オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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108 赤子の様な心で学びを得続けるという事

世の中には同じ顔の人間が三人は居るらしい。

最低三人は居る、という話で、なおかつこれはかなり古くからある言い回しなので、人口が増加し続けているこの現代においては、同じ顔の人間を集めれば一つの集落くらいにはなるのではないか、と常々感じている次第だ。

例えばヒューゴ・ウィーヴィング顔の人間をひたすら集め続ければエージェント・スミス大集合シーンの一幕くらいはCGや特殊メイク無しで再現できるのではないかな、などと思ったりもする。

そもそも同じ顔が三人は居る、というのもかなり少なく見積もっている様に思う。

グジルとジルなど一人から分裂した特殊な例だが、これが双子なら最初から同じ顔が二つあるわけで、三つ子ともなればそれだけで条件を満たしてしまう。

 

更に言えば、子供と年寄も難しい。

成長途中で造形が甘い子供は意外と似た顔が多く居るし、年を食って脂も筋肉も落ちて骨ばってくると骨格が顔に出る様になるため似たような造形に落ち着いてしまう。

中高生から中年くらいが一番見分けが付きやすいだろうか。

まぁ、この年頃になると女性とかは化粧などである程度平均化してしまうという問題もあるのだが……。

 

結論から言えば、熱血指導と眉毛で有名な名物講師の人は本郷猛とは無縁の一般人だった。

最悪、大学講師と警視総監を掛け持ちしている、或いは警視総監と同じくオリジナルの本郷猛を守るための影武者、という可能性も考慮していたのだが。

まぁ、この大学に進学した主な理由という訳でもないので別に良い。

そもそも仮に本郷猛本人だとしたら未確認事件を始めとした2000年に入ってからの荒事に関わってこなかったのは何故か、という話になる。

世の中にはヒューマンアンデッドにクリソツな鯛焼き屋さんなんかが存在するのだから、ややこしい思わせぶりな似た顔の人間が居る事を責めても仕方がないだろう。

そもそもそれを言い出したら弁護士先生の用心棒とゼクトの偉い人とフルーツパーラーの人問題とか、鬼のケツの人とイッヌの人なんかにも言及しなければならなくなってくる。

 

そういう訳で、本人を見つけてV3の設計図クレクレ大作戦は今回も保留という事になる。

これはそもそもがダメでもともとみたいな話なのでそれほど問題はない。

師事したくなるような優れた教授などは居ないが、この大学はあれだけの事件があったにも関わらず懲りずに考古学にもそれなりに力を入れているし、物理などの勉強をするに足るだけのデータベースはあるのだ。

今は影も形も見えない様な、古の魔術に関する情報を集める事も、それを現代のフォーマットに組み直す為の基礎も積めている。

 

魔術の呪文詠唱をベルトに行わせ、術者は実質魔力タンクに専念すれば良い、というコンセプトは素晴らしい。

これは物理学者がどうこう、というより、現代的な思考に基づくものだろう。

実のところを言えば、猛士などに所属する昔で言う所の術者が現代においては殆ど技術者として鬼やサポーターの使用する各種デバイスを用意しているのもこれにあたる。

 

お師さんなどは印を結んだり字を書いたりなどして式神を即席で作り出したり、それで直接攻撃ができたりするが……。

これ、すごいことをやっているようで、大体はディスクアニマルで代用できる。

それどころか、時間単位での効率を考えれば明らかにディスクアニマルの方が運用が簡便で良い。

式神を運用する為に覚える各種呪術的な仕組みなどは最初からディスクアニマルに内包され、使用者はそれに音角や音笛、音錠などで音を響かせる事で起動させる事ができる。

意外にもこれはかなり古くから試行錯誤されながら研究開発が続けられており、呪符、巻物などの形でこれと似た式神の運用が成されている。

緊急時ならばともかく、設備や装備などが充実した状態でお師さんが教えてくれた古式の式神運用術を使う場面はそうそう無いだろう。

なんとなれば、ディスクアニマルにしても物理面ではモーフィングパワーで器を用意できるし、中身に入れる魂にしても、ディスクアニマルに使う程度の魂であれば日々自然増幅する俺の中のテオスの力に軽く当てるだけで自然発生させる事が可能だ。

 

だが、お師さんの教えてくれる技術の重要性は、実用性のあるなしとは別の価値がある。

お師さんの教えは本当に厳しく、一昔二昔前の詰め込み教育もかくやというレベルのものだ。

正直、俺が頭脳にも優れた性能を持つ魔石の戦士で無ければかなりきつかっただろう。

だが、その甲斐があって、この国独自の呪術、スピリチュアルな技術にはとても明るくなったと思う。

 

