オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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二人で突き抜けるノンストップ!仮面ライダーSPIRITS その十四

誰が一番正気ではなかったか。

それを見つけるには、一番彼等なりの常識から逸脱した行動をしたと思われるものを探せば良い。

スサノオは龍の餌を現地調達しようとした。

アマテラスはそれに付き従っていただけで主体性はない。

ツクヨミの、地球に降り立つ以前の行動言動はわからないが……彼の行動は明らかに唐突である。

 

精神的異形、という点で言えば、ツクヨミの発狂ぶりはひとしおである。

俺は以前に全世界同時テレパシーにおいてスサノオに対し、部下の翻意にも気付けなかった旨を指摘したが、果たしてツクヨミの突然の行動は対応できるようなものだったろうか。

それまで、惑星間移動の為の燃料採取に特に反対する様子も見せていなかった部下、それも恐らくスサノオから見て圧倒的に格下と言える程度の存在でしかないツクヨミが、突如として宇宙船の燃料に同情し、旅の仲間であったアマテラスを惨殺、本来逆立ちしても敵わない筈のスサノオに一矢報い、それ以後の自らの殆ど全ての力を使い別次元に幽閉してみせた。

 

ここでスサノオがうっかり封印されてしまった原因が何かと言えば、激しい動揺が戦闘力の低下に繋がったのではないだろうか。

昨日まで自分に忠実に使えていた旅のおともが突如として龍の餌として選定したキーキー言ってる原始的な生き物を守るためにおともの片割れをぶっ殺して自分に襲いかかるとか中々のサイコホラー展開である。

宇宙空間を移動中は特に娯楽らしい娯楽も無かったと考えるとこの出来事はスサノオの精神的動揺を誘うに十分すぎる出来事だったろう。

 

ツクヨミも、人類の未来だの可能性だのが見てみたい、という話ならば、燃料にしなくても種族として途絶えない程度に人類を増やしてみて貰えないか、くらいの話をスサノオにすれば良かったと思うのだが、明らかに行動が急すぎる。

彼等は少なくとも二本足に二本の腕、少なくとも手には五本の指があり、目は二つ、という特徴を持った種族だったと推測される。

なんなら銀のドクロ、アマテラスの頭蓋を見るにかなり地球人に近い種族だったのだろう。

自分たちが改造される前の姿に似た種族に何かしらの思い入れが産まれたにしても、宇宙旅行を共にした恐らく主と同輩をぶっ殺してまで強行する事だろうか。

 

これで、龍の餌にしようとしたのがもう少し文明が発達して今の人類に近くなった後、ツクヨミの人間体が地球人と恋に落ちて……みたいな話ならまだわかるのだが、ツクヨミが恐ろしく瞬発的に過激な行動に出る理由が明らかに謎に包まれている。

正直な話、単純にツクヨミは何らかの理由で精神に異常をきたしていた、発狂していた、あるいはまだ発狂している、と見る方が余程自然だ。

そして、その基点には、地球人類というものが存在している……。

と、見るのはうがった考えだ。

元々ツクヨミは惑星間移動で原生生物を燃料にする行為に不満を溜め続けながら、その兆候を一切スサノオに漏らしていなかっただけかもしれない。

或いは、ミカゲとかいう毛の抜けた猿に何となく共感して力を貸してしまう辺り、表面上を取り繕えているだけで精神的には恐ろしく不備のあるタイプの人材だった可能性もある。

 

スサノオ、JUDOが牢獄から脱出する。

それ自体、実はそれほど問題ではない。

あれが牢獄から出て、人類を龍に食わせようとするなら当然仮面ライダー達が立ちふさがる。

ここでライダー達が何事もなく死闘の果にJUDOを殺せれば良し。

逆に、JUDOが見事にライダー達を返り討ちにした場合。

この場合、事態はより簡単なものになる。

守護者の居ない惑星など切れ目の入った瓦、濡れた手で触る障子、スプーンで触れる寸前のプリンのようなものだ。

JUDOがどれほどの攻撃に耐えるかはともかく、龍無しでは惑星間移動が不可能というのなら、最低限立ち往生させることは可能になる。

 

