オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
宇宙開発用改造人間S-1は宇宙開発を目的として様々な機能を盛り込まれている。
だが、それでもS-1は戦士としてもアストロノーツとしても万能という訳ではない。
無数の機能を一つのボディに押し込んだが為にその作りは非常に繊細で、定期的なメンテナンスを必要とする。
何を当たり前のことを、と、普通ならば思うかもしれない。
基本的に機械というのはメンテナンスを必須とするものだ。
それは複雑な機械であればなおのこと。
だが、改造人間、というジャンルの機械として見れば極めて稀な欠陥だ。
更に言えばS-1のメンテナンスには専用のチェックマシンが必要になる。
S-1を運用しようとすれば、基本的にこのチェックマシンと抱合せで運用しなければならない。
そして、そこまでしてもS-1に出来ることは限られる。
ともすれば単独のテラフォーミングが可能ではないかと揶揄される事もある冷熱ハンドにした所で、実際の宇宙開発の現場からしてみれば緊急事態に対応するためのものでしかない。
ファイブハンドを始めとする諸装置は、基本的には宇宙での活動を補助する為のものでしかない。
設計図通りに作られたS-1は、例えるなら人間の脳を制御装置として組み込んだ多機能ツールだ。
もっとはっきり言えば、S-1が大まかに人の形をしているのだって、搭載される脳が元から操っていた人間の形に近い方が操作が容易だからであり、諸々の装備を生身のアストロノーツと共有しやすいから、とも言える。
もっともっとはっきりと端的に言えば。
S-1は戦闘用に開発された改造人間ではない。
宇宙開発用のツールを戦闘に流用しているだけに過ぎず、同程度の技術レベルで作られた戦闘用改造人間などが存在すれば単純な性能では劣る事になるだろう。
或いは技術的に劣っていても、特定分野に特化した改造人間には一歩劣る事となる。
惑星の重力圏内での飛行能力、という一点で見ても、S-1は一歩劣る。
S-1が空を飛ぼうと思ったなら、専用のガジェットであるバイクに乗るか、さもなければ重力を操作し周囲の環境を宇宙に似せた上で、宇宙空間を移動する様な感覚で飛ばなければならない。
空を飛ぶことを主眼においた改造人間と比べて踏まなければならない工程が多く、その上で飛行速度もそれほどではない。
あくまでも緊急用、と割り切らなければならないだろう。
更に言えば。
宇宙開発という用途の一点で見ても、問題が無い訳ではない。
S-1の技術が歴代の悪の組織から流出した、或いは意図的に放出された技術を取りまとめたものであるとしても、その用途は地球人類によるこの時代の宇宙開発用のものでしかない。
人知を超えた、外宇宙から齎された超技術の宇宙船……バダンの龍にしがみつきながら戦闘ができる程ではない。
海面を超えて跳ねる魚の如く、一瞬にして大気圏外まで飛び、再び大気圏内へと突入する龍。
最大出力には程遠い、目覚めたての寝返り程度の軌道を取る龍に、辛うじて振り落とされずにしがみつくS-1──仮面ライダースーパー1。
スーパー1はスペックとして大気圏の突破、突入を共に問題なく耐えきれるだけのスペックを持つが、それは想定された速度で行われた場合に限る。
科学の粋を結集して作られたシャトルが速度や角度を綿密に計算して行われるそれと、龍のそれでは比較する事すら烏滸がましい。
生身の脳がその速度に耐えきれずに圧死しなかったのは偏にスーパー1のボディに施された生体パーツ保護機能の厳重さ故だろう。
それでも、限界は訪れる。
龍に相乗りしていたカイザーグロウ、ゼクロス、それらもまた、大気圏への再突入の勢いで龍から振り落とされ、別々に青森市街へと落着。
カイザーグロウが羽ばたき、ゼクロスがジェット噴射で逃れ、スーパー1もまた重力を低減して受け身の姿勢を取る。
高高度で振り落とされ、着地のために減速した三人と違い、龍は減速する事無くトップスピードのままで青森市街へと降り立つ。
質量を持たないかの様な挙動。
しかし、一度降り立てばその威容は決して幻のそれではない。
市街の主要な道路に沿う様に身体を横たえ、鎌首をもたげて倒れ伏す人々を睥睨する。
スーパー1をバダンシンドロームにした時の様に、態々怪しげな輝きを放つ必要すらない。
