら戸田山さんのせいだ。

 

……この戸田山さんのせいだ、という部分、俺が斬鬼さんをバリバリの超戦士にしたかったという部分を伏せて再利用できないだろうか。

なんとか罪悪感を抱かせて、戸田山さんが大怪我を負った時に色々な実験的処置ができるように誘導できれば話が早いのだけど。

確か戸田山さんも戦線復帰絶望レベルの大怪我を負う可能性があるわけだし。

 

「斬鬼さんが目を覚ましたってホントっすか?!」

 

勢いよく病室のドアを開けて入ってきた被検体候補に対し、立てた人差し指を口元に当てて無言の注意。

斬鬼さんの意識の途切れはまだ完全に目覚めるには体力が回復していなかったから別に起きても問題ないといえば問題ないのだが、それ以前の問題としてここは病院。

猛士の息がかかった病院と言えど、他の一般受診者もいるのだから騒ぐべきではない。

もっとも、それだけ戸田山さんが斬鬼さんを心配していたという話でもあるのでこちらを強く責めるのも正しくはないのだけど。

 

戸田山さんに少し遅れて入ってきた医者の先生と少し話す。

当然、このお医者様も猛士の息のかかった医者だ。

そうでなければ明らかに通常の生活ではつかない傷を負って入院する鬼の人達を見ることはできない。

酸で溶かされたとか、巨体に押しつぶされたとか、巨大な鋏で手足をへし折られたとか、そういう傷を診るのに慣れたベテランだ。

緊急避難という事で色々と斬鬼さんの体をいじったが、今後その弄られた体を見るのはこの猛士の協力者であるお医者様なので、今どういう状態なのかは説明しなければならない。

 

現代の猛士では人間の肉体を直接いじる技術こそほとんど伝わってはいないが、猛士の関係者というだけあってそういった方面に関する知識は多少有しているらしい。

使われている技術こそ異なるが、このお医者様のお父上の代などでは不思議な術で体の作りを変えていた鬼も居たとかで、治療のために肉体を改造した、という話をすんなり受け入れて貰えたのはありがたい。

今後、斬鬼さんの肉体を診るにあたって必要な資料は後日まとめて提供する事となった。

これで、斬鬼さんの治療が俺にしかできない、みたいな状況にならずに済んだ。

 

一通り話を終え、お医者様が斬鬼さんの状態を少し確認してから退室する。

斬鬼さんの肉体は外見には極めて正常で、特にバイタルに問題がある訳でもないので、現在は単純にベッドに寝かされているだけで心電図なども無い。

室内で特に音の出るものも無く、病院なだけあって実に静かだ。

つまりそれは戸田山さんもずっと無言を通している、という事なのだが。

 

「さっきは助けて頂いてありがとうございます」

 

「いえいえ、猛士の方々には何時もお世話になっていますから」

 

今回も貴重な現役の鬼の肉体を、しかも変身を維持したままの鬼の肉体からデータが取れてとても助かったくらいだ。

俺が鬼に変じた状態でのデータとかはあるけどそれが常人の変じた鬼とどれくらい違うのかもわからなかったし、仲村くんの肉体を掻っ捌くわけにも行かないから、貴重なデータになった。

実際、適性の有無がほとんど関係なく修行次第で人間から変じることのできる鬼の肉体は新たな戦士を作る上で非常に興味深いサンプルだ。

機構として殆ど変わらない筋肉細胞が、機械的に作られた倍力機構など眼ではない程の剛力を齎すとなれば、これを解析しない手はない。

また、当然の話ではあるが、この剛力を支える骨格、筋、或いは体内の血流なども素材として実に魅力的だ。

魔石を用いずにある程度の再生能力を備えている、という点も興味深い。

人類の正当進化系として見て遜色ないのではないだろうか。

 

「それで、この後どうされます? 猛士への連絡などは」

 

「あ、それは待ってる間にやっておいたので、だいじょぶっす。今は」

 

ちら、と、眠り続ける斬鬼さんへと視線を送る戸田山さん。

体力が回復しきっていない為に眠りの中にある斬鬼さんではあるが、怪我が残っているわけではない。

なんなら俺が手を加える前、バケガニの不意打ちを食らう前よりも健康で破損の無い肉体になっている。

なっている訳だが、自分を庇って怪我をして、未だに意識が戻らない、というのに気にかけるなというのは酷な話だろう。

 