問題は、ツクヨミがどう出るか。

彼は人類愛とかに目覚めたわけではないし、仮にそうだとしたらそれはそれで明らかな異常者だ。

異常者は何をするかわからない。

一見してゼクロスやミカゲのサポートをしているが、それは彼の目的にゼクロスやミカゲが有効に働いているからに過ぎないのだ。

幽閉し続ける事に失敗したので、或いは抵抗者であるライダー達が全滅したので、最後っ屁でJUDOのみ別の次元に送る、なんて離れ業をこの世界のツクヨミがしないとは限らない。

この世界の人類を見守る為に、他所の世界の人類を生贄に捧げる、なんて可能性だって十分ある。

ツクヨミも、どこかのタイミングでさっぱり始末させてもらいたいものだ。

 

だが。

異常者ツクヨミが問題になるのは、スサノオがこの世界の人類を滅ぼそうとした時だけだろう。

ツクヨミの最終目的がどこにあるかわからないが、要はスサノオを予め殺せてしまえば良い訳で。

そのためにはやはり、死にかけ壊れかけのライダーを細々とぶつけるなんていう、最後の見せ場を特定の誰かに与えるお膳立て、みたいな真似をさせないのが一番であるし……。

その為には、ライダーの居場所が分散する原因を取り除いていかなければならない。

力が必要になる。

突出した1ではない。

選ばれた10でもない。

戦おうという決断が、そのまま迎えられるような、数に限りの無い、望み手を伸ばせば届く、そんな力が。

 

きっかけがいる。

見えもしない、どういうものかさえ理解できていない魂というものに、自分のエゴを乗せて人々の進化を妨げる。

そういう障害を取り除き、人々が一歩先に進む為のきっかけが。

一握りの英雄にのみ世界の命運を任せる、歪な構造を破壊するためのきっかけが。

 

―――――――――――――――――――

 

これは有名な話ではあるのだが、沖一也、仮面ライダースーパー1は少なくともテレビ本編の時空において先輩ライダーによる特訓を受けていない。

視聴率問題に始まるテコ入れがどうこうという極めてメタな話を抜きにして語れば、彼には極めれば怪人すら殺害する事が可能になる拳法を習得しているというバックボーンと、その師匠と同門が特訓を必要とする段階で存命だった、というのが原因の一つとして挙げられるのだろう。

過去の仮面ライダーは、格闘技を習得している者が居ても一般的な道場で習えるような対人拳法、単純に技を極めれば怪人に通用する技術では無かった、という問題がある。

そのため、スカイまでのライダーが特訓で編みだす新必殺技の類はどこか大味というか、人間の努力で改造人間のスペックを活かしきろうとした結果、みたいな技が多くある印象が強い。

 

現状、スーパー1の不調が先輩ライダーの特訓で解消されるか、と言われると疑問が残る。

敵に単純に勝てないから、という理由でならば似たようなスペックの改造人間と共に行う特訓は実を結ぶだろうが、はっきり言ってスーパー1の不調は精神的なものだ。

人間としての神経に作用しているのだから身体的な不調ということもできるかもしれないが、不調を起こしているのは結局脳であり、神経は不調の原因でしかない。

 

とんちの様な考え方をすれば、先輩ライダー達による特訓でスーパー1の不調を治すことはできないでもない。

まず、スカイに行われた様な特訓を、現状のスーパー1……沖一也に繰り返し行うとする。

すると、スーパー1に変身できない上に気の練りもまともにできない今の沖一也の肉体はズタボロになる。

治療の過程で破損したパーツを交換する。

この場合、恐らく一番脆い部分は人間時代の肉体から移植した神経だろう。

これを人工神経にでも置き換えてしまえば、とりあえずバダンシンドロームの発症元は抑える事ができる。

筈だ。

 

少なくとも俺はまだこの世界でそれほど人間を切り刻んで実験したわけでもないし、バダンシンドロームを発症した生きた人間ともなればまるで無い。

一度発症したならば後は完全に脳に不調が残る、となれば神経の取替損である。

あるいは、脳みそを少し弄ってバダンシンドローム発症前の状態にまで記憶を巻き戻してしまえば治る。

これは確実だ。

バダンシンドロームは何も脳細胞そのものを作り変えている訳ではない。

だが、それでは生神経を使用しているスーパー1は今後バダンの龍に対していちいち警戒しながら戦わなければならない。

それは戦力の低下を招くので駄目だ。

新たに人類側の改造人間を作るのを否定した以上、彼らはその戦闘力を持って責任を果たさなければならない。

不調を抱えたまま敵の前に立つなど言語道断である。

直せるものを直さぬまま戦うのは愚か者のやることだ。

 

