オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
東京のとある一角に存在する児童養護施設、創才児童園。
そこはかつて、オルフェノクによって経営されていた大企業、スマートブレインの下で運営されていた。
大企業の傘下という事もあり経営状況もそう悪い訳ではなく、事故や災害、何らかの事件により親を亡くした子どもたちを率先して引き取るなどしており、一部からは売名行為などの誹りを受ける事こそあったものの、地域住民には概ね好意的に受け入れられていた。
その施設が、現在如何なる状況にあるか。
経営母体であるスマートブレインは、トップまで含めた重要幹部どころか、多くの社員に至るまで一斉に行方を晦まし、会社としての体をなしていない。
建物、工場など残されてこそいるものの、それを運用する人員が根こそぎ消えてしまったというのなら、事実上、スマートブレインは運営のしようも無い。
警察は一夜にして消え去ったスマートブレインの社員たちの行方を追っては居るが、未だ何一つ結果は出ていない。
一部では、未確認やアンノウンなどが新たに活動を始めたのではないか、という話すら登っているが……。
施設の方にも、資金を援助してくれる会社が活動を停止している、という以上の問題が発生していた。
スマートブレインの社員が消えたのと同時に、この児童園に勤めていた保育士の半分、そして経営に関わっていた園長もまた蒸発したのだ。
そのような状態で園が経営できるわけも無く、結局、創才児童園にて預けられていた孤児達は、散り散りに各地の児童養護施設へと預けられるに至った。
余談ではあるが、現在全国の孤児院にはそれなりの数の孤児が存在している。
元から一定の数は居たが、2000年に起きた未確認生命体の殺人ゲームの標的となって死んでいった親、というのも、それなりの数存在していた。
おそらくは三段階に分けられていた殺人ゲームのどれもが、多くの場合は大人が標的に選ばれる事が多かったからこそなのだが……。
これは、スマートブレインの収集していた、何らかの事故に巻き込まれて親が死に、自分だけ生き残った子供、という縛りからは少しズレていた。
これは、親が死んだ子供ではなく、死地において奇跡の生還を果たした子供、という点にある種の神秘性を見出そうとしていたスマートブレインの研究員のミスだろう。
王を宿す候補者は、スマートブレインの想定していた人数を遥かに上回る数、存在している。
―――――――――――――――――――
とある養護施設。
皆が寝静まる、それこそ、消灯時間を越えても起きている様な子供ですら寝静まる様な真夜中、テレビの深夜番組すら放送していない様な丑三つ時。
明かりの落ちた廊下を、職員の一人が歩いている。
巡回だ。
職員は先日も、脱走した児童が盗んだ自転車で隣の県まで移動し、目撃情報や施設に入るまでの人間関係のデータなどを頼りに2日3日と探し回ったばかりだった。
外部の、それこそ他所の県の学校に行った、或いは進学でなく就職して別の県に行った友人などに頼み込み宿や路銀を手にしていたのだが……。
そういった苦労をする事を思えば、定時の巡回を密にする程度の事は苦にならなかった。
先日、運営が行き届かなく成った施設から連れてこられた児童。
ああいう子供との交流で何か変われば良いのだが、とも思いながら、そう上手くもいかないだろう。
子供の接し方というのは、親から自分への接し方こそが基礎になる。
自分の生き方すらままならない様な子に、自分より小さい子の世話をしろだの、そこから何か学んで成長しろというのは、幾らなんでも多くを望みすぎている。
ままならないものだなぁ、などと、考えながら巡回をしていると、廊下の奥から奇妙な音が響いてきた。
水音だろうか。
ぴちゃぴちゃ、くちゃくちゃ、と、水で遊ぶ様な、さもなければ、何か水気のあるものを咀嚼するような音。
珍しい事もあるものだ、と、職員は特に怪しむ事も無く音の発生源へと近付いていく。
夜半にこっそりと摘み食いをする児童が居ない訳ではないが、職員が見回りの最中に聞こえるほどの音を立てて食べるような者は居ない。
長く施設に居る者は慣れたもので、そういう事をしようと思ったなら職員が見回りをしていてもわからないようにする。
すべてを厳しく取り締まる様な事もしない。
ここは彼らの家であって、刑務所ではないからだ。
表向きの取り決め、ルールはあっても、破っても許されるラインとやり方というものが存在するのだ。
新しく入ってきた子が、空腹からついやってしまったのか、と、考えながら歩いていた職員が立ち止まる。
音の出どころは児童たちの寝室の一つ。
新しく入ってきた子も入っている部屋だ。
入り口で職員が立ち止まると、水音はピタリと止んだ。
足音を感じてのものか?
