オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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99 新武装、新アルバイト

俺は別段、世界平和とか人類の自由とかを守るために戦っている訳ではない。

が、しかし、だからといってそういうものを蔑ろにして生きていれば、遠くない未来で手痛いしっぺ返しが来ることも重々承知している。

グロンギによるゲゲルが終わっている以上、一般に広く戦闘場面が目撃されるかもしれない場面というものは少なくなっているが、ミラーワールドでの戦いなどを除けば大半の敵との戦いには少なからず目撃者が発生し、表向きにしろ裏向きにしろ、情報は広まっていくものだ。

戦いに人間を巻き込むことも躊躇しない、という評判が広まれば秩序側の勢力に目をつけられる可能性が増える。

その状態で正体バレなんてことになれば人生の破滅だ。

まあ、ある程度の時間であればロールバック可能ではあるのだが、それも警察にアギト部隊がある以上それほど効果は無いと見ていい。

最悪の場合は警察のアギト部隊からアギトの力を取り上げてしまえば済む話ではあるのだが……、勝手に治安を守ってくれる戦力を弱体化させる必要もない。

 

そもそもの話として、最低限健康で文化的で幸せな生活というのは、少なくとも俺にとっては一定水準の文明無くしてありえない。

そりゃあ、今の状態でも地球を見捨てて移住可能な適当な惑星に移って生活することは難しくない。

食料の生産にしてもヘキサギアの技術を応用して労働用のロボットを作れば問題ないし、発電に至ってはインフィニティパワーユニットが一つもあれば十分で、電子機器も持ち込みしたものを幾らでも修理できる。

資源に困れば適当な衛星を資源として潰して持ってきても良い。

もっと極端な話をすれば、適当に大都市の構造を頭の中に叩き込んだ上でモーフィングパワーで再現、都市インフラの整備に関してはFAGやその派生機達に任せるだけで済むだろう。

 

が……文化面というのはどうしようもない。

俺だって四六時中戦いのことばかり考えている訳ではないし、一般の娯楽にだって手を染めている。

音楽、芸能、その他娯楽……。

それは、如何に魔石によって驚異的な性能の脳を手に入れていたとしても、一個人で自給自足できるものではない。

やろうと思えば、新しい星に新しい人類を製造する覚悟が必要になってくるだろう。

 

人間社会から産まれた人間的感性を持った人間が幸せに生きようと思ったなら、人間の文明を維持し続けなければならない。

自然での生活でも十分に幸せを感じられる、という人間も居るだろうが、それは人それぞれだろう。

俺には無理だ。

たぶん。

やろうと思えばできるが、それは本当に何もかもどうしようもなく文明が損なわれてしまった後に試しても遅くはないだろう。

文明が存在する今からやってみる必要は無い。

 

故に、幸せに生きようと、楽しく生きようと思ったら、世界はある程度平和に保たれなければならない。

いたずらに文明を崩壊させてインフラを破壊して、水を飲むのにわざわざ川まで行かねばならなくなったり、上下水道を整備する者が居ないためにトイレが流れずクソが山の如く積み上がる、なんて馬鹿な世界にしてはいけない。

 

だが、世界をある程度平和に保つ、人類を滅びない程度に強化する、と言っても、限度というものがある。

例えば、人類の強化。

魔石とそれを制御するベルトを埋め込めば、敵性種族から脅かされる事はなくなるだろう。

既に俺の力によって、ベルトをいちいち埋め込まなくとも、煙をちょいと吸わせれば最新の制御装置を組み込んだ魔石の戦士へと進化させることが可能だ。

更にミラーワールドを支配し、転移も可能な今、世界中は無理でも、日本中の人間を魔石の戦士にするのに必要な時間は一時間にも満たないだろう。

はっきり言って、これは昭和の仮面の戦士が出てくるよりも先に済ます事が可能だ。

 

これの凄いところは、魔石の戦士、というより、人間の進化の可能性を実体化させた魔石の性質上、キングストーンフラッシュによる無効化が、場合によっては逆効果になりえるというところだろうか。

例えば強制的に魔石の戦士にされて、元の人間に戻りたい、と願う人間にキングストーンフラッシュを掛けたとしよう。

この場合は特に問題なく人間に戻る事ができる。

これはキングストーンフラッシュによって力を無効化されたのではなく、キングストーンフラッシュによって魔石の齎す進化の方向性が元の人間に回帰するという形に収まるからだ。