結論として、彼はバダンシンドロームの影響を除去するのでなく、バダンシンドロームを克服しなければならない。

彼は他のライダーと条件が異なるが、逆にいえば、脳と神経は未改造の人間と変わらないのだ。

彼がバダンシンドロームを克服すれば、一般人のバダンシンドローム患者の治療にも役立つかもしれないし、またバダンの龍が目の前で光っても戦闘を続行する事ができるようになる。

 

ではどうやってバダンシンドロームを克服するか。

一般的なバダンシンドロームで一際顕著な症状はある種の感情、恐怖心の強烈な発露だ。

龍に食べられたい、というのは、この苦しみ、恐怖から逃れたい、という末期症状なのである。

そういう意味でいえば、沖一也の症状はバダンシンドロームの中でも極めて浅い、軽い症例ではあるのだが……。

敵を前に萎縮して、普段どおりに戦いに備えた状態を作れない、という時点で戦士としては致命的だ。

だが、これを乗り越える方法は幾つか思い浮かぶ。

 

先ずは無我の境地。

ある種のアギト……というか、極めて限られたアギトが最初から何故か至っていたりする理想的な戦士のあり方だ。

超越精神の関係でアギトはこれに目覚めやすい、という説もあるが、実際最初からこの境地で戦っているようなアギトは俺は一人しか知らないし実はアギトとか関係なくそいつの元々持っていた素養でしかない疑惑もある(レストラン営業)。

ともあれ、我が無いのだから感情は無い、心も無い、故に恐怖もない。

この状態で戦う戦士は基本的に本人の心や経験によらずフルオートで最適な戦い方をするので、ある一定の相手までならこれで危うげなく戦う事ができる。

まぁ、一定以上の強さを持つ相手には感情の持つ爆発力などが重要になるのだが、これも恐らく超越精神で逆に感情を思い切り爆発的に増幅させたりすることでどうにかなる。

が、沖一也はアギトではないしアギトになるべき人間でもないし、そうでなくても今から無我の境地に至るのでは時間がかかる。

 

次に、これが一部例外を除いて多く用いられる恐怖を乗り越える為の方法。

より強い感情で恐怖心を吹き飛ばす、というものだ。

当然、一般人には難しい。

しかし、恐怖の元となるバダンの龍が人の作り上げた力で乗り越えられると恐怖心を和らげ、助かるかもしれない、勝てるかもしれないという希望を強く抱く事ができればバダンシンドロームを乗り越えられるのは青森人の症例で証明されている。

だがこの方法はバダンの龍が目の前に来なければ実行できない。

少なくとも、スカイライダーが持ち上げてスーパー1が炎を浴びせるという力技よりはスムーズにできるように用意はしているのだが……、ないものねだりをしても仕方がない。

 

しかし、俺は仮面ライダーの感情を強く揺さぶる方法を知っている。

彼らは人々の自由と平和とか命とかそういうものを脅かすと過剰に怒り出すのだ。

その割に目の前でバダンシンドロームの患者が怪人に真っ二つにされても眉一つ動かさなかったりする時もあるのだが……そこは彼らも人間なので優先順位が何事にもあるのだ。

だが少なくとも、彼らが愛する人、親しい人が危険にさらされた時、仮面ライダーの力は容易くカタログスペックなどという温度のない数値を超越したりする。

つくづく厄介な話ではあるが。

 

結果として、沖一也の変身システムは作動した。

危うく無我の境地ならぬ怒りを根源に置く忘我の境地スーパー1の梅花二段蹴りとあわや激突寸前まで行ったのだが……。

残念なことに、変身はものの一呼吸程度で解除され、空中に意識を失った沖一也が投げ出される結果となってしまった。

これは恐らく、感情が怒り一色で塗り込められた状態での戦闘を沖一也が……あるいは玄海流が想定していなかった為に起きた現象であると思われる。

 

つまり……、

怒りでバダンシンドロームから一瞬抜け出す→気の流れが正常化して変身システム作動→怒りの梅花二段蹴り→極度の怒りの感情で気の流れが狂い変身システム強制終了→機械部分の強制終了の負荷が生身部分に逆流しショックで気絶。

