オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
サタンホークに掴まれて義経師範が空に登っていく。
あまりにシュールな光景に思わず笑ってしまった。
こういう時、イクサのデフォ装備に映像の記録機能があって良かったと心底から思う。
後でグジルにも共有してやろう。
サタンホークは特によく考えもせずに、抵抗勢力の指導者を落下死させようとしたのかもしれないが、これは大きな間違いだ。
普通に考えれば、高い位置に持ち上げられてしまえば迂闊に掴んでいる相手を殺すと落下死してしまう。
しかし、ある程度の高さまでなら五点着地などを駆使して衝撃を殺すことができるため、上昇速度に自信がない限りは確殺できる保証がない。
そも、サタンホークの攻撃方法は鷹爪拳なる格闘技で、これは本来は人間向けの象形拳の一種だが、サタンホークの操る鷹爪拳は改造人間向きのアレンジがされた飛び回りながらの空中殺法。
高度からの鉤爪による急降下強襲、或いは、ヒットアンドアウェイにより徐々に相手を弱らせて殺す、というものだろう。
はっきり言って、掴んで飛び上がる、というのはナンセンスにも程がある。
同じくある程度の破壊能力を備えるであろう手は翼と一体化している為に使えず、足の鉤爪は師範を掴んでいる為に使用不可。
顔の上下左右の爪ははっきり言って飾りでしかないし、鋭い嘴も相手を足の鉤爪で掴んでいる間は使いようが無い。
挙げ句、何故かサタンホークは師範を掴んだまま海の方に飛んでいこうとしている。
ある程度の高さから落とせばコンクリートの地面と殺傷力は変わらないので、或いは五点着地などを防ごうとしているのかもしれないが……。
気の操作である程度の肉体強度操作が可能な赤心少林拳の拳士であれば、海の上に落とされる程度なら余程の高度で無ければ問題にもならない。
元はテラーマクロが手塩にかけて育てた直弟子、つまり義経師範の兄弟弟子とも言える強い拳士である筈の存在がこの様な杜撰な戦法を取るというのも悲しい話だ。
さっきまで戦っていたジンドグマの幹部と異なり、改造元の人間の魂は残滓程度にも残っていないのだろう。
拳法を習得する事が前提で作られた怪人が魂の無い傀儡として一般怪人と同じ様に操作されるというのがどういう事かよく分かる。
生前の様に鷹爪拳の拳士として戦えていれば、或いは生身と怪人のフィジカルの差であのヤング義経師範程度ならば殺せていたかもしれないというのに。
せめて肩を掴んだ時に中の骨を砕いていれば手による反撃くらいは防げたかもしれない。
しかし、最悪あの姿勢からでも筋肉の膨張で肩を掴む爪から逃れてしまえば、落下するまでの一瞬でサマーソルトキック的な軌道を描く蹴り桜花を叩き込めるので、掴んだ時点で終わりだ。
何一つ心配する事は無く、むしろ積み上げた拳士としての技量を無の状態で再生されたサタンホークに憐れみを覚える。
俺なら死体か魂のどっちかが残っていれば技量ごと再生できたのに……。
もったいない。
まぁ、再生怪人、などと言う言葉の響きで誤解しがちだが、あのサタンホークとて攫った人間や黒いピラミッドの改造人間素体を元にして新たに作られたものに過ぎない。
正確な言葉で言えば、再生怪人ではなく再生産怪人なのだから、憐れむのもお門違いか。
などと、取るに足らぬ考えを巡らせながらドグマファイターを分解し続けている間に空の上では愁嘆場だ。
自力脱出どころかサタンホークを自力撃破できる義経師範を
気合の入った変身ポーズの素振りは、近々デッキを配るかもという話を般若湯の席でした後に兄弟子達が姿見の前で思い思いのポーズを考案していた時の事を思い出す。
同門に対してのスタンスや分派本家の違いはあれど、やはり沖一也も赤心少林拳の拳士なのだ。
という訳ではなく、あれこそが沖一也に起きたバダンシンドロームの弊害である。