「まぁ……お医者様から容態の報告もされるでしょうし、バケガニ自体は片付いているから、いいんですかね」

 

知らんけど。

シフトやら何やらを覗き見る事はあっても現代猛士の勤務形態に関して詳しい訳ではない。

魔化魍退治の後に支部に戻って雑談と報告をしている場面を知ってはいるし、この眼で確認もしているが、それが義務化しているかもわからん。

そも、今回割って入ったのは斬鬼さんの怪我の件について手を入れておきたかったという理由があり、それも終わった以上、長々と付き合っている理由も無い。

それに、治療のどさくさで採取した常人から変じた鬼の細胞サンプルなんかもクロックダウンとタイムベントの併用で保管しているので、これの研究にも入りたい。

 

「では、戸田山さんも怪我にはお気をつけて」

 

「ええ、それじゃあ。今回は本当に……」

 

続く言葉を遮るように手を振り、病室を立ち去る。

良いことをした後は気分が良い。

処置も手早く終わったし、少し寄り道をしてから帰ろう。

 

―――――――――――――――――――

 

そういうわけで、お師さんの家を訪ねてみた。

 

「帰れ」

 

「すげない」

 

玄関先で追い返されそうになる。

まぁこのやり取りはいつもの事だ。

俺だって実家やら今住んでる部屋やらにお師さんとか師匠が来たら良い顔で迎え入れられるかはわからないので仕方がないと思う。

と、そこまで推理はできていたのでお土産としてグジルが備蓄していた俺の地元の地酒を持参してあり、これを渡すことで無事に上がり込む事ができた。

 

「今日は俺の兄弟子の事でお話があるんですよ」

 

「素人の改造手術は違法だぞ」

 

話が早い。

 

「死にそうで医者も間に合わ無さそうだったので、緊急避難ですよ緊急避難」

 

「改造用の機材を持ち歩いておいてか?」

 

「ツーリングがてら動物の轢死体を探していたもので」

 

「もっと有意義な休日を過ごせ」

 

「そうなると……ペットショップめぐりとか、フリーのブリーダーさん行脚とかですかね」

 

「ほう、ちゃんとした趣味もあったのだな」

 

「ええ、動物は可愛らしいですからね」

 

特に人権とかが無いのがまた良い。

この時代はまだ動物の保護に関する法が整備されきっていないので、育ちすぎて売れなくなった動物の始末に困っていたりするのだ。

これを引き取り、少しの間愛情を持って育て、脳みそをイジイジした後に改造すれば忠実な兵士が出来上がる。

それはともかく。

 

「半分くらい溶けてたので、ついでにお師さんが残した躊躇い傷も直しておきました」

 

「そうか」

 

「もっと感謝してくれていいですよ」

 

「あいつは既に一人前だ。今更師匠顔をするつもりもない」

 

「安心しました?」

 

「お前は人の話を聞け」

 

「今まで観測したお師さんの発言は全て残らず記憶していますが」

 

「気持ち悪いから多少聞き逃がせ」

 

「良い生徒なので無理です」

 

授業と修行の最中にうっかり教えるつもりのない技術の情報まで口を滑らしてくれたりするからね、聞き逃しなんて言語道断なのだ。

とはいえ、お師さんは本当に斬鬼さんの事で特に思うところは無いようだ。

口に咥えられた鬼ごとノツゴの口を音撃で貫いて退治する。

俺の持つ知識の中でも、結局お師さんが斬鬼さんを犠牲にしてノツゴを退治しようとしたのか、というのは真偽不明のままだった。

ここの猛士に残る記録においても師である朱鬼は弟子である斬鬼を犠牲にして退治しようとしたため鬼の資格を剥奪、という情報が残るのみだ。

 

だが実際問題、これはどうとでも取れるように思う。

お師さんの音撃の腕ならば斬鬼さんを貫いてノツゴを退治する事は難しくないようにも思う。

だが、鬼の体一つを経由した音撃がどれくらい減衰するか、というデータが殆ど存在しないのでなんとも言えない。

鬼祓いなんていう風習もあるが、鬼は実際音撃を使わなくとも殺す事ができる。

斬鬼が死んでも良い、くらいのつもりで演奏したが、鬼の体が清めの音を減衰してしまいノツゴを祓い損ねただけ、という可能性は本当に十分に残っているのだ。

 