逆に、力を失いたくない、と願っていた場合は、キングストーンフラッシュへ対抗する形で抵抗力を得て、より強靭な改変耐性を得る事になるだろう。

曲がりなりにもテオスの似姿である人間がテオスに至るための可能性の結晶、容易く作り変えられたり消滅したりはしない。

もっとも、素の殴り合いになった場合、最新のゲドルードアークルで変身した個体でも普通に殴り負けて藁束の様に蹴散らされるだろうが……。

 

が、現時点のプランでは、全人類を魔石の戦士、及び、アギトにするという計画は消滅している。

楽な手段ではあるのだが、これは非常にイレギュラーが発生しやすい。

全人類に魔石とベルトを配布するという事は、それだけ解析する為のサンプルが出回るという事になる。

厳重にしかけた安全装置にしても、そう時間を置かずに解除する方法が編み出されてしまう筈だ。

なにせIQ600の天才が学校の一クラスの中で五本の指に入る程度の成績しか取れない様な時代もあったのがこの世界。

野生の天才などは在野にゴロゴロ転がっていると見ていいだろう。

 

そうなると、どうなるか。

最初の内は肉体が進化に耐えきれず焼き切れて死ぬ事件が多く発生するだろうが、暫くすれば野生の、一般的な人間的欲望を備えたダグバもどきが大量発生してしまう。

そうなれば地獄絵図だ。

そして、その地獄絵図は暫くして、被害者側が加害者側に対抗するために安全装置を外し、ダグバの様な力を抵抗に用いるという新たな地獄を生み出すだろう。

無論、今の俺ならばダグバ相当の戦闘力を持った個体程度ならばどうにでもなるし、一般的な道徳と欲を持った人間が能力的にダグバと同等になったからといって即座に戦闘力が=で結ばれるとも思わないが……。

少なくとも、現時点での人類文明は無事では済まないだろう。

闇の偏愛クソロン毛ではないが、魔石とアギトの力は今の人類が扱うには過ぎた力だ。

 

そういう点から見れば、現状の人類側戦力は実にバランスの良い成長をしている様に思える。

警察にはアギト部隊が居るが、これは敵対する種族が少なく数も弱いためにさして進化の兆しを見せず、ほぼ初期状態から進化できていない。

というより、エルロード相当の敵が出てこない限りは戦闘訓練を積んだ上で連携を組んで戦うアギトで苦戦する事はそう無いので、進化する必要が無いとも取れるのだが……。

 

それを除いたとして、警察の装甲服部隊、いや、強化服部隊と言ったほうが良いだろうか。

最初期型の疑似デッキからミラーワールドへの移動機能などを排除したモンキーモデルはそれなりに普及したようで、後付の追加装甲や倍力機構を追加したものが実験的に部隊単位で運用されているようだ。

まずデッキの生産性の良さが評価されたようで、こちらは基本的に複数人でチームを組んで運用されているらしい。

所謂、デカ達のレンジャー的な──警察戦隊的なものだ。

シルエットも厚手のライダースーツにちょいちょい装甲を足したもので違和感も無い。

火力不足という問題はあるが、これは色々と政治的な問題もあって即座に解消する事は難しいらしい。

が、警察には神経断裂弾が存在している事を忘れてはいけない。

この世界では旧グロンギが滅んだ後も人類を脅かす存在が活動を続けており、当然、それらに対応する為に警察では各種武装の研究が続けられている。

まぁ、単純に神経断裂弾の威力を上げれば倒せるという敵はもうそんなに出てこないのだが……。

将来的に、そういう単純な強度が面倒な敵も出てくるから備えておいてくれるのはありがたい。

少なくとも、この世界の警察は人間を襲う怪物が現れても微動だにしない他所の世界の無能とは違う、という事だ。

 

