オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
ケルベロス融合体と創世王が向かい合う。
山林の中、空は曇天。
季節もあって薄暗い、というには暗すぎる中、サタンサーベルの刀身は不気味に赤く輝く。
「ムラマサ!」
初手、ケルベロス融合体が叫ぶ。
ヒヒイロカネを初めとした各種特殊金属の塊にして、飛翔能力と限定的な空間転移能力を備える劒冑の待機形態が呼び声に応え、仕手の意図を過たず受け取る。
空を引き裂いて現れる金属製の巨大なカブトムシ型のゼクター。
『クロックアップ』
非装着状態での時間加速。
回り込む様に創世王の背後に回り込み、単分子の刀身である長大な角を突き刺しにかかる。
殆ど同時に、ケルベロス融合体が分裂。
いや、融合を瞬発的に解除したのだろう。
後に残るのは臨気凱装にて最低限の戦闘形態と化した交路。
魔石の戦士、二十二号への変身を行いながら、手には疑似デッキ。
対する創世王。
背後からは加速した時間の中で特攻を仕掛けるムラマサ待機形態。
正面からは交路の戦意を伝染させられた純粋な全アンデッドの融合体であるケルベロスが仕掛ける。
当然の権利の様に、創世王がクロックアップ状態のムラマサへと意識を向け、無造作にサタンサーベルを構え──一閃。
さしたるものでもない剣速。
吸い込まれる様に赤い軌跡がケルベロスとムラマサの胴部分を通り抜ける。
瞬間、ケルベロスは真っ二つに切り裂かれたラウズカードへ、ムラマサもまた火花を上げながら鉄屑と化した。
「変身」
無数の鏡が交路の変身態に重なるように、陽炎への変身を遂げる。
如何ともし難い、交路の戦闘形態への変身までのタイムラグ。
それは魔石の戦士特有の肉体変化であり、アギトの力が齎す肉体の変異であり、デッキシステム起動の時間である。
無論、常から交路は変身までの時間を短縮する努力を重ねている。
が、それはどれだけ短縮できたとして、無にはならない。
変化をする、というプロセスを無くそうと思うなら、最初から変身した状態で居る事が望ましいのは、多くの場合変身後の姿でばかり後続の前に現れている昭和の時代から戦い続けている仮面の戦士達が証明している。
一秒に満たない変身時間。
しかし、一流以上の戦士が相手であればその時間は致命的な隙となる。
故にこそ人間態の素材を変化させ、変身せずとも並大抵の怪人であれば鏖殺できる程の身体能力を基礎のものとして備えてはいるが……。
先んじて、変身を済ませた状態で格上の敵が現れた場合、無事に変身プロセスを済ませるにはこの様にリソースを切らなければならない。
或いは相手が遊んでいるような状態であれば、その余裕を利用してノーリスクで変身できるかもしれないが……。
相手の出方が分からない状態で油断や遊びを期待する戦士は長生きできない。
とりあえずの変身を済ませた陽炎の眼前に光の鏃。
サタンサーベルの基礎能力の一つ。
顔を逸して避ける。
避けたつもりの陽炎の顔面を切り裂く。
内部の素顔……いや、二十二号の顔が僅かに顕になる。
疑似ライダー陽炎は、ライダーバトルに一参加者として出場する、という縛りの無い場合において、基本的には二十二号としての能力を余さず使用できる。
非融合状態においてすら、追加装甲と僅かな身体能力増幅、諸々のアドベントカードによる追加機能を搭載した二十二号の強化形態と言っても良い。
当然、モーフィングパワーによる復元能力の恩恵も受けており、魔石の戦士の肉体と比較してもなお頑強な各種装甲すら、魔石の戦士の肉体と同じく僅かな時間でもって回復してしまう。
その筈の陽炎の装甲が再生しない。
いや、よくよく見てみれば破壊された陽炎の顔面装甲の傷口はじわじわと元に戻ろうとはしているが、その速度は酷く緩慢でズどころかベにすら劣るかもしれない。
回復が阻害されている。
陽炎の視線、意識が僅かに創世王の腹部へと向けられる。
腰部に、当然の様な顔で備わる緑と赤の宝玉。
それは僅かに輝きを放っている。
キングストーンフラッシュだ。
微弱なキングストーンフラッシュを常に放つ事で、陽炎、いや、二十二号の魔石の戦士としての機能が阻害されているのだ。
変身機能を持つ怪人がキングストーンフラッシュで変身解除された例が無いのと同じで、変身自体を阻害される事こそ無いものの、変身後の状態で発揮される諸々の特殊能力はキングストーンフラッシュの前では無力なのだろう。