その発症の仕方は通常のバダンシンドロームとは大きく異なり、彼自身の精神には大きく影響しないまま、残された生身部分がバダンシンドロームの影響を受けてしまっているというものだ。
精神崩壊や強烈な破滅願望の発露などは無いものの、通常時とは大きく気の流れが変化してしまっている為、改造手術後であるにも関わらず変身できなかった初期と同じ状態になってしまっている。
恐らく、常と比べて赤心少林拳の拳士としての実力も下がっていると見て良い。
気の練りに雑味がある様に見受けられる。
例えばこれがどんな悪影響を及ぼすかと言えば、肉体の部分硬化が甘くなるので、黒沼流なら桜花でのカウンター時に威力を返しきれずに相打ちになってしまうし、データの少ない梅花なら、攻撃を受け流しきれずに普通にダメージを負う事になるだろう。
だが、逆に言えば弊害はその程度のものだ。
沖一也の肉体は変身できなくとも生身のそれではない。
そして桜花の様に攻撃特化の奥義は無くとも、赤心少林拳と機械化された身体を合わせれば一度殺した怪人は殺せてしかるべきなのだが……。
沖一也の、赤心少林拳を利用しての変身は、今は亡き師や友人との絆の様なものなので、動揺から鉄球攻撃を受け流しきれずにビルの上から真っ逆さまに落下してしまうのもやむを得ないのかもしれない。
生身の脳みその生み出す感傷というものは時に大きな力を発揮するのに必要な
「
義経師範がサタンホークの頭部を桜花で引き裂きつつ殺し損ねて海に真っ逆さまに落ちていく珍プレーの様子を録画していると、先のビルの中から原住民ちゃん達がミニチュアねぶたを担いで出てきた。
威勢のよいらっせーらの掛け声と共にドグマファイターがまぁまぁ残って人を襲っている中に猛然と突入していく。
恐るべき……恐るべき……恐るべきアレ過ぎて言葉を濁してしまうと具体的単語は何も言えなくなってしまう。
繰り返しになるが彼等は何も本当に愚かな馬鹿だ、という訳ではない。
一見してバダンシンドロームには罹患していないが、それでも周囲の大人の殆どが精神を病んでいる中での生活というのは精神を蝕む。
その様な中で、無力感と克己心、そして若者特有の無謀さをコンクリートミキサーにかけてぶちまけた結果でしかない。
彼等も被害者なのだ。
その証拠に今まさにドグマファイターと組み合った黒沼流の拳士が子供ねぶたに突っ込んで、数週間なのか数ヶ月なのか掛けて作り出した彼等の努力の結晶をぐしゃぐしゃに破壊してしまった。
「あ……ああああ!!!!!!!あーあーあー!!」
そして半壊した子供ねぶたの上に、互いの仲間をフォローしようと黒沼流拳士とドグマファイターがつっこみ完全に原型を留めない程に破壊され、原住民くん達が絶望顔で悲鳴を上げた。
まぁ、そうなるな。
申し訳ないけどこの流れはちょっとコント過ぎる。
正直、仮にも戦いの中で笑ってしまった。
原住民くん達がらっせーらし始めた辺りで外部スピーカーをオフにしていた俺を褒めて欲しいくらいだ。
探せばドリフに似たコントがあるかもしれない。
《草。何そっちコントやってたの?》
と、脳内にグジルのテレパシーが入った。
内容からして既に此方の事を視認できる位置に居るのだろうと魔石の位置を確認してみれば、結構近くまで来ている。
《そう言ってやるな。彼等もあれで必死なんだ。たぶん》
こういうやり取りをするのは戦闘中にしては気が抜けすぎているかもしれない。
しかし正直、こっちでの戦闘はまぁまぁ気楽なのだ。
最終的に去るから細かい風聞を気にしなくて良く、戦闘中に自発的に巻き込みでもしなければ周辺で民間人が死んでも大した問題にならない。
そしてこの地の原住民達は俺の友人知人とも俺とも無関係なので死んだ所で痛くも痒くもない。
だから、彼等が自発的に行う行動は、俺の邪魔にならない範囲のものであれば特に気にもならない。