こういう流れがあの僅かな時間で起きたのだろう。

 

死からの逃避の為の爆発的生命エネルギーを源泉とする臨気、そして自らの死の原因に対する怒りや攻撃衝動を源泉とする怒臨気。

これらを扱うアクガタでは考えられない事だが、守りを主体とする玄海流では怒りに身を任せて戦うというのは想定していないのかもしれない。

どちらも死から命を守る為の武術でありながらこういう方向性の違いがあるのはデータを取っていて実に面白いものであると思うのだが、今はそうは言っていられない。

もうこうなればいよいよもって最後の手段を使うしかありえない状況になってしまったと言っても決して過言ではない。

 

―――――――――――――――――――

 

「我が黒沼流奥義の、桜花を教えろ、だと?」

 

義経師範が表面上は万全になるまで人間態の修理を済ませた沖一也と対面し、額に青筋を浮かべている。

前回にライダーどもの皆さんから頂いたありがたいお言葉を受けて今回は毛の抜けた猿でもわかる義経師範の心理描写実況はお休みとなるので誰にも説明できないが、この時点での義経師範の怒りの理由は実は玄海流の沖一也が黒沼流の奥義を覚えようとしているという点にかかっているわけではない。

これは、黒沼流の本部に来ながらちんたらと滝行(シャワー)に時間を割いて真っ先に自分の元に奥義を教えてくれと言ってこなかった沖一也に対して拗ねているのだ。

可愛いね♡

このアラサーがよ。

悪霊退散。

 

後年……と、俺の居た世界と時代を単純に直結できる訳ではないが、後年の義経師範の述懐によれば、理論上、黒沼流奥義と玄海流奥義を一人の人間が習得することは不可能ではないのだという。

今義経師範がありがたくも沖一也に改めて説明しているように、桜花と梅花は潮の満ち引きの様に対極にある奥義であり、これを一人の人間が同時に習得した場合、相反する性質を持つ気の運用法の反動で全身に張り巡らされた気脈が引き裂かれ、肉体、精神共にズタズタに引き裂かれ、事実上人間としては死んだも同然の状態となる。

これはそう言われている、というだけではなく、黒沼流と玄海流にそれぞれの奥義が産まれた後に、二つの奥義の同時習得を目指した先人が残してくれた貴重なデータである。

だが、近年の研究ではこの反動を抑え込める可能性が幾つか挙げられている。

 

「キサマの差し金か? この馬鹿が馬鹿を言い出したのは」

 

と、師範と沖一也の睦言を横から8K画質で録画していると、突如として会話の矛先が俺に飛んできた。

 

「別に俺が言い出さなくても沖さんならこの結論に至ったでしょう」

 

当然の帰結として、玄海流の気の運用がままならないとなれば、黒沼流の奥義を習得して別ルートでの変身を目指すというのは沖さんだって思いついていた筈だ。

まぁそもそも、俺の知る沖一也がこの後に変身を成功させた事に桜花習得がどれほど貢献していたか、というのは議論の余地があったりするのだが。

 

義経師範は、ふん、と鼻を鳴らし、態とらしく嗤ってみせる。

 

「自分でたどり着くより前に、人に言われてくる根性が気に食わん」

 

(╯⊙3⊙)ぷえー。

 

「いい歳こいてそんな事で拗ねないで下さい。シワが増えますよ?」

 

ここで受け……と思っていたら桜花が飛んでこない。

そういえば出会った頃の師範はルッキズムエイジズム全開で煽ってもそれほど鋭い攻撃はしてこなかったな……。

顔に青筋が増えただけだ。

沖一也は俺の物言いと師範のリアクションにハラハラしている。

 

「只でさえS-1には老化を模倣する機能は搭載されてないんですから、師範だけ歳を取ってく感が増して、次に再会した時に沖さんも人間の時間に取り残された気がして悲しくなっちゃうと思」

 

今度は飛んできた、桜花だ。

だがこれは悪手である。

桜花は基本的にその性能を完全に発揮する為には相手の攻撃に合わせなければならない。

相手の攻撃の威力を利用しない桜花は基本的にめっちゃ鋭い手刀による刺突でしかない。

つまり、実のところ黒沼流同士の戦いは、奥義を習得した者同士である場合は後出し有利なのである。

無論、奥義を使わずに相手を仕留められるなら関係のない話ではあるのだが……。

飛んできた師範の先出しの桜花に、此方も桜花をあわせる。

 