魂に仮の器を与えて運用する式神術。

現代においてディスクアニマルなどに使われるこの技術は、兵力増産においてかなりの成果を上げている。

というか、この動物霊などの雑霊を運用する技術を身に着けてから改めて今まで自分で作ったヘキサギアの統率個体、ゾイドなどを見ると少し恥ずかしくなるレベルだ。

実質俺の部下として運用できるマラークの様なものであるFAGなどはともかく、ヘキサギアのまとめ役であるゾイドなどに関しては、魂魄面でかなりのコストカットが図れる。

 

また、フリーエネルギーに当てることでアギトの力の増幅速度を高める技術に関しても、かなり無駄を省く事ができた。

これならボルトレックス級の後継機或いはハイエンド機として設計したブロックス式ジェノザウラー級の増産もよりスムーズに進む事だろう。

そしてディスクアニマルを始めとした式神に組み込まれた疑似人格……AI周りを応用すれば、ゾイドではない、兵卒であるヘキサギア達もより柔軟な運用が可能になる。

これまでは統率個体であるゾイドやFAG、ロードインパルスを経由しなければ複雑な命令ができなかった(これも命令というより、統率個体に下位個体を操縦させているようなものなのだが)ヘキサギアも、ある程度は直接指示で柔軟な運用が可能になる。

 

俺は全くの0から新しい技術を作り出す事は中々できないが、それでも新たに学んだ技術を応用する事くらいはできる。

学び続ける事。

それこそが、凡人……というのも抵抗があるから、秀才、或いは偽りの天才である俺にできる唯一の事だ。

 

さて、新たに学んだ技術がそれまでの技術と混ざり合い進歩する、というのは、何もヘキサギアやゾイド、FAGなどを作る上でのみの話ではない。

そもそもこれら自由に使える兵卒は俺の手の届かない場所、俺の手が足りない時の為の備えであり、やはり一番に重要なのは自己の強化だ。

友人知人を守る、住みよい日本のインフラを守る、というのも重要だが、それを重視するあまりにそれを享受する自分の生命安全を疎かにしては元も子もない。

 

呪術、陰陽術などを学ぶ過程で、いわゆる現代科学で解明されていない人間の種族としての伸びしろというものに手を入れる技術を手に入れるに至った。

例えばそれは人を鬼と化す為の修行法であり、或いは特殊な器具など無しに式神を運用する為の術である。

それらはそれ単体では学んだ通りの結果しか生み出すことができない。

だが、ここに一つのデータが存在する。

産まれた直後の赤ん坊が、実際に超能力を発現させるまでに至った脳開発法の数々。

つまり、俺の実体験に基づくデータなのだが……。

 

これを組み合わせる事で。

理論上、生来からアギトの力を持たない人間に超能力を持たせる事が……。

というより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それはつまり、アギトの火を株分けせずとも、アギトかそれに近い存在に人間を変質させる事が可能になる、という事だ。

これぞまさしく革命と言って良いだろう。

 

ただ一つ問題がある。

この脳開発術は、かなり幼い状態から施術を開始しなければはっきりとした効果を上げることができないのだ。

幾つかの薬を投薬したり、或いはモーフィングパワーで意図的に脳髄に干渉すればかなり工程を短縮はできると思うのだが。

それでも、成熟した……成長に伴い劣化した脳髄よりは、産まれてすぐの赤子の脳の方が変化を受け入れやすい。

 

実際、動物実験においてはかなりの成功率を誇っている。

産まれた直後から施術を開始した場合の超能力発現率は、なんと犬猫狐狸鹿熊において、七割を上回る結果が出ている。

海で行った野良イルカを使用した実験においては九割を上回り、なんと未覚醒の同種の脳をハックして超能力を増幅させるなどの応用力も見せた。

無論、これら実験体及び影響を受けた関連個体は全て安楽死させた上で貴重な標本として保存している。

そもテオスの写し身でない彼らが超能力を何故得たか、という疑問もあるが、彼らもまた天使の写し身の末裔であるからだろう。

全体的に発現した超能力の出力が俺の初めて発揮した念動力よりも微弱であったのは種族的潜在能力の差というものと思われる。

 

