オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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147 砕く殻

はっきり言って、俺に正式な医療の心得はない。

無い訳ではないが、それを行使するにあたって人に信頼して貰える様な後ろ盾は無い。

実際、人間の肉体を切り刻んで繋ぎ合わせる様な行為に関して、俺はそれほど経験が無い。

人間に対する施術で最も多いのは、人間であると認められずに医療廃棄物になってしまったような者たちばかりで、それにしたって魔石と魂を採取する為に一度形を整えてから切開する程度のもの。

人間への施術で近いものと言えば試しに猿を改造したのと、FAGの肉体程度か。

猿に関してはこれまた回数が少なく、FAGに至っては部分部分で機械部品が混じって部分部分でマラークやミラーモンスターに近い霊的な器としての要素が多くなるので、そのまま人体に近いものであるかと言えば首をひねる。

 

真っ当に人間の肉体をモーフィングパワー無しで治療した経験は、臨獣殿に住まう弟子達を利用した改造手術が一番近いだろうか。

これも言ってしまえば実験の一環というか、トライアルシリーズ技術による人体改造の経験蓄積に近い。

最悪モーフィングパワーでゴリ押しで直せるからこそ、という部分がある。

なので、例えば既に病院に運び込まれてしまった人間を俺が治療する、という場合、多くの困難が付き纏う。

難波さんを直した時とは状況が違うし、求める結果も違う。

 

可能であれば、どさくさに紛れて内部構造を元の人体よりも強化した形にしたいという気持ちもある。

が、特定組織に所属している人間を無断で改造するのはリスキーに過ぎる。

かかりつけ医は人間や鬼に変ずる人間の肉体を診察する技能しか持っていないだろうと考えれば、平時の治療が難しくなるという問題もある。

だので、やっても古傷の類を完治させて、関節の軟骨の摩耗なども無くして新品同然にする、というのが努力目標だろうか。

戦士に限らず、人間の肉体というのは不可逆の完全消耗品でしかない部分が多くある。

これに手を加えるだけでも戦士の引退を十年は引き伸ばせると見て良い。

 

「この辺かな?」

 

房総のバケガニというが、房総と言っても範囲が広い。

出現地域は海辺、海岸線に絞れると言っても限度がある。

乗ってきたゾアテックモードのロードインパルスの頭を叩いて止め、キルリアン振動機付きのカンテラを軽く振る。

切れかけの電球、程度のチラチラとした反応。

アギトですらない常人の魂でももう少し反応自体はするところだ。

 

霊的素養の少ない人間でも、死ねば暫くはその辺に彷徨っている。

再利用ができない、というだけで、霊的物質に関わる技術を学んで再設計したキルリアン振動機は死者の探索においては結構精度の高いソナーとして機能するのだが……。

例えば、ミラーモンスターなどはこのキルリアン振動機が反応する部分を捕食する為、食べ方が下手な個体に当たらない限りは発見する事ができない。

しかもミラモンが捕食する場合は大体がミラーワールドに取り込んでから殺すので、残滓が残りにくい。

鬼がミラーモンスター達に関われなかったのはこれもあるのだろう。

 

逆に、苦しんでその場で死んだ場合、霊的素養が少ない個体でもその場に残滓を残す事がある。

恐ろしい激痛などを与えられながら死ぬ事で発生した強い死の恐怖が空間に存在するエネルギーに焼き付くのだ。

死亡事故が起きた場所などで感じる嫌な感じ、というのがこれに当たるし、被害者が霊的素養の強いものであればそれは怪奇現象としてそれなりの時間残留する。

養殖したオルフェノクによる実験ではそのようになっているし、古い術に関して見識の深いお師さんに確認しても間違いではないと言われている。

 