当然、猛士の存在を忘れてはいけない。

古来より魔化魍との戦いを繰り広げてきた鬼とそれをサポートする集団は、組織の規模も対応力も段違いに高い。

無論、魔化魍への対処を最優先にするだろうし、蓄積された戦闘データの類も対魔化魍のものが多い。

しかし、異形の存在との戦いに慣れている、という点は大きいし、鬼の戦闘力の高さは、魔化魍以外との戦いにおいても有利に働く事になるだろう。

そしてその組織には俺が仲村くんを経由して一石を投じている。

鬼の鎧の存在が忌避されていたのは気になる点ではあるが、そこも仲村くんが出世してどうにかしてくれる事に期待していきたい。

歴史の厚み、対応の速さ、呪術的な技術の蓄積など、今最も熱い勢力と言っても過言ではないだろう。

 

実際、警察と猛士に各種敵性種族の情報を回すのが一番手っ取り早くもあるのだが、狡猾な連中は少なくとも警察に手勢をある程度送り込んでいる。

ZECTなどはその最たるもので、実質の支配者であるネイティブの配下でしかなく、最終的に根絶を目指している対象だ。

警察上層部には既にZECTの表向きのトップが存在しており、そういう点から見ても警察に軽々に多くの情報を渡す訳にも行かない。

 

規模が一番大きいのは当然警察であり、対応力が高いのは猛士であるのは間違いない。

これらは既にある程度放置しておいても問題ないレベルにある。

では、意識して手を入れておいた方が良い組織はどこか。

無論、素晴らしき青空の会だ。

 

素晴らしき青空の会は警察や猛士と比べると一段二段と組織の規模は下がるが、一部技術レベルは上回る部分がある。

警察に対して逮捕された構成員を釈放させた上で事件をもみ消す程度にも影響力がある反面、警察と提携している訳でもないというのもありがたい。

基本的に、大金持ちの道楽の延長にある組織である為、組織構造が酷く歪なのも都合が良い。

 

手を握り、開く。

当然の話ではあるが、一見してライダースーツの類にしか見えないこの掌にしても、倍力機構が備えられている。

それはファンガイアとの激突に際して武器を取り落とさない為というのもあるし、将来的に採用する予定だった斬撃系の武装を扱う上で必ず必要になるためだ。

 

そして、取り出したるこの十字を模した銃と剣の複合兵装こそ、今回イクサに搭載する予定の武装として提案した新兵器、仮名を『イクサブレイガン』である。

後に製造されるかもしれないイクサカリバーと異なる点があるとすれば、その火力だろうか。

名前と見た目からもわかる通りこのイクサブレイガン、モデルとなっているのはカイザブレイガンであり、現時点では対ファンガイアではなく対オルフェノク仕様の延長線上にある。

 

「ロボタフ、スパーリングだ」

 

ズングリとした胴体を持つオレンジ色のトレーニング・ドロイドが、電子音を鳴らしながら起動する。

両腕の先にはパンチンググローブに似た打撃ユニットが装着されており、打撃面が対象に接触すると同時に内部ユニットが衝撃を発生させ、中国武術における発勁の様な効果を発生させる事もできる、最新のトレーニングユニットだ。

また、打撃ユニットを外して通常の人間のそれと同じマニピュレータを装備する事で多種多様な武器戦闘にも対応が可能になっている。

赤心寺にも提供しているが以前の警備用ロボの流用物よりも評判が良い。

表情の存在しないバイザー型の顔と、頭部に頂く猫耳型センサーのギャップは見るものへの心理的な影響すら考慮した素晴らしいデザインだと自負している。

 

キュッキュと軽やかにステップを踏むロボタフ。

ロボタフには複数の戦闘AIを組み込んでおり、それらを単独で起動させる事もできるが、複合させる事で変幻自在な戦闘が可能になっている。

今のステップはボクシングのもの。

リズミカルに、しかし、実重量を感じさせない軽やかなステップで間合いを測るロボタフ。

その足元、胴体、頭部へとフォトンブラッドの弾丸を放つ。

 

この試作イクサブレイガン、目玉はなんと言っても小型ブラッドサーバーの搭載だろう。

ULTRAギア制作の過程で出力を抑えた小型サーバーを開発し、運用データを蓄積する事で、スーツ状に展開せずとも直接刀身や銃身へとフォトンブラッドを供給する事が可能になったのだ。

また、トリガー部分にセンサーを配置し、登録された素材が当たった状態でなければ銃としても剣としても起動できない様にしてあり、武器を奪われた際にもその場ではこちらに向けられる危険性は無い。