ただその姿を示し、眼下の豆粒の様な人々を見下ろすだけで、無数の市民たちは次々にバダンシンドロームに罹患していく。
恐怖に崩折れるもの、龍からの逃走を試みるもの、死によって恐怖から逃れる為に喜んで龍に喰われようとするもの、或いは単純にあらゆる気力を失うもの。
精神的抗体を持たない多くの市民にはバダンシンドロームへの抵抗手段はない。
上空からそれを見るSPIRITS10分隊のヘリにも、それをどうにかする手段など存在しない。
また、彼らもバダンシンドロームに対する抗体は無い為、下手に近づいて市民を救出する事もできない。
近寄ってしまえば纏めてバダンシンドロームに罹った9分隊の二の舞になってしまう。
そしてSPIRITSの所有する武装に龍を遠隔からどうにかできるだけの火力は存在しない。
遠くからむざむざ市民がバダンシンドロームにかかる所を、そしてその中でも活発に活動する人々が集団恐慌を起こすのを見守る事しかできない。
一方、青森市街では。
龍を見上げる、ねぶたの衣装に身を包んだ子供たち。
「ほ、本当に龍が出てくるなんて……」
「こええ……龍こえぇ!」
子供は死へのイメージが希薄なために、バダンシンドロームに罹りにくい。
しかしそれにしたって限度というものがある。
彼等は子供とはいえもう十代の半ばを過ぎた頃だ。
子供と大人の境目の様な年頃で死に対して全く想像もつかないという事も無い。
まして、相手は単純に街より巨大な龍だ。
バダンシンドローム云々を抜きにした所で恐ろしいと思うのは不思議ではない。
「今更後には引けないでしょ!! ふじけん! レッドさん!」
「おう」
「いきますよーイクイク」
ぱちぱちと電源を連続で入れる音と共に、彼等の後ろにそびえ立つオブジェに光が灯る。
電飾により内側から照らされたそれは、龍。
空を征くバダンの龍に比べて余りにも小さく、しかし、人から見ればやはり同じく巨大なそれを背に、ねぶたの衣装を纏った少年が叫ぶ。
これこそは、名人五十嵐金三郎制作の東北伝承の龍。
『空飛ぶ火の車』のねぶたである。
「みんな……けっぱれじゃー!!」
たった一台のねぶたを先導する少女の叫び。
たった一丁の笛で鳴らされる祭ばやしと共に龍のねぶたが動き出す。
少年達の絞り出すようならっせらの掛け声と共に。
自らを見下ろすバダンの龍など恐れもしないと言わんばかりに。
たった十数人の掛け声、たった一人の笛の音。
静かな街に響き渡るそれは、常のねぶたと比べればいっそ寂しげですらある。
だが、静けさを塗りつぶす様に、熱が伝播するように、ぽつりぽつりと掛け声が増えていく。
バダンシンドロームにかかって朦朧としていた市民達が、龍に死を乞う代わりに、ねぶたの響きに合わせて掛け声を上げ始める。
空の龍など目に入らない、虚ろだった眼下に光を宿しながらねぶたに寄っていく。
火の車のねぶたの背から太鼓の音が鳴り響く。
ねぶたの熱気により、僅かに正気を取り戻したねぶた名人五十嵐金三郎だ。
合わせるように流れ始める涼やかな鐘の音。
手振り鉦を鳴らすのは何者か?
ビルの影、ねぶたの下部から見える無数の金属の足の持ち主のものだろう。
一人が叩いているはずの太鼓、一人が吹いている筈の笛の音までもが重なり始めているのは、この足の持ち主達がサンプリングした音声を流し始めた為だ。
鳴り響く祭り囃子。
熱狂する人々。
激しく回転しながら練り歩く龍のねぶた。
既に空の龍を恐れる人間はこの場には居ない。
バダンシンドロームが齎すトランス状態はそのまま祭りへの熱狂へと変換されている。
それを睥睨するバダンの龍の瞳が細まり、怒りを顕にする様に力強く開かれる。
街の空を覆うような龍の全身が眩く発光を始めた。
僅かな希望の灯火を吹き消すように、人々の中に生まれた祭りへの熱狂は容易くバダンシンドローム、龍への恐怖に塗り替えられてしまう。
サンプリング音声以外の太鼓の音が止まる。
ねぶたを引いていた少年達ですら、その場に力なく崩れ落ちる。
抵抗など無意味だ、と、そう証明する様に。
人の火が消えていく。
ねぶたを引く少年達が倒れ、虚しく無機質なサンプリング音声だけが流れる市街。
誰も見るものの居ない空飛ぶ火の車。
それはバッテリーの電力を使い切り、バランスを保つ少年達が居なくなったにも関わらず、倒れる事無く聳えている。
僅かに流れ続けていた電子的な笛と太鼓、打ち鳴らされる手振り鉦の音も止み、市民達は重度のバダンシンドロームから空の龍を追いかけ始める。