隠すつもりがあるなら、まぁ、良いか。
そう考えて、職員は再び歩き出す。
厨房の食材が少し減った程度であれば、誤魔化しようはいくらもある。
こんな夜中に説教というのも、どちらにとっても面倒な話だ。
事なかれ主義というなかれ、処世術の一つに過ぎない。
そう、自分に言い訳をしながら、職員は巡回を続ける。
足音が遠ざかると、部屋の中から、ずる、ずる、と、何かをすする様な音が再び鳴り始めた。
もし、職員が扉を少しでも開けていたならば気付けただろうか。
部屋に充満する、生臭い鉄と潮の香り。
締め切られず、月明かりに照らされた室内には、無数の
同室の児童を──オルフェノクの因子を保有している
捕食対象を完全に固形化もできず、ただ動きを鈍らせ、助けを呼べない程度の状態にしたまま、オルフェノクの記号の位置すら正確に判別できない為に文字通り食い散らかす、王の産まれ損ない。
粘度の強くなった赤い体液を、ゴムの様に固くなった肉片と共に口腔部に付着させたまま、飛蝗怪人の出来損ないが、フラフラと窓を開ける。
びょう、と、
産まれ損ないの、それでも常人や並のオルフェノクよりは鋭敏な聴覚は、或いは、オルフェノク同士が密かに持つ超感覚によるネットワークの様なものが、一つの音を察知する。
低い低音の振動音。
巨大な昆虫の羽音。
それを耳にする内、生まれ損ないの背中がぐにゃりと開き、真の王であれば必要とすらしない、飛行のための器官、虫のそれと同じ、半透明の羽が開く。
何かに誘われる様に、或いは、何かに誘われているのだと主張する様に、大きく欠けた月を目指すように空へと羽撃いていった。
―――――――――――――――――――
始まりは、地方都市にひっそりと佇む児童養護施設から。
預けられていた児童達の惨殺死体が発見され、すわ、未確認の再来か、と囁かれ、マスコミは面白おかしく騒ぎ立てる。
やれ、未確認に影響されたサイコパスの仕業だ、鳴りを潜めていた未確認が活動を再開しただ、獲物を狩り尽くした未確認ハンターが新たな獲物を求めて動き始めたなどというものまで。
だが、たった一件の猟奇殺人を面白おかしく騒ぎ立てる事ができた時間は、僅かに数日程度。
さすがのマスコミも、同じ様な事件が各地で頻発し始めればそうふざけても居られない。
各地の養護施設で似たような猟奇的な犯行が繰り返され、挙げ句、遺体には何らかの生物の唾液が付着し、歯型らしきものまで見つかったなどという警察の検死の結果が漏れてしまえば、それらは一気に現実味を帯びて来る。
人を喰らう化け物というものは、ある意味で言えば、未確認のような人間ばかりを標的に殺人ゲームを繰り返す謎の存在よりも余程生々しく受け取られる。
未確認が殺人ゲームを繰り広げていても他人事の様に普段どおりの生活が出来たとしても、人食い熊が人里に降りてきている、となれば、どうにかして家に籠ろう、より安全な場所に行こう、という思考が産まれやすい。
そしてその犯人の不透明さは、少なからぬ目撃者の存在していた未確認の事件とも異なる。
それらしい不審な人影を見た、という証言も、或いは単純に人が食われている、殺されている場面を見たという話も無い。
そして、被害者は特定の施設の中だけにも、一定の年齢層のみにもとどまらない。
ある日、家族が一人を除いて惨殺される、という事件が起き、或いは、裏路地に食い散らかされた人間の死体が転がっているのが確認される。
まるで、未確認関連事件の逆回しのようだ。
犯行はどんどんと見境なく、制限なく広がりつつある。
殆ど無差別と言っていい程、見えない肉食の獣の気配に人々が明確に恐怖を懐き始めたある日、それは現れた。
一見して、薄汚い浮浪児。
日本ではそう見かける事のない、ボロ布の様な衣類に身を包んだ子供が、都心の大通りを歩いている。
一目見て尋常ではないとわかるだろう。
死体の様に濁った眼。
乾ききり、ひび割れ、剥がれかけた皮膚。
遠巻きにしていても漂ってくる腐乱臭。
口元は黒カビにでも覆われているのかという程に薄汚れ。