逆に、成熟した個体を利用した場合の発現率は、人間に近い脳機能を持つ動物でも二割を切る。

超能力を得た個体もそれら能力を積極的に扱う様子が見られないのは、それが本来ありえないものである、という学習が済んでしまっているからだろうか。

現実改変能力を得たボノボが自らを普通のボノボに改変するだけにとどまるのと同じだ。

この問題は、実際に超能力を同種の生物が使っている場面を見せることで多少改善する事ができた。

 

改造超能力動物兵士(サイバネサイオニックアニマルソルジャー)の制作というのも心惹かれるものがあるが。

やはり、手近な所にもう少し超能力を使える相手がほしい。

大体の場合はモーフィングパワーで代用できるが、念動力があると戦術の幅が広がるし、日常生活でも捗る場面が多くなる。

狭い台所で大掛かりな調理を行う場合でも複数のボウルを保持することができるし、片方で調理をしながら片方で洗い物をすることができるので結果的に調理時間の短縮にも繋がるのだ。

 

が、産婦人科で廃棄されていた誰の子ともしれない胎児を蘇らせて超能力戦士にするのは流石に問題がある。

両親が如何なる気性の持ち主であるかも知れないし、魂だけを取り出してゾイドに組み込むのとは訳が違う。

バレた場合の心象も良くないだろう。

現行人類の多くが知覚できないし法整備も整っていない魂ならばともかく、廃棄されたとはいえ人の赤子を蘇らせて戦士にするのは色々と忌避感を抱かれてしまう筈だ。

そこに忌避感を抱くなら最初から避妊するなり普通に産むなりすれば、とも思うのだが、望まぬ妊娠という場合もあるから難しい。

 

かといって、自分で誰かを孕ませて作った子供を使うというのも無しだ。

流石にまだ子持ちになるつもりは無いし、実の子供を実験体にするのも気が引ける。

 

さて、手近な所で自由に使える、人体実験の被検体が居ないものか……。

 

「交路、ちょっとパングラタン作ってみたから一緒に味見しようぜ」

 

「おお、ありがとうな」

 

思索を遮るように、両手にミトン、そしてエプロンを装備したグジルが、耐熱皿を持ってやって来た。

エプロンが普段より少し小さめに見えるのは、このアパートのキッチンが独身男性向けの少し高めの設計になっていて普段どおりの背丈では料理がしにくいからだろう。

身体のサイズをある程度可変させる事ができるというのは、こういう時に便利……。

 

「それだ」

 

「どれだよ」

 

―――――――――――――――――――

 

難波祝にとって、今のぬるま湯の様な状況はとても心地よい。

好きな人と一緒の大学に通い、一緒に学んで、一緒に鍛えて、一緒に食べて、一緒に寝て。

偶に大学で出来た知り合いに飲み会に誘われて、長引きそうなら全員酔い潰して。

想い人から貰ったベルトのおかげで酔いつぶれるという経験をせずに済んでいるのはありがたい話で、どんなに飲んでもほろ酔い程度で済むので、お酒の良し悪しも少しわかるようになった。

これが大人の女への一歩なのか、と思いつつ、しかし、不安が無いわけではない。

 

時折忘れそうになるが、難波祝は想い人と恋人同士になれたわけではない。

常人なら擦り切れる程に身体を重ね続けておいて何を、とも思うが、そもそもまだ明確に好意を伝えてすらいないのだ。

どこで間違ったか、と言えば、あの日のクリスマスに他ならない。

泣き腫らして想い人の家に行き、その妹に進められたお茶を飲んだのが大体の過ちというか。

 

これでその妹に、グジルに悪意があったならまだ恨む事もできただろう。

だが、グジルは単に自分が飲んでいたものを、いつもと違う様子の自分に勧めてくれただけなのだ。

あの紅茶にどれだけ酒が入っていたとして、決して判断力は大幅に鈍る事はないだろうというのは、今の飲み会で痛いほどに理解できる。

お酒が入った、という事を言い訳に、関係を迫ったのは間違いなく自分の判断だった。

 

それだけならまだ、身体を重ねるうちに有耶無耶のうちに恋人関係になれば良い、或いは、どこかのタイミングで改めて告白をすればよかった。

だが……。

恋愛対象として見られているか、というと、首を捻る。

 

顔立ちに自信がない訳ではない。

ベルトを貰ってからはどれだけ無茶をしても肌が荒れたりする事も無く、健康そのもの。

人伝に自分がどう思われているか、というのを聞いてみて、人当たりがよく気遣いも出来て器量も良い素晴らしい女性、と言われていた、らしい。

それならなんで、と、思わないでも無いのだが……。

 