非接触型の音撃というのはこの時代においては稀有な技術で、純粋な非接触型の音撃は現代版アームドセイバーの完成を待たなければならない。

遠隔武器である音撃管ですら魔化魍に音撃を叩き込む前段階としてファイヤーバルキリーのスピーカーポッドよろしく弾丸状の鬼石を相手に打ち込んでおく必要がある。

俺もお師さんの弟子であり、その技術をお師さんが死ぬ前に全て記録しておきたいので似たような真似ができるが、遠隔音撃を鬼に叩き込んだデータは持ち合わせていない。

 

これがなかなかの盲点で、音撃打で殴り殺したり音撃斬で斬り殺したりという事が通常生物に可能でも、音撃そのものがどれほどの作用を齎すか、というのは割と未知数だったりする。

既存の人類敵対種族に対して殺傷性がある程度なら問題ないのだが、これが臨獣殿拳士とかニャンニャンアーミー……というか、アンデッドを元にした奇形生物群に対しても害があったりするととてもまずい。

少なくとも、アニマルソルジャー系列は接触型の音撃の余波を浴びる程度なら問題ないというデータはあるが、直接叩き込まれた場合のデータをとっておかなければならないだろう。

 

というかそもそも、ノツゴに食われる寸前、という段階まで行ってしまったらああするしか無い。

ノツゴを倒すには人間を捕食するタイミングで露出する口を狙うしか無く、それ以外の場所は基本的に恐ろしく頑強で音撃もその他物理攻撃も殆ど通用しない、という。

口以外の場所に攻撃しても怯むかすら怪しい、というか、実際後の斬鬼さんの音撃真弦による斬撃に対し、ノツゴは口に咥えた朱鬼を放す気配すら見せなかった。

となれば、斬鬼が物理殺傷力を備えた音撃に耐えきる可能性に賭けて斬鬼ごと口腔内に音撃を叩き込むしかない。

 

ノツゴは十年に一度しか現れない珍しい魔化魍ではあるが、逆に言えば十年に一度くらいは現れる程度の魔化魍でしかなく、その生態は猛士にも記録されている。

猛士のデータベースによれば、ノツゴの捕食行動は幾らかの段階を踏む。

糸を吹き出し、それで獲物を捉え、口元に引きずり寄せ、食らう。

生身の人間ならばそのままノツゴはこれをバリバリと食らってしまう訳だが、人間以上の剛力とそれを支える強度を備えた鬼となると、口元に持っていった後、噛み砕くまで結構なタイムラグがある。

どれくらいのタイムラグが有るかと言えば、弟子或いは師に呼びかけ、その上で余裕をもって音撃一曲分を演奏しきる事が可能な程度には時間があるのだ。

 

これに対し弦の鬼が最適とされているのは、口腔内部に音撃を叩き込むのに最適なのが音撃弦だからだろう。

太鼓の鬼は捕食前の一瞬を狙えず、管の鬼は口腔内に鬼石を打ち込めても口を閉じられたら終わり。

唯一弦の鬼だけが、口の中に音撃斬をねじ込み、ここに直接清めの音を叩き込む事ができる。

ここではない世界で未来のお師さんがやったやり方が最適なのだ。

つまり、両手と音撃弦が自由な状態で態とノツゴに捕食され、食い殺される前に口の中にゼロ距離から清めの音を叩き込む。

 

もしもノツゴが十年スパンで現れるのでない、通常の魔化魍であったなら、これは容易くテンプレート化された退治法となっただろう。

だが、猛士の歴史が何百年もあり、魔化魍のデータもそれにふさわしい量があったとしても、それを運用するのは人間でしかない。

十年というのは実はとても長い。

通常の鬼の現役期間を考えれば、これに遭遇するのは非常に稀な出来事であると言っていいだろう。

何しろ十年に一度現れる、であって、全ての鬼が十年に一度出会せる、という訳ではない。

現役の間に、同期がノツゴに出くわしたという話を聞いた、くらいが関の山だ。

 