イクサが生身の味方に武器を貸す場合には不便になるかもしれないが、その場合は素晴らしき青空の会の構成員には戦闘用グローブとしてイクサスーツの掌と同じ素材のものを配布しておけば良いだろう。

ちなみに、モーフィングパワーの取り扱いに優れた戦士であれば、トリガーに当たっている部分に該当する素材を精製する事でこのセキュリティは乗り越える事ができる。

 

そして当然、元のライダーズギアと異なりブラッドサーバーにはオルフェノクの記号でなくアギトの力を使用している為、小型のサーバーでも火力はそれなり。

これまで得た技術を注ぎ込んで作ったロボタフの装甲は頑健な作りではあるが、可動部である脚に当たれば拉げ、胴体に当たれば大きく吹き飛び、頭部に当たればセンサーは破壊されるだろう。

 

発射される黄色のフォトンブラッドの弾丸。

拘束でなく破壊を目的として放たれたそれを、まずはステップで脚狙いを躱し、胴体狙いの一撃を打撃ユニットで撃ち落とし、頭部狙いの一撃をスウェーで避ける。

良い動きだ。

しかし、打撃ユニットで撃ち落としたのは不正解だ。

打撃ユニット経由で伝わった衝撃は胴体内部の回生ダイナモである程度無力化できている為に実ダメージは無いだろう。

だが、ステップとスウェーにより重心がぶれ、僅かに脚が宙に浮いている。

 

踏み込む。

トリガーを押し込み、ブレードを展開する。

小型のブラッドサーバーからブレードにのみ供給される大量のフォトンブラッドがスパーク。

実際に形成されるブレード部分よりも広く発生した力場が、斬撃が到達するよりも疾く対象を捉え、その動きを阻害する。

最早回避は不可能。

という所で、連続して鳴り響く激発音。

イクサブレイガンの斬撃の軌道から、ロボタフが消失する。

ロボタフは空中に棒立ちだった状態から、身を捻りながら回転し倒れ込む様に横倒しになり、斬撃から逃れていた。

打撃ユニット内部の衝撃発生機構を連続機動する事で推進力とし、地に足のついていない回避不能の状態から復帰してみせたのだ。

 

激発音が続き、踏み込んだこちらの脚にロボタフの蹴りが迫る。

寸胴……というより、僅かに卵型の曲線を持つロボタフの胴体は背中の一点を軸にコマの様に回転し、ブレイクダンスの様な姿勢から反撃してみせた。

構造上、ロボタフは稼働するパーツは全て人間以上に動くように設計されている。

脚部の打撃力はそれほどでもないが、足首や膝の稼動を駆使して拘束される恐れもある。

 

跳躍?

今はスーツのテストをしているので念動力での空中機動ができず、跳んだ後は無防備になる。

避けるべきか?

いや。

ロボタフの胴体にブレイガンの銃口を乗せ、そこを起点に僅かに跳ねる。

銃撃。

ゼロ距離射撃は考慮していない訳ではなく、数発ならばブレイガンを破損せずに発射できる。

ぼごん、と、凹む胴体。

しかし、ロボタフの分厚い胴体はその殆どが衝撃を逃すための特殊構造体。

機能が停止する前に反撃が可能だ。

 

反撃は迫る打撃ユニット。

中国拳法の発勁、そして、赤心少林拳の気の概念を機械的に再現する事を目指して作られたこの打撃ユニットから繰り出される威力は、並のライダーのパンチ力を軽く上回る。

その打撃力、なんと驚きの20トン!

中身の俺はともかく、まともに受ければイクサスーツはただでは済まない。

 

スーツでできる範囲の回避……?

