オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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二人で突き抜けるノンストップ!仮面ライダーSPIRITS その十二

周囲に居た連中は殆ど纏めてフィクションの中にしか存在しないようなリアクションですっこけてしまったので、元号が存在したか怪しい時代の生まれであるグジルを除き唯一昭和ではない俺がまず場を仕切ろう。

これも平成オブリージュってやつだ。

ぱし、と、両手のひらを合わせて注目を集める。

 

「とはいえ、道を同じくすると言っても俺にも都合がありますので、ここは沖一也さんのバダンシンドロームが完治するまで、という風に期間を限定させて貰いますね」

 

「何……?」

 

ムラサメさんは沖一也がバダンシンドロームであるという俺の発言に眉をひそめ、神さんはやっぱりな♂という顔をしている。

 

「やはり、さっきの通信はそういう事か」

 

「はい、龍の上で至近距離から光を浴びた直後、沖さんはスーパー1に変身したまま変性意識状態に移行していましたので、ばっちりバダンシンドロームにかかっている筈です」

 

「そこで君は、一也の肉体を使って俺たちに通信を試みた」

 

「エッチな言い方ですがそういう事になりますね。沖さんの生身部分が機械部分と寸断されてしまったので外部から操るのも簡単でした」

 

「エッチな言い方かぁ?」

 

「男の改造人間十人が寄り集まって間に女どころか生身の人間すら挟まない内緒話できるシステムとかエッチなシステムに決まってるだろ。せめて帰りを待ってくれてる女の子の一人二人くらいには通信装置くらい渡しておかないと絶対勘違いされるぞ」

 

場を和ませる為に放った俺の半ば本気の発言にSPIRITSの面々も半眼を向け、唯一モジャモジャ頭の黒人男性だけがアラアラと頬に手を当てて腰をくねらせている。

申ホN。

 

「君たちは俺たちをどうしたいんだ……」

 

呆れ声の神さん。

勿論分解して解析して全部機械で再現して魂搭載して量産して全国配備したい♡

 

「か、一也さんがそんな訳ないでしょ!」

 

一見して中学生くらいに見える雌の原住民ちゃんが沖一也の腕を取って顔を赤くしながら噛み付くような勢いで吠える。

キーキー煩くて可愛いね。

動物園にも行かずに無料で興奮した猿が見れるたあお得な話じゃないか。

 

「エッチかどうかはともかく、事実として沖さんはバダンシンドロームですしそのままでは折角のサイボーグボディもまともに運用できませんよ」

 

「待って下さい、仮面ライダーの様な組織に免疫のある方々は罹りにくい筈では?」

 

「罹りにくい、というだけです。そも厳密には仮面ライダーがバダンシンドロームに罹らない理由と仮面ライダー関係者が罹らない理由にはズレが存在する……と、俺は踏んでいます」

 

「ズレ……?」

 

諸々のネタバレを会話の中で先んじて行おうとする俺の発言を遮る様に、聞えよがしな鼻で笑う声が響く。

ここまで放置されていた黒沼流の師範、義経師匠だ。

 

「心に隙があるから、そんなまやかしにひっかかる」

 

義経師範の見下すような冷たい視線が沖さんに突き刺さる。

 

「義経」

 

そしてその視線に真っ向から視線を絡ませる沖さん。

決して間に挟まる訳にはいかないので、グジルに視線を向けながら引く。

沖さんの腕にしがみついていた原住民をグジルがすっと腕の筋肉を弛緩させて引き剥がす。

絡み合う男女の視線。

録画を高解像度のものに切り替え。

録音機能を調整し周辺の邪魔な背景どもの出す雑音をノイズとして除去、二人の出す音にのみ焦点を絞る。

 

「そうかもしれない……。あの龍の光にあたった事が原因かはわからないが、ヘンリー博士、玄海老師、弁慶……、あの死んでいった人達の幻覚が、そうだとしたら」

 

拳をごつんと自らの顔にあて、悔やむように顔をしかめる。

 

「俺も、バダンシンドロームに……」

 