対面する黒沼流拳士が互いに桜花を放ちあった場合、やはり後出しが強くなる。

一見して刺突と刺突が打ち合う訳だから迎え撃つ側と打ち込む側、衝突する時点での双方への負荷は同等になると思われがちだが、桜花に限らず本来奥義は無尽蔵に放つことができる訳ではない。

桜花は全身の気を指先の一点に集中する事で硬度や鋭さを増強する訳だが、これは一点に気を集中する、体内の気に偏りをもたせる、移動させるというだけで一定の気が、そして技が炸裂すればその分の気も消費される。

つまり、先に放たれた桜花は時間経過による気の集中の維持コスト分消耗するので、後出しの気がより充実した桜花よりも強度と鋭さにおいて劣ることになり、結果として打ち負ける。

基本的に人間の気の総量というのはそう変わるものではない。

無尽蔵の生命エネルギーを利用できる存在で無ければ戦闘時間はある程度限られてしまうのだ。

 

つまり、俺が後から放ったこの桜花がヤング師範の桜花とぶつかりあった場合、師範の身体は指先から真っ二つとまでは行かないが、切り損ねて繋がったままの沢庵の様な有様になってしまう。

ちなみにオールド師範は桜花により磨きを掛けているし当然の様にいくらかのバリエーションを備えているので後出しでも変身していない場合は俺の腕が裂けたりするから驚くべきことだろう。

だがまぁそれは未来で異世界な俺の世界での話なので、この怒りにより瞬発桜花を放ってしまった師範の命はあと瞬き一つ分くらいの時間しか無いのだ。

 

それも仕方のない事。

殺意には殺意を、奥義には奥義を返すのが黒沼流の流儀だ。

例外はあるが原則的にはそうなってしまう。

俺の桜花でヤング師範が真っ二つ、というのも少しワクワクするところではあるし。

南無阿弥陀仏。

 

とは、ならないのがこの世界の面白いところ。

激突寸前の俺と師範の桜花は、間に割って入った沖一也の腕により弾かれ、見事に互いを避ける形で空振った。

 

「──お見事!」

 

世の名刀妖刀何するものぞと言える鋭さを持つ桜花にサンドイッチされ、それを受け流し切った。

その腕には僅かな擦過傷はあるが、切断されても抉られてもいない。

赤心少林拳玄海流奥義、梅花の型。

攻めの局地である桜花の対局、守りの局地であるその技は、これ以上無い程に見事にその性能を発揮してみせたのである。

そして、取りも直さず沖一也は師範の桜花と俺の桜花を同時に体験し、実質的に桜花に対する経験値を二倍手に入れた様なもの。

正式に数年掛けて習得する場合を除き、桜花をインスタントに習得しようとした場合はこのルートが最短である。

俺も似たようなルートを辿ったものだ(n敗)。

……………………………………。

 

「お見事じゃあないですよ!」

 

ぱぁん、と、足元に叩きつけたハンチング帽が良い音を立てる。

突然の行動に寸前までめっちゃ真剣な眼差しで此方を警戒していた沖一也がびくんと身体を震わせて目を見開き驚く。

いや、沖一也は悪くないのだ。

なんなら俺の桜花だけ弾けばよかろうものを俺に向かってくる師範の桜花まで弾いたのは彼が善良な人間である証だろう。

 

「師範! なんでこっちに話を振ったんですか!」

 

ヤング師範が片眉を潜めて訝しげな視線を向ける。

 

「折角水遊びしながらイジイジしてた沖さんをこっちに連れてきてあげたんじゃないですか! 積もる話があるにしろ無いにしろ先ずはお二人の間の話をするのが筋ってもんでしょ!? そこにちょっと知らんやつが挟まった程度でなんで拗ねてこっちに話向けてるんですか差しでは話せるけど三人グループになるととたんに喋れなくなる人ですか! 俺ぁお二人の話が始まったら部屋の隅に控えて静かにしてましたし、そしたらどうせ師範も沖さんの事挑発して攻撃誘発して正当な形の桜花をちょっとした殺し合い(イチャイチャ)しながら見せてあげるつもりだったんでしょ?! 顔合わすのがしばらくぶりだからって乙女しないで下さいよ! せめて乙女するならちゃんと俺が退場したあとにして下さいよ! 録画するから! ムラサメが!」

 

えっ俺? みたいな顔をしているムラサメだが、間違いなく赤心少林拳二流派の交流戦は参考になるからと遠間から立会人をしてもらっていたので記録されている筈だ。

本来ならそれを後でデータだけ貰えば良いだけの話なのだが……。

師範が照れてこっちに話を振ってしまったから台無しだ!