絶望に染め上げられた青森の街に降り立つ四人のライダー。
決戦を前に不敵に笑う悪魔元帥に、カイザーグロウ。
湧き出るドグマの怪人軍団。
ライダー達が拳を構え、怪人軍団を打ち倒す。
唸る風切り音。
砕け散る怪人たち。
バダンの龍をビルの上から見上げるゼクロス。
この場で、あの龍をどうにかできるのは自分だけだ、と、飛び立つ寸前に通信が入る。
「沖さん」
見下ろす先、市街には龍を追う市民、そして赤心少林拳を振るい怪人たちを薙ぎ払うスーパー1。
《龍と戦うだけではこの暴動を鎮めることはできない。人々の竜への恐怖を克服させるんだ》
《いや、それはもうこっちで準備が出来てるから気にすんな!》
割り込む少女の声。
スーパー1とゼクロスにはその声に聞き覚えがあった。
《君は》
問うスーパー1の視界の端、ねぶたの龍が再び光を取り戻し、ゆっくりと浮上していく。
ねぶたの下部には数体のロボタフ。
上部、太鼓とそれを演奏する奏者の居るスペースに、白いローブ姿の何者か。
《龍は任せな! 木っ端共はそっちに譲ってやるからよ!》
手に構えるのはねぶたで広く使用されるものとは異なる、先端に鬼石を嵌め込んだ音撃棒。
締太鼓には二本角の三つ巴がいつの間にか刻まれている。
二本の赤い音撃棒を手指の中でくるりと回し、二本同時に振りかぶる。
「音撃打・喧乱豪火の型ぁ!」
どん!
と、空を往くねぶたから放たれた、力強くもどこか清らかさを感じさせる音色が、青森市街に響き渡る。
清めの音が音撃鼓の爆音と共に燎原の火の如く広がり、人々の精神に巣食う恐怖を祓っていく。
死への熱狂に狂っていた市民すら立ち止まり、音の出どころであるねぶた、空飛ぶ火の車へと視線を向ける。
それはバダンの龍ですら例外ではない。
しかし、輝きと共に視線を向けられても、ローブ姿の何者かは怯みもしない。
「でけぇ獲物だ! いくぜぇ!」
デッデッデデデデ!
最早ねぶたのそれとかけ離れつつある激しい太鼓と共に、龍の輪郭が震える。
そして、震えるバダンの龍めがけ、ねぶたの龍の口から炎が吹きかけられた。
事前に、ねぶたの完成を手伝うという名目で潜り込んでいたローブ……鬼への変身を果たしたレッドイクサが組み込んでいた、ファイブハンドのコピーから放たれる超高熱火炎。
ねぶたの龍が、まるで勝ち誇るようにその首をしならせ、短い手を振りかざす。
バダンの龍が浴びせかけられた火に苦しむように叫ぶ。
バダンの龍は、実のところここまでのバダンと人類の戦いの中で、明確に人類を害した事はない。
人類の魂を燃料に稼働するというだけでその本質は宇宙船でしかなく、多くの人類の記憶に刻まれているように人間を直接的に捕食する訳でもない。
しかし、明確に目の前に現れたバダンの龍。
これを、人類の……というよりも、自分達に馴染み深いねぶたの龍が一方的に炎を吹きかけ、反撃すら許さない。
その状況は、人々の遺伝子に刻まれた龍への恐怖を、バダンへの恐怖を塗りつぶすのには十分過ぎるイメージだ。
人々の中にある、龍への恐怖、或いは恐怖を駆り立てる龍のイメージがゆらぎ、それに合わせるように、バダンの龍の姿が薄れ……崩れた。
青森の街に雨が降り注ぐ。
塩辛く、魚も混ざるそれはバダンの龍の肉体を形成していた海水だ。
海水の雨が降り注ぐ中、青森市民が目を覚ます。
バダンシンドロームから解き放たれ、皆が空を仰ぐ。
空に聳える輝ける龍。
空飛ぶ火の車。
そこから流れる凄烈な祭り囃子に、皆が威勢よくらっせらの掛け声を上げる。
青森という都市は、こうしてバダンシンドロームから解き放たれた。
しかし、未だ戦いは終わってはいない。
街に蔓延るドグマ怪人はライダーへの攻撃を止める事も無く、カイザーグロウとサタンスネークの融合体はスカイライダーとXライダー二人がかりで足止めを行うのに精一杯。
スーパー1が、空を往くカイザーグロウとサタンスネークを追う。
日はとっぷりと暮れ、月すら昇らぬ空。
夜が降りてくる。
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偽りの龍が空を照らす暗闇の中、独り駆ける。
軋むような、しかし、今生の中で体感したことの無い速度。
偽りの肉体、しかし、生身ですらありえない程の滑らかな気の循環。
舌打ちをする口は今どこに収まっている?