──難波祝は知る由もないが、想い人、小春交路の中で彼女の存在は非常に比重の重いものとなっている。

グジル、ジルが安全かどうかわからない時点から色々と彼女の世話を焼いてくれて、その世話に追われて学校行事にあまり積極的に参加できない自分を気遣ってくれ、ダグバとの戦いで自分をギリギリで戦うためだけの生物兵器ではない、人間の位置に踏みとどまらせてくれた。

今の自分があるのは、半分くらいは彼女のお陰だ、と。

 

ある種の神聖視、とでも言うのだろうか。

無論、難波祝が一般的な女性であり悪い面も相応にあるだろうし、将来的に人間的な幸せを追い求めるだろう事は理解している。

しかし、それに対するスタンスが、彼女の求めるところと違う、というか。

仮に、難波祝の方から付き合ってくれ、恋人になってくれ、と請われれば、これ以上無く光栄だ、と思いつつそれを承諾するだろう。

だが仮に、難波祝が他に好きな男が出来た、と言ったならば、それを全力で応援し、恋人になれるように万全のサポート体制を組みもするのだ。

戦いから永久に離れて平穏な暮らしがしたい、というのなら、最低限身を守れる術だけを残して想い人と共に歳を取れるようにもするし、まして、肉体関係にあったことなど一切漏らす事はない。

 

そういう意味で言えば、難波祝は非常にギリギリのラインの上に居る。

ここで万が一、押して駄目なら引いてみろ、とばかりに、他に気になる人が居るの、などと言おうものなら、小春交路はそれを全力で応援する素振りを見せ、精神的に大ダメージを食らうだろう。

或いはいっそ、その方が幸せへの近道ではあるのかもしれないが……。

だが、それが生来の性分なのか、諦めが悪いのか、一途なのかはわからないが、彼女は現状維持という選択を選び続けている。

が、それが何時まで続くかわからないというのも事実だ。

 

小春交路の戸籍上の妹である小春ジル、小春グジルは、ある意味では彼女の協力者でもある。

彼女達も彼女達で小春交路とはただならぬ関係にあり、非常にややこしくはあるのだが、少なくとも交路と祝がくっつく分には良いだろう、というスタンスでいる。

最初は彼女達の調べで知ったのだが……。

小春交路の好きなタイプは年上のお姉さん。

そして今、小春交路は露骨にアプローチを仕掛けている年上のお姉さんが居る。

 

その名を渚沙なごみ。

素晴らしき青空の会、という組織でパワードスーツ、イクサの装着員を熟している、交路や祝から見て少し年上の女性だった。

一回り年上……というほど歳は離れておらず、しかし、片手で数えるには足りない程度の年の差の、微妙な、いや、絶妙に好条件のお姉さん。

何時死ぬかわからない知り合いは怖い、という、交路の難しい注文にも応えられる戦闘力を備えた歴戦の戦士でもある。

しかも交路の母親とも僅かながら繋がりがあり、ある意味では家族ぐるみの付き合いがある、とも言える。

知り合ってまだそれほど経っていないにも関わらずそれなりの回数デートを重ね、一時期ぱったりと交流が無くなったかと思えば、何時の間にか前よりも親密そうにしている。

 

祝にとって難しい話なのは、彼女が祝から見ても悪い人ではないというところだろうか。

仮にも未成年である交路との付き合いに関してはどうにかして節度をもって対応しようとしている節も見られる(最終的に交路のゴリ押しに押し切られるが)し、祝が一緒に居るときには自分から身を引こうとする素振りもする(交路に回り込まれて阻止されるが)し、話してみればまさしく同性から見ても魅力的な年上のお姉さんといった雰囲気で、話していて楽しいとすら思えてしまう(双方意図的に交路の話は避けているお陰だが)。

 

挙げ句、自分たちは大学生になるに当たって、そのお姉さんのホームグラウンドとも言える東京に来てしまった。

交路がなごみに会いに行く頻度も、またその逆も以前とは比べ物にならない。

酒を飲んでいる場合ではないのだ。

難波祝は決意した。

告白は難しくても、もっと一緒の時間を増やして仲良くなるのだ。

あと身体を重ねて相性も良くなるのだ。

そこの考えを巡らせた時点で、交路の住まうアパートのエレベーターの中で一人で勝手に照れたりもした。

 