そりゃあ死んだら『うわぁ原住民が死んだ』とは思うが、死んでない上で面白いことをされたなら面白いと思ってしまうのは仕方がないだろう。
黒沼流の片目兄弟子が原住民くんの胸ぐらを掴んで、
『自衛能力が無い状態で戦場に突っ込んで大声を上げながら踊り狂うと敵の注意を引いてしまうしそうすると君たちは怪我どころか死んでしまう可能性もある』
『もしもこの先バダンシンドロームをどうにかすることができるようになったとしてもその時に君たちが死んでいたら親御さんやご兄弟は悲しむので無茶はするな』
という文章を『
ここで原住民くん達を無視してドグマファイターの殲滅を優先しなかったのは片目さんの優しい心根が仇となった形となるが、彼もこの時間軸だとまだまだ未熟なので仕方がないのかもしれない。
片目さんは子供に何ができる、と言ったが、ドグマファイターの注意を引いてはいる。
俺に注意を向けていたドグマファイターも注意が僅かにねぶたの掛け声に向いたので、その隙にイクサカリバーを取り出し刀身を分裂させ振るう。
彼等を取り囲んでいたドグマファイターの包囲は一瞬で崩れた。
同時、他方から十字手裏剣と鞭……ライドルがドグマファイターに襲いかかる。
既に遠目に見えていた此方に向かうライダー達だ。
ヘリも人間が目視できる位置まで来た。
そのヘリの上にはチェックマシンを吊り下げたグジル……炎の翼を背負ったレッドイクサが。
残りのドグマファイターを適当に始末する頃には、SPIRITSのメンバーもヘリから降りて負傷者の収容を始めていた。
意外なのは、それほど敵意は向けられていない、という事だろうか。
沖縄で脳みそを揺さぶったメンバーが結構居るが……。
まぁ、冷静に考えれば俺の行動は彼等から見て怪しいが、明確に敵対しているという訳でもないのでこれくらいが正当な扱いなのかもしれない。
「おりゃ」
レッドイクサが風呂敷(平成時代のライダーの柔軟なスーツ部分の素材をふんだんに使った特別製)に包んだチェックマシンをごとんと地面に置く。
位置はスカイライダーに墜落直前に助けられた沖一也の目の前だ。
ここまでの諸々、沖一也が四幹部倒した直後に一旦チェックマシンでフルメンテナンス受ければ回避できたかもしれない話ばっかだったからな……。
戦いも一段落ついて周囲にライダーがスカイXゼクロスと三人も居るから今度こそチェックマシンを使ってくれるだろう。
SPIRITS?
ライダーの人たちってそもそもSPIRITSをその場を預けて良い戦力としてカウントしてるか微妙なとこあるし……。
「なんです?」
そんな事を考えている間、此方に視線が突き刺さり続けていた。
ゼクロスだ。
新宿で会った時の尖ったナイフの様な雰囲気は鳴りを潜め、落ち着いた立ち振舞を見せている。
彼にもこれまでに色々とあったからな……。
一応沖縄でも会ったけどあの時もなんでか興奮してたし。
「いや……」
「まぁ、なんです? 落ち着かれたようで何より」
「そう見えるか?」
「ピラミッドに直キックしようとしてた時よりは良いと思いますよ」
「そうか……」
「沖縄ではなんでか絡まれましたけど、貴方の精神的復調を祝してチャラにしてあげましょう。俺は心が広いので」
返事は無いし、ゼクロスに変身中である為に表情は見えないのだが、何故かムスッとした不機嫌な表情が見える気がした。
「ああいう人なんですか?」
「ああ……多分な」
スカイとXが何か話しているが、そういう圧縮言語でわかり合ってばかりだから閉じコミュとか言われるんだぞ昭和の戦士どもめ。
―――――――――――――――――――
それほど長い訳でもないチェックマシンによる整備を終えた沖一也の目の前で、スカイ、X、ゼクロスの三人が変身を解いて素顔を晒す。
どうも、話を聞く限りでは沖一也は東北全土と北陸を任されていたらしい。
無茶では?