その汚れは、元はパジャマの様なものだっただろう、ボロ布の胸元、腹の辺りまで広がっている。
好奇心か、或いは、明らかに正常でない子供の様子を心配してか、通行人の一人が近づいていく。
大丈夫かい、と、そう声をかけようとした男。
その喉元に、白い顎門が食らいつく。
顔面を突き破る様に伸びた子供の口、その、歯というよりも昆虫の口に近い構造の口腔によって、柔らかい人の肉が一口分、無造作に食いちぎられた。
一拍置いて、周囲から悲鳴が上がる。
それを合図にした様に、ボロ布を纏った子供の姿がみちみちと膨らみ、二メートル近い浅黒い灰色の、飛蝗と人間を溶かして混ぜた様な異形へと作り変わる。
通常、その基礎骨格だけは人間から大きく逸脱することの無いオルフェノク。
そのオルフェノクの規格からすら外れ、半ば飛蝗のシルエットを残したまま人の要素を捨て去った異形。
精巧な石膏像の様な作りのオルフェノクに比べ、泥人形の如く細部の崩れた、王の出来損ないにしてオルフェノクの出来損ない。
名付けるとするなら、マッドアークとでもするべきだろうか。
その行動原理は単純。
当然ながら、王になるために必要な素養が足りなかった彼らが王に至る事はない。
王の不在というシステムの不全により半ば事故的に目覚めた彼らは、この崩れた醜い姿こそが完成形だ。
不完全な状態が完成形である。
それを自覚する程度の知能すら形成できなかった彼らは、オルフェノクを見分ける知覚能力すら持たないまま、目撃者を避けるという意識すら持たないまま、本能のままに捕食を始める。
オルフェノクの記号を持つかも知れない、人間を喰らうのだ。
そして、彼らは単独で現れることは無い。
マッドアークにオルフェノクを見分ける能力は無いが、唯一見分けが付く獲物が存在する。
人間態を持たず、自らと同じ異形の姿を晒し続ける餌。
マッドアークはマッドアークを見つけ次第、必要な記号を喰らう為に襲いかかる。
そして、喰らい合いの場に別の獲物が居た場合、襲いかかられない限りはそちらを優先する。
少しでも王に近づき強くなった方が、同種を喰らい取り込める確率が上がる事を本能的に理解しているからだ。
東京の空に、羽音が響く。
空を黒く染めるのは、大小様々なマッドアークの群れ。
最初のマッドアークに導かれる様に、最初の彼を喰らう様に追いかけてきたのだろうか。
人口密集地である東京の街、餌である人間の群れを下に捉え、開いた口腔部から涎を垂らし、彼らは降下する。
悲鳴が響く。
未確認事件の時とは違う。
二度の東京襲撃の再来。
今度こそ同じことは起きないだろうという淡い希望はあっさりと踏みにじられ……。
「構え!」
「撃て!」
絶望感を煽る無数の羽音は、鳴り響く射撃音によりかき消された。
飛来するマッドアークに向けて叩き込まれる、毎秒30発の弾丸の嵐。
警視庁装甲服部隊標準装備、量産型GX-5ケルベロスによる、改良型神経断裂弾と特殊徹甲弾の乱れ打ちだ。
一糸乱れぬ動きで叩き込まれた弾丸は、虫のそれに似たマッドアークの薄羽を引きちぎり、彼らを地面に叩き落とした。
だが、高所からの落下程度で死ぬほどやわではないのだろう。
羽を失ったマッドアーク達が、ノロノロと立ち上がり、凶弾の主へと向き直る。
距離を置きながら対峙するのは、警視庁直属の特殊装甲服部隊だ。
最新式の携帯型装甲服に身を包んだ彼らは、先日の二十二号による警視庁アギトチームへの襲撃と、それに次ぐ都内での度重なる不審な動きをする二十二号の目撃情報を受け、私服警官に紛れて都内を巡回していたのである。
彼らの装備する、新技術を盛り込んだ特殊装甲服は、G3Xの時代に比べて極めて小型化された高性能装甲服だ。
装着者を護り、同時に優れた倍力機構であるグランメイル、それに各種装甲、センサー類を搭載した外殻を纏めたトランクケースサイズのスーツは、この様に装甲服部隊の集団的な行動を容易にし、緊急時の即時対応を可能としている。
が、それでも火力という面では未だに2000年当時からそれほど発達していないのが現状でもあった。