あるいは周期的に魔化魍が大量発生する時期というのはこういうものの積み重ねではないか、という説もある。

大量発生した魔化魍によって被害者が増えて、その被害者の恐怖の残滓が魔化魍の発生を加速させる、というサイクルが生まれているのではないか、という極めて単純な話だ。

近年では、大量発生する時期と死者の多い時期が噛み合わない、という観測結果によって否定されつつある説だったのだが……。

逆に、死亡事故の起きた場所で現代妖怪ならぬ都市伝説系魔化魍の発生が増えている、という証言もあり、議論は収まる気配も無いのだという。

 

霊障が起きる気配すらない、観測機によってかろうじて捉えられる程度の反応。

これはつまり、極めて近い時間、少なくとも2日から3日以内にこの近辺で人間が苦しみながら死んだ、という証拠になる。

死ぬ時はみんな苦しいものだから、自殺者とか普通の溺死者という可能性も無いではないが。

魔化魍の目撃証言が出ている区域で苦しみながら死んだというのなら、被害者の可能性は高い。

そしてこの近辺で被害者が出た、という事は、少なくともこの辺りは魔化魍の餌場の一部なのだろう。

 

コックピットフレームを掴みその場に降りて、足場の岩を掴み、小さく割る。

指先で円を描くようにして石に呪いを吹き込み、海の中に投げ込んでいく。

お師さん直伝の即席式神だ。

花を炎の蝶にするのがお師さんのよくやるやつだが、これは隠密性を売りにしている。

見た目も普通のフナムシにしか見えないし、ディスクアニマルの独特の稼働音に反応し岩の隙間に隠れる程度のこともできる。

そして、鬼の戦闘現場を確認したら機能停止し、座標だけを俺に知らせるシンプル設計。

現代式神であるディスクアニマルに無い、使い捨て前提に細やかなアドリブを効かせられる古き良き技術だ。

 

「釣れるかな」

 

釣れたらいいな、くらいの気持ちでやるのが、長く釣りを続ける秘訣だろう。

 

―――――――――――――――――――

 

戦いに絶対は無い。

それは如何に熟練の戦士だとしても変わりはなく、鍛え上げて力と技を磨き上げたとしても安定性を上げるところまでが限界で、絶対に勝つ、というところまでは行けない。

それは、一度戦士として……鬼として戦い始めれば十年二十年とその戦歴を重ね、その間の日々を鍛錬に費やしていく事になる猛士の鬼であっても変わりはない。

 

鬼は鍛え上げた上で変異させた超常の肉体を持つ、人類が特別な素養無く変身できる中では特に優れた戦闘力を備える戦士の一種だ。

鋭い爪に剛力、炎や風や稲妻を操る(まじな)いの力、鍛え上げ続ける事で更なる力を得て姿かたちを変える事すらできる発展性。

だが、それらを支える彼等の肉体は基本的に鍛え上げた人間のものでしかない。

古い時代においてはその肉体を神秘的な術でより戦いに向いた状態で固定する戦士も存在したが、今ではそれらの術は半ば失伝していると言って良い。

 

人類と敵対する、或いは人類を捕食対象とみなす存在を相手にした戦いは肉体に著しい負担を強いるものだ。

年若い頃から鬼として戦い続け、十年、二十年と戦い続け、十分と言って良い経験と技術が手に入った頃には既に肉体の全盛期は過ぎている。

十分に動く肉体と、どんな状況にも対応できる知識と判断力。

これらが共に揃っている期間は鬼として活動する期間の中で如何ほどを占めるだろう。

そういう意味で見れば、鬼という戦士の最盛期というのは極めて短いのかもしれない。

無論、加齢による肉体の衰えはある程度までならば長年の経験と勘で補う事ができるだろうが……。

長年、鬼として、戦士として戦い続けてきた経験で補いきれない要素が存在する。

弟子との連携だ。

 

大体の鬼は、見習いから始めて正式な鬼の弟子として修行を受ける。

故に、多くの鬼は師に導かれ鬼としての戦い方を学んだ経験を持つ事になるわけだが、これがそのまま師として弟子を導く時に指標として役立つかと言われれば否だ。

自分より上手な相手にフォローされた経験を、自分より下手な人をフォローする為に運用しようと思えば、それなりに慣れが必要になってくる。

まして、シチュエーションとして近いというだけで、自分自身は師と同じではなく、弟子もまた自分自身ではない。

このズレは弟子を育て始めて直ぐに気付くことになり、育てる中で鬼は師としての自分を成長させていく事にもなるのだが……。

 