腕一本犠牲にするか。

スラスターの一つもついてないとかG1を見習うべきではないだろうか。

だが、そんな欠陥の多いスーツでも、新たな選択肢を選べる。

そう、イクサブレイガンならね。

刀身を形成し、打撃ユニットへと斬りつける。

純粋な威力では負け。

刀身が拉げ、フォトンブラッドの刃が砕け散る。

しかし、同時に手を離したお陰で20トンの威力はブレイガンが吹き飛ぶことで逃す事ができた。

 

伸ばしきった腕の先に打撃ユニット。

20トンの威力は、腕の馬力、胴体の捻り、そして打撃ユニットに組み込まれた拳法再現システムの相乗効果により発生する。

伸び切った腕の先、打撃ユニットだけで出せる威力はたかが知れている。

 

重力に引かれて落ちる中、両手を交差させてロボタフの継ぎ目のない首元に左右の手刀を当て──

 

「寒椿」

 

―――――――――――――――――――

 

「むむむ……」

 

スーツのテストを終えると、素晴らしき青空の会のスーツを整備したりしてくれる人が難しい顔で唸っている。

さもありなん。

俺も少し反省しているのだ。

今回のイクサブレイガン、俺の持ち込み企画であるが、正直プレゼンに成功したとは言い難い。

戦闘の相手までもが俺の持ち込みであるスパーリング・ドロイドであるというのもあるが、わかりやすい強さを見せつける事ができなかった。

無論、良いところがたくさんある武器ではある。

まず、ライダーズギアと同じくある程度の自己修復機能が存在している為にさっきの戦いの様に刀身を犠牲にしても機能を損なう事が無い。

なんなら、威力を殺す為に弾かれるままにしておいたが、あれを再び手に取りスイッチを押せば問題なくブレードを形成する事が可能になる。

モーフィングパワーや天使パワーで武器の再精製ができない常人の戦いにおいて、武装の耐久性は重要になってくる。

そういう点で見ればとても優秀なのだが……。

 

やはり、拘束弾で相手を縛って殺しに行けるという点を強調するべきだっただろうか。

だがあの拘束弾、ある程度の力があれば相殺できてしまうからロボタフを抑える事はできないし……。

当然、高位のファンガイアなども拘束から逃れてくると思われるので、あまり過信してほしくもない。

 

トドメを赤心少林拳の技で〆たのだって、スーツの性能を活かそうと思うなら中身に一定の戦闘力が備わっていてしかるべきという主張でもある。

イクサナックルでやっても良かったと思うのだが……。

残念な事に、今のイクサナックルの威力ではロボタフの装甲を貫く事はできない。

ロボタフは度重なる赤心寺でのスパーリングを乗り越えたパラポーン・センチネル達の戦闘データを元に、対義経師範を想定して作り上げた、現状で作れる最高性能を目指したスパーリング・ドロイドなのだ。

生半なライダーの必殺技で貫けるような安い装甲にはしていない。

理論上、対個人型ファイナルベントの直撃を受けながらでも問題なくカウンターを打てる程度には頑丈に作ってあるのだ。

 

「ねぇ、今の戦闘でどこか体を痛めたりとかは」

 

「ないですねぇ。痛めたというならこいつの方が」

 

関節を非常に簡略化して作った首を切り落とされたロボタフ。

その首から上のバイザーには『×』が表示されている。

所謂撃破判定というものだ。

ライダーズギアを元にある程度の自己修復能力を備えているロボタフではあるが、完全に破壊されて自力での復帰が不可能になった場合にはこの表示が出るように設定してある。

地下秘密基地に戻してオーバーホールが必要になるだろう。

 

「で、どうです、このイクサブレイガン。使えそうですか」

 

「ええ、まぁ、悪くない武器だと思うけど……」

 

「流石に量産には向きませんけど、それこそ対ファンガイアに特化させれば生産性は上がりますし」

 

「そうね……今のままだと威力が過剰で市街地で気兼ねなく使えないだろうし……」

 

「これ一本あれば剣も銃も装備した事になるから、ステゴロ運用よりも使いこなせる人間が多くなる。イクサスーツの量産の助けにもなると思うんですよ」

 

―――――――――――――――――――

 

「イクサの量産ねぇ」

 

イクサの運用データ蓄積のバイトを早々に終え、付添であったなごみさんの家にお邪魔してお昼ごはんの冷や麦を啜っていると、なごみさんが胡乱な視線でつまみ上げたおかずの天ぷらを見つめながら呟いた。

 

「できない、って思います?」

 

「できないとは思わないけどね……高いじゃない?」

 

さく、と、ごぼうのかき揚げを齧るなごみさん。

薄手のノースリーブから見える肩の骨格も眩しいなごみさんではあるが、イクサの量産には懐疑的だ。

 