未確認、グロンギに対して有効であった神経断裂弾は次に現れたアンノウン、マラークに対しては意味を成さず、高速で打ち出される徹甲弾こそが通用した。
何を標準装備として採用し研究していくべきか、という議論は今も繰り返されており、装甲服部隊に配備された火器類は当時品の使いまわしでしかない。
無論、現状では山間部などに現れる巨大生物を除けばそれらで十分に対処できてはいたのだが……。
「頼む」
「任せろ」
装甲服部隊が一歩下がり、入れ替わる様に私服警官が前に出る。
都内の警らにおいても装甲服部隊の隊員とバディを組んで行動していた彼らこそ、警視庁の誇る切り札。
前に出た全員が、腰の前で両腕を交差させ、拳法の型の様に構える。
交差を解いた腕の間、腰部に現れたのは、賢者の石を中心に嵌め込んだオルタリング。
「変身!」
黃、赤、青。
色とりどりの賢者の石を輝かせながら、私服警官達の姿が光に包まれていく。
光が晴れ、しかし、私服警官の姿はそこにはない。
そこに居るのは、フレイムセイバーを、或いはストームハルバードを手にした、或いは無手のまま空手の構えを取る、或いはGK-06ユニコーンを構えたアギト達。
警視庁の誇る、対未確認生命体群用決戦部隊だ。
常から集団戦の連携訓練を受けた装甲服部隊とアギト部隊。
彼らは強力なマッドアーク達に苦戦しつつ、着実にその数を減らしていく。
装甲服部隊とアギトの連携は、或いはこの世界では起きなかった津上翔一、氷川誠、葦原涼によるテオスとの最終決戦の焼き直しか、或いはその先にあったかもしれない未来を想起させる。
正に、人類の守護者と呼ぶに相応しい戦いぶりだろう。
だが。
彼らとて広い東京全域をカバーできる程の数が居るわけでもない。
アギト部隊に至っては、警視庁内の少し広めの一室に全員が収まる程度の人数しか居らず、装甲服部隊は生身故に活動にも限界がある。
人通りの多い都心に多くのマッドアークが集まっては居るものの、適当な場所に降り立ち人間を喰らおうとしている個体も存在していた。
人類の守護者と呼ぶに相応しい、とは言っても、いまだ総てを護りきれる規模ではない。
取りこぼしは必ず出る。
閑静な住宅街に降り立ったマッドアークが、民家に入り込み密かに人間を喰らおうとするのを、残らず止めることなど、現代の人間には到底不可能なのだ。
そう、人間だけならば。
窓を破り入ってきた泥人形の様な怪物に対し、腰を抜かし逃げることすらできない住民の前で、それは起こった。
逃げることのできない獲物をゆっくりと喰らおうとにじり寄るマッドアーク。
その身体に、横合いから食らいつく顎門があった。
緑と白、青で彩られた、爬虫類と虎の間の子の様な機械の顎門。
姿見から首だけを出したそれは、食らいついたマッドアークを噛みちぎるでも無く、そのまま鏡の中へと引きずり込む。
―――――――――――――――――――
はぐれのマッドアークが引きずり込まれた鏡の中は、表の世界とは様相を一変させた異世界であった。
表の世界とのポータルである鏡面はそのままに、機械で構成された樹木のような構造物によって侵食されたそこは、まるで人類滅亡後の世界を再現したジオラマのよう。
室内であった筈のそこも、廃墟のように崩れ落ち、青い空を上空に仰ぐ。
「あらあら、やっかいなお客様ねぇ」
マッドアークの耳に、甘ったるい蜜の様な少女の声が響く。
視線を向ければ、そこにはヒラヒラとしたドレスの様な衣装に身を包んだ白と黒の二人の少女が並び立っていた。
見るからに食べやすそうな餌を前にマッドアークが動かずに様子を見ているのは、彼女たちの背後に、光剣を翼の様に広げる四足の機械の怪物──二人の契約モンスターである、レイブレード・グライフが睨みを効かせているからか。
「正直、表には沢山、余計な人たちが居るから、少しくらい減ってくれてもいいのだけどぉ」
毒蜜の様な、甘い声とは裏腹な酷薄な言葉を紡ぐ少女達の手には、一枚のカード。
『ユナイトベント』