ワンチャン、斬鬼さんは十年前の時点でノツゴを退治できる可能性があった。

ノツゴは鋏や手などが無い為に捕食時には必ず糸を使って獲物を捕える。

これに対する鬼の正しい対処法はこうだ。

演奏に使う両腕と音撃斬をフリーにしておく為にバンザイする様に大きく上に掲げ、吐き出された糸を胴体で受け、捕食されるタイミングで清めの音を叩き込む。

音撃斬を突き刺せない姿勢であったとしても、鬼闘術で電撃などを口内に流し込む事はできるので次に繋げる事が可能だ。

 

斬鬼さんやお師さんの知識不足、と、そう責めるのは酷だろう。

普通に仕事をしていたとして、通常業務ではない、十年に一度あるかどうかという案件の対処法を覚えている人間などそう居ない。

まして魔化魍の種類はかなり膨大で、専門でない相手への対処法は軽くしか触れていない、という鬼もそれなりに居る。

 

だが、言ってしまえば件の弟子殺し未遂は師弟の知識不足、リサーチ不足、計画不足ということになってしまう。

特にお師さんに関してはノツゴは両親の仇な訳だから、その生態に関しては熟知しておき、退治法を予め想定しておくべきだったし、弟子側も師匠の家族の仇の魔化魍の話くらいは聞いておくべきだった。

 

という話を、全て話すと長くなるので掻い摘んでお師さんに説明してみると、ただでさえ不機嫌そうなお師さんの表情は見る見る内に鬼というか般若顔(世界一かわいい方ではない)に変わり、次第に苦虫を噛み潰した様な顔になってしまった。

 

「私が冷静で良かったな。私でなければお前は今頃お茶を引っ掛けられるか酒瓶で殴られているところだぞ?」

 

「お茶なら染みになりませんし、酒瓶よりも頑丈だから大丈夫ですよ」

 

「食い物を粗末にするつもりは無い」

 

流石戦前生まれ。

 

「で、時期を考えたらそろそろノツゴが出てくるじゃあ無いですか」

 

「近場に出てくるとも限らんだろう」

 

「でも現れたら行きますよね?」

 

「お前は結論を急ぎすぎる。それで?」

 

「で、さっき言った退治法だと、お師さんの音撃は相性が悪いなぁと思う訳ですよ」

 

「お前をノツゴに食わせてもいいんだぞ」

 

「いや俺がノツゴ退治していいならいいですけど……できればお師さんは自分で倒したいんじゃないかなと思って」

 

電源もつけられていないテレビ画面から勢いよく一本の音撃武器が飛び出して来る。

俺とお師さんの間を通って飛んでいこうとしたそれを引っ掴み、テーブルの上に置く。

わりかしクラシックな、烈雷やら烈斬やらに近いフォルムの音撃斬。

躊躇うことなくこれを手に取るお師さん。

しげしげと全体を確認し、少しだけ掻き鳴らす。

音撃震も無くこれ単体で動作するため、鬼太樂と同じ様に扱えるだろう。

 

「お前の作ったものにしてはまともだな」

 

「お師さんに使わせるものですし、現代音撃武器は清めの音の発生源として見たら完成されてますからね」

 

「どんなゲテモノを用意してきたかと思ったが、まだ普通の感性を持っているようで安心したよ。三味線か……」

 

少し機嫌良さそうに音撃武器を弄るお師さん。

歳食ってるだけあって、いろいろなものに人に知られる事もない思い入れとかがあったりするのかもしれない。

 

「ところで、前にお師さんに改造猫のニー君を見せたじゃないですか」

 

ぴたりと手が止まる。

 

「あやつも本格的な呪術を覚えたい、という事なので、次の修行の時に連れて来たいと思ってるんですけど……あれ、どうかしました?」

 

深く長く、明らかにこちらに聞かせるつもりの溜息。

次いで、軽く頭を振り、どこか優しい目つきでこちらを見ながら口を開いた。

お師さんのこんな顔初めて見たかもしれない。

でも表情はお師さんの知識に含まれないからそんな覚えていないのでこういう顔をする場面もあったかもしれない。自信ない。

 