そんな沖さんの独白を聞いて、脇でわちゃわちゃと背景が喋っているが、そこは重要ではない。

義経師範の目が細まり、その場から素早く跳んだ。

空中からの抜き手による刺突。

狙いは沖さんの顔面。

その攻撃(複雑な乙女心)と沖さんの間に挟まる様にムラサメさん……ムラサメが飛び出し、蹴りでその一撃を迎撃しようとする。

それはいけないので、高速で飛び出したくっつきそうでくっつけなかった拳で分かりあえるカップルの間に挟まるお兄さんになろうとしたムラサメの襟首をひっつかみ、ムラサメが飛び出した倍の速度で背後に引っ張る。

ぐぇ、というカエルを踏み潰した様な声とごきんという音と共にムラサメが後ろに飛び、義経師範の刺突……から少し緩めた拳による一撃が沖さんの顔面に突き刺さる。

というより、掠めた。

ぴつ、という音が聞こえ、沖さんの顔に裂傷が走り人工血液が流れる。

 

「なにを……!」

 

叫ぼうとするムラサメの口を手のひらで塞ぎ、もう片方の手で人差し指を立て、イクサメットのマスカーレギュレーターの前に置き、しー、と、沈黙を促す。

早速さっき手に入れたライダー同士の通信帯に割り込み、先の一瞬のやり取りがいかなる意味を持つかを解説する。

 

《先ずは一撃、抜き手から拳に変化し、沖さんの顔を正面から殴らずにかすめる程度に留めた義経師範の複雑な思いからだ》

《先の義経師範と沖さんのやり取りを見ていればわかるが、沖さんはそもそも義経師範の動きを完全に目で追っていた》

《つまり、避けきれずに殴られそうになっていた、という訳ではなく、義経師範が自分を殴ろうとしたのを見た上で、甘んじて殴られようとした、ここは良いだろうか》

 

《そもそもの話として、沖一也は自らがバダンシンドロームに罹ってしまった事を不甲斐ない、と思いもしているが、その際に死人を見てしまった、という点にも負い目を感じているのだ》

《心に隙があるからバダンシンドロームに罹る。つまり、死んでいった父代わりのヘンリー博士、恩師である玄海老師、そして、義経師範の実弟であり沖さんの兄貴分にして親友だった弁慶の死は、沖一也という戦士の中にある心の隙だ、と、そういう事になる》

《自らが今抱える不調の理由が今は亡き命の恩人達への未練である、という自覚は彼に深い自戒の念を芽生えさせ》

《その罰、そして、弁慶を自らの為に死なせてしまった事の償いとして義経師範の攻撃を受け入れようとした》

 

《当然、義経師範はそれが面白くない》

《弟と同門を巻き込み死なせた男が償いや家族への謝罪をするでもなく、選んだ方法が自らに断罪されるという受け身の形であるというのも面白くないのだろう》

《或いは、そもそも義経師範は弟の死自体に関しては沖さんにそれほど思うところがあった訳ではないのではないか、とも思う》

《そも修練をきちんとこなし習熟した赤心少林拳の拳士であれば、生身であっても矢の雨の中で十分に生き残れる》

《それができなかったのは偏に弁慶の未熟であり、それでもなお命をとして沖さんを守ろうとした弁慶の思いを無下にする様なお人でもない》

《師範はああは言ったが、弁慶の死は沖さんの為ではなく、自らの決断として沖さんを守るのに命を使った、と納得している》

《だというのに、とうの沖さんは弁慶の死を自らのせいである、と、そこが師範の逆鱗に触れたのだろう》

《それは結局、自らを高く置いた思考だからだ》

《相手を背中を預ける相棒でなく守るべき相手と見ているからこそ出る意識だ》

《そんな状態でさぁ殴ってくれとやられて殴れる程素直なら義経師範は沖一也ともう結婚してる》

《子供も三人くらい産まれてるし赤心寺に庭付きの白い大きな家が建って大型犬とか飼ってる》

《しかし現実はこうなのでそれはつまり義経師範は素直でないなりに沖さんと向き合おうとしているのに、沖さんは自分の過去と向き合おうとしても義経師範と向き合おうとはしていないということだ》