無論。

告白をしてしまいさえすれば、大体上手くは行くのだ。

ジルやグジルとの関係は残るだろうが、なごみに関しては未練を残しつつ、交路だって『さようなら、俺の初恋初恋初恋……(残響音含む)』と割り切るだろう。

しかし。

クリスマスの日に一大決心をして、一日デートで雰囲気を盛り上げた上で、告白する寸前にオルフェノクに邪魔をされ、ギャン泣きした上で酒の勢いで告白を通り越して身体を重ね、それ以降もズルズルと肉体関係を続けてきた。

その手前、改めて告白をする、というのは、生半可な度胸でできることではない。

これは、難波祝にとっても精一杯の努力なのだ。

 

玄関の前に立つ。

アポイントメントを取って来たわけではない。

だが、いきなり押しかけても歓迎してくれる、というだけの自信はあった。

それこそ、恋心を自覚する前は多少なりいきなり遊びに誘いもしたのだ。

髪の毛をセットしている間にズルズルと時間が過ぎて昼の時間は過ぎてしまったけれど、午後の穏やかな時間を一緒に過ごすくらいの事はできる筈だ。

息を整え、チャイムを押す。

インターホンはあるが、必ずしも返事が返ってくる訳ではない。

同居しているジルは声が出ない関係上、インターホンは玄関前の来訪者の姿を確認するためだけに使われる事も多い。

強化された聴覚に、部屋の中からパタパタとスリッパの足音が届く。

足取りからしてジルのものだろう。

まぁ、彼女達が居るのは当然と言えば当然なので仕方がない。

気を利かせてくれる事もあるので好都合なくらいだ。

 

ガチャ、と、鍵が外され、玄関扉が開かれる。

 

『いあっあい』

 

いらっしゃい。

そう口の動きだけで告げるのは、祝の予想通り、交路の妹のジル。

穏やかそうな、或いはそれほど何も考えてい無さそうないつもどおりの表情。

しかし、その腕の中には、見慣れないなにか。

赤ん坊。

 

 

よく見ればジルにそっくりな顔立ちをした赤ん坊。

 

 

気の所為か、交路の面影があるようにも見える赤ん坊。

 

 

そんな赤ん坊を、小春ジルが大切そうに抱きかかえている。

その抱え方は中々堂に入っているようにも見えた。

 

「おじゃ、おじゃ、おじゃ……」

 

『えいあんいおう?(平安貴族?)』

 

お邪魔します、という言葉を口にしよう、という名残が口から壊れかけのラジオの如く繰り返し吐き出され、思考がから回る。

デザートにプリンでも欲しいのかな、という疑問と共に首をかしげるジルを放置したまま、祝の頭の中ではどうしようもない考えがぐるぐると巡りまわる。

いつの間に?

前に会った時はそんな素振り無かったのに。

子供は今作るつもりはないって。

身体を鍛えてるから妊娠してもわからなかったのかな。

わたしがジルちゃんのことそんなに見てなかったのかも。

避妊はしてなかったのかな。

私の時はしっかりしてるって言ってたのに。

私じゃ駄目だったの?

私だって。

でもジルちゃんとは作ったなら。

そういう事なのかな……。

 

じわ、と、浮かんだ涙で祝の視界がゆがむ。

今にも脚元から崩れ落ちてしまいそうだ。

今まであった筈の世界が全て音を立てて崩壊していくような。

いきなり冷水の中に叩き込まれたような絶望感。

 

《おい》

 

そんな中、脳裏に声が響く。

幻聴か、と、思う間もなく、目元の涙が拭われた。

だが、おかしい。

涙を拭われた感触はあるのに、それを拭った相手が誰かわからない。

そんな風に混乱する祝を傍から見たなら気づけただろう。

見えない指の様ななにかに拭われた祝の涙が、虚空に一瞬浮かんで、落ちる。

()()()()()だ。

 

《おい、聞いてんのか、難波ぁ!》

 

「ひゃう!」

 

脳内をかき混ぜるような大音響の、或いは、存在感の強いメッセージ。

同時に、頭頂部を拳で叩かれるような感触。

キョロキョロと辺りを見回すも、拳を落とした犯人は見つからない。

が、辺りを見回す顔が両側から見えない手で抑えられ、ジルの抱える赤ん坊の方へと力づくで向けられる。

泣き出しそうな、というより、薄い眉根を寄せ、見るからに不機嫌ですと言った雰囲気の顔をした赤ん坊が、あうあうと口を動かすのと同時、頭の中に再び声が響いた。

 