「いや……そうだな、改めて礼を言わせてくれ。斬鬼は本当に素直で良い弟子だったからな。助かって良かった。お前もやつの事を見習うが良い」

 

「え、まぁ、斬鬼さんは良い戦士だから見習いますけども」

 

「あとは、戦士でない人間との付き合いも多くしろ。人間、生きていれば戦っていない時間の方が長い。それとな……」

 

その後、自発的にお暇するまでの間に、延々と鬼や呪術に関わらない人生の先輩としてのアドバイスをされ続けることになった。

ややドライなところのあるお師さんとしては珍しい事だが、斬鬼さんの現状報告とかノツゴに関わる話をしたから少し感情的な部分が呼び戻されたのかもしれない。

歳を取ると、普段使わない精神的機能は劣化していくと言うし、今後も時々斬鬼さんの話とかしてあげるべきなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 




書いていて良く起こること
今後の方針は決まったり知らぬ間に変わっていたり書いている側も予期していない結末にたどり着いたりする
書けずにいた時期に決まっていた方針が頭から消滅していたりもする

☆なんでか名前を聞きそびれてしまった戸田山くん
原作改変系によくあるジレンマ、師匠や兄貴キャラの死を乗り越えて成長するキャラが死亡展開回避で成長フラグを失うやつの犠牲者候補
候補なんだけど、本来誰かの死を乗り越えなければ成長できないってのは成長としていびつなので師匠の元で健やかに育ってほしい
通りすがりのニセ天才医師である謎の鬼に関しては気が動転していて名前を聞きそびれ、後で失礼だったかなとあわあわしたりする萌キャラ
なお当時には斬鬼さんとのカップリングが一部で囁かれていたが、師弟愛を恋愛感情とごっちゃにするのはよろしくない
そもそも人間関係が深まった先で行き着くのが必ずしも恋愛感情であるという考え自体が人間の持つ理性に対する敗北なのではないだろうか
ものすごく深い友情とか深い親愛が恋愛感情よりも劣ったものである、というのは如何にも動物的であるように思う
それはそれとしてSS書いてると時にエッチな話とか書きたくなるものなんだけど
理性はあっても人間も動物だから仕方がない部分はある

☆グーグル画像検索で斬鬼と検索するとかっこいい変身態が出てくるけど斬鬼さんと検索すると速攻で尻が映されるお師さんの素直で良い子だった方の弟子
危うくウルヴァリンみたいにされるところだった
そうなったらキバ編でガルルとコラボかな……
半改造人間だけど日常生活にそれほど影響が出るほどではない
何の説明も無く日常生活に戻ると、少しの切り傷が速攻で治ってしまうのを目撃してARMSの冒頭みたいになるところだけど、意識を取り戻した後にかかりつけのお医者様に自分に施された処置を全部聞かされるのでそういう事もあるか……助かって良かった、後で礼を言いにいかんとな、くらいの感覚で済む
なんやかんやいって返魂の術とかお師匠さんに教わってるしお師さんがそもそも実年齢詐欺してるので不思議体質になってもそれほど戸惑いが無かったりする

☆じゃあ実際当時はどうすれば良かったんですか、となってしまう朱鬼さん
弟子ごと殺そうとした事を咎められてクビになった、というのは事実だけど
不可抗力ではあるけどそれを許してしまうと鬼の間でそういう空気が広がってただでさえ少ない鬼の成り手が増えなかったり減ったりしてしまうので、示しをつける為に辞めさせた、というのが事実なんじゃあないかな、くらいの流れで行きます
少なくともノツゴが再出現するまでの十年間は大人しく在野で華道教室やってた辺り、斬鬼さんごと撃っちゃったことに関しては本人も結構反省してるっぽい
というか、許せ斬鬼って本編で言ってる辺り間違いなく冷血な人ではない
今作では原作で咎められている行動を取る理由が一つも無いし、召喚術で通常の斬撃型音撃武器を呼べるので死ぬ要素がほぼ無い
現在の弟子に関しては、実は冷酷とか倫理観が無いとかではなくただのバカなのではないか、という確信を深めつつある