ドレスの様な服装が一瞬でライダースーツに包まれ、頭部すらフルフェイスのヘルメットに覆われる少女達──マテリア・シロとマテリア・クロ。
契約モンスターのレイブレード・グライフが光の粒子に転換され、ライダースーツを包み込む様に装甲を構築していく。
完全なる戦闘形態に変化するべく、ライダースーツの中にある肉体すら、骨格を瞬間的に伸展し、格闘戦に有利な程度の身長へと移行。
変化は僅か数秒。
しかし吹き荒れるエネルギーの奔流にマッドアークは近づくことすら出来ず、その完成を見守るしかできない。
後に現れたのは、可憐な少女ではない。
背に機械の短い翼を持つ、滑るような白と黒に染め上げられた装甲に、クリスタルに似た素材を嵌め込んだ全身装甲の戦士。
「せっかくお父様が備えてくれていたのですもの」
白い全身装甲の戦士が、鎌のように湾曲した刃を持つファルクスと呼ばれるそれに似た武器、戦術駆逐刀の切っ先を向け。
「試し斬りついでに、死んでいきなさいな」
構えた戦術駆逐刀の切っ先を指先でいやらしくいじりながら、黒い全身装甲が振り返る。
今引きずり込んだマッドアークだけではない。
彼女たちの契約モンスターが取りまとめる無数のヘキサギア達が、可能な限り、警察が対処しきれなかったマッドアークをミラーワールドに引きずり込んでいる。
その数はどれほどだろうか。
見渡す限りの敵の山、という程ではないが、一帯の住宅地……。
彼女たちの住むマンション周辺の住宅街は完全に守られていると言って良いだろう。
共食いを前に、少しでも勝率を上げるために、マッドアーク達は確実にシロとクロへと襲いかかる。
彼女達が手伝うのはここまで。
いつか帰ってくる彼女達の姉妹の家を、或いはそこに迎えられるかもしれない共通の知り合いの帰ってくる場所を壊さない為に、人類の危機とは無関係に彼女達は力を振るう。
―――――――――――――――――――
「フンッ!」
緑の装甲に身を包んだ戦士が拳を振るえば、マッドアークの顔面のエイリアンじみた口腔部はたちどころに砕け、その頭部を僅かに拉げさせた。
ふらつくその身体に回し蹴りを叩き込めば、吹き飛んだマッドアークにその他のマッドアークが掴みかかり、声も無く五体をバラバラに引き裂かれ食らい尽くされる。
「成程、こうすれば良い訳だ」
緑の戦士──アナザーアギトと背中合わせに戦っていたギルス──葦原涼は、ベルトの機能により最適化された頭脳で、マッドアーク達が互いに喰らい合う隙を伺いながら襲いかかって来ている事を瞬時に見抜く。
バイト先のバイク屋である為に下手に銃火器を使う訳にも行かないが……。
じゃら、と、前腕装甲、ライブアームズからギルスフィーラーを引き抜き、それを鎖状の武器へと変換。
先端に鏃の様な錘の付いたそれを振り回し、的確に距離が近いマッドアーク達にダメージを与え、同士討ちを狙っていく。
それで着実に数は減りつつあるが……。
マッドアーク達が一斉に光弾を放つ。
赤に黄の混じった低圧縮度の天然フォトンブラッド光弾。
距離を詰めることができないと悟れば、マッドアーク達もやはりそれに適応する。
或いはここを離れて他に餌を食べに行けば良いと思うかもしれないが……。
マッドアーク達にとって、明らかに人間ではない異形は総てオルフェノクと認識してしまうのか、或いは、アギトの力やギルスの力に対し、オルフェノクの記号そのものが何か敵愾心を持たせるような作用があるのか。
遠距離攻撃を持たないアナザーアギト、そして遠距離武器を自粛せざるを得ないギルス。
しかし、あの無数のマラークと戦い抜いたギルスにとっては大した問題でも無く、アギトを自分一人にする為に襲いかかった自分に、訥々と話を聞いて説得してくれた葦原に恩を感じている木野薫は一歩も退くことは無い。
光弾を鎖で弾き、或いは避け、避けきれない分は装甲を一部銀色のタイタン装甲へと変化させて受けきり。
武術の型で守り、或いはライブウイングで低空を滑るように飛びながら。
アナザーアギトとギルスが前に出る。
―――――――――――――――――――