《事実がどうあれ義経師範にはそう思われてしまっても仕方がない》

 

《自分が守る側でそれ以外は守られる側、それは沖さんを守るために、或いは共に闘おうとして滅んだ玄海流への侮辱とも取れるし……》

《共に鍛えた自らをも守るものとして対等に見ていない証だ》

《わかるだろ?》

《アレはアプローチというか、精神交感の一種なんだよ》

《わたしを見ろ、という注意を自らに向ける為のものなんだよ》

《健気な乙女心から来る一撃だ》

《わかるか?!》

《アナタのそんな情けない姿、見たくない!ってやつ!》

《さもなけりゃ、しゃきっとしなさい、っていう元気づけ!》

《師範がああいう風に激しく感情を顕にして相手に拳を振るうなんて沖一也関連の話でだけなんだよ!》

《十数年来の幼馴染同士の再会で語り合うやつの武術家版なの!》

《邪魔したら駄目!》

《アレはイチャつきの一種!》

《幼馴染以上恋人未満(全力で永遠に未完成)ラブラブチュッチュの中に割って入ろうとかヤリサーのメンバーか何か?》

《次にやったら人間態改造してちんこ引っこ抜いて美少女にして乙女心を学ばせるからな!》

《わかったか!》

 

と、以上の文章を三秒の内にムラサメの脳内に叩き込むと、ムラサメはそういうものなのか、という納得と共に顔を青ざめさせつつコクコクとうなずいて見せた。

しかし、何故か俺が間にムラサメが挟まるのを阻止して綺麗に収まった筈の沖さんがハッとしたような照れる様な申し訳ない様な複雑そうな表情で血の出る顔を抑え、筑波さんと神さんもなるほどなぁという顔をしている。

 

《解説ありがとう。でもそれ、全ライダーへの通信だから……次からは気をつけて、な》

 

仕方がないなぁという風の神さんの通信。

あっちゃーいっけねー。

 

《ご清聴ありがとうございます! じゃあライダーの皆さんも次からは二人がいちゃつき始めても邪魔はしないようにお願いしますね!死なない怪我なら自分がどうにかしますので》

 

《義経って誰だよ》

 

城さんの単純な疑問がとてもいたたまれない。

これだから閉鎖的な通信システムは嫌いなんだ。

別に俺に不都合は無いからいいけど。

師範の乙女心がライダーの中で筒抜けになるだけなら俺はノーダメージだしな。

 

「機械人同士の、仲間割れか?」

 

生身であるが故に事態を把握しきれていない義経師範が、一連の動きを見て不機嫌そうに嗤う。

普段、こういう風に皮肉を飛ばす事はとても稀なのだ。

 

《普段こういう風に細々皮肉とか飛ばさない人なんですよ。言うにしても先ずは殴ってからって正座させて説教って人なんで。これは沖さんとの再会で弟とか同門別流派の全滅とかを置いても大分精神的に興奮している感じですね。未熟で可愛くありません? いい年してこんなの淡く実らせたい青い果実でしょ》

 

《もういいから、解説しないであげてくれ》

 

「お構いなく」

 

「そういう訳にもいかん。キサマ、何者だ?」

 

《ほら! 素直になれずに沖さんとのコミュが途切れたから露骨に別の人に会話振って場の空気を動かそうとしてますよ! 指導者ならではの気遣いと繊細な乙女心の為せる技ですね!》

 

《君プライバシーって知ってる?》

 

《ジャーナリストどもが良く犯すヤツですよね。やられそうになる度にマジで殺してやろうかって思います。俺は優しいから無視しますが》

 

《お、おう……》

 

聞き覚えのない声が聞こえてきたので、多分一文字さんだという想定で答えると静かになった。

ペンは剣より強いけどより強いペンで折れるのだ。

 

「何者とは?」

 

「先の戦いでの動き、赤心少林拳、しかも我々黒沼流に近いものだ」

 

「Ω高い! 如何にも俺は……いや、今はそれどころではありませんね。先ずは沖さんの再修行の為に赤心寺へ向かわねばなりません」

 

「何?」

 