弟子が鬼としての技能の大半を身につけ、巣立ちを目前に控えた時にこそ、そのズレは致命的なものとなる。

師は弟子と自分の適性の違いをある程度は理解しつつ、過去の自分を物差しとしてつい使ってしまう。

弟子は弟子で適性の違いをある程度は理解しつつ、しかし、かつての師と同じようにできない事を自らの未熟であると無茶をする。

そして、事故は何時何処ででも起きる。

 

房総の海辺に現れたバケガニは既に多くの被害者を出しているのか、童子と姫の手を借りずとも自力での餌の摂取……人間の捕食が可能なほどに成長していた。

基本的に魔化魍はある程度被害を出して成長を重ね、餌の量が増えた頃に現地での失踪者の多さや、餌である人間の確保回数が多くなる為に増える目撃証言などを元に鬼が派遣される。

当然、鬼が魔化魍を発見する頃には魔化魍は十分に人里に被害を出せる規模にまで成長してしまう訳だが、その成長具合はまちまちだ。

その体躯の大きさ、或いは見た目から想起される類似生物は持たない特徴を備えているかは運次第と言って良い。

 

だが、その魔化魍を育てる童子と姫、或いはその変身態か本性と思われる怪童子と妖姫は基本的に成長する事も無く、その強弱が大きく変わることはない。

持つ能力は育てている魔化魍のそれをスケールダウンさせたものでしかなく、一端の鬼であれば正面戦闘で苦戦する事は殆ど無く、最悪、まだ独り立ちはできていないが変身はできるという弟子であっても慎重に立ち回れば倒すことは決して難しくない。

バケガニの怪童子と妖姫の備える能力はシンプルなもので、大鋏に変化した片腕に、全身から滲み出る溶解泡。

 

今、真昼の岩石海岸にて怪童子と妖姫を相手取るのは鬼の師弟。

師である斬鬼は戦歴の長い優れた弦の使い手で、その弟子にあたる戸田山も修行を始めて二年ほどではあるが、元が警察官という事もあり、既にその実力は免許皆伝目前と言って良い。

それはディスクアニマルによる探索の最中に起きた遭遇戦であった。

 

「鬼だ」

 

「鬼だね」

 

確認するように互い違いに発せられる女の声と男の声。

挑発するように人間態の手でチョキを作り、口元で何かを切断する動きを見せてきた童子と姫。

 

「今更やってきたか、遅いな」

 

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

 

それは、既に十分すぎる程に人間を餌にした、という言外の宣言であり、或いは手を叩き歌うような単純な挑発。

それは育てている最中のバケガニから鬼の気を逸らす為に、態と自分達の存在を知らせるものでしかない。

無論、ベテランの鬼である斬鬼も童子と姫のそういう習性を理解してはいる。

しかし、別の場所にバケガニが居るとしても、童子と姫を放置して良いという事にはならない。

どちらも放っておけば際限なく人間を害するのだから、発見次第速やかに始末しなければならないのだ。

 

どちらの間合いでもない、陽光を受けて煌めく海面をバックに斬鬼が変身鬼弦・音枷を、戸田山がやや遅れて変身鬼弦・音錠を額に近づけ、弦を弾く。

晴天にも関わらず二人の人間の頭上から稲妻が降り注ぎ、その肉体が人ならざるものへと変貌する。

猛士所属の弦の鬼、斬鬼。

その弟子、戸田山変身態。

 

その変貌を見て、童子と姫がにたりと笑みを浮かべながら、その人型を溶かすようにして巖の如き、いや、カニの甲殻を人型につなぎ合わせたような怪人へ。

怪童子と妖姫。

 

