オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
月を覆い隠す分厚い雲が、倒壊したビルを焼く炎に赤く照らされ、照り返しで照らされた夜の街は、夜半を過ぎてなお夕暮れ時の如き様相を見せる。
炎に照らされるのはまさに地獄絵図だ。
崩れたビル、陥没した道路から水が吹き出し、そこいらに無造作にかつて人間だった肉塊が転がされている。
手だけ、脚だけ、半分、潰れた全身、上だけ、下だけ、中身だけ、外身だけ。
顔が残されたものは、皆残らず苦悶の表情を浮かべている。
瞼は開かれたまま、地獄を見せつけられながら死んだ死体の、乾きつつ有る瞳がまたもこの世の地獄を写す。
そして、地獄に抗う戦士たちの姿も。
それはまず人であった。
多くの死傷者を出しながら、しかし配備された銃器と神経断裂弾によって、ゆっくりとではあるが街に溢れる怪人、白い未確認を減らしていく警官隊。
彼等は皆一様に転がる市民の死体を目にし、しかし悔しそうにしながらも未確認への対処に当たっていく。
せめて瞼だけでも、その思いが実行に移せるのは、この世の地獄から未確認共を駆逐して、生き残ったものだけの特権だろう。
彼等の多くはボディアーマーすら無く、未確認に距離を詰められて攻撃を受けようものなら即死しかねない。
しかし、それでも彼等は怯まない。
それは敵を、未確認を倒す為ではない。
未確認に平和を脅かされている、現在進行系で命と平和な生活を脅かされている市民たちを救い守る為。
人のまま、人としての正義で、彼等は命を掛けてこの地獄を駆ける。
「そらッ!」
或いは、それは異形であった。
未確認と見紛う、人と同じシルエットを持ち、しかし人間のそれとは程遠い異形の戦士。
誰ぞ知るか、その戦士は正しく人にして人にあらず。
人として鍛え、人を越え、人の心を残したままに鬼へと変じた戦人にして防人。
グロンギの肌とも異なる、しかし生物的な滑りのある光沢の肌に、楽器に似た意匠を纏う鬼の戦士は、雑居ビルを踏み潰す程のサイズの白い未確認に跨がり、その背に刃を突き刺す。
いや、突き刺すのは刃ではない。
刃を備える、ギターにも似た長物は、邪悪、妖魔を滅する神具の一つ。
その名も音撃弦・閻魔。
ベルトのバックルに備えていた音撃震・極楽を閻魔に取り付け、弦を掻き鳴らす。
「音撃斬、閻魔裁き!」
演目を紹介する楽師の如く高らかに宣言すると共に、響き渡るのは清めの音。
人の耳、人の身体には一切悪影響のない、激しくも何処か神聖さを感じさせる音撃が、しかし巨大未確認の身体に響き渡れば、苦悶の声と共にその身体に罅が無数に走り……。
「はぁっ!」
爆散。
この音撃を叩き込むまでに撃ち込まれた神経断裂弾のお陰か、はたまた鬼自身の浴びせた拳や蹴り、雷撃などのお陰か、あるいは元から何らかの激しい肉体的負荷があったのか、巨大なサイの未確認は青白い炎を上げながら灰の山へと変わっていた。
そして、白い未確認を殺すのもまた白い戦士であった。
怪人ではない、科学の力で作られた機械の鎧。
白い未確認の如きくすんだ灰に近い白ではない純白の装甲は、正しく科学の騎士と呼ぶに相応しい。
十字架の如き金のバイザーから覗く視線が未確認を捉え、異様にマガジン部の長い銃の引き金を引く。
放たれるのは神経断裂弾、ではない。
警察ですらようやく量産体制が整ったばかりの弾丸を、警察関係者でない謎の白い戦士が持つ筈もなく。
しかし、僅かに絞られた引き金により、狂ったように銃口から吐き出された銀の弾丸は未確認の顔面を襲い、眼球を一時的に破壊する。
柔らかい部分を破壊され怯んだ未確認に、白い戦士が懐に潜り込み、拳を叩き込む。
体全体を捻るようにして左右の連打を繰り返す。
片手は無手、片手にベルトのバックルに装着されていたイクサナックル。
再生能力では対処しきれない、脳を揺さぶる連続フックにぐらつく未確認。
そのベルトに、高圧電流を纏ったイクサナックルが叩きつけられ、バックルを砕く。
それが未確認の身体能力に何らかの変化をもたらしたのか、動きを止める。
そこに、すかさず警官隊が神経断裂弾を打ち込み、絶命させた。
鬼の戦士の事を警官隊は知らない。