ぴく、と、義経師範の眉毛が片方上がる。

その表情を隠す様に、上を向き笑う。

歯がむき出しで口角を引き裂けんばかりに上げたそれはまるで肉に食らいつく前の獣のようだ。

俺の知る師範ならこんな顔をする前に「何?」とか聞く前に2、3発くらい殴ってから理由を問いただして来た筈だ。

ここ未熟ポイント。

 

「機械の体に変身するのに赤心少林拳を利用し、玄海流を巻き添えに壊滅させ、心の弱さからそれすらできなくなった様な、情けない男の為に、修行の場所をくれてやれ、と?」

 

それに対し、俺はぴっと人差し指を立てて説明する。

 

「諸々省いて言いますが、そも沖一也、宇宙開発用改造人間スーパー1の変身システムの致命的な欠陥は、改造後も変わらず赤心少林拳を続けられるよう、宇宙にまで赤心少林拳と共に飛び立てる様に、沖一也本人が生身から全神経を移植してくれ、とヘンリー博士に我儘を言ったのが原因にあります」

 

「本来のS-1の設計データを持っていないので断言はできませんが、S-1は生身からの部品移植は脳みそだけで全性能を発揮可能なのです。それは先日回収したロボットスーパー1を軽く解析した結果ほぼ確実。本来なら変身できない、というエラーは発生せず、その変身に赤心少林拳が関わる事は無かった」

 

「順序が違うのですよ! 沖一也は夢のために赤心少林拳を捨てたのでも、夢の踏み台にしたのでも無いのです! 最初から、沖一也は赤心少林拳と共に夢を叶える為、より困難な道を選んだのです!」

 

びしっ、と、沖一也を指差す。

何故それを、という顔をする沖一也を無視し、沖一也を上回る驚愕に彩られた表情の義経師範をもう片手で指差す。

 

「そして玄海流は滅びていない! 最後の玄海流拳士沖一也が居る限り、黒沼流と双璧を成す玄海流は決して滅びず、沖一也と共に遠く宇宙へとその教えを広めていくのです! さぁ! 玄海流最後の拳士を素気なく見捨てるか、赤心少林拳スペース玄海流誕生の手助けをするか、僧兵として、拳士として、人としての器が試される場面! どうなされるか! 回答や如何に?!」

 

と、俺が周囲の注意を引いている間に、海中に発生させたハイドストームがゆっくりと海に浮かぶ禿頭の僧兵の死体を回収し海に潜っていく。

彼もこの時間軸においては未熟な身ではあるが……。

ただ、乱戦の中で密かに殺されて成り変わられただけの情けない拳士のまま終わらせるというのも可愛そうな話だ。

元の世界で、ネオサイバー赤心寺計画にノリノリで居てくれた礼をさせて貰おう。

 

―――――――――――――――――――

 

日本国は青森県、八甲田山の奥深く。

トレッキングコースを大きく離れた森深くに、木々と一体化するようにその寺院は存在している。

毎度おなじみ、赤心少林拳黒沼流総本部赤心寺である。

源流と言っても過言ではない玄海流の方が壊滅してしまった今となっては、日本で唯一の赤心寺だ。

 

因みに、俺に対する尋問などの類は行われなかった。

そも黒沼流の総帥が十数年前に荒行に入ったまま行方不明という事になっているのだ。

沖一也を除いて完全に滅んだ玄海流と異なり、黒沼外鬼が他所で黒沼流を広めている、という可能性は無いでもない。

少なくとも、俺の戦いぶりは間違いなく黒沼流拳士のものであると認識され、それがそのまま通行証の様な扱いを受けた。

 

そういう訳でグジルは寺に入っていない。

別にこの中に俺とあいつがセットで入る必要も無いし……。

今は別行動の方が都合が良い。

寺の中を案内してくれる見知らぬ兄弟子達(たぶんこれから死ぬから俺の時代には居ない)と、案内されるライダー達が、木製の巨大坐像がある部屋に到着する。

 

「上座の像は樹海大師、大陸で修業を重ねて赤心少林拳を完成させた偉い人だよ」

 