と思うかもしれない。
繰り返しになるが彼等を責めてはいけないのだ。
改造人間は脳まで機械という訳ではない。
戦いの日々を繰り返す中でいろいろなものが世間の一般常識からずれてしまっているのだ。
彼等が倒している怪人は結構な割合で元は人間。
そういう訓練を受けていない人間がある日を境に日常的に元は被害者である人間を殺し続けなければいけないとなれば、脳は正常な状態を保つのも難しいだろう。
これでも日本を守りに集結しただけでもマシだと考えるべきだ。
「君は、変身を解かないのかい?」
「変身を解く……? ああ、貴方方には可逆変身機構が内蔵されているのですね」
という、言外に人間への擬態能力を持たない改造人間であるかの様なジョークを飛ばす。
するとこういう人たちは一斉に表情を暗くするのだ。
これが所謂、覆面やヘルメットのままではホテルにチェックインできないが、包帯ぐるぐる巻きの状態ならデリケートな話になりかねないのでそのままホテルにチェックインできたりする現象の原因となる感情である。
なおこの嘘はばれるまでの期間が長ければ長いほど相手との関係が悪化しかねないので早々にネタバラシをしなければならない。
「そう暗い顔をしないで下さい」
「だが……いや、スマン」
代表する様にこのメンツでは一番悪い理由で肉体を改造された村雨さんが頭を下げた。
「別に俺が人間態を取れないとは言っていませんので」
「…………そうか」
人間態を取っている村雨さんは実に表情が豊かだ。
一発見ればこれとわかる程にわかりやすい不機嫌顔になった。
生の感情丸出しで可愛いね♡
まぁ戦いは品性でするものではないから別に良いのだけど。
「そう怒らずに、俺が変身を解かないのにも理由があるのです」
「理由?」
「そう、それは……」
その時、ドグマファイターに蹂躙されてお通夜な青森の街にご機嫌な歌声が響く。
がーんがーんがんがらがんがん、がんがーんがんがん。
「はっ、この歌は……」
耳ざとく反応するスカイライダーこと筑波さん。
俺もトンガラトンの歌にも似ていて個人的には好きだ。
が、これを歌っている人物が問題で……。
胸にGGの文字の入った胴鎧、頭部には角飾りと嘴の付いた兜を被った愛嬌と不細工さが絶妙なバランスを保つゆるきゃらの様なものが走り寄ってきて、
「がんがんじぃー!!」
「洋はぁーん!!」
ニッコニコの表情で飛びついてきた筑波洋とがっしと抱き合ったのだ。
これだけなら夢の国でも日光江戸村でもまぁまぁ見る光景なのだが……。
「久しぶりのコンビ復活や!! 会いたかったでぇ!!」
なんと、このゆるきゃら、がんがんじいは自ら兜を取り、人間の素顔を晒したのである。
目尻に涙を浮かべる様は、彼と筑波洋の絆の強さを感じさせる。
こういうホモソーシャル的な強い関係性があるのも彼等の特徴なのだ。
しいて言うなら俺と中村くんの様なものなのだろうが、しかし再会時に抱き合うというのも中々無いというか……。
まぁそこらの関係性は昭和ならではなのかもしれないから良いとして。
が、それを傍から見ていた村雨さんは、深刻さを抜きにすればJUDOと対峙した時に匹敵する程の驚愕の表情を浮かべている。
それはそうだろう。
ある種のマスコット的な何かと認識していた、或いは人類側に寝返った弱めの怪人の一体か何かと勘違いしていた節がある村雨さんにとってこの真実は正に青天の霹靂。
ダサ可愛いマスコットが自ら中の人を晒したかと思えば、それがムチぃムワぁと擬音の付きかねない汗だくのむっちり中年男性だったのだ。
別にブサイクという訳ではない、昭和邦画とかではまぁまぁ見るタイプの個性が光る顔なのだが、それが常からゆるきゃらの皮を被って活動しているとこういう事になる。