師範の桜花と沖一也の梅花が美しい紅と共に絡み合う美しいシーンが!

まぁダブル桜花を防ぎ切る真の梅花という図式は美しいからそれはそれで良いけれども。

 

「じゃあ、君としてはどういう想定だったんだ? 義経を殺すつもりでは無かったとして……」

 

奥義打たれたら奥義でカウンターなんて拳士からすれば挨拶のようなものだと俺はここで学んだので後半は無視するとして。

 

「どぉせ、変節漢なお前に桜花は使えんとか、キサマには軟弱な梅花がお似合いとか言って攻撃誘発して、それに合わせる形でかする程度の桜花を見せてあげるつもりだったんでしょうよ。普段はともかくバダンシンドロームで不安定な沖さんならその程度でも釣られるでしょうし、一度見れば使えるようになるって圧倒的信頼の元の行動ですよまったく……」

 

その言葉の意味がわからない程、沖一也は鈍感ではない。

普段から単独行動ばかりの他ライダーと異なり、沖一也は仮面ライダーではあるが同時に宇宙飛行士でもある。

チームでの作戦行動が必要になる以上、他人の心情を慮ることも信頼することも得意技の一つ。

結果だけみれば沖一也が師範を守った形になるが、師範がやろうとしていた事を考えれば、夢のために袂を分かった自分がどれだけ信用、信頼されているかという事を自覚し、わずかに照れくさそうなむず痒そうな雰囲気を見せる程度の察しの良さはある。

 

「さっきから聞いていれば、顔も見せずにこちらの事でわかったような口を……部外者ではないのかもしれんが、気に食わん」

 

ふん、と、沖一也に弾かれた桜花の手刀を引っ込め鼻を鳴らし、踵を返す。

図星を突かれて顔面の血流が活発になっているのを沖一也に見せないためだろうか。

振り向いた先には黒沼流側の見届人である拳士達が何人か居るが、そっちに見られても後で焼きを入れれば良いと考えての事かもしれない。

 

()()()もキサマの差し金か?」

 

いや、当然違う。

師範がそいつ、と、意識を向ける先には禿頭白目の黒沼流拳士。

居並ぶ拳士の中に紛れた数珠を付けていないハゲと、その背後に気配もなく立つ、数珠を付けた方のハゲ。

数珠を付けていない方のハゲがわずかに驚きの様な感情を見せて飛び上がる様に背後のハゲから距離を取る。

背後に居た数珠をちゃんと付けたハゲがニヤリと笑う。

 

「そのツッコミは市街地で入れ替わられてた時にして欲しかったですね」

 

実際、俺が居ない場合のこの世界で魂を赤心寺と共にするための数珠が無い事や改造人間特有の匂いや気配で気づいたムーブをしていたが、作中時間で気付くまでに半日以上経過しているのだ。

お陰で赤心寺にはドグマの地獄谷五人衆が入り込み、未熟な拳士が藁束の様に命を容易く刈り取られる形となってしまった。

まぁ、この世界ではそういう真似はあんまりさせるつもりは無いのだが。

実力不足で死ぬ様なのはともかく、単純なスペック差や対怪人戦闘に慣れていないだけで実力十分な拳士は可能であれば戦力化されて欲しいという気持ちもあるのだ。

 

「心臓を一撃で貫かれて、誰に顧みられるでもなくテトラポットの横にぷかぷか浮かんでた死体を引き上げて、自分の仇討ちができるようにセッティングまでしてさしあげたんですよ?」

 

「死んでいた……?」

 