「高いのはそれこそ今のイクサがワンオフだからですよ。量産体制に入ってしまえば単価はかなり安くできます。俺の使ってるスーツだって元を正せば量産品の海賊版ですからね」

 

「じゃあそっちを量産すればいいじゃない」

 

「あれはそれなりの強さにするまでにカスタマイズの手間があるんです。契約モンスターの維持費を考えれば手間は段違い」

 

契約モンスター無しのブランクデッキだけでファンガイアに挑むのは幾らなんでも無謀だろう。

ロードインパルスやセブンガーの様な、無補給で活動できるエルロードもどきにしたモンスターを量産するというのもしたくはない。

餌を必要とする通常のミラーモンスターを量産するなんてのも、もってのほかだ。

 

「とりあえず、設計図は見せてもらったので、持ち帰って色々簡略化した設計図を引き直してみようかなと」

 

「そんな事ばっかりして……大学の方は大丈夫なの?」

 

「代返と講義内容を記録する専用ドロイドを作ろうかなって思ってたんですけど……まぁ、今のままでもどうにかなりそうかな、と」

 

文献を纏めるだけならどうにでもなるし、実験とかで時間を取られる工学系の学科に進まなくて本当に良かったと思う。

……ぶっちゃけ、講義内容だけなら幾らでもピーピングして覚えられるし、実験に関しても基地でやった方が良い環境を作れるから、大学でやる意味が無いんだよね……。

噂の名物教師も他人の空似だったようだし、表向きの学歴を作る程度の認識で良いだろう。

 

「その……大変だったんでしょ?彼女さん」

 

「彼女さん?」

 

「難波ちゃんよ」

 

「ああ……」

 

まだ難波さんの男避けの設定として継続してるんだった。

性欲発散の為に家に来る理由としても自然だし、本命が見つかるまでは続くんだろうけれども。

友人の、大学に上がっても整わない性の乱れっぷりは少し心配でもある。

 

「大変でしたけど、あの騒ぎのお陰で逆に静かに大学生活を送れていますから、大丈夫じゃないですか?」

 

ヤリサーのメンバーが軒並み急性アル中でアッパラパーになったという設定のおかげか、難波さんに謎の酒豪設定が追加されてしまい、酒飲み系の中でも安全なサークルなどに誘われたりしたが。

魔石の戦士は酒を飲んでも酔わない、という訳ではなく、行動に支障が出ない程度の酩酊感は得ることができる。

逆に、体内の毒素を分解する関係上どれだけ飲んでも心地よい軽めの酩酊感が得られるだけなので、事実上、全ての魔石の戦士は笊、というか、枠だ。

グジルが俺と共に実家を出るまでに父さん秘蔵の酒を殆ど飲み干してしまっているにも関わらずアルコール中毒患者特有の症状が一切出ていないのはその為で、実質アルコール濃度はそれほど問題にならない。

酒飲み系サークルからの誘いも、新人歓迎会のシーズンを超え、大半の飲み会でスピリタスをジョッキで数回一気飲みしてケロッとした顔で過ごす様子を見せてから、一部の剛の者の集う飲み系サークル以外からの誘いは来なくなった。

代わりに一部の者から老師(せんせい)と呼ばれるようになったようだが、本人は何故そうなったのかわからないらしい。

なお本人の談では、甘い系の味付けがされたカクテルが一番美味しかった、との事。

 

「うーん……」

 

俺の返答に、なごみさんは冷や麦を食べる手を止めて腕を組み、空を仰ぐ。

 

「ね、難波ちゃんとか、ジルちゃんとかグジルちゃんとかとの関係について、お母さんやお父さんから何も言われてない?」

 

「えー?」

 

海老天(バイト代が出たのでちょっと良いエビを使っている)をつゆに浸し、口に入れ、咀嚼しながら母さんとの会話を思い出す。

 

『いい、こうちゃん』

 

『作る気が無いなら避妊はしっかりしなさい』

 

『でも、作りたいとなったらびしっと作りなさい』

 

『できれば定職についた後ね』

 

『お金が無くても愛があれば幸せなんてのは資本主義社会の構造を知らない愚か者の言葉よ』

 

『私もまだお婆ちゃん呼びされる心の準備はできてないから催促はしないけど、孫が着床したらちゃんと報告するのよ』

 