「そして下座に居るヒゲモジャが黒沼外鬼、奮闘虚しく死んだ玄海老師の兄弟弟子で、樹海大師から学んだ赤心少林拳を黒沼流にアレンジした凄い人だよ」

 

「でも元を正せばB26暗黒星雲からやってきた宇宙人で、樹海大師を殺して粘土板を奪っていったのもこの人なんだ。まぁ師は弟子に超えられるのが本懐、なんて話もあるから樹海大師的にはオッケーって感じだったのかもしれないけど、遺言とか残されてないから不意打ちだったのかも」

 

「十数年前に荒行に出て行方不明、ってのは、たぶんその頃から黄金郷建設の為に動き出した、準備を始めたって事なんだろうね」

 

「そう、その正体はスーパー1の戦ったドグマ王国の支配者であるテラーマクロ!」

 

「カラス型宇宙人なんだけど、彼自身も樹海大師から教わった赤心少林拳が肌に合ったのか、それとも元から拳法の心得があったのか、後にドグマ王国でドグマ拳法というものを編み出して配下に伝授したりしているね」

 

「そういう意味で言えば俺たち黒沼流の拳士は全員ドグマ怪人とは同門の別分派とも言えるんだけど……、ドグマ拳法が拳法として優れているか、っていうのは議論の余地があるね」

 

「人間が使う為のフォーマットで作られた赤心少林拳と比べて、ドグマ怪人はそれ自体の味付けが濃いから、拳法を使う旨味、ってのがそんなに多く無かったみたいなんだ」

 

「だからなのか、直弟子の一番弟子は自分の正体と似た飛行型のサタンホークを選んでいるね。最終的に戻るべきとこに戻った、というか」

 

「黒沼流は源流の味付けそのままな玄海流と比べて非常に攻撃的な型が多いんだけど、中でも特徴的なのは爪や爪先に気を一点集中させた刺突や斬撃で、これは恐らくテラーマクロが自分の正体で扱い慣れた鉤爪を用いた戦闘法を流用したんじゃないかな」

 

「まぁ、そもそもの話としてテラーマクロが黒沼外鬼として弟子入りしたのは元の赤心少林拳が抵抗勢力になられると面倒だから先んじて分裂させて潰しておこう、って腹だったんだけど、結局自分の配下を使って潰しているんだよね」

 

「思うに、玄海流と黒沼流は源流と支流ってだけじゃなくて、元の赤心少林拳を真っ二つに分けたんじゃあないかなって。だから玄海流って意外と空手とか現代格闘から技を引っ張ってる形跡が見えるっていうか、文字通り攻めの技は殆ど失ってしまった」

 

「梅花二段蹴りとかも苦肉の策というか、とりあえず残った技を改造して攻めにも使おう、って涙ぐましい努力の後が見られるね。まぁそれは黒沼流も似たようなもので、完全に攻め一辺倒ではなくて、避ける受け流す防ぐという型も一応後に作り出していたりするんだけど」

 

「例えば事故で右脳やら左脳やらが失われた人間が、脳みそに然るべき処置を行ったら、残された方が肥大化して失われた部位の機能を果たし始めた、なんて話があるけど、人間の肉体が自然に起こす治癒現象と似たことを人間が考えて行うんだから、やっぱり人間はどこまで行ってもどれだけ進歩しても自然の一部なんだなって感心しちゃうよ」

 

「ああでも、地球発の赤心少林拳を宇宙から来たテラーマクロこと黒沼総帥が引き裂いて、壊滅寸前に追いやられた玄海流が最後の生き残りによって宇宙に上がろうとしている、ってのはちょっとロマンチックな運命を感じないでも無いかな」

 

「大地に根ざした人間の技ではあるんだけど、その大地というのを定義するのも人間で、それが空に向かい新たな大地を探す事も決して否定されないおおらかさがあるっていうか」

 

「かつて黒沼総帥によって義経師範が死ぬならどこで死ぬ、みたいな事を問われた時に、戦場の中で敵の流した血とその躯の中で死にとうございます、って答えたんだって」

 