そんな馬鹿げた問いすら思い浮かぶ。
走り抜ける道すがら、機械人形どもを相手に苦戦する門下を見つけ──
「シッ!」
すれ違いざま、敵の首を跳ねる。
視線が合ったのは偶然か?
見知った顔の一つ。
驚愕に見開かれた目。
「貴方は」
感慨も無く振り切る。
慣らすように、歩幅を広げていく。
人ならざる肉体。
慣れぬ感覚を覚え、違和感の無さという違和感を擦り合わせていく。
見上げる空に、覚えのない奇怪なシルエット。
しかし、今ならわかる。
もうひとつ。
ビルの上を駆ける見知った姿。
忌々しい、しかし……忘れられない。
未練の一つ。
ひょう、と、銀色の風が疾走る。
流星の如く。
―――――――――――――――――――
サタンスネークとカイザーグロウの融合体の前で、スカイライダーがXライダーを天高く放り投げる。
空中戦に対応していないXライダーを抱えたままでは、スカイライダーはその性能を十全に発揮できない。
幹部クラス、いや、大首領クラスの怪人の融合体を相手に両手を塞いだまま戦うという愚を犯さない為か。
スカイライダーへ向けて、8つの蛇頭が襲いかかる。
どれも一噛みでもされればライダーとて無事では済まない猛毒を備え、その牙はライダーの強固なスーツすら容易く噛み割く鋭さと強靭さを持つ。
融合体を仕留めようと思えばこの八箇所同時攻撃を乗り越えなければならない。
それは先輩ライダー達による地獄の特訓を乗り越えたスカイライダーとて容易く為せるものではない。
セイリングジャンプは基本的には重力低減装置を利用した滑空飛行である為、空中で細やかな方向転換を行える訳ではない。
スカイライダーは牙から逃れる為に、大きく後ろに後退する。
だが、それは闇雲に逃げ回っているだけではない。
「ライドル!」
スカイライダーへ迫る蛇頭を、上空から伸びた白い紐、ライドルロープが絡め取る。
空中でのXライダーはスカイライダーの補助なしではまともに戦えない。
そういう刷り込みを行った上で、融合体の意識を逃げ回るスカイライダーに向けることまでが織り込み済み。
ライドルロープの射程である30メートルの範囲内で、融合体を抑え込む算段であった。
Xライダーが落下しながらライドルのグリップをベルトに接続。
金属ロープであるライドル越しに高圧電流が流され融合体の身体がわずかに硬直。
硬直の間に、Xライダーの肉体が自由落下によって融合体の身体を地面に向けて引き寄せる。
羽ばたく事を許されないまま姿勢を崩される融合体。
その首元めがけ、身体を大の字にして回転するスカイライダーが迫る
「スカイフライングソーサー!」
回転の力を加えたスカイキックにより、融合体の八つの蛇頭が蹴り裂かれる。
残るは半ばカイザーグロウの肉体のみ。
しかし、今やカイザーグロウはカイザーグロウにあらず。
融合したサタンスネークの肉体までもが、カイザーグロウの不死性を帯び、引きちぎられた蛇頭はまるでビデオを逆再生するように修復していく。
そして、蛇頭を引き裂かれた事で逆にライドルロープの呪縛から解き放たれ、再び自由になる融合体。
顔を上げた融合体が嘴のロケット弾を射出してスカイライダーへ反撃を試みようとしたその時、その瞳に二つの白銀が映る。
空から、天から降りてくる流星。
「スーパーライダー、梅花二段蹴り!」
そして。
夜空を切り裂く一条の鏃。
「桜花……遅咲き!」
スーパー1の二段蹴り。
その一段目が融合体の肩に留まる鴉を蹴り潰し。
しかし、その二段目が打ち込まれる事は無い。
タイミングをずらして放たれた桜花の型が、鴉の離れた足跡を、寸分違わず貫き、融合体の身体を真っ二つに切り裂いたのだ。
サタンホークの二の舞にはならない。
サタンスネークとカイザーグロウの肉体は真っ二つに切り裂かれた後、体内にねじ込まれた高圧の気の解放により、粉々に粉砕され、青森の夜空に散った。
二つの銀が……いや、二人の改造人間が空中で交差し、重力に引かれるまま、着地する。
その姿は、男女によるシルエットの差こそあれ、正に瓜二つ。
二人のスーパー1。
「まさか……義経……?」
顔貌など、変身した後にわかる訳もない。
だが、ついさっきまで、変身機能を取り戻す為に背を合わせて戦っていた一也にはわかってしまった。
それは、その気の流れは、紛れもなく義経のものだ。
「何を惚けている」