☆レアで退治法が限られる、というだけで、強敵かと言われると首を傾げてしまうギミックボスのノツゴくん
十年に一度しか現れない、という統計が取れる結成からウン百年あるいは千年越えもあり得る長寿組織猛士
たぶん既存のデータをしっかり確認すればちゃんとした退治法も取れるんだけど十年に一度くらいしか現れないから具体的な対処法を真面目に考えられなかっただけのマイナー魔化魍
ソシャゲとかで最初期のイベントでボスとして出て強敵、みたいなイメージあるけどイベントの復刻が殆ど無くて真面目に攻略法が考えられていなくてみんな当時のイメージだけで語ってる、みたいな……
鬼が食われそうになってから実際食われるまで、の実測がされていない為、という説もある
一番最近の記録が弟子殺し未遂事件でイメージ上書きされてしまった上に証言できる朱鬼さんは放逐しちゃうし斬鬼さんは食われるかもからのお師匠さんどうして……で冷静な記録を残せなかった、って考えると戦闘場面を記録する係とかはやっぱり必要だよなってなる

☆三味線型密造音撃武器
一応、鬼をクビになった人間に音撃武器を渡しているので猛士的には不味いんだけど
バレなければ犯罪ではないからセーフ
そもそもただの棒である音撃棒以外の音撃武器って警察が所持を確認したら任意でしょっぴける程度には危険物なんだけど、そこはほぼ国家組織と言って良い猛士だから許されてる感はある
勿論ニー君の革は使われていない

☆これから呪術とか音撃を主人公経由でなく本格的に学ぶニーくん
光る!唸る!完全変形デラックス音撃弦ニーくん!
みたいな未来がある
猫力ファイナルフォームライドが可能かは今後の展開による
天神部分が猫の顔、棹は伸びた首、胴は変形した胴体で短くなった手足が四方に生えてる異形の音撃武器になるのかもしれない
想像すると結構グロいけど、海外とかだと死んだ愛猫をドローンに改造する人とかも居るし、こっちは生きてるし本猫の意思でやるぶん有情かな

☆メガトン級ムサシ
メーガートーンなOPが癖になるメカがムチムチなロボットアニメ
デザインがダサいとか言うけどぶっちゃけダサいのなんのってのは個人の主観でしか無いですよね?
ダサいとか言ってる奴はロボットのカッコよさが一つの形に収束するとか思ってるのだろうか
個人的にはもっと各部にしつこくリベットとか打ってくれても良い
もっとシルバー巻くとかさ!
日常的にゴールド巻いてた王様的には派手すぎない渋めのアクセをおすすめしていた、みたいな話だよねあれ
そしてロボのスケール表現では今季一番美味しい作品(主観)デカけりゃ偉い
でもでかくないメガトン級じゃないロボも可愛かったりする
丸いロボかわいいよね……もっと画面に写って活躍した上で破壊されてほしい
ゲームまだ買ってないけどアニメはかなり面白いと思う
絵柄はいつものレベル5だけど毎回ちゃんとしっかりした戦闘シーンを描いてくれるロボアニメはそれだけでひたすら偉い
聞いてるかまともにロボが出ない出てもほぼ背景みたいな連中!
味付けはみんな食べ慣れてるメガゾーン23とかファフナーとかゼーガペインとかそういうやつ
みんな偽りの日常から抜け出したいもんね
マブラブほど人類内ゲバとか無いから見やすいと思う
レベル5作品は後々減速するけどスタートダッシュは良い作品が多いから騙されたと思って見てほしい、ユーチューブで全話公式で見れるから
でもコメントと一緒に見たいって人はニコニコのdアニで見るとなおよし
自分も一期アニメが最終回を迎えたらソフト買います
ネタバレされたくないしね……
あの丸っこいロボも使えたりしないのだろうか
同系統の作品であるガンダムブレイカーのナンバリングタイトルだと頭部と胴体一体型の水泳部パーツとかあって結構ああいうフォルム作れたけども


そういうわけでぼちぼち話に絡んで行きます
そうすると原作とかはいつもどおりどうにかなってしまうわけですが、それでもよろしければ次回も気長にお待ち下さい
衝動的にエッチだけど18禁じゃない話とか書きたくなったらそういうのも入れるかもしれないけどSSってそういうものだからそれも許してもらえると嬉しいです

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