「あ、因みに彼のような事態になるという訳ではなく、単純に素性バレを防ぐ意味合いなので悪しからず」
「いや、まぁ、良いけどね、もう……」
色々なものに呆れながら、Xライダー、神敬介が納得してくれた。
実際、この世界ではそこらの問題は非常事態故に有耶無耶にされているが、彼等ライダーとて元の敵と戦っていた時は大半の人間に正体を隠して戦っていたので、これ自体を非難される理由もないのだけど。
「では、協力体制を取れる、と考えて良いですか?」
と、割り込んできたのは、目つきがキツイ金髪のおねいさん。
何故かボディラインの見えるレザースーツの様なものだけを身に纏っているが、どうも強度に関しては他のSPIRITSメンバーのそれと変わらないらしい。
生身で武道収めてるわけでも特殊能力があるわけでもなく前線に出るのに正式装備のボディアーマー着ないとか死にたいのだろうか。
画面映えを気にしないといけないフィクションならばともかく……。
「え?! 結果的にとはいえアマゾンの腕も腕輪も取り返してあげたのに人の移動方法と主目的にいちゃもん付けていきなり武器を向けてきたり、戦場ふらついてた生身一般人の子供達をニセライダーから助けてあげたのに機関銃で狙い撃ちにしてきた人たちと共闘を?!」
両手を右上左下に広げて漫画のようなオーバーリアクションで驚いてみせる。
が、金髪ねーちゃんは村雨と違ってセメント対応だ。
「主目的とは?」
せっかく変身したまま冗談が言える貴重な機会だが、リアクションが望めないならふざける意味もない。
やましいところなど一切無いので素直に答える。
「アマゾンさんの腕輪あるじゃないですか、一回見てみたかったんですよね」
「火事場泥棒の改造人間かぁ?」
金髪の大男さんが皮肉?を飛ばしてくる。
これがアメリカ流なのだろうか。
俺は海外は滅多な事では行きたくないし、この世界来てからまともに交流したアメリカ人はニューヨークのカフェに居る黒人爺さんと可愛い金髪のお嬢さんくらいだから、こういう感じ悪い対応は中々に貴重だ。
彼等流で返してあげよう。
肩をすくめ、わざとらしくため息。
アメリカとかでやってるホームドラマとかで見るそれだ。
「アマゾンさんがあの状態じゃなけりゃ、ちょっと見せて下さい、で済んでましたよ。どういう足手まといが居て奪われたかは知りませんけど、ちゃんとした戦力集めた方が良いのでは?」
「なんだとこのっ……!」
おっと瞬間湯沸かし機。
肩から吊るして腰だめに構えた捕鯨銛の様な武器を此方に向けてくる。
因みに、アメリカ人とかでもああいう武器を使う人間はそう居ない。
というか人間が生身で構えて撃て、改造人間をある程度の数まで貫通できる威力から見て、結城丈二とかから技術提供を受けて作った特殊な武器なのかもしれない。
そうでないならアメリカにはあの手の武器が普通に流通しているという事になるが……。
「ごめんなさいね、言い過ぎました」
「まぁまぁ、抑えて抑えて」
「くっ……」
白髪ポニテの小柄な男が半笑いで大男を抑えてくれるが、この小男も目は笑っていない。
曲者揃いの隊員の中でバランサーとかをしているのだろう。
もうちょっと煽るか……。
「しかし傍から見ている者として言わせてもらいますと、粗製乱造の復活改造人間に藁束みたいに気軽に虐殺されたり、機関銃程度しか搭載していないヘリで部下ごと龍に突っ込んで勝手に全員戦闘不能になったりするのが貴方方だ、という事です。これが最善を尽くしての結果というのであれば、勇敢な戦士だった、で黙祷でも捧げるところなんですが……」
あ、言ってて思ったけどこれ普通にムカつくな。
相手がムカついているだろう、ではなくて。
ベルトの制御が無ければ普通に憤りを感じてただろうという意味で。