攻撃手段が近距離でのものしかないのは互いに変わらない。

しかし、どちらが有利かと言えば当然鬼が有利である。

これが太鼓の鬼であれば音撃棒を切り裂かれるかもしれず、管の鬼であれば音撃射がその外殻を貫けないという事もあるかもしれない。

しかし、間合いが広く作りも頑丈な音撃弦となれば、余程の事がなければハサミで破壊される事も無く、剣程の間合いもある為に身体から滲み出る溶解泡が何かしらの影響を与えることも無い。

 

斬鬼が傍らに突き刺していた音撃弦・烈雷を引き抜き、戸田山が無手のままに走り出す。

ネック部分を順手に構えた烈雷を振るう斬鬼に、怪童子が片手の大鋏で迎撃を仕掛ける。

が、近辺を探索していたディスクアニマルが怪童子目掛けて飛びかかり、思わず怪童子はそれを振り払った。

鈍い金属音。

砂利の中に勢いよくスコップでも突き刺せば似た音が出るだろうか。

烈雷を振り下ろした斬鬼、ディスクアニマルを振り払いながらも運良くアッパー気味の大鋏でそれを受けた怪童子、共に健在。

しかし、受け止めた筈の大鋏は片刃が中程から断ち切られ、断面から白い体液を飛沫させていた。

魔化魍の発生に合わせて何処からともなく現れる怪童子と、長年受け継がれ、その時代その時代の技術でアップデートされてきた烈雷ではその強度を比べる事もおこがましい。

或いは、ディスクアニマルを振り払っていなければ万に一つは烈雷を大鋏で白刃取りする事もできたかもしれないが……。

 

二度の交差は無い。

袈裟からの逆袈裟。

振り下ろされた軌道をなぞるような切り上げが怪童子の胴を斜めに両断する。

断末魔の悲鳴を上げるよりも早く怪童子の肉体が爆散。

溶解泡としての特性を失った泡が地面を溶かす事すら無く、降り注ぐままに消えていく。

鎧袖一触。

 

対し、ワンテンポ遅れて妖姫と接敵する戸田山。

未だ独り立ちを許されていない戸田山には音撃武器が与えられていないが、童子と姫は物理的に破壊する事が可能である為に特に問題は無い。

バケガニの妖姫である為に纏った甲殻により僅かに並の妖姫よりも頑強ではあるが、それは鬼の爪や弦の鬼の雷を纏う鬼闘術を防げる様な代物ではない。

そして当然、ディスクアニマルでの探索を始めた直後であるために戸田山にもディスクアニマルの援護があった。

 

妖姫に纏わり付くディスクアニマル。

それ自体が深刻なダメージを与えるものではないが、童子と姫にも痛みという感覚はあるのだろう。

大鋏で振り払うというより、蹌踉めくようにして背後に下がっていく妖姫。

戸田山が更に踏み込む。

交差させた腕、拳が稲妻を纏う。

鬼爪すら出さないのは鍛え上げた肉体から繰り出される一撃に自信があるからだろう。

それでも鬼闘術を使うのは、目の前の妖姫を確実に仕留める、という意識からか。

 

「戸田山ぁ!」

 

斬鬼の焦燥を隠さない叫びに集中が途切れる。

妖姫から意識が僅かに逸れ、視界の端、岩場の形が大きく変わっているのがわかった。

いや、意識をしっかり向ければ即座に理解できただろう。

岩に見えたそれはバケガニの甲羅だ。

背を向けたバケガニの甲羅がむき出しの岩礁に見えていたのだ。

 

妖姫が自らを囮にしてこの位置に誘い込んだのか。

自らの育ての親、或いは餌を運んでくる便利な何かを守る為にバケガニが自発的に動いたのか。

海からわずかに頭を出したバケガニの背。

その背には肥大化したフジツボの様な凹凸が無数にあり、妖姫を追いかけながら意識だけが高速化した戸田山の視界の中、勢いよく溶解泡を吹き出した。

 