沖さんが疑問符を浮かべる。

それはそうだ。

目の前のダブルハゲのどちらかが偽物でどちらかが本物だとしても、双方ともに生きているようにしか見えない。

数珠の無いハゲがその人間としての化けの皮を内側から引き裂く様にして、大小二つの蛇頭が現れた。

身体に大蛇を巻きつけた蛇人間、地獄谷五人衆ヘビンダー。

更にもう一人の拳士が身体から蒸気を吹き出し変身を開始。

虎柄模様の部分が槍に変形するギミックを搭載した虎人間、地獄谷五人衆クレイジータイガー。

 

クレイジータイガーが変身の半ばで数珠のハゲに対し、五指を鉤爪の様に曲げた手で殴りかかる。

クレイジータイガーは怪力自慢というわけではないが、鍛えた人間程度の膂力では例え防御したとしてもその防御ごと押しつぶされてしまうだろう。

同時にヘビンダーは蛇人間部分の口から無数の毒蛇を射出。

噛みつかれれば最後、人間の肉体は毒に侵されて生きたままグズグズに溶けてしまう程だ。

 

だが、ハゲはクレイジータイガーの振り下ろすような一撃を腕を掲げるだけで軽く受け流し、射出された毒蛇にもう片方の手を伸ばしたかと思えば、次の瞬間には血しぶきと共に頭部を上顎ごとえぐり取られた毒蛇の死体が道場の床を汚している。

無論、どちらも極まった黒沼流拳士であれば可能な技ではあるが……。

受け流しは肉体強度に頼ったものでしかなく、毒蛇を迎撃したのも強化された身体能力任せでしかない。

スマートとは言い難い戦いだ。

だが、彼もまたこの時代においては未だ修行中の身故仕方がない。

 

地獄谷五人衆から義経を守るような位置にさり気なく移動していた沖一也も驚愕している。

地獄谷五人衆は未熟な生身の拳士が相手取れるような容易い相手ではない。

まして守りよりも攻めに重きを置く黒沼流の拳士であればなおさらだ。

 

「強いな……」

 

「いや、ここまでの実力は無かった筈だ」

 

思わず、という風に呟く沖一也の言葉に師範が反駁する。

 

「貴様、本当に三郎か?」

 

白目ハゲ……三郎師兄が師範の言葉にゆっくりと口を開く。

緩やかに開かれた口はそのまま端から上下二本に裂け、メキメキと変形を始める。

 

「私は」

 

青白くしかし分厚く靭やかな肌、肩を、胸を、背を、脚を斑に、そして頭部を覆う黒い甲殻。

口の両脇に二つ、額に三つ存在する滑るような輝きの追加感覚器。

視線の先を悟らせない水晶質の強固な目。

歯の代わりにより攻撃的な形に変化した牙を覗かせる口。

 

「リベルタス」

 

「力を……そして、魂を解放されし者」

 

 

 

 

 

 

 

 





☆SPIRITSの人達は改造反対派なんだろうけどそれはそれとして人命救助の為の改造手術は仮面ライダーもやってるからいいよね!
本編の響鬼直前時空でも既に人間を改造する手段は複数種類所持している首領兼科学者兼呪術師兼ムセギジャジャ
基本的に義経師範だいすき
顔見知りの兄弟子らもすき
だから死んでたら直すのは当たり前の事だし、昨今色々言われてる正義のあり方云々だって人命救助に関してだけは一切文句のつけようもないよね……
これで文句言われたら死なせたまま方が良かったってことになるもんね……
生身の人間を生身の人間のまま治療する技術に関しては極めて関心が薄い
死人を改造人間として蘇生できる、という事実をここで開示
師範も兄弟子もすきだが、思い入れの先は元の世界の相手なのでこの世界の彼らに対しては実利が遥かに勝る
なおここから赤心少林拳編は最後までノンストップで雑談とかできるタイミングが無いので諸々の問題の追求を受ける事はしばらく無い

☆今度こそ一也の目の前で口頭で内心を暴かれて緊急事態でなければ爆発寸前の義経師範
すごい挑発だった……師範で無ければ耐えきれなかった……
でも沖一也に関する話を絡められると瞬間湯沸かし
年老いるのは別に良いけどそこに沖一也は関係ないだろ(激怒)
今より落ち着いた頃の師範を怒らせる方法を主人公が熟知しているので基本的に攻撃誘発を回避できない
照れても多分斜め後ろから見た構図でちょっと頬に影なのか赤面なのかわからん斜線がちょっと入る程度
弟子経由で既に黒沼総帥がテラーマクロだという話を聞いてはいるが……?