「敵との戦いの中って言えば、まぁ屋外だよね。その戦いの中で死ぬ、ってなると、最後に目にするのは何か、って話なんだけど、最後まで戦って死ぬってのはたぶん不意打ちで殺されて死ぬとかじゃなくて戦いの果てに力尽きて死ぬ、くらいの意味合いだと思うんだよ」

 

「力尽き、敵の無数の躯の中で大の字に倒れ、あと数呼吸で死ぬ、という時、義経師範の視線はどこを向いているか」

 

「力尽きる寸前というならそれほど視力は残っていないだろうけど、そんな事は問題ないんだ。その時に師範が目にするのはね、空なんだよ」

 

「それが昼か夜か、晴天か曇天かはわからないけど、その視線の先には空があって、そのはるか先には宇宙(そら)がある、かつて轡を並べて鍛えた男が往く宇宙が」

 

「誰かを待ちたいとか、誰かに看取られて死にたい、とかではないんだよね、義経師範って」

 

「例え相手が自分たちの元に帰ってこなくても、自分たちの方を振り返らなくても良い」

 

「ただ、帰りたくなった時、振り返った先の大地には、死して土と化しても待ち続ける義経師範が居る……」

 

「攻めの局地、殺人拳として特化された黒沼流の師範である義経師範が選ぶ最後って、待ち、なんだよね。これが中々面白いところで、黒沼流は攻めに特化した形ではあるんだけど、その究極には待ちの概念があるんだ」

 

「赤心少林拳黒沼流奥義桜花の型」

 

「これは相手の攻撃に自分の気を一点集中した一撃を重ねて相手の攻撃の力すら利用するカウンターの極致みたいな技なんだけど、つまり最後の締めでは相手の攻めを待つ事が必要になる」

 

「対して赤心少林拳玄海流奥義梅花の型は受け、守りの型だから、戦いにけりを付ける場面では殆ど使われない、使われるとしても改造に改造を重ねられて捻子曲がった梅花二段蹴りとかになる」

 

「つまり、攻めの黒沼流は最後には待ち、受けの玄海流は最後には行く、攻めと受けに持つイメージとは真逆の構成になる」

 

「そして、現師範代である義経師範は地球で土になろうとも帰りを待ち、最後の生き残りである沖一也は重力を振り切り宇宙に行く……中々暗示的な話だと思いませんか」

 

「俺は結局この拳法に実用性以外を求めていないのでアレンジにアレンジを重ねて邪道も邪道って形になってしまいましたけど、この赤心少林拳というのは中々に味わい深い歴史と背景があるんですね」

 

「だからこそ、残された黒沼流とかはもっとおおっぴらに世間に露出してアピールしても良いと思うんですけど……」

 

「聞いていますか皆さん!」

 

「まだまだ解説は続きますよ! 折角赤心寺に来たんですから赤心少林拳の諸々の歴史を学んで行って欲しいんですから! さぁさぁさぁ!」

 

アクガタでの講義以外では珍しい俺のマシンガントークを前に目を白黒させていたライダーと初出し情報の真偽の程がわからないのか単純に混乱している黒沼流拳士の人達。

中から、筑波さんが手を上げた。

 

「なぁ、質問なんだけど……その情報って、黒沼流なら全員知ってる様な話なのか?」

 

「黒沼総帥の正体が宇宙人、って下りから後は殆ど誰も知らないんじゃないですかね。まぁ証明しようにも復活したテラーマクロも魂亡き抜け殻だからどこまで覚えてるかは怪しいですけども」

 

「じゃあ、なんで君はそんな事を知っているんだ?」

 

キリッ、と、筑波さんの眼差しが鋭くなる。

 

「勿論秘密ですが、まぁ、そうですね、そういう意味では黒沼総帥の正体とかドグマ拳法の下りは話半分で覚えててくれれば良いです。特にここには今変身できないスーパー1が居てライダーが三人も居ますから、ドグマとジンドグマが纏めて攻め落としに来てもおかしくないんですよ。だから黒沼総帥がいきなり現れても不用意に近づいて戻られたのですね、とかやらないようにして頂ければありがたいですが無理ならいいです」

 

「良いのか」

 

「師が実は悪人だった、なんて受け入れられる人もそんなに居ないでしょうし、そんな感情論でやられてしまうなら何処かのタイミングで死ぬでしょう? そういう未熟者は自分で体験しないと学べませんから」