「んなああああ!」
ご、と、真っ直ぐに過ぎる拳打が放たれれば、それを受けたマッドアークの胸板は発泡スチロールでできているかの如く穴を開け、背面から内容物が爆発したかの如く吹き出した。
背後からその哀れなマッドアークの姿を見ることができれば、拳で打たれた上半身、その背面半分程がごっそりと爆散しているのがわかるだろう。
腰部に擬似デッキを装着した、女性的なボディラインを見せる赤い色違いの陽炎。
難波祝の変身する疑似ライダー、蜃気楼は、機能的には陽炎のコピー品に過ぎない。
拳打の威力を上げるギミックなどが存在する訳でもなければ、現状ではユナイトベントすら使っていない。
拳の威力はすべて、装着者の難波祝の素の実力に由来するものだ。
これは彼女自身自覚しているものではないのだが、変身時、或いは、変身しての戦闘時、彼女の肉体は常軌を逸した重量へと変化している。
正確には物理的に重い、という訳ではないのだが……。
現時点での彼女の肉体は、人間大のサイズでありながら、大型タンカーに匹敵する重量を備えている。
彼女が通常の人間と同じ挙動を変身時に可能としているのは、無意識に発揮している超能力により自らを常に持ち上げているからだ。
これは彼女が、日常的にとある人物から得ている生体組織を、意図的に自らの身体に取り込み続けた結果。
実重量が増している、というよりも、尋常な生き物ではありえない程の生体エネルギー──
多量の気を受け、循環するに足る構造に、肉体が適応しようとしているのである。
無論、それは彼女を害するものではない。
彼女と敵対する存在への害は、計り知れないものとなりつつあるが。
「今日は、交路くんと、お出かけの、予定だったのにぃ!」
カードを引き抜くという動作も必要ない。
今、彼女は行き場のない怒りをぶつける先だけを求めていた。
「重い女だなぁ……」
人間大の大質量が暴れる裏では、その被害が他所に向かない様にサポートに回るジルとグジルも存在していたのだが。
結果的にこの近辺のマッドアークは残らず怒りの矛先として消費されたので、戦果としては十分に過ぎるだろう。
―――――――――――――――――――
東京の各地で、戦士達が戦っている。
二度の壊滅を受け、しかし、東京はただ再生しただけではない。
戦いを乗り越えた戦士達が残り、警察にはさらなる壊滅を避けるための戦力が作り上げられた。
とあるレストランの主は、フレイムセイバーとストームハルバードの二刀流で周辺の住民を守り抜き。
とあるテナントの華道教室では、赤い鬼が竪琴を奏で、式神を放ちマッドアークを戦士達の元へ誘導し。
新武装を手にした青空の会の白いパワードスーツは、以前にもましてキレを増した動きで次々に肉体スペックで上回っているはずのマッドアークの群れを切り捌いていく。
二度。二度の災害が2000年に入ってからの東京に訪れ、無数の死者を出す事に成った。
しかし、二度あることは三度ある、などという事を許すほど、人類は間抜けではない。
三度目の正直とばかりに、現れた無数の襲撃者達を叩き潰していく。
だが、それはあくまでも東京に限った話だ。
多くの事件は東京を中心に起こり、戦士は東京に集い、防備は東京で重ねられた。
東京に脅威が現れる限りにおいては何も問題は無いだろう。
では、それ以外の場所はどうか。
人口密集地は東京ばかりでもない。
人の多い場所を目指さないはぐれものも居るだろう。
しかし、それでも人類が滅びる事は無い。
神の怒りに触れてもなお、人食いの怪物が跋扈してなお。
人間は何万年と生き永らえてきた。
青森県青森市、八甲田山の奥深く。
赤心寺黒沼流の本堂にて、崇められる黒沼流総帥、黒沼外鬼の坐像の眼が赤く輝き、劈くような、カラスの鳴き声にも似たビープ音が鳴り響いた。
一話で終わるかなって思ったら、レイドイベントの説明で一話の半分使っちゃった
☆アークオルフェノクのなりそこないの群れ
マッドアーク=泥の小舟
くらいの意味合い
乗っても沈むから意味ないよ!