その言葉に、肯定すら返さず、もう一人のスーパー1が背を向ける。
周囲には、市街には、未だ無数のドグマ怪人が犇めいている。
それらは積極的に市民を殺そうとはしないが……放置していて良いものでもない。
「私は私の油断で死んだ」
ざり、と、地面を踏みしめ、拳を構える。
玄海流、黒沼流、共通の構えだ。
「私の仇は取った、恥は雪いだ。お前はどうだ? 敵を前に惚けるのが、お前の選んだ道か?」
多くは語らない。
街に轟くらっせらの掛け声はどこか遠く。
空のねぶたから響くのは、清らかな清めの笛の音も混ざった、仮面ライダースーパー1ねぶたリミックス。
気を使って二人から離れた位置で怪人を迎撃しているライダー達を他所に、二人のスーパー1が、一也と義経は互いの背後の怪人に致命の一撃を叩き込む。
桜花が貫き、梅花が弾く。
背中合わせですらない。
梅花に包まれる桜花でもない。
「さぁ、乱れ咲きといこう」
滅びを齎す龍ではない。
文明の力が齎す偽りの光の中。
遠く本州は北の果て青森に、桜花と梅花が並び咲いた。
―――――――――――――――――――
結果的に見て、大金星ってやつではないか、と、俺は思う。
最後の青森市街戦闘でも量産したロボタフが密やかに怪人を減らしていたし、正体を知らせていたのにホイホイ殺されに行った師範に新たな生命と新たな身体を提供したのも俺だ。
ロボットスーパー1とチェックマシンの内部データを元に生産したボディに移したのだって、機械ボディへの脳神経移植実験を兼ねているとはいえ、最新式かつ沖一也とのおそろいのボディを使わせてあげたい、という弟子心からくるものだ。
「俺たち、こんなに取り囲まれる筋合い無いですよ」
「いえ、取り囲んでいるわけではありません……それを言うならそちらも」
金髪ボディスーツのお姉さんがちらりと周囲を見渡すと、所在なさげに周囲をうろつくストロングロボタフ達が。
鋭く靭やかな体つきの黒人オネエなどは、踊りながらシャンシャンと手振り鉦を鳴らすロボタフに対して身をくねらせて『カワイイ!』と連呼している。
しっかりとした戦闘の心得のある隊員はあれらのロボタフが既に戦闘待機状態ではない事を見抜いて警戒を解いているのだ。
「あれらは自動巡回モードにしているだけです」
多くの個体が何かしらの、というか、ねぶた関連に限らない楽器の類を持ち、通行の邪魔にならない程度の動きで定期的に小躍りしてみせている。
普段はあの様にちんどん屋のマネをしながら人類文明に馴染んで貰うようにしている。
しばらくすればあのカラーリングの戦士は普段はちんどん屋をして過ごしているというイメージが青森を中心にして広まっていき、日常生活の背景に居ても不自然では無くなっていく筈だ。
「これで、少なくとも青森が再び奪還される事はありません」
「頼りになる戦士も増えたしな」
視線の先、見た目少しだけ更に若返ったヤングヤング義経師範がそっぽを向くこと無く、此方にじっと猜疑の視線を向けている。
悲しいことだ。
これではまるで、俺が赤心寺に新たな機能を追加する前後のオールド師範ではないか。
ウォッシュレットにびっくりして変な声を出してそれを兄弟子らに聞かれてしまったわけでもあるまいに、何故ここまで睨まれているのか。
「貴方は、やはり青森の防衛を?」
金髪お姉さんの問いに、ワンテンポ遅れてYYY師範が険しい顔を解いて答えた。
「ん? ああ、世界や人類を守るというのも性に合わん。この身体でどこまでやれるかもわからんからな。この土地を守らせて貰いたい」
「そうですか……」
ちらり、と、視線が此方に向けられた。
此方というか、俺の背後に居るグジルの鬼変身態に、だろう。
ああ、と、相槌を打ち、俺もまた鬼弦を弾き、小規模な稲妻と共に鬼変身態に変わる。
全く別の形態に変身する改造人間の類が珍しいのか、多くの人が目を丸くしている。
フードを取り払い、鬼の顔を晒し、親指で自らの顔を示す。
「変身システムを一種類しか持たないというのも危うい話でしょう? バックアップは複数あるべきだ」
ごくり、と誰かの唾を飲む音が響いた。
「それらの技術を、複数所持している、と」
「そういう言い方なら、仮面ライダーで整備ができる方々もそうでしょうね」
本郷猛、結城丈二辺りが仮に全ライダーの整備を可能とするなら、ある程度の設備が存在すれば複数種類の改造手術をこなせるという事になるだろう。