 

「それも師匠から?」

 

「ええ! 俺は武術に限らなければ複数の師に学ばせてもらっていますが、この教えはとても役立っています。尊敬すべき師の一人ですね」

 

「そうか、素晴らしい人だったんだな」

 

「しかし……」

 

ぽつり、と、神さんが呟いた。

 

「一也にとっては辛い話になるな」

 

「そうですか?」

 

黒沼外鬼の坐像を見上げる神さんの視線は険しい。

まるきり加害者を見る目だ。

俺としては黒沼流を残してくれた恩人でもあるのだけど。

元のまま分派とかせずにいたら残らず壊滅していたかもしれないし、所在も知れなかったかもしれないし。

 

「だってそうだろう。今の話が本当なら、一也は、いや、赤心少林拳に関わった人間は、全員が被害者のようなものだ」

 

「そうでもありませんよ」

 

ここらへんが、戦士ではあるが拳士では無い人には勘違いされがちなのだけども。

 

「テラーマクロが目論んだ赤心少林拳の壊滅は結局成っていません。玄海流は沖一也が引き継ぎ、黒沼流は本流から引き剥がされただけでまだ元気に継続している。拳法、武道、武術の本質は生存術。それが守りの果にあるか、外敵の殲滅の先にあるかの違いでしかありません。相手が滅んでこっちが生きているんだから、こっちの勝ち」

 

「修羅道か」

 

「人のまま死にたい、なんて人は武術をやりませんからね」

 

こう答えると、もう返事は帰ってこなかった。

人のまま死なせる事に半ば以上無意識ながらも肯定的だった筈のライダー達なら、もう少し反論があるかとも思ったが……。

色々と彼等も彼等なりに考えるところがあるのかもしれない。

 

さぁ、彼等の案内が終わったら、沖さんの水遊びにチャチャでも入れに行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






☆モノローグを除けば過去一喋ってる機密情報垂れ流しマン
本編に戻った後にアクガタでの講義とか描く場面があったらこれくらい喋るかも
或いはジルを教育する時はこれくらい多弁だったかもしれない

☆先んじて色々ネタバレされて沖一也へのヘイトが下がってしまって乙女が顔をもたげ始める乙女師範
内心に関しての推測は全ライダーにばらまかれたけど、別に本人の述懐って訳じゃないからそれほど恥ずかしい事ではない筈
解説を本人が聞いたらどう思うかなんてのは聞かせてみないとわからない

☆色々振り切って宇宙を目指してるけどそんな風に思われていたのか……とかちょっと複雑になる銀色
一概に照れるだけですむ程簡単な思いではないというのも難しいところ
全身に生神経が残っているのでクローニング技術とかが進めば順当に生身に戻れる人
でもそもそも通常の改造人間も脳みそ以外全部機械かっていうと怪しい部分もあるので幸せを掴むかは本人次第なのだ
でもS-1は法的に問題ない改造だから一方通行の改造ってこた無いと思うんですよね……

☆その場に居ないライダーズ
義経とかいう女は面倒な乙女
という認識を得る
顔は知らんけど
城茂辺りはたぶん内心で義経さんの事応援してるし一也にも答えてやれよとか言いたいんじゃないかな
言わんけど
言わんのかい!
ライダー同士って干渉し合うのに干渉さける部分があって面倒くさいよね……

☆ハゲ
市街戦の直後には既に海に漂ってる
実はこのSSでは黒沼流兄弟子ズの中では数少ないまともなセリフ持ち
ネオサイバー赤心寺発言をして師範の破壊したロボタフの破片で吹き飛ばされた人ね
原作で喋ってないので自由な味付けがされた
この外伝で更に味変される

☆別行動グジル
ハゲの死体と共に何処かへ
忘れているかもしれないが主人公は自ら手に入れた技術は大体仲間内で共有しているのでだいたい似たことができる


主人公が喋るだけで終わる話があるらしい
でも外伝故許して
許してくれなくても次回は投稿される
それでも宜しければ次回も気長にお待ち下さい

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