『──標的への弾着を確認(クリティカルヒット)! ってね……』

 

『相手?』

 

『大丈夫、こうちゃんの人を見る目は信じてるわ』

 

『お父さんを見つけた私と』

 

『私を見つけたお父さんの子供ですものね』

 

『……あ、私の後輩なら何時でもファックしていいわよ!』

 

女性関係への口出しに関しては、こんなもんかなぁ……。

父さんとはこういう話、しないんだよね。

もうちょっと真面目な話になるか、もうちょっと軽めの下世話な話になるか、好きなコスの話になるか……。

この時代はまだ表向き逆バニーの概念が無いから、力説した時は少しだけ引かれたけれども。

父さんの単身赴任先のアパートにある、世界の美術って書かれた32本のVHSビデオ……。

深夜のスケベ番組が録画されてること、俺も母さんも知ってるから……。

ローマの休日は7まで出てないって事、俺も母さんも知ってるから……。

 

『逆バニーか……』

 

っていう、ひとしきり呆れた後のしみじみとしたつぶやき、どういう感情が込められてるか、俺は理解してるからね。

あの瞬間だけ、父さんはデカレンジャーじゃなくてボウケンジャーだったって信じてるよ。

アタック!(ベチンッ!)

でも母さんがプレシャス(逆バニー)装備してる映像は勘弁な。

年齢的にまだ全然キツくはないんだろうけれども。

実母がそういう格好しているのは似合ってる似合ってない以前の問題としてお辛い。

弟や妹が産まれる可能性はまだ消えてないんだろうけれども。

 

「(一番手頃で簡単な相手として)なごみさんをオススメされた」

 

「……」

 

一瞬で、なごみさんの顔がほのかに上気して。

数秒してから、複雑な表情になる。

 

「ね、どういう言葉でオススメされたかって、聞いたらダメ?」

 

「たぶん、なごみさんの想像した通りのオススメのされ方で合ってると思いますけど」

 

「けど?」

 

「……やっぱ止めときます。後で言いますね?」

 

「何よぉ。隠すような事?」

 

不満そうに眉根を寄せるなごみさん。

 

「後で言いますよ。この後少し休んだらまた映画行きましょう映画」

 

「良いけど……後でちゃんと教えなさいよ?」

 

「はいはい。じゃ、今日はどれ見に行きます?」

 

「勿論ターミネーター3ね!」

 

うーん……。

良い感じのムードが作れそうなセリフになったから、その場では言わないでおいたけれども。

良い映画だけど、ターミネーター3見た後に、口説き文句みたいな事を言える雰囲気にできるかなぁ……?

 

 

 

 

 

 

 





こうしている間にも
酒豪「交路くん、遅いな……」
みたいにつぶやきながら、偶然を装い家の前でばったり出くわしちゃったシチュエーションを作ろうとしているヒロインが居るかもしれないと思うとわたしゃ悲しくて悲しくて……
腹の底から滲み出る笑い声を止めることができないんじゃよ
放置はあんまりなのでたぶん家に居るグジルなりジルなりが回収してやけ酒に付き合ってくれる
それは慰めになるのだろうか……
まぁ、酒はこれ忘憂の名ありという言葉もあるから……
魔石の戦士は酒飲みすぎて記憶消えたりはしないんだけども

☆今回説明する様なキャラ出て無くない?
イクサの整備とか調整担当してる人って原作に出てたっけ?
なんか素晴らしき青空の会の関係者がそもそも少人数しか描写されてないので取り敢えず女性
もしかしたらオカマかもしれない
オカマキャラなら生存率高いだろうしね
オカマキャラは変身しても強いのは後の歴史が証明している
そもそも新旧イクサの描写が最初期型と最新型で間に存在したであろうアップデート途中がどんなものでどのタイミングでイクサカリバーが実装されたかわからない
ので、今回は無事回収したカイザのベルトから技術供与を行う回なのでした
事前に登場させたULTRAギアがグレート原作のブレスレットサイズなのはこの動力内蔵カイザブレイガン改めイクサブレイガン(試作イクサカリバー)へと繋げる為の伏線になったのだ……
だがこれは当然一つ作るのにアギト一人分ヘキサギア一騎分のアギトの力が必要になるため量産には向かない(量産できないとは言ってない)
そしてイクサの設計図を見せてもらえたので大手を振って量産に漕ぎ出せるのだ
普段遣いはセーブモードで必殺時にバーストモード、パワーアップでライジング?
可変機構なんて搭載したらその分強度が
落ちるでしょ!
みたいな話になって色々手を加えられるかもしれない
デザイン的にセーブモードが一番好きなのは決してぐにょりだけではない筈