だが、人語で明確に助力を申し出てきた鬼の戦士は、四号という前例とこの緊急事態という事もあり、スムーズに受け入れられた。
白い科学の騎士の事を警官隊は知らされていない。
ただ、上層部よりの通達で、明確に敵ではない事だけが保証されていた。
四号を元に開発中の装甲服の事もあり、これも違和感なく受け入れられた。
突然の闖入者達。
しかし、既に混乱を極みにあった現場にあって、それは間違いなく力強い味方として受け入れられ、未確認の撃破へと貢献している。
例え、事態が収束した後に何らかの箝口令が敷かれたとしても、今この瞬間に人々を助ける力である事には何ら変わりない。
魔化魍との激戦の日々の中、唯一取れた休日で東京観光を楽しもうとしていた鬼の戦士も。
街で暴れ始めた未確認の群れを見て、上司の制止を振り切り参戦した白い鎧を纏う戦士も。
素顔や所属や正体を晒すことが出来ずとも、人々を守りたいという思いだけは、間違いなく共有している。
被害は大きい。
この日、東京に居た人間は誰であれ少なからず被害を被っただろう。
家族で住んでいる者は、その大半が何らかの形で家族を失ったかもしれない。
だが、戦況は収拾されつつあった。
ゲゲル省略という餌に乗せられたグロンギの戦士達はその殆どが改めて命を落とし、遺骸すら残さず灰になり、残るは数体。
「五代、ここは任せて、お前は行け!」
銃弾が切れたライフルを投げ捨て、製作中の新型装甲服に搭載予定だったナイフを手にした一条が叫ぶ。
その背後で一匹の未確認に剣を突き刺し灰にしていた五代は、その叫びに一瞬だけ逡巡する。
事態は収束しつつある。
しかし、現状が既に想定外なのだ。
一度に大量の未確認が連続殺人を開始した以上、ここから更に増えないとは誰にも言い切れない。
そこで自分が抜けて、被害が更に拡大でもしたら……。
「もう、寄り道はするな。二十二号と協力して……0号を倒して、冒険に戻れ」
静かな声に振り返る。
有無を言わさない、反論は許さないと、そう語る頑なな、不器用そうな赤い背中。
「ここまで君を付き合わせてしまって──」
「良かったと思ってます! 一条さんに会えたから、だから」
言葉を遮ったのは、謝ってほしくなかったから。
余計な道でも、無駄な時間でも、苦しいだけの戦いでも無かったと。
振り返る。
背中合わせに、どちらともなく、親指を立てる。
互いに向けた、互いが見ずとも分かるサムズアップ。
背中越しの別れ。
名を呼ぶ事もなく、五代と一条は、互いの戦いに向けて走り出す。
多くの犠牲者を出し、しかし、程なくして、東京の混乱は収まるだろう。
そこに、未確認生命体四号は、戦士クウガは必要ない。
旅人は、最後の戦いへと臨む。
―――――――――――――――――――
邪気のない、屈託のない笑い声が、吹き荒れる吹雪と打ち消し合う様に、しかし、絶えること無く九郎ヶ岳に響く。
怒りも無い、苦しみも無い。
ただただ、現世の穢れを知らぬ天使の様に無垢な喜びだけがある。
怒りも憎しみも苦しみも無く、ただ喜び、楽しみと共に、圧倒的な力が九郎ヶ岳を蹂躙する。
「はは、ははは!」
二十二号が笑う。
未確認ではない、人間としての彼ですら、ここ数年発したことの無いような笑い声。
無邪気な幼子の様な笑い声と共に、踊るように駆ける。
ボクシング、いや、まさにダンスの如きステップ。
蹴り足が捉えるのは雪原ではなく、形を失った大地。
一歩、また一歩と跳ねる度、その足場が爆発するように昇華されていく。
踏み込む脚先の雪も地面も高温のプラズマと化し、足先で精密に制御された爆発力が、見た目の身体の動きからは想像も付かない軌道を、そして、速度を生み出す。
不規則な、それこそ、連続して発生した爆発に吹き飛ばされ続ける様な動き。
しかし、鍛え上げられ、更に霊石の力により強化された体幹が、三半規管が、神経が、脳が、その軌道を完全に把握し掌握する。
浅く握るのは拳、脱力から生み出される最高の初速は、相対する敵/パートナーを、受け入れる/殺害する為。
手首、足首のコントロールリングは迸るモーフィングパワーを稲妻として迸り、次の瞬間にも無から如何なる凶器をも生み出すだろう。
「ははは! あははは!」
対するダグバも笑う。