避けることはできない。

目の前の妖姫を倒す事にのみ意識を向けてしまっていた戸田山の体はその場を転身する事ができない程に勢いづいている。

意識も硬直していた。

瞬発的に危機から逃れる為の動きを取れる程に場馴れしていなかったからか。

肉体面、知識面で巣立ち直前にまで成長していても、勝負勘とでもいうべきものは時間を掛けて積み上げるしかない。

そして、積み上げる前に全てを崩される、という事は、そう珍しいことでもない。

 

どん、と、強い衝撃。

戸田山の体が勢いよく跳ね飛ばされて背後に転倒。

間一髪、溶解泡の難を逃れる。

遅れて、溶解泡の着弾した箇所が肉の焼けるような音と共にグズグズと溶け始める。

次いでくぐもった苦痛を堪える声。

斬鬼の声だ。

 

とっさに戸田山を庇った斬鬼は、バケガニの吹き出す溶解泡をモロに浴びてしまっていた。

捩るようにして頭や背、腹を庇い、腕と足で集中的に受ける事ができたのは不幸中の幸いだろう。

当たりどころが悪ければ即死、或いは背骨でも溶かされてしまえばどうなっていたか。

という、心配をする事ができるのはまだ先のこと。

ディスクアニマルを大鋏で振り払い破壊した妖姫とバケガニが無傷で健在だ。

 

「ぐぅ……っ!」

 

残った辛うじて無事な片腕に、半ば溶けた烈雷を持ち替え、投擲。

その刃の部分がバケガニの頭部尖端から伸びた小さな眼を掠めて小さなキズを付ける。

ハズレ、ではない。

背中の甲殻に直接投げつけてもバケガニにはさして痛痒を与えられないので、露出した眼や触覚を狙うのがバケガニを牽制する時のセオリーなのだ。

斬鬼と戸田山の様子を伺いながら、妖姫がバケガニを伴いその場を離れていく。

不意を打つ事で鬼の片割れを戦闘不能にできたが、もう片割れが健在となれば分が悪いと見たか。

魔化魍や童子と姫の目的は鬼を殺すことではない。

自分達を追ってこれない、自分達も追撃する余裕が無いとなれば引く程度の知恵はあった。

 

一分、いやその半分にも満たない時間の戦いが終わり、岩石海岸には庇われて無傷の戸田山と、その体を半ば溶かした斬鬼だけが残された。

はっ、と、戸田山が我に返る。

 

「斬鬼さん!」

 

大丈夫ですか、などと声をかける事もできない。

今の斬鬼は並大抵の人間であれば即死していてもおかしくない程に肉体を欠損している。

鬼だから、鬼に変じているからこそ命を繋げているようなものだ。

だが、鬼の持つ強靭な生命力でも自然治癒が望めるような状態ではない。

猛士の一員として、そして元警官として一通りの応急処置を修めている戸田山だが、その程度の技術でどうにかできるようなものではない事は明白だった。

今は辛うじて斬鬼が意識を保てている為に変身を維持できているが、この状態で変身が解かれてしまったなら、本格的な治療を施す前に即死してしまうだろう。

急ぎ、事情を知る病院に連絡をしなければならない。

 

「おやおや」

 

ばきん、という、硬い殻を砕くような音と、何処か緊張感の無い声。

音の発生源に視線を向けた戸田山は、それを見た。

巨大な四足の獣。

一目で魔化魍ではないと理解できたのは、それが非常に非生物的な……有り体に言って機械であるように見えたからだろう。

狼とも虎ともつかないモチーフ不明の四足の機械。

バケガニにも匹敵するだろう大きさのそれが、今まさに撤退していったバケガニの鋏を前足を使って抑え込み、眼と触覚の生えた頭部に喰らいついている。

そして、ジョイントを無数に連結させた様な尻尾の先には、妖姫が百舌鳥の早贄の如く刺し貫かれていた。

 

「そこの鬼の方、かなりの重症のご様子」

 

声の主はその四足の機械の背に跨っていた。

白いローブに身を包んだ、鬼。

猛士の鬼では中々見ない、顔面がそのままシンプルに記号化された鬼面と化した珍しい様相をしているが、間違いないだろう。

 