そう考えれば、改造手術でなく変身技術を複数、というのはむしろ人道的な技術しか持たない分モラルが高めという事になるまいか。
アクガタの弟子に施しているのは緊急性の高い時の治療と再び死に難くする為の配慮だし。
「……施術を施した設備は?」
ふむ。
ゼクロス……ムラサメの視線を追うも、此方の話は聞いているがむやみに警戒している風でもない。
あちらさんで何かしらの話はついているのかもしれない。
或いは他のライダーが既に関東に向かっているから、というのもあるか。
「赤心寺の地下に」
「わかりました」
何がわかったのやら。
知られて困る部分は既に原子レベルで分解し埋め立てて、トライアルシリーズを製造するのに必要な機械的設備のみを残しているだけだ。
アンデッドの遺伝子データは、リベルタスを作るのに必要な分だけ残してるので、この世界で制御できないミュータントが産まれるという事もそうあるまい。
坐像に偽装したメカ樹海大師、黒沼外鬼ウイング、アームド玄海老師がファイナル赤心ガーにグレート合体する事に気がつくのはこの時代の技術力では相当の年月が必要になるだろう。
結城丈二とかならわかるかもしれんけども。
ちなみにこれらの改造が誰の手によって行われたかはまったくわからない。
何しろ黒沼流創始者が悪の組織の大首領だったのだ。
元から赤心寺の地下は彼等の工房であった可能性もある。
恐ろしい話だ。
元の世界だったらオールド師範の手によって問答無用で俺たちのせいにされて制裁されていたところだろう。
幾ら俺が真犯人だったからといって推理パートなしで
「改造手術で必要なのは、設備よりも設計図と技術者である、と、俺はそう思っているのですが……それは普通の医療でも同じ話です」
遠巻きに話を聞いていたSPIRITSの面々、そしてムラサメが頭の上に疑問符が浮かんでいる様な顔を見せる。
「そちらのハゲ……リベルタスの改造は、変異させた細胞を培養して新造した肉体に
特に意識の載せ替えに関する設備、というか、記憶のデータ化と脳への書き込み装置は置いていないし、魂の移植に関してもこの世界では専門家を探すのは難しいだろう。
だが、直接的な脳移植が可能である、というのは、YYY師範のスーパー1ボディへの載せ替えで立証された。
技術力さえあれば、元の肉体を残したまま改造人間の肉体に脳を載せ替える、という事も不可能ではない、ということだ。
逆もしかり。
「さっきから何が言いてぇんだてめぇは」
ムキムキの白人のおっさんが先を促す。
「リベルタスを製造した施設を利用すれば、元細胞さえあれば普通の肉体も培養可能ですし、脳移植手術の心得があれば改造人間を元に戻すことも不可能ではない筈ですよ。それが必要な処置かは知りませんが」
何名かが、ハッとした顔を晒す。
スーパー1の追っかけの女の子などが一番露骨だ。
意外な事に一番肉体を破棄すべきムラサメなどは眉がぴくりと動いた程度。
ハゲは必要ない必要ないと言わんばかりに半笑いで平手を振っている。
YYY師範の機嫌は更に悪くなっている様に見える。
「余計なお世話だ」
「小さな親切じゃあ無いですか」
このバダンとの戦いが終わり、沖一也が星の海に旅立ったとして。
S-1の装備で行う宇宙開発の規模を考えたら、生身の人間は老いてしまっているだろう。
いつかこの星に戻ってきた時、隣に立てるのは同じく肉体を機械化したものだけだ。
改造人間全てに元に戻れるように配慮したつもりもない。
「実際、沖さんの方に恋愛感情があるかってのは未知す」
飛んでくる手刀。
人間態であっても既にその肉体は改造人間のものであり、筋肉骨格に至るまで常人のそれを遥かに上回る性能を誇っている。
だが、技を放つという意識と肉体の挙動にはどうしてもズレが生まれてしまう。
それは、小脳に働きかけて改造人間の挙動をインストールしてあっても避けることはできない。
テンポのずれた、音を置き去りにするだけの手刀を弾く。
梅花のデータ蓄積は完了しているのだ。
不調を抱えた改造人間の手刀は届かない。
そして、当たらない事は想定済みだったのか、それでもどこか不満そうな師範が舌打ちと共に手刀を引っ込めながらも口を開く。
「そもそも……お前達は結局何者だ」
「今更それ聞く?」