☆スパーリング・ドロイド『ロボタフ』
出典は獣拳戦隊ゲキレンジャーより
なおゲキレン世界は合流していないので中身のテクノロジーは全てこれまで手に入れたテクノロジーでできている
対義経師範を想定したスパークリング・ドロイドであり、武装を抜きにして見た場合現状考えうるアギトの力抜きで作れる最高傑作
汎ゆる格闘術のデータが入っており、理論上は最強の弟子ケンイチの主人公の如き変幻自在な動きが可能
可能な筈だがCPUの性能が追いついていないのでそこまでの事はできない
できないが並の赤心少林拳の使い手を上回る程度には赤心少林拳を再現可能
気の運用に関してはそもそも生き物ではない為に不可能だが、物理作用のみで再現可能な範囲であれば全ての技を再現可能

☆本人の希望と上司からの勧めで結局年下の男の子を仕事場に連れてきてしまった挙げ句にそのままバイトとして雇われてしまった為に接点が増え、その流れで口説かれてそれっぽい空気になる回数が増えてしまった迂闊なお姉さん
そういう自分の迂闊さを呪いつつも年下の男の子に迫られて満更でもなく受け入れてしまい、気がつけば他に肉体関係のある女の子が居る事を知りつつも離れる事ができない程度にはズブズブの関係になってしまっている
私、こんなに貞操観念低かったかしら……と首をひねりつつ、生えてきた後悔はオフの日に映画とか見に行ったり軽くスパーリングしたりで汗を流してストレス解消!
ただの健康的なデートだこれ、と思いつつ、気がつけば夕食に招待し、明日、早い?とか自分から訪ねてしまってキスで返答されたりしてしまう
大人は汚いズイ……

☆もうこうなったら幾ら飲んでも酔い潰せないってとこ見せて、下手に誘ってこないようにしなきゃ!
よーし、やるぞ!
店員さん!一番アルコール度数高いやつ下さい!
あれ、ちょっと瓶が小さい……?(当然)
すみませーん、これもう三本!
あとジョッキおおきいのおねがいしまーす!
(この時点で周囲ドン引き)
(ジョッキに注ぎだした時点で半数が止めに入り)
(飲みきった時点で数名が救急車を呼びかけ)
(その後もけろりとしている姿をみて美少女を見る眼が化け物を見る眼に変わる)
という経緯があって下手に声をかけるちゃらいのは居なくなった
代わりに何回生なのかもわからん仙人みたいな酒飲みとか曲者揃いの酒豪自慢が集まり始める事に
交路くんも年上のお姉さんの職場にバイトに入っちゃうし
これからいったい、どうなっちゃうのー?!(プリキュア的アバンタイトル)
そんな酒臭いプリキュアがあるか

☆当然のような顔で主人公の一人暮らしについていったジル&グジル
実家に居た時より家事の頻度は減った
その分アルバイトとかをしてみたい
え、可愛いメイド服を着れてしかも最悪稼ぎは考えなくていい喫茶店のバイトがある?
え、新しいパワードスーツを着て新たなゲゲルに挑戦できる職場も?
迷うなぁ……
最近は負けヒロインを慰める為にカクテル作りに手を出し始めた
シェイカーチャカチャカすんの楽しいなこれ!
家にバーカウンターとか作りたい


今回がどういう話だったのかって?
最新話思いつかないなーって考えてる内に結構間が空いてしまったので
とりあえず手癖に任せて一話書いて取り敢えず更新だけした感じ
伏線とかすらたぶん貼れてない
胃腸炎やって薬飲んで蹲って寝てたとか今更何故かにゃんこ大戦争始めたからSSに手がつかなかったという理由もある
次回からそろそろ不穏な空気を出したい
そんな訳で次回も気長にお待ち下さい
感想とかも待ってます

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