「あなた、医学の心得は?」

 

「い、いや、無いっす」

 

白いローブの鬼が戸田山の涙声の返答にうなずきながら機械の獣から降り、倒れ伏す斬鬼の傍らに膝を突き、一頻りその体を検分する。

 

「今から近隣の病院から救急車を呼んでも間に合わないかもしれません」

 

「そんな!」

 

「ですが、ご安心を。この手の負傷者の扱いには幸いにして慣れております」

 

「ホントっすか!」

 

「ええ」

 

白いローブの鬼は片手に下げていた小さな鞄を開く。

メスを始めとした医療用具……だけではなく、知識のない戸田山には如何なる用途で用いられるかわからない、ギザギザしてトゲトゲした無数の奇怪な器具、冷静な時に見れば開封を躊躇うだろう眼にも鮮やかな蛍光色の薬品に、複雑な文字がびっしりと記された真新しい御札、厳重に密閉された容器に修められているのは如何なる生物から採取したか怪しい蠢く肉瘤、鮮やかな輝きを放つ無数の金属製の骨。

幸いなのはそのどれもが倒れ伏す斬鬼からは見ることができず、不幸なのはそれを見る事のできた戸田山の気が動転していたことだろう。

タイミングよく現れた、しかも重傷者を治療できる技術を持ち専用らしい器具を持ち歩いて、魔化魍を一方的に抑え込んでおけるだけの力を持つ獣のロボットを伴っている、シフトを考えればこの場に居るはずの無い、鬼。

動転している戸田山は勿論、意識を保つのに精一杯の斬鬼もまた、その不自然さに気付くことができない。

少なくとも、今は。

 

「緊急事態ですからね、早速、オペ(改造)を始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 





十割善意、十割打算、いつもの二倍の言葉の綾、そしていつもの0.3倍の倫理観
普段の主人公を上回る1.2倍の何か

★間に合わないかもしれない
断言はしていない
間に合うだろうけどもしかしたら間に合わんかも
だから手術するね
へっへっへ心配することは無い……

★慣れております
欠損を強化した肉体に置き換えるのは本当に得意
なお経験値蓄積中なので完全な技術ではない
猫相手ならめっちゃ慣れてるから斬鬼さんが猫じゃないのが悪い

☆間に合ったか間に合わなかったかシュレディンガーの斬鬼さん
原作では重症ですって言葉しかなかったけど、鬼状態でうけて数週間から数ヶ月後を引く怪我ってなんやろね
六話だか五話で響鬼さんが受けてた溶解液の傷も普通なら重症なんじゃが
だからまぁ腕とか足とか骨むき出しになるレベルで溶ければ後を引くじゃろ
こういう師匠の重症とか見て尻込みして辞めていく弟子とかも居たと思うんですよ

☆別段ミスをしたって訳ではなく多分多くの弟子はこうして師匠に庇われたりした経験を積み重ねて鬼になってるんだけど、最近は猛士も新装備とかあってそういう事例が減ってたんで耐性が無いなってた戸田山くん
二年前に警官だったからたぶんクウガからアギト警察くらいの位置に居た
いい人だからたぶんクウガ警察じゃろ
まぁアギト警察とかもちょい上層部が無能なだけで現場レベルでは頑張ってたと思う
北条さんとかジャガーロードに首絞められたまま夕方から夜までの数時間木のうろの前で粘ってたからスタミナとか耐久性は鬼みたいに高い疑いが出てきた
肉体極振りした分は性格とかでマイナス特徴取ってたんだろうなって思えば本編での振る舞いはかなり善良ですらある
ああいう頑張りを拾ってあげたかったけど、アギト編書いてた頃はクウガ編からのホットスタートで色々やること山積みだったような気がするから仕方ないね
ニコニコ動画にて週イチでアギト配信中!
みんなで見よう!

そういう訳でようやくがっつり本編に絡み始めた響鬼編
こっから色々やっていけると思うので、次回も気長にお待ち下さい

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