☆ことあるごとに袂を分かった筈の幼馴染が今も自分の事を大切に信じてくれているという事実を突きつけられて魂が少し重力に引かれる玄海流最後の拳士
まぁそれでも夢を諦めることもないし地球に留まるなんて選択肢は無いんですけど
今はね
いつか帰る、帰ってきてやるべきことがある、という状態で無けりゃ無限の宇宙にさあいくぞ!
実際原作でもどの段階で変身が可能になったのかが微妙というか、たぶん桜花を習得する事自体は変身とあんまり関係ないよねって感じる

☆ネオ白目ハゲ
ゼウスの雷が拉致したクロノス№2の科学者、アルフレッド・へッカリングが作り上げた調整体
高い能力を得るために生体としてのバランスを度外視しており、これに調整されたものの寿命は長くても五年ほどでると言われている
何気なくお出ししたが冷静に考えれば若い読者諸兄の中にはそもそもガイバー知らん人らも多いのではないだろうか
休載中に作者が死にそうで怖そうな漫画ぐにょり的トップ
まともに連載しても最終回まで十年くらいかかりそうなのに……
なお見た目と名前こそ同じだが技術的にはニャンニャンアーミー技術の流用
脳みそは死後時間が経過していたため記憶の揮発が激しかった為、本人の体細胞を元に作られた戦闘型変異体に魂を定着する形で製造されている
肉体が破損する度に変異体ボディに付け替えられるアクガタ拳士がニーくん系譜の技術であるのに対して此方は最初から全身が変異した状態で誕生する普及型ニャンニャンアーミーの系譜になる
生物ではあるが、元の記憶と人格と記憶を持っただけの別人とも言えるので生物式8マンとも言える
魂の定着にはディスクアニマルに使用されている技術を起源に持ち、厳密に言えば元の人物が蘇生したと言えるかは怪しい
この世界における主人公製改造人間第一号にしてJUDOへの嫌がらせ用技術
リベルタス、ラテン語で自由を意味するその名の通り、家畜としての宿命から解放されている
諸々の説明を受けてウッキウキで変身後の名乗りを考えたのはハゲ本人だったりする
キャラは誰の指示でもなく勝手に作ってる
三郎という名前は源義経の郎党の一人から
基本黒沼流門弟の名前は全員源義経周りの人間から
なお名前は出たが今後も主人公視点では基本的に白目ハゲの人呼びが続く
今回名前出したのだってリベルタス名乗りがしたかったからってだけだし……
実質、死んでいても改造人間にすれば直せると実証する為の見せしめ役
トライアルシリーズの系譜であるため元ネタとは異なり短命ではなく、改造人間になる事で起こる諸々の不便がほぼ発生しない一見して理想的な改造体

☆本来ならこの場に居たクレイジータイガーに人質に取られるでもなく何故かぶん投げられた子
戦闘になるってわかってるのにその場においておくわけがないんだよなぁ
グジルが言いくるめて赤心寺外に退避中

☆ムラサメ以外のライダー
寺の中にドグマ怪人が紛れ込み始めてるよ、という発言により各地で対応中
滝行をカットした為未だ被害者がなく懐疑的だが何故かあった監視カメラに幾つかの不審な影が発見された為納得せざるを得ない
いい加減君等が黒沼流とどういう関係か言わない?
もっとふさわしい場面で?
ああそう……
平成のノリについていけないところがある
そんなんだから平成ライダーに映画一本使って難癖つけることになるねんな


長かった外伝も残りあと僅か
わずか……2、3、4、くらいの間に終わるといいなって
言ってる間にブラック真ゲッターとかどういう事なの……
作画がひどくても話が面白いと楽しめるんだなって事をテッカマンブレードぶりに思い出せる良いアニメだと思う
でも一クールで本当に終わるのかは本当に本当に心配
最後普通に出たなで終わるとしてもギリギリでは?
メガゾーン23ばりに続編に期待する終わりにしちゃあいかんぞ!
そんな絶賛放映中のゲッターロボアーク
このゲッターロボアークの最終回が来るのが先か、この外伝が終わるのが先か
ゲッター線を理解しきれてない自分には未知の部分ではありますが、それでもよろしければ次回も気長にお待ち下さい

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