「ここまではぐらかしていたからなぁ。ま、ここでお別れなので、折角だから名乗りを……」
名乗った後にああだこうだと追求される図というのも間抜けなので、退場の手筈を整える。
グジルが鬼変身態のまま翼を広げ、俺も念動力で宙に浮かぶ。
そして、天を指差す。
「我らは、赤心少林拳黒沼流アクガタ!」
朝日の登り始めた青森の街に、突如として影が落とされる。
それは上空に突如として現れた機械仕掛けの白鯨の為だろう。
「
遠くなる眼下において、今度こそ義経師範の目が驚愕に見開かれる。
良い顔だ。
誰に対してもそれくらい素直に感情を表現できれば、オールド師範よりも先に沖一也をどうこうできるかもしれない。
《……で、今後はこれにのって活動するの?》
《いや、折角名乗るからなんかハッタリの効く背景を置いておきたくて》
《本当は名乗りは皆でやりたいもんな、わかるわ》
木っ端な門下生はともかく、最初期勢のマク、カタ、ラゲク、サイーにシャーフーくらいはかっこよく並べて、できれば黒雲モクモク雷ゴロゴロしてる臨獣殿でやるのがベストの名乗りだし、公式HPトップにもその写真を乗せている。
異世界で記録が残らないとはいえ、流派紹介はこれくらいインパクトの残るものにしていきたいものだ。
という、夢を見たんだ
☆うわっいい夢見た気がする覚えてないけど!まぁでも今日は休みだからいい加減アクガタの紹介ムービーちゃんと作らないとな……変身後のプロフ写真は撮ったし……
現時点では全てが本編時空につながるか未知数の話なので好き勝手しているアクガタ創始者
でも実際言い訳があれば平気で人を改造人間にするのは本編で描写した通りだし、師範の恋心だってムラサメにだけ解説するつもりで全ライダーに広まったのは事故でその後も解説を続けたのはもう全員に解説してしまったから別にいいかってくらいの話だし
こいつ敵だから注意してねって注意した上で注意せずに死んだ戦士に対しては余程の思い入れが無い限りは蘇生可能な限り泣いたり悲しんだりしない
たぶん本編にそのまま繋がっても特に矛盾などは起きないんじゃないかなぁ
所変わればってやつですね(z融合異世界転移hrk並の感想)
師範を改造した後は稼働状況を確認して問題なさそうなのでねぶたの上で笛吹いてた
☆実はリベルタス製造後にねぶた改造パーツを託されて先んじてねぶたクラブの原住民と合流していたドラマー妹
響鬼編開始前に音撃鼓使いである事が確定した
ねぶたの下に潜り込んでロボタフたちと一緒にちょっとねぶたを持ち上げて動かしやすくしたり回転させる時に火炎放射パーツと電源装置分重くなったねぶたドラゴンを少し回しておいたりと八面六臂の大活躍だったけど
まぁこのSSって生身の人間が無茶してそれに人々の心が動かされる……みたいなのを書くSSではないからさくっとモノローグの間に活躍は消えた
ねぶたをある意味特等席で味わった上に太鼓まで叩いて参加した挙げ句ドラゴン一匹殺害カウントに追加できたのでご満悦
クジラ型戦艦に乗って生活とかちょっとワクワクだわって一瞬思っていたけど良く考えたら邪魔すぎるなははははしゃぎ過ぎたわ(照)
みたいな内心を押し隠しつつ誤魔化した
☆ねぶたダンサーストロングシゲルタフ
描写は無いがライダーと共に怪人を倒したりもした
ねぶた側に結構な数が回されているのは、人命を脅かす怪人を数と質で圧倒する謎の機械兵士集団とか逆にそっちが恐れられるやーつって事で現地で配分を調整された
手振り鉦は現地調達、録音再生機能はグジルがその場で取ってつけたやっつけ品なのでちょっとお高いスピーカーとマイクが外付けされているだけ
今後は恐らく青森に駐在
☆義経スーパー1・G
ロボットスーパー1をベースに宇宙開発などで使用される機能を一部オミットし、完全戦闘用に仕上げた義経師範専用ボディ
出力を十倍にしたりはできなかったが実は単純なパワー勝負なら余分な機能を切り捨ててる分オリジナルのスーパー1より勝ってたりする
非文明人である義経師範の為にファイブハンドの機能は簡略化され、ドラゴン、ライガー、ポセイドンの3フォームとして搭載されているが使いこなせるかは不明
初代をリスペクトし脳と神経系を全移植
脳だけではなく神経も残っているのでそこから生身を培養して戻ることもいずれは可能になるかもしれない
でも自分だけ生身に戻ってどうする?