「違う、と?」
小男が問う。
温度のない視線止めてね。
「んー、怒らないで下さいね」
「内容によります」
「ごもっとも。……敵を殺したい、復讐したい、って集まったのに、ちょっと目の前でかっこいいセリフ言われただけで何となく生身のまま戦場に出て死ぬとか、そういう
ざわ、と、周囲の視線が集まる。
明確な敵意だ。
ライダーの方々も此方に視線を向けている。
金髪ネーチャンの視線も鋭い。
グジルは壊れた子供ねぶたに腰掛けて原住民くん達の事を励ましている。
次はエレクトリカルパレードを参考にして作り直しゃいいよ、ってのは励ましの言葉ではないか。
黒沼流の人々は何かあったのかと遠巻きに様子を見ている。
義経師範は遠巻きにこちらを気にしながらも沖一也に意識が向きっぱなしだ。
「馬鹿馬鹿しい、とは」
「全身機械になんてなっちまった日にゃ惚れた女も愛せない、ウカウカしてりゃやわな子供の手なんてグシャッ、まともに老いないからどんな最後を迎えるかもわからない、争いの無い平和な日が来た日にゃお払い箱で誰も必要としてくれなくなる、そんな生き様はお前たちには務まらない、でしたっけ」
繰り返し繰り返し繰り返しになるが、彼等が悪い、という訳ではない。
何度でも言うが、SPIRITSの内容物は寄せ集めで金目当ての傭兵はともかく、脳みその茹だった復讐者なんかを加工もせずに使っている様な状態だ。
そこで、情感たっぷりの上手い語りで話されたら、まぁ、勘違いして、魂だけでも、などと、馬鹿な事を誓ってしまうかもしれない。
「女を愛せないが子供を作れないって意味なら事前に精子バンクにでも登録しときゃあいい。力加減の問題で相手を物理的に壊しちまうってのはそもそも肉体を制御する為の脳改造を省いている、改造を中断した結果の欠陥だ。ショッカー始め秘密組織が脳改造するのは何も洗脳の為だけじゃないが……長年そういう手合とやりあってると脳改造は絶対悪、なんて勘違いしちまうんでしょう。そういう意味じゃこれ言ってる人も別に悪くは無いんですけども」
朗々と唱えあげる。
怒りを滲ませながらも聞いていたSPIRITSの人たちは困惑顔だ。
それはそうだろう。
この演説は別に文章として交付されているわけでも動画として配信されている訳でもない。
部外者がなんで知っている、という話だ。
だが、そう。
俺はこの演説に対して、非常に不快感を抱いているのだ。
彼等と心を通わす事はまず間違いなく無い。
なんなら元の世界の警察の方々と、二十二号としての俺以上に激しい断絶があると思う。
しかし。
時には心の中のありのままを口にしないと健康に悪い。
分かり合うためではなく、わからせよう。
「そもそも既に人類の発展の為に設計されて作られた改造人間がそこに居る。それは少なくとも秘匿されていない」
沖一也に視線を向ける。
神妙な顔だ。
というか、沖一也は先の演説を知らないだろうから、何のこっちゃだと思うのだが。
「そしてその用途は宇宙開発、後ろ暗いところは……まぁ、奥沢さんの件とかで無い訳ではないが、現時点では特に法的問題も倫理的問題も無い。そもそも強靭な肉体と腕力、各種高精度センサーを備える改造人間が活躍する場所は人類社会の至るところに存在するからなんならお払い箱どころか引っ張りだこになる。一定以上の品質の改造人間は人間やロボットでも作業が難しい場所で大活躍だ。そもそも仕事が傭兵やら軍人なら普通に仕事に使えるだろうが馬鹿か、すまん馬鹿だったな、雰囲気に流されるタイプの」
いや、最初は偏見の目があるから難しいだろうけども。
そこはぼかして続ける。
「そして、お前らみたいな腑抜けに務まるか?でしたっけ? 腑抜けに務まる務まらないってのがそもそもの話お門違いなんだよ! いいか?」