《午後のおっぱい飲んでる最中でしょうが。いきなり泣き出すんじゃなくて、ちゃんと要件を言えぇ……》

 

脳裏に響く声。

それは耳朶を打つ訳ではないが、その声と、その喋り方と、込められた感情に、祝は確かに覚えがあった。

 

「グジル、ちゃん?」

 

《さんを付けろよ淫乱ピンク》

 

戸惑う祝の目の前で、不機嫌そうな赤ん坊と化したグジルが、ケプッ、と、ミルク臭いゲップを吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




幕間の話は殆どライダーが絡まない
つまり原作キャラが絡まないので筆を慎重にしなくても良いのだ
キャラブレしたりすると熱心なファンが怖いからね

☆人間余裕があると余計な事をしがちという典型みたいなマッド・サイエンティスト枠
必死に戦ってた頃なら呪術なり陰陽術なりも自己強化に使うにとどまってたと思うんだ
でも今はそれなりに戦力に余裕がある時期だからね、仕方ない
でも実際必死に戦ってたのって最初期のクウガ編くらいでは?
ふわふわした霊的な何かを扱う研究室とどこから持ってきたかわからない赤子が大量にポッドに浮いてる研究室、パット見のヤバさは明らかに後者だってのは流石にわかる
だから手元の素材を赤ん坊にするね……

☆普段よりも情緒が不安定な赤子グジル
しかたねーだろ赤ちゃんなんだから
なんでも無い昼下がりに新レシピに挑戦してたら赤ん坊にされた上に脳開発までされたりする
エンジョイしかすることない余生だけどここまでされる謂れは無い
無いけど、実は本人もそこまで不満は無い
え、超能力使えるようになるのかよすげー!
で済むのは現代リント文明に馴染みつつも流石のグロンギ出身と言わざるを得ない
念動力に加え、なんと主人公も発現していないテレパスを取得
次回、思う様垂れ流し赤ん坊ライフを満喫

☆姉の様な存在が赤ん坊になって娘か妹が出来たような気分で実はウキウキなジル
実はグジルが念動力で受けるので抱きかかえる必要も無いのだが、抱きかかえたいとめちゃくちゃ楽しそうにグジルに伝えた為、ノリノリでお母さんムーブをしている
中身大人の赤ん坊に慣れるとリアル赤子の時に大変?
魔石の戦士は夜通し赤子の世話をしても精神的肉体的な負荷を得ない優れたベビーシッター適正を備えているのだ……
グジルが超能力を得る事はジルにもプラスになるのだがそこは次回
魔石の戦士特有の学習能力でおむつの付け替えが異様に上手くなる

☆あと少しグジルに声を掛けられるのが遅かったら黒目凄まじき戦士ワンチャンあった負けヒロイン
あ、しまった負けヒロインは作らない方針なんだった
でも冷静に考えるとどう足掻いても負けヒロインになってしまう悲しみ
主人公のモノローグの中でいい人、可愛い人、女性的な魅力もある人、などと言われているが、異性としての好意を向けられた事が恐らくないという、ヒロインとしては致命的な欠点を持っている
悲しい
なお、この話を投稿したのが2020年8月12日
アギト編で主人公の戦いに関する独白を聞きながらも強い決意と共に変身して次回への見事な引きを作ってくれたのが2018年8月1日
リアル時間で2年もあればキャラはこんな風に変わってしまうのである
悲しい

☆一回り年上というほど年上という訳ではない年上ヒロイン
ママン世代の少年ライダー隊とか居候先のガキポジションと考えるとギリギリ10は離れていないくらいかなぁって感じ
好感度は高いが最低限のモラルもあるため完全に受け入れきっている訳ではない、というエロさを備える
調教系エロSLGにある好感度と従順度と羞恥度みたいなものと思えばわかりやすい
わかりやすい……?
完落ちよりもその直前のギリギリ耐えてる、こんなことをしちゃ駄目よ……って言ってる時期が一番エッチィよねって話なんだけど、これで通じるのだろうか
ここしばらくエロゲ業界から離れているからこの時代にもそのタイプのエロゲがあるかどうかがいまいちわからない
次回登場してわちゃわちゃさせたい




次回もまた茶番回
ヒロイン周りは次回で終わりだけど、友人枠周りのパワードスーツ布教とか鬼としての修行まわりも書きたいからもうちょっとだけ幕間は続く
ライダー要素はって話も猛士周り書けばワンチャン原作キャラ出せるしね
それでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい

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