少なくともこの時点で、二十二号の常時型の再生能力は創世王が常に放つことが可能なキングストーンフラッシュで阻害されてしまう、という事が証明された。
陽炎が次手に迷う。
既にこの時点で最良ではない。
創世王は陽炎の命を奪うに十分な状態にあり、陽炎にはもう一段変身が残されている。
ユナイト陽炎。
疑似デッキシステムと完全合一し、文字通りに疑似デッキの恩恵を全て自らの一部と化した形態だ。
ダグバの行う物理攻撃から一般人の肉体を守りきれる程に堅牢な装甲は文字通りに一体と化す事で恐らく微弱なキングストーンフラッシュの再生阻害を受け付けなくなり、無数のアドベントカードを意思一つで起動可能。
更に契約モンスターとの融合という形式を取るために、単純に戦力は二倍以上にもなる。
そこまで考えた時点で陽炎はユナイトの使用を放棄した。
避けきれない速度の光の矢。
サタンサーベルからノーモーションで放たれる牽制程度の一撃は、ライダースーツの中でも一際頑強に作られている筈の頭部装甲を容易く切り裂いた。
また、眼前の創世王にとって下位存在であろうRX、及び、何故かその時点で共闘していたであろうシャドームーンに撃破されたデスガロンですら、デッキから引き出したカードの使用を妨害してみせた。
カードを使う隙は無い、少なくとも今のところは。
疑似デッキでの変身が成り、装甲一枚分追加できた事を幸運に思う事とした。
装甲一枚は命綱一本に相当する。
暗い森の中、黒の戦士と赤い王が向かい合う。
感情の伺い知れぬ狼の面と飛蝗の面。
どこに向けているともしれない狼面の下の目と、緑の複眼。
行き違いがある、と、口にするのは簡単と思うだろう。
創世王の思惑など、結局の所陽炎は何一つ知らない。
そも創世王が最初にした事といえば、願いを叶えようとしていた統制者をサタンサーベルで破壊した程度の事。
直接的に陽炎を攻撃した訳ではない。
先手がどちらか、と言えば、劒冑と人造アンデッドをけしかけた陽炎の側だ。
或いは最初に、攻撃を仕掛けて変身の時間を稼ぐ、という選択をしたのは早計なのかもしれない。
陽炎の側からすれば、創世王は初対面、ということになっている。
創世王だと断定したのは知識の上でそうだと思ったからに過ぎない。
素知らぬ顔で、何か御用ですか、とでも言えば、創世王が統制者を破壊した理由に関して説明をしてくれたかもしれない。
だが、全ては過去の話だ。
事ここに至って、この時代この瞬間まで表立って現れることの無かった、小春交路という人格の致命的な欠陥が事態をややこしくしてしまった。
病的と思える程に自分や周囲への害を恐れ、恐れの為に排除しようと行動し続ける精神性。
良く言えば困難に対して率先して立ち向かう。
悪く言えば、恐怖する対象への異常なまでの攻撃性。
準備無く、前触れ無く現れた脅威に対し、彼は立ち止まるのではなく、何らかの形で攻撃を行い、排除しようと動き出してしまう。
無論、知識の上での創世王がいかなる行動を取ってきたか、如何なる立ち位置で暗躍していたか、という事を考えれば、初手で話し合いを選択する事は非常に難しい事ではあるのだが……。
そして、数多くの戦いの中で最適化された戦闘用の思考の中に、話し合い、という選択肢は現れない。
少なくとも、敵である、と分類された相手に対して、自ら歩み寄ろう、という思考は、この世界に無数に存在する脅威を理解したその日から、意識的に排除されている。
それは相手が格上であればあるほど顕著になり、戦いの中で戦いの外に想いを巡らせるか、或いは会話で隙を誘えそうな精神性の相手であると判断しなければ、会話に脳のリソースを使おうという気すら無い。
考えうる限りの中で、RXに近い形態を取る創世王、というのは最悪の相手だった。
ミラーワールドへ、或いは瞬間移動での、もしくは高速移動での逃亡。
それら全てが、たとえ相手が創世王でなく、RXが相手であっても判明しているスペックだけで封殺されてしまう。
そして、相手がRXであれば可能かもしれない、事の全てを白状しての迫真の説得、情けに訴えかけるという作戦も、相手が推定創世王であるというだけで不可能と判断できる。
未だ、創世王がこの場に現れた理由は語られないし、恐らくは語る事も無いだろう。
だが、創世王の思惑とはまったく無関係に、陽炎、交路の中では、立ち向かい、如何なる手段を持ってでも、一撃を加えるなどして、戦いの中に活路を見出すしかない。
そういう話になってしまっている。