手を広げる。
淡々と喋っている所で徐々に語気を荒げ始める事で更に注目が集まる。
「かの生化学の権威、そして、
身体を撚る身振りで情熱をアピールする。
「科学者が生み出すものは拳銃や爆弾だけではない、
握りこぶしを掲げる。
「それを! 激しい戦いの場で生き残る為に使用する事の何が悪か! それは銃でも爆弾でもない! 被験者の肉体の代わりに命を守る盾だ! そういうっ、自分は被害者も加害者も見てきたから詳しいんだ、などと、偏った経験だけで勘違いした人間の、悪意なき差別意識が! 人を活かす為の技術を
お、周囲の視線から敵意が殆ど無くなったな。
皆神妙な表情で耳をそばだててくれている。
大男も舌打ちしながら銛を下げてくれた。
嬉しい話だ。
期待に答えて良い落ちを付けなければ。
「……そうして、改造手術に関して煙に巻かれて、不十分な装備、不十分な戦力で、向かう戦場は只の死地だ。俺から言わせて貰えればね、あなた等はそこのげん……学生達と大差無いんですよ。まぁ、最初はまともな選択をしようとした、という点では賢いと思いますけどもね。生きているのは、運の問題でしかない。貴方方のその装備を無視してまとめて始末できる様な兵器は相手方にいくらもある。それを使われないのがなんでかわかりますか? 相手にされてないんですよ」
鼻で笑う。
「今ある技術や技を全て駆使して全力で戦っているっていうなら、戦士として敬意を払おう。だが、貴方方は違う。戦いでない、狂人の度胸試しの紐なしバンジーなら余所でやってくれ」
「だから、共に行けないと」
隙を見て殺そうとしている様にしか見えない目つきをしていた金髪ねーちゃんが、何やら複雑な感情の入り混じった声色で確認するように問う。
一息。
変身を解いていないから表情は見えないだろうが、恐らく俺の顔はとびきりの笑顔になっているだろう。
両拳を前に突き出し、親指を立てるダブルサムズアップ。
「いえ! 言いたいこと言ってすっきりしたから一緒に行きましょう! 色々言ってごめんなさいね!」
仮面ライダー四名、ムチムチゆるきゃら、SPIRITSに黒沼流の面々までが、揃いも揃ってその場でずっこけた。
昭和ならではの平成では中々見ないリアクションだ。
昭和の人間だからって普通はリアルでこんなリアクション取らないけどな。
グジルだけは話のオチを聞いてゲラゲラ笑っている。
あー、しかし。
たまには感情むき出しで喋るのも、健康に良いものだ。
今後も後腐れのない場所とかでやろうかな。
話が進まない進まない
でも書いてて楽しかったからいいやって話
あ、この話はアンチ注意ですので
☆作品として見ていた時も抱いていた諸々の不満を無責任に演説して最高に脳みそスッキリしたブラックイクサ
どれくらいスッキリしたかって言えばなごみお姉さんと二泊三日温泉旅行に行った後くらいスッキリした
戦いに制限を付けるのは旧グロンギでもあったけど、他人の感傷に付き合って準備を不十分にするみたいなのには一切理解を示さない
ましてその感傷が個人の経験から来る偏見を根底に置いたものならなおさら
変身を解かないのは正体隠しの為って言って文句言えるライダーはあんまり居ないと思うので暫くはそれで通す事になった
はっきり言って笑わせるタイプのジョークセンスは無いが空気を凍らせるセンスはある
女も抱けるし子供も撫でられるし老化の心配も無いし探せば仕事はいくらでもある
しかしそれが自分の正体を明かす事に繋がるかは別
最終的には便利扱いされるだろうけど改造人間とかそりゃ暫くは社会に受け入れられるわけないよなって辺りが本音
やっぱり改造手術じゃなくて自力で変身術を習得しないとね、それが時代だからね
人のフリ見て我が振り見ない
心の中の棚が地球の本棚くらいある