常の彼と同じ様に、しかし、封印を解かれ現世に復活してから初めてと思う程に、腹の底から笑う。
堕ちた戦士を嗤うでもなく、ただただ祝福するように笑う。
その動きはまるで二十二号の鏡合わせ。
地に足を付けての技の潰し合いだったほんの少し前までが嘘だったかの様に、自在に空を駆ける。
たとえ相手に背を向けても、意識はただ相手にのみ向いている。
目にも止まらない、いやさ目にも映らない立体軌道が、宙空で激突。
ぶつかり合う衝撃に、熱に、互いの肉体が激しく変形する。
頑強である筈の装甲はひしゃげ、肉は潰れ、骨は砕け、しかし、血の一滴すら流れないのは何故か。
それは、装甲の下、肉も骨も、インパクトの瞬間に流し込まれたモーフィングパワーにより強制的にプラズマ化されかけ、それを互いのモーフィングパワーで打ち消し、しかし打ち消し切れずに滞留、内部で熱エネルギーへと変化して炭化させているからだろう。
「は、は……」
「あはぁ……」
僅かな息切れ、しかし、それすらも笑い疲れた様に聞こえる。
苦痛が伴う筈だ。
ひしゃげた装甲は皮膚の変化であり、肉が潰れ骨が砕ける感触も、潰れて用をなさなくなった肉が焼き潰される感触も、一瞬の内に壊れた何もかもが再生する感触も。
それら全てが、数万倍に増幅された感覚器官によって脳を掻き回している筈だ。
常人なら、いや、如何な屈強な戦士でも泣きわめき転げ回る感覚の筈だ。
肉体が無事に再生されたとしても、心が折れる筈だ。
この戦いを見る者が居たとするのなら、そう思うだろう。
「ああ、あああ、ははは」
「ふふ、うう、ふふふふ」
立ち上がる。
それは苦痛を堪えながらではない。
ただ単に、直立する事が可能なまでに肉体が修復されたが故に立ち上がったに過ぎない。
そこに感慨はない。
ただ、楽しみを目の前にし、駆け寄る子供の様な喜びしかない。
ああ、なんと甘美な事だろう。
何度殴っても死なないだなんて。
肉を潰しても、骨を砕いても立ち上がるなんて。
ああ、なんと楽しい事だろう。
殺そうとする事が。
殺されそうになる事が。
殺しても殺しても、死なない。
そんな相手を、これから殺せるのだ。
互いの身体を真横に稲妻が貫く。
自然界でもそう見られない程の巨大な雷。
互い違いに、いや、何の予告も予兆もなく、互いが同時に放った致死性の雷撃。
真っ当な生物ならば、いや、そこらの化物でも容易く命を落とす規模の電流。
無傷、ではない。
互いが互いに、相手の肉を焼き、血を沸騰させ、揮発した脳細胞が頭蓋骨を内側から破裂させかねない程に圧迫した。
だが、どちらもそれを感じさせない。
手を相手に向け、早足に歩み寄る。
距離が詰まれば、ただ、掴み合い、殴り合う。
重い打撃音が続く。
時に血飛沫が舞い、時に炭化した血液が装甲の隙間から溢れる。
互いの拳が顎を正面から捉える。
下顎がぐしゃりと潰れ、しかし構わず殴り返す。
互いの手刀が肩口から入る。
まるで刃物と同じ様に抵抗なくその装甲を切り裂き、内部の胸骨と肋骨を、肺を切り裂き抜けていく。
血が、肉が、骨が、切り裂かれた装甲を、皮膚を内側から突き破り、撒き散らされる。
しかし、次の一撃を繰り出す時には、まるで経過した時間が倍速で巻き戻される様に、欠損は修復されていく。
「はははっ!」
白い、振り下ろし気味の右拳。
金の六本角に握り拳が切り裂かれ、しかし構わず振り下ろされ続ける拳が黒い複眼を叩き潰し、頭蓋を陥没させる。
「ああ、あ、はは!」
黒い、刳り込む様な左拳。
カウンター気味に振り抜かれたベルト狙いの一撃が、頭部を砕かれた衝撃で僅かにずれ、スパイクを生やした拳が鳩尾に文字通りに突き刺さり、心臓を破裂させる。
共に即死級のダメージ。
方や脳の幾らかを押し潰され、方や心臓を叩き潰され。
意識を失う様にぐらつき、しかし、踏みとどまる。
返す刀で自分が潰された部位を潰しに掛かる白と黒。
ほんの数秒前まで半死体になりかけていたその肉体に、目に見える損傷は残されていない。
倒れる瞬間に、或いは患部から敵の攻撃という異物が除去された瞬間に、霊石に、魔石に刻まれていた宿主の身体情報を元に完全に修復している。
許されない。
倒れる事は許されない。
眼の前の敵を打倒し、殺害するまでは。