やつは夢の為に赤心少林拳を捨てた訳ではない、それはわかった
ならば、己の肉体を捨て、それでも赤心少林拳と共にあろうとしたやつの心も知るべきだろう
みたいな気持ちでいまのところ生身に戻るつもりは一切無い
遠い未来で沖一也が地球に骨を埋めようと戻ってきたならその場合はどうなるかわからない
そもそももうSPIRITS編で書く事もそんな無いから今後の展開があるかもわからんので再登場の目は無いぞ!
いい加減本編進めなきゃだし
☆何でこの格好いい変身能力を捨てる必要があるかわからないハゲ
何で人間の身体に戻る必要が?
改造人間だからって修行を積むことそれ自体の価値が低くなる訳でもないし、新たな肉体に馴染んで力の使い方を学ぶのだって武を研鑽するのと何も変わらないじゃないか
という、格好いいもの好きという以上にやっぱり文明を離れて山奥で殺人拳を修行するなりのメンタルがもともと備わっていたりする
でも義経師範に施された改造は生殖機能とか存在しないから……ほら……沖さんとかと……なぁ?
と言われると、あー、と納得して、したり顔でうんうんと頷いたりする
基本的に紅一点で尊敬すべき師だから黒沼流のみんなは義経師範が大好きなのだ
☆改めて文章に起こして間に諸々別展開はさもうと原作読み直すとン?ってなる青森編
カイザーグロウとサタンスネークの融合体を相手に何でか変な戦法を取って攻めあぐねているスカイライダーとXライダーとか、空中戦で二人のライダーを翻弄していたのにいつの間にか直線の橋の上で突っ立ってスーパー1と陸戦で真っ向から対峙する融合体とか、ビルの上に立って何か打ちそうな呼吸をした後にどこをどうやって橋の上まで融合体を誘導したかわからんスーパー1とか、バダンシンドロームの市民を特に狙いはしない烏合の衆ドグマ怪人とか
なんか、こう、割とライダー特有のワープとかも結構平気でしてたりする
義経師範を手刀で貫いた直後から腕を引き抜くまでの間のコマだけど見栄えの為に義経師範が居ない状態の立ち絵で表示されてる黒沼外鬼とか
言っちゃなんだけどXライダーにせよスカイライダーにせよ、他にライダーが居なければ居ないなりに普通に工夫して融合体殺せてたよね……
通信機能は原作のこのタイミングでも生きてたし、そもそも旧組織の怪人幹部が復活してくるってわかってるんだからライダーは最初から弱点を共有しているべきだし……
途中でスカイライダーに俺を持ったままだと腕が使えないだろ、という発現をしていたXライダーまでもがカイザーグロウをスーパー1に倒させる為に忖度していたのなら、この段階のカイザーグロウ達はとんだ道化ではないだろうか
普通に読んでる分には気にならないというか、まぁ、この時間経過の間になんかあったんやろなくらいで納得して進めちゃうんだけど、二次創作しようとするとこういう展開は逆に難しいと痛感する
難しいと痛感したしSPIRITS編に気がつけば三ヶ月も使っているので次回からはいい加減本編に戻ります!
本編というか多分幕間最終回というか恐らく響鬼編導入回
でも話として原作の軸が実はライダーじゃなくて一般人の明日夢くんに焦点当たってて原作沿いで猛士側やるには肉が足りないというか
そもそも穢と人間の恐れを結びつけたからここまでの平成5作品での出来事を組み込まなきゃとか
組み込んだ上でやっぱり都市伝説魔化魍とかはやっていきたいなーとか
原作キャラを今度こそ積極的に主人公やらオリキャラやらと絡ませていきたいなーとか
響鬼編ならぬ響鬼裏世界ピクニック編とかにならないように気をつけますとか
でも裏世界ピクニックは百合だから明日夢くんとおねショタできるキャラ居ないよなーとか
そういう諸々を乗り越えて、本編、再開します
よろしければ今後とも感想などいただけると嬉しいなと思います
それでは、次回も気長にお待ち下さい