☆義経師範の姉弟子である可能性もあるサタンホーク
まぁ元の人間の要素なんて残ってないから再生産された同型でしかないけど、拳法が前提の怪人とかだと戦力半減とかいうレベルではない
SPIRITSではこの程度の怪人はまぁまぁ雑に処理されるが、生前の拳法家としての技術を備えたまま戦っていたら義経師範と激闘を繰り広げられたかもしれない
が、このサタンホークはただの鳥人間でしかないので死んだ
対してテラーマクロが普通に拳法を使えたのは各組織の首領はJUDO直属だからだと思うんだけど、そうなるとJUDOも相当な拳法を使えるという事になるのではないだろうか
少なくとも何万年何億年の戦闘の経験値がある事は語られてるけど
肉体スペック任せの初期のゼクロスとの戦いはまぁ手を抜いて遊んでたって事なんやろね
下手したら元のライダーよりも肉体を使いこなして上手く戦える、という可能性もあるけどそれをやると勝ち目とかどうするんだろうか
☆戦闘員たっぷりの戦場にねぶたかついで突撃して大声でらっせらする原住民くん達
しかもその状態でねぶた破壊されて絶望した挙げ句、ドグマファイターに囲まれたら嘘ーとか叫んじゃう、こっちが嘘ーじゃ当たり前の状況じゃろが
はっきりと狂気の沙汰ほどとかいうやつ
でも身近に精神を病んだ人間を置いて生活すると正常な人間も精神を病むのでこの日本には最早正常な人間は数える程しか居ないのかもしれない
でも結果的にこいつらの振る舞いが青森をバダンシンドロームから救う
人類を餌にしようとかいう相手には尋常な精神では立ち向かえない、という暗喩なのかもしれない
☆色々思い返すとこもあるけど当時の俺もちょっとアレだったし、そもそもなんで沖縄ではこいつSPIRITSに銃向けられてたんだ……?とかなったパーフェクトサイボーグ
銃向けられて急いでたならそりゃ反撃もするよな……と何故か好意的
不自然に思うかもしれんけど自分自身バダンからの離反者だし怪しい行動してるけど結果的に助けられてはいるから多少はね?
正直作中描写でシリアスとコメディ時の違いからこいつ結構天然なんだなってなる
☆成立当初の演説を全否定されるも内容と演説の圧に押されてなんか何も言えなくなってしまったSPIRITSの面々
最後ふざけたけど言葉には熱があったからこいつにもライダーみたいに色々あったんやろなぁってしんみりしてしまった
最初の滝さんの演説でなんやかやまとまるだけあって復讐者と傭兵の群れの癖になんだか人情家っぽい雰囲気あるからこういうのに流される
そいつ真面目に戦わない戦士が嫌いなだけやぞ
でもこれでちょっと心変わりした人とかも居るし、人づてにこれが滝さんにも伝わったりすると話がこじれる
☆エレクトリカルパレードとはまた別の趣があったんやろなぁって事は一応理解してるアギト急便
実は元の時代のねぶたは結構色々バリエーションがあってそれこそ伝統の祭りの匂い以外もあってエレクトリカルパレードに負けず劣らずだと思っている
それはそれとして作り直すならエレクトリカルパレードみたいにもっと電飾増やしていいよな!
人が乗って歌って踊れる様に和紙じゃなくて強化セラミックで作ろうぜ!
いかついおっさんと龍じゃなくてリラックマにしようぜ!
火炎放射器搭載して、そこの女はリオのカーニバルみたいにしようぜ!
手伝う気は無いので傷心の相手でも好き勝手言うだけ言う
しかし、それがねぶた原住民達の心に火を付けたのだ!
次回ようやく黒沼流と沖一也が絡ませられる
何故か長くなってしまったけどこれそういうSSなので……
主人公の語りが多いとか言われるけど初期から戦闘シーンがある話でも半分は主人公のモノローグだったからね、仕方ない
それでも宜しければ次回も気長にお待ち下さい