倒れた相手の死体を踏みにじり、その死体の分だけ高みに登るまでは。
究極の力を得る為に。
究極の闇を齎す為に。
究極の闇になる為に。
「あはは!」
「ははは!」
拳を振るう。
先よりも力強く振るわれた拳が、先よりも頑強な装甲を割り。
蹴りが飛ぶ。
先よりも鋭くしなる蹴りが、先よりも力強い骨格を砕き。
稲妻が迸る。
余波だけで互いの背後にある山が削れ、沸騰して死滅した血肉がその側から再び脈動する。
終わらない。
倒れる事も負ける事も許されない。
何より。
「あはぁ……」
「は、はは……」
恍惚の溜息。
蒸発した血液の交じる赤い吐息が両者の口から漏れる。
この二人が。
この楽しい時間を終わらせる事を許さない。
一切手を緩める事無く。
全力で互いを殺そうとする二人が。
相手の生存を絶対に許さない二人が。
妥協も。
中断も。
生命も。
敗北も。
絶対に許しはしない。
地響き。
二体の怪物の戦いに呼応するように大地が鳴動する。
……いや、この地響きは人為的なものだ。
互いの肉体から止め処なく溢れ続けるモーフィングパワーが、決殺の意志を汲み取り、それを叶えんが為の武器を生成する。
最も身近にあり、巨大で、重く、避ける事の難しい武器。
如何なる生命も生存を許されない灼熱の迸りが、無意識の意図を汲み取り前人未到の巨大兵器を作り出す。
構える。
互いに逃げるという思考はない。
しかし、決して相手をこの場から逃さぬ為に。
この場で確実に殺す為に。
山が吠える。
猶予は幾ばくか。
あと何時間か何分か。
九郎ヶ岳地下深くに眠る炎の龍が目覚める。
山岳を砲身に、指向性を与えられたマグマが、この場に居る相手を焼き尽くすために発射される。
楽しい。
だから殺す。
絶対に。
今度こそ、封印などという半端な決着を絶対に許さない。
たとえこの地を、この国を焼き払う事になろうとも、絶対に殺す。
たとえその後に死ぬとしても、生きていけない様な世界にしたとしても。
眼の前に居る相手を絶対に殺すのだ。
誰を巻き込もうと。
例えここで終わろうと。
世界がここで途絶えるとしても。
この先に世界全てを燃やし尽くしてでも。
「はは、ははは、ははははははははははは!!!」
―――――――――――――――――――
拳を振るう。
絵に描いたようなテレフォンパンチ。
脚を踏ん張り、腰を捻り、全身の強化された筋肉と骨格と筋の力を乗せた拳を相手に振るう。
それを相手が避けないのを知っている。
眼の前の相手が、同じ様な見え見えの拳を向けているから。
衝撃。
脳天を貫く様な衝撃。
いや、実際に穿いているのだろう。
打たれた瞬間異様に頭が軽くなる。
頭の上に乗せたバケツの水を捨てるような重さの変化。
爽快さすらある。
次の瞬間に満たされ、元の重さを取り戻す。
今考えているのは何処だろう。
俺が考えているのか。
天使の力が考えているのか。
霊石が考えているのか。
俺は何を考えていたのだろう。
なんで考えていたのだろう。
世の中は、こんなにも簡単だったのに。
拳を戻す勢いで身体をひねる。
考えて動いているのかわからない。
だが、反対の腕が拳を作っている。
狙うのは勿論弱点。
ボディ、下腹部、ベルト。
砕けば殺せる。
相手も同じ事をしている。
避けるものか。
例え砕かれたとして、砕けば勝ちだ。
殺せるのだ。
ああ、でも、無理な姿勢だ。
下腹部を殴る、というのは、存外に難しい。
おなかがすーすーする。
この山の空気は寒い。
でも、相手のお腹の中は温かい。
呼吸するだけで口から熱い何かが溢れる。
どれだけ息を吸っても、先にある肺が一つ無いから苦しいままだ。
苦しい、苦しい、水っぽくて苦しい、鉄っぽくて苦しい。
なのに、今までで、一番楽に息ができている。
頭が吹き飛ぶ度に。
頭を吹き飛ばす度に。
頭の中に渦巻いていた不安が消えていく。
お腹が貫かれる度に。
お腹を貫く度に。
お腹にずっしりと溜まっていた憤りが吐き出されていく。
死ぬかもしれない。
こんなバカみたいな戦いをして。
こんな化物みたいな戦いをして。
でも、たぶん、お腹の中のアマダムが壊された瞬間に、呆気なく終わってしまうのがわかる。
拳が硬い、何かが割れる感触を捉える。
お腹の上で、何かが割れる感触を捉える。
全身に電流が走るようだ。
護れ、と、それが今のお前の命だぞ、と、必死に告げている気がする。
だけど、それがなんだというのだろう。
死ぬ。
戦って死ぬ。
それに何の不思議がある。
戦って、負ければ、普通は死ぬ。
生まれてくれば死ぬ。
生きていれば勝手に死ぬ。
今日死ぬのと、明日死ぬのと、十年後に死ぬのと、百年後に死ぬのと。
そこに何の違いがある。
馬鹿馬鹿しい。
何故命を惜しんでいた。
命を乗せて拳を振るのは。
こんなに楽しいのに。
悩みながら、不安を抱えながら、おっかなびっくり生き足掻くより、よっぽど、充実している。
他の何も、何も要らない。
ただ、戦いだけが、痛みだけが、命だけが、死だけが。
何もかもを忘れさせてくれる。
この地獄の様な世界を、未来への不安も。
何もかも────
『あいあおう』
―――――――――――――――――――
それは。
『あいあおう』
何時かの夕食。
口元を拭かれ、手にはスプーンを持ったままの、子供の様な無邪気な笑顔。
「へえー、どのへん? 教えてあげよっか」
ある日の学校での一幕。
前の席に座り、少しの優越感が垣間見える悪戯な笑顔。
『えあい、えあい』
散歩の最中。
誰が知るでもない努力を、どんな意図からか、称賛するような、でも、何故か少し誇らしげな笑顔。
「ありがと! 大切にするね!」
祭りの後。
夕日の中、なんてことのないプレゼントを胸元に掻き抱く、少し大袈裟にも思える、はにかむような笑顔。
そして。
「……」
責めるでもなく、ただ病室へと送り出される。
白いベッドに横たわる、無数のチューブに繋がれた、眠るような姿。
―――――――――――――――――――
ばん、と、激しい破裂音が響いた。
頭蓋が破裂する音でもない。
胴体が貫かれる水音混じりの破砕音でもない。
頭部を狙ったダグバの拳を、二十二号が手の甲でいなした。
破壊力を殺しきれず、二十二号の黒い装甲は弾け飛び、ダグバの白い装甲も削れている。
ダグバは疑問を覚えない。
戦い方が変わっただけだ。
さっきまでの戦いも楽しかった。
けど、最初の技の出し合いも楽しかった。
だから、殴り合うだけじゃなくて、殴ったり、守ったり、そういう戦いも楽しい。
「ははは」
笑う。
ただ、笑い声は一人分。
「ふぅぅぅ……」
長い息。
両脇を締め、腰を低く。
姿勢を正し、息を整える。
それだけで、二十二号の雰囲気が変わる。
そこに、頭部を吹き飛ばさんとする容赦のないダグバの拳。
それに、反撃するでもなく身体を逸し、避ける。
拳が振るわれる。
それをいなす。
蹴りが飛ぶ。
避ける。
稲妻が迸る。
指向性を持たせて逸らす。
互いの力は互角だ。
学習速度も、同じ力を根底に持つが故に互角。
そして、技量もまた互角。
ダグバが学んだ様に、二十二号もまたダグバの技を、癖を学んでいる。
攻めるだけ、受けるだけ。
互いにそれを徹底すれば、あるのはただの千日手。
勝つことも、負けることも無い。
決着はつかず、しかし、時間だけは過ぎる。
そして、この場において時間はダグバの味方だ。
二十二号が無意識のモーフィングパワー放出を止めたとはいえ、ダグバは既に意識的に地球の、地殻の、マグマの武器化を続けている。
時間を置けば九郎ヶ岳は元が火山だったか否かに関わらず噴火し、更にモーフィングパワーによる刺激を受け地脈が活性化し、日本中の休眠中の火山が活動を再開する。
「悪い」
ダグバの手刀が飛ぶ。
桜花の型を崩して作られた、カウンターではない、純粋な攻めの、殺しの技術。
絡め取る。
一点に込められた力で相手を貫くのではなく、一点に込められた力を犠牲に生き残る。
桜花同士だからこそ可能な受けの技術。
ダグバの手刀とそれを受けた二十二号の手刀が、絡まりながら肩口から千切れ飛ぶ。
「死にたくない……いや、
片腕のダグバ。
片腕の二十二号。
「だから」
向かい合う二体の構えは、やはり桜花。
二十二号のそれに合わせるように、ダグバが構える。
二対の黒い瞳が……いや、黒と、輝く金の瞳が絡み合う。
「死ね」
クロスカウンター。
互いに避ける事も、相殺する事も選ばない。
手刀が狙うのは首。
互いの手刀が、腕を絡ませる様にして互いの首を捉える。
装甲を貫き、喉を潰し。
ダグバの桜花が僅かに鋭い。
最適化されたダグバの桜花は、二十二号の首の骨を粉砕し、貫通している。
脳と肉体の神経の繋がりを断たれた二十二号の身体から力が抜け、金に輝く瞳が光を失い──
「桜花」
再び、眩く光を放つ。
ダグバが二十二号の生存に僅かに笑みを零し──
「二度咲き」
上半身を爆散させた。
血霞と化したダグバの上半身が二十二号と周囲の雪を赤く染め、残された下半身がゆっくりと後ろに倒れ込む。
その場に立ち尽くすのは、喉を前から後ろまでダグバの腕に貫かれた二十二号のみ。
赤心少林拳黒沼流奥義、桜花の型。
改め、桜花二度咲き。
全身の気を一点に集め、相手の攻撃の力すらも合わせて相手を貫く必殺の手刀。
そして相手を貫いた手刀は、相手の体内で周囲の細胞ごと、気の集められた手刀全てを神経断裂弾と同種の多段爆薬と化し、強化神経ごと相手の肉体を吹き飛ばす。
連鎖爆発により魔石の神経より切り離された体内の血肉もその瞬間にモーフィングパワーにより爆薬と化し、更にその爆発により死んだ細胞を爆薬と化し……。
突き刺した手刀を起点に、相手の肉体そのものを連鎖的に一つの爆弾と化す。
伸びた手刀という枝の先に、血の華と火の華を時間差で咲かせ、最終的には相手の肉体をこそ満開の桜の如く
黒沼流を修め、アマダムの力を深く理解するものだけに許される一撃。
霊石魔石が最も変化させやすい、人間の肉体そのものを使い捨ての武器に変換するという、元からモーフィングパワーの運用を熟知しているダグバでは、気付くのに一瞬遅れてしまう盲点にある技術。
ゲゲルという儀式の一環として自らを変じさせる事に馴染んでいたダグバと、あくまでも技術、能力の一つとして受け入れていた二十二号。
その小さな差が、この場の勝敗を決したのである。
二十二号が、再生した腕で喉からダグバの腕を引き抜き、乱雑に投げ捨てる。
その場に崩れるように膝を突き、ダグバのベルトへと手を伸ばす。
全身に、神経か筋繊維か分からなくなるほどにびっしりと張り巡らされたダグバのゲブロンはしかし、まるでそうあるのが自然であると言わんばかりに、あっさりと引き抜かれた。
ベルトもまた同様である。
それは、優勝者にトロフィーが与えられるかの如く、何の抵抗もなく二十二号の手の中に収まった。
血の一滴も無い、砕けた後すらデザインの内とでも言わんばかりに。
―――――――――――――――――――
「なにが、究極の闇を齎すもの、だ」
立ち上がり、手の中にあるベルトを握りしめ、死体を見下ろして吐き捨てる。
究極の力?
何が究極なものか。
所詮、一年目の通過点、中ボスマンの癖に、大仰なんだよ。
「でも」
ちょっとだけ、
「楽しかったぜ」
視界が暗転する。
力が入らない。
身体が言うことを聞かない。
不味い。
流石に無茶を続けすぎたか。
変身が解けてしまったら、後から来るかもしれない五代さんに、正体が……。
と、倒れ込む途中で、身体が何かにぶつかり支えられる。
顔を預けるそれは、どうにもきぐるみの様な柔軟性もある。
霞みつつある視界には、赤い装甲。
ああ、五代さんか。
間に合わなかったのか、なんて責める事もできない。
むしろ、こんな短時間でよくぞ。
「勝ちました……俺、一人、でも、一人じゃ……な……」
意識が遠のく。
ああ、警察に突き出さないで、とか、言っておくべきなのに。
今は、それより。
帰って、じると、くらすめいとのひとの、みまいに……。
―――――――――――――――――――
金の力を使いすぎ、一時的に石に戻ってしまったゴウラムを使う事もできず、ビートチェイサーで長野まで飛ばしてきた五代が見たのは、正しく激戦の跡だった。
崩れた山、燃え盛る木々、割れた大地、爆発でもあったかの様なクレーター。
辺りには肉片と骨片、臓物。
それだけで、どれだけの凄惨な戦いが繰り広げられたかが分かる。
風が止み、しかし、深々と雪が降り続いている九郎ヶ岳の中を、五代は途方に暮れるように歩く。
戦いの音は聞こえない。
それが雪に音を吸われての事なのか、ただ戦いが終わったからなのか。
全ては終わってしまったのか。
頼って貰えたのに、伸ばされた手を掴んであげる事もできなかったのか。
名を呼ぼうとして、しかし、呼ぶべき名前すら知らない事を思い出す。
無言で山中を歩く。
数分としない内に、それを目にした。
赤く染まった雪原。
倒れ伏す、人間と怪人のモザイクと化した死体の下半身。
ぐったりと力を失い崩折れている二十二号。
そして、そんな二十二号を優しく支える、赤い人影。
「君は」
四号に似た、クウガに似た姿を持つ二十二号。
その二十二号に似た、しかし、明らかにクウガとは違う姿。
赤い、真紅の戦士。
赤のクウガと比べてもなお赤い。
まるで東京を襲った白い未確認。
その灰に似た白を、そのまま全て血の赤に染めたような。
二十二号をそのまま赤く塗りつぶした様な、しかし、どこか柔らかなラインを持つ異形。
美しさすら感じさせるその戦士は、二十二号から視線を外さない。
五代に視線すら向けず、二十二号の頭を愛おしげに撫で付ける。
「ゲゲルは終わりだ。お前の出番はもう無い」
二十二号の声とは、当然ながら違う。
幼さの残る、いや、明らかに幼い、少女の声。
込められた感情は酷く冷たい。
突き放す様な言い草。
しかし、五代はそれに反駁する事もできない。
だが、問わずにはいられない。
「君は、君たちは、何だったの」
言葉を交わす事はできた。
だが、彼等が何なのか、それを一切知らない。
年若く、戦う事に苦悩を持ち、それでも戦う事を止めない。
何故。
その思いが、かつて一度向かい合った時から、五代の胸から離れずにいた。
真紅の戦士が、脱力したままの二十二号を抱え上げる。
五代に背を向け、空を仰ぐ。
「──アギト」
曇天の空から、バイクを引き伸ばした様な赤い機械が降り立つ。
二十二号を抱えた真紅の戦士はその機械に跨がり、五代に一瞥もくれる事無く、その場を飛び立った。
同時に、周囲で火柱が上がり始める。
飛び散った血液が、肉片が、骨片が。
戦いの証拠となる戦士達の断片が残らず燃焼を始めたのだ。
「アギト……」
その言葉が何を意味するのか。
明確な答えを示す者は無く。
ただ、悲しそうに空を仰ぐ五代だけが、グロンギの終焉の地に残された。
クウガ編、おしまい!
☆ヒロイン二人で確定食いしばりマン
ヒロインちゃんとの思い出だけだと踏みとどまれるかは半々くらい
クラスメイトロインちゃんの思い出も合わせ、見舞いの約束をする事で聖なる泉の底が割れて新しい水源が吹き出すぞ!
絶望的なオチとかを予想されていた方が居たら申し訳ないけど、話の展開に困ったりするのであんまり主人公はいじめないタチなんだ……あなた騙されちゃったの!
ここまでさんざん残虐超人みたいな戦いしてきて最後の最後でそういう戻り方をするのか、みたいな感想もあるかもしれないけど
でも少なくともヒロインとの回想シーンで究極の闇を齎すものから立ち返るシーンは結構前から決まっていたので仕方ないのだ
決まる前はダグバのベルトを掲げて東京タワーのてっぺんとかで高笑いして画面フェードアウト、みたいなエンディングもちょっと考えてた
残虐超人ルートを通り続けるとワンパになるからね、仕方ないね
気絶してもダグバのベルトは手放さなかった
というか、ダグバのベルトの方から手の中に収まり続けた
不思議
☆回想シーン
時系列は割りと順不同
でもアークルには人工知能が搭載されてる説(五代さんがレッドアイでアルティメットになった時に新たな文が浮かび上がった為)もあるから、案外アークルの方で宿主を正気に戻すために差し込んだ回想シーンである可能性も
サンキューベルトさん!
皆もベルトさんを目標にしてクリスペプラーのものまねを練習してみよう!
一期のベルトはシャイで口下手な方々が多いけど、それも魅力の一つだったよなと思いませんか
☆一般警察のみなさん
対策班には確かに神経断裂弾が配布されていた筈だけど、東京が襲われたので地域の警官はやはり普段どおりの装備で立ち向かったんだよなと思うと凄い
そんな彼等を救ったのがこちら
☆一般通過音撃戦士
後の過労死マンである
某日曜朝8時から尻丸出しマンとは異なりリアルには死なないばっかりに過労死しそうなまま戦い続ける事になる
この時代でもそうだった
しかし、そんな忙しい日々の中、後輩の家電に詳しそうな音撃戦士がシフトを変わってくれて暫くぶりの休日!
さぁ、東京で遊ぶぞ年甲斐もなくはしゃぐぞー!
とかやった瞬間に目の前に乗用車が飛んできて爆発したりした
逃れられない超過労働の運命!
自らすすんで修行を受けて鬼になんてなろうとする男が、眼の前で死にそうな人達を助けずに居る事は不可能なのだ
☆一般通過青空の会随一のハンター
今までは四号だの二十二号が出張ってきたし、情報が手に入った頃には未確認も撃破されていたけど、未確認による被害に心を痛めていた聖人
ステゴロ殺法は聖人の特権……という訳ではなく、イクサカリバー含む武装はその大半が完全にアンチファンガイアシステムであり、一番相手を選ばないのが馬力任せに殴るのと単純な電磁投射兵器であるイクサナックルだったというだけの話
あとこの時点のバージョンでその他武装がどんだけ完成してるかなってのもあるので、確実にある武装だけで登場した感もある
再登場するにしてもその時には中身も代替わりしてるだろうから、別に現時点の中身が殴る時に鋭く行ったり重く行ったりするおかん系元ヤンねーちゃんとかでも構わないけど……キャラ増やすと管理が面倒なので普通に消えます、さらば
因みにベルトに電流パンチは相手によってはパワーアップするので慎重にね!
整理されるような連中なら問題ないけどね!
☆一条さん
一条さんにG1とGK-06ユニコーンが合わさり最強に見える
いや、本気で
え、ユニコーンはG3じゃなくてG3Xの専用装備だって?
武装だけは現時点で試作されていたとか、二十二号が刃物を多用してたから万が一の時の対抗策として取り回しの良い刃物が優先的に作られた可能性もあるんじゃないかなって思う
☆五代さん
間に合わなかったけど気にすんな!
実は最初からこの人と二十二号を共闘させるつもりは無かった。
だって単純に片方がダグバのモーフィングパワー封じてもう片方がモーフィングパワーで焼くなりすれば簡単に勝てちゃいそうだし……
気にすんなと言われても気にする
心穏やかなまま旅立つ事は出来なかったけど、実は小説版に繋がるルートだと仮定すると元からそうなんやで
海外で知り合った仮面の戦士に旅先でアギトについて訪ねたりするかもしれない
元悪の組織の義手仮面マンパイセンに聞いたらその時点で世界観破壊レベルの原作崩壊が起こるから旅立った後は普通にストレンジジャーニーに徹するんじゃないかな
その中で出会う、元人間のオルフェノクとかいう真っ当に生きれば生きるほど悲劇にしかならない種族……これは曇る
何処に曇らずに旅できる国があるんだこの世界
人が居なくて自然が無くてアンデッドもファンガイアも寄り付かない場所があればたぶんそこ
不毛地帯かな
☆ダグバ君
ダグバがクウガに怒りを覚えていた理由は、自分に勝ったのに自分を殺さなかったから、だそうで
そう考えると今回ばかりは満足して成仏したんじゃないかなって
戦って戦って、その先に負けて死んだので一切の悔いがないためオルフェノク化はできない
というか上半身が吹き飛んでるのでどちらにしても復活は無い
桜花のクロスカウンターに持ち込めたのはダグバが相手のやろうとする戦い方に合わせてくれるから
串刺しとかそういうのが好みなんだね、くらいの感覚で合わせてくれた
☆ダグバのベルト
不自然な程に自然に取れた
元からそういうシステムなのかもしれない
ひび割れてるけどひび割れてるだけでパーツ欠損は無い
☆赤心少林拳黒沼流奥義桜花の型が崩し、桜花二度咲き
解説どおりの必殺技です
基本エルとかテオスみたいな同種能力の同等か上位互換みたいなの以外は確殺
使う機会は今後たぶんそんなに無い
通じないか、使う前に相手が死ぬかするので
☆推奨BGM
雪山の中で無数の火柱に囲まれた五代さんが悲しげな表情で空を見上げて、そこから画面が引いていってアギトの引きの画面、暗転してスタッフロールと共にアギトOP、どぅどぅんでんででん♪
え、「青空になる」は、って?
青空にはならない
☆真紅の戦士
1,無着色のアギトの線画を用意します
2,全部赤く染めます
でーきまーしたー
何者なのかは不明
二十二号への好感度が高い
でもゲゲルとかいう専門用語は知ってる
何者なのかは不明なのだ(念押し)
独自設定の塊ちゃん
世界観繋げてる時点でその辺はお察しください
次回からたぶんアギト編突入
嘘予告か番外編的に仮面ライダースピリッツ編とかも何時か書いてみたい
書けたら書く
でも続きの方を先に書く
☆追記☆
ゴウラムは生き残りました
たぶんプロトアークルとはリンクしてない……はず