じゃきん、じゃきん、と、創世王が一歩、また一歩と、もったいぶるようにゆっくりと歩み寄る。
陽炎の右足が一歩下がる。
いや、構えだ。
右足首に宝玉が浮かんでいる。
ばち、ばち、と、眩い程の放電。
常の陽炎の或いは二十二号のスタイルであれば有り得ない程にしっかりとした前動作。
足元には特徴的な、捻じくれた六本角のアギトの紋章。
腰を低く、そして、両腕は赤心少林拳の基本的な構え。
必然だった。
二十二号の、陽炎の、そして、たとえユナイト陽炎の持つ如何なる武器であったとしても、創世王に通ずる程の獲物は存在しない。
デスガロンに対して使用したリボルケインもどきですら、理論上、オリジナルのリボルケインには遠く及ばない威力しか備えていない。
厳密に言えば、収束率が足りないのだ。
リボルケインと同等の火力を出力する事は可能だが……。
それを棒切れ一本分に収束する事はできず、結果的にこの地球を丸焼きにする事になってしまう。
それを収束できるとすれば、それは、常からテオスの力の欠片を内包し続けている交路の肉体に他ならない。
サタンサーベルと斬り結ぶ事は不可能。
最大火力を叩き込む、というのであれば、そして、それを真っ向からぶつける、となれば、僅かにでも射程と速度が出る飛び蹴りしか存在しない。
体内の全火力を一点集中した、封印エネルギーが、アギトの力が、テオスの力の一部が込められた、脚部先端打撃による
それを、自らを殺すために振るわれるサタンサーベルへ向けて放つ。
理論的に正しく桜花の威力を最大限発揮する為のシチュエーション。
じゃき、と、創世王が踏み出す。
だん、と、陽炎が踏み出した。
走る創世王。
跳ぶ陽炎。
創世王は片手に構えたサタンサーベルの柄に、もう片手を添え両手で構え、八相。
交路は振りかぶられたサタンサーベルに、いっそその刃先に、自ら斬られに向かう様に、太陽の如く発光した蹴り足を振り下ろす。
拮抗。
僅かな時間、しかし、確かにサタンサーベルと押し合う陽炎のキック。
幻の様な光景は、やはり、あっけない程に容易く終わりを迎えた。
サタンサーベルが、白熱する陽炎の蹴り足を、切り裂いていく。
緩やかな速度に見えるのは、斬り裂かれながらも肉体が抵抗を示しているからか。
創世王に与えられる王の剣。
この世に二本と無いその刃ですら、全てを込めた陽炎の肉体を一瞬で寸断する事はできない。
だが、それはなんの慰めにもならない。
蹴り足から外装が崩れていく。
強固な疑似ライダースーツは内部と外部両方からの高エネルギーにより割れ裂け、砕け、蒸発し、中身となる柔らかな二十二号の外皮を、そして、肉体を切り裂いていく。
二十二号に余力があれば絶叫したかもしれない。
それは死への恐怖か?
無力に対する怒りか?
だが、そんな力は残されていない。
今持てる、今出せる全ての力を込めた一撃というのは伊達ではない。
強化の解けかけた五感が、足先から斬り裂かれ分断されていく自らの肉体を知覚する。
死が迫る。
それにリアクションを起こせる程の余力は無い。
サタンサーベルの怪しく輝く赤い刀身が下肢を、腿を、腹を、胸を通り抜け……。
肩から抜けた。
どす、と、陽炎の、二十二号の、いやさ、小春交路だったものの肉体が地面に落ちる。
背中から落ちた交路の視界には、木々の隙間から空が見えた。
曇。
薄暗い、という表現では表しきれなくなった、黒々とした曇天。
その肉体の変異は解けかけている。
二十二号がこれまで殺してきた魔石の戦士と同じ様に、その身体は変身態と人間態のモザイクと化しているのだろうか。
それを確認できるのは、この場には創世王のみだろう。
ぽ、と、打ち捨てられた交路の顔に水滴が落ちる。
それは一滴、二滴、と数えるよりも早く、ノイズの様に長く続く雨となった。
断面から流れ出る血が、雨により流され、山土の中へと染みていく。
創世王が、サタンサーベルを片手に下げたまま、分断された交路の上半分へと歩み寄る。
サタンサーベルを伝うのはもはや交路の血ではなく、刀身の赤を写す雨粒のみ。
稲妻すら空を照らさず、ただ、降り注ぐ雨だけが、戦いの結末を覆い隠していた。
ホントはこの一話にあともう半分ってとこなんだけど
エクストラステージとして見た場合はここまでが切りが良いので
今回はあとがきも無く次回へ続いてしまうのだ
多分ブレイド組の顛末とかも次回
次回、恐らくブレイド編ほんとにほんとのエピローグ
『至らなさ、思い至らなさ』
お楽しみに