そもそも完全な王にはなれないので通常オルフェノクに何かしらの利益を齎す事は無い
本物の王の様に餌を見分ける機能も無いから方はしから人間食う(猩々感)
人間食っても人間の力は手に入らないんですけどね、初見さん
やっぱ猿知恵は猿知恵だわ……
こいつらは猿並みの知能も無い
王のなりそこないなのできれいにご飯も食べれないしきれいに人間を脱ぎ捨てられないしきれいにオルフェノク化もできない
超能力っぽいパワーもあんまり無い(薄い羽で飛べるので少しはある。並のオリジナルオルフェノクくらい?)
装甲服部隊では倒すのに苦戦するし犠牲も出るけどアギト部隊と合わせればまぁ勝てる
かなしい
未確認事件とかそのへんの生き残りの子供は今回でかなりさっぱりしたんじゃないですかね……
☆装甲服部隊とアギト部隊
アギト一体、装甲服部隊数人でセル組んでの活動が基本なんじゃないかなって
前回描写した通りアギト部隊の数は一室に収まる程度なのでそんなに数は居ないし
きっといざとなれば装甲服部隊で取り押さえるみたいな目論見もあるけど、仕事仲間であるし大部分が元は装甲服部隊だしそもそも同僚の警察官なので人間関係は現場次第
こっちの使徒再生アギトはフォームチェンジ無し、進化したらできるかな?
☆シロクロ戦闘形態
ほとんどエッチな話書くため専用に出したやつらだけど戦闘形態はもちろんある
レイブレード・グライフという公式が出した作例を契約モンスターに、変身はユナイトベントで行う
変身後はヤクトファルクスの色違いで黒と白の装甲バージョン
ファルクス系列の機体なら女性的なしなっとした動きをしても許されるかなって
あと武器のデザインがサディストっぽいので
☆なんでか居るキノさんと東京に居を構えた葦原さん
キノさんは葦原さんを殺しきれずに葦原カウンセリング的なものを受けたので恩義とか感じてるんじゃないかなっていう感じ
普段はやっぱり世界中飛び回っているけど芦原さんや津上が居るから時折東京に帰ってきてる
キノさんがTSして見た目キノっていうネタをキノで変換しても木野が出にくい時に思いついたりしたけど
女性をアナザーアギトに変身させる悲しみと原作キャラTSは振り返れなくなるので無しで
でもボーイッシュな女の子が死んだ弟の為にとか思い込んで病みぎみに他のアギトを襲いに行くとかなかなか好きな展開なんですけど木野薫TSキノなアギトSSとか誰か書きませんか
☆本編でエッチの話と酒の話しか出てないのに重い女
重い女(物理)
ホントは中だしされた精子をモーフィングパワーで取り込んでたら体内の気が恐ろしく膨大に成ってた程度のネタだったんだけど
超重量超高質量で重い女ってのはネタ的に美味しいなと思ったので少し浮いてる(ヒロインとしてという話ではなく)重い女ヒロインという方向にシフトした
シフトする前は膨大な気を相手に送り込んで零式殺気放射と言わんばかりに相手を体内から破裂させる新必殺とかになっていたので
現状はそんなに悪い方向性では無かったと思われる
別に出された液の量が大型タンカーの重量に匹敵する、みたいな話ではない筈
☆レストランを守ったり華道教室を守ったり最近若返ったみたいに身体の調子が良かったりする戦士達
何の変哲もない登場済み二人に挟む事で違和感を少なくするエロ本購入テクニック
ぐにょりはエロ本を買うのを隠すのは恥ずかしいと思っているたちなので、エロ本買う時はその他の本も含めて全部表表紙を上にして横に広げる様にして並べて起きます
多分バーコード読み取る関係で裏面出して重ねる方が良いんだろうなぁとは思うんですけど、実際書店のバイトとかしたことある人いたらどうなのか感想頂ければ
長引いたけど次回で終わるかどうか……
まぁ撃墜するべき親玉も居ない地味なクライマックスなので、555編、もう暫くお付き合いください
青森の方とかULTRAMANとかそしていにゅいとかを描写するにはあと一話で足りるような足りないような
そんな煮え切らない555編ラストのレイドバトルですが、そんな話でも良ければ次回も